あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

“微熱”の使い魔-03


 魔法学院の教室は、ザールブルグのアカデミーのそれとよく似ていた。似ていたが、アカデミーと比べると若干硬質というか、エリーには柔らかさが欠けるように感じられた。
 それはおそらく、この学院が純粋な学問の場というわけではなく、“貴族”の教育機関としての側面を持ち合わせているためかもしれない。
 アカデミーは真理の探究たる錬金術を学ぶ場所ではあるが、その基盤を作り上げた最大の功労者である、ある女性の気質を受け継いでか、学内には良い意味での柔和がある。
 もっとも、それが災いしてか卒業試験に数年を費やすというとんでもない“つわもの”を輩出することもあったが。
 それがさておき。エリーはちょっとおっかなびっくりで教室を見回していた。
 教室には猫や犬、ネズミやカエル、蛇といった動物たちもいたが、田舎育ちであるエリーにとってはそれらは特に驚くべきものではない。
 原因は、そこかしこをうろついているモンスターたちだ。
 スキュアとかいう蛸人魚に、バグベアという目玉のお化け。六本足の大きなトカゲ。いずれもエリーの知らないモンスターであった。
 メイジが自らの使い魔を召喚する魔法サモン・サーヴァント。
 キュルケから聞かされた時は、すごいとか、やってみたいなとか思ったりしたエリーだが、この連中を見ているとそんな気分もぷしゅーと音を立てて萎んでいく。
 普通の動物ならまだしも、ヴィラント山のアポステルや、森の死神クノッヘンマンなんていうちょっと御免こうむりたいのが召喚されないとも限らないからだ。
 エリーがキュルケにモンスターや動物たちのことを聞いたりしていると、ルイズと才人が入ってきた。
 ルイズは相変わらずの仏頂面で、才人のほうも同じような表情で、顔に小さな筋みたいな痕がいくつものできていた。

 「ヒラガくーん」

 エリーが声をかけると、才人は表情を和らげて、おうと手を振った。

 「何をにやけてるのよ、このバカ使い魔!!」

 「あ……!」

 その光景にエリーは思わず悲鳴を上げた。
 ルイズは才人の反応にキッとなり、いきなりその顔をひっぱたいたのである。平手などはなく、鞭でだ。
 どうやら顔のすじは、教室に入る以前にルイズからつけられたものらしい。

 「いってえ……!!」

 その一撃に、才人は怒りと苦痛の入り混じった声を上げる。

 「ツェルプストーなんかから施し受けて、その使い魔にデレデレして……! どこまでわたしに恥をかかせるの!?」

 「――お前には関係ないだろう!!」

 「あるわよ!! ツェルプストーから食べ物めぐんでもらうなんて恥辱……。ご先祖になんてお詫びしたらいいのよ!!」

 「お前の先祖なんかしらねえよ!! そんなに言うんだったら、もっとましな餌よこせ!!」

 ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー……。
 何ともはや見苦しい口論が際限なく続く。

 ――うーーん……。

 最初は止めようかと思ったエリーだが、あまりの凄まじさのためにすっかり気後れしてしまい、呆然とその様子を見つめるだけだった。

 「あーあー、やっぱりやってくれたわねえ、あの子は」

 キュルケは期待通りとでも言いたげな顔で、ルイズたちの言い争いを見ている。
 エリーは才人が責められている原因が自分にもあるのではと、

 「いいのかな、止めなくて……」

 「ああいうのには下手に関わらないほうがいいわよ」

 「とばっちりを食うだけ」

 キュルケは肩をすくめ、タバサは本を読みながら言った。
 まったくもって、その通りであろう。
 二人の争いは教師がやってくるまで続いた。


 「ミス・ヴァリエール、それにミス・ツェルプストー、二人ともずいぶんと変わった使い魔を召喚したようですね」

 ミセス・シュヴルーズなる中年の女性教師は才人、それにエリーを見ながら、とぼけた声で言った。
 くすくすと笑い声があちこちから漏れる。
 キュルケのとなりに座るエリーは、シュヴリーズと目があうとちょこんと頭を下げる。ちなみに机の上にはキュルケから借りた筆記用具が並んでいる。
 才人のほうはただ座っているだけだが、エリーのほうは授業を聞く気満々である。むしろ本来受けるべきはずのキュルケよりもやる気が感じられた。
 ここハルケギニアの魔法が、貴族階級であるメイジにしか使えないことは、昨夜聞いている。
 けれども、もしかすれば錬金術の技術に応用できるものがあるかもしれない。
 エリーはそう考えて、キュルケから筆記具を借り受けたのだ。
 そんなエリーをキュルケは楽しそうに、タバサは少し興味深げに見ていた。
 当のエリーはまるで気づいてはいないが、シュヴルーズも内心少し驚きながらエリーを見ていた。
 何というか、慣れている。
 エリーを見て、最初に受けた印象はそれであった。
 異国の人間であると噂では聞いていたが、席にちょこんと座る姿は、服装さえ同じものなら他の生徒たちと比べても違和感はないだろう。
 ルイズの使い魔である才人が明らかに異質であるのに対し、エリーはいくらか緊張が見られるもののどうにも自然なのである。
 それは人種的なものや、今まで過ごした生活環境の違い、特にアカデミーという魔法学院と似た場所で学んでいたという点が大きいのだが、シュヴルーズはそんなことなど知る由もない。
 エリーを見つめ、若干注意力散漫になっていたためか、シュヴルーズは教室の笑い声が途切れていないことにすぐに気がつかなかった。

 「ゼロのルイズ、召喚ができないからって、そのへんの平民連れてくるなよ!」

 その声をきっかけに、笑い声はどっと大きなものへ変化した。

 「違う! ちゃんと魔法は使えたわ! こいつが勝手にきちゃったのよ!!」

 ルイズはいきりたち、からかった男子生徒を睨みつけた。

 「……こっちだって好きできたんじゃねーよ」

 才人はそう毒づくが、ルイズはまるで耳に入っていない様子。

 「嘘つけ、サモン・サーヴァントができなかったんだろう?」

 教室内の笑い声がげらげらと品のないものへと変わっていく。

 ――何なの、これ……?

 その雰囲気に、エリーは顔をしかめる。
 ルイズに対して決していい印象を持っているわけではないが、それでも大勢の前で笑い者にされる光景というのは見ていて不愉快なものだ。

 「――それ、ひょっとしてわたしにも言ってるのかしら、かぜっぴきさん?」

 キュルケがその赤い髪の毛をかきあげながら言った。
 魅惑的な笑みを浮かべながら、ルイズをからかった男子生徒を見つめるが、その瞳はまるで笑っていない。
 その途端、笑い声が急速に小さくなっていく。

 「ぼ、ぼくは風上のマリコルヌだ。かぜっぴきじゃない」

 キュルケの鋭い視線を受けながら、マリコルヌは顔をそらしながらもごもごと言った。

 「はい、そこまでです。みっともない口論はおやめなさい」

 シュヴルーズの厳しい声によって、教室の喧騒は終わりを告げた。
 ルイズは何か言いたげにキュルケは見ていたが、視線が合いそうになると、ふんとそっぽをむいてしまう。
 キュルケはそんなルイズに、ふっと微笑しただけだった。
 やがて、授業が始まった。

 「……土系統の魔法は、万物の組成をつかさどる重要な魔法であるのです。この魔法がなければ重要な金属を作り出すこともできず、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物の収穫も……」

 授業を聞きながら、エリーはこの大陸においてどれほど魔法というものが生活に浸透しているか、改めて実感した。
 と、すると、その魔法を操るメイジたちの権力というか社会的な地位は、シグザールの貴族たちとはだいぶ異なりそうだ。
 ならば、たとえばあのルイズの才人に対する傲慢な態度も決して例外的なものではないかもしれない。

 ――何だか、やだなあ……。

 シュヴルーズの話を、要所要所メモしながら、エリーはかすかにため息をついた。
 話をひと区切り終えたシュヴルーズは、机の上に石ころを置いた。
 何をするのかとエリーが少し身を乗り出していると、シュヴルーズは手にした杖を振り、呪文を唱えた。
 すると、石ころは石からまったく別の金属へと変化していた。

 ――お、黄金? いや、多分違う……。真鍮か何かな? でも、すごい……!

 驚きのあまり、エリーは思わず立ち上がっていた。
 シュヴルーズはそれを見て、こほんと咳払いをする。

 「そこのあなた! 授業中ですよ、ええと……」

 「あ、エルフィール・トラウムです」

 「では、ミス・トラウム。まずあなたにやってもらいましょうか。この石を好きな金属に……」

 「え!? ええと……」

 いきなりのことに、エリーはしどろもどろになる。
 キュルケもまさかそんなことを言われると思っていなかったのか、すぐにはうまい言葉が出なかった。
 もじもじするエリーに、シュヴルーズは怪訝な表情を作っていたが、すぐにエリーが異国人であることを思い出した。

 「し、失礼。ミス・トラウムは生徒ではありませんでしたね。あまり真面目な様子だったものですから……」

 シュヴルーズは顔を赤らめ、ほほほと笑う。

 「す、すみません……ついうっかり」

 エリーも赤面して、うつむきながら着席した。

 「それでは、ミス・ツェルプ……ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい」

 シュヴルーズはエリーの“主”であるキュルケに指名をしようとしたが、才人と話しているルイズを見て、それ咎めた。

 「す、すみません!」

 「おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」

 え、わたしですか!? と、声をあげるルイズに、シュヴルーズはそうです、とうなずく。

 「あ、あのミセス・シュヴルーズ! それはやめておいたほうが……」

 青い顔で言ったのはキュルケだった。

 「どうして?」

 シュヴルーズの代わりに、エリーが言った。

 「危険だからよ」

 エリーのほうをむきながら、キュルケは簡潔に答えた。

 「危険?」

 どういう意味だろうか? エリーは首をかしげた。

 「ミス・ヴァリエールが努力家だということは聞いています。さあ、やってごらんなさい。失敗を恐れていては何もできませんよ」

 「は、はい! やります!」

 シュヴルーズにうながされ、ルイズはふんと鼻息も荒く立ち上がった。

 「ルイズ、やめて!」

 キュルケが悲鳴をあげて止めようとするが、ルイズはかまわずに壇上へと進んでいく。
 他の生徒もキュルケと同じような顔で、口々にやめろ、思いとどまれと叫んでいる。

 「ねえ、みんなどうして怖がってるの?」

 エリーはくいくいとキュルケの袖を引っ張る。

 「爆発するのよ……あの子の魔法は」

 キュルケは頭を押さえて言った。

 「爆発……?」

 ここの魔法もそうなんだ、とエリーは錬金術の調合で失敗した時のことを思い出した。
 あの場合も爆発と共にせっかくの材料もみじめな廃棄物と化してしまう。もっとも、爆発といっても顔がすすける程度のかわいらしいものだが。

 「でも、それくらいなら……」

 あくまで錬金術での失敗例を考えながらエリーがそう言うと、キュルケはあきれたような顔になった。

 「そのくらいって、あなた……」

 「威力がものすごい」

 いつの間にか机の下に身を隠していたタバサが言った。

 「そうよ、怪我なんてしたくないでしょ!? ほら! そこの使い魔くんも隠れたほうがいいわよ!」

 キュルケは才人に向かって叫んでから、エリーを引っ張って机の下に移動する。
 他の生徒や使い魔たちも似たようなことをしていた。

 ――何かおおげさだなあ……。

 これってもしかして、いじめじゃないの? エリーは考えながら、机の下からルイズの唱える呪文を聞いていた。
 やがて呪文が終わると、

 轟音と衝撃が、教室を襲った。

 「……ひゃああ!!」

 突然のことにエリーは耳を押さえ、ぎゅっと眼を閉じた。
 静かになった後、恐る恐る様子を見ると、教室内は見るも無残な状態になっていた。
 使い魔たちが恐慌状態になって騒いでいる。阿鼻叫喚とはこのことだろう。
 ルイズは煤だらけになりながら、憮然とした表情で立っている。そのそばでは、シュヴルーズが大の字になってぶっ倒れていた。

 「ちょっと、失敗したみたいね」

 これが“ちょっと”?
 何か超然とした態度でつぶやくルイズを、エリーは呆然として見つめていた。


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