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ゼロのしもべ外伝-5

 アンリエッタがまだ王女だったころ、ラグドリアン湖の南に「ガイア教」という怪しい宗教が流行っていた。
 それを信じないものは恐ろしい祟りに見舞われるという。
 その正体は何か?
 イザベラはガイア教の秘密を探るため、トリステインから秘密のメイジを呼んだ。
 その名は……雪風参上!

第5話 

 げあげあ、とカエルがけたたましい声をあげている。
『妙な声を出しているな』
と、闇の中から鬼火のように浮かび上がる男の姿。
 目の下に十字傷のある、ネズミのような顔をした男。ギャロップだ。
「様子が変だ。見に行ってみよう。」
 サーカスの曲芸士のように、樹上を翔るギャロップ。まるで地上を走っているのと関係ない。
 いや、むしろ地上を走っている並の馬など問題とならぬぐらいの速度がある。
 樹上を飛び、空中でくるくるっと回転し着地をするギャロップ。その目に飛び込んできたのは…
「おお!これは…」
 そこには、何百というカエルが幾何学的な模様を描くように地面に横たわっていたのだ。
「こ、これはカエル文字…」
 汗をだらだらと流しながら、カエル文字を読むギャロップ。カエル文字、はガマ法師が重傷をおったときに仲間に連絡を行う術である。
最後の力を振り絞り、敵の弱点を伝える捨て身の技だ。
「つまり、ガマ法師は重傷を負ったのか…しかも、この内容は…ッ」
 そこには、
『においを つけた しょうじょ は にんじゃ ひのじゅつに やられた』
と、書かれていたのだ。

 雨が降る気配もないのに、カエルがげあげあとけたたましい声をあげている。
「なんでえ、やかましいな」
 のそりと寝床から身を起こしたのは、リョフの館の門番である。
「ときの声ならともかく、カエルの声とは風流じゃないね。」
 寝ぼけ眼で服を着替え、門へ向かう。外へ出ると夜がようやく白み始めたという雰囲気で、空には月が二つ薄ぼんやりとかかっている。上弦の月であった。それにしても妙なのは鶏がうんともすんとも言わぬことである。なぜだろうか。
「げぇっ!?」
 門を開けた、男が、ご近所さんをたたき起こすような素っ頓狂な声を出し、飛び上がった。
「こ、こいつぁいったい??」
 門の前に、全身の皮膚が火傷でただれたうえ、あちこちに刃物が刺さった男が、血だらけになって倒れていたのだ。それも周囲には山のようにカエルが群れている。鶏が鳴かぬのは、このカエルの群れに怯えてのことらしい。
「って、よく見たらガマ様じゃないですか。こりゃあ大変だ」
 あわてて駆け寄る門番。そう、倒れていたのは主人であるリョフの部下であり、よく見知った男、ガマ法師のものだったからだ。脈をとるとまだかろうじて息がある。
「……う、む……」
 手に触れたおかげか、意識を取り戻したガマ法師がうっすらと目をあける。
「ガマ様!?お気づきですか?大丈夫ですかい?」
「……こ、ここは…?」
 よたよたと上半身をなんとか起こすガマ法師。じっとしていてください、とそれを止める門番。
「リョフ様の屋敷です。いったい、なにがあったんですか?」
「おお…、そうか……。……ちょうどいい、リョフ様を…お呼びしてくれ…伝えねばならぬことがある……」
 かしこまりました、と邸内に駆け込む門番。けが人だ、誰か手を貸してくれ、と叫ぶと、何人かが顔を出す。それらにガマ法師の手当
てを任せ、自分は主の寝室へ向かう。
「なにごとだ」
 屋敷の騒ぎに目を覚ましたのだろう。寝巻き姿のリョフが、御簾を持ちあげ姿を現した。
「リョフ様、大変です。ガマ様が大怪我をおって門前に…っ」
「なにっ!?」
 タッタッタッと、門へと急ぐリョフ。玄関に行くと見えたのは、おそらく皆で中に運び入れたのだろう全身血だらけやけどまみれのガマであった。
「おお、ガマ…っ!?なにがあった!?」
「リョ、リョフ様…」
 リョフの声を聞き、焦点の定まらぬ目を開けたガマが、息も絶え絶えに言葉をつむぐ。
「ふ、不覚でした…中央が……送り込んだ工作員に……その工作員は…」
 意識が朦朧としているのか、うわごとを呟くようにしゃべるガマ。耳元に口を近づけて、なんとか音を拾える程度の大きさだ。
「……オルレアン……一人娘…シャルロット……可能性が……火の……術を……」
「ガマッ!?」
 だが、その呼びかけにガマ法師が答えることはなかった。すでに絶命し、この世ならぬ身となっていた。
 眼前のかえるたちが、今までの生前とした動きをやめてんでバラバラに動き出す。
 それを見て、ギャロップは全てを悟った。
「どうやらガマ法師は、死んだようだな」
 苦渋に満ちた表情をするギャロップの背後に、ぼうっと別の影が現れた。2メイル近い巨漢、ゴトーであった。これほどの巨漢にもか
かわらず木の枝はピクリとも揺れず、軽やかに現れた。
「うむ。」と、ギャロップが汗を流す。
「まさかガマほどのてだれがこれほどあっさりと破れようとは…」
 額に傷のある男、嵐月が同じくどこからともなく現れた。
「さすがに止めをすぐにさすだけの技量はないのだろうが、それでもおそるべき相手だ。」
「たしかに。さすがは中央が送り込んできたエージェントということか…」
 緑の髪をした男、マーグが少し離れた岩の上にいつの間にやら座っていた。
「皆も、カエル文字を確認したようだな。」
 ぬーっと気配を感じさせず現れた3つの影、すなわち魔界衆五連星残る4名が勢ぞろいしていた。
 4人の背後にゆらっと妖気のようなどす黒いオーラが立ち込める。周囲の空間が揺らぎ、質量を伴って現実を侵食していく。
「計画の都合上、万一があるゆえオルレアンの忘れ形見かもしれぬ小娘とはなるべく戦いたくはなかったが……」
「我らの仲間がやられた以上、そうは言っていられぬ」
「その通りだ。我々の仲間を殺した以上、その償いをしてもらわねばなるまい」
「魔界衆の名にかけて、血の報復をただいまより決行する……」
 4人の目が不気味に青白く輝いたのだった。

「クロロホルム!」
 リョフが大声で呼びつけると、鷲鼻で茶色い髪の男がサササッと現れた。
「少し話がある。他のものは、ガマの死体を丁寧に弔ってやれ。」
 はっ、という使用人の返事を背に、リョフはクロロホルムを連れて自室へ戻る。それにしても背の高い男だ。リョフと並んでも遜色ないではないか。
「いかがなさいました、主殿?」
 うむ、と頷くリョフ。
「ガマが最後の力でわしに知らせてきた。今度送り込まれてきた工作員は、どうも我らがオルレアン公の忘れ形見、シャルロット嬢の可能性がるというのだ。」
「ほう。」
 クロロホルムが目を丸くして驚く。
「噂では外国にやっかいばらいをされたと聞いていましたが、工作員になっていたとは……意外ですな。」
「うむ。しかし中央が我々に工作員を送ったという情報はまだ届いておらぬ。だが、事実ガマは工作員らしき少女に殺された。」
「つまり………国王直属の秘密部隊である、北花壇騎士団が動き出したということでしょうな」
 よほど国王はシャルロット様が憎いのですな、という言葉に、大きく頷くリョフ。クロロホルムは周囲に魔法がかかっていることを確認してから、
「ですがこれはチャンスでしょう。我々の計画では新興宗教の信者を増やし、信仰心から来る命知らずの兵隊を武器に首都に侵攻し、
ジョゼフの首をとるというものです。しかしそれだけでは成功するかしないかは微妙なところ。他の領主の動向は不鮮明でありました。
ここで王位継承権を持っていたオルレアン公の娘を旗頭にし、『オルレアン公の弔い合戦』を掲げれば、同調する領主も出てくるに違いないでしょうしな。」
 その通りだ、とリョフ。しかしクロロホルムは同時に首を振って、
「しかしまだその少女が本当にオルレアン公のご息女であるかという確証はないですな。なにしろガマの報告しかありませんしねぇ。」
「そうだ。そしてそれについてクロロホルム、貴様に見せたいものがある。」
 そしてついて来いと促し、リョフは扉を開け中の階段を降りていく。
 そこは地下室に通じる階段であった。開いただけでじめっとした、かび臭い空気が流れ出てきた。
 その階段を抜けると、そこは特別に頑丈に拵えた牢屋であった。魔物はおろか、竜やエルフすら閉じ込めることができるようにと特別に拵えた檻がいくつも並んでいる。中にはうつろな目をしたオークやゴブリン、あるいはボロボロになった人間が詰め込まれている。
「はて?」と首をかしげてクロロホルムがついていくと、リョフは中に青い竜が閉じ込められた檻の前で止まった。
「これは……?」
 残念だがクロロホルムは魔物に詳しくはない。元は平民階級であり、卓越した知能を見出され側近に取り上げられたのだ。使い魔と
は無縁の人生を送ってきた。
「風竜、に見えますな。」
「昨日、わしをこっそりつけてきたのでな。屋敷に入る直前打ち落としてやったのだ。が、どうもこれは風竜ではないようなのだ…」
 話し声で意識を取り戻したのか、風竜が目を開けた。身体を起こし、威嚇するように羽を大きく広げ、がおおんと吼えた。
「きゅいー!この三角チャリ親父!レディをこんなところに閉じ込めるなんてひどいのだわ!せめて美味しいご飯ぐらい出してくれればいいのに、魚とパンだけってひどいノー!」
 うおお、と思わず後ずさるクロロホルム。
「しゃ、しゃべった!?竜が、しゃべった??」
「慌てるな。わしの調べた限り、おそらくこれは韻竜に違いない」
 その2人の会話を聞いて、慌てて口を閉じる竜。
「りゅ、竜なんかじゃないの。ただのガーゴイルなの!きゅい!」
と、誤魔化そうと試みる。
「ただのガーゴイルが腹が減っただなどというのか?」
「さ、最新型だから、お腹もすくのー」
 必死にすっとぼけようとする。しかしどう考えてもバレバレであった。
「では、なぜわしをつけた?ただのガーゴイルであるおまえが」
「ぐ、偶然通り道の先に、三角がいただけなの。別に他意はないの。」
「ならばなぜわしの目を逸らすように、雲に隠れて飛んでいたのだ。」
「うぅ……、昨日から同じ事を何度も聞かれて疲れたのー…」
 ぐったりとして転がる竜。どうやら黙秘戦法に出たようだ。あからさまに不機嫌そうに、ぷいっと顔を背けるリョフ。
「貴様に見せたかったのは、これだ。昨日、打ち落としたときにはよく正体がわからなんだのだ。中央の工作員が使うにしては少し尾行がお粗末であったのでな。しかし、そのくせどうも絶滅したと思われていた韻竜のようではないか。韻竜を使い魔にするようなメイジならば、あそこまでお粗末な尾行をするようには調教をしてはいないはず。そういうこともありまったく理解できなかったのだ。だが今朝のガマの報告で全てはつながった。オルレアン公はハルケギニアにその名を知られた魔法の天才だ。娘に素質が伝わっていても不思議ではない。」
 と、竜に聞こえぬように小声でリョフがクロロホルムに語りかける。
「なるほど。韻竜を従えるほどの才能を持つ工作員、しかし韻竜は未成熟。となると、工作員がオルレアン公の娘である可能性は非常
に高くなりますな。」
「つまり、現時点で優先すべきは、オルレアン公のご息女の保護であるとわしは考えるのだ。」
「ならば問題なのは魔界衆でしょうな。」
 「うむ」とリョフが頷く。
「その通りだ。連中にはおそらくすでにカエル文字でガマの死は伝わったに違いない。となれば、連中は復讐心に燃え、オルレアン公のご息女かも知れぬ少女の命を狙うだろう。」
「そうなれば旗頭を手に入れるチャンスはふいになる……ジョゼフのことです。場合によっては、ズール様がオルレアン公の娘を殺害したため反逆罪と見て兵を挙げる、ということすらしかねませぬ。それを防ぎ、『ズール様が正義だ!』ということを内外に示すには、まずその少女への攻撃を中止させ、保護する必要があるでしょう。」
「そういうことだ。」
「しかし以上はあくまで、その少女がオルレアン公のご息女であるという仮定によるものです。まあ万一本物であったとしても死体を完全に処分すればよいのです。中央も自分たちが送り込んだオルレアン公のご息女について問い合わせをしては来ないでしょうしな。」
「だが、手に入れるにこしたことはあるまい。手に入れさえすれば、ズールを蹴落とし、俺が盟主としてガリアに君臨することもできようからな。」
 さらりと、とんでもないことを言うリョフ。どうやらこの男、心からズールに従っているわけではなさそうである。クロロホルムはいつも通りといった雰囲気で、
「ですがリョフ様。おそらく魔界衆は復讐に燃え狂っていることでしょう。名代と称してわたしが出向き、娘への攻撃を中止せよと命じても聞きはしますまい。」
「ふむ。だろうな。」
「ならばここは直接リョフ様がお出向きになりを保護する以外に方法はないでしょう。ですが赤兎ですら急いで半日はかかる距離。どうでしょう、ここはあの竜を使ってみては?」
 だがな、とチラッと竜を見るリョフ。
「わしも同じ考えであった。ゆえに、あれほど無礼な態度を示しながらも、我慢をしたのだ。」
 胸糞悪い、とばかりに竜を睨みつけるリョフ。クロロホルムはその様子を見て微笑み、
「わかりました。わたしが竜をおだて、リョフ様の命に従うように躾けましょう。向こうについてから、手討ちにでもなんでもすればよろしいではないですか。」
 クロロホルムの言葉に賛同するリョフ。そして鍵を取り出し、竜の入っている檻の鍵を開けた。
 疲れたふりをして横になっていた竜が首を上げ、頭だけを入り口へ向けた。
「これ、竜よ」
 というリョフの呼びかけに、おっくうそうに答える竜。
「きゅいきゅい。お腹がすいたから答える気力はありません。どうぞあちらへ行ってくださいな。」
「まあ、まあ、そういわずに。なに、今から上等の肉を召し上がっていただきます。しかし、このような場所では食欲も消えましょう。どうか外へ出られてはどうでしょう?」
「きゅい?」
 穏やかな態度で、笑みを浮かべ話しかけてくる茶色がかったブロンドの男の顔を、興味深そうに見る竜。
「お肉?とつぜん何事なの?マフィアは殺す相手に贈り物をするというあれなのかしら?」
「はっはっはっ。違いますよ。こちらの事情が変わったのです。単刀直入に言いましょう。あなたの主人が、我々が尊敬するオルレアン公のご息女であると判明したのです。」
「きゅ、きゅい?」
 おるれあんこう、って誰だったかしら?と疑問符を浮かべる竜。そういえばお姉さまをそんな風に呼ぶ人間が何人かいた気がするわ
とにじり寄っていく。その様子を見て、内心ほくそ笑むクロロホルム。
「実を言いますと、我々は今の国王ジョゼフに反旗を翻す一味なのです。その盟主として、オルレアン公の忘れ形見であるお嬢様を探していたのです。今回、我々はてっきりあなたをジョゼフが送り込んだ手先と思い、虜囚の辱めを受けさせてしまいました。しかし、部下の報告により、あなたが我々の盟主たる人物の使い魔だとわかったのです。」
 どうかご容赦を、と同時に頭を下げるリョフとクロロホルム。あまりの急展開に目をパチパチさせる竜。
「よ、よくわからないけど、お姉さまの仲間なの?」
「その通りですよ。」
 クロロホルムが微笑みかける。
「その件でお話があります。実を言うと、我々の部下があなたの主に命を奪われた仲間の敵を撃つべく、復讐に燃えているのです。このままではお嬢様の命が危ういのです。」
「な、なんですってー!?」
 きゅいー、とMMRばりに驚く竜。
「我々としては血気にはやる仲間を押さえたいと考えています。しかし、馬ではどんなに急いでも半日はかかります。しかし竜のあなたならば、ほんの数時間で村まで着くはずでしょう。お願いがあります。ぜひ、リョフ様を乗せて村へ急いで欲しいのです。そうでなければ、あなたの主は場合によっては命が…」
「きゅ~……」
 頭の中で、矢継ぎ早に浴びせかけられた言葉がぐるぐると渦を巻く。尾行がばれて、ここに閉じ込められたと思ったら、自分たちは味方だという。おまけにタバサの命が危ない、命を狙っているのは暴走した自分たちの部下。なにがなんだかさっぱりわからない。
 韻竜は、非常に賢い生き物である。人間程度には簡単に騙されたりはしない。
『お姉さまはあのいけ好かないおでこに命令されてここに来たの。つまり今の王様の敵だから、お姉さまの味方ということは考えられるわ。それから、罠だとすれば、ここから自分を出そうとする意味がわからないの。でももしかしたらきゅいきゅいを利用するために、うまい具合に言いくるめているのかしれないわ。でも……もし本当なら、杖のないお姉さまはピンチなの。怖いけどここは罠であっても乗ったふりをするのが一番なのかも…。』
 身体を起こし、2本の脚で大地を踏む竜。でかい。その動作だけで大地が揺れたような気がする。これで子供というのは信じられな
い。
 しかし、幼体とはいえその竜を落としたリョフも、並の人間ではない。
「わかったの。お姉さまがピンチと聞いて、シルフィードは黙ってられないの」
 罠があるとして、それに気づいていないとみせかけるために単純なもの言いをする竜、すなわちタバサの使い魔シルフィード。すでにバレバレであったが、そこは構成上の都合というものだ。
「では、我が主を乗せ村へ急いでくださいますかな?我が主、リョフでなければ部下の暴走を止めることはできませぬゆえ……」
「うー、あんまり気が進まないけどしょうがないのー。三角もみあげ、乗るがいいのー。きゅいー」
 一方そのころ、タバサは―――。
 宿に戻るわけにもいかず、山に篭っていた。
 これはすでに死んだガマに発見されるのを警戒してのことである。ただ丘に出ただけで自分を発見するような相手だ。用心に越したことはない。
『あんな巨大なカエルを使うような人間が警戒している以上、間違いなく何かが起ころうとしている。』
 こうなれば一刻も早く村を立ち去りたいところだが、来たときのようにノコノコ街道を歩いて帰るわけにはいけない。自分を逃がしたことで、警戒はさらに厳重になっているはずだ。だがシルフィードならば、警戒を空から破ることができる。子供とはいえ、仮にも韻竜。並みの風竜からならば、上手く地形を利用すれば充分逃げるだけの実力はあるのだ。
 そういうわけでシルフィード待ちで、タバサは山に篭っていた。
 野宿は初めてではない。これまでの任務には、野宿など序の口にすら入っていない苛烈なものばかりであった。
 ただ、火をおこすことができないのはキツイ。魔法の杖があれば、火を出さずに熱を作ることもできるのだが、今は手元にない。山の空気は底から冷えてくるようで、決して体脂肪が多いとは言えないタバサの身体から、徐々に体力を奪っていきつつあった。
『うん?』
と、タバサが異変に気づいたのは、夜もすっかりふけたころであった。
 カエルの群れが、整然と移動している。
 先日のこともあり、タバサは緊張した。自分を探してカエルを操っているのだと思った。
 だがどうも様子が違う。整列をしているのだが、それはパトロールというよりはまるで自分たちを誰かに見せ付けるような行進だったのだ。
 万一を考え、まんじりともできずタバサは息を殺して行進を観察する。まさか、見つかったのだろうか?思わず汗が落ちる。
 その行進は、夜明け前に、突如バラバラになり、消えた。カエルを導いていた糸が、突然ぷっつりと切れたようであった。
『おかしい』
 とタバサが感じたのは当然といえば当然であった。なにかカエルを操っていた男に、異変が起きたのではないか、と思った。
 だがひょっとするとこれは罠で、自分が死んだと見せかけおびき出そうとしているのかもしれない。
『ここは、待機』
 警戒し、動くことを想定されていれば、すぐに見つかるはずだ。そう考え、あえて場所を動くことをやめるタバサ。
 どのくらい経ったろうか。すでに日は高くなっている。
 焦げ臭い匂いが鼻をつき、タバサは顔を上げる。
 パチパチと、なにかがはぜる音。それが徐々に近づいてくる。
「山火事」
 音の方向に顔を向けると、火が森の木々を舐めながら、こちらに迫ってくるのが見えた。
「退避。」
 さっと、山火事から逃げようとするタバサ。しかし、その脚が止まる。
「……ひょっとして、罠?」
 そうだ。タバサをあぶりだすために、わざと山に火を放った可能性はある。火に追われ、飛び出たところを捕獲する手段は、一般的な兵法だ。しかし、火の海に飛び込んで助かる保証は、ない。
 そういえば、身体を洗った水場があった。しかし、そこにはおそらく敵が待ち構えているだろう。
『これだけのことをしてでも、わたしを逃がしたくない……』
 タバサは、自分がガマ法師を殺した犯人と思われていることを知らない。おそらく、謀反がごく近いのだろうと推測した。そのため少しでも情報を漏らしたくない、と考えているのだろう。
 覚悟を決めたタバサは、くぼ地を探す。ようやく見つかったくぼ地を、木の枝で掘り返す。掘り返してできた穴に身を横たえ、土を上にかぶせた。さらに皮袋の水を全体にふりかけ、手で口の前にできるだけ空間を作り、顔の上にも土をかけた。
 闇の中、木がはぜる音と、膨大な熱量が迫ってきた。
「どうしたことだ。」
 額に傷のある男、嵐月が汗を流す。眼前にはすっかり焼け野原となった荒野が広がり、ところどころ逃げ遅れた獣の焼死体が転がっている。
「われわれは周囲を見張っていたが、いのししや鳥こそ見れども、人が逃げ出してくる気配はなかったぞ。」
「信じられんな。月之助の火術を逃れる腕前のやつがいたとは。おまけに女の、子供だ」
「まあ、待て。ひょっとすれば、このあたりにはいなかったのかもしれないじゃないか。ひょっとすれば、村に潜伏しているのかもしれん」
「村に?」
 ギャロップが思わず問い直す。
「だが村人からそれらしき報告はないぞ」
「村を出た人間はいない。周囲にギャロップが張り巡らせた結界にも、誰一人かかっていない。このあたりにいることは間違いないはずだ。ならば村に潜んでいると考えてもおかしくはないだろう」
「ならば」
 と、緑の髪をした少年が立ち上がった。
「信者を使い、軒下から便所まで、徹底的に捜索させよう。ゴトーたちは、ほかの山を念のため探ってくれ。」
 全員が頷く。それとほぼ同時に、水に溶けていく絵の具のように、スーッと4人の姿は消えた。

「しかし、このありさまでどこに逃げたというのだ」
 それでも納得できないでいた嵐月が、ひとり呟く。
「わしの火術は完璧だ。それを逃れるなど、鳥になって空に逃げるか、モグラになって地面にもぐるかせねば…」
 そこまで言って、はたと足が止まった。
「地面!そうだ、山火事になったとき、穴を掘り、上に土をかぶせて耐えしのぐ技術があったはずだ」
 むむむ、と汗をたらす。
「ひょっとすると、その方法で逃げたやも知れぬ。仮にもガマを殺したのだ。用心に越したことはあるまい。」
 踵を返すと、嵐月は再び焼け跡へ戻った。

「ふう」
 土を持ち上げ、ゆっくりと身体を起こすタバサ。多少の火傷はあるものの、運よく火勢の弱かった場所であったため、タバサは火の海地獄を突破することができた。
 起き上がりぽんぽんと身体の上の土や灰を払う。シンデレラもかくや、というぐらい汚れている。はやく湯浴みをしたいような感じだ。
 周囲はすっかり黒一色だ。土まで焼けて、黒い。障害物がないので、見つかればひとたまりもない。幸いにも周囲に人影はない。今のうちに、はやくここから移動しなければ。だが、どこへ行くべきか。

「おお!」
 だが、起き上がったタバサを見つけた男がいた。戻ってきた嵐月だ。
「あの娘、やはり生きていたか。恐ろしいやつだ。」
 心からそう思い、汗をたらす。
「だが、もはやこうなっては逃げも隠れもできまい。周囲に万全の罠をしき、確実に葬ってやろう」

 タバサの進行方向、焼けた岩の上ににゅっと突き出る影一つ。
 嵐月だ。
「……見つかった。」
 タバサの歩行が止まる。さっと身をかがめ、物陰に身を隠す。
「ふっふふ。小娘、よくも火の海を生き延びた。たいしたやつだ。」
 だが、と嵐月はにやっと笑う。
「ならば今度こそ確実に、止めをさしてやろう。」
 嵐月が手をあげる。その瞬間―――
「!?」
 タバサはくるくると回転しながら、飛び退く。なぜならば、周囲に、学園の塔ほどもある火柱が、いくつもあがったからであった。

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