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魔法少女リリカルルイズ35


部屋の灯りは落とされ、泊まる客もすでにベッドの中で静かに寝ている。
そこに人影が一つ静かに、しかし淀みのない足取りで入ってきた。
影はベッドの中をのぞき込み、寝ている客の頬をそっと叩いた。
「ルイズ、ルイズ、起きるんだ」
「あら?」
影は寝ている女から手を引いてしまう。
聞こえた声が予想とは全然違うものだったからだ。
「あら、誰かと思ったらワルド子爵。どうして、こんな時間に?もしかして結婚前に婚約者じゃなくて私と?」
「ば、ば、ば、馬鹿なっ」
寝ていた女、キュルケの艶をたっぷり含んだ声を聞いたワルドはベッドから飛び退く。
キュルケはゆっくり起き上がりながら、杖を一振り。
ランプに火がつき、部屋の中が揺らめく炎に照らされる。
赤い光を受けたキュルケは高く上げてから足を組み、その上に肘をついてあごに手を当て、うるんだ瞳をワルドに向けた。
──ヴァリエールの婚約者をもらっちゃうのも悪くないわね。
なんてことを考えながら。
「こうなったのも運命よ。いいでしょ、今夜は……」
甘いにおいさえ香ってきそうなキュルケの声がワルドの耳をくすぐる。
ワルドは咳払いを一つ。
帽子をかぶり直すふりをして、驚きで平面になっていた顔を元に戻して気を落ち着ける。
「いや、そういうことをしている場合じゃないんだ。驚かないでくれ。この建物は何者かに囲まれている」
キュルケが大きく息をのむ。
声が出る前に、ワルドの人差し指がキュルケの口の前で立てられた。
「静かに。君も早く準備をしてくれ。ルイズは?」
「私の部屋にいるわ。寝る前に無理矢理取り替えられたのよ」
「なん……だって!」
ワルドは身を翻し、キュルケに止める暇も与えず、部屋に残っていたルイズの荷物を手に持ち、開けっ放しのドアの向こうに消えた。
急いではいても足音が高くならないのはさすが魔法衛士隊長と言ったところだろうか。
「ユーノ。あんたも起きなさい」
キュルケはさっきまでユーノが寝ていた机の上を見た。
そこにすでにユーノはおらず、扉のほうから小さい足音が聞こえた。


ルイズはドアを開ける音で半分だけ起きた。
目はまだ閉じたままだ。
「ルイズ。起きるんだ!早く!」
ワルドのその声で残り半分も起きる。
何かが落ちてきて、薄い胸の上が重くなった。
部屋の中は真っ暗だが、手触りで投げられた物が自分の学生服だとわかった。
「着替えるんだ。早く!」
剣のような軍装の杖を抜いたワルドは、油断無く部屋の外を見ながら鋭く叫ぶ。
「で、でもワルド。ここで着替えなんて」
ワルドがいる前での着替えは貴族の子女としてはあまりにもはしたない。
顔を赤らめたルイズはシーツで胸元を隠した。
「ルイズ。よく聞いてくれ。ここから逃げなければならないんだ」
「え?」
「急いで」
いつの間にか横に立っているタバサはすでに着替えを終えていた。
いつもの杖を持って、窓の外をちらちら見ている。
「たいまつの光がある」
「数は?」
「わからない。10以上はある」
その間にルイズは着替えを急ぐ。
鏡がないので襟が整えられないし髪も起きたばかりでかなり乱れていてみっともない。
ルイズは夜の暗さに感謝した。
「伏せて」
タバサの小さい体が思わぬ強さでルイズにぶつかる。
壁が吹き飛んだ。
元は壁だった岩が部屋の中に押し込まれ、木っ端微塵となる。
ベッドは壁につぶされ、引きちぎられた。
壁の破片が舞う音が落ち着くと、動く岩が新しい壁になっていた。
それもよく見れば新しい壁ではない。
作りの荒い岩でできたゴーレムの腕が動いている。
その腕がゆっくりと引かれていった。
「ルイズ、行こう」
ワルドに引き起こされたルイズは部屋の外に出る。
廊下を走ってすぐ、再び部屋にゴーレムの腕がたたき込まれる音が地響きと共に聞こえてきた。


「無事だった?」
廊下へ出てすぐにキュルケが追いついてきた。
「なんで、制服着てるのよ」
キュルケは向こうの部屋に制服を持って行ってないはずだ。
なのに何故か制服を着ている。
「あら、乙女のたしなみよ」
非常にわけのわからない理屈である。
もめていると再び地響きがした。
今度はさっきまでルイズ達がいた部屋とは違う部屋からだ。
「あの方向は!」
「どうしたの、ワルド」
ワルドが壁と床に阻まれた地響きの方向を沈痛な面持ちで見ている。
唇が少し歪んでいた。
「ギーシュ君の部屋の方向だ」
「え!」
なら、そこにいたギーシュはどうなっているか。
顔を見合わせたルイズ達はギーシュの部屋に急いだ。


斜めにへし折れた扉は生半可な力では開かない。
ワルドの魔法で切り刻みようやく中が見えるようになった。
「これでは……彼は」
ギーシュの部屋もタバサ達の部屋同様に惨憺たるものになっていた。
壁は吹き飛んでいるし、高価なはずの部屋の調度類は原形を保っていない。
瓦礫の下敷きになっているベッドも同様だ。
足は無理矢理広げられ、ぺちゃんこにつぶれてしまっている。
ギーシュもおそらくは、つぶされたベッドと同じ運命をたどっていることだろう。
「ギーシュ……ぱっとしないやつだったけど、同級生だったものね」
「冥福を祈る」
キュルケとタバサも胸の前で手を合わせ、彼の安らかな眠りを神に願う。
「ま、待ってくれ」
ギーシュの声が聞こえた。
「あら、ギーシュの声?」
突然の死に迷って出たのだろうか。
「彼は死んだ。声なんて聞こえない」
タバサは組んだ手が白くなるほどにきつく握り、微動だにしなくなる。
「だから生きてるってば!」
またも聞こえるギーシュの声。
だが、タバサには彼の姿形はどこにも見えない。
表情はそのままに、顔色だけがどんどん血の気を無くしていく。
「死んだ人間の声など聞こえない」
「だから。僕はここに!」
「聞こえない聞こえない聞こえない」
ひたすら同じ言葉を繰り返すタバサの横でルイズも胸の前で手を合わせた。
「始祖ブリミル。どうか、その御許にギーシュをお導きください。決して悪い人間ではありません」
──どうか、お聞き届けください。
「だから、待ってくれ。僕はまだ死んでいない」
生きていた。
部屋の壁がぼろぼろ崩れ、その中からギーシュが転げ出てくる。
「なんだ。死んでなかったの」
「ひどいことを言わないでくれ」
「それで、壁の中で何してたのよ」
「瓦礫に潰されないように、練金で壁の中に隠れてたんだ」
貴族向けの宿の壁は結構厚い。
文字通り、瓦礫を防ぐ壁になりそうではある。
「だいたい、僕を助けてくれたのは君だろう?」
「私が?」
「ああ、君の使い魔のユーノが起こしてくれたんだ。あのまま寝ていたら、ゴーレムに潰されているところだったよ」
「ユーノが?」
小さな足音が聞こえてきた。
マントを引っ張る感触が順々に上ってきて、肩に重みがかかる。
(ユーノ)
何か、すごくほっとした。
あるべきものがあるべき位置に戻ってきた。
そんな感じになった。


女神の杵亭は何者かの襲撃により混乱していた。
それは最高潮に達し、あちこちから客達の悲鳴や怒鳴り声、叫び声が聞こえてきた。
中には窓から魔法を使って飛び降りた客もいるようだ。
「奴ら、一体何者なんだ?」
ワルドが髭に手を当てる。
少しだが考える時間があった。
宿の客達のパニックのおかげでしばらく襲撃者は上の方にいるルイズ達の方には来そうにない。
「ああ、そのことなんだけど」
さっきまで息をきらせていたギーシュが得意げに、バラをつけた杖を振りながら語り出す。
「彼らは僕たちを狙っているようだ」
「私たちを?」
ルイズの任務を考えればその可能性は十分にある。
「なんでわかるのよ」
「あいつらが魔法学院の生徒を捜せ、と言っているのを聞いたのさ」
「じゃあ、他の客は?」
「学生でないとわかったら、そのまま逃がしているみたいだ。あいつらにしてみれば、金蔓だろうに。よほど怖い頭目でもいるんじゃないかな」
「ふむ」
ワルドが髭を擦りながら目つきを鋭くする。
階下からの声は少しずつ大きくなっていた。
「いいか諸君。このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ成功とされる」
意味のわからないルイズの横で本を閉じる音と風がした。
タバサがいつもと同じ表情で呟いた。
「囮」
「そうだ」
ワルドが意を得たりとうなずく。
「やってくれるかね?」
ワルドはタバサ、ギューシュ、キュルケの順に視線をやる。
「しかたないわね。私たちは何も知らないんだし。で、どうするの?」
「私たちは向こうの窓」
タバサが廊下の奥にある窓を杖で指す。
「あなたたちはあっち」
今度は逆の方にある窓を杖で指す。そちらの方が桟橋に近い。
2つの窓をを見比べたワルドがうなずいた。
「それでいこう」
「私たちが出たら、その後に続いて」
「いいだろう」
もう一度うなずいたワルドはルイズの腕を引いて窓に向かい歩き出す。
階下からの足音が聞こえてきた。
「ヴァリエール。あたしが囮になるのよ。ちゃんとやりなさい」
「わかってるわよ!」
振り返るキュルケは、まだ躊躇しているギーシュの背中を蹴り飛ばし、すでに窓の前で準備を始めているタバサを追いかけた。


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