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ゼロの蛮人(バルバロイ)-第十五話



《『王宮日誌 シャルロット秘書録』より》

タルブでの戦闘から、数週間後。私は、ルイズの実家であるラ・ヴァリエール公爵家を訪ねていた。
ワルドとの結婚が、正式に決まったそうだ。戦友として、私やキュルケも呼ばれた。


あの瞬間、私は『エア・カッター』で因縁あるセレスタンの首を斬り飛ばしていたが、
その場所からトラクスとワルドが闘っているところが、ちらりと見えた。
何事かを叫び続けるトラクス、怒り狂い、杖を振り上げるルイズ、トラクスに駆け寄られるワルド。
トラクスの魔剣がワルドの右腕を斬り飛ばしたと見えた瞬間、爆発が起こった。

それは、水の蒸気がルイズの起こした『爆発』によって誘爆したものらしい。
タルブに隠されたトリステインの秘密兵器『破壊の車輪』が、蒸気の内圧に負けて次々と破裂していく。
メンヌヴィルはキュルケを蹴り倒し、窓へ火の玉を放って大穴を穿ち、外へと飛び出した。
私はキュルケを助け起こし、シルフィードを呼んで脱出する。逃げた敵は追わない。
「ルイズは!? ルイズはどこ!?」
一際大きな爆発が、ルイズたちのいた辺りを吹き飛ばす。キュルケは褐色の顔を蒼白にした。
「嘘………!!」

しかし、ワルドはルイズを片腕で抱きかかえ、『フライ』で脱出していた。
トラクスも飛び降りたようだったが、生死は分からない。メイジでない彼なら、この高さから落ちれば死ぬ。
陽動していた土のゴーレムも、石弾を浴び続けて穴だらけになり、崩壊する。
ワルドとルイズは、私のシルフィードに乗り移ると、無言で倒れ、気絶した。

やがて、トリステイン王国の艦隊が彼方からやって来る。
アルビオンによる侵攻軍の残存戦力は、これによって無力化されることになろう。
ラ・ロシェール及びタルブでの激しい戦いは、終わった。続くのは、アルビオンへの侵攻だ。
私はシルフィードを、旗艦『メルカトール』へ向かわせた。

その数日後、王都トリスタニアは戦勝に沸いた。
凱旋式、両殿下の結婚式と即位式が続き、諸侯・民衆の戦意は否応なく盛り上がる。
歴史が、時代が大きく動き始めた。その只中にあって、賞賛を受けるのは両殿下(陛下、か)と、
『救国の英雄』となったワルド子爵。グリフォン隊全滅と『破壊の車輪』崩壊の責任はあったが、
彼が国を救いルイズを取り戻した功績に変わりはない。すぐに論功行賞会議が開かれ、彼は伯爵に叙せられる。

「トリステイン万歳!! テューダー王家万歳!!」
「キャ――ッ、ワルドさまこっち向いてェ―――ッ!!」
「ウェールズさま、最高―――ッ!!」
「アンリエッタさま万歳――――ッ」

私とキュルケも、一応馬に乗って凱旋式のパレードに顔を連ねる。
「ほらタバサ、今日は貴女も救国の英雄よ! 笑顔よ、笑顔! シュヴァリエに叙勲されるのよ!」
「私は精霊勲章。……マザリーニ枢機卿も、国を救った事に違いはないのに」
「普段からの人気の違いってやつよ。『鳥の骨』とイケメン王侯貴族じゃあ、そりゃあね。
 いいじゃない、歴史の善悪功罪は、後代の人間が好き勝手に定めるものよ。
 枢機卿も勿論立派な方だもの、分かっている人間は、分かっている。それでいいじゃない」

お祭り騒ぎは一週間以上も続き、各国の要人も学院内を行き来する。
ガリアでいい扱いになっていない私には、あまり居心地がよくなかった。
キュルケに学院での対外関係を任せ、私はまた、あの『図書館』へ篭る日々に戻る。
ついでにユリシーズも、私の召使いという名目で、実家を守る執事のペルスランに預けた。
……そう言えば、ユリシーズと言えば古代の英雄で、魔女のキュルケを愛人にしていなかったか。
偽名とは言え、大層な名前を名乗ったものだ。

ルイズは、あれからしばらく病床に臥せっていた。怒りと爆発の衝撃で、頭に血が上りすぎたらしい。
彼女への評価は散々だ。人質となって多数の死傷者を出し、蛮人を取り逃がし、『車輪』を崩壊させたのだから。
近々、自主退学させられるそうだ。まあ、ワルドが引き取るからいいようなものの。

見舞いに行くのも億劫だったので、キュルケからここ数ヶ月の出来事をいろいろ伝聞する。
ワルドが腕に義手をつけた事。ギーシュがモンモランシーと繰り広げる痴話喧嘩の事。
コルベール先生が例の『破壊の車輪』の設計図を見て、感激と興奮で卒倒した事。
トラクスに盾にされ、矢を顔と胸に受けた使用人の少女が、実家のタルブに帰って養生していること。
マリコルヌが腹の刺し傷を悪化させて死んだ事。いろいろだ。

私は、ユリシーズとアルビオンで書き記した『トラクス伝』の編集に余念がない。
ちなみに、日記と一緒にキュルケに見せたら、こんな反応がかえって来た。
「面白い!! これ、書籍化すれば絶対売れるわ! ノンフィクション部門で大ヒット間違いなし!
 もうちょっと細部を膨らませれば、演劇化もいけるわよ! タニアリージュにかけられるわ!
 時事ネタもバッチリだし、蛮人の剣劇あり、魔法戦あり、年増の恋愛に少女の淡い恋!
 くーっ、楽しみね! 版権と印税はツェルプストー家に頂戴!!」

とりあえず、『エア・ハンマー』でつっこんでおいた。

そんな事もあり、私とキュルケは、ルイズとワルド伯爵の結婚式に参列した。
ラ・ヴァリエール公爵も満足そうだ。公爵家の女性陣は二人ほど、棘棘しい雰囲気を纏っていた。

「あ~~ら、アカデミーにお勤めのエレオノールさま27歳独身、ご機嫌麗しゅう。
 本日は、バーガンディ伯爵はご一緒ではないのですか? こんなにお目出度い席ですのに」
露出度の高いドレスを纏うキュルケが、公爵家の長女に話しかけた。

「まあまあ、ツェルプストー家の娼婦殿、貴女こそ御機嫌よろしく。彼とは生憎、別れましたの。
 末の妹に先を越されて、少々焦りを感じておりますわ。貴女もそろそろ、身をお固めになったら?」
「それはお気の毒。私は恋人が両手両足の指を使っても足りないほどおりますので、相手には事欠きませんの。
 一人二人、ご紹介して差し上げましょうか? カトレアさまにも、先を越されませぬように……ほほほほほ」
「をををほほほほほほほほほほほほ、ぐえっゴホッゲホッ」

エレオノールとキュルケ、二人の周りは禍々しいオーラに包まれ、誰もその一帯には近付かない。
物静かな公爵夫人の周囲にも、スクウェア級の風のオーラが轟々と吹き荒れていた。
私は宴会の料理を貪り喰うのに余念がない。シルフィードもよく食べている。
流石に公爵家令嬢の結婚披露宴、料理も最高級のものを出していた。

それから、また数週間後。私は、新婚のワルド伯爵家に呼ばれた。
ルイズは、両親と王宮からの厳命により、ワルド家の領地から出る事を許されていない。
事件に対する懲罰の意味もあるが、何より彼女の使い魔、蛮人トラクスの再来を恐れての事だ。

……そう、トラクスの死体は見つからなかった。魔法を総動員して調査した結果、公式には『死亡扱い』となった。
しかし、彼が伝説的な戦いで見せ付けた『恐怖』は、今も生きている。私もそれを、書籍によって広めた。
王侯貴族の体制を揺るがす、超人的強さの蛮人。国王や強いメイジを、魔剣で殺しまくる悪漢。
平民の間で密かに人気のあった『土くれ』のフーケが、彼の仲間だったとの情報も伝わり、
蛮人トラクスの悪名は『イーヴァルディの勇者』に次ぐものとして人口に膾炙し始める。

殊に若い男の間では蛮人ブームが起き、投弾帯(スリング、フロンド)をファッションとして身につける事が流行している。
そう、今王都トリスタニアで反体制派が暴れている、通称『フロンドの乱』の発端だ。
タニアリージュでは『蛮人もの』が大流行し、私にも結構印税が入った。
王家では取り締まりに必死だが、英雄ワルド伯爵を表の主人公に据えれば、あまり文句は言えない。

彼、トラクスは、きっと生きている。噂ではゲルマニアの東の果てにいるとも、アルデラの大森林に潜んでいるとも、
ガリアの南の果てからエルフの住まうサハラへと旅立ったともいう。どれもありそうな事だ。
フーケ……マチルダや、メンヌヴィルの行方は杳として知れない。恐らく生きているだろう。トラクスと一緒かも知れない。


そんな事情もあって、私の立場はトリステインでは微妙なものとなっている。
ガリアへ帰ろうか、と思っていた矢先、ルイズに呼ばれたのだ。ワルドはアルビオンへの遠征準備のため、王都にいる。
……ルイズ・フランソワーズの顔つきは、まるで白昼に夢見る人のようだった。

「お久し振りね、タバサ。待っていたわ……」

私はワルド邸の応接室で、彼女と静かに語らった。
「時折、夢を見るの……トラクスの意識が、主人である私に断片的に伝わるのかも知れないわ……」
「夢、を」
「そう。ぶわあっと広い広い草原が目の前に見えて、私は馬に乗って駆けているの。
 いい風を受けて、どこまでも続く青空と平原の中をね。馬蹄の響きが、リズミカルに……。
 タカタン、タカタン、タカタン……。それから『さあ……帰ろう……』って……声がするのよ」

夢を、見ている。彼女は、夢を、見ている。


「私はずうっと待っているの。
 私は……たまにだけど、時の波……波動のようなものが見えるの。
 貴女にはわからないでしょうけど……私には大きな力が―――そうは見えないでしょうけど―――あるのよ!
 竜やフネを軽く吹き飛ばすほどの……」
そう、彼女はまだ、夢を見続けている。ああ、やっぱり、そうだったか。
「私は……巨大なあらゆる邪魔物を粉砕し! この国を守る事ができる!
 どうか信じて欲しいの……!」


私は、こう思うのだ。使い魔は通常、主人に最も相応しい存在が「運命」によって選ばれる。
私が風韻竜の幼生を引き当てたように、彼女はトラクスを引き当てた。
周囲から蔑み続けられ、癇癪持ちの傲岸不遜な、一種歪んだ精神を持つようになった彼女は。
そして、使い魔の所業は主人の責任に帰せられる。彼は女性を犯したり、主人を殺したりする事はできなかった。
しかし、人殺しは造作もなく、何の障害もなくやってのけていた。アルビオンの国王さえも、彼の手にかかった。
戦士もメイジも、老若男女も関係なく、彼によって殺された。

……それらは皆、ゼロのルイズが《心の底から願い、求め訴えた》事だったのではないか、と。

「またおいでなさい、トラクス! いや……お前は必ず『ここ』に帰って来るわ!!
 待っているわよ!! 何年でも! 何十年でも……!!」

(完)

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