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ゼロのミーディアム 第一章 -13


さて、突然だが『土くれ』のフーケと呼ばれる盗賊を御存知だろうか?
デルフリンガーの置いてあった武器屋で少し話題になったものの、
ルイズが興味無し!と言わんばかりにスルーしてしまったため詳しくは語られなかった。
そこで僭越ながら少々ここで補足させて頂こう。(まあここを見ている方達には不要なのだろうが……)
『土くれ』のフーケとはその二つ名の示す通り土系統の魔法、その中でも主に錬金を得意とする盗賊である。
盗みのターゲットは主にトリステインの裕福な貴族達。
北に宝石の散りばめられたティアラがあると聞きつけば夜闇にまぎれ音も無く忍び込みこれを頂戴し、
南に先帝から賜った家宝の杖が有れば屋敷を派手に破壊してこれをいただく。
ある時は得意の錬金と潜入術を駆使し華麗に、またある時は巨大なゴーレムを使い豪快に仕事をこなす様は凄腕と言ってよいだろう。
まさに天使のように繊細に、悪魔のように大胆に。
もっとも、被害を被る貴族からすれば悪魔や疫病神以外の何者でもないのだろうが。


双月が天頂に達した深夜。その『土くれ』のフーケが魔法学院の本塔、宝物庫の外壁に垂直に立っていた。フーケは立っている壁から伝わってくる異質な感触に舌打ちする。
「流石は学院本塔の外壁…。固定化もさることながらこの厚い壁……」
今度は強めに壁を蹴った。それでも外壁は少し擦れて小さな傷がついただけ。
「固定化の重ね掛けで錬金は問題外、ここまでぶ厚いと壁だと私のゴーレムでも破壊はキツい……。まったく、あの禿チャビン、物理衝撃が弱点なんて言っといて……」
フーケは腕組みして目を閉じる。
(やっとここまで来たのよ……。『破壊の杖』…諦める訳にはいかないわ)
そして色々な手段を考えてみるのだが、これと言った物は浮かばない。少しばかり時間を置いてフーケが一つため息をついた。
「はぁ…やめやめ。今日は取りあえず様子見ってことにしとくわ」
手をひらひらと振り呆れた顔を壁に向ける。
望みの品はもう目と鼻の先、だがそこに越えねばならぬ一枚の分厚い壁が立ちふさがる。
……そのまんまですね、ハイ。

フーケが塔の壁を蹴り双月輝く夜空にその身を翻した。
「まあいいわ、待ってればきっと機会は回ってくるはず…」
そして闇夜に溶け込みその姿を消した。

いずれチャンスは来るとは呑気な事を言った事だが……。
意外にもその機会とやらはすぐに来ることになる。

「ねえ、水銀燈。あんたちゃんと覚えてるんでしょうね?品評会の事」
ルイズが自分の前に浮かぶ黒翼の少女に聞いた。
「当然よ。忘れてる訳ないじゃなぁい」
黒いドレスの裾を優雅に揺らし水銀燈がルイズに向き直る。
「…と言うか貴女、この光景見てて私が忘れてるとでも?」
そうして水銀燈が広場を指差し言った。青々とした芝生の敷かれた広場には、ルイズと同じ黒い色のマントをまとった二年生達が自分の使い魔を相手におめかししたり芸をしこんだりと溢れかえっている。
だがルイズにとって満足した答えではなかったらしい。
「そうじゃなくて!ちゃんと何やるか考えてるのかって事よ!」
他の使い魔達は主人の期待に答えるべくその主人と芸を練習をしている。
だからルイズはそれらを「品評会への備え?私には関係ないわぁ」と言わんばかりにのほほんとしている自分の使い魔に不安を感じていたのだ。
だがそんなルイズの不安に反して水銀燈、きっぱりと答えた。
「もちろん」
「え?」
「ちゃんと考えてるわよぉ。だから貴女は心配しなくても大丈夫」
「い、いつの間に……」
意外な答えだった。水銀燈のしっかりした言葉に安堵しかけるルイズ。
しかし最近の彼女の様子を見てても別に出し物の練習をしている気配などなかった。
自信ありげに胸を張る水銀燈にルイズは疑いの眼差しで再び問いかける。
「……本当なんでしょうね?一体何やるのよ?」
「だからそれは秘密って言ったでしょ?近い内に分かるとも」
「…?そんな事言ったっけ?……あ、」
近い内に分かると言う言葉でルイズは思い出した。
「もしかして本読んでた時に言ってた『いいこと』?」
「そうよ、大当たりぃ~」
水銀燈はそう言ってパチパチと拍手するが、その何となく小馬鹿にしたニュアンスにちょっと腹がたった。
だがあの怪獣図鑑と品評会用の出し物にどんな繋がりがあるのかは今一つピンとこない。
ルイズがもっと詳しく問いただそうとした矢先、
水銀燈が何かに気づいたのかピタリと立ち止まる。ルイズも彼女の視線の先を見やった。
「あ!あれがミス・ヴァリェールの使い魔の黒い天使さんじゃない?」
「ほんとだ!あの子お人形さんなのよね?かわいい~」
そう言って遠くから水銀燈を指差す二人の女子生徒。マントの色は茶色い、学院の一年生なのだろう。二人の生徒は笑いながら水銀燈に手を振っている。
水銀燈も苦笑いしながら手を振って答えた。
「あ~!手振ってくれた!」
「今日良いことあるかも!」
その様子に生徒は嬉しそうにキャーキャー騒いで塔の中へ姿を消した。
「あんた意外に人気者なのね」
「例の決闘でなんか変に有名になっちやったみたいなのよぉ…」
困ったように言うがまんざらでもない様子。

まあ、見た目愛らしい黒い天使のお人形が、学院内をうろついているのだ。水銀燈は学院のちょっとした名物のようになっていた。
妙な例えになるがこちらで言う、昔話題になった河川敷に現れるアザラシや直立するレッサーパンダのような物。
妙と言うか何か嫌な例えとなったが水銀燈もそれ察しているためまんざらではないとはいえ素直に喜ぶ事もできなかった。
(どうせなら憧れのお姉様とかの方がよかったわぁ…)
水銀燈が苦笑するのも仕方はない。
とりあえず自分の使い魔がそこそこ知れ渡っていることにルイズは気を良くしたのか水銀燈に問いただすのを止めた。

「…まあいいわ。でもちゃんと準備しといてよ?失敗して大恥かくのはあんただけじゃないんだから」
水銀燈がいつもの不敵な笑みを浮かべ自信を持って答える。
「フッ…大船に乗ったつもりで待ってなさい、本番ではドカンと一発決めてあげるわぁ!」
そしてそう言った後口元を手で覆いクスクスと不気味に笑いもう一度つぶやいた
「そう…文字通りドカンとね……。フフフ……」
……何企んでるんだこの人形。
そんな風に気味悪く笑う水銀燈を見ているルイズ。一度は解いた疑いの眼差しを向けつつタラリと冷や汗を頬に流してつぶやいた。
「……やっぱり心配だわ」
この不吉な予感が杞憂でありますように……
彼女は心の底からそう願った。

広場で使い魔と戯れている二年生達の中に見知った顔もいた。
塔の壁際に屈み込んでいるのはギーシュ。彼はでっかいモグラを相手に見つめ合ったり抱き合ったりしている。どうやらこれがギーシュの使い魔らしい。
「ジャイアントモールね」とルイズが言う。なる程土のメイジたる彼にぴったりの使い魔と言えるだろう。
知らぬ仲ではないので声でもかけようかと思う水銀燈だったが
彼の、目の下に隈を浮かべた顔で半笑いをしながら使い魔に抱きつく様子を見て近づくのをやめた。
気持ち悪い事この上ない、徹夜で仕込みでもしているのだろうか?
広場の隅っこに座り本を開いているのは先日食堂で会ったタバサ。


本番も近いと言うのに使い魔も連れず随分と余裕の様子だ。
(そう言えばこの子の使い魔は?)
と水銀燈が疑問に思った直後、巨大な影が広場を横切り翼をバサバサとはためかせタバサの横に舞い降りる。
「あれって図鑑にもあった…」
「風竜を呼び出したって言う子がいたって聞いたけどあの子の事ね…」
タバサの脇に降り立ったのは先日の図鑑にも載っていた風竜だった。
風竜は尚も読書を続ける主人にに顔をすりよせているが主人は無視して本から目を離そうとしない。
「風竜を召喚するなんてあの子メイジとしてもできるわね…」
ルイズがどこか羨ましそうにつぶやく。ルイズの言っている事は正しい、タバサは風系統のかなりの使い手なのだ。
「召喚した物でメイジとしての格が決まっちゃうのぉ?」
「そりゃそうよ。なんせ…」

「メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われてるのくらいだものね」


ルイズの言葉を遮り水銀燈の疑問に誰かが代わりに答えた。
その聞き覚えある声を聞き露骨に嫌そうな顔でルイズが後ろを振り返る。
いつの間にか二人の後ろに立っていたのは以前にも会った赤髪の女の子…と言っていいのかわからないくらい色気ムンムンな女性と、
その傍らに立つ燃え盛る尻尾のサラマンダー。
「キュルケ…」
「はぁい、元気してる?」
ニッコリと笑いかけ気さくに声をかけたキュルケに対しルイズは嫌悪感丸出しで言った。

その様子を端からみていた水銀燈。キュルケとサラマンダーのフレイムを交互に見やりポンと手を叩いた
「あ、なる程。貴女達見てたら納得」
キュルケの系統は火にして通り名は『微熱』、そして呼び出したのは火トカゲ。実に分かりやすい。
「わかってもらえたかしら?お人形さん?」
キュルケが水銀燈の方も見てニッコリと笑いかけた。
それは一見普通の笑顔に見えた、しかし水銀燈はその裏にある何かを直感する。
作り笑いだ。このキュルケ水銀燈に対し何かよからぬ感情を抱いているらしい。
水銀燈もニッコリと作り笑いを浮かべた。
「ええ、勉強になりましたわ」
わざと含みのあるように慇懃無礼に答える。キュルケもまたそれに気づきその笑顔を一瞬だけ妖艶にニヤリとさせた。
「フフフ…」
「フフフ…」
水銀燈とキュルケ、双方普通に笑っているがその目元に黒い陰がさして見えるのは気のせいだろうか?
そう言えばこの二人、なんとなく雰囲気が似ている。

(……空気重いわ)
両者の間に渦巻くドス黒い気配に蚊帳の外だったルイズが後退りした。

「それじゃあ私、フレイムと品評会の練習しなきゃいけないから」
キュルケはそう言って大してルイズもおちょくらずに去っていく。
フレイムもきゅるきゅる一鳴きして彼女の後に続いた。

(傍観してただけなのになんか疲れた…)
これが女のドロドロした戦いと言う物なのだろうか?ルイズには少し早すぎたのかもしれない。

「ねえ、ルイズ」
げんなりしていたルイズに水銀燈が声をかける。
「ギーシュは土のメイジだからモグラ、タバサは風竜ってぐらいだから風系統でしょうね、キュルケは火だからサラマンダー」
指折りながら使い魔と主の系統を並べていく。そしてそのもう一つの疑問を投げかけた。
「じゃあ私を呼び出した貴女は何の系統なのかしら?」
言われてみればごもっとも。ルイズ腕組みをし、首を傾げて考え出した。
そもそもルイズは魔法を使うと全て爆発として発現するのであって、彼女が魔法を使えないというのはいささか語弊がある。
勿論系統に関係無く爆発するためその属性はわからないが、メイジである以上必ず何かの系統はあるはずだ。

「あんた火とか風とか操ったりできる?」
「うーん、火に関しては少しだけ…でもサラマンダーとか火竜に比べると…」
実際水銀燈、その黒翼から青白い炎を放出したり出来るのだが、怒りにまかせて発現したり、
跳ね返されて自分が炎に捲かれたり(おかげで一度死にかけた、と言うか死んだ)と自在に操れるとは言い難い。
本人もあまり良いイメージが無いのか苦々しく答えた。

そして風、土、水にいたっては全くの管轄外だ。
「と言う事は…残る系統と言うと…『虚無』だったかしら?」
水銀燈は真っ当に言ったつもりだったがルイズはプッと吹き出して無い無いと手を振った。
「んな訳ないでしょ。虚無は遠い昔に失われた幻の系統よ?本当にあったのかすら眉唾物なのに」
「そうなの?虚無の系統」
「……あんた、もしかして虚無じゃなくって『虚無』と書いて『ゼロ』って思わなかったでしょうね?」
少々怒気を孕み苦笑いしてルイズが言う。
(『ゼロ』…!)
水銀燈がその言葉にピクリと反応した。途端、彼女の顔に影が差しうなだれるように俯かせる。
別段本気で怒った訳では無いのだが。
「水銀燈…?」
「ゼロだなんて……そんな事思わないわよ……」
突然沈んでしまった水銀燈にルイズが首を傾げた。
この一言、ルイズにとってはたわいもない冗談のつもりだったのだが水銀燈にとある疑念を浮かび上がらせた。
彼女は考える。
(ルイズに系統と呼べる物はない…そしてこの子は魔法を使えず『出来損ない』扱いされてゼロと呼ばれている……
ならその『出来損ない』に呼び出された私は……!)
自分の忌諱するあの言葉が頭をよぎる。彼女は認めない、認める訳にはいかないのだ。

「大丈夫?具合でも悪いの?」
自分の顔を覗き込むミーディアムの顔に水銀燈が我に返る。
それと同時に心配そうに見つめてくるルイズに罪悪感を感じた、思わず彼女を出来損ない扱いした事に。



「ルイズ」
水銀燈は鋭い目つきで契約を交わした少女を見つめる。
「へ?」
「貴女が私を召喚した事を、後悔はさせないわ」
「と、突然何よ。別に私後悔なんかしてないわよ」
気の沈んだと思っていた自分の使い魔の突然の真面目な口調にルイズは目を丸くした。
「そう言う意味じゃない。今言った言葉の意味…今度の品評会で証明してあげる」
「?」
水銀燈はそう言って未だ頭に疑問符を浮かべているルイズに背を向けると、心中でこうつぶやく。
(そうよ、私もルイズも出来損ないなんかじゃない……)
そしてぎりっと歯を噛み締めた。
(私は……ジャンクなんかじゃない……!!)

落ち込んだりやる気を出したりと忙しい自分の使い魔に戸惑いを隠せないルイズだが
「よくわからないけどやる気になったんだからまあいいや」
と結論づけ水銀燈の後ろ姿を見つめていた。
無論彼女の内に秘める思惑などわかるはずもない。


そして迎えた品評会当日。
特設された舞台の前に生徒、教師ら等学院中のメイジ達が集い、二年生達の従えた個性豊かな使い魔達の芸に心踊らせていた。

ルイズは舞台の袖で他の生徒達の使い魔達に視線を向ける。
使い魔は小さなカエルから巨大なドラゴンまで種類は様々。しかし皆、主人の期待に応えた渾身の一芸をもって観客を沸かせていた。
その様子を見ていたルイズ少々不安になった。
(みんな力入ってるわね…ちょっと心配になってきたわ……)
そして隣にいる自分の使い魔に目を向ける。
「……」
水銀燈は静かに待機所に設けられた椅子に座っていた。だがその表情は険しい。
気合いが入っていると言うより気負いすぎていると言った方がいいくらいだ。
だがルイズが不安な理由はそれだけではない。なんとルイズ未だに自分の使い魔が何をするのか知らされていないのだ。
(まあ多分アレよりかはマシよね……)

ルイズの言うアレとは…現在、舞台中央で大量の薔薇の花にまみれているギーシュ&ジャイアントモールのヴェルダンデの事だ。
おまけにギーシュ、前回見た時の目の下の隈が取れてない、むしろ酷くなっていた。非常にシュールな光景だ。
……こんな事やるために徹夜してたのだろうか?
観客の方も皆さんコメントに困るといった感じで、まばらに小さく起こる拍手がそれを物語っている。
もっとも、当のギーシュは微妙な反応にも気づかず決まった!と言わんばかりの笑みを眠そうに浮かべている。…まあ本人が満足してるならいいか。

水銀燈もいつの間にか隣でギーシュの出し物を見ていた。そして今まで黙りこくっていた重い口を開く。
「ギーシュ……やるわね……!!」
どうやら水銀燈の心にはストライクだったようだ。顎に手を当て深刻そうにつぶやいた。
「ま、まさかあんたも、あんなのやるつもり!?」
ここにきてルイズに焦りが芽生えた。冗談じゃない!あんな微妙すぎる芸なんかやられたら大恥かいてしまう!

「いえ……流石の私もあんな斬新なのは思いつかなかったわ……。ギーシュ、恐ろしい子…!」

「恐ろしいのはアンタのセンスの方よ」と突っ込もうとするルイズ、しかし観客から沸いた一際大きい歓声につられ意識をそっちに向けた。
ルイズの見た先にいたのは学院の空を舞う鮮やかな水色の風竜を駆るタバサ。
彼女の使い魔、風竜のシルフィードの力強くも美しい羽ばたきに観客は皆魅せられている。
「……あんなのが使い魔とか反則じゃないの…珍しいにも程があるわよ」
ルイズが拗ねるようにつぶやく。
「何よ、珍しさなら私だって負けてないわ。だから貴女ももっと胸をはりなさい!」
水銀燈の叱咤激励に少し励ましされたルイズだが(アンタが何するかわかんないから不安なんでしょうが……)と心中で愚痴った。

次に舞台に立ったのはキュルケ&サラマンダーのフレイム。
キュルケはお得意の火の魔法とフレイムのブレスを合わせた彼女らしいド派手な芸を披露。
巻き起こる炎がキュルケの艶のある体を、フレイムのたくましい体躯を照らしをこれまた観客を沸かせた。

「ぐう…ツェルプストーの奴…。腹立つくらいに見事ね~」
「あの子らしい派手な芸ね…。敵ながら天晴れと言っときましょうか」


「みんな頑張ってはいるけどやっぱりあの風竜とキュルケのが頭一つ抜きん出てるわね」
これは現時点でのルイズの評価。
観客の反応通りやはりタバサとキュルケが今のところトップを争っていると言える
「ええ、このまま行けば優勝は恐らくキュルケかタバサ……」
水銀燈もまたそれに同意した。
「あとギーシュ」
「いや、それは無いから」


そしてついに出番を迎える二人。
「続きましてミス・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」
司会進行のミスタ・コルベールが呼びかけた。

「出番よ、準備は?」
ルイズが自分の使い魔に聞く。
「ええ、いつでもよくってよ」
ようやく水銀燈もいつもの不敵な笑みを浮かべ答えた。
「行くわよ、水銀燈!!」
「仰せのままに御主人様……」
この日限りとなるであろう従順な使い魔の顔を作り水銀燈が言う。
この品評会で私達を認めさせる、そんな思いを胸に秘めて彼女は瀟洒な使い魔を演じ始めた。
ルイズが深呼吸をして舞台へと歩き出し水銀燈が後を追う。


舞台の袖から桃色の髪の少女と黒翼の人形が、ゼロとジャンクの凸凹コンビがステージの中央へと踊り出た!
舞台中央に立つルイズと水銀燈。まずはルイズが一歩前に出て紹介する。
「し、紹介いたします!わたくしの使い魔、す、水銀燈です!種類は…えーと…人形?」
こういった場に慣れていないのか少々上がり気味で水銀燈を紹介しだすルイズ。
人形?って…紹介されてるのに聞かれても正直困る。
ルイズをフォローするように水銀燈も前に出る。そして漆黒のドレス、そのスカートの両裾を摘んで持ち上げ恭しく一礼。
「皆様、お初にお目にかかり大変光栄でございます。わたくしの名は水銀燈…。我が主ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに仕えしお人形…」
そして舞台の上からにこやかに笑いかけた。
彼女をよく知る者が見れば自分の頬をつねって夢かどうか確認するような異様な光景。
ルイズの顔を立てようと言うのか完全なよそ行きの顔を見せ水銀燈が優雅に御挨拶。
「誰だお前ーー!?」等と言うこと無かれ。
人形と言えども水銀燈も一端のレディ。完全な少女アリスを目指す彼女はその気になれば礼節の行き届いた様子を見せる事だって十分できる!
……見せるだけと言うのが少々勿体無い気もするが。
ルイズは水銀燈の演出する見事な使い魔の様子に感動していた。
(やればできるじゃないのよこの子、いつもこんな感じならもっと嬉しいんだけど……)
最後はやっぱり愚痴になってしまったが…。


ルイズの瀟洒な使い魔に観客からも感嘆の声があがった。
そしてそれとは別に…

「お初じゃないぞー!知ってるぞー!」
「いつものSっ気はどうしたー!」
「銀様に踏まれたいー!」
「ああん!お姉様~」
一部の生徒が大きく沸いた。
どうやら水銀燈、思った以上に学院内に知れ渡っている上に知らぬうちにその人心を掌握している模様。
水銀党ハルケギニア支部の樹立も近い。

掴みはOK、ルイズはとりあえず一安心。だが問題はこれからだ。
(さ、あんたの手並み拝見と行くわよ)
ルイズが後ろに下がり舞台の前に立つのは黒翼の少女。
その片翼がドクン!と胎動するように見えた。
いや、錯覚ではない。黒い翼が波打つように流動し形を変えていく。
そしてそれは異形の、ドラゴンのアギトへと形を変えた。
観客の中の生徒からひそひそ話が聞こえてくる。
「おい…あれって例の決闘で青銅のゴーレム食ったって話の黒龍だろ?」
「え?食われたのってゴーレム作ったメイジの方じゃなかったっけ?」
「さっきの薔薇まみれがそいつだから食われてはないだろ」
「いや、消化される前に救出されたとか…」
「でもあれ異次元空間に繋がってるって噂で……」

何やら噂に尾鰭がついてエラいことになっている様子。
だが今の時点に限っては好都合。せいぜい驚嘆してもらうとしよう。
水銀燈はそう思い顔だけルイズの方に向けた。
「ルイズ、少し力を借りるわ」
「え?私も手伝う芸なの?」
「ええまあ…。でも貴女は何もしなくていい」
「言ってる意味が分からないんだけど」
「それはね…」
突如ルイズの指にはめられた薔薇を模した指輪が輝きだし熱を帯び始めた。
「言葉通りよ、貴女の中の力を引き出させてもらうの」
ルイズから指輪を通じ流れてくる力を黒龍のアギトと化した翼に収束。その禍々しさすら感じさせる口から光が溢れ始める。
指輪が一層熱を持ち、さらに自分の体から力を抜けていく感覚にルイズが慌て始めた。
「ちょちょちょちょちょちょーっと待って!いやホント、一体何するつもりよ!?」
水銀燈も少々苦しげに顔を歪ませ答えた。どうやら彼女自身にもかなり負担がかかっているらしい。
「黒龍のブレスは山をも崩す、そうだったわよね?」
「山を崩すの!?」
「……流石にそれは無理だから、ちょっとした花火みたくドカンとあげたかったのだけれど……!」
水銀燈は歯を食いしばり必死に力の制御を試みる。
「これは思いの他骨が折れそうだわ……!」
大気が震え、龍の上顎と下顎の間に供給された力がバチバチ稲妻のごとくと走った。
アギトの中の光が凝縮されまばゆい光を放つ光球と化していく。
見ていた生徒達はおろか教師達もその尋常ならざる様に騒ぎ始めた。
「水銀燈!あんた本当に大丈夫なの!?」
ルイズは苦痛の表情を浮かべる自分の使い魔を気遣ったがもはやその声水銀燈には届いていない。
水銀燈は力の制御を行いながら何かをぶつぶつつぶやいている。
「負けない…」だの「認めさせ…」だの「出来損ないでは…」だの断片的に聞こえてはくるが何を言っているのかはわからない。
「…っ!」
ルイズの指輪がずきっと疼いた。痛み共に水銀燈の心の中を垣間見る。
その心の中、あるのはたった一言の言葉。それでもはっきりと水銀燈の心の声が聞こえた。
(ジャンクじゃない…私はジャンクじゃない…!)
「ジャンク…?」
疼く指を押さえルイズがどこか悲しげな顔を黒い翼へと向けた。


翼の内の光球はさらに膨れ上がりもはやそのアギトに収まりきれないまでに達している。
黒龍が大きく震えだし禍々しさに拍車をかけその限界が近い事を物語っていた。
水銀燈は目を見開き叫んだ。
「私は、ジャンクなんかじゃないッ!!」
ズドン!と大砲でも発射したかのような轟音と共に光球が空へと撃ち出された。
その反動で龍を模していた翼が形を崩し羽を大量に撒き散らす。

さらに水銀燈の視界がぐらりと大きく揺れ霞んだ。やはりこの負荷は凄まじいものだったのだろう
「水銀……」
ぼやけた意識の中自分のミーディアムが駆け寄るのが辛うじて見えたが近づく前にその言葉は聞こえなくなり、
彼女は舞台に膝をつくと前のめりに倒れ意識を手放した。
倒れた水銀燈は舞台袖へと運び込まれ、床に寝かされたる。
命には別状無いようだ。意識はまだ無いが先程言っていた「ジャンクじゃない…」と言う言葉を繰り返しうなされている。
(ここまでこの子を苦しめる『ジャンク』って一体……)
ルイズは苦しむ水銀燈の頬を撫でながら思った。
頬をなぞっていた指が銀の前髪に差し掛かったその時、赤みを帯びた紫紺の双眸がパチリと開かれる。水銀燈が意識を取り戻したらしい。
「水銀燈!大丈夫!?」
「ええ、何とか…ここは…?そうよ!品評会!……つうっ!」
声をあらげるも頭を押さえて呻く水銀燈。まだ負荷は彼女の体に残っているらしい。
「品評会は…中止になっちゃったわ」
「中止?何でよ?」
「それはね…」
ルイズが指差した先にあったのは魔法学院の中央の塔。だが、五階の壁の一部が大きくえぐれ煙があがっている。
「何よあれ…怪獣でも出たの?」
「何も覚えてないのね…」
水銀燈の言葉にルイズが呆れるように言った。
「あんたがやったのよ…あれ」
「……私が?」
発射と同時に気を失ってしまった水銀燈は知らないが、
翼の黒龍から撃ち出されたブレスはそのまま本塔の五階外壁をかすめその部分を後片無く消滅させると、そのまま天に昇り破裂。
まるで太陽がもう一つ現れたかのような大爆発を起こし学院を眩く照らしたのだ。
もし射角がもう少しずれていたら学院長室ごと消し飛ばしていただろう。
「おかげで大騒ぎになっちゃって、幸い怪我人とかはでてないけど」
「そう…悪かったわね」
水銀燈がシュンと申し訳無さそうに沈んだ。
「別にいいわよ。あんたは十分頑張ったと思うし」
「……でも見苦しいところを見せてしまったわ」
だがルイズは優しげに微笑んで水銀燈の頭を撫でてあげた。
「気を失った事?そんな事ないわ、あんなの凄いの見せられたらそんなの帳消しよ」
「ルイズ…」
落ち込んだ顔で水銀燈はルイズを見上げた。いつも見せないような表情。ヤバい…すごく可愛い。
「こ、この話はこれでおしまい!取りあえずお疲れ様と言っておくわ!!」
顔を赤くしてルイズは水銀燈から顔を背けた。そこでふと頭に思い浮かんんだ事が一つ。水銀燈に訪ねてみる。
「ねえ、水銀燈。」
「何?」




「……『ジャンク』って何なの?」
とたん水銀燈の顔が凍りつき驚愕の表情になると自らを抱きしめるように腕を回し震え始める。
(え?なんか…まずい事聞いちゃった?)
まずいどころの話ではない。地雷も地雷の核地雷。
知らないとは言えルイズは彼女の前で最も口にしてはならない言葉を言ってしまった。
「ル、ルイズ…なぜそれを…?」
水銀燈のルイズを見上げる瞳が虚ろになり震えた声で尋ねた。
「いや…あんた品評会中にも言ってたし、気を失ってる時も……」
ルイズはばつが悪そうに頬をポリポリと掻いた。
「や、やっぱり今の話無し、無かった事にして!」
そして慌て自分の言ったことを否定する。まさか水銀燈がここまで拒絶反応を起こすとは思わなかったのだ。
「こればかりは私もあまり話したくないの…」
水銀燈は俯いたままルイズに呟き…
「……でも貴女の『ゼロ』と言われている事と同意気、とだけ言っておくわ…」
顔を上げて弱々しく笑ってそう言った。
「私と同じ…?」
本当は詳しい話を聞きたい。だが日頃の行いからは想像もつかね弱々しい水銀燈の様子を見るとルイズはそれを聞く事がはばかられた。

なお、塔の件については事故と言う形で処理されルイズと水銀燈に責任は問われなかった。
時刻は夜をまわり昼間の騒ぎも嘘のように収まったころ、ルイズと水銀燈も自室でくつろいでいた。

ようやく元気を取り戻しいつもの調子で水銀燈はぶつぶつ言いながら自分の翼を手入れしている。
例のブレスを撃ち出した際に派手に翼がばらけたため、片翼の羽の大部分が切れたり逆立ったりとボロボロになっていたからだ。

昼間の、自分の使い魔の凄まじいまでの能力を目の当たりにしたルイズがベッドの上に座り呟く。
「…もしかしてあんたアカデミーが開発した試作兵器とかじゃないでしょうね?」
そのあまりの言い草に翼をブラッシングしていた水銀燈が膨れっ面になった。
「失礼ねえ!お父様のお造りになられた薔薇乙女を兵器扱いするなんてぇ!」
「あんなの見せられたら仕方ないでしょ?」
「それなんだけど正確にはあれは私じゃなくて貴女がやったような物なのよぉ?」
「どう言う事?」
「あの時言ったわよね?『力を借りる』って。力を吸い取られるような感覚もあったでしょお?」
今一つピンとこないのかルイズがしかめっ面を浮かべ首を傾げた。
「だぁかぁらぁ~貴女の中の力そのままを引き出して私はただそれを撃ちだしただけなのよぉ!
……貴女の方こそ体の中に変な魔物とか禁術でも封印されてるんじゃないの?」
「冗談じゃないわ!怖いわよそれ!!」

たわいの無い会話だが水銀燈の言葉はあながち間違ってはいない。
薔薇乙女は指輪を通しミーディアムから力を、時に強制的に吸収する事も出来る。
――それは例えミーディアム本人ですら認識してない力であろうとも。

あの時品評会にいた生徒はもちろん教師や、あのオールド・オスマン氏すら見抜けなかった、水銀燈を通して引き出されたルイズの内に眠る力。

それが古代に失われた伝説の力と言うことを、本人達は知らない。知る由も無い。

「ふぅ……やっと手入れが終わったわぁ……」
水銀燈はようやく形の整った翼をぱたぱたとさせてため息をついた。
彼女はブラシを投げ出すとスッと部屋の窓に近づきそれを開くと……
「ちょっと散歩してくるわぁ」
ベッドの上で杖を弄くってたルイズにそう言って窓辺から飛び立っていった。
「あんまり遅くならないようにね~」
一応注意はしておいたがルイズの声がちゃんと聞こえていたかはわからない。

水銀燈が散歩と称して来た場所は以前ギーシュとの決闘の舞台となったヴェストリの広場。暗くなった広場には人影はなく黒翼の人形が一人佇むのみ。

「隠れても無駄よ。――出てきなさい」
水銀燈が塔の影を睨み言い放つ。
その言葉を受け出てくる赤い影。きゅるきゅる言いながら姿を表したのはサラマンダーのフレイム。
水銀燈が表情をやわらげ少し笑みを浮かべて言った。
「悪いけど貴方じゃないのよ」
そして次の瞬間その瞳がまた鋭く細められる
「…私が用があるのは――貴方のご主人様の方」


「へぇ?気配は消してたつもりだったのだけれど」
塔の影から人の影が現れフレイムの後ろに立つ。
「こちらから出てきてあげたわよ。感謝なさい……キュルケ」

「あら、お名前を覚えて貰えるなんて至極光栄ね、お人形さん」

豊満な胸を強調するように腕組みして現れたのは褐色の肌に赤い髪がまぶしい火のメイジ、
『微熱』のキュルケだった。


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