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ゼロの蛮人10




《『王宮日誌 シャルロット秘書録』より》

私たちが『人質』という事になって、幾日も経った。
しかし、トリステインからの救い手は一向に現れず、こちらとしては感覚共有できる『シルフィード』を介しての定期連絡
―――彼女が喋れることは隠しているので、質疑へのイエス・ノーや無事の確認程度だが―――
以外は何をするでもない、暇な時間を過ごしていた。
出歩く自由がない以外は、衣食住の心配も、身の危険を案ずる心配もない。

アルビオン国王ジェームズ1世は、トラクスの手にかかり討ち死に。
ウェールズ皇太子は、私のシルフィードに乗ってトリステインへ亡命。
主なきニューカッスル城の将兵はよく総攻撃に耐え、奮戦したが、ついに落城した。
非戦闘員は脱出できたが、それ以外は運命に委ねられた。

彼らの絶望的な戦いも話題となったが、やはり将兵たちの間に上る名は『蛮人トラクス』。
素性も知れぬ流れ者の、剣の達人。
勇猛で誇り高く、残酷なるスキタイ人。
国王殺し。
美しい女メイジと共に戦う、無敵の戦士。
魔法を喰らい、五月蝿く喋る魔剣を振るう兇漢。
投石器で人を砕き、鉄の弓を引く超人。
そして、伝説の使い魔『ガンダールヴ』。

デルフリンガーやフーケ、将兵や捕虜から流れる話は尾鰭がつき、拡大する。
人の血肉を喰らい、腕が四本ある。
牙の並ぶ口が耳まで裂け、額に二本の角がある。
恐るべきエルフだ。
背中に皮翼があり、空を飛ぶ。
炎と黒煙を吐く巨漢で、トロール鬼を従えている。
身長が30メイルもある。
女メイジが口だけで笑いながら走っているのを見た。

……意味のわからない噂もあるが、畏怖と憧れが二人には付きまとうようになった。
無論、蛮人如きと見下し、戦いを挑む命知らずな輩もいるらしいが……。

トラクスとフーケは、ひとまず『ナイト(騎士)』に叙勲された。ガリアやトリステインの『シュヴァリエ』に当たる。
彼らを連れて来たユリシーズも、褒賞にあずかったらしい。
近々、クロムウェルたちはトリステインへ侵攻する予定だとも、伝え聞いた。


アルビオンの首都、ロンディニウムにあるハヴィランド宮殿の一室にて。二人と一本に来客があった。
「やあサー・トラクス、デイム・マチルダ。傷はもうよろしいのかな?」
クロムウェルだ。先頃国名を『神聖アルビオン共和国』に変え、自ら『神聖皇帝』と名乗った。
始祖ブリミルの降臨した、東の『聖地』をエルフから奪還し、ハルケギニアを統一すると宣言してだ。
フーケは胡散臭そうな顔をするが、すぐ笑顔で返答する。

「ええ、陛下。トラクスは瞼と白目が切れただけで、水の秘薬を使ったらすぐ治りましたよ。
 疲労が激しかったようですが、魔剣を持たせておくと回復も早くて」
「それは重畳。なにしろ我々『レコン・キスタ』の英雄だ、続く戦いでも活躍して頂かねば。
 ウェールズ皇太子の首は獲れなかったが、トリステイン如きに頼っても後はない。
 ガリアもゲルマニアも、我らの理想に賛同してくれたよ。きっとロマリアもそうだろう。
 戦後処理と戦争の準備もあり、一ヶ月ほど休暇を与えよう。ま、ゆっくり英気を養ってくれたまえ」

上機嫌に話すクロムウェル。マチルダの旧領サウスゴータは、トリステインを降してから安堵するという。
貴族様に戻る気は薄いが、テファや餓鬼どもの世話もある。くれる物は貰っておこう。
トラクスは包帯を頭に巻いたまま、ベッドに座って黙り込んでいる。やがてデルフが喋りだした。

「なあア、ロングビル、いやフーケ、マチルダ。お前は沢山名前があるんだなあ。
 相棒なんか家名もない、ただの『トラクス』だぜ。強いて言えばトラクス・オブ・スキタイアンか?
 いや、騎士になったからサー・トラクス・オブ・スキタイアンか。デイムってのは女騎士の敬称だったかな」
「職業柄、偽名を使うことが多くてね。一応本名は『マチルダ・オブ・サウスゴータ』さ。
 アルビオンじゃあ結構名の知れた家だったんだがね、こないだも言ったがお取り潰しにあっちまって。
 理由? さあ、あたしが小娘の頃のことさ、たいして調べる気もないね」

彼女の父親は王弟の大公家に仕えていた、サウスゴータの太守だった。
ところが、大公は密かにエルフを妾としており、娘まで産ませた。
エルフは東の恐るべき、忌まわしき種族。人間を超越した先住魔法の使い手。
マチルダの父親は大公家への忠誠心からエルフ母子を匿い、それを知った王家により家名を取り潰されたのだ。

そして、マチルダとそのエルフの娘『ティファニア(テファ)』は姉妹のように仲が良く、
実家が没落した後もマチルダは彼女に仕送りを続けていた。
最初は普通の商売だったが、メイジの力を振るって盗賊を働き出してからは止まらない。
たちまち彼女は『土くれのフーケ』として悪名を流し、裏世界に染まっていった。
おかげで仕送りは相当の額になり、テファの隠れ住むウェストウッド村も潤う程になったが、
妹分を心配させないため、盗賊稼業のことは内緒にしている。

サウスゴータ家の復興。まさか、こんな形で転がり込んでくるとは。
クロムウェルは怪しい男で、エルフと戦うとか言っているから、テファがすぐ世間に出られるわけじゃない。
半分人間の血が入ったエルフなど、あちらのエルフ社会でも爪弾きだろう。
それでも、サウスゴータ領内にあるウェストウッド村なら、匿っておける。蛮人だって、半エルフだって。
殺戮大好きなデルフと蛮人トラクスを、世間知らずなあの娘に会わせるのは、御免こうむるけれど。

(戦争が終わったら、トラクスとデルフにはスキタイなりゲルマニアなりへ去ってもらうとして、
 あたしたちは穏やかに暮らしたいもんだね。随分カネも貯まったし)


「ねえ、ミスタ・ユリシーズ。私、脱走したくてたまらないんだけど」
桃色の髪が、風に揺れる。鳶色の瞳が青空を写す。
ルイズ・フランソワーズは、ロンディニウムの宮殿で、お付きの女官やメイドたちに傅かれていた。
「ご退屈でしょうが、もうしばらくご滞在を、ミス・ヴァリエール。
 ご家族はじめ、魔法学院のご歴々やアンリエッタ王女ほか、トリステイン王国には大きな危害は加えませんから。
 貴女の存在は、無用な戦火を未然に防ぎ、我々人類の理想を実現する一歩を平和裏に……」
ユリシーズの諂いに、ルイズはびしりと反論する。

「ウェールズ皇太子はトリステインに亡命されたそうね。ワルド子爵様とキュルケが手引きして。
 あの方が父王陛下のご遺志を継がれ、貴方たち『レコン・キスタ』に挑むというのが自然でしょう?
 どっち道、戦争は避けられないわ。姫様もヴァリエール公爵家も、きっと参戦するわよ」

そうなのだ。ウェールズ皇太子という御神輿がおられる限り、ハルケギニア各地のアルビオン王党派は団結する。
手柄と褒賞を求めて、或は戦争の危険を求めて、傭兵や商人連中だって集まる。
トリステイン一国では、アルビオンの空中艦隊には勝てない。でも、ゲリラ戦なら? ゲルマニアと同盟すれば?
トラクスがいくら強くても、何万という軍隊に勝てる道理がない。ワルド様などの強力なメイジだっている。
だから、この私を殺す理由も、クロムウェルには無いはずなのだ。交渉の『切り札』として。

「私の存在価値は、『ゼロ』じゃない……」

ゼロ。魔法の才能がなく、胸もゼロ。友達も恋愛経験も、ほとんどゼロ。
自嘲気味に、ルイズはその禁句を呟く。
「ミス・ヴァリエール。まあ、そう御自分を卑下なさらずに。
 私だって、子供の頃は失敗続きのいじめられっ子で、よく『ダメッピくん』なんて呼ばれたもんです。
 体だって小さかったし、下級貴族なんて平民とそう変わりゃあしませんよ。
 家も平民の金持ちから借金してましてね、苦労したものです」
ユリシーズが砕けた口調になる。

「そこへこの革命騒ぎですよ。テューダー王家に恨みはないが、そうたいした義理もあるわけじゃない。
 うまく立ち回れば、それなりの地位には成り上がれるかもしれない。
 そう考えて、貴族派についたんです。ヴァリエール公爵家のご令嬢には、ご理解し難いかも知れませんが。
 たいていの貴族なんて、そんなもんですよ。クロムウェル様だって……おっと」
おどけて口をふさぐユリシーズ。その仕草に、ルイズも女官たちも微笑む。

「ようやく本音で接してくれたわね。貴方の才能なら、結構な地位につけるかも。
 ちょっと軽いところはあるけどね。あ~あ、貴方が『使い魔』ならよかったのに」
「いくらなんでも、そりゃないですよ。あははははははは」
皆はつられて、明るく笑い出した。


「で、相棒よお。これからどうする?」
「また戦が始まるんだろう。ワルドやウェールズ、キュルケとまた戦う。
 だが、一人二人じゃあ勝てない。向こうも復讐と雪辱に燃え、準備を整えて待ち構えているんだ。
 強力な仲間が必要だろうな。フーケに並ぶぐらいのマジナイ師(メイジ)が」

トラクスとデルフは、スキタイ語で会話する。なぜデルフが話せるかは分からない。
一応トラクスも、トリステイン語やアルビオン語を少しは片言で話せるが、やはり使い慣れた言葉がいい。
この世界でも異邦人、『蛮人(バルバロイ)』であり続けるために。

「仲間ねえ。王様の首をちょーん、と刎ねられる仲間かよ。
 そういう奴らは、もうクロムウェルの旦那に従って、いい地位についてんじゃあねえか?
 街中か王宮へ行って、仲間になるか聞いてきてもらうかよ」
「馬鹿言うな。俺が何と呼ばれている? 悪魔か鬼神扱いだ。
 臆病な奴らに怖がられすぎている。この傷痕も、顔つきを一層悪くしやがった」

トラクスが、左の頬からこめかみを撫でる。ワルドとウェールズの『風の鎌』がつけた傷だ。
左眼はどうにか治ったが、三白眼と相まって迫力満点だ。これがなければ、ひょろっとした男なのだが。

「男前があがって、いいじゃあねえか。似合うぜ、サー・トラクス・オブ・スキタイアン。
 まったく、長ったらしい名前になりやがって。ナイトだかシュヴァリエだかキャバレーだか知らねえが」
「そう呼んでいるのは、デルフだけだろう。無駄口はいい、思い当たる奴はいないか」
「相棒と一心同体の俺様に、心当たりがあるかよ。フーケの奴に聞けばいいだろ。
 もしくは、時々襲ってくる命知らずの馬鹿野郎にさ」

トラクスを狙ってくるゴロツキどもは、命を取られはしないものの、片輪にされて帰される。
伝説の蛮人の恐ろしさを知らしめる方便だが、何日かに一度はしつこくやって来るのだ。

「そうだな、似たもの同士でいいかもしれん。それに雑魚でも数があれば、盾にはなる。
 賞金も貰ったし、有意義に使うか」
「有意義ってえんなら、酒場か娼館でも行きゃあいいじゃねえか。ゴロツキだらけだろ」
「俺は、その手の女に近づけないんだ。この『烙印』が疼きやがる」
「伝説の『ガンダールヴ』の証に、そんな効果があるなんて知らねえぞ。
 おおかた例の『ご主人様』が嫉妬深くて、馬鹿馬鹿しい効果をつけやがったに相違ねえ。
 蛮人丸出しのままじゃあ、碌な事がねえもんな。ひっひひひ」

と、ドアがノックされる。大きな音で、位置も高い。大男の気配だ。
「おいトラクス、噂をすればまたお客だ。今度はどこにする? 耳か? 鼻か? 目ん玉か?」
「黙っていろ。そうとは限らん」
返事をしないでいると、野太い男の声がした。

『おおい、蛮人騎士のトラクスさん。いるんだろ? 返事ぐらいしてくれよ。
 あんたの肉は、いい匂いで焼けそうなんだがなあ』

(続く)




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