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ウィザーズ・ルーン~雪風の翼~2

「……失敗?」
 緊張の面持ちでコルベールを眺めるタバサ。
 周囲の生徒達はトライアングル・クラスであるタバサが、あろうことか船を召喚してしまったことに驚きを隠せないでいる。
 サモン・サーヴァントで船を召喚するなんて、私はなんと愚かなのだろう。
 これではあの傲慢な従兄姫にまた悪罵の種を与えてしまうだけではないか。
「あやや! お待ちなさい。どうやらなかから誰か出てくるようですぞ。船なのですから艦長がいるのは当然でしょうが」
 扉から降り立つタラップを通じて男が姿を現した。
 艦長を任されるのだからそれなりの力を持ったメイジなのだろうが、男の格好はタバサの――というかトリステイン学院一同の――見たことのないものだった。
 まず収まりの悪い髪の毛は真っ赤で、しかも一房だけ青く染められている。
 真っ黒な上下と履き物に、これまた真っ赤な上着。船の色もそうだが、赤という色になにかこだわりでもあるのだろうか。
 とタバサを含めた一同が男に視線を集中させた瞬間、男がなにか話し始めた。
 しかし何を言っているのか聞き取れない。言語の違う所からやってきたのだろうか。
「……メイジ? でも言葉が通じない」
「あら。でもわりかしいい男じゃないの」
 キュルケは船が現れたときの驚きはどこへやら、すっかり男の容姿に目を奪われているようだ。
「ふーむ、メイジなのに言葉が通じないとはおかしいですな? とにかくまずはコントラクト・サーヴァントを。これは神聖な儀式ですからな。やり直しはききませんぞ」
 さあ早く、とコントラクト・サーヴァントをうながすコルベールに、タバサは逡巡する。
 見たこともない戦艦の艦長で、しかも言葉が通じないメイジ。
 タバサは「メイジの実力を見るには使い魔を見よ」という言葉を思い出して、ああそうかと頷いた。


 ――異国の地に突如追い出された身分の高い者、という意味ならこれ以上ないほど自分におあつらえ向きの使い魔ではないか。


 なんだこりゃ、とヘイズは思う。
 自分の身長より長い杖を持った貧相な胸の少女と、同じく杖を持った貧相な髪の男が、ヘイズを指差して何やら話している。
 ヘイズは少女のほうを見ながら、なんだか随分覇気のねえ顔してやがるな、しかしよく見ると結構可愛い顔をしてるな、けどオレの守備範囲にはあと二歳ほど足りねーな、などとどうでもいいことを考えていた。
 両手を挙げて投降の意思を示したはずだが、どうも言葉が通じていないようだ。
 日本語、英語、北京語、フランス語などヘイズが知っている一通りの言語で話しかけるが、どうやらヘイズの知らない言語圏らしい。
 となれば考えられるのは、消滅を免れたアフリカの核施設か、東欧の一部地域くらいだが、それにしてはここにいるのはフランス系かゲルマン系の容姿を持ったものばかり。
 こいつはどうしたものか、とりあえず現場責任者らしき男なら何か通じないかと思い、話しかけようとするが、それは少女のキスによって阻まれた。

 ここの女の子は随分大胆だな、最近の先天性魔法士は羞恥心がねえのかなどと妙に冷静なヘイズがいたが、ある考えに思い至りその思考は打ち切られた。
 ――オレとこいつの身長差でどうやってキスするんだよ。
 少女の身長は目算で150センチに届いていない。対するヘイズの身長は約百八十センチの長身。どう考えても背伸び程度では届かない。
 ヘイズは少女の足元が空中に浮かんでいるのを見て、驚愕することになった。
「光使い……いや炎使いか。それもカテゴリーAかよ」
 少女が浮かんでいるのを見て、とっさに空間曲率特化型魔法士である光使いが思い浮かんだが、重力制御特有の空間の歪みは見当たらない。
 となればまず思いつくのは炎使い。
 そして人体を浮かせるほどの空気を圧縮したまま留めておけるのは、一級品の炎使いでなければならない。
 とするとここは強力な環境維持の情報制御も含め、一級品魔法士生産能力を持った、シティに匹敵する力を持った施設ということになる。
 となればヘイズの行く末はI-ブレインの中身を吸い出して物言わぬ人形か、あるいは脳髄だけをとりだして次の魔法士作成の材料にする為に原子分解か。
 どっちにしても、鏡のようなものを見たときに感じたオレの勘は、完全に見当違いだったというわけかよくそったれ。
 徹底抗戦の構えに入ろうかヘイズが思案していると、
「あなたはわたしの使い魔になる」
 と淡々とした言葉が聞こえた。


 少女の言葉が急に通じるようになったが、何らかの翻訳用デバイスでも使っているのだろう。それよりもツカイマとか聞こえたがなんのことだろう……
「私はここトリステイン学院で教師をやっているコルベールと申します。艦長殿をやっていることから、メイジではあると思いますが、これは神聖な儀式なのです。
翻訳の為にルーンを刻む為とはいえ契約そのものは完了してしまいました。折り入ってはなんなのですが、この子……タバサの使い魔をやってくださらんか」
 コルベールの言葉から推測するにメイジは恐らく魔法士のことだろう。しかしルーンとはいったい……
「オレはヴァーミリオン・CD・ヘイズ。フリーの便利屋だ。シティIDはロンドンのがあったが……多分もう使えねえな」
 そこまで一息に言い切って、疑問を口にする。聞きたい謎単語とかもあるがヘイズにとって最優先事項だ。
「あー。契約とか使い魔とか訳わかんねえんだが、ええととりあえず捕獲して自我崩壊とか解体処理とかはなしでいいのか?」
「大切な使い魔にそのようなことはさせられません。何を勘違いしておいでか分からないが、これは春の進級がかかった重要な儀式なのです。それにほらあなたの左手に使い魔のルーンが刻まれておるはずですぞ」
 コルベールに促されて左手を見ると、いつの間にか識別用の論理回路か何かが左手に浮き上がっている。
 なんの前触れもなく現れたそれは驚愕に値する事実だったが、それよりも左手に変なものを付けられるだけで自我崩壊も精神崩壊もなしということで、ヘイズは有頂天なのであった。


「つまりは終身雇用ってことだな」
 ここはメイジだけを集めた学校であること、メイジはすべからく貴族であること、進級のために使い魔を召喚したら
何故かヘイズがやってきたことなどをかいつまんで説明された。
 そして使い魔として召喚されたものは一生メイジに仕えなければならないことなど。
 ――ようするに命が惜しければ、護衛兼雑用をやれってことかよ。
 メイジが魔法士の隠語だとすれば、貴族とはここで開発される魔法士の種類のことだろう。
 悪魔使いでもないのに随分と多機能だが、これほどの隠匿制をもった施設をかんがみれば頷ける。
 そして何の因果かあのゲートをくぐってしまったヘイズを拘束し続けると。
 今は何もされていないが、恐らくすぐに自分も実験体としてI-ブレインの解析作業が始められるだろう。
 未だにここが隠れ里的な魔法士開発施設だと思っているヘイズは、そう解釈して納得した。
「後の詳しいことはタバサに聞いてくだされ」
「じゃあねタバサ。私はルイズが気になるから、ちょっと見てくるわ」
 そういい残しコルベールとキュルケは、他の生徒のほうへ向かっていく。
 広場の向こう側で爆発が繰り返されているが、あれも召喚の儀式なのだろうか。
「ついてきて」
 タバサはひとことそういい残し、本を取り出しながら歩き出す。
 ノイズメーカーが手元にないために、これから取りに行こうということだろうか。
 それにしては銃も奪われていないし、通信機類も全く手付かずなのが気になるが。
 恐らく正面戦闘でもヘイズを倒せる自信があるということなのだろうか。それとも……

 何回目かの爆発音と共に「いいかげんにしろよ! ゼロのルイズ!」などと言う金切り声が聞こえてきたが、ヘイズはタバサの後を付いていくことにした。
 あの爆発には今以上の面倒ごとに巻き込まれそうな、そんな雰囲気があったからである。


 部屋に着くなり、襟元の通信機からあわてた様なハリーの声が響く。
「ヘイズ。大変です!」
 ハリーの声が聞こえた瞬間、タバサはびっくう、と先ほどまでの冷静さはどこへやら、あきらかに強張っていると分かる顔で辺りを見回している。
 なんだ、無愛想だと思っていたけど、年相応の可愛いところもあるんだな、とヘイズは思う。
「なんだ? もうオレは何が起きても驚きようがないくらいの経験をしているところなんだが」
「さきほどから艦のセンサーで調べてみましたが、どうやらここは魔法士研究施設でもなければ、地球上ですらないかもしれません」
「何っ!? おい、そりゃあどういうことだ!?」
 タバサは見ていて不憫なほどに、動揺しまくっているが、とりあえず今は無視。
「大気の組成成分、情報制御を介していない魔法、遺伝子操作では説明の付かない生物、天井が存在しないのに雲が広がっていない空、そしてこれは最も重要ですが……」
 そこでいったん言葉を切り、管制コンピュータに似つかわしくない重々しい口調で告げる。

「ここには月が『ふたつ』存在しています」
「何……?」
 口をあんぐりとあけて驚愕するヘイズを尻目に、窓から広がる夜空には確かに月が『ふたつ』輝いていた。

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