あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの少女と紅い獅子-04


 トリステイン魔法学園本塔、宝物庫。今ここで作業する人物がいた。一人はコルベール、もう一人はミス・ロングビル。
 二人は宝物庫にも拘らず目録がなかったと言う意外な事実が判明したため、その製作のためにこうして作業を行っていた。
 大半の物は箱に厳重に収められ簡単に中身を見る事は適わず、また名札が丁寧に張られていたのでその必要もなかった。
 作業を続けていたミス・ロングビルがふと一抱えほどの箱を手にした。名札はなく代わりに『取り扱い注意』と注釈が
なされていた。よく見れば鍵穴はおろか蓋と本体の隙間は鉄板が張られ完全に密封されていた。
「ミスタ・コルベール、これは……いったい何なのです?」
 コルベールは作業の手を止め振り返る。ミス・ロングビルが持った箱を見て彼は目を細める。
「ああそれは、目録に入れないでそのまま仕舞って置いてください」
 その言葉にミス・ロングビルが鋭く反応する。
「あら、それは学院長の支持でしょうか? 確かに厳重ですけど、いったい中には何が?」
 コルベールはその質問にやや躊躇したものの、結局口を開いた。
「まあ良いでしょう、不思議がるのも無理はない。と言っても私も殆ど知らないのですが」
 ミス・ロングビルが頷くのを見て彼は続ける。
「学院長によれば『暗闇の欠片』と言うものらしいのです。学院長に言わせれば魔法の触媒になるものらしいのですが、
詳しく聞こうとしたらはぐらかされてしまいました。正直、学院長にも正体は分からないのでしょう」
 コルベールの説明に耳を傾けながらミス・ロングビルは箱をいろんな角度から見ていた。
「ああ、中身が気になりますかな。しかしそれほど厳重にしていると言う事は、開ける気はないか使い道がないのか」
「とても貴重なもの、と言う事も考えられますわね?」
 ミス・ロングビルが意味ありげな視線をコルベールに寄越した。
「はっはっ、ミス・ロングビルは探求家でおられる。ま、古いというだけで価値が出る事もありますからな。大方
何の変哲もないガラクタでしょう」
 そう言ってコルベールは作業に戻る。ミス・ロングビルは尚も箱を気にしていたがやがて言われたとおり奥の方に持っていった。


 一方その頃、ルイズは校舎の片隅の物置でその日調度百回目のアン・ロックを唱えた。が、鍵からは何も音はしない。念のため
ノブを捻ってみたが扉は硬く閉ざされたままだった。数えていたわけではなかったが、流石に疲れ果てて座り込んだ。
 特訓を始まってから数日が経過していた。今のところアン・ロックの練習のみだが、自分でも嫌になるくらい魔法は発動しなかった。
 放課後にこの物置に入って夕食までの約四時間、ひたすらアン・ロックのみを唱え続ける。正直気がめいりそうだったが、彼女は
特訓開始の翌日からは文句も言わずに続けていた。無論好き好んでやっている訳ではなかったが、この様な練習方法はこれまで
思いもよらなかったし誰も提案しなかった。だからどうせ他の事をやっても無駄ならばとこの特訓に一つ打ち込んでみる事にしたのだった。
 もう一つ、これはルイズは自覚していない事だが。ルイズにとって他人が積極的に自分の、特に魔法に関しての才能を開花させようとしてきた
人間は彼が初めてだった。彼女の両親は決して自分の娘に無関心な親ではなかったが、精々説教をするくらいで魔法の習得そのものに関してまでは
何もしてくれなかった。或いはそれは自分で乗り越えて欲しいと言う一つの親心の表れだったのかもしれないが、少なくともルイズはその事
を感じる事はなかった。
 学院に入ってからも、教師達は彼女を格別の劣等生と決めつけそれっきりだった。
 そこでゲンである。はっきり言ってルイズがアン・ロックや照明の魔法を使えるようになったところで彼には何一つ利益はない。無論
損得だけで人間は動かないが、ゲンの場合は本当に何もない。彼が提案――非情に強引ではあったが――したと言う事であったとしても、
毎日物置の前に佇んでルイズが出てくるのをひたすら待ち続けているのは彼女にとって新鮮な事であった。


 ルイズが座り込んでいると鍵の開く音がしてドアが開いた。
「今日はこれまでにしとこうか、食事の時間だ」
 そう言いながらゲンがコップに入った水を差し出してきた。喉がかれていたルイズはひったくる様にコップを受け取ると一気に飲み干す。
突き出すように戻ってきたコップにゲンは水差しから注いでやった。それを再び一気飲みするルイズ。
「今日は三十六回だ。昨日よりだいぶ増えたな」
 三十六回と言うのは、ゲン曰く『何となく鍵が開きそうだった瞬間』だそうだ。因みに初日は零回だった。
「アテになんの、それ?」

「さあ? まあ、目安だと思ってくれたらいいよ、何も成果が見えないよりは張り合いがあるだろう」
 そんな会話をしながら物置を後にしようとした二人だったが、入り口の近くに放置されてあった何かにルイズが躓いた。よろけた所を
ゲンが直ぐに支えたので転倒は免れた。
「ちょっと、何?」
 ルイズが顔をしかめて下を見る。ルイズが躓いたのは剣だった振りこそ大きかったがボロボロの鞘が古さを物語っていた。ゲンが拾い上げる。
「この間、ドアに投げつけたのはもしかしてコレか?」
「あ、そうかも。あの時はムカついてたから近くにあったのを適当に投げただけなんだけど」
 ふうん、と言ってゲンはしげしげとその大剣を眺めた。そしてルイズから少し離れて抜刀した。その途端、
「こらあ、娘っ子! よくもブン投げやがったな! 俺をその辺の投げ槍と一緒にしやがったら承知しねえぞ!」
 大剣が絶叫した。
 ゲンも流石に呆気にとられる。
「イ、インテリジェンス・ソード!? 何でこんなところに」
「喋る剣は珍しくはないのか?」
「何だ何だ、俺をそこいらの大剣だと思ったのか? まあ、こうボロくなっちまったらしょうがねえか」
 三者それぞれに喋るので会話が成り立たない。暫らくの沈黙の後ゲンが口を開いた。
「で、お前は……一体何者なんだ?」
「俺はデルフリンガー、その娘っ子の言った通りインテリジェンス・ソードよ。ご覧の通り年季の入ったな」
「何でインテリジェンス・ソードが魔法学校の倉庫なんかにあるのよ
「年代者には色々と事情があるんだよ娘っ子、まあお陰で久しぶりに使い手に……」
 そこで、デルフリンガーが言葉を切った。突然だったので二人が怪訝な顔をする。
「どうした黙ってしまって」
「ちょっと、使い手って何の事よ」
「ああ、いや、何でもねえ」
 一瞬の沈黙の後、デルフリンガーが再び喋りだす。
「使い手、あんた名前は?」
「おおとりゲンだ」
「そうかい、アンタが使い手となるとそこの娘っ子はつまり……何だったかな。すまねえ今のは無しだ」
 話についていけないルイズが顔をしかめる。
「何なのよ一振りで盛り上がって」
「いやいや、久しぶりに鞘から出たんでちょいと混乱しただけだ。ところでゲン、アンタ俺を使いこなせるかい?」
「俺に使えって言うのか? それにお前は学院の所有物だろう」
 唐突な提案に困惑するゲン。そこにルイズが口を挟んだ。
「いいんじゃない別に。大事なものじゃないからここに有るんだろうし、先生の許可をもらえば大丈夫よ」
「そんな簡単なもんじゃないだろう」
 そう言いながら物置に鍵を閉めてゲンは歩き出した。デルフリンガーにはまだ聞きたい事があったので、鞘から
少しだけ刃を覗かせておく。
「ところで、俺を『使い手』と言っていたが何の事だ?」
「あん? ああ、シラネエのか。ま、娘っ子がさっきみたいに鍛錬がしているようじゃあ知らなくてもしゃあねえか」
「何よ私がどうかしたの?」
「いや、何でもねえ。長生きするとな、与太話に触れる事がよくあるもんだ、これもその一種さ。そんな重要な事じゃねえ」
 それっきり黙ったのでゲンはデルフリンガーを完全に鞘に収めた。
「ねえ、ゲン」
 食堂に向かって歩き出してから、ルイズがゲンの方を見ずに話しかけた、
「今更なんだけどさ、この鍛錬って意味あるの?」
「正直、魔法のことは俺にはわからん。ただ素質があるのにまったく使えないなんてのはおかしいだろう。継続は力となって
いずれ現れる」
「それはアンタの経験論?」
「いや、俺の場合は師匠からは甘いと言われた」
「え、じゃあやっぱり……」
「その方法が必ずしも成功するとは限らない。それに流石にそこまで火急の用件じゃあない」
 そしてルイズの方をむいてニヤッと笑う。
「ご希望なら無理やり才能を開花させるのもアリだが」
「何となくスゴそうだから遠慮しとくわ」


 ほぼ同時刻、学院長室。
「何でまた、盗賊ごときの事情聴取にグリフォン隊の隊長殿が来られますかな」
 迷惑そうなのを隠そうともせずオールド・オスマンがぼやく。眼前に立つのは口ひげの凛々しい若い貴族が立っている。
「国軍は事態をそれだけ重要視していると言うわけです」

「その割には、大した成果が上がっておりませんなあ」
「だからこそ私が参上したのです。宝物庫を襲撃したそうですな」
 話を反らされても一向に気にせずグリフォン隊隊長――ワルド子爵は話を続ける。
「何もとられてはおりませんわい」
「その日にあった、怪物の一件と関係が?」
 その言葉にオールド・オスマンが思わず目を見開く。あの一件は正確には軍や王室には報告していない。
「いやはや、軍の情報筋を少々侮ってましたな。何、怪物と言っても毎春恒例の使い魔召喚の儀式で逃げ出した使い魔がおったと言う事ですよ。
逐一お耳に入れるまでもないと判断したまで」
 しかし、あくまでも飄々とした態度を崩さないオールド・オスマン。
 ワルドは暫らく黙っていたがやがて、
「とにかく、フーケの捕縛は軍の重要課題の一つです。次に何かあったら報告願いたい」
 その言葉にオールド・オスマンは無言で頷いた。そして話は終わったとばかりに机の上に広げてあった本に目を落とした。
 ワルドは一礼すると退室しようとした。だが、ふと思い出したように立ち止まって、
「その怪物を召喚したのは誰なのです?」
「……ヴァリエール家のお嬢ちゃんじゃよ」
 隠しても無駄と判断したか、意外とあっさり白状するオールド・オスマンだった。
 ワルドは軽く頷くと今度こそ退室した。

 ワルドが部屋を出ると階段の方からミス・ロングビルがやってきた。彼女は一礼して学院長室に入ろうとしたが、
「話がある。土くれのフーケ」
 というワルドの言葉に身を凍らせた。
 とっさに距離をとって杖を抜き去り、油断なくワルドを見据えるフーケ。だがワルドはそんな彼女を前にしても悠然と構えている。
「話があるといった。捕縛するつもりならとっくにそうしている」
「お生憎だね。貴族はそう簡単に信用しない事にしてるのさ」
 ミス・ロングビル――フーケにとって何故正体を知ってるかはこの際どうでも良かった。重要なのは眼前の男が何を考えているかである。
 おとり捜査なら論外、共犯の依頼も一人でやってきた彼女にとっては余程のことでないと乗る理由はない。何よりこの男は間違いなく
トリステイン王国魔法衛士隊の隊長なのだ。警戒しない方がどうかしている。
「話の続きを拷問部屋で行なうと言うのも一興だが、あまり私の趣味ではない」
 いつでも捕縛できると言う事を言外ににじまされフーケは考える。彼女自身魔法の能力は一流のであるが、ワルドの物腰はその自分の能力を
完全に推し量ってなおこの余裕があるように思われた。
 つまり抵抗は無駄。第一騒ぎを起こせばここで逃げられたとしても、トリステイン全域に非常線が張られて一巻の終わりである。
 彼女は諦め構えを解き杖を片付けながら、
「場所を変えてくれるかい?」

 学院近くの森の中に場所を移して、フーケは口を開く。
「で、私に話ってのは何の用件だい?」
「お前に盗んで欲しいものがある」
「アンタなら自分の権限で大概の物は手に入るだろう?」
 茶化すように喋るフーケを無視してワルドは続ける。
「この学院の宝物庫にある『暗黒の欠片』 知っているか?」
 その言葉にフーケの双眸がスッと細くなる。さながら獲物を見つけた捕食者のようだ。
「へえ、あれやっぱり重要品なんだねえ。正体は一体何なんだい?」
 そう言うフーケをワルドは無言で見据える。睨んでるわけでもないが、言い知れぬ圧力が滲んでいた。
「ハイハイ、分かったよ。余計なことは聞くな、だろう。でもねあの宝物庫は中々難物だよ」
「お前なら巨大ゴーレムくらい作れるだろう」
「土のゴーレムじゃどんなにでかくてもあの塔の壁は破壊できないね。おまけに壁一面に固定化が施されてる。
ああ、私の立場を使って鍵を借りるってのは無しだよ。あそこは最低二人で入る事になってるからね」
 ワルドはしばし考えるようなしぐさを見せた。
「ヒビでも入ればどうにかできるのか?」
「? ……まあ確かにそんな都合のいいものがあればね。当てでもあるのかい?」
 ワルドはそれには応えず更に別の話を振る。
「壁の件は俺がどうにかする。お前は盗み出す事だけ考えろ」
「報酬は? 流石にただ働きはゴメンだよ。見逃すのが報酬だってんなら……」
「五千エキュー。それでお前から『暗黒の欠片』を買い取ろう」
「話が早いじゃないか。ま、壁の件は期待しないで待ってるよ」
 そういい残してフーケは戻って行った。
 そして、残されたワルドは校舎の方に歩いていった。

 夕食後、ルイズは授業の復習をしていた。さすがに夕食後までは特訓はない。ゲンは体を動かしてくると言って出て行って、
今はいなかった。
 その時彼女の部屋の扉ををノックするものがいた。ゲンかと思って放って置いたが一向に入ってくる気配がないので、ルイズは気になって
扉に向かった。
「誰、キュルケ?」
 返事がない。少し躊躇ったが不審者などそうそう校舎内にまで入るまいと思い扉を開けた。
「やあ、ルイズ。久しぶりだね」
 羽帽子をかぶった男が優雅に一礼していた。その男を見てルイズの目が見開かれる。
「ワルド子爵! ……どうしてここに?」
「任務で用事があってね。ついでと言っては何だが、君がここにいることを思い出したのさ」
 意外な人物の突然の登場にルイズは戸惑っていた。ワルドは彼女の婚約者である。また幼い頃は憧憬の対象でもあった。それは
今もなお変わっていない。ただ彼は随分と有名人になっていたが。
「夜分に押しかけた事は謝るよ。しかし、どうしても会いたくなってね。どうだろう、時間を割いてもらえないかな」
 その言葉にルイズは少し考えたが、消灯時間までは若干時間があったのでその誘いに乗った。

 学院の中庭を二人で歩く。ルイズにとっては久しぶりの体験だった、ゲンは所謂そういう相手とは違う。
 会話は弾んだ。思い出話に赤面し、ワルドの武勇伝に素直に感心し、上の姉の婚姻話で二人でクスクス笑いあった。ルイズにとって
楽しいおしゃべりと言う、女子にとってはそれなりに重要なイベントはこの学院に来てから参加できることは少なかった(キュルケとの
やり取りをおしゃべりと捉えるなら大幅に増えるが)。
「ところでルイズ、君に直接聞くのもなんだが、魔法の方は相変わらずかい?」
 その質問にルイズは黙って小さく頷く。
「何も使えないのよ、サモンサーヴァントは辛うじて成功したけど」
「何でも巨大な竜を召喚したそうじゃないか。まあ、そいつは逃げたそうだが」
「学院長と話しをしたのね? そうよ、その後召喚したのは……人間よ。そいつと契約したの」
「人間を呼び出すなんて、ブリミルの様だな」
 ルイズは苦笑して、そんないいものじゃないわ、と呟いた。
「聞くところによると、失敗じゃなくて爆発するらしいな。そんなのは僕も聞いた事がない」
「貴方まで私を笑いものにするの」
 本当に悲しそうな顔をしてルイズが言うのでワルドは、
「気を悪くしたなら謝るよ、だが本当なんだ。僕はその爆発と言う結果に興味がある」
 ワルドの言葉にルイズは苦笑を浮かべたまま。
「使い魔と似たような事を言うのね。そんなに興味があるならお見せしましょうか? 私の『失敗魔法』」
 冗談のつもりで口にしたルイズであったが、ワルドは真面目な顔で頷いた。
「ぜひ見せて欲しい。君はもしかしたら或いは……」
 そこで言葉を切って黙るワルド。暫らく黙考していたがやがて再び口を開いた。
「すまない、とにかくここならそう被害も出ないだろう。そうだな、あの塔にでも」
 本気にするとは思っていなかったルイズだったので流石にこの申し出には面食らった。しかしワルドは真面目な面持ちを崩さない、
本気である。断りづらい雰囲気が二人の間に漂った。
「……まあいいわ。爆発しても練習してたって誤魔化せば通じるでしょ」
 観念して、ルイズはルーンを唱えだす。どうせ野外なら攻撃魔法でもいいだろう、それに……どうせ失敗する。
 そんな気持ちを押し殺し彼女は杖を振るった、しかし何も起こらない。
 フッとため息をつこうとした瞬間、本塔の中腹あたりで爆発が起こった。壁にはひびが入り破片が下に落下している、幸い
本塔には誰もいなかったらしく人が出てくる気配はない。
「ご覧の通りよ、ワルド。これでも失敗魔法じゃないかしら?」
 自嘲気味のルイズに、と言うより自分に言い聞かせるように頷いたワルド。
「よく分かった、気分を害したなら謝るよ。さあ、そろそろ部屋に戻ろう」

 部屋に戻るとゲンが戻っていた。
「散歩かい? 消灯になっても戻らなかったら探しに行こうと思ってたが」
 別段怒った風でもなくルイズを迎えるゲンだったが、その目がワルドを捉えると眉をひそめた。
「あ、怪しい人じゃないのよ。ワルド子爵、私の……婚約者よ、一応」
「一応とは酷いな」
 苦笑しながら、ワルドはゲンに向き直る。
「魔法衛士隊のワルドだ。君が彼女の使い魔かい?」
「ええ、おおとりゲンです」
 ゲンも一礼する。そして二人はそのまま黙りこくって互いに見合ったまま動こうとしない。睨み合いほど険悪ではなく、
さりとて友好とは程遠い不穏な空気を漂わせていた。

 やがて、ワルドはルイズにもう一度礼をすると去っていった。
 と、同時にルイズがゲンを肘でつつく。
「初対面の人を睨みつけるのがアンタの故郷の礼儀?」
「いや、すまない。少し気になってな」
 そう、ゲンはワルドから初対面とは思えない何かを感じ取っていた。その正体が分からないが故の沈黙の一幕であった。
 ルイズは、ふうん、と特に気にした様子もなかった。

「あれがアンタのアテかい?」
 校舎から出たワルドに声がかけられる。フーケだ。ただし姿は見えない。
「まあ、とにかくあれなら何とご期待に添えそうだよ。早速やろうかい?」
「いや、依頼がもう一つ増えた」
 そう言ってないようを説明するワルド。フーケは彼の真意を測りかねたがワルドの冷たい視線に結局了承した。


 次の日、ルイズは最早日課になっている特訓を行なっていた。ただしいつもの校舎端の物置ではなく、本塔の宝物庫の一階下にある
空き部屋を使っていた。無論やってる内容は一緒である。
 何故かいつも使ってる部屋の鍵がなかったのと偶然通りかかったミス・ロングビルからここの部屋を与えられた結果だったが。
「何で、あの女性がこのことを知ってる」
「さてね、大方教員どもの中じゃ噂になってるのかもな」
 デルフリンガーが応答する。
「ところでゲンよ、変な事を聞くようだがアンタ本当に人間かい?」
「どこかおかしいか、俺は」
「別におかしくはない、おかしくないからこそシックリこねえ」
「お前の言ってる意味が分からないんだが」
 デルフリンガーはそれきり黙ってしまった。彼なりに何か思うところがあるらしい。
 ゲンが外を見る、日が傾きはじめていた。そろそろ今日も終了だ。
 ゲンが扉をノックしてルイズに声をかける。
「ルイズ、少し離れるぞ」
『いいけど、何かあったの』
 かすれ気味の声が中から聞こえる。
「水を忘れたから取ってくるよ」
 そう言って、ゲンは階下に降りて行った。

 同時刻、本塔の壁に張りつく影が一つ。
 フーケは未だにワルドの追加要求を理解しかねていた。
「劣等生がどうなろうと知った事じゃないけどね」
 仕事のついでにルイズ・ヴァリエールを死なない程度に命の危険にさらせと言う内容。正直彼女にとってはどうでも良かったが
クライアントがそう言うなら仕方がない。適当に理由をつけて本塔に押し込んでおいた。
「じゃあ、始めましょうかね」
 彼女は長いルーンを唱えた後、手に持った杖を地面に振るった。

 激しい衝撃がして、ルイズは何度目かの詠唱を中断した。何? 何事なの? その疑問に答えるものはいない。その間も衝撃は
本塔そのものを揺さぶり続ける。
 何度目かの衝撃の後、壁が吹き飛ぶ。幸い彼女に怪我はなかったが、そこから見えたゴーレムの影に彼女は身をすくめた。
 何、なんでここにこんなのがいるの。私が狙われてる? 別の目的? 混乱する彼女を無視してゴーレムは尚も壁を殴りつづけた。
「ゲン! いないの!? 助けて、ここを開けて!!」
 半狂乱になりながらルイズはドアを叩く。だが応答するものはいない。ゲンが上ってくるにしても若干時間がかかる。件のゴーレムが
塔を破壊する気かどうかは分からないが今のままでは自分は相当に危険な事は混乱するルイズも理解できた。
 ルイズは息を大きく吸い込むと落ち着こうと努力した。ここにいるのは危ない、扉は施錠されている、ならばとるべき行動はただ一つ。

 ルイズはルーンを唱えだす。短いルーンの一つ一つを集中して唱える。それはもっとも簡単な魔法、それは誰もが使える魔法、
そして彼女が使えなかった魔法。

 ルーンが完成する。
「アン・ロック」

 ガチャリと鍵が外れる音がした。ノブを捻ると果たして扉は開いた。ルイズは喜びに浸る間もなく部屋を飛び出す。
「ルイズ、無事か!」
 その時階下から上ってきたゲンと鉢合わせになった。。彼はルイズが部屋から出ている原因を一瞬で察したらしく。
「やったな! だが、とにかく逃げよう」 

 そう言いながらこんな状況にも拘らず満面の笑みを浮かべたのだった。
 ルイズはその笑顔が――彼女にとってはまったく意外な事に――嬉しかった。

「おや、逃げれたのかい。まあ、いいさ仕事はもう一つあるんだ」
 フーケはそう一人呟くと、壊れた壁を抜けて宝物庫に入る。宝物庫の一番奥、鍵穴のない箱を見つけるとそれを無造作に
壁の穴から外に放り投げた。
 がしゃりと音がして箱が変形する。気にすることなく彼女はさらにゴーレムでその箱を踏み潰した。
 ゴーレムが足をどけると、そこには真っ黒な物体があった。ゴーレムの足の下敷きになってなおその物体は壊れた様子はない。
「やれやれ、気持ち悪いね、これだけやられて何ともないなんて。ま、とにかく仕事は終わり。後は……」
 彼女は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「ちょっと、からかってやるかね」
 そう言って彼女はゴーレムを塔から脱出したルイズ達に向けた。

「私って巨大なものに追われる星の基に生まれたのかしらね!」
 走りながら、ルイズがわめく。塔を破壊したゴーレムは何故かルイズを標的にしたようだ。
「肩に人が乗ってるな、奴の顔を見たんじゃないか?」
「知らないわよそんなこと!」
 言葉を交わす二人の直後にゴーレムが迫った。焦ったルイズが足を滑らせる。
 ゲンがすかさず助け起こすがその間にゴーレムは迫り片腕を叩きつけようと振り上げた。
 振り下ろされた鉄拳を辛うじてゲンがルイズを抱えて飛び跳ね交わす。だが、執拗にゴーレムは迫ってきた。
「ルイズ、俺が注意を引き付ける内に校舎に非難するんだ」
 ゲンはデルフリンガーを鞘から抜きながらルイズに告げた。
「あんなの一人で……もしかしてあの赤いのになるの?」
 初めて会った時の事を尋ねるルイズ。
「いや……とにかくアレを校舎から離さないと戦闘も出来ない」
 ゲンはデルフリンガーを構える。
「俺が飛び出したら君は逃げるんだ、いいな?」
 背後で頷く気配がしたのを確認して、ゲンはゴーレム目掛けて駆け出した。

 ゴーレムが繰り出す文字通りの鉄拳をかわすと脛にあたる部分に大剣を叩きつける、だが相手はびくともしない。
「勇者ごっこかい? うっとうしいねえ」
 フーケは五月蝿い虫から片付ける事にしたらしく、今度はゲンに向かって攻撃を始める。
 放たれる鉄拳を巧みにかわしながら徐々に森に誘導するゲン、その間も何撃かデルフリンガーで斬り付けるがそうそう
切れる相手ではなかった。
「中々頑丈だな、お前も奴も!」
「……使い手がこの期に及んでこの様たあ、解せねえ」
 ゲンの言葉が耳に入っていないのか独り言を呟くデルフリンガー、そちらに一瞬気を取られた隙に巨大な鉄拳がゲンを
襲う。
「おい、相棒!」
 注意を換気するデルフリンガーの叫びにとっさに反応して直撃は回避した、だがかすってもその巨体から繰り出される一撃は
半端ではなくゲンは吹っ飛ばされた。
 止めを刺さんと迫るゴーレム。と、その背中が突然爆発した。
「ルイズ! 何を」
 フーケのみならずゴーレム自身が苛立ちのオーラを滲ませながら振り返る。逃げたはずのルイズがそこにいた。
「そんなに死にたいかい」
 ゴーレムの片腕が又しても叩きつけられる、お陰で辺りは滅茶苦茶な状態だ。間一髪ルイズは飛び出したゲンに救出される。
「なんで逃げてないんだ!」
 珍しく怒りをあらわにしてゲンが怒鳴る、だが彼女は怯まない。顔を真っ赤にして怒鳴り返してくる。
「なーにが注意を引くよ、戦闘するよ! 無様に吹っ飛ばされてるじゃないの! アンタねえ、使い魔が勝手に死んでいいと思ってるの!?」
 それに! とルイズがなおも続ける。
「使い魔を見殺しにする飼い主がいる訳ないでしょう!」
 ゲンは一瞬あっけにとられていたが、直ぐに真顔に戻る。
「じゃあ、使い魔も飼い主を危険に晒しっ放しじゃだめだな」
 そう言ってゲンはデルフリンガーを鞘に収めるとルイズに渡した。
「預かっておいてくれ。ここまで離れれば大丈夫だ」
 そう言ってゴーレムの方に一歩踏み出す。その顔に一切の恐怖はない。
「ちょっとゲン!」

 追いすがろうとするルイズに無言で手を振ってみせるゲン。左手のリングが一瞬大きく光ったように見えた。
 斜め十時に組まれる両手、つき出される右手、続いて繰り出された左手のリングが眩く輝く。
「レオオオオオ!!」

「死にな!!」
 踏み潰そうと踏み出されるされる巨大な足。だがそれがゲンを踏み潰す事はなかった。
 ゴーレムは突如光とともに現れた巨人によって足元からひっくり返された。

 フーケのゴーレムをも上回る巨体。
 その全身は燃える炎のごとく。
 その銀色に輝く頭は怒れる獅子のごとく。
 その輝く双眸は太陽のごとく。

 その戦士の名はウルトラマンレオ。

『ヤアアアアアアア!!』

 裂帛の気合が夜の空気を切り裂いた。

終わり


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