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虚無と最後の希望 Level07


level-7 「願い」


 少女は泣いていた。
 何時もの如く、母から魔法の成績を姉達と比べられ叱られていた。
 それが嫌で逃げ出し、訪れたのは少女が『秘密の場所』と呼ぶ中庭の池。
 舟遊びを楽しむために作られた池は今では誰も遊ぶものは居なく、ただ幼いルイズのみが利用している。
 小さな桟橋には小さな船、それに飛び乗り櫂で漕いでゆく。
 ある程度進み漕ぐのをやめる、そして小船に用意してあった毛布に包まり、涙を流す。

「どうして、わたしは……」

 悔しくて悔しくて、歯噛みして悔しがった。
 ぼろぼろと流れる涙で、言葉は出ず哀咽のみ。
 そうして居たルイズが乗る小船に近づいたのは、一人の男。
 霧の中から手を伸ばしてくる、その手の持ち主が誰か解った。
 差し出された手をとり、引き寄せられ見上げると。

「チーフ!?」

 全身を緑色の鎧で纏った人物。
 幼い姿ではなくなっていたルイズは声を上げる。

「どうした、泣いているのか?」
「な、泣いてなんか!」

 気丈に振る舞い、頬を伝う涙を拭う。

「安心しろ、ここに怖いものなど無い」

 ルイズへ向かい伸びた手は、ルイズの頭をなでた。
 違う、相手はチーフではないはずだ。
 そう思いながらも、チーフの大きな手に撫でられる。
 止めてとは言えず、ただその場に佇む。
 ゆっくりと撫でられたルイズはしおらしく、彼が持つ安心感に包まれていた。

「どうしてよ……」

 チーフは答えない、ただルイズの頭を撫でるだけ。

「どうして何も言わないのよ!」

 魔法を使えないメイジに召還されて、帰らなければいけないのに文句一つ言わず付き従う。
 とても強いその姿が、堪らなく劣等感を刺激する。

「……その努力は無駄ではない。 出来る事を、成すべき事に全力を傾ければいい」

 その言葉を聞いて、また涙が溢れ出してくる。

「わ、わた、わた、しは……」

 チーフは顔を伏せたルイズを抱え上げる。

「そうだ、ルイズ。 君は『ゼロ』ではない」

 凄く凄く凄く、嬉しかった。
 堰を切って流れ出す涙は止まらない。
 止まらぬ涙の中、彼は私にとって『最後の希望』なんじゃないかと、そう思った。





「ルイズ、起きろ」

 泣きながら笑って震えたり、明らかにおかしいルイズを揺すって起こす。

「っ!」

 あれ? といった感じに起きるルイズは部屋を見回す。
 見上げるとチーフが私を見つめている、見つめあう事数秒。
 あ、と夢の内容を思い出した。

「大丈夫か」

 と心配してくれているチーフ、なんだか恥ずかしくてあわせる顔が無い。
 夢の中だったが、認めてくれたのが嬉しかった。

「だだだだいじょうぶよ!」

 なにかむくれて返事をしている。
 タバサとギーシュの早朝訓練が終わって戻ってきてみると何かと危険な状態だったルイズ。
 何かの病気なのかと思われたが、「ななななななんでもないわ!」と何時も以上に噛んでいた。
 多少顔が赤いが、別段異常があるわけでもなく良しとした。
 ルイズの洗顔と着替えを終え、食堂に向かう。

 一際大きなドア、アルヴィーズの食堂の入り口。
 それをルイズより先立って開く、主と従者という構図だが。
 堂々と歩くルイズに、緑色の全身鎧を付け、剣を携えるチーフ。
 姫と騎士にも見えなくは無い。

「おはよう、ルイズ」

 入ってきたのを見て軽く手を上げ挨拶したのはキュルケ。

「おはよう、ってあの子は?」

 何時も二人でいるキュルケとタバサ、だが今はキュルケだけが一人座っている。

「あそこ」

 長いテーブルの一角、そこには通常あり得ない組み合わせがあった。
 隣り合いに座るタバサとギーシュ、一枚の紙を手に取り何か話し込んでいる。
 その顔は真剣、何時もなら茶茶が入るだろうがそれすらも無い。
 それだけの入り難い雰囲気を作っていた。

「タバサがあのギーシュとねぇ……」

 とても感慨深い表情だった。

「ふーん」

 興味無いと言った感じに引かれた椅子に座る。
 用意された食事を黙々と食べる、頭の中は朝見た夢の事でいっぱい。
 むむむ、と額に皺が寄っていた。

「ねぇダーリン、ルイズはどうしちゃったの?」
「朝からこんな感じだ」
「何か変な夢でも見たのかしらね」
「べべべべべつに何も見てないわよっ!!」

 夢という単語に高速で反応したルイズ。
 ふんっ! と立ち上がり食堂から出て行く。

「変な夢見たのね」

 解り易すぎるルイズの反応にキュルケはクスリと笑った。





「ミス・ツェルプストー、最強の系統はなんだか知っているかね?」

 教壇に立つ教師、『疾風』のギトーは唐突に言った。
 食事が終わり、午後の授業中の一コマ。

「『虚無』じゃないんですか?」
「現実的な話をしているのだよ」
「ならば、『火』に決まっておりますわ」

 得意げに言ったキュルケ。

「炎はあらゆるものを燃やし尽くす、そう思いませんこと? ミスタ・ギトー」
「残念ながらそうではない」

 キュルケの一言を即座に否定。

「試しに、君が最強だと言う『火』を私に撃って見たまえ」

 挑発されているのだと気が付き。

「火傷じゃすみませんことよ?」
「かまわん、早く撃ちたまえ」

 ギトーがそう言った瞬間には、胸の谷間から杖を取り出して呪文を綴る。
 現れたのは小さな火の玉、さらに続けて呪文を綴ると火の玉は途端に膨れ上がる。
 1メイルを超える火の玉を、手首を捻ってギトーへ飛ばした。
 唸りを上げて飛来した火球を目前に、腰の杖を引き抜きながら払った。
 火球は閃光を上げつつ消滅し、火を薙ぎ払った風がキュルケへ向かって飛んでいく。
 だが風がキュルケに当たる寸前、キュルケの前に突き出された剣によって掻き消される。

「ああん、ダーリンったら私を守ってくれたのね!」

 デルフを持った腕を突き出していたのはチーフ。
 それを見たキュルケがチーフに抱きつこうとしたのを、ルイズが体を張って止めようとしたらキュルケの胸に挟まれた。

「こ、この無駄な脂肪めっ!」

 ルイズがキュルケを押し返そうとして、バインバインと揺れる胸に釘付けになった男子達であった。
 一部では「おお!」という歓声も上がっていた。

「君は確か、ミス・ヴァリエールの使い魔、軍人と聞いたな。 なぜ邪魔をしたのかね?」

 鋭い視線を向けるギトー、それを真っ向から受け取るチーフ。

「危険と判断したためです」

 1メイルはあろう巨大な火球を簡単に掻き消す風圧、人に当たれば簡単に吹き飛ばすだろう。
 吹き飛ばされた後、頭を強打したりする可能性を考えなかったのか。

「フン、この程度で危険などとは、君は戦場の端を渡り歩いたんだろうな」

 その言葉に反応したは何時もの3人。

「ミスタ・ギトー、今の発言を訂正してください!」
「そうです、ダーリンほど屈強な軍人は居ませんことよ?」
「事実を言ったまでだ、訂正する事も無い」

 二人の言葉を一蹴、馬鹿にしているとルイズは憤怒。

「だから──」
「弱い者程よく吼える」

 と、時間が止まった。
 クラスの全員が予想外といった表情だった。

「聞き間違えたか、ミス・タバサ、今なんと言ったのかね?」
「………」

 無言で本のページをめくるタバサ。

「もう一度聞こう、今なんと──」

 再度問い掛けようとした時、教室の扉が勢いよく開かれた。

「あややや、ミスタ・ギトー、失礼しますぞ!」

 ギトーに一礼してコルベールが急いだように言った。

「今日の授業は全て中止であります!」

 もったいぶった様に用件を伝えた。
 このトリステイン魔法学院に先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が行幸なされると。
 いきなりの情報に教室は沸き立つ、それによりすぐに皆の頭からタバサが先ほど言った言葉が吹き飛んでいた。





 1年から3年まで、全ての生徒が正装に着替え正門に整列していた。
 待つ事数分、正門を潜って現れた馬車。
 その側面には金銀白銀のレリーフに、その中に聖獣ユニコーンと水晶の杖が組み重なった紋章。
 それは、トリステイン王家王女が乗る馬車。
 ユニコーンが引く馬車は学院本塔の玄関前で止まった。
 王女の馬車の後方、もう一台あった馬車から降りてきたマザリーニ枢機卿。
 国の政治を扱う枢機卿が、王女が乗る馬車の扉に手を掛け開く。

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりぃーーー!」

 マザリーニの差し出した手を取り、降りてきたのは『アンリエッタ・ド・トリステイン』。
 『トリステインの一輪の花』と称された姿に、見ていた生徒や教師から感嘆の声が漏れていた。

「あれが王女ねぇ、私の方が美人だと思わない? ダーリン♪」

 とチーフに絡むが、ルイズは一向として反応しなかった。

「まさかルイズ、王女を見て感動したとか?」

 ルイズの頬を突付くが、まったく持って反応が無かった。
 チーフはチーフで、王女ではなく魔法衛士隊ばかり見ていた。

「よく訓練されている」

 それを聞いたタバサが本を読むのを中断して顔を上げる。
 チーフが褒めるのだ、言う通りかなりの錬度なんだろうと魔法衛士隊を見た。

「……もう、3人ともつまらないわよ」

 誰にも相手にされないキュルケは少し拗ねていた。





「よくお越し下さいました、アンリエッタ姫殿下」

 玄関で出迎えたのはオスマン、何時もとは違う凛々しい顔つき。
 あまり貴族を好かないオスマンが深々と頭を下げていた。

「頭を上げてください、オスマン学院長」
「これはこれは、私如きに勿体無いお言葉」

 オスマンはニッコリと笑い、それに答えてアンリエッタも微笑んだ。
 オスマンとアンリエッタ、マザリーニは魔法衛士隊の護衛をつけて学院内に消えた。
 アンリエッタと、その護衛に付くワルド子爵の姿を見て懐かしい思い出が蘇っていた。
 アンリエッタが学院内に消えると、生徒達は各々のやるべき事へ戻っていく。
 ルイズたちも然り、学院に戻っていくキュルケとタバサはふと気が付いた。

「ちょっとルイズ、どうしたってのよ?」

 一向に動かないルイズ、ぼーっと放心していた。

「ダーリン、放って置きましょ」

 と腕に絡みつき引っ張っていこうとするが。

「それは出来ない」

 そう言って佇むルイズを抱き上げ、学院に戻った。





 部屋に運ばれたルイズは、うろちょろしていた。
 夕食になっても、部屋から出ずうろついていた。
 一通り歩き回った後、ベッドに座り動かなくなる。
 そして横になり枕を抱えて動かなくなる、そしてまた起き上がり部屋をうろつくと言った行動を約3時間ほど繰り返していた。
 何か考え事でもあるんだろう、チーフはそう思い何も言わず壁際に立ち続ける。

 さらに幾許かの時間が過ぎた後、チーフは扉の方を見た。
 モーションセンサーに反応、ルイズの部屋の前で立ち止まる者が居た、ハンドガンに手を掛け何者かと扉とルイズの直線上に入る。
 ドアノブに手を掛け、いざ開こうとするとノックされる。
 長く2回、今度は短く3回ノックされた。
 その音にルイズは飛び起き、ドアに駆け寄るが。

「ルイズ、俺が開ける」

 手を出し、制止した。

「だいじょうぶ、知り合いよ」

 頷き、チーフがドアノブを回して扉を開くと頭巾を被り、漆黒のマントを羽織った人。
 するりとルイズの部屋の中に入るのは少女、マントの隙間から杖を取り出し呪文を綴る。
 杖の先から光が現れ、部屋の隅々まで照らす。

「ディティクト・マジック?」
「ええ、目や耳があるかわかりませんからね」

 その声を聞いてルイズの顔が輝いた、もちろん閃光とかそちらの意味ではない。

「姫殿下!」

 喜んだ声を上げたルイズ、それに応じたのはアンリエッタだった。

「ああ、お久しぶりね! ルイズ・フランソワーズ!」

 頭巾を取った少女、ルイズと同様に笑顔。
 咄嗟にルイズは膝を着く。

「ああ、ルイズ! 懐かしのルイズ! 頭を上げてちょうだい!」

 それを聞いて頭を上げるルイズ。

「そんな堅苦しい挨拶はやめてちょうだい! ここには私と貴女だけなのよ!
 王女のアンリエッタではなく、幼馴染のアンリエッタとして接してちょうだい!」

 護衛も付けず、お忍びでルイズに会いにきたのだろう。
 そうなると扉を開けっ放しにするのは良くない、とドアを閉めたチーフ。
 ガチャリと、閉まると同時に振り返ったアンリエッタ。

「何者です!!」

 裏に誰かいるとは思いもしなかっただろうか、杖を取り出し呪文を綴った。

「姫様! 違います! 私の使い魔でございます!」

 え? と詠唱を止め、ルイズを見てチーフを見直す。

「彼が貴女の?」
「はい、私の使い魔『マスターチーフ』と申します」
「人、ですよね?」

 アンリエッタは見上げる、チーフはかなり大きく約2メイル10サントほどある。

「はい、鎧を着ています」

 チーフはゆっくりと膝を着く、それでも大きく見えた。

「申し訳ありません、闖入者と勘違いしてしまって」
「いえ」
「でも、人を使い魔にするなんて、ルイズは昔から相変わらずね」

 フフと笑う姿は年相応の少女であった。

「チーフは人ですけど、ものすごく強いんですよ!」

 力説するようにルイズは言う。

「そこら辺のメイジなんて相手になりません!」

 それを聞いて、まあ! と驚くアンリエッタ。

「使い魔さんは魔法を使うのかしら?」
「いいえ、剣と銃を使う騎士で御座います」
「メイジではないのにメイジに勝つ、という事かしら?」
「はい!」

 ルイズは嬉しそうに言った。
 アンリエッタも魔法が使えない者はメイジに勝てないと知っている。
 それなのに、ルイズは自信満々に言ったという事は本当の事だろうと考えた。

「ルイズは素晴らしいメイジに成長したのね!」

 メイジの実力を見るなら使い魔を見ろ。
 言った通りメイジに打ち勝てるほどの使い魔を呼び出したルイズは、相応のメイジなのであろうと。

「い、いえ、素晴らしくは……」
「いいのよ、謙遜しなくても!」

 うつむくルイズ、それを気にしないでアンリエッタは昔話を語り始める。
 衣服を汚して従者のラ・ボルトさまに叱られたとか。
 お菓子を取り合ってつかみ合いになったとか。
 宮廷ごっこでどちらがお姫様役になるかといって取っ組み合いになったとか。
 昔話に花を咲かせつつも、アンリエッタは深いため息を吐く。

「どうかなさいました?」

 アンリエッタの嬉しそうな顔に陰りが現れる。

「今度結婚するのよ、私」
「それは、……おめでとうございます」

 嬉しそうではないその言葉に、手放しに喜べないルイズ。

「ありがとう、ルイズ」

 儚げな笑顔、その表情を見て心配になった。

「何か心配事でも?」
「いえ、親友に話す事ではないの、ルイズ」
「いいえ、親友だからこそ悩みを打ち明けてほしいのです、姫様」
「……ありがとう、ルイズ」

 一息付く、その表情はやはり重い。

「私はゲルマニアに嫁ぐ事となったのです」
「ゲルマニアですって!? あんな野蛮な成り上がりのどもの国へですか!?」
「ええ、今彼らと同盟を結ばければトリステインが危ないのです」
「ですが……」

 ルイズの言葉を遮ってアンリエッタがハルケゲニアの情勢を説明した。
 アルビオン王家が転覆しそうだという事、その転覆を狙うものたちは『聖地奪還』を掲げている事。
 そして、聖地奪還を行う前に『ハルケギニア統一』を狙っている事。
 もしアルビオン王家が転覆した場合にはトリステインに攻め入ってくる事、そうなれば小国のトリステインだけでは防ぎきれないという事。

「そうだったのですか……」

 国のため、民のためになんとしても戦争を回避したい王家の判断。

「いいのよルイズ、好きな相手と結婚なんて当の昔に諦めているわ」

 先ほどと同じ、儚げな笑顔。

「そうなると、やつらは同盟が邪魔になると考えるのでは?」
「ええ、察しがいいわねルイズ、やつらは今婚姻の妨げになる材料を探しているの」
「もしや……」

 何れ女王になる姫と、名高い公爵家の三女のやり取り。
 チーフは立ち上がり、ドアの前に立つ。
 ドアの向こう側で何か聞こえるが無視した。

「ええ、その材料があるのです」
「何ですって!? それは何なのですか!?」
「以前にしたためた一通の手紙、送った相手はウェールズ皇太子なのです」

 それを聞いてルイズは顔を青ざめた、アンリエッタがこう言うのなら婚姻破棄されるだけの内容なのだろう。
 アルビオン王家はかなり劣勢だというし、遅かれ早かれウェールズ皇太子は捕まり。
 その手紙が反乱勢に渡れば間違いなくゲルマニアに送る。
 そうなれば婚姻は破棄され、トリステイン一国で新生アルビオンを相手取らなければ行けない。

「ルイズ、懐かしきお友達」
「はい」
「貴女は土くれのフーケを倒したと聞いたのですが、あれは本当なのですか?」
「はい、私めが討ち取りました」

 土くれのフーケは最低でもトライアングルクラスあると言われていた。
 それを討ち取ったということはトライアングルかそれ以上の実力があるという事。
 事実、スクウェアクラスに匹敵する攻撃でフーケのゴーレムを破壊したルイズ。

「……私の願いを聞いてくれますか?」
「はい、姫殿下の願いでしたらどのような事でも」

 その言葉を聞いたアンリエッタ、頭を垂れるルイズには見えなかったが悲しそうな表情をしていた。

「ならば、その実力を認め一国の姫として命令します」
「アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子から手紙を回収してきなさい」
「はい、その命謹んで──」
「姫殿下、発言をお許しください」

 遮られたルイズはチーフを見た。
 それを聞いたアンリエッタはチーフに杖をむけ。

「許可します」
「……何故、ルイズなのですか」

 その言葉にルイズとアンリエッタが止まった。

「……それはルイズの実力を──」
「実力で選ぶのなら、姫殿下を護衛していた者達でも構わないのでは」

 何故、ルイズなのか。
 今だ学生の身分であり、公爵家の三女ではあるが軍事的な繋がりなど皆無。
 実力で問うなら今言った通り魔法衛士隊の隊員で問題無い筈だ。
 なのに、それを彼らに命じないのは如何言う事か。

「……、それは──」

 アンリエッタが口を開くと同時に部屋の中に転がり込んできたのはギーシュとモンモランシー。

「ギーシュに……、モンモランシー!?」
「や、やあ」

 倒れてはははと笑うギーシュ、その上にはモンモランシーが赤面して乗っかっていた。

「あ、あんた達今の聞いてたの!?」
「いやー、どうだろう?」
「え、ええ、どうかしら……」

 非常に余所余所しい、恐らく半分以上聞いていたのであろう。

「ルイズ、こちらの方々は?」

 それを聞いて素早く起きたのはギーシュ。
 その反動でモンモランシーが転げ落ちるがチーフが背中を支えて止めた。

「ギーシュ・ド・グラモンと申します!」
「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシと申します」

 二人とも膝を着いて名乗った。

「ルイズの級友ですか?」
「ええ」
「姫殿下! ぜひともその任務を私にもお申し付けくださいますよう!」
「ちょっとギーシュ!? 何言ってるのよ?」

 モンモランシーが驚きの表情を浮かべた。

「グラモン? もしやグラモン元帥の?」
「はい、息子でございます」
「ミス・モンモランシは水の精霊との交渉役を引き受けていると聞きていましたが」
「はい、ですが今は……」

 苦しげに言ったモンモランシー。

「大丈夫さ、モンモランシ。 君は僕おぶあっ!」

 何か言おうとしたギーシュがモンモランシーに殴り飛ばされた。
 まあ、何を言おうとしたか想像し易い。

「貴方方も、わたくしの力になってくれると言うの?」

 ビクビクと痙攣していたギーシュが素早く起き上がる。

「この身を、一命を賭して!」

 アンリエッタの視線がモンモランシーに向く。
 その視線を向けられたモンモランシーは大変な事になったと考えていた。
 事は女子寮内をうろついていたギーシュを見かけ、付けてみたら姫殿下が居るじゃないの。
 こんな任務、命が幾つあっても足りないかもしれない。
 さらには、隣でギーシュがあんなふうに言うもんだから断る事なんて出来やしない。

「はい、彼と同様の所存でございます……」

 あー、言っちゃったぁぁぁぁ……。
 と内心後悔しまくりのモンモランシーを見て、アンリエッタが笑顔で答えた。

「ありがとう、力ないわたくしのために……」
「それでは姫様、明日の朝にアルビオンへ出発するといたします」
「ありがとう、ルイズ」

 それからはトントン拍子で進んでいった。
 ウェールズ皇太子に会ったらアンリエッタが書いた手紙を渡す事。
 その件の手紙を返してもらえる事。
 渡した路銀が足りなくなったら『水のルビー』を売り払ってもいいという事。
 ルイズとその一行はアルビオンへと旅立つ事となった。





『チーフ、姫様をお部屋まで護衛しなさい!』と仰せつかったのでアンリエッタに付いて歩いた。

「……、使い魔さん」
「はい」
「先ほどの質問に答えなければなりませんね」

 重苦しい口を開いたアンリエッタ。

「ルイズに危険な命を頼んだ理由は、真に信頼できる者が居なかったからです」

 政治関係の悩み、この任務を安心して任せられる者がアンリエッタの周りには居なかった。

「ルイズは、彼女は変わっていませんでした。私と過ごした時のまま、私を信頼してくれて
 ルイズが土くれのフーケを討伐したと聞いたときには、この話を決めていました」

 少しだけ軋む床と、アンリエッタの声だけが響く廊下。

「それに、使い魔さんのようなお強い人が居らしたので」

 ふふ、と可愛らしく笑った。

「あれだけルイズが自慢していたんですもの、お強いんでしょう?」
「それはどうでしょうか」

 曖昧な返事を返す。
 チーフの世界では間違いなく強いだろうが、この魔法世界ハルケギニアでは解らない。
 またも軽く笑い、アンリエッタが振り返る。

「使い魔さん、これからもルイズをお守りください」

 左手の甲を差し出す、それを見てチーフは跪く。

「申し訳ありません姫殿下、この兜を外す事は許可されて下りません」
「それはルイズが?」
「いえ、違います」
「主であるルイズの命でも外せないと?」
「はい」

 一瞬考思、意味を理解したのか手を下ろす。

「わたくしに誓わずともルイズを護ってくださいますか?」
「はい、この身に代えましても」

 アンリエッタは頷き、笑った。

「ルイズを、わたくしの大切な友をよろしくお願いしますね」



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