あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の使い魔と煉獄の虚神-8-前

しっかりと手を握り合い、見詰め合っているサイトとティファニア。
その様子を少し不機嫌そうに睨んで、ルイズはコホンと咳払いをする。
けれど、立ち上がって口を開いたのは、サイトに向けてではなく、
その隣に立てかけられているデルフリンガーに向けてだった。

「さて、それじゃあ残る問題は……虚無の魔法よね、ボロ剣」
「もうボロじゃねーって言ってんだろう娘っ子」
「どうでも良いのよそんなのは。
 それよりティファニアが虚無の使い手ってのが本当かどうか。大事なのはここよ!
 彼女がアルビオンの王様の娘って事が真実でも、エルフの血を引いてるって事も真実よ。
 それも、一目見れば誰にだって判るぐらいに動かし難い、ね。
 当然そこに拘って彼女を認めないって人も居るはずだわ。
 それぐらい、エルフって言うのは恐れられているんだもの」
「でも、ルイズさん達は私を恐がったりしてませんよね?」

おずおずと、けれど嬉しそうにティファニアが問う。
その素直な疑問に、ルイズは恥ずかしそうに答えた。

「それは、その……私達は貴女が悪い娘じゃないって、昨日と今日でよく分かってますからね!
 だけど、誰だってそれを話して納得してくれるとは限らないし、
 そもそも話を聞いてくれるとも限らない。
 でも虚無の使い手となれば違うはずよ。
 なんたって始祖ブリミルに連なるこれ以上無い明確な証拠。
 ロマリアの司教様だって敬して頭を垂れるべき、偉大な系統なんだから!」

ぐっと拳を握ってルイズは力説する。
その言葉にギーシュもうむうむと頷いている。
とは言え、そこまで思うのは始祖に対する敬意と信仰の強い、古い貴族であるルイズ達だからだろう。
キュルケのような血縁主義の貴族思想が薄いゲルマニア貴族に限らずとも、世慣れた、あるいはスレた昨今の下級貴族に、そこまでの始祖の血脈に対する尊崇の念はあるまい。
有ったとしたらアルビオン王家に反旗を翻した貴族の数はもっと少なかったはずだ。
とは言え、レコン・キスタもまた虚無の力を標榜する事で自分達の正当性を主張しているし、そもそも説得するべき相手は、その「古い貴族」ばかりのアルビオン王党派。
ルイズの主張もあながち間違っているわけではない。
だが、その演説をデルフリンガーはアクビでもしそうな調子で受ける。

「そんな大層なモンかねぇ」
「あたりまえでしょ! 虚無なのよ? 失われた、最強の、伝説の系統!」
「つってもよー、そんな事言ってたら相棒だって伝説の使い魔だぜ?」
「はぇ?」

予想もしていなかったデルフの言葉に、目を点にしたマヌケな表情をした顔を使い魔に向けてしまう。
その、あまり見られないルイズの顔に、なんだか居心地が悪くなって、アタマを掻きつつサイトは答えた。

「ああその、言い忘れてたんだけど、俺ってガンダールヴってやつらしい」
「そんな、ウソでしょ!?」
「ガンダールヴ……そうか、そうだったのか!」
「なんとまぁ……」

ヘロリと緊張感無くサイトの口から漏れた言葉に絶句するのはキュルケとギーシュ、それにマチルダだ。
三人ともハルケギニアの貴族として、その名前と伝説ぐらいは知っている。
一方、そう言った事に疎いティファニアと異世界人であるモードは彼等の様子を不思議そうに見ている。
そして肝心のルイズはというと。

「ふぇ?」

まるで氷の彫像にでもなったように動きを止めていた。
ショックが大きすぎたらしい。
それでもなんとか首だけ解凍して、ギギギギとデルフの方を向く。

「…………ホントに?」
「マヂ。大マヂ。つーか俺様も6000年前に初代ガンダールヴに振るわれた伝説の剣なんだがよー」

とことん軽い調子で言い放つ伝説の剣ことデルフリンガー。

「で、やっぱ娘っ子もこれからは俺や相棒を敬して頭を垂れてくれんのかね?」
「そそそそそれは、その……」

言質を取られた格好になったルイズは困惑した。
先程の発言は心底本気だ。
偉大なる始祖ブリミル、それに連なる虚無の力。
それには相応の尊敬が払われるべきだ。
これはルイズの信仰、あるいは信念と言っても良いだろう。
けれど、使い魔と言うのはメイジに仕えるべきもので、その立場が逆転するなどありえてはいけない。
サイト個人の事をルイズ個人が好きだとか嫌いだとかいう問題では無い。
太陽が西から昇ったり、水が高いところへ向けて流れたら人々が混乱して困ってしまう。
それと同じように、使い魔とメイジの関係は不変にして不可侵でないと世の中が混乱して困るのだ。
これもまた、ルイズの信念。
そして、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールという貴族の少女は、とても真面目で融通の効かない娘だった。

「あう……あ、あ、ぁ……」

ヤバイ、泣く。
自分に向けられたルイズの弱々しい表情を見て、サイトはそう感じた。
いわゆるアイデンティティ・クライシスというヤツだ。
この主人と使い魔の関係について、ルイズはしばらく前から悩まされていた。
タバサに召喚された、本能のレベルで自分達の誰よりも優れていると理解できてしまう神の如き使い魔。
ゼロと呼ばれる自分が召喚した、魔法衛視隊隊長のワルドに勝ってしまうような使い魔。
ルイズの信じる動かし難い、動かしてはいけない『関係性』を破壊する彼等の存在。
その決定打が、いまデルフの口から放たれた格好で、うっかりすると人格崩壊すらしかねない。
いつもの強気な様子など見る影もなく、プルプルと弱々しく震えるルイズ。
特定の特殊性癖の人ならたまらないのだろうが、あいにくサイトにはそっちの趣味は無い。
むしろ女の子を泣かせたりしちゃいけないと信じている。
あと自覚してはいないが、SかMかで分けるならむしろM寄りな少年なのだ。

「いいんだよ俺の事はどうでも! お前だって別に誰かにヘーコラしてもらいたいワケじゃねーんだろ?」
「まーな。そもそも俺っちは武器だかんな。偉いのは使うヤツであって武器じゃねーもの」
「だったらガンダールヴってのもおんなじだろう。
 偉いのはそのナントカって始祖? であって、別に使い魔が偉いワケじゃねーんだから」
「違いねぇ」

ルイズを救うためにガナリたてるサイト。
デルフとてべつにルイズを追い詰めたかったワケでも無いし、泣かせたいワケでも無い。
単にからかったダケだから、簡単にサイトに同意した。
デルフは魔法を吸い込むだけでは無くて空気も読めるインテリジェンスソードなのである。

「サイト……」

ルイズの目が、熱に浮かされたように潤んだ。
いくら鈍いサイトにだってわかる。恋する乙女5秒前の熱視線が、桃色の瞳から放たれている。
それでも、貴族の矜持か持ち前のプライドか、漏れかけた甘い声をぐっと飲み込むルイズ。

「そ、そうよね! 伝説でも何でも、別にアンタやボロ剣が偉いってワケじゃないわ!
 それにサイトが私の使い魔だって事には変わりは無いんだものね!」

一転して強気なセリフに、サイトは「やっぱりルイズはこうでないと」と安心する。

「うんうん、そうそう、そうだよな!
 で、だから、その! デルフはその虚無の魔法とかを直接見てるんだ! よな?」
「おうよ。実際見てるんだから間違いねぇ。その嬢ちゃんの使う魔法は間違いなく虚無のスペルだね」
「でも、それじゃあ説得力が無いわよね?」

太鼓判を押してくれる伝説の剣だったが、そこにキュルケが疑問を提議する。

「見も知らないインテリジェンスソードが証拠も無しに『これは虚無です俺が保証します』って言って、ホイホイと信じるような貴族が居たら、ソイツはよっぽど純朴か馬鹿のどっちかよ?」
「そうだろうな。だから聞かせてくれねぇか、エルフの嬢ちゃん。
 お前さんがどうやってその呪文を知ったのか。
 事によっちゃあ、それが何らかの証明になるかもしれねぇからな」
「……わかりました」

デルフに促され、サイト達から見つめられ、ティファニアはポツリポツリと語り始めた。
財務監督官が父親であったティファニアの周りには、王家の秘宝と言われるような宝物が多数有った事。
その中の一つに、音の鳴らない古ぼけたオルゴールが有った事。
そしてテファはある日、同じく王家の秘宝である指輪を付けていると、そのオルゴールから曲が聞こえた事。
その曲を聴いていると頭の中に歌と、そして虚無のルーンが聞こえてきた事。

「母を殺した兵隊の人達が、私の隠れていたクローゼットの扉を開けようとした時……
私は咄嗟に思い出したその呪文を唱えたの」
「そしたら、その兵士達も昼間の男達のように記憶を無くしたってワケね?」
「うん。そうよ」

キュルケの問いにコクンと頷くティファニア。
さて、これをどう虚無としての正当性に結びつけるかと思案していると、マチルダがポンと手を打った。

「思い出した! 始祖のオルゴールだよ!」
「始祖のオルゴール? マチルダ姉さんはあのオルゴールの事、知ってるの?」
「そりゃ、これでも元アルビオン太守の娘だからね。
 それに貴族の宝物に関しては色々と調べ……ゲフンゲフン!
 ええと、その、アレはそう、トリステイン王家に伝わる『始祖の祈祷書』と並び称される、始祖ブリミルその人の持ち物だったって伝えられる宝物だよ。
 まぁ私も見たことはあるけど、見た目はただのボロい小箱だし、音も鳴らないし、そんな不思議な力があるなんて聞いた事も無かったし、テファからも聞かせてもらってないけど、あの邸に有った王家の宝物で、オルゴールと言ったらソレに違いないわ」

同じ邸宅で姉妹同然に育った妹分に、不満を含んだ視線を送りながらマチルダは説明する。

「それはその、ほかの人が指輪を付けて聞いても、何も聞こえないって言うから……もしマチルダ姉さんに言って、馬鹿にされたら嫌だなって思って、その……」

モジモジと可愛らしく言い訳するテファ。
同性であるルイズやキュルケから見ても微笑ましく、頬がほころぶようなやりとりだった。
だが、ギーシュとサイトはその様子を楽しむどころでは無い。

「なぁおいサイト、キミ、皇太子殿下から預かったあの箱は……」
「ききききき奇跡だ……ここここ壊れてなかったぞギーシュ!!」
「よよよよよよ良かったぁ!!」

脂汗を流しながらパーカーから取り出したのは、小汚い小箱。
ワルドと戦い、水汲みをし、ルイズに折檻され、それでも無事だった始祖のオルゴールである。

「ちょ、サイト! なんでアンタがそんなモノを持ってるのよ!?」
「昨日、皇太子さんから預かったんだよ。秘宝だからトリステインまで持っていってくれって。
 でも、てっきり俺達を逃げ出しやすくするための口実だと思ってたから、すっかり忘れてた」
「その、言い訳するようだが見た目がコレなので……ねぇ?」
「なぁ?」

ギーシュと顔を見合わせて肩をすくめつつ肯き合う二人。
実際のところ皇太子自身もただのガラクタだと思っていた可能性は高い。
おそらくサイトの推測の方がウェールズの心情を正しく理解したものだろう。
優しく勇敢だった故人を思い出し、サイトやルイズはつい、しんみりとしてしまった。

「ああ、確かにコレです。あの時のオルゴールに間違いないわ」

彼等とはまた別の感傷に駆られて、ティファニアはオルゴールを手に取った。
失くしてしまった過去を懐かしむように、オルゴールの蓋を開ける。
尤も指輪をつけていない今のテファには何の音も聞こえはしないのだが。

「え?」

だから、驚きの声を上げたのは豊かな胸の王族の少女では無く、平らな胸の貴族の少女。
オルゴールの音が聞こえる事に驚いて声を上げたのは、ルイズだった。

「ウソ、こんな事って……」

ゼロと呼ばれた少女の右手の指で『水のルビー』が輝く。
指輪をつけた事で始祖のオルゴールを聞く事ができるのは、つまり虚無の証である。
それは思ってもいなかった、突拍子も無い現実。
血の気か引いて真っ青になる顔色。
膝もカタカタと笑っている。
尋常でない友人の様子に、キュルケが心配そうに声をかけた。

「どうかしたの、ルイズ?」
「どうしよう……わたし、聞こえちゃった」

崩れ落ちそうな肩を抱いてくれたキュルケに、ルイズは震える声でそう伝える。
誰もが絶句する。
ただデルフリンガーだけが「そりゃあ虚無の使い魔の主人は虚無だよなぁ、やっぱり」と暢気に呟いていた。


サイト達が幾度もの驚きに見舞われている夜。
ガリア王女イザベラと、その従妹シャルロットことタバサはグルノープルの街の領主、アルトーワ伯の館で過ごしていた。
二人が居るのは屋敷の離れに建てられている平民の住居ほどもある小屋。
石造りの建物の内部は小さな通気口を除いて密閉され、焼け石に水をかけて創り出された蒸気で満たされていた。
つまるところ、いわゆる蒸し風呂である。
サウナ浴が痛風に良いと聞いたアルトーワ伯が作らせた広い蒸し風呂は、高温で一気に汗を出すゲルマニア式では無く、比較的低い温度でじっくりと汗を流すように設計されているトリステイン方式だ。
建物の周囲は護衛の騎士であるカステルモール卿と兵士達が警備に立ち、脱衣所には王女付きの侍女達が侍ってはいるが、
浴室の中に居るのは青い髪をした少女二人だけであった。

「アンタ、こんな所までそんなモノを持ってくるなんて、何考えてるのよ?」

身長より大きな杖を抱えたまま白い肌を赤く上気させて汗を浮かばせるタバサに、呆れたようなイザベラの言葉。

「危険」

汗を書きながらも『雪風』の二つ名を持つ少女は、涼しげな表情をまるで変えずに答える。
胸の谷間に流れる汗を鬱陶しそうに手の甲で拭いながら、端的な返答に「あっ、そう」とイザベラも端的に返した。

「貴女も地下水を持っているべき」
「本人が嫌だって言ってるんだから仕方ないでしょ。
 それに、あんなのに私の玉の肌を見られるなんてゴメンこうむるわよ。
 アレがオスなのかメスなのかは知らないけどね」

万が一の時にイザベラを操って身を守る手筈だった地下水は、サウナに入る事を「錆びる」と言って猛烈に嫌がった。
もっともイザベラは他人が嫌がったぐらいでソレを認めるような性格では無いので、
裸を見られるのが嫌だから連れて来なかったと云う方が、理由としては大きいのだろう。

「貧相な人形娘には羞恥心なんて理解できないでしょうけどね。
 この私の熟れた身体を見ていい男は、選ばれた素敵な殿方だけなのよ。
 ああ、グレン様になら、この湯殿の中まで護衛していただいても良かったのに……
 ってキャー! わたしったらはしたない! キャー!」
「…………」

1人で勝手に真っ赤になって騒ぐイザベラを呆れて見ているタバサ。
しかしタオルの敷かれた長椅子の上ではしたなく肩膝を立てて腰掛けている姿で羞恥心などと言われても説得力は無いのだった。
尤も、自分で言っている程ではないが、イザベラの身体はタバサより遥かに成熟している。
豊かな胸、くびれた腰、しなやかな長い手足。
透き通った氷を思わせる白い肌は、青い髪と並ぶガリア王族の特徴だが、火照って薄桃色になった全裸の肌に汗が流れ落ちる様は扇情的ですらある。

「ああ、熱っついねぇ。こんなのが好きだなんて、あの伯爵マゾなんじゃない?」
「………………」

口汚い言葉を発しつつも、用意された氷入りの水を素焼きのカップからゴクゴクと喉を鳴らして飲むイザベラには、えも言われぬ色気があるのは確かだった。
一方のタバサはずっと無言のまま。
ボーッとした表情で、頬に髪の毛が張り付いているのもそのままにじっとしている。
痛々しいほどに細い手足も普段は体温を感じさせない体も若い果実のように色づいているが、やっぱり不動。

「……………………」
「ちょっと人形娘、アンタ大丈夫なの?」
「…………………………へいき」

あまりの無言っぷりに、熱に当てられたのかと心配になったイザベラが声をかけてやっと返事が聞けた。

「あっそ。まったく、このわたしを心配させたりしてんじゃ無いわよ」
「貴女が丸腰だから、どんな魔法を使おうか考えていただけ」
「えっ!?」

ぶっそうな発言に思わず腰を浮かしたイザベラの前で、タバサは杖を振り上げる。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! シャルロット、おちつい……きゃあ!」

放たれた強力なエア・ハンマーはイザベラの横を抜けて、転移魔法で現われたばかりだった二人の刺客に激突した。

「ぎゃっん!?」

そのまま入り口の戸板を打ち抜いて、二人の男を脱衣所まで弾き飛ばすタバサの魔法。

「着て」

敷物として使われていたタオルをイザベラに投げ、もう一つを自分が纏う。
タバサ手早く前を縛ると、側らに置かれていた氷水の入ったカップを手に取る。

「あっあちっ! あちちっ!」

熱いタオルにわたわたしているイザベラを無視して周囲を確認すると、空間転移によって次々と刺客の魔術師達が現われる所だった。

「逃げる」

カップの水を焼け石にぶちまければ、一気に発生した蒸気で視界が塞がれる。
観測した自然法則の乱れを起点に魔法を使う異世界の魔術師に対する的確な魔法封じをおこなったタバサは、置き土産とばかりに目暗撃ちでエア・カッターを放ち、イザベラの手を取って脱衣所へと走った。
マント、剣、下着に地下水。
必要な物をひっ掴んで、タバサとイザベラは外へと飛び出した。

「ふむ……やはりグレン殿の目が離れるこの瞬間を狙ってきましたか」

イザベラの顔と声で、鋭い視線を周囲に放つ地下水が言う。
既にその身体の運動機能は完全に『地下水』と呼ばれる凄腕傭兵のものだ。
全裸のまま外に飛び出す二人と一振りだが、幸か不幸か目撃者は無い。
警護に当たっていた兵士達は1人残らず消炭や肉片と化している。
ハルケギニアの魔法と異世界のそれの、圧倒的な水準の違いがまねいた当然の結果だ。

「シャルロット様! イザベラ殿下!」

いや、ただ1人、生き残りが複数の刺客を相手に奮戦している。
ゴムのボンテージを纏った刻印魔導師が放った雷撃を水の壁で防いでいたカステルモールだ。

「―――ご無事でしたか!」
「あぶない!」
「ひゃははぁ! 死ねぇ!!」

彼の背後から矮躯の魔導師が投げた短剣が、風に操られてカステルモールの背中を狙う。
咄嗟に水壁を背後に回して防御するカステルモールだったが、今度は雷撃使いに隙を見せる事になった。
ボンテージ男の手の中に既に用意されていた雷の種。
円環大系の魔導師は回転運動する全てのものを操作する。それは原子核の周囲を回転する電子とて例外ではなくだ。
集められた電子を纏め上げ白熱する雷撃の元としたボンテージ魔導師の手から、カステルモールへと放たれる電撃。
一直線に犠牲者へと突き進むはずの死の顎はしかし、投げ込まれた剣にぶつかって消滅した。
タバサが投げた剣が地面に突き刺さり、即席の避雷針の役目を果たしたのだ。
円環魔導師の雷撃は放たれた後はコントロールされていない。
それに最も簡単に対抗するためと帯剣を勧めたのはグレン・アザレイだ。
これで一手、相手の攻撃を無駄撃ちさせて、同時に自分が呪文を唱える時間を得た。

「「アイシクル・ランス」」

タバサと地下水の魔法がボンテージ男と矮躯の魔導師――こちらは精霊大系の使い手――を貫く。
血しぶきを撒き散らせて男達は倒れた。

「無事?」
「私は大丈夫ですが、早くここを離れましょう。この者達は―――」
「死なない?」
「はい、その通りです」

イザベラと共にマントを身につけながら答えたタバサに、顔を背けて答えるカステルモール。
タオルとマントに杖という奇妙な格好になったが、今は贅沢を言っている余裕は無い。
タバサの眼にはグレン・アザレイの視界が映っている。
イザベラ達と同時に襲撃を受けて足止めをくらっているグレンの周囲には凄惨なバラバラ死体が転がっている。
異世界の魔術、それも死者を復活させるような奇跡に興味を示したグレンによって、わずか数分でありとあらゆる殺され方を試された哀れな刺客魔術師達の成れの果てだ。
そしてタバサ自身の視界でも、氷の槍に貫かれた二人が既に動き始めていた。
混乱から立ち直ったサウナの刺客達もどうせすぐに現れるだろう。

「逃げる」

コクリと頷いたカステルモールとイザベラ・ウィズ・地下水と共に駆ける三人。
その矢先、カステルモールの動きがガクンと止められる。

「へへへへ、にがさないよぉ」

顔の真ん中に一直線の傷口をつけた中年男がニタニタと笑っていた。
東薔薇花壇騎士の胸を飾るマント留めが中年男――相似大系魔術師クラム・エンドの手の中の何かと銀弦で結ばれている。
間接的にマント留めを固定されて、カステルモールは動きを留められたのだ。

「くっ、おのれ面妖なっ……!」

慌ててマントごとはずそうとするカステルモールだが、杖を持っているため片手しか使えず、焦りのために手間取ってなかなか外す事ができないでいた。
追いついてくる不死身の刺客達。

「お二人とも、どうかお逃げ下さい! わたくしの事はかまわずに!」
「へいき―――!」

懇願するように叫ぶカステルモールへ向かって、タバサが杖を振る。
その瞬間、繋がれていた銀弦が断ち切られた。
ありえない事態にクラム・エンドは驚き慌てふためく。

「な、なんでぇ!?」
「我等魔導師は自分の観測した自然現象のゆらぎに魔力を見い出し、操る。
 生まれ持った体系は生まれ持った世界そのもの。その眼で見ることの出来る法則の乱れ。
 このわたしと視界を共有する事ができるならば、その世界、その乱れすら共有できるかもしれぬとは思わぬか?
 名も知らぬ我が同郷の者よ、わたしは礼を言おう。そなたのおかげで可能性を実証する事が出来た。
 しかしそなたは死者なれば―――死者はやはり死に帰るがよい」
「グレン!」

空間転移によってクラム・エンドの背後に現われたのは相似魔術の最高峰を極めた男。
言葉と共にクラム・エンドの身体が焼け落ちた。

「この者達は燃えれば死ぬ。しかし、炎の術を使うのはそなた達にとって不得手であろう。ここはわたしに任せれば良い」

そう告げた瞬間、いくつもの断末魔があがる。
炎も無く焼け落ちる刺客達。
相似魔術師の使う「原型の化身」は全ての人間は神の似姿であるという原理により、人間同士を相似として操るアバター。
円環魔導師の雷撃によって無残に焼き殺された兵士の死骸と強制的に同調させられた刺客の魔導師達は一瞬にして全てが焼死体に変えられたのだ。
身も蓋も無い、あまりに一方的な虐殺劇。
カステルモールや地下水が言葉を失う中、1人平素の無表情を崩さないタバサにグレンが問う。

「わたしの主よ。雪風の娘よ」
「なに?」
「相似魔術の力を望むか? わたしの見る世界をより強く感じ取る力を」

神に似た男は愛する父母を失い、全てを奪われて擦り切れた娘に自分の弟の姿を見た。
彼女は、かつて自分が力を与えた弟にどこか『似て』いる。
だから決断した。
伸ばされた腕がタバサの額に触れる。
温かな人の体温をもった、けれど恐ろしいその右手。
わずかに指先を動かすだけで人を簡単に殺せる相似魔術の「力」を秘めた右手。

「わたしは……貴女の世界を見せてほしい」
「ならば与えようわが主人よ。お前はわたしにとても『似た』者であるから」

瞬間、銀色の弦が世界を覆った。
銀色の光に照らされ、夜の世界は昼間のごとく照らされている。
本来世界に存在するものは全て『似て』いて、だから銀弦で繋がれない物など何一つ無い。
物質を構成する微細な粒にまでさかのぼって全てが関連を持ち、うねる。
万物が照応する銀燭の大海の中心に立つタバサが動けば、その海面が泡立つよう波紋を描いた。
腕を上げれば四大はおのずから操られ、息をすればあらゆる物が唱和するようにさんざめく。
タバサの身体はカステルモールと繋がっていた。地下水と繋がっていた。
殺された兵士と繋がっていた。消炭となった刺客と繋がっていた。
より太く、従姉であるイザベラと繋がっていた。
そしてそれよりも強く太く、目の前に居る使い魔と繋がっていた。
鼓動が繋がる。
熱く、激しい太陽のような男の魂が、雪風の凍て付いた少女の魂と繋がる。
二つの魂は、まさしく『相似』であった。

「これが、貴方の世界」
「そうだ、これが私の世界」

取り落としそうになった杖を握りなおせば、周囲の木々が全て同調してざわめく。
踏みしめる大地すら、土と土の、石と石の相似による銀弦に覆われている。
タバサは今まさに、世界の中心に立っていた。






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