あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-11


「ちょっと、落ち着きなさい!」
「どけよ、ルイズ! あれが無いと、地球に───!」

 地球に帰れない。
 そこまで言いかけたところでクロードは言葉を詰まらせ、思わず手で口を押さえる。
 いくらなんでも、これを言葉に出してしまうわけにいかなかった。

「地球に……?」
「と、とにかく大事なものなんだ!
 失うわけにいかないんだよ、あれは!」
「あ、ちょっと、クロード!」
 怪訝そうに口を挟むルイズを黙殺し、視線を切って店を飛び出すクロード。
 ルイズは追いかけようとするが、手は虚空を掴んだまま、足は途中で止まる。

 ───そう言えば、アイツがあんなに取り乱したところなんて、見たこと無い。

 そう考えたところで、ルイズは自分がクロードのことをまるで知らないことに思い至る。
 彼の故郷、地球とはどういうところなのか、彼の家族はどのような人物なのか、
 もともと彼が地球で何をしていたのかすらも、知らない。

 そんなに大事なものだったんだろうか、あの白い箱が。
 もしかして、ご両親の形見とか。
 或いは、ギーシュの決闘のときに使った光を放った武器のように、
 何らかの危険な力を秘めた代物なのかもしれない。

 何気なく辺りを見れば、キュルケが珍しくオロオロして視線を彷徨わせている。
 偶然とは言え、アレを外に蹴り出してしまったことに責任を感じているのだろうか。
 いつもならばざまあみやがれ等と悪態の一つも出るのだろうが、
 今はそんなことをする気にもならなかった。
 その横では何故かタバサが眉間に皺を寄せている。
 まあ、この娘は大抵こんな表情だからどうでもいいか。

 兎に角、追わなきゃ。アイツは私の使い魔なんだから。
 改めて決意したところで、何かに引っ張られる感触。
 振り返れば、タバサがこっちに向き直ってマントを掴んでいた。

「……お勘定」
 そりゃごもっとも。
 ルイズは懐を確かめるが、その直後に何かを思い出したようにくずおれる。

「財布、アイツに掏られたまんまだった……」





「どこだ……どこへ行った……!?」
 血眼になって通りを探し回るクロード。
 先ほど蹴飛ばした人が拾っていってしまったのだろうか。
 となれば絶望的だ。最悪、古売屋を転々とするハメになるかもしれない。
 そこでふと、先ほど手に入れた相棒の存在を思い出す。

「おい、デルフ! お前、探索機能とか付いてないのか?」
「無い!」
 一刀両断、単刀直入、快刀乱麻の即答であった。
 とりあえず全力で壁に叩き付けておく。

「痛、痛ったッ!? お前な、俺はデリケェトな精密機器なんだからもう少し丁寧に扱えよ!」
「やかましい、この役立たず! 穀潰し! 木偶の坊! ××××野郎!」
「んまッ! お父さんはそんな下品な言葉遣いを教えたつもりはありませんよッ!」
「だれが父親だ! 教わったのは仕官学校でだ、文句あるか!」
「おでれーた、鬼軍曹仕込みかよ! 何時の時代も軍人ってのは変わらんねえ」
「何をゴチャゴチャ言ってる! 役に立たないんなら黙ってろよ、ああもう!」
「まあ落ち着け相棒、そんなときにゃカルシウムを摂取してだな」
「うるさいうるさいうるさいーッ!」

 柄だけの剣と漫才、もとい激しい口論を繰り広げるクロード。
 ハルケギニアには珍しい服装といい、どう見ても不審者です。本当にありがとうございました。

「あのう……」 
「何だよ!」
「相棒、今のは俺じゃねーぞ」
「へ?」

 頭に昇った血がスゥッと引いていく。
 そうだ、さっきのは女性の声だったじゃないか。
 果たして冷静になって辺りを見渡せば、ボロボロのローブを纏った妙齢の女性が一人。
 すわ、やっちゃった。慌ててクロードは頭を下げる。

「す、すいません! つい、興奮していて……」
「い、いえ、お気遣いなら結構なのね。きゅいきゅい」
 変な喋り方する人だな。
 そして、それと同時に感じる強烈な違和感。

 外見こそ自分よりも年上に見えるものの、態度や行動に一々落ち着きが無い。
 まるで迷子になった子どもか何かのように、何かにつけキョロキョロと周りを見回している。
 人の気配どころか、一本道なので両手とも先は壁であるにも関わらず、である。
 それに、みすぼらしい衣服とアンバランスな、妙に清潔でこざっぱりとした手足。
 流れるような海色の髪、健康的な肢体、あどけなさの残る天真爛漫な顔つき。
 そのどれもが、裏通りの淀んだ空気にはおよそ似つかわしくない。
 まるで、悪戯好きの妖精が人間世界に紛れ込んでいるような、そんな感覚であった。

「ええっと、その……お探しのものはこれではありませんか? きゅいきゅい」
「あっ!」

 そんなクロードの考えは、彼女の差し出した通信機によって吹き飛ばされる。
 ひったくるように取り返し、動作を確認。
 よし、壊れてはいないし、誰かが弄った形跡も無い。安堵の溜息を一つ。

 それと同時に、感謝も何もあったものではない己の無礼な態度を思い返し、赤面するクロード。
 ニヤニヤ、という表現が似合いそうな声色でデルフが茶化す。

「落し物を届けてくれたレディへの対応じゃねーなあ、相棒?」
「う、うるさい、解ってる! すいません、慌てていて……
 本当にありがとうございました。でも、どこでこれを?」
「そ、それは……そう、さっきそこで拾ったのね! きゅいきゅい」

 ……あからさまに視線が泳いでます。
 すいません、ルイズよりも嘘がヘタクソな人なんて、初めて見ました。
 今気付いたんですけど、つま先に付いている赤黒いものは何でしょうか。
 神様仏様ブリミル様、どうか余計なトラブルに巻き込まれませんように。

 クロードが頬を引き攣らせ、湧き上がるごっつい嫌な予感を心の棚に仕舞い込むよりも早く、
 件の女性は風のように身を翻す。
 たなびくマントの裾から絹のような素肌が見えて、クロードはどきりとした。
 もしかしてこの人、穿いてない?

「そ、それではこれで!きゅいきゅい」
「あ、ちょっと待ってください! せめてお名前だけでも!」
「な、名乗るほどのものではありませんなのね! シル─────」

 一同、再び珍妙なポーズで硬直。
 ええと、何でしょうか。このワシントン条約級の特別天然記念物は。
 数秒間オロオロと周りを見回して、改めて宣言する。

「わ、私の名前はシャルロットなのね!
 それではお元気で、クロードさん! きゅいきゅい」
 取って付けたような挨拶とともに、
 引き止める暇も無く旋風のごとく去っていくシャルロット(自称)。
 後に残されたのは、ぽか~んと立ち尽くす少年一人と自律AI一つ。

「……何だったんだろう、今の人」
「……さあな、俺にもわからん。普通の人間じゃあなかったみたいだが」
「……ああ、確かに普通の人ではなかったよな」
「……俺が言いたかったのはそういうことじゃないんだが」

 湧き上がる頭痛と倦怠感に溜息を一つ。
 風か嵐か、青い閃光。疾風のようにシャルロット(仮)。

「何だよ、その(仮)って」
「地の文に突っ込むな。それとも(笑)の方がよかったか?」
「……あのなぁデルフ? どうせ喋るんならもう少し意味のあることにしてくれ、疲れるだろ!」
「まあ落ち着け相棒、そんなときにゃ乳酸菌を摂取してだな」
「それはさっきも聞いた!」
「何を言う、繰り返しはギャグの基本だぞ」

 再び巻き起こる異邦人と剣(柄だけ)との漫才。
 この調子なら夏の使い魔選手権も後半でいただきじゃ。
 と、そんなアホなやりとりの天丼モードに入りかけた、まさにその時。

「何やってんのよ、あんたら……」
 聞き覚えのあるツッコミに、クロードの顔からいよいよ血の気が引いた。





 顔に『恥をかかせおって』と書いて白い歯を軋らせるルイズ。
 今更ながら、何も言わずにパニックを起こして武器屋を飛び出してきたことを思い出す。

「ごめんなさい、私のせいで……大切なものだったんでしょう?」
 詰め寄ろうとするルイズに先んじて、キュルケがもじもじと前に出る。
 ルイズの眉間の皺が深くなるが、完全に無視。
 クロードにしても自分に過失があった上に、既に目的の物は確保した現状において
 強く言う理由も気質も無く、頭を掻いてキュルケをフォローするしかない。
 そのさり気無さといいタイミングといい、流石は恋多き女と言うべきか。

「いや、落とした僕が悪かったんだ、君が謝ることじゃないよ」
「いやん、ダーリンったら優しいっ♪」
「コラァ、キュルケ! 許可も得ずに人の使い魔に勝手に抱きついてんじゃないッ!」
 ルイズの怒号が飛んだその直後、慌てながらもクロードはキュルケの肩を押して密着した体を離す。
 不満げにキュルケは唇を尖らせるが、ここは心を鬼にして無視の一手。
 これ以上、無闇に被害を拡大されるのは御免蒙る。

「ごめん、ルイズ。財布を預かったまま、お勘定も済ませずに飛び出してしまって。
 恥をかかせてしまって、本当にすまない」
 そして、再び怒声が飛ぶ前に機先を制して話題を振り、先手を打って頭を下げる。
 被害を最小限に食い止めるための生活の知恵である。
 これでせいぜい数十分程度の説教で済む─────はずだったのだが。

「ま、まあ、解ってるんならいいわ。
 ただ、お勘定の件は、その……ん~、何て言うか」
「え?」
 予想外に穏便な展開にきょとんとするクロード。
 ルイズは額に人差し指を添えて唸りつつ、ことの経緯の説明を始める。





「お題は結構って、どういうことなのよ?」
 眉間に皺を寄せ、怪訝そうに尋ねるルイズ。
 全身から放たれる不信感と威圧感に店主は怯むが、
 すぐに改めて真っ直ぐに一行の目を見て話し始める。

「いやいや、疑う気持ちはごもっともです。
 ですがね、恥ずかしながら、あの野郎があんなとんでもない魔剣だなんて、思いもしなかった。
 ありゃあこんなチンケな武器屋や、額縁に放り込まれるようなタマじゃなかったんでしょう。
 これでも武器屋の端くれ、武器と使い手の関係ってぇのは心得てるつもりです。
 デルフはあの兄ちゃんを待っていた。あの兄ちゃんにはデルフが必要だった。
 きっとこれも、始祖ブリミルのお導きだったんでしょう」

 想像以上にロマン溢れる話に、言葉を失う一行。
 ふぅっと息をつき、改めて店主は深々と頭を下げる。

「これは、奴の力を見抜けなかった俺の武器屋としての意地でもあります。
 この三文武器屋を哀れに思うのであれば、どうか持って行って下さらんでしょうか。
 せめてもの武運を、始祖ブリミルに祈らせてやっちゃあいただけませんでしょうか」





「ほぉ~う……あの親父、意外といいトコあんじゃねえか」
 デルフが感心するように唸る。

「フン、調子こいてんじゃないわよ!
 あんたは私の使い魔なんだからねっ!」
 対照的に、鼻を鳴らして怒鳴るルイズ。
 興奮して頭に血が昇っているのか、頬が少し赤い。
 主である自分を一足飛びにして、使い魔であるクロードが賛辞を受けたことが気に喰わないらしい。
 そんな主の姿に、クロードは苦笑する。
 これは、君がくれた力なんだけどな。

 この反応からして、どうやら彼女はガンダールヴについては知らされていないようだ。
 それもそうか、と、クロードは以前のコルベールとのやりとりを思い返す。
 良くも悪くも彼女は16歳の学生であり、力の責任と重さを知るにはまだ幼すぎる。
 迂闊なことを言えば、伝説の使い魔を呼び出した自分の未だ見ぬ潜在能力に増長するか、
 或いは逆に今の自分に焦燥感や劣等感を強めてしまうかもしれない。

(……父さんも、こんな風に僕を見ていたのかな)
 自身の意外な面倒見のよさに、自嘲気味に笑うクロード。
 離れてみて初めて、父の教えが実感として理解出来はじめた気がする。


『きゅいきゅいきゅい~』


 曰く形容しがたい、空気を読まぬ可愛らしい腹の虫が声を上げる。
 クロードは思わずルイズを見るが、物凄い目つきと口の端の歪み。
 彼女が犯人ならこんなKOOLな反応はありえない、没。
 次にキュルケ、予想済みとばかりに肩を竦めている。却下。
 と、すると──────


「「「……」」」
  「……」


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