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気さくな王女-24

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 また何か言いたそうな顔をしているけど、とりあえずシャルロットは黙らせた。お次はこいつだ。
「地下水」
「なんです? 俺は素直に癒してもらうべきだと思いますがね。王女様の頑丈ぶりは知っているけど、ちと血が流れすぎてる」
 ナイフに表情を期待するわけじゃないけど、冷静に言わないでほしいわね。わたしが不安になったりしたらどうするのよ。
「しつこいね。誰もお前の意見なんざ聞いちゃいないよ……わたしの力を上乗せにすればどの程度のクラスの……魔法が使える?」
「王女さまはドットでしたかね。それじゃせいぜいトライアングルってとこですわ」
「おまけしてスクウェアにならない?」
「無茶言わんでください」
 トライアングルか……微妙ね。鬼畜道だけじゃなく、魔法も真面目に勉強しておけばよかった。
 ま、いいわ。現実に文句つけたってはじまらない。バランス考えればトライアングルで充分よ。

「よし……それじゃあの騎士を退治する方法を発表する。茶々入れないで拝聴するように」
 言葉を切ったのに、口の端からひゅうひゅうと吐息が漏れた。ちょっと痛いくらいでだらしない。
 シャルロットや地下水に気づかれる前に、言葉をつないでごまかさないと。
「あの騎士を退治する方法は……」
「方法は?」
「無い」
「えっ……いや、ないんですか?」
 魔法が効かず力もあって素早く動く。おまけに馬鹿みたいに硬い。あんな化け物を退治する方法があるんだとしたら教えてほしいわよ。
「無い。でもあいつに少しの間ご退場いただく方法はある。その間に空高く飛んでいけば……わたし達の勝……ち。でしょう?」
 言葉を口にするだけで体力を使うっているという実感がわく。ちょっと演出気にしすぎてもったいつけたかもしれない。なるだけ手早くすませましょう。
「あいつの鎧に魔法が効かないのは分かっている。だったら魔法の効く部分にぶつけてやればいい」
「どうするんで?」
 左手の地下水がわたしに尋ね、シャルロットは一応緊張した面持ちでこちらを見上げている。一呼吸切ってわたしは続けた。

「あいつの足元に風の刃をぶつけ、足元の地面ごと吹き飛ばす」
「無理」
「王女さま、いくらなんでもそりゃあんまりだ」
 否定するにしても、もう少しこうすればいいとか、こうした方がいいとか、建設的な意見の一つも言えばいいのに。
 何よシャルロットも地下水も。まるでかわいそうな人間を見るような目でわたしを見て。

「転ばせてしまえば丘の下は遥かな大砂漠よ。いくら身軽とはいえ、あの巨体で上がってくるまでにはかなりの時間が稼げるはず」
「無理」
「無茶にもほどってもんがありまさあ」
 ああ無理無茶無理無茶無理無理無理うるさいうるさいうるさい。あれほど茶々は入れるなと注意しておいたのに馬鹿シャルロットに阿呆地下水め。
「たしかに……普通なら絶対に無理。ご立派なトライアングルの騎士様にだってそんなことはできない」
「スクウェアだって無理ですよ。虚無でも連れてくりゃ別かもしれませんがね」
「……でもね、ヘキサゴンならどう?」
「はあ?」
「地下水、お前にわたしの体を貸してやる。多少血は抜けたけど、王家の青い血はまだまだたっぷり詰まってるから安心しな」
「……」
「意識までは持っていかないようにね。事の顛末を最後まで見ていきたいから」
「……」
 ほほほ、驚け驚け。自分のことを褒めるなんて、はしたないことだと知ってはいても、褒めずにいられぬこの閃きよ。
「シャルロット、お前が地下水に合わせてやりなさい。とちりでもしたら張り飛ばすからね」
 すでに放逐されたも同然の身とはいえ、血のつながりが無くなったわけじゃない。忌々しいけど、今はそれが役に立つ。

「風、風、風、風、風、風。風の六乗がまともにぶつかれば城一つ吹き飛ばす威力があるわ」
 実際に見たことはないけどね。
「いや、あの、そりゃやっぱり無茶ってもんですよ」
「何が無茶なのよ。砂漠のど真ん中とはいえ、城の土台になるほどしっかりした地盤だからね。バラけずまとめて吹き飛ばせる」
「無理」
「いいや無理じゃない。すぐそこは崖っぷちよ。広範囲を削って得意のフットワークは使わせない。ちょっと転がせば砂漠にさようなら」
「ですけどねぇ」
「無理」
 敗北主義者どもめ。やる前からあきらめるってどういうことよ。

「俺はやり方とかコツとかそういうものはスキルニルから教えてもらいましたけど、本番どころか練習一つしてないんですよ? シャルロットさまにしたって……習ったのは十年も前の話でしょう」
「王家の血を引く人間が二人いて、どちらも大体のやり方知ってるんだからこれ以上何が必要? 贅沢言ってたらきりが無いからあきらめなさい」
「無理」
「無理じゃない。魔法ってのは血で使うものよ。できないと思えば逆立ちしてもできないし、できると思えば何だってできる」
 地下水を左手に持ち、自転車から体を離した。ふらつくとはいえ、一人で立てもしないのに王を名乗ることはできない。
「だから無理じゃない」
 そして、ここであきらめるようなら王女ですらない。父上の暴虐には反逆の拳で応えてやる。簒奪と謀略はガリアの華よ。
「無理じゃないんだったら」
 シャルロットの手をとり、指と指をしっかりと絡めて握り締めた。
 いつもは氷のような体温で応える文字通りの冷血漢が妙に温かい。……あ、わたしの体温が下がってるのか。
「無理じゃない……そうよね、シャルロット。お前に肋骨を叩き折られた方が百倍は痛かったもの」
 左手の地下水を握りなおした。握りっぱなしだったせいか生き物のような温かみを感じる。ああ気色悪い。ナイフのくせに。
「できるわよね、地下水。お前の……お前の魔法で串刺しにされた時に比べれば蚊に刺された程度の出血よ」
 左手と右手を合わせ、シャルロットの鼻先に目をやり、間を置かずナイフを見た。二人とも黙ってわたしを見返している。
「騎士人形を吹き飛ばすなんて、王女をいじめるのよりは楽でしょう?」
 ぎゅっと握り寄せる。骨を折ってやるくらいの力をこめた。
「北花壇騎士団の誇る最強コンビがぐだぐだ言ってないで……調子こいた……無能王にその力を……見せつけてやりなさい」
「やる」
 シャルロットのつぶやきは小さすぎて聞き逃してしまいそうだった。その目はわたしから外れ、シルフィと格闘している騎士人形を……ひょっとしたらその遥かに先を見ている。
「ったくよお……ガリア王家はどいつもこいつも気が狂ってらあ」
 ふっと気が遠くなり、気づけばわたしの体が勝手に動いていた。地下水の馬鹿、やるならやるって言ってから操りなさいよ。びっくりするじゃないの。

 シャルロットの手をより強く握り、ナイフを天に掲げた。古びた刃が光を反射して夜闇の中で瞬いている。
 見れば、雲を割って月が出ていた。雲の裂け目は風に吹かれて見る見る大きくなっていく。
 二つの月が完全に顔を出し、周りを囲む星々がやけくそにピカピカやって、地下水は刃物特有の凶悪な光を帯びている。
 ……はは、いいわ。いいわよこれ。追い詰められた状況、光り物、そして濃すぎるくらいに濃い血の匂い。血の匂いが漂っていても負け犬の匂いは存在しない。これ以上鬼畜者に相応しい舞台があって?

 地下水がわたしを操って詠唱を始めた。夜風に吹かれ、ルーンがどこまでも広がっていく。自分ではない自分の声を聞くってなんだか変な感じ。
 騎士はまったく注意を払っていない。魔法なんて効きやしないから調子に乗ってるわね。今に見ていなさいよ。
 地下水に続いてシャルロットが詠唱を始めた。声は落ち着いているけど、握った手は汗で湿っている。
 へぇ。何よ、緊張してるの? あれでけっこうかわいいところがあるじゃない。もう少し素直になればいいのにねぇ。

 地下水とシャルロットの詠唱が重なり、呼吸や鼓動といったものすら同調し、それらは一つの大きな風になった。
 風は巨大な魔力をたたえ、荒れ狂う場所を求めてさらに大きくなり、それでも二人は手を離さず、詠唱は続き、熱がこもり、まだ続き、騎士人形がこちらを振り返った。
 詠唱はまだ止まらない。風は周囲の風を集めてまだ大きくなる。いけ、いけ、やってやれ。
 騎士人形が手を伸ばそうとしたけど、シルフィの群れに阻まれた。シルフィ自身は高空に移動し、静観を決め込んでいる。何が起きるか薄々感づいているらしい。
 何時終わるとも知れない二人の詠唱はようやくの終着点を見つけ、獲物に向かって牙をむいた。風が吹いた。

 結論から言うと、わたしの予測はものの見事に外れてしまった。
 足元を抉られて騎士人形が転げ落ちる……そんな未来予想図は現実とずれてしまった。
 わたしは馬鹿よ。ええ、大馬鹿よ。自分というものをまるで理解していなかった。わたしがどの程度のものなのか気づいてすらいなかった。

 発動した風の刃の規模、強さ、ともにヘキサゴンと呼べるようなものではない。どう見てもそれを遥かに上回る。オクタゴン? ていうのかしらね、この場合。
 夜のそよ風が打ちつける強風になり、強風が突風になり、突風は烈風になり、烈風が旋風になり、砂塵が巻き上げられ、視界が黄土色に染まり、わたしの予測した大きさに近づいていき、あっという間に突破した。
 旋風が激烈な勢いそのままに地面にぶち当たり、風の持つ力というものを破壊という形で見事に証明してくれた。
 城の大部分がわたし達のいる場所を残して倒壊し、足元の地面どころか岩盤が抉り取られ、その上にいた騎士人形を乗せて遥かかなたに飛んでいった。
 騎士人形が避けられるような速度ではなく、それどころかシルフィ軍団のほぼ全てが巻き込まれてボロボロになりながら一緒に飛ばされていった。
 上空で突然の事態に硬直しているのが本物のシルフィでしょうからシャルロットに恨まれることはなさそうね。

 わたしは呆然とそれを見送った。見てはいなかったけどシャルロットや地下水も同じように見送っていたと思う。
 そういえば、怒りや憎しみといった高ぶった感情が、一時的にメイジのクラスを押し上げることがある、なんて聞いたことがあるようなないような。
 胡散臭い話だと思って聞き流していたけど、実際目の当たりにすると……うん。すごいわね。すごいわこれ。

 いまいち現状を把握できずに混乱する心の中に、じりじりとわきあがってくるものがある。そう、勝利の実感ってやつね。
 ああ、愉快痛快。大満足。英雄ぶった間抜けな騎士人形が吹き飛んだ。わたしとシャルロットとついでに地下水の魔法で砂漠に落ちていった。
 人形遣い、どこかでこれを見ているのかしら。見ているんだとしたら声を大にして言ってやりたい。ふふふん、ざまあ見ろ。
 父上、きっと歯噛みして悔しがるわね。わたしを侮っていたことを後悔するでしょう。イザベラはあんなにできるやつだったのかって。

 あんまり愉快なものだから、腹の中でどっと血があふれ出た。口の端からも切れ目なく垂れ続けて、拭っても拭っても拭いきれない。
 自転車はわたしの体重を支えきれずに倒れ、わたしもそこに重なった。ひどい音が聞こえたはずなんだけど、なぜか何も聞こえない。
 周りを見回そうとしてもぼんやりとしか見えず、やがてそのぼんやりとした像すら消えてしまった。後には暗闇が残るだけ。
 足がもつれ、立ち上がることができない。全身満遍なく力が入らない。ゆっくりと体が冷えていく。すごく寒い。

 地下水め、強敵を倒したからって手ぇ抜いてやがるわね。わたしも疲れてるからいいといえばいいけど、でも帰ったらおしおきしてやろう。
 地下水は……そうね、カレーの具材を切り刻む役。シャルロットは見張り。食い意地の張ったシルフィを見張らせる。
 幽霊には自転車に乗せたカレー鍋を引かせる役を押し付けよう。くっくっく……わたしの作ったカレーを誰彼かまわずに振舞ってやる。
 城のコック達にも食べさせてわたしの恐ろしさを教えてやる。侍女達は感嘆の声をあげ、騎士たちはカレーとわたしをたたえるのよ。
 父上はヒゲにカレーをつけちゃったりなんかして。しょうがないから拭いてあげましょう。
 わたしはきちんと作った正しいカレーを食べる。レトルトじゃない、じっくり煮込んだ本格的なやつを……。

 夢とうつつの間、眠る間際の一番ぼんやりとした時間。
 何も見えず、何も聞こえなかったのに、右の掌だけはほんのりと温かかった。
 シャルロットめ、いつまで人の手を握っているのよ。ああ見えて意外に寂しがりやだったりって? そんなわけないわよ。
 だってあの子はね。いっつもね。
 あの子はね。
 あの子は……。
 あの子……。
 本当に……。
 わたし……。
 みん……。
 な……。



「お姉ちゃん」


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