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オッツ・キイムの使い魔-03

 吟遊詩人は歌い伝える。
 その少女の物語を―――

 それはただの少女でした。
 それはただの人間で、ただの子供で、ただの少女でした。
 何の力も持たない、ただ兄の帰りを待つだけの、守られるだけの少女でした。

 けれど、兄を亡くし、友を失くし、絶望を知ったその時、
 涙を流しながら、それでも少女は決めたのです。
 ただの少女であることを止めようと。
 ただの無力な自分を捨て、絶望と戦おうと。

 そうしてただの少女は、少女であることを止めたのです。


××××××××××××××××××××××××××××××


 レムは眩さで目を覚ました。
 窓から朝の白い光が射している。その中を、細かな埃が舞うのが見えた。虹色だった。
 眠い目をこする。見慣れない部屋に、昨日の記憶が呼び起こされる。
 2つの月。ピンクの髪。少年少女。嘲笑。召喚。使い魔。キス。貴族。女の子。ヤな子。魔法学院。魔法。赤と青の月。この部屋。ルイズ。オッツ・キイム。遠い場所。東方。いぢわる。涙。
 ルイズはいぢわる貴族で、ここはルイズの部屋で、昨日おやすみなさいをして、今は朝。
 一通り思い出してから、ウリックの就寝場所、マットの上を見る。
 しかし、ウリックはいなかった。
 慌てて起き上がって見渡す。姿はない。
 すぐに理由が思い当たって、目を伏せた。
 ああ、きっとまた夢を見たのだろう。レムは思った。
 夢を見た朝、ウリックは不安定になる。それ以外に、レムに黙ってどこかに行くなど、考えられない子なのだった。
 せめて部屋で泣いてくれれば。せめて私の前で泣いてくれれば。大丈夫なんて笑わないでくれれば。
 そこに存在がある分、悲しみを分け合える分、その方がまだマシだった。
 ウリックのいない朝は、自分もひどく不安になる。

 もう一度、今度は落ち着いて部屋を見渡す。宿屋よりもずっと豪華な部屋だった。
 まだ朝日が昇ったばかりの時刻。中央のベッドでは、ルイズが安らかな寝息を立てている。あどけない寝顔だった。
 なんだか腹立たしくなった。
 こんなコに使い魔とやらにされた、ウリックのコトを思ったからだった。
 自分達を勝手に召喚して、勝手に使い魔にして、あげく平民とかシツレイなコトばっかり言う子。
 貴族のおじょーさまで、きっと何の苦労も哀しみも絶望も知らないに違いない。
 レムは自分の身長よりも大きな羽根をひらひらさせて飛ぶと、ルイズの顔の横に着地した。
『ちょっとルイズ!』
 ルイズは目覚めない。
『ル・イ・ズ!』
 ルイズは目覚めない。
『ルイズ!! 起きなさいよー!!!』
「ん~……」
 ルイズは全く目覚めない。
 レムは毛布をはがそうとしたが、自分には重すぎたので諦めた。
 代わりに、小さな両手でルイズのほっぺたを掴むと、ぎゅーっと自分の方へ引っ張った。
「いひゃいいひゃいひゃい!! な、何よ、何なのよ!」
『やぁーっと起きたわネ』
 レムが手を離すと、ルイズは赤くなった頬を押さえた。
「何するのよ! あんた誰! っていうか何!?」
『なにって、昨日アンタが召喚したんじゃナイの!』
 しばらく睨みあって、撫でていた頬の痛みが治まってきた頃、ようやくルイズは、ああ、と言った。
「そっか、そういえば、昨日召喚したのよね。妖精を。
 ……でも使い魔の契約はできなかったのよね、うん………」
 昨日のことを思い出し、ちょっとブルーが入るルイズ。
 しかし何かに気付いたらしく、視線をベッドの横、マットの上に移した。
「ところで、その使い魔はどこ行ったのよ?」
『たぶん外に…散歩に行ったんだと思うケド』
「ご主人様の許可なく? 全く、勝手な子ね」
 怒るというより呆れたようなルイズの手を、レムが抱えて引っ張った。
『だからこれから探しに行くわヨ、ルイズ』
「はぁ!?」
 ルイズはレムの手を払った。
「主人が使い魔を探す!? あんたそれ、正気で言ってるの!?」
『当たり前じゃナイ。だって私、ココの地理なんてわからないもの』
「ふざけないでよ! 平民ってだけで最悪なのに…
 大体まだこんな時間じゃない! 私、もう一眠りするからね!」
 ルイズはそう宣言すると、頭から布団を被って横になった。
『アンタ昨日は”主人と使い魔は一心同体”とか何とか言ってたじゃナイ!』
 そういえば部屋に戻る途中に言ったかもしれないが、そんなことより大切なことが今はある。何よりも大切なことが。つまり具体的に言うと、眠かった。
「うるさいうるさいうるさい! とにかく私は寝るんだから、さっさと探しにでもなんでも行きなさいよ! おやすみ!!」
『そんな態度だと契約解除するカラね! それでもいーの!?』
 レムは叫ぶが、もはやルイズからの返答はなかった。無視を決め込んだようだ。
 ほんの数分で、ルイズは再び寝息を立てはじめた。

 レムはふわりと飛ぶと、窓から景色を見て、どうしようかしら、と呟いた。
 広い広い学院。見たこともない学院。初めての学院。
 そして今ここにいない人物は、とんでもなく方向音痴なのだった。
『…あの子、今ごろ迷子になってるわネ』
 断言できる。
 ぱにっくでおろおろしながら、ココはドコかと叫ぶ姿が脳裏に浮かんだ。



「ココはドコだぁー!?」
 レムの予想通りの叫び声が響くのは、魔法学院の中庭だった。
 中庭を挟むのは”風”と”火”の塔で、ここはヴェストリの広場と呼ばれる場所だったが、ウリックがそんなことを知るわけもない。
 ふらりと部屋を抜け出し、ぼんやりと彷徨い歩き、気付いたらこんな場所にいた。もちろん、帰り道など覚えていようはずもない。
 そもそも方向音痴な自分が、こんな広くて知らない場所を彷徨ったらどうなるかなど、多少考えればわかりそうなものだ。
 この少年、うっかり者である。
「うーむ、どうしよう…」
 周りに人影はない。早朝だし、元よりこの西側の暗い広場は、あまり人が来ないのだ。
 どうしようかと考えて、考えて、考えて、
「よし!」
 23秒考えたところで、顔をあげた。
「とりあえず、歩こう!」
 きっとそのうち人に会うはずだ。そう結論を出した。
 この少年、長い時間モノを考えるのが苦手である。

 歩き出そうとしたその時、ウリックは足元に違和感を感じた。
 よくよく地面を見た。
 土が、盛り上がっている。
「え? な、なに?」
 一箇所ではなく、道のように線のように、盛り上がった地面が長く続いている。
 その盛り上がった道を目で追ってみた。道は広場の奥から続き、あちこちをぐるぐる回ったり曲がったりしていている。
 視線が道の最後に行き着く。行き着いたと思った途端、離された。最後がどこまでも離れていく。
 その道は、現在進行形で伸びていた。
 しかもウリックに向かって、一直線に伸びてきているのだった。
 目の前に、道の最後がやってきて、止まった。
 すぐには何も起こらない。
 しばし、無音。
 数秒後、茶色い大きな何かが、地面を割って現れた。
「なっ…魔物(モンスター)!?」
 それは巨大なモグラだった。普通からは考えられない大きさ。ウリックの感覚からすれば、それは間違いなく魔物だった。
 とっさに身構える。
 しかし、巨大モグラはもぐもぐと鼻をひくつかせるだけで、襲い掛かってくるような気配はない。
 静かにウリックの目を見つめている。
 ウリックはしゃがみ、モグラと視線の高さを合わせた。
「おはよー、モグラさん」
 この少年、相手が誰でも朝の挨拶は欠かさないのである。
「君はココに住んでるの?」
 モグラは鼻を鳴らした。
「ボクはウリック。道に迷っちゃったんだケド、君、帰り道ってわかるかな?
 ルイズってコのところに帰りたいんだ」
 モグラは鼻を鳴らして、首を傾げてから、土に潜った。
 少し進んだところで止まり、土から顔を出すと、ウリックの方を振り向く。
「そっち?」
 ウリックが歩き出すと、モグラは再び地面に潜った。
 地面が盛り上がり、道ができていく。ウリックを先導するように、ゆっくりと。
「ありがとう」
 ウリックは導かれるまま歩き出した。
 これまでに地面にできた道を避けるように、モグラは大回りで進んでいく。
 しばらく歩いたところで、ウリックはふいに立ち止まった。
 モグラの前進も止まる。
 モグラはウリックの前までUターンし、顔を出した。
「あ、ゴメン」
 ウリックは広場中を眺めていた。広場中の地面に広がった道を。
 その瞳は、大好きな絵本を見る子供のように輝いている。
 というかこの少年、子供である。
「コレ、君が描いたんだね。スゴイなぁ」
 モグラの横にしゃがみ、笑った。
 巨大モグラは、嬉しそうに身体を摺り寄せた。

 道案内を再開したモグラは、しかし人々が未だ眠っているであろう寮の方ではなく、広場の奥へ向かって進んでいた。
 明らかに目的と逆方向だが、しかしウリックは全然気にしていなかった。
 この少年、他者を疑うことをしないのである。
 ある程度進んだところで、ウリックは気付いた。奥の木陰に誰か座っていることに。
 もう少し進んで気付いた。その人物が、黒いマントを羽織っていることに。
 もう少し進んで気付いた。その人物が、男だということに。
 もう少し進んで、止まった。
 身体が震えた。
 その人物は、金髪だった。

 金髪で、黒いマントで、男だった。

 だから、仕方なかった。
 だってウリックは、今朝も彼の夢を見たのだから。
 いつも彼の後ろ姿を見ていたのだから。
 金の髪と黒いマントを、いつもいつも見ていたのだから。
 こうしてウリックが迷子になれば、いつも彼が探しに来てくれたのだから。

「シ、オン…」

 思わず彼の名前を呼んでしまったのは、仕方なかった。

 声に出してから、答える者がいないその名前の、空虚な響きに息を飲んだ。
 足元に温もりを感じる。
 巨大モグラが身を摺り寄せ、鼻を鳴らしていた。
「あ…」
 ウリックはハッとした。
 夢から無理矢理起こされた時のような、眩暈。額から汗が伝った。
 そして、黒いマントの青年が、全くの別人であることに気付く。
 いや、最初から、きっと気付いていたのだけれど、今ようやく、ウリックはそれを理解したのだった。
「…ゴメンね、大丈夫だから」
 微笑んだつもりだった。
「ありがと、君、優しい子だネ…」
 巨大モグラの背に腕が回される。柔らかくて暖かくて、生きている体。震える腕で、それでも強く抱きしめた。
 笑おうとした表情はむしろ泣き出しそうで、それでも涙は流さなかった。
 巨大モグラは暖めるように身を摺り寄せて、鳴いた。

 しばらくして、ウリックはモグラから身体を離した。震えは収まっている。
 改めて、金髪の青年を見る。今度は大丈夫だった。
「この人、君の友達?」
 モグラは鼻を鳴らした。
 青年は木に寄りかかったまま眠っている。マントはしているが、胸元が大きく開いた服は寒そうだ。
 風邪をひいてしまうのではないかと、ウリックは心配になった。
 この少年、生来のお節介である。
「ねぇ、君」
 青年の目の前に座り、優しく声をかける。
「こんなトコで寝てたら、カゼひいちゃうよ」
「う…」
 青年が身じろぎする。
 ゆっくり開かれる瞳を見て、一瞬思考が止まった。彼と同じ、緑の瞳だったから。
 が、次の瞬間、別の意味で思考が止まった。
 青年は、いきなりウリックの腕を掴んだ。
「へ?」
「…かあいらしい、おじょお、さん」
 ろれつの回らない声。その瞳は開ききっておらず、半分夢の中である。
「君の…小鳥のさえずりのような、あいらしい声で、おきられる、なんて…僕は、なんて幸運な…」
「へ? は? え?」
 ウリックは混乱している。何だろうコノ人。
「君とはじまる朝を、始祖に感謝し…君と……」
 呟くように語りながら、その目が徐々に光を帯びていく。
「……君、君は…」
 青年は、目を開いた。
「君は、誰だ?」
 そうして、ようやく青年は目覚めたのだった。

「まったく、僕としたことが、女の子と平民の少年を間違えるなんて…」
 金髪の青年、ギーシュがぶつぶつと呟き、深く溜め息をつく。ウリックは思わず苦笑した。
 どうやらギーシュはものすごい女好きらしい。
 彼とは真逆だと思い、何故か少し安堵する。
 ギーシュの膝の上では、巨大モグラ、ヴェルダンデが、撫でられて鼻をぐもぐもさせている。
「それで、ルイズの使い魔」
「ウリックだよ」
「…平民くん。起こすなら男らしく起こしてくれたまえ。
 君は変声前のようだから、非常に紛らわしくて困るよ」
 どう聞いても、醜態を曝したことに対するやつ当たりの言い掛かりだったが、ウリックはわかったと頷いた。
 この少年、実は頷くだけの理由があるのである。
 それから、首を傾げた。
「男らしくって、どーいう風に?」
「む…」
 ギーシュは腕を組んで唸った。
「…怒鳴るとか」
「よく知らない人に怒鳴っちゃダメだよ」
「掛け物を剥ぐとか」
「何も掛けてナイよ」
「つねるとか」
「かわいそーだヨ」
「ああもう煩いな君は、使い魔のくせに!」
 ヴェルダンデが顔を上げる。
「あ、いや、違うぞヴェルダンデ。君は使い魔でも最高にして崇高な使い魔だよ。
 君の愛らしさは、貴族の女性達にも、決して勝るとも劣らないさ!」
 ギーシュは柔らかな毛に顔を埋め、すりすりと頬擦りした。その表情は緩みきっている。

 普通の人ならちょっと引く光景だったが、目の前の少年は違った。
「2人とも、スゴく仲良しなんだネ」
 ウリックは、嬉しそうにニコニコと笑っている。
「そりゃあそうさ。昨夜、一晩中、ずっとヴェルダンデと語り合っていたからね」
「ずっと?」
 なるほど、よくよく見れば、ギーシュの目の下には隈ができている。
「もしかして、ココで寝てたのって、ソレが原因?」
「そうだよ。語り合う内に、何時の間にか眠ってしまったようだ」
「ココでオシャベリしてたの?」
「ヴェルダンデは部屋より、土のある場所が好きだからね。
 それにここなら、朝になってもあまり日が射さないから、モグラのヴェルダンデにはいい場所なのさ」
「…そっかぁ!」
 ヴェルダンデに頬擦りを続けていたギーシュだったが、思わず顔を上げた。
 ウリックのその声が、あんまりにも、嬉しそうだったからだ。
 目に入ったウリックの顔は、本当に喜びに満ち溢れていて、まるで太陽のようだった。その瞳は、清らかな湖のように輝いている。
 逆に困惑したのはギーシュの方だ。
「…君。どうして笑っているんだい?」
「え? えへへー」
 溢れる喜びを隠そうともしない。
 この少年、泣くも笑うも素直である。
「君たち、すっごく仲がいーんだなぁって思って。ボク、すっごく嬉しいんだ」
 それのどこが嬉しいのか。ギーシュにはわからなかった。
「…君、僕と以前、知り合いだったりするかい?」
「え? ボク、初対面だよ?」
「ヴェルダンデと知り合いだったりしたかい?」
「んーん、今日初めて会った子だヨ」
 ついさっき会ったばかりの、赤の他人同士が仲がいいのが、何がそんなに嬉しいのか。ギーシュにはわからなかった。
 わからなかった。が、不快ではなかった。
 むしろ、その笑顔に釣られて、こちらまでもが微笑みそうになる。
 そんな奇妙な感情に、ギーシュは困惑した。
「…君は、変だな」
「変かな?」
「変だな」
「そうかなぁ」
 でもまぁいいか、とウリックは思った。2人は仲良し。笑ってる。だからボクも嬉しい。それでいい。

 この少年、子供である。
 誰かが仲良しだと嬉しい、誰かが笑うと嬉しい。そんな単純な思考は、子供に決まっている。
 けれどそれは、かつては誰もがそうであったはずの姿だった。
 ギーシュは少し大人で、貴族である。だからいつしか、それをどこかに置き忘れていた。
 この日、この瞬間まで、ギーシュはそれを忘れていることすら忘れていたのであった。

 ヴェルダンデはギーシュの膝を降りると、今度はウリックにじゃれ付き始めた。
「あははは、くすぐったいよ、ヴェルダンデ」
 ウリックは笑顔で、ヴェルダンデの頭を撫でた。
「本当に初対面なのかい?」
「うん」
 そうとはとても思えないほど、ヴェルダンデはすっかりウリックに懐いている。
 ヴェルダンデを撫でる少年の右手に、ルーンが見えた。
 きっと、使い魔同士は仲良くなりやすいんだ。そうギーシュは結論づけた。
「ヴェルダンデ、本当にありがとう。君、本当に優しい子だね」
 使い魔に礼を言い、しかも”優しい子”と表現する少年。
 ギーシュは思った。変な奴だ、と。


 さて。
 しばしの戯れの後。ギーシュが一旦寮に帰るので、ウリックも一緒についていくことになった。
 流石に部屋まで親切に送る気はないようだが、寮の入り口で待っていれば、いつかルイズを見つけられることだろう。
 ギーシュが立ち上がり、続いてウリックも立ち上がろうとした。

 ところで、話は変わるが、モグラの爪は非常に長くて鋭い。穴を掘るためだ。
 ヴェルダンデは巨大モグラだ。
 ヴェルダンデの爪は長くて鋭い。
 ヴェルダンデはウリックと戯れていた。
 そして、ウリックがヴェルダンデを抱き起こし、立とうとした時、一つの不幸が起こった。
 ヴェルダンデの長い爪が、ウリックの服の脇、巻かれたサラシにひっかかり、それを偶然引き裂いたのだった。

「え?」
 まず、胸元が緩まるのを感じた。
 次に、白くて長い布がいくらかはらりと落ちたのが見えた。
 それから、ヴェルダンデの爪を見て、状況を確認して―――ウリックは真っ青になった。
 一度立ち上がったのに、急にしゃがみ込んだウリックを見て、ギーシュは不思議そうな顔をした。
 ヴェルダンデの影になっていたので、状況がわかっていないようだ。
「僕はもう部屋に戻るんだが…君、何をしているんだい?」
「え、ええと、えーっと……」
 ウリックの額から、だらだらと汗が流れている。冷や汗だった。
「お、お腹が、お腹が痛くて! だから先に行っていーよ!」
「君が押さえているそこは、胸部のようだが」
「うっ」
 その通りで、ウリックは両腕で必死で胸元を押さえている。というより抱えている。
 この少年、嘘が壊滅的に下手である。
「ええっと…その…コレは…」
 不審に思ったギーシュが近づいてくる。
 一歩。一歩。また一歩。
「君、何を…」
「…ご、ごめんギーシュッ!! ボクあっちに急用を思いついたカラ!!」
 ギーシュが地面に散らばる白い布に気付いた時には、ウリックは振り向き、走り出していた。
 そのあまりにも急すぎる行動に、ギーシュもヴェルダンデも、目を点にして見送るしかなかった。
 しばらく呆然としてから、ギーシュは呟いた。
「…そういう時は、”思いついた”じゃなくて”思い出した”だろう?」
 そうして、ああ、やっぱり変な奴だと、そう思ったのだった。

 ギーシュがあと数歩ウリックに近づいていたなら、見えていたかもしれない。
 ヴェルダンデの視界に同調していたなら、見えていたかもしれない。
 さらしが解けたウリックの、脇から丸見えになった胸部が。
 そこにある、あまり大きくはないが、確かな二つの柔らかなふくらみが。
 ウリックは走る。涙目で。
 まだ人のいない学院を、必死に、胸元を隠しながら。

 この少年、実は少女である。


××××××××××××××××××××××××××××××


 少女であることを止めた少女は、絶望と戦いはじめました。
 法力国の少年と、小さな妖精と。
 仲間と共に、絶望と戦いはじめました。

 小さな三人の物語は、如何なる未来へ続くのでしょうか―――

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