あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 24

それは唐突に起こった。
ルイズがトリステインからの大使だと聞いたイザベラが何の気なしに口に出したのだ。

「じゃあ、魔法の腕もいいんだろうね。トライアングルかい?」

トリステインはガリアと並ぶ魔法大国である。
違うことと言えば、昨今のガリアでは建前上は魔法の優劣で人間の優劣は決まらないとされていることくらいだ。
これは多分に現ガリア王ジョゼフに魔法の才能がないという事実に端を発している。
魔法が使えないものを下に見るということは、すなわち国王を、
即位早々に大粛清を行った暴君を愚弄し、侮辱することになるのだから。
もっともそれは正しく建前上の問題だけであり、表に出せない分だけ根深い差別を生み出す温床となってもいるのだが。
一方トリステインはどうかと言えば、その先王は風の属性を持つアルビオン王弟でもあり、
その王女アンリエッタもまた水のメイジである。魔法の才能ある者に対する優遇はガリアの比ではない。
ましてやルイズの実家はヴァリエール公爵家。現当主とその夫人の双方がスクエアメイジであることは有名であり、
非合法とはいえ騎士団団長をしていたイザベラの耳にもその家名は届いていた。
ただし、その子供たちに関しては三人ともが女性であることもあって詳しい話は伝わってはこなかった。
公爵家を告ぐのはその入り婿であるだろうから、娘たちに婚約者が出来ればそれを調べれば良いという判断があったからである。
ちなみに一番可能性の高い長女の婚約者については、あまりに頻繁に変わる所為でそれ専門の部署が作られたと言う事実もあるが、
流石の北花壇騎士団団長もそこまでは知らなかった。
とまれ、イザベラの問いにルイズは何の気なしに答えたのだ。

「いいえ、わたしは魔法は使えないわ。
 使えたのは二回だけ。ブータを呼び出した時と、契約した時だけよ」

はにかみながらそう言って微笑みながらブータを撫ぜるルイズ。
驚き、呆然としてそれは本当かと目線で問いかけるイザベラとカステルモールに、
ギーシュとキュルケ、タバサはあるいは言葉で、そして態度でそれが本当であると保障した。
彼らはルイズが嘘つきであることは知ってはいたが、彼女が魔法が使えぬことは事実であったからだ。
それを見たカステルモールは隣の少女が聞いてはならぬことを聞いてしまったのではないかと微かに顔を歪め、
ワルドはそれを知ったガリアの主従の言葉や態度でルイズが傷つくのではないかと懸念を抱いた。
タバサは我関せずと懐から本を取り出し、ギーシュとキュルケは何かを期待するかのようにルイズを眺めた。
彼らはルイズがそのような事で傷つかぬと誰よりも知っていたし、何よりも彼女がつく嘘を好ましいと思っていたからだ。

「嘘だね! 信じないよ! トリステイン貴族のあんたが、しかも大使様が魔法を使えないなんてさ!」

――――そしてイザベラは身体を震わせ、真っ赤な顔で激怒した。

驚いたようにキュルケとギーシュが顔を見交わす。
彼らには解らなかったのだ。なぜ、イザベラが怒り出したのか。
それはカステルモールやタバサ、ガリアの王女を知る者たちも同様だった。
魔法が使えぬルイズを蔑むのならまだ解る。哀れむのも理解できるだろう。
だが、なぜイザベラが怒ったのかは解らなかった。
ワルドはイザベラの瞳と表情に微かな既視感を憶えて首を傾げ、
ブータは異世界での車椅子に乗った友人を思い出して沈痛な息をついた。

「信じない、絶対に信じない! やっぱりあんたも人形娘と同じで、あたしを馬鹿にしているんだろう!?」

叫ぶイザベラの脳裏に、ガリア宮殿での記憶が蘇る。
魔法の才能の無い自分に向けられる侮蔑の視線。呪詛の様に耳に届く嘲りの言葉。
自分と従妹を比べる視線と言葉に、一体どれだけ眠れぬ夜を過ごしたことか。
どれだけの憎悪と屈辱を両手に抱えて日々を過ごしたことか。
なのにこの娘は、トリステインの大使として選ばれたこの娘は。
友人たちに囲まれて笑うこの娘は言うのだ。自分には魔法が使えぬと。
自分が欲しかったもの。かつて夢見たもの。
叔父の死と共に失われた筈の従妹の友情。
自分を蔑みも嫌いもしない友人たち。
その全てを手に入れているこの娘が魔法を使えぬなど、そんなことがある筈が無い。

「始祖ブリミルにかけて、そんなことがあっていい筈が無いんだ!」

血を吐くようなイザベラの叫び。
キュルケにも、タバサにも、ギーシュやカステルモールにもその心情は理解できなった。
なぜなら彼らにとっては魔法を使えることは当たり前のことであり、自分の才能について憎悪したことなどなかったのだから。
ワルドは一度だけ目を瞑り、そして桃色の髪の自分の婚約者に視線を向けた。
遠い昔を、もう夢のように思える微かな記憶を思い出したのだ。
庭の湖に浮かぶ小さな小船で泣いていた幼い少女。
魔法が使えぬから父も母も姉も自分を嫌うのだと、その瞳に涙をためて。
魔法が使えぬから召使いや平民にすら馬鹿にされるのだと、唇をかみ締めて。
魔法が使えぬ自分が全て悪いのだと、ただ自分だけを責め続けていた、小さい姫君。
自分はあの時なんと言ったのか。そんなことは憶えていない。
けれど、なんとかしてその涙を止めたいと思ったことだけは憶えている。
それは彼がまだ若く、その手を血に濡らすことも、謀略の泉の水を飲むことすらなかったことの遠い夢。
彼は彼女の手を取って小船から連れ出して、けれど何も言えなかった。
彼に出来たのは彼女をその姉に渡して、同じ髪の女性の胸で泣きつかれて眠るまでその傍らにいることだけだった。

「あなたには、居なかったのか、イザベラ王女。
 魔法が使えずともあなたを好いてくれる人は、ミス・フォンティーヌのような方は」

ルイズが驚いたように目を見開いた。
彼女はワルドの口に出したその人を知っていた。誰よりもよく知っていた。
カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。
ヴァリエール家の次女。ルイズの優しいちい姉さま。
魔法が使えず泣く自分をいつも抱きしめて慰めてくれたその人。
魔法が使えなくても、あなたは私の妹よと言ってくれるその言葉に、自分はどれだけ救われたのか。
わたしだけでなく、父さまも母さまも姉さまもあなたが大好きよと語るその声に、自分がどれだけ慰められたのか。
ただ微笑んで、優しく抱きしめてくれるそのぬくもりが、どれだけ自分を守ってくれたのか。

「誰だいそいつは!?」

腹立たしげにイザベラが叫ぶ。
魔法が使えなくても自分を好いてくれる人物?
そんな者が居る筈が無い。
父は確かに娘の自分を愛してくれてはいるが、それは彼よりも自分の方が魔法の才能があるからだ。
カステルモールの忠誠はシャルロットの下にあるし、北花壇騎士団の部下達も自分に好意など持っている筈が無い。
宮殿の下働きたちや貴族たちも同様で、

――――イザベラ、シャルロットと仲良くしてくれてありがとう――――

息が詰まる。
そんなことはある筈はない。
だってあの人は、魔法が使えぬ兄に不満を抱いて、

――――君がシャルロットと仲良くしてくるから、本当に助かるよ――――

だから、謀反を、計画して。
父上を殺そうとして、でも、仲間割れで、殺されて、

――――これは内緒だよ? 僕はね、兄さんが大好きなんだ。兄さんこそがガリアの王になるべきだ――――

あたしを、父上を、騙して、馬鹿にして、裏切って、

――――兄さんは僕を嫌いかもしれない。だけど、イザベラ。シャルロットが君を好きなように、僕も、兄さんが――――

「いない、いなかった! 誰も、誰もだ! 誰も、あたしのことなんか……!」

――――あのね、イザベラ姉さま。わたしね、大きくなったら、イザベラ姉さまのお手伝いをするの――――

脳裏に浮かぶ声を、まだ幸せだった頃の思い出を黙殺する。
忘れようとした訳ではないのにもう思い出すことすら少なくなったそれを、
まだ自分が従妹と共に笑い会えていた頃の幻影を、醜い嘘で塗りつぶす。
アレは無かったのだ。自分はずっと一人で、優しかった叔父も、懐いてくれていた従妹も、全ては欺瞞でしかなかったのだと。

「魔法さえ、使えれば、いや、魔法さえ、なかったら――――!」

力なく俯くイザベラを見やり、ルイズはそっと目を伏せた。
ああ、もう一人の自分がここに居る。
もしもあの日、あの時、あの場所で、あの人に出会わなかったのならば。
頑張れと、絶対に負けるなと言われなかったならば。
自分は今のイザベラのように、魔法が使えぬことを免罪符に、自分に嘘をつき続けていたことだろう。
遠い記憶が蘇る。

『世界は嘘に満ちている。けれど嘘は嘘によって切り裂かれる。その時、最後に残るものこそが真実だ』

そう教えてくれたあの人。
名前も知らず、もはや顔さえもおぼろげで、声すらも定かには思い出せない恩人。
けれどあの人がくれた魔法は、この胸の中に今もなお輝いている。
ルイズはワルドに視線を送り、微笑んだ。
かつての自分を知る、優しい婚約者。
ただ一人かつてのルイズを知るが故に、イザベラがもう一人のルイズだと気づかせてくれた優しい人。
わたしは魔法を使えない。わたしは大嘘つきで、だから嘘をつく事しか出来ない。
だから、わたしは、もう一人のわたしの涙を終わらせるための嘘をつこう。

「――――“それがどうした”よ。イザベラ王女」

胸の首飾りに光が宿る。
そして大嘘つきの少女は、たった一人の少女のために世界すら相手取る嘘を唇に浮かべた。



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