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ゼロの夢幻竜-08


シュヴルーズが意識を取り戻す事無く医務室に担ぎ込まれる異様な形で、ルイズ達新二学年一発目の授業は終わった。

その後めちゃくちゃになった教室の後片付けはその場にいた生徒全員一致でルイズ一人がする事となった。
しかしその直後、キュルケが自ら後片付けメンバーの一人に加わると言い出した時、ルイズは内心で『あーあ……』と思ってしまった。
その後シュヴルーズ、そして他の生徒や全員教室から出たのを確認したキュルケは残されたルイズとその使い魔、ラティアスに対し一つの質問を投げかけた。

「舞台は整ったわね……さあ、説明してもらうわよ。私の心に一度ならず二度も三度も話しかけてきた可愛い声の持ち主はだあれ?」

そう言った後彼女は一旦あさっての方向を向き、それからラティアスの方を向き直し意地悪な微笑みを浮かべてこう言い直す。

「訂正。人の心をとーっても不愉快にした、不躾で可愛い声のあなたはなあに?」


本塔の最上階にある学院長室に急いで向かう一人の教師の姿が一つあった。
その教師の名はジャン・コルベール。
春の使い魔召喚の儀においてルイズ達を監督していた教師である。
専門分野は火系統。学院で奉職し始めてから今年で丁度20年は経つ中堅の教師だった。
今彼の心には自分が発見したある事実についての興奮が渦巻いていた。
ミス・ヴァリエールが召喚した使い魔の左手に彫られたルーンはやはり只のルーンではなかった。
スケッチした物を手懸かりに学院の図書館、それも教師のみが閲覧を許される区域でその正体を調べていると丁度その答えに当たったのである。
それは正に驚くべき真実という物に他ならなかった。
一刻も早く学院長であるオールド・オスマン氏にこの事を伝えなければ!
その衝動に突き動かされる彼の足は只ひたすらに速く動かされる。

「失礼します!オールド・オスマン!!」

学院長室に飛び込んだ彼はその場で一気に硬直してしまう。
というのも、その部屋の中ではオールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルが当の彼を蹴り続けていたからである。
大方使い魔を使ったいつもの下着覗きがばれたのだろう。
だが突然の闖入者に気づいた二人は定位置につき、何事も無かったかのよう落ち着き払った姿勢を見せる。
そしてオスマン氏は先程の事は何でも無かったという様に威厳に満ちた声で対応する。

「一体何事じゃ?そんなに慌てて。」
「た、た、た、大変です!」
「大変な事等何もありはせんわ。全ては小事じゃぞ。」
「ここ、これを見てください!小事どころではありません!」

コルベールは図書館から持ち出してきた書物のある一ページを拡げる。

「『始祖ブリミルの使い魔達』?やれやれ、こういった古臭い文献を読み漁っている暇があるのなら弛んだ貴族の親達からもっと学費を徴収する上手い手を考える事じゃ、ミスタ……」
「コルベールです!お忘れですか!」
「そうそう。そんな名前だったな。君はどうも早口でいかん。で、コルベール君。この書物がどうかしたのかね?」
「これも同時に見ていただければ私の慌て様も少しは分かっていただけるかと……とにかくこの文献と共にご覧になって下さい!」

コルベールはラティアスの左手に現れたルーンのスケッチを手渡す。
それを見た瞬間、オスマン氏の表情は急に真剣なものとなった。

「ミス・ロングビル。少しの間だけ席を外してくれんかね?」

そう言われるとミス・ロングビルは立ち上がり、一礼をした後で退室していった。
オスマン氏はその直ぐ後で一応『ディティクト・マジック』を使う。
そして自分とコルベール以外、学院長室の近辺には誰もいない事を確認するとゆっくりと口を開いた。

「確かにこれなら君がこれ程までに急ぐ理由も分かるのう。それでは、詳しい説明をして頂こうかの、ミスタ・コルベール?」



「はー。速く飛べるだけじゃないとは思っていたけど、まさかそんな力と素性があるなんてねえ。」

感心するキュルケを余所にルイズは未だぶすっとした表情のまま、メイド達に交じってデザート運びをやっているラティアスを遠くから見つめる。
知り合いになったシエスタに、折角お友達になったんだから何か手伝える事がありますかと訊いたところそうなったのだ。
ただ、例の意思疎通の問題がある故に、側にはシエスタが殆ど付きっきりという形になってしまっているが。
さて、めちゃくちゃになった教室の片付けを始める際、キュルケに問い詰められたルイズはラティアスの不始末と気づいていながらも最初の内はしらばくれていた。
が、どんどんと言い訳が出来なくなり、最終的にはラティアスの正直な申告もあって彼女にある程度の事実を話した。
キュルケは家同士の仇敵という事も忘れて、興味深そうにルイズに話しかける。

「そう考えたらラティアスって凄過ぎない?正直あまりよくは知らないけど韻竜と同じ位かそれ以上の能力の持ち主じゃなくて?ちょっとあんたには勿体無い位だわ。」

韻竜……その単語にルイズはほんの少しばかり興味を持つ。
学科試験はいつも良い成績を修められるようにしっかり勉強しているからこそ反応できたものだ。
因みに韻竜とは伝説の古代竜で強力な幻獣の一種とされている生き物だ。
知能が高く、言語感覚に優れ、先住魔法を操るという技能を持っていたとされる。
確かにラティアスは、あっという間にこちらの世界における最低限の知識を呑み込んでいった。
また口と声帯を使った音声機能を使って会話する事は出来ないが、それよりある意味上等な意思疎通術を使って心を許した者と心を継げる事も出来る。
韻竜以上の物を持っている事もまた事実だ。
本気を出せば現実に存在する風竜の何倍もの速度で飛ぶ事が出来るのは言わずもがな、今もしている人間形態への変身がそれに当たる。
ある程度の技量を持った水系統を操るメイジが、自分の姿を偽るという事はよく聞く話である。
だが大きさの違う別種の生き物に姿を変えるという芸当は聞いた事が無い。
スクウェアクラスのメイジでも匙を投げかねない事である。
おまけに普通は変身する相手そのままの姿にしか変身しか出来ない。
が、ラティアスの変身は幾つかの情報を処理し、自身で組み替え直す事によって全く新しい姿を仮の姿として相手に投影出来る点が一般の変身とは一線を画していた。
おまけに服まで構成できるそうなのでいちいち着替えるという事も無いのだとか。
魔法の如何についてはまだまだ未知数の域を出ないが、これ程の仕様があるのだからそれなりの力があると断じても悪くは無いだろう。

「勿体無い訳無いじゃない。あんたとそこにいるサラマンダーの組み合わせ以上に相応しいわよ!」
「ふふっ、あんたさ、それって遠回しに自分が失敗ばっかりだって自覚してるって事になるんじゃない?使い魔がとてつもなく優秀であんた自身がどうしようもない……」

『ゼロ』だと言おうとしてそれは無しになる。
キュルケの側に悲しさとほんの僅かな怒りを表情に織り交ぜた、人間形態のラティアスがいつの間にか立っていたからだ。
一応さっき彼女は自分の非礼を詫びたが、人間の言葉が分かる為に意思疎通を許したキュルケにとっては今のところちょっとした頭痛の種だった。

「ご主人様は勉強熱心でとても素敵な方です。私にとてもよくしてくれているご主人様を貶める事は私が許しません。」

静かに放たれるその言葉にキュルケはひらひらと手を振って応じる。

「ちょっと……少しは落ち着きなさいよ。冗談に決まってるでしょ、冗談!」
「……なら構いませんが……あなたともしお相手する時が来れば私は全身全霊を没頭させます。」

その発言にキュルケは『面白いじゃない』という表情を見せる。
ラティアスはその場から数歩歩み去ろうとする。
その途中首だけをくるりとキュルケの方に向け言い放った。

「あなたは相当な使い手……後れは取りません……」

あさっての方向を見て『ハイハイ』といい加減な返事をしていたキュルケはやや間があってからはっとした。
たった今ラティアスは自分の事を相当な使い手と言いきった。
自分の名前を教えはしたが、相当な‘魔法の’使い手だという事は教えてはいない。
事実彼女は火系統のトライアングルクラスだが、それを誰かに言った事は無い。
じゃあ何故ラティアスはそれに気づいたのか?
自分の力を予見した?だとしてもおかしい。
理由はラティアスに自分が魔法を使うところを見せていないからだ。
考えれば考えるほど思考のどん詰まりに行きそうになるので、キュルケは軽く片手で頭を支える。

「ルイズ。」
「何よ。」

そのあくまでもぶっきらぼうな物言いに、キュルケは溜め息一つを吐いて言った。

「あんた、本ッ当にトンでもないものを召喚してくれたわね……」

ラティアスはキュルケと向き合って心底機嫌が悪かったが、シエスタに促されて再び笑顔を取り戻した。
おまけにどこそこのテーブルに行けばその姿の可愛さを褒められる事がある。
喋らない事もその事を引き立てるのに一役かった。
彼女の可愛さに惚れ込んだ男子学生の数名が自分の専属にしようと躍起になっている様も確認できる。
その内、『彼女は酷い過去でも送って口がきけなくなってしまったのだろう。僕が何とかしてみせる!』と、勝手な事を想定して息巻く者達まで現れだした。
困ったなあ、と思いつつ空になった銀のトレイを持っていると、向こう側から数人の男子学生が歩いて来たのが見えた。
中心にいるのは金色の巻き髪をし、薔薇をシャツのポケットに挿している気障そうな少年―ギーシュだ。
ギーシュの周囲にいる者達が彼を次々に冷やかす。

「なあ、ギーシュ!お前、今は誰とつきあっているんだよ?!」
「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」

その質問に当の彼は唇の前に指を立てつつ答える。

「つきあう?僕にその様な特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませる為に咲くのだからね。」

その言葉にラティアスは悪い意味でぶるっと身震いをする。
雌の自分が見ていて、聞いていて恥ずかしくなる台詞のオンパレード。
例え自分が人間でも恋愛対象としては御免被りたい。
と、その時彼のポケットから何かが落ちる。
ガラスで出来た小壜らしく、中では目が覚めるほど鮮やかに煌く紫色の液体が揺れていた。
後で無くなった事に気づいたら流石に彼とて困るだろう。
ラティアスはその小壜を拾った後、近くにいたシエスタを意思疎通で呼んでからギーシュの側まで行く。

「これはこれは。何の用かなメイド君達?」

相変わらず気障な物言いだが、ラティアスは無言で小壜をギーシュの前に差し出した。

「あなたの落し物だそうです。」

シエスタはラティアスの口となり、彼女が思っている事を伝える。
するとギーシュの表情は途端に曇りその小壜を押しやる。

「これは僕のじゃないよ。他の誰かの物じゃないかな?」

だがラティアスはまたも無言で押しやられた小壜をギーシュにつき返した。

「この子があなたの服にあるポケットから落ちるのを見ていたようです。間違いないと。」
「僕のじゃないと言っている。と言うか右の君、どうして何も喋らないんだい?」

シエスタの言葉を少々イラついて答えるギーシュ。
その時、その小壜の出所に気づいたらしい彼の友人の一人が大声でそれを指摘した。

「おっ?!その香水はもしやモンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分の為だけに調合している香水だぞ!」
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落っこちたって事はつまり君の今のお相手は『香水』のモンモランシーだな?!」
「おいおい、君達。それは違う。彼女の名誉の為に言っておくが……」

途端にギーシュはつい言いよどんでしまう。
近くからつかつかとやって来た栗色の髪をした可愛い少女が、彼の眼前にやって来てぼろぼろと泣き出したからだ。

「ギーシュ様、やはりミス・モンモランシーと……」
「彼らは誤解しているだけだよ、ケティ。いいかい?僕の心に住んでいるのは君だけ……」

ギーシュはその先を言う事が出来なかった。
ケティと呼ばれた少女が先に返事をしたからである。
返事といっても平手打ちという痛い返事だったが。

「その香水があなたのポケットから出てきたのが何よりの証拠ですわ!さようなら!」

それを捨て台詞としたのか彼女は彼に背を向けてすたすたとその場を後にした。
しかし彼の痛い目がこれで終わった訳ではない。
ギーシュが頬をさすっていると、遠くの席から幾つもの金髪の巻き毛が映える少女が立ち上がり、鋭い踵の音を響かせながら彼の元までやって来る。
そして怒りの顔もかくやといった感じでギーシュを睨みつけた。

「誤解だ、モンモランシー。彼女とはただラ・ロシェールの森まで遠乗りしただけで……」
「ギーシュ……やっぱりあの一年生に手を出していたのね?!」

冷や汗を浮かべるギーシュだったが、怒りに燃える彼女の前では最早どんな言い訳も用を成さない。

「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇の様な顔をその様な怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」

そこでギーシュの弁明は終わりを告げた。
モンモランシーは手近にあった殆ど手のつけられていないワインの壜を握り、中身をギーシュの頭の上からかける。
中身が空を迎えた時、彼女はその壜をダンッと乱暴に近くに置き怒鳴った。

「嘘吐き!!!」

そして彼女もその場からさっさと立ち去っていった。
ギーシュは暫く呆然としていたが、直ぐに何も無かったかのようにハンカチを取り出してゆっくりと顔を拭く。
更に首を振りつつ、芝居がかかった口調でこんな事まで言い出した。

「あのレディ達は薔薇の存在の意味を理解していないようだ。」

一部始終を見ていたラティアスは流石に呆れてこう思う。馬鹿らしいと。
シエスタと一緒に仕事に戻ろうと厨房の方まで行く。
すると後ろから今しがたの騒ぎの原因、ギーシュに呼び止められた。

「待ちたまえ。右側のメイド君。君が軽率に香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだい?」

呼び止められたのが自分だと気付いたラティアスはシエスタの制止も聞かずにゆっくりと振り向きこう言った。

「何ですって?もう一度言ってごらんなさい。女の子泣かせさん!」



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