あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの独立愚連隊-04 b


 タバサは一瞬我を忘れて目の前の光景を見つめていた。ゴーレムが両腕を組んで振りかぶっていたという体勢も悪かったのだろうが、破壊の杖から煙を引いて飛び出した巨大な銃弾?はゴーレムのがら空きの胸に直撃してその体を大きく抉り取ったのだ。
 ゴーレムはそのまま仰向けに倒れると大きく抉られた胸から砕け、頭と両腕がちぎれてどすりと転がる。そしてそのまま再生しない。フーケも精神力が尽きたらしい。
 そこまで考えて我に返る。脚が痛いと言っているシルフィードはそれだけ元気なら十分だろう、放って置く。倒れたルイズの様子を見ると青い顔で呼吸が浅い。一瞬最悪の事態を想像するが、顔を近づけて確認すれば大した外傷はない。
 恐らくゴーレムに殺されそうになったショックが大きかったために恐怖で失神しただけだろうと判断し、ルイズをシルフィードに咥えさせてその背中に乗せる。キュルケとギーシュは…と周囲を見回すと周囲を警戒しながらこちらに歩いてくるところだった。
「タバサ?大丈夫だったの…ところでルイズは?」
「向こう。気を失っているけど怪我はない」
 その言葉にキュルケとギーシュも安堵する。フーケのゴーレムの残骸も土の塊に戻って崩れていくのを見て一仕事終わったと実感する………結局フーケは捕まえられなかったが、皆が無事だったのは何よりだ。
「ところでミス・タバサ、一体どうやってあのゴーレムをやっつけたんだい?」
 その言葉にキュルケも興味を示してタバサに答えを促す。
「サモンジが破壊の杖を使った。あれは大きな銃、大砲のような物だった」
 銃?大砲?その単語とあの爆発が結びつかず疑問符を浮かべるキュルケとギーシュ。と、そこに森の中からがさがさと藪を掻き分ける音がする。弛緩した心を引き締めて慌てて杖を構える3人の前に藪から―――ロングビルが現れる。
「ああ!皆さん無事だったんですね。森の中で突然現れたゴーレムのせいでミス・ヴァリエールたちとはぐれてさ迷い歩いていたのですが……お互い無事で何よりですわ」
 精一杯の笑顔で言うロングビルに、しかしタバサを除く2人は微妙な表情であいまいに頷く。ギーシュはロングビルがフーケの協力者だと、キュルケもロングビルに気をつけろとサモンジからの忠告を受けている。そのロングビルがゴーレムがやられたタイミングで現れたのだ。
 ロングビルへの疑惑を呈したサモンジがいないためどうすればいいものかと戸惑う2人。その前にタバサが進み出てロングビルにゴーレムが再生を始めないこと、全員の無事が確認できたのでこのまま学院に戻りたい、と状況を説明する。
「あれ…ところでサモンジさんは?」
 キュルケの問いにタバサが腕を上げて指を指し示す。その先を見ると……ロングビルが現れたのと反対の茂みにさかさまになって埋まっているサモンジの姿がある。目をぐるぐるにしてこちらも気絶している。
「破壊の杖を構えていたせい。着地の時どこにも掴まってなかったから飛んでいった」
「ぷっ……あっはっははははは!美味しい所を持って行ったかと思えば、相変わらず締まらないのねあの人」

 額に感じるひんやりとした感触から暖かなものが広がる、という奇妙な感覚にサモンジの意識がゆっくりと覚醒してゆく。どうやら地面に横になっているようで、目を開くと誰かの手が自分の額に当てられているのが見えた。
 体を起こして何度が瞬きをすると周囲の景色がはっきりしてくる、どうやら死後の世界や病室ではなく先程の森の中のようだ。と、傍の人影が立ち上がる。顔を上げてみると、いつも通り表情の見えないタバサと目が合う。
「皆を呼んでくる」
 そう言って背中を向けて離れていくタバサ。看病していた、というよりは魔法で治療してくれていたのだろうか、と額に残るひんやりとした手の感触と熱を思い出しながら考える。
 しばらくそんなことを考えていたが、いつまでも地面に寝ているのは気分が悪いので立ち上がって服についた土を払う。そうして周囲をもう一度見回すと、小山になった土が目に入る。どうやら無事ゴーレムを倒せたようだが………
 ちょうどその時、向こうから歩いてくるルイズの姿が目に入る。どうやら無事だったようでサモンジの顔に安堵が浮かぶ。空から急降下しながらの射撃だったがどうやら上手く言ったようだ――左腕のルーン?とやらの補正のおかげもあるのだろうが。

「や。ルイズちゃん無事だったかな」
 片手を挙げて声を掛けるサモンジだが、しかしルイズは応えずそこで足を止める。はて、と首を傾げるサモンジだがそのまま待っていても一向にルイズが動く気配は無い。
 戸惑うサモンジだが、ルイズの方もやはり一向に動く気配が無い。ルイズもサモンジが目を覚ましたと聞いてすぐにやってきたのだが、なんと声を掛ければよいのか、なんと言って労えばいいのかわからない。ルイズとサモンジの関係、ルイズも主人と使い魔の関係という自覚はあったが、しかしサモンジは自分の意思がありすぎた。キュルケたちの使い魔と違い主人との間にゆるぎない信頼や愛情を持たず、自分の考えで動き、自分の欲求を主張する。そういった一人の人間を、使い魔とした。
 メイジと使い魔の絆で関係を築くのではなく、遠い国から拉致して帰る手段も自活の手段もない人間を強引に奴隷としたと言う関係。だというのにそれでもなお、サモンジは危機にあったルイズを命がけで助けに来たのだ。
 そしてもう一つ思いついたこと。サモンジが自分にゴーレムの足止めを任せたのは、ルイズに一番の自信を付けさせるため、ルイズの失敗魔法でもって戦果を、実績を挙げさせるために敢えてその役割を自分に回したのではないか、ということ。
 誇りのために、ゼロの汚名を返上するためにと無謀な行いをしていた……サモンジが命がけでルイズを助けようとした今なら、傲慢を捨てようやくそう思えた。結局ツェプルストーらが破壊の杖奪還に同行したのも自分を心配してのことだったのではないか。そう考えると、目を覚ました直後にゴーレムの残骸を見たときの高揚が消えてしまったのだ。そして、消えた傲慢の代わりに無力感と屈辱、恥辱が心を占める。

 自分は、ずっと周囲に情けをかけられていた。

 いつか立派なメイジなると励ましてくれた優しい姉の言葉が、トライアングルの実力を持ちながら自分を無視せず喧嘩を『させてくれていた』ツェプルストー、ゴーレムを一撃で倒す破壊の杖の使い方を知っていながら使おうとしなかったサモンジ。
 惨めだった。滑稽だった。最初は自分を喜ばせたサモンジの命がけの献身が、自分に手柄を立てさせるための気遣いが憎らしかった。ツェプルストーがついて来たのも、もしかしたら無謀なことをする自分のことが心配だったからではないのかとも思う。
「なんで…助けたの…?」
 ようやくルイズの口からではのは、感謝ではなく暗い問いかけだった。
「何よ、あんたに私を助ける義理なんて無いでしょ…私は、あんたを無理矢理呼び出して、故郷に戻れなくして、使い魔にして……なのに、こんな、こんな、私が手柄を立てるためのお芝居みたいな……」
 そして返事をも待つことなく、口にした問いかけは次の激情を呼び起こす。
「馬鹿にしてんの、あんたは?面白い?私が自分の実力も考えずに行動して、それにこっそり手を回して私が自分の力で全部出来たと思って喜んでいるところを後ろで哂う気だったの?……私を…魔法が使えないからって……そんな世話なんか焼かれたく、ない……」
 怒りが大きすぎて言葉が上手く出てこない、唇を震わせながらぽつぽつとルイズがいっそ憎悪と言っていいほどの視線でサモンジを睨み付ける。その様子を見てまずい、とサモンジが直感する。
 若い女の子特有の理不尽な思い込みによる暴走、サモンジもマルガレーテを始めとするガーディアンエンジェルス小隊との付き合いで、これに巻き込まれるとひどい目に遭うのはよく思い知っている。これだから若い人間は…とレッテル張りをしたくなるのをこらえる。
 助け舟を期待して周囲を見回すサモンジだが、離れたところに見えるタバサやキュルケはまだこちらの様子に気づいていない。苦々しく思いながらも精一杯の愛想笑いを浮かべて諭そうとする。
「え~とね、ルイズちゃん。破壊の杖、使える回数が決まってるから温存したんであってだね、ルイズちゃんの魔法が必要なのは確かで……」

「うるさい!そんなこと聞いてないっ!!」

 聞いてたじゃないか、内心でそうぼやきながらルイズの癇癪をなんとか収めようとするが手が付けられない。とはいえ怒りながらも涙ぐんで震えるルイズに怒鳴り返すのもアレだ、と我慢して言葉を捜す。
「ほら、さあ。ルイズちゃんの爆発する魔法はすごいんだから自信をもっていいいって。そりゃ他の魔法は使えなくても、まだ小さいんだからキュルケちゃんくらいの年になれば……」
「誰がゼロよっ!!あんたまで私をゼロって馬鹿にするの?!」
 だめだこりゃ。思わず右手で顔を覆って天を仰ぐ。さっぱり話を聞かずに言葉尻や単語だけに反応して激昂する………どうしたものかと視線だけ下に降ろして様子を伺うと、今度はテンションが急降下して俯いてグスグスと小さくしゃくりあげている。
「ツェプルストーは…キュルケは、私よりも小さなころから魔法が使えたわ……私より背が高くて、美人で胸も大きくて、友達も恋人もいて、何より魔法も私よりずっと上……学校のみんなだって、私くらいの年でまだ魔法が使えないような子は……だれも…だから筆記だけも…」
 ああそうか、そう呟くとサモンジは表情を緩める。この子は単に虚栄心で意地を張っているのではない、立派な貴族になれという周囲の期待に無理に応えようとして背伸びしているのだ。サモンジはゆっくり右手を伸ばすと、ルイズの頭をぽんぽんと優しくなでる。
「大事なのは、立派な貴族になることなんでしょ?ルイズちゃんはまだ貴族の子供なんだ、背伸びする必要はないし、背伸びしちゃいけない。子供の内に魔法が使えることより、大きくなって立派な貴族になることが大事なんだろ?」
 一瞬あっけに取られたルイズだが、慌ててその手を払いのける。予想外のサモンジの行動に驚きながら赤くなった顔で怒鳴る。
「な、子供子供って…う、うるさいっ!また馬鹿にして、この、この……」
 再び激昂するルイズを、今度は両手でぐりぐりと頭を強引に撫で回すサモンジ。
「子供さ。子供でいいんだ。子供だから大人になるんだろ?」
 サモンジの手に抗おうとするルイズだが、やはり大人と子供の体格差はどうにもならない。ルイズの頭を掴んだままサモンジが語りかける。
「大人になって親の領地を引き継いだり、父親や兄の家臣として国元に戻るまでは全部準備期間さ。それ以前に一人前になったってフライングだ。それよりも、子供の間はずっと子供でいて、大人から学べることは全部教わる方が立派な大人になれるさ。
 子供が勉強して大人になって、大人になって努力して立派な大人になるんだ。子供の内から立派な大人になる必要なんてない」
 両手を振り回すのをやめてサモンジの両手を掴んで引き剥がそうとするルイズの様子を見て、軽く含み笑いながらサモンジが続ける。
「ここに来る前、まだ傭兵部隊の隊長をやる前はさ、私は大学にいたって話したよね?農業の研究を続けたかったんだけど、兄貴が部下の裏切りに遭って死んじゃってね……急に兄貴の領地とメックを引き継いで一族郎党養う羽目になっちゃってね……」
 兄が戦死した、というサモンジの言葉に動きを止めるルイズ。ルイズが暴れなくなったのを確認してサモンジも腕から力を抜いて軽く頭をなでる。
「はは、大学で研究者やってた身には傭兵隊の隊長とか最初は荷が重くてね。メック戦士って普通は戦士養成校出身なんだ……でも、大学に行った事が役に立たなかったわけじゃなかった。人生何が役に立つか解らない物だよ。役に立たない勉強なんてないさ。
 私がしばらく駐屯していたところの大統領、まあ王様になるのかな。もちろんその人もメック戦士なんだけど、史上最低の成績で養成校を追い出されちゃったんだってさ。一族から馬鹿にされて、仕方なくメックは名代を立てて他人に貸し出してさ…最初は惨めだったと思うよ。
 メック戦士は、戦うことで国から領地を補償されるんだ。メック戦士失格だったその人は結局領地に戻って領地の管理って言う地味な仕事を任された。でもそれには天賦の才があったみたいで、あっという間に実績と成果を上げて王様だよ。一族に欠かせない人間になったのさ」
 先ほどまでの激しい怒りは収まったようだが、それでも不満そうな顔でサモンジと顔を合わせようとしないルイズ。俯いたままポツリとこぼす。
「でも、私は…ヴァリエールの娘だもん。立派なメイジにならないと、いけない……母様も姉様も、みんなそれを期待してる……」
「それは立派な貴族と立派なメイジを一緒に考えているからさ。みんなは立派な貴族に、立派な大人になって欲しいって思ってる。この国じゃメイジの力が大きいから、そんな言い方しか知らないんだろうね。
 無理に今成果を上げる必要なんてないんだ。大人になったときに立派な大人になれるように、色んな事を勉強するんだ。ルイズちゃんの爆発する魔法だって今日は役に立った。魔法の筆記だって、魔法の知識だけでも役に立つさ。筆記なら一番なんでしょ」
 ルイズの様子をそっと伺うサモンジ。ルイズはサモンジの言葉が終わってからも何も言わず俯いたままだ。
「(まあ、この国の常識を一朝一夕で変えられるものじゃないか)」
 とりあえず落ち着いてくれたようだし今日はこれでいいだろう。ルイズも、貴族とメイジという常識に囚われずに自分なりの道を見つけてくれればと思う。柄にもなく感慨深くそう思った―――ところで、突然肩を叩かれる。
「お邪魔するわサモンジさん。お疲れさま」
「わわっ、キュルケちゃん?」
 突然後ろから肩を叩いてきたのはキュルケだった。後ろにはタバサも居る。いつの間に近づいたのか、さっぱり気付かなかった。
「いや~さすが大人ねサモンジさん。子供の内から立派な大人になる必要は無い、これが大人の視点ってものかしら?」
 くすくすと笑いながらキュルケがサモンジの肩越しに笑顔を見せる。距離の近さに思わずにやけるサモンジだが、キュルケは気にせず、より一層の笑顔をルイズに向ける。その笑顔を見て一気に赤くなるルイズの顔。
「ツ、ツ、ツェプルストー!?ぬぬぬ盗み聞きとは趣味が悪いわよ!いいい、一体いつから………」
「んふふ………背が高くて美人でおっぱいの大きなキュルケお姉さんが教えてあげましょうか?」
 キュルケの答えに一層赤くなった顔が次の瞬間青くなる。長年の、生まれながらの宿敵に致命的な弱みを握られてしまうとは………あうあうと歯の根が合わないうめきを漏らしながらルイズが大声で叫ぶ。
「ふ、ふ、ふんっ!ちょ、ちょっと外見が早熟だからって調子に乗ってるんじゃない?!わ、私の言葉を何か都合のいいように勘違いしたみたいだけど、あ、あんたなんて後十年もしたらスライムみたいに垂れ下がるのよ!」
 ぶんぶんと腕を振り回しながら喚くルイズに、キュルケは口元を押さえながら軽く噴出してみせる。その様子を見てさらにヒートアップするルイズ。
「はは、やっぱり持つべきものは友達だね」
 何気無く言ったサモンジの言葉に、タバサは少し緩めてしまった表情を本で隠すように顔の前にかざしていた。
 結局先程の悩みや怒りも忘れたようにキュルケとじゃれあう――と本人に言えば怒り狂うだろうが――2人を見ていたサモンジだが、ふと思い出して周囲を見回し、人影が無いことを確認してそっと耳打ちする。
「それとタバサちゃん、頼みがあるから先にタバサちゃんには説明しておくよ。私がロングビルとフーケと言った根拠だけど……」

 ごとごと揺れる馬車の上、再びロングビルが手綱を取る馬車での帰り道。皆心地よい疲れを残しながらも歓談しながら学院へと道を戻って行く。サモンジの説明する破壊の杖の詳細を背中で聞きながら、ロングビルは目の前が真っ暗になるような失望感と徒労感を抱えながら馬車を進めていた。
「(何てこったい……破壊の杖が、単なるでっかい銃だったとはねぇ…)」
 サモンジの放った破壊の杖の一撃。メイジでもないサモンジであってもあれほどの威力が出せる道具、と思っていたが………
「大砲と違うのは、鉄の塊じゃなくて火薬の力で前に進んで爆発する弾を撃つ武器ってところ。え~と、メーカーはベンソン&ブジョー、製造年月日は西暦2965年か。ちなみに装弾数2発で、もう一発撃ってあったからさっき私が撃ったので残弾0、弾切れだよ」
「(もう使えないだってさ、畜生め……もう宝物庫を狙うのは無理だろうし、破壊の杖の使い方なんて気にせず雲隠れしてりゃよかったよ)」
 心の中で破壊の杖についてもったいぶった説明をしていたオスマンを呪いながら、ロングビルは黙々と手綱を操り続けた。

「という風にしてこういう武器の需要ができたのさ。やっぱり歩兵と比べればメックは数が少ないから、どうしても歩兵でメックの迎撃をさせるような命令が下されるからねぇ……」
 サモンジがもういいかな?という顔で皆の様子を見るが、まだ満足していないようだ。まだまだ興味は尽きないとキュルケが質問してくる。
「サモンジさんの国ではこういう武器があるのは解ったけど、そのメック?魔法も使わずに10メイル以上もある金属のゴーレムを作って、それを動かすなんて火薬じゃ無理よ。一体どうやってるの」
「そ、そこまで説明するのかい!?無茶苦茶長くなるよ……うう、まあ、なんというか……ゴーレムの中で火を燃やしてその熱で動かしてると思ってよ…。」
 核融合の話までするのは骨なので大雑把な説明をして音を上げるサモンジ。それに助け舟を出すように珍しくタバサが自分から雑談に口を挟んだ。
「ではあなたの国のことを聞かせて欲しい。そんな国の存在は聞いたことが無い、興味がある」
 中心領域の話………以前この星に来た直後にルイズに説明した際の反応からして、宇宙のことを「空の上にある神秘の世界」くらいにしかこのハルケギニアの人間は理解していない。さて、どう説明したものかと悩んだが、結局直球で話してみることにする。
「そうだね、私が空に浮かんでる星の方から来た、って言ったら信じる?」
「「はぁ!?」」
 一度その話を聞かされたルイズと、話を全く聞いていないロングビルを除く全員が予想外の応えに驚きの声を漏らす。タバサも予想外の応えに表情に驚きが浮かんでいる。その表情を面白そうに見ながらサモンジは恒星と惑星の違いや自転と太陽の動きの関係を説明する。
 無論、自然科学が発達していないこの星の人間に合わせて噛み砕いて説明する。恒星とは常に燃えて光を放つ太陽のような星で遠くにあるから小さく見えている、惑星は燃えてないので人が住める、惑星は恒星の周りをくるくる回っているので昼と夜ができる………
「またあんたは…世界が丸いわけないじゃない。反対側の人は落っこちるわよ。それに何で私たちの目が回らないのよ」
「あはは、ユニークな神話ね。でもいくら遠くにあるから小さく見えるって言っても太陽と月以外の星は小さすぎよ。第一、昼間に星が一つもないのはどういう理由なの」
「太陽が燃えているって……はは、始祖ブリミルの歴史は6000年だよ。一体どれだけ燃え続けるっていうんだい?」
「宇宙に何もないとするなら、どうやって惑星が恒星の周りを回り続けるの?」
 サモンジの説明に呆れたようにそんな事はない、無理だというルイズたちにサモンジは笑いながら学院に戻る道の間中その質問に答え続けていた。結局は誰も納得なかったが、サモンジにとっては久しぶりに故郷を思い出す時間だった。

「うむ、これぞ破壊の杖。皆よくやってくれたのう、学院の長として諸君らに感謝する。表沙汰にできぬ事件ゆえに諸君らには公に褒章を与えられぬが、学院として報奨金を支払い、特に学院に貢献した名誉生徒として名前を残そう」
 その言葉にロングビルを除く全員に喜びが浮かぶ。思わずやった、と声を上げてしまってコルベールに視線受けて縮こまるギーシュ、あれぇ泣いてるぅ?とルイズをからかうキュルケと必死で顔を逸らすルイズ。
ロングビルは微妙な表情でそれを聞いていたが、ふと気付くとサモンジが前に進み出るのが見えた。教師たちにルイズとキュルケ、ギーシュも何事かとサモンジの様子を見守る。
「ところで学院長殿、私からちょっとよろしいですか?」
「む?何かなミス・ヴァリエールの使い魔君。残念じゃが君には…」
「いやいや、そうじゃないんですよ。破壊の杖の他にもう一つ報告することがありまして」
 全く気にした様子も無く返すサモンジに、オスマンもふむと頷いて話を促す。
「今回破壊の杖を捜索中に土くれのフーケと交戦しましてねぇ……」
「それで何じゃね。追加ボーナスを加えてくれてとでも?」
 サモンジの言葉に呆れたようにため息混じりに答えるオスマンに、くるりと背中を向けてサモンジが右手を上げる。
「タバサちゃん、ロングビルを!」
 その言葉にぎょっとしたロングビルだが、既にその瞬間には背後に立っていたタバサの杖で両足をまとめて払われそのままドサリと床に叩きつけられる。思わず取り出そうとした杖は蹴り飛ばされて仰向けになった胸元にタバサの杖が突きつけられる。
「動いたら撃つ」
 凍りつく面々を、さらにサモンジの言葉が思考すら停止させた。

「もう一つの成果、土くれのフーケですよ」

……
………
…………
 じりじりと凍りついた時間が過ぎていく中、周囲の反応を窺っていたサモンジがようやく口を開いた。
「さて、それじゃあまず彼女がフーケということからはっきりさせましょうか。朝のフーケ対策会議にロングビルがやって来て、朝からの調査結果を報告してその報告を元に我々が破壊の杖捜索に向かって今戻ってきた。ここまで良いですか?」
 戸惑いから返事ができない教師たちに代わり、オスマンが頷く。
「その通りじゃ。しかし、現に破壊の杖はあったわけじゃし偽情報を掴まされた訳ではなかろう?」
 オスマンの言葉に一度頷いた後、サモンジが言葉を続ける。
「そこじゃあないんですよ。我々が出発したのは学院を出発したのが9時半、森に到着したのが昼過ぎです。さて、ロングビルが朝起きて聞き込み調査をして森の小屋まで行ってから学院に戻って報告をした……朝起きたって、一体何時に起きたんですかねぇ」
 その言葉にざわざわと騒ぎ出す教師たち。オスマンやルイズたちも驚いている。
「な、サモンジ君…では、ロングビルの報告は一体何だったと言うんですか……」
「おそらく追撃隊を組織させて、自分がそれに同行する振りをしてそのまま逃げるつもりだったんじゃないですか。あるいは、罠に嵌めて追撃隊を返り討ちにするか。何もなしにロングビルさんが消えたら怪しいですからね」
 肩をすくめて応えるサモンジに、絶句するコルベール。サモンジの言葉とロングビルの言葉と行動を考えれば、サモンジの推論は恐ろしいほどに状況に当てはまる。愕然とした顔でロングビルを見る。
「さ、サモンジさん……確かに学院を出た時間は時計でわかるとしても、森についた時間を知る手段はないでしょう!?その、到着するまでの時間は感覚でしかないですし……私も日が昇る前に出発しましたから、その……」
 タバサの杖の下で脂汗をかきながらロングビルが言葉を搾り出す。余裕の無いロングビルの言葉に対して、サモンジは頷いて余裕たっぷりにさらに言葉を返す。
「そうですか~ロングビルはまだ日も昇ってない真っ暗な内から出勤する人だったんですねぇ。で、夜の騒ぎが起きた直後ならともかく、日が昇る前に学院に着いてそんな時間にフーケのことで騒いでる人が居たと。ああ、それと調査をしていて日が昇ったのはいつ頃ですか」
 ぐう、と言葉に詰まるロングビル。それでも何とか言いすがろうと言葉を捜すロングビルに止めを刺すように、サモンジがはいこれ、という言葉と共に左腕を突き出す。その手首には、飾りのついた腕輪が巻かれて、その飾りは時計の文字盤のようで………文字盤?
 完全に言葉を失うロングビルを確認したサモンジは、オスマンやコルベールらにも手首につけた腕時計を見せる。
「ちなみに、これは私のいた国で作られた腕につける携帯用の時計ですよ。時々学院の時計に合わせてるんで結構時間も正確ですし。昨日の夜、フーケの件でコルベール先生を起こして状況の説明と確認をして学院長室での会議が始まったのが7時半くらいだったかな」
 周囲のを見回すと、教師の内の何人かはサモンジの言葉に頷いている。サモンジたちと一緒に夜中から朝まで状況確認に駆け回ったコルベールが代表して確かにそうでしたと応える。
「で、学院を出発したのが9時半、大体ロングビルが学院長室に来たのは9時くらいかな。日が昇る前から行動したとしても、朝起きたと表現するなら5時起きとして4時間か。自宅を出て学院まで来て、それから調査を始めて学院に戻ってきて………
 ちなみに、私たちは13時半に例の小屋に到着しましたよ。さて………何か言うことはあるかな、フーケさん」
 サモンジの言葉にぐぐ、と唸るロングビル。最早完全に疑惑ではなく確信と共に驚愕や蔑み、嫌悪の視線を向ける教師たち。逃げ道は、全て断たれた………
「ああそうさ。私が土くれのフーケさ。これで満足かい!!」
 観念したロングビル、いやフーケの降伏宣言だった。学院の内部犯、それも学院長秘書の犯行という事実になんともいえない空気が漂う学院長室、その空気もまたサモンジが再度凍らせる。
「いや~良かった、自白が取れて助かったよ。こういうひっかけはイワンの奴の担当だけど、上手く言って良かった良かった。私はフーケに脅されただけの協力者ですとか言い逃れられたら不味かったんだよね。まあ他にもいくつかネタはあったけどさ」
「は?」
 降伏宣言をしたばかりのフーケが頓狂な声を出す。自白が取れて、良かった?逃げ道があった??呆然とするフーケをオスマンの指示でギトーやコルベール、教師たちが拘束し連れ出して行く。トリステインを震撼させた怪盗の、あっけない幕切れだった。

「さて……突然の一大イベントで中断したが…シャモジ君じゃったかな、ミス・ヴァリエールの使い魔のおかげで我々は無事フーケの正体を看破し捕らえることが出来た。これは王家に報告することが出来る立派な成果じゃ」
 そこで、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェプルストー、ミスタ・グラモン、以上三名に改めてシュヴァリエ位の申請、ミス・タバサには精霊勲章をそれぞれ申請し公に表彰することにする。よくやったの」
「あ、はいっ!えと、ところでサモンジ本人には……」
 オスマンに名前を呼ばれなかったサモンジのことが気になり質問するルイズ。しかし、予想通りの答えが返ってくる。即ち、平民だから。なおも食い下がろうとするルイズだが、舞踏会のことをオスマンに指摘され慌ててキュルケが2人を引っ張って帰ろうとする。
 学院長室から出る前に申し訳なさそうな顔でサモンジを見るルイズに、サモンジは気にするなと笑いながら手を振る。ギーシュもそれに続いて部屋を辞する。サモンジも出て行こうとするが、後ろからオスマンに呼び止められる。
「さて、図らずも人払いができたのう、ジャモジ君。おぬしに聞きたいのじゃが、破壊の杖にあるこの紋章……君の銃にも描かれておるのう。知っていることがあれば話してもらえんか」
 オスマンの言葉に渡りに船と頷くサモンジ。
「そりゃちょうどいいですな。私も聞きたいことがありましたのでね。まあ先に質問に答えておきましょ。これはSRM発射筒という火薬を利用した武器です。その紋章はメーカーのマーク……この銃を作った団体を表すものですよ」
 サモンジの答えにオスマンはぽつりと、そうか彼の故郷は、と漏らす。その内容に思わずサモンジが問い返す。
「彼って、このSRMって貰い物なんですか。その人はどうなりました?」
 うむ、そう頷くと遠くに想いを馳せる様にオスマンが語り出す。曰く、若い時にワイバーンという竜に襲われ、奇妙な鎧を着た瀕死の男に助けられたという。
「ワシがワイバーンに追われ逃げていたときにその男に出会ったのじゃ。その男は見た事もない服を着ておってな、既に何かに襲われていたのか血まみれじゃった。このまま逃げればこの男が食べられる、そう思ったワシはつい足を止めてしまった。
 ワシも精神力をほぼ使い果たしワイバーンの相手も満足に出来なかったじゃろう、そんなワシの前にその男が立ち上がり…その破壊の杖を構えてワイバーンを仕留めたのじゃ……ワシも礼を言おうと思ったが、すぐに死んでしもうた」
 そうですか、と落胆の滲む相槌を打つサモンジ。おそらく、そんな状態だったということはその人物もサモンジと同じ漂着者なのだろう。中心領域を始めとした、この星から見た外宇宙からこの星への一方的な通路がある、それは疑いの無い事実だろう。
 また長々と説明しなきゃならないのかな、とため息をついた後、サモンジは自分が別の星から来たことの説明を始める。案の定、ルイズらのように中々信じようとしないためひどく噛み砕いた説明をする羽目になるが、やはりそう信じてもらえるものではないようだ。
「………いや、まあ……その理屈は解るが、所詮それも机上の話じゃろう。実際に空の上にそのような世界が広がっておるとは、大地が動いておるなど、話を聞いただけでは信用できんわい」
「まあ、この国にはこの国の常識とブリミル信仰とかがあるからそう簡単に信じてもらえるとは思っちゃいませんがね。とりあえず、私やそのSRMを持ってた人のような、この大陸の人間でない人や物の手がかりがあれば教えてもらえません?」
 とりあえずサモンジとしては精一杯譲歩して提案する。しかし、オスマンからの返事はにべもないものだった。
「そう言ってもな。ワシも思い当たるのはその破壊の杖の一件だけじゃし、おぬしが前の国に帰りたいといっても呼び出した使い魔を送り返す魔法などないからの。ま、諦めてこの国の人間になってミス・ヴァリエールに仕えてくれんか」
 そう言って笑うオスマンに内心の怒りを隠してため息を付くサモンジ。結局、この国では魔法の使えない平民の地位はとことん下らしい。
「ところでワシからも良いかな。おぬしの左手の使い魔のルーン、それは少々特殊なものでな…それが刻まれてから、何か、こう力が湧いて来るとかいう変わったことはないかの?」
「はあ。変わったことといえば変わったことですな。銃を持つと、残弾や整備状況が視界に写るようになるのと、射撃のときに手か勝手に狙いを付けるんですよね。便利なんだけど、少し気持ちわるいですよこれ」
 気持ち悪い、というサモンジの表現にはっはと笑うオスマン。
「気持ちが悪いとは面白い言い方じゃな。効果があるようなら本物なのじゃろうな、それはガンダールヴの印じゃ。あらゆる武器を使いこなすという伝説の使い魔の印じゃ。おぬしにこれが刻まれたというのは、何か意味があるのかも知れんな」
 はあ、と気のない返事を返すサモンジ。要するに、このメイジたちにとってはサモンジを国に返す手段も、それを探すメリットもない。それどころか彼らにとって貴重な研究材料が自分の体にくっ付いてしまっているということだ。
 これ以上の情報は聞き出せないだろうし、むしろこちらからの情報の流出を止めたほうがいいだろうと判断したサモンジは早々に辞することにする。
 帰り際にオスマンがサモンジにかけた言葉が味方がいないことを思い知らさせる。

曰く、ワシなりに協力しよう、ワシはガンダルーヴの味方だ。

 彼が味方をするのは、平民のサモンジではなく、伝説の使い魔のダンダールヴなのだ。


「(やれやれ、すっかり遅くなったな……ルイズちゃんももう寝てるだろうなぁ)」
 学院長室で中心領域の話などをしたせいで、すっかり夜も更けてしまっている。舞踏会もとっくに終わったようで、部屋に戻る途中で後片付けのメイドたちが仕事をしているのが見えた。
 ルイズが寝ているようならノックは悪いと思っていると、ドアの隙間から明かりが漏れている。まだルイズは起きているか、と不思議に思いながらドアを開けると、机に突っ伏して眠りかけていたルイズが飛び起きる。
「サ、サモンジ、あんたいつまで道草食ってたのよ。全く、あんたが舞踏会に顔を出さないから……ほら、メイドに言って食事を分けてもらってるから、食べたら食器返してきなさいよね」
 そういうとすぐに椅子に座りなおしてこちらをじっと睨むように見つめてくる。正直居心地が悪い……食事を取る雰囲気ではないだろう。
「え、ああ、ありがとうルイズちゃん」
 返事がないのを気にしてたのかな、ととりあえずお礼を返すサモンジだが、ルイズの表情は変わらない……どうやらハズレのようだ。視線は気になるが、チェストの上においてあるトレイに乗せてあるナプキンをめくると、冷めてはいるが予想外に豪華な食事が現れた。
 ここ最近の食生活では久しくお目にかかってないおかずが3品以上の食事に、早速マイ箸を取り出して食事を始める。パーティーの食事だけあって質は高いらしく、サモンジもすぐにルイズの視線を気にせず食べるようになる。
 そうしてサモンジがいよいよ食べ終わろうかという時、ルイズがぽつりと漏らす。
「その、助けてくれて……あり………助かったわ」
「ん…?んぐ、ごちそうさま。で、何か言った?」

 ルイズの呟きがほとんど聞こえてなかったサモンジが聞き帰してくるが、ルイズも少し顔を赤くしてなんでもないっと誤魔化す。もうこれで感謝はすんだ、と自分に言い聞かせながらルイズは話題を変える。
「サモンジ、今回の件であんたを私の使い魔として相応しいと認めてあげるわ。だから、ずっと……帰りたいとか思わずにちゃんと私に仕えなさいよっ!」
 そう言って視線に力を込めてサモンジを見つめる。その迫力に一瞬気圧されるが、気を取り直して応える。
「はは、そういう訳にはいかないよ。私も傭兵の仁義があるからね、ライラ共和国との契約中なんだ、死んだわけじゃないんだからなんとか連絡入れて、帰らないといけないよ。
 ただ、ルイズちゃんが困ってるのも解るから……どうかな、変える手段が解ってもルイズちゃんが学院を卒業するか領地の仕事を継ぐまでは付き合うよ。その代わり私が元の星に戻る手助けを出来る範囲でしてくれないかな」
 そう言いながらもサモンジは返事に全く期待していなかった。先程の学院長とのやり取りで、メイジと平民とのやりとりの不毛さを思い知っていたのだ。故にルイズの返答は予想外だった。
「わかった、それでいいわ」
「え?いいの、ルイズちゃん?」
 思わず聞き返してしまうサモンジに、ルイズは半ば呆れた笑いを漏らしながら応える。
「あんたが言ったことでしょ、立派なメイジって道だけにこだわりすぎるなって。私は私なりにやれるだけやるわ。だから、あんたも自分が助けられると思ったら私を助けてちょうだい。あんたが居なくなるって言うなら、それも勉強の内よ。
 ま、学院に居る間は使い魔が単位の一環なんだから付き合ってもらうわよ」
「それならお安いご用さ。それじゃあ改めて、よろしく、ルイズちゃん」
「よろしく頼むわ、サモンジ」
 ルイズとサモンジ。2人はこの時に至ってようやくお互いに信頼できるパートナーとしてお互いを認めたのだった。


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