あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

とある魔術の使い魔と主-50


 当麻は気がつくと、シルフィードの背中に乗せられていた。
 とぎれとぎれの記憶は、あまりあてにならない。
 断片的に残っているといえばワルドを殴った後倒れたこと、ルイズ達が何やら叫んで駆け寄ったこと、彼女らがフーケと敵対していたこと。
 そして今に至る。
 たったそれだけでは、意味がわからない。
(いったい……)
 なにがあったのだろうと、ぼんやりとしている頭をゆっくりと起き上がらせる。
「トウマ!」
 突然耳元で叫ばれ、驚き、細目だったのを見開く。
 横には、自分を看病していたのだろうか、ルイズがいた。
 周りにはタバサやキュルケ、ギーシュにアンリエッタ。
 そして、

 当麻と同じく横たわっているウェールズ。

「……つ~!?」
「まだ怪我が治ってないんだから……安静にしてて」
 とりあえず事情を聞こうと今度は体を起き上がらせようとしたが、背中から激しい痛みが襲いかかって来た。
 見ると、不器用ながらも自分の体には包帯らしきものが巻かれていた。
「でもその『幻想殺し』って味方の治癒呪文まで打ち消すなんてね……」
 ルイズの目頭から水晶のような粒が溜まっていく。
 自分を心配してくれたのだろう。今までは魔法でどんな怪我も治してきたのかもしれないが、今回は違う。
 もしかしたら死んでしまうかもしれない当麻に、つきっきりで看ていたのだろう。
 その心配が安心へと変わり、気が緩んだからに違いない。
 もっとも、彼女の性格からは絶対にそんなことは言えないが。
「心配かけちまってわりいな」
「え、あ、へ? い、いや別にあんたを心配するわけないじゃない! そ、そうよ。これはただ単に、あんたが死んじゃったらこう、迷惑というかなんというか……」
 それが心配というんじゃねーのか、と当麻は、決して口に出せない突っ込みをした。

 風が、気持ちいい。
 いつもはあのカエル医者が治してくれるのだが、ここにはそのような万能な医者はいない。
 いたとしてもあの背中の傷を負った今は動かない方がいいのだろう。
 当麻は横にいるルイズに何があったのか尋ねた。
「なぁ、俺がぶっ倒れてから何があったんだ?」
 溜まった涙を腕で拭うと、ルイズは答える。
「フーケがワルドを抱えて逃げたわ……。後ちょっとまで追い詰めちゃったんだけどね」
「そうか……、んで、今俺達はどこに?」
「えっと、行けばわかるわ」
「?」
 なぜか行き先を口にしないルイズ。心なしか、視線も僅かばかし当麻から逸れる。
 そんな言動に当麻は疑問を持つが、何か事情があるんだなと察して黙ることにした。



 目的地、ラグドリアンの湖にたどり着いたのは意外と早かった。
 昨日ないし一昨日に訪れたこともあったので、当麻はすぐにそこが何処であるか気がついた。
「ここで、何をするんだ?」
 先ほどは聞けなかった理由、目的地にたどり着いたら聞けるものだと思っていた。
 と、突然ウェールズとアンリエッタがシルフィードから降りた。
 ウェールズは怪我を負っているのだろうか、アンリエッタに肩を預ける形でゆったりとしたテンポで前へと進んでいく。
「ウェールズ様が、生き返ったのよ」
 突然のルイズが口を開き、は? と思わず口に出す。
 そして言われて気付く。確かにウェールズが歩いているのはおかしいと。
 ルイズの魔法でウェールズが崩れたのはこの目ではっきしと見た。
 あれはアンドバリの指輪の効力を消す魔法ではなかったのだろうか。
 偽りの命が失われた今、ウェールズは再び死人と化しているはずだが……
「どういう――」
「わからないわ。多分偶然と言えると思うけど……とにかくウェールズ様は生き返ったのよ。でも、以前受けた傷も蘇ってもうすぐ……」
 そのあとは喋れなかった。顔を伏せ、やり切れない思いで体が震える。
 この前の傷とはワルドのだろう。致命傷となった傷故にそう永くは生きていられない。
(だからみんな黙っているのか)
 いくらアンリエッタとウェールズが先程まで敵であったとはいえ、戦いが終わればこの国の女王とその愛してた人。
 とてもじゃないが戦いに勝利した気分になれないし、今回の件について責めることはできない。
 タバサはどこからか取り出した本を読み、キュルケは寝転がっている。ギーシュはただ薄暗い空を眺めているだけだ。
 そんな様子を見て、当麻は幾分か考えた後、傷ついたその体に最後の鞭をいれる。
「トウマ!?」
 突然立ち上がろうとした当麻にルイズは驚く。
 ルイズの声に三人が振り返る。タバサだけがすぐに本へと目を戻した。
「あいつには……アンリエッタにはまだやるべきことがあるからな」
 そいつを確かめに行くのさ、と付け加えて、シルフィードから降りた。
 といっても、背中に大きな傷と全身を打撲している当麻の足はふらついている。

 まだ応急処置しかしていないその体は悲鳴をあげている。
 しかし、それでも当麻は足を進めた。
 最後の仕事を果たしにいくかのように。
 と、そんな少年の腕を少女が自分の肩へまわす。
「そんな体で一人歩こうとするなんてバカじゃないの……?」
「わりぃな、付き合ってくれて」
 感謝する少年の言葉に、少女は頬を赤くする。
「あ、あんたのためじゃないのよ? わたしはただ姫様が心配だからついていくだけなんだから!」
 わーってるよ、と少年は投げやりに答えた。


「ぼくを忘れると。忘れて、他の男を愛すると誓ってくれ。その言葉が聞きたい。このラグドリアンの湖畔で。水の精霊を前にして、きみのその誓約が聞きたい」
 え? とアンリエッタは思わず聞き返してしまった。
 ウェールズの命が後僅かというのもわかっている。
 生気は失われていつ死んでもおかしくない。
 おかしくないのだが、
 もう一度聞いてしまった。

 聞き間違いであってほしいと。

 しかし、言い間違いでも聞き間違いでもなかったようだ。
 ウェールズは再び同じ言葉を口にする。それが彼自身の願いであっても、アンリエッタは首を縦に振ることはできない。
「無理ですそんなの……わたくしの本心ではないのを誓えるわけがないじゃない」
 溜まりに溜まった涙が零れそうになる。しかし、耐える。この時間を、この大切な時間を無駄にしないためにも……。
「お願いだアンリエッタ。きみが頷いてくれないと一生不幸になるだろう……それでいいのか?」
「そんなの……いいわけないじゃない」
 当然だ。愛する人を不幸にするなんて出来るわけがない。
 だけど、だからといって誓いたくもない。自分が本心ではない、すなわち嘘を誓うことなんて無理だ。
「お願いだ……ぼくはもう永くはいられない……ぼくが生きている間に……」
「なら、誓ってください。わたくしを愛すると……。それを誓ってくださるなら、わたくしも誓いますわ」
「……あぁ、誓うよ」
 その言葉を聞き、アンリエッタは目をつむる。自分の悲しげな顔を、ウェールズに見せたくないからだ。
「……誓います。ウェールズさまを忘れ、そして他の誰かを愛することを」
「ありがとう」
 ウェールズは満足げな表情で静かに目を閉じる。それに合わせるかのように、アンリエッタの目がゆっくりと開く。
「さぁ、あなたの番ですわ。誓ってください」
「あぁ、ぼくを水辺へと運んでくれないか?」
 アンリエッタは頷き、さらに前へと進む。目の前の景色が開けてくる。もう、朝であった。
 このハルゲキニアの中でも最上位に入るだろう美しい光景を背景に、アンリエッタは口を開く。
「さぁ、おっしゃって。わたくしを愛すると。この一瞬、この一瞬だけを永久に抱きますわ。たとえなんとおっしゃてもわたくしはそうしますわ」
 が、返事はなかった。
 ウェールズは、
 勝ち誇っているかのように、
 満足したかのように、
 眠っているかのように、
 目を閉ざしたまま、微笑んでいた。
「・・・・・・ウェールズさま?」
 体を揺らす。しかし、応えはない。
 ウェールズがここまで生き続けたのは奇跡と言っても過言ではない。しかし、どうしてこんな重要なところで終わってしまうのだろうか?
 今までの思い出が頭に浮かび、心の奥底へと放り投げられる。
 再びウェールズと出会えるようなことは、
 絶対に、ない。
「意地悪……」
 アンリエッタはぽつりと呟く。
「最後の最後まで誓いの言葉を口にしてくれないんだから」

「それで、お前はどうするんだ?」

 不意に声をかけられ、思わず振り返る。そこには、当麻とルイズがいた。
 ルイズの肩に当麻が体を預けるその姿に、自分とウェールズの姿が重なる。
 だけど、彼らはお互いを失うことはない。今もこうして生き続けているのだから。
 そんな二人に、アンリエッタは尋ねた。
「わたくしは……、どうすればいいのでしょう? この過ちをどうすれば赦されるのでしょう?」
 今回の騒動で、何人もの人間が死に、傷つけてしまった。
 その罪の深さは、おそらくとてつもなく深いはずだ。
 しかし、
「んなことは聞いてねえよ」
 少年はそんなことなど気にしてはいなかった。
 え? と目を丸くするアンリエッタに、当麻はさらに口を開く。

「お前はこれからどうするんだ?」

 時間が止まったように、感じられた。
「あいつらはきっとあんたのことを恨んでない。今回の騒動の原因があんただとわかったとしても、今あんたが生きていることを知っていれば喜ぶはずだ」

 彼らは命懸けでアンリエッタを連れ戻そうとしたのだから。
 辛ければ逃げ出せるのに。苦しければ逃げ出せるのに。誰も責めないその行為すら彼らは捨てたのだ。
 そんな彼らがアンリエッタを恨むわけがない。
「残った人間達も、あんたにその傷を押し付けて満足するような人間じゃないはずだろ?」
 ぽつりと、アンリエッタの瞳から涙が零れた。
「あんたがウェールズを大切にしたい気持ちってのは、この国の人間があんたに抱いている気持ちと同じくらいなんだよ」
 そう言ってルイズを見る。
 先程の一連の流れを見ていたルイズは、すでに子供のように泣きじゃくっている。しかし、それもアンリエッタを思う気持ちがあるからこそだ。
 この国の人達を見たからこそ、たとえ頭が悪い当麻であろうとも、
 この国が持つ『思い』は感じられるのだ。
「もう一度聞くぜ。あんたはこれからどうするつもりだ? このままでいるのか。それとも立ち上がるか」
 当麻の問いに、アンリエッタはウェールズが死ぬ間際でさえ耐えていた涙が勢いよく零れた。
 まだあるのだ。
 アンリエッタにはやらなくてはならないことが。
 それはここで過去について考えるのではなく、
 未来についてどうするべきか、だ。
「立ちっ、立ち上がって……い、いいんですか?」
 あぁ、と少年は答える。
「な、何人も……しっ、死んじゃったのに……でっ、ですよ?」
 あぁ、と少年は再び答える。
 赦されることなんてないというのはわかっている。仮に全員が赦したとしても、その責任はずっと背負わなければならないのはわかっている。
 それでいて、
 まだ自分にもう一度立ち上がってもいいと言うのなら、
 まだ自分が女王をやっていいと言うのなら……。
 そして誰もその考えに反対しないと言うのなら……!

「なら、ならわたっ、わたしは……このっ、この国のひっ、人たちを……ま、まもっ、守ります!」

 アンリエッタの言葉に、少年は小さく笑った。



「いい決意じゃねえか」


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