あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのぽややん 11

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「おお! 皆、よく無事で戻ってくれた!!」
 学院長室で、オスマン氏は両手を広げながら、にこやかに出迎えた。
 しばらくその体勢でいたのだが、ぼそりと呟く。
「……なんじゃ、誰もハグしにこんのか」
「じゃあ、僭越ながら僕が」
 アオが進み出ようとするのを、オスマン氏が止めた。
「男を抱きしめてもつまらん」
 女性陣の視線が冷たい。
「あーこほん。オールド・オスマン。とりあえず『破壊の杖』を回収しておいては」
 隣に控えていたコルベールが、場の空気を変えようと軽く咳払いしながら、オスマン氏に促した。
「ん? ん、そうじゃな。というわけだから渡してもらえるかの」
 アオとタバサ以外は、冷や汗を流しながら思わず視線をあさっての方に逸らす。
「? どうかしたかの?」
 どうかしたのである。

「ガラクタって、ちょっと、それどういう意味よ!」
 痛めた左足にタバサの治療の水魔法をかけてもらっているアオに対し、噛み付かんばかりの勢いで、ルイズが詰め寄る。
「詳しい説明は省くけど、これは単発使い捨てなんだ」
「それは、一回使えば、お終いって事ですか?」
 ミス・ロングビルが複雑そうな表情で、アオに問う。
「その通りだよ、ロングビルさん。その証拠に」
 アオは言いながら、手早く『破壊の杖』を展開すると、空に向け、スイッチを押して見せた。
 なにも起こらない。
「ね? もうこれは、ただの筒みたいなもんだよ」 
「……まったく、あなたという人は」
 悪びれもせずに言うアオに、ミス・ロングビルは呆れたようにこめかみを押さえた。
 だがその口元は、微かに笑っている。
「ねえダーリン。それってすごーく不味いような気がするんだけど」
「そ、そうよ!? わたし、そんな貴重な物を使っちゃったていうの!?」
 キュルケとルイズが青い顔をする。
 とくにルイズは、完全に血の気が引いて真っ青だ。
「べ、べ、弁償? やっぱり弁償しなきゃいけないのかしら?」
 半べそになって、おろおろするルイズ。
 秘宝『破壊の杖』の額など、正直、想像もつかない。  
 いったい幾ら支払えばいいのか、考えるだけで目の前が暗くなり、胃が痛む。
「ルイズ。こうなったら一蓮托生よ。あんた一人に背負わせやしない。あたしも覚悟を決めたわ」
 キュルケの言葉に、頷くタバサ。
「キュルケ、タバサ……」
 感動のあまり、涙がこぼれる。
 ルイズは『ありがとう、ありがとう』と言いながら、二人に抱きつく。
 三人はひとしきり抱きしめ合った後、そろってミス・ロングビルを見た。
「す、すみません。あ、あの、わたくしはその、あまり蓄えが……」
 ミス・ロングビルの腰が完全に引けている。
「大丈夫だって。そんな事にはならないと思うよ」
 アオは、元に戻した『破壊の杖』を肩から吊し、さっきまでの雰囲気を笑い飛ばした。
「なんでそんな事が言えるのよ!」
 そのあまりにもあっけらかんとした調子に、ルイズは半ば殺意を抱く。
「だって考えてもごらんよ。単発使い切りとは言うけどね。使用済みかどうかなんて、使った人間にしかわからないんだ。今回、これが使えたのが良い証拠だよ」
 まあ、使い方がわからなかったていうのもあるんだろうけどね。
 アオは心の中で付け加えると、にやりと笑った。
「つまり、これが使用された事実を知らない人たちには、これこそ紛れもなく『破壊の杖』って事なんだ」
 ずいぶん長い間、沈黙があった。

「詐欺」
 タバサの漏らした一言に、アオ以外の全員が頷いた。

 その鉄壁のポーカーフェイスゆえ、皆を代表してタバサが、無言でオスマン氏に『破壊の杖』を手渡した。
 ルイズたちは、その様子を固唾を呑んで見守っている。
「おお、ご苦労じゃったな。ミス・タバサ」
 受け取ったオスマン氏は、感慨深げに『破壊の杖』を一頻り愛でた後、『宝物庫に収めるように』と言って、コルベールに渡す。
「フーケを取り逃がしたのは残念じゃったが、こうして『破壊の杖』は無事、我が学院に戻ってきた。一件落着じゃ」
 その言葉に、アオを除いた全員、さすがにタバサも、心から安堵の息を漏らし、胸をなでおろした。
「さてと、とりあえずこの場はこれでお開きとして、今日の疲れを癒すがよかろう。
 ちょうど明日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。労いも兼ねて、君たちを主役に盛大にとり行う事にしよう」
 アオを除いた三人が誇らしげに礼をすると、ドアに向かった。
「アオ?」
 部屋から出て行こうとしたルイズが、部屋に留まっているアオに気づいて立ち止まる。
「先に行っていていいよ」
 アオの様子に、ルイズは怪訝そうに見つめていたが、頷いて部屋を出て行った。
 オスマン氏はアオに向き直った。
「こうして面と向かい合うのは初めてじゃな、使い魔殿。なにか、私に聞きたい事がおありのようじゃな」
「じゃあ単刀直入に。あれは、『破壊の杖』は、あと何本あるんですか?」
 何本?
 あまりにも意外な言葉に、コルベールとミス・ロングビルが息を呑む。
「なぜ、そう思われるのかな?」
 オスマン氏は驚く様子もなく、柔和な笑みのまま逆に聞きかえす。
「あれを『破壊の杖』と名づけたのは、あなたなんですよね」
「いかにも」
「だったら、一度はあれ以外の物が使われるのを見ているはず。じゃなければあなたに、いやあなたたち全員と言ってもいい、あれに破壊だなんて名前をつける発想がうかぶわけないんだ」
 『破壊の杖』は単発使い切り。
 アオの言葉を思い出し、納得したようにミス・ロングビルが頷く。
「おぬしはこれについての事情を色々と知っておるみたいじゃな。……交換条件というわけでもないが、ぜひともそこら辺のところを聞かせてもらえんかな?」
 オスマン氏がコルベールに退室を促そうとするのを、アオが制止した。
「かまいませんよ。いずれ分かる事だし、こちらとしても色々と情報は欲しいですからね。
 ですが、ここだけの話、と言うことにはしておいてください」
「ええ、ええ! もちろんですとも!」
 コルベールは、年甲斐もなく興奮で顔を赤くしながら、了解した。
「おぬしがかまわんと言うのなら、それでいいがの」
 ミス・ロングビルの方をちらりと見る。
「では、私は席を外したほうがよさそうですね」
 オスマン氏の視線を察したミス・ロングビルが、ドアに向かった。
 かなり後ろ髪を引かれる話だったが、さすがに教師でもない自分がここに留まっているのはまずいだろう。
「いや。ロングビルさんもいてください。あなたも当事者なんですから」
「そういえばそうじゃの」
 ミス・ロングビルが、今度こそ本当に驚いた顔をする。
「さて」
 三人を前にアオは軽く咳払いした。
「『破壊の杖』だけど、そいつは魔法の杖なんかじゃない。そいつの本当の名前は『M72LAW』。
 旧式の武器だよ……僕の世界のね」
 元の世界の事。
 ルイズの『召喚』で呼ばれた事。
 多くは語らなかった。ごく表面的な事を、ごく簡単に。
 だがそれでも、この世界の住人たちには驚愕に足る内容だった。
 ミス・ロングビルの、かけたメガネを持ち上げる手が震えている。
 コルベールなど興奮で失神しそうな勢いで、『素晴らしい!』を連呼している。
 オスマン氏は、深々と溜息をついた。
「なるほどの。にわかには信じがたい話じゃ。
 しかし、この『破壊の杖』がお前さんの世界の物だとして、なぜ他の物の所在を知りたいのかね?」
「できるなら、回収して、処分します」
「な……」
 さすがにオスマン氏を含めた全員が言葉を失う。
「なぜです!! こんな素晴らしい物を処分するだなんて!!」
 『破壊の杖』をアオから守る様に抱え込み、わけが分からないといったように首をふりながら、コルベールが叫ぶ。
「不要だから。
 あの娘の願いの前に、あんな物が存在していたらダメなんだ」
「あの娘……ミス・ヴァリエールの事ですか?」
「……ねえ、コルベールさん。あなたは教師なんですよね。魔法の」
「は、え、ええ、その通りです」
「あの娘は、ルイズは、そんなあなたから魔法を習うために、メイジとして……貴族として一人前だと認めてもらうためにここにいる。努力をしている」
 アオの言葉に、コルベールが押し黙る。
「でも『破壊の杖』は、僕たちの世界の武器は、そんな彼女の夢を、希望を、努力を、意味の無いものにしかねないものだ。だから、いらない」
「……うん、そうじゃの。使い魔殿の言う通りじゃ。
 所詮、『破壊の杖』は私らには過ぎた物だった。そうは思わんかね、ミスタ・コルベール」
「はい、僕とした事が、好奇心に目がくらんで、己の本分を忘れるところでした。お恥ずかしい限りです」
「さて、そういう事なら、協力は惜しまんよ。確かにおぬしの言うとおり、『破壊の杖』はもう一本、存在しておる」
「それはどこに?」
「恩人の墓の中じゃ」
 オスマン氏は目をつぶり、感慨深げに語りだした。
「三十年前、森を散策していた私は、見た事もない怪物に襲われた。そこを救ってくれたのが、あの『破壊の杖』の持ち主じゃ。彼は、もう一本の『破壊の杖』で、その怪物を吹飛ばすと、ばったり倒れおった。ひどい怪我をしていたのじゃ。
 そして、そのまま……」
「死んだんですね」
「うむ。私は、彼が使った一本を墓に埋め、もう一本を『破壊の杖』と名付け、宝物庫に収めたのじゃ。恩人の形見としてな……だが、事情が事情じゃ。ミスタ・コルベール。その破壊の杖を使い魔殿に渡して差し上げなさい。もう一本もかならず引き渡しましょう」
「あ~その事なんですけど」
 こめかみを指でかきながら、アオは遠慮がちに口を開いた。
「実は、今の話を聞いて解決しちゃいました」
「へ?」
 アオは、ルイズたちにしたのと同じ説明を、今度はオスマン氏たちに聞かせる。
 すなわち、『破壊の杖』が一回使えばお終いの代物である事を、だ。
 コルベールは口をあんぐりと開けている。
 黙って聞いていたオスマン氏だったが、終いには笑い出していた。
「つまり、使い魔殿は、知っていて使用したわけですな」
「ええ。実際、使用しないとゴーレムの撃退もできなかったし。ルイズに使わせて撃退すことができれば、わずかなりともあの娘の自信につながると思って」
「で、処分を兼ねて使用したと。まったく、おぬしはきれいな顔をしてずいぶんな策士じゃな、まったく。ミス・ヴァリエールは良い使い魔を持ったもんじゃ。
 だが、ありがとう。生徒の為に尽力してくれて。それに、形だけのものとは言え、恩人の杖を取り戻してくれた。
 それが私には、ただただ嬉しい」
 そう言ってオスマン氏は、アオを抱きしめた。
「ですがオールド・オスマンを襲った怪物とは、一体どんなものだったのでしょう?」
 齢百とも三百とも言われ、長き時を生きた偉大な魔法使い。
 そんな彼ですら知らない怪物。
 コルベールは難しい顔をして、首を捻る。
「わからん。怪物の死骸は幻のように消えてしまっての。だが、今でも鮮明に思い出すことができる。あの異様、あの紅い瞳を」
 空気が変わった。
 アオ以外の三人の体が硬直する。
 息をするのにも苦労するほどの重圧。死そのものを予感させる感触。
 その中心にアオがいた。
 彼は笑っている。
 ひどく楽しそうに。
「ああ、すみません」
 皆の様子に気づき、その雰囲気が和らぐ。
 重圧から解放されたコルベールとミス・ロングビルが、床にへたり込む。
 オスマン氏はどっと冷や汗が噴き出るのを感じた。
「ありがとうございました。とても有益な情報が得られた」
 アオは深々と頭を下げると、部屋から出ようと背を向けた。
「ま、待ちたまえ」
 背後から声をかけられ、ドアに手をかけた状態で立ち止まる。
「……おぬしは、一体何者なんじゃ」
「絢爛舞踏」
 アオは誇るでも、自負するわけでもなく。ただ淡々と告げると、そのまま部屋を出ていった。
 ドアが閉まるのを見て、ようやくコルベールが立ち上がった。
「ケンランブトウ……一体どういう意味でしょう? 僕には、彼が恐怖そのものに見えました。やはり彼は、伝説の使い魔。『ガンダールヴ』なのでしょうか」
「わからん。だが彼が『ガンダールヴ』だろうが、そうで無かろうが関係ないじゃろうて。……ミス・ヴァリエールは相当な当たりを引いたのかも知れんな」
「伝説の使い魔『ガンダールヴ』」
 ミス・ロングビルが噛み締めるように呟いた。
 コルベールとオスマン氏が、しまったと言う顔でお互いの顔を見合す。
 ミス・ロングビルの存在をすっかり忘れていたのだった。
 コルベールが大慌てで、誤魔化すようにまくしたてる。
「み、ミス・ロングビル。伝説の使い魔とかそういう事じゃなくて、そうだ、明日の『フリッグの舞踏会』。僕と踊りませんかと、はい」
「な、ずるいぞミスタ・コルベール。どさくさにまぎれてなにを口ばしっておるんじゃ。ミス・ロングビルが明日踊るのは、私とに決まっておるじゃろう!」
「貴方こそ年を考えてください! 老い先短い貴方より、未来ある僕に譲るのが当たり前でしょう」
「おま、なんちゅうことを」
 醜い、じつに醜い争いだった。
 言い争いが頂点に達し、拳による肉体言語でのやり取りに代わろうとしたその時。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、少々お話が」
 なぜか晴れ晴れとした笑顔で、ミス・ロングビルが口を挿んだ。
 そのすぐ後。
「なんじゃとー!!」
「なんですとー!!」
 学院に、二人の男の嘆きの絶叫が木霊した。

 トリステイン魔法学院の早朝は、白い霧に滲んでいた。
 微かに湿った石畳踏みしめ、ローブを纏ったミス・ロングビルが、石でできたアーチの正門、その手前で立ち止まった。
 霧の中に、彼女のよく知る顔を見つけたからだ。
「あんたかい」
 口調が、フーケに戻る。
「やあ。やっぱりここを去るんですね」
 手に持った包みを持ち上げ、アオはにこやかに挨拶した。
「お宝が無いのなら、ここに長居は無用だしね。しかしまあ、よくこのタイミングがわかったもんだ。見送りを頼んだ覚えはないんだけどね」
「なんとなく」
「なんとなく、か。あんたらしいね。で、なんの用だい」
 フーケは、くすりと笑うと、腰に手を当ててアオを見据えた。
「はい、これ」
 アオは手に持つ包みを、フーケに手渡した。
「サンドイッチ。道中お腹がすいたら食べてください」
「敵だった人間に弁当って……まさか毒入りじゃないだろうね」
 ま、こいつがそんな事はしないだろうけどさ。
 短い間ながらも、多少はアオの人となりがわかってきたフーケだったが、訝しげに包みとアオを交互に見た。
「僕の敵は、あの娘を害するもの全て。今のあなたは敵じゃない。それに、憧れを殺すことはできないよ」
「憧れ?」
「誰かのために生きるって生き方は、たとえやり方が正しくなくても僕の憧れなんだ。だから、あなたは死んじゃだめですよ。護るべき者たちのためにもね」
 アオは遠い目になった。
「あの時、わざわざ私にあんたの事を聞かせたのも、私が憧れだったからかい」
「まあ、フーケさんの過去やら事情を無理やり聞いちゃったし、そのお詫び、かな」
「で、これから私が盗んだ物の中に『破壊の杖』の様な物があったら処分してほしいと」
 フーケの言葉に、アオは黙って微笑んだ。
「いいわ、覚えてたらやってあげる……なんか上手く乗せられた気がするけどね」
「ありがとう」
 嬉しそうに笑うアオ。
 その笑顔に、フーケが顔を真っ赤にして視線を逸らした。
 おもしろくない。
 裏社会でもまれ、酸いも甘いも噛み分けた自分が、終始いいように翻弄されているのが、じつにおもしろくない。
 なんとか目の前の小憎らしい男に、一泡吹かせることはできないものか。
「ねえ、ちょっと目を閉じてくれないかい。それとも、私の前で目をつぶるのは怖い?」
 なんの躊躇もなく、目を閉じるアオ。
 フーケはちょっと驚いたが、すぐさま悪戯っぽく、微笑んだ。すっと手を伸ばして、アオの髪を撫でる。
 その顔に、ふわっと柔らかなものが触れた。
 唇が、唇に。
「!」
 目を開く。
 すでに、フーケの姿は霧に消えかけていた。
「あはは、ちょっとは驚いたかい。あのお嬢ちゃんには悪いけど、手ぶらで去るのも癪だったからね」
 フーケは人差し指を唇にやって、くすくす笑った。
「まあ、代わりにそれをあげるよ」
 タイミングよく、アオの頭に乗っていたメガネがずり落ちて、彼の顔にかかる。
 フーケが、ミス・ロングビルの時にかけていたメガネだった。
 度は入っていない。
「フーケさん」
 去ろうとしたフーケが、一度振り返る。
「マチルダ。それが本当の名さ。まあ、もう会うことはないだろうけどね」
「本当の、名」
 アオの声が詰まる。
「じゃあね、アオ」
 そして今度こそフーケ、いや、マチルダは、霧に消えた。
「本当の名、か」
 ひどく虚ろな声で呟くと、メガネを外し、それをじっと見つめる。
 今の自分はこのメガネのようなものだな。
 そう思うと、なんと皮肉が効いている事だろう。
 再びメガネをかける。ようやくさし始めた日の光が、レンズを輝かせた。

「そ、そんな、ミス・ロングビルとアオさんが……」
 その一部始終を、メイドは見た。


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