あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

真白なる使い魔02


 青く澄み渡る高空が魂を高揚させる。若者達はこの大空の下、今日この日に巡り会った己の使い魔と友誼を交わし、この先続くであろうお互いの未来を夢描く。それはまるで、頭上に広がる雲一つ無い大空の様に、どこまでも果てなく続いていくかのような、そんな希望に満ちた出発点だった。
 そんな中においてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという少女だけは、ある種の絶望とでも言うべき表情を浮かべていた。彼女は確かに使い魔の召喚だけは何とか成功している。それは望んだとおりの『気高く凛として高貴な神聖さすら感じさせる美しい容姿』の・・・・・・人間の女の子。そう、人間の女の子だ。
 良識において、人間の使い魔など許されよう筈も無い。
「ミスタコルベール。召喚のやり直しを求めます。」
「ダメです。」
 当然なルイズの求めを、同行の教師たるコルベールは即座に拒絶する。
「ミスヴァリエール。この春の召喚は神聖な物なのです。この儀式において召喚された使い魔は、呼び出したメイジにとって最も相性の良い存在であると言えます。あなた方は、お互いがお互いを補う何かを持っているという事なのですよ。そして何より、この召喚によって現れた『使い魔』によって属性を固定し、専門課程へと進むワケですから、断固として認められません・・・・が、」
 と、そこまで言ったところで、コルベールの表情に険しい物が浮かぶ。
「とはいえ、彼女の場合、契約前に幾つか聞き出しておかなければ、色々と面倒がありそうではありますが。」

 そう、ルイズの召喚した少女は、見るからに貴族の令嬢としか思えぬ服装だった。これが只の平民だと言うならば、雇用というごくごく一般的な主従関係という形を取ることや、信頼関係を築く事も出来よう。しかし、相手が貴族(メイジ)であった場合、当人同士の意志だけではどうにもならない問題となってくる。場合によってはその事が原因で戦争などという事態とてありうるのだから。
 コルベールとしては、出来うる限りルイズを契約までこぎつかせたかった。普段、魔法がうまくいかず、失敗に次ぐ失敗。学科だけであれば学年でもTOPだというのに、実技がそういう状態のせいで、『ゼロ』などと渾名され、当人はそれを挽回すべく努力の限りを尽くしていると言うことを知っていたから。
 もし、これで再度召喚ともなれば、神聖な儀式である以上、この場での続行ではなく、留年という形になる。だが、それはあんまりではないか。あれ程に真面目な生徒など、教師生活を始めて以来の記憶を総動員して尚、せいぜい2人か3人といったところだ。そんな生徒にこれ以上絶望など味逢わせたくなどあろうものか。そう考えるとどんな生き物でも良いから、契約を達成させようと思わずに居られなかったのである。
 意を決し、コルベールはルイズの召喚した少女に問いかけた。
「お嬢さん。出会い頭で申し訳ありませんが教えて下さい。あなたはメイジ(貴族)ですか?」
 問いかけられたマシロの方はと言えば、メイジが貴族を指す事など知りようもないし、相手がそう言った意味合いでの答えを求めている事など知りようもなかった。故に、単に原義である『魔法使い』という意味で問われたと判断し、精々が突如現れた自分のことが、まるで魔法使いにでも見えたといった処なのであろうと考えるに至る。
「いいえ。違いますよ。ボクは只の人間です。」
 誤解を解くためと思い、微笑と共にそう答えたマシロ。だが、その質問の意味を誤解し、その誤解に基づいて導き出された回答は、新たな誤解の元にしかならない。実際、その言葉はコルベールに誤解をもたらす。つまりは彼女は貴族では無いと。
 この少女の装いや所作から見るに、彼女は平民ではあるものの、それなりに名の通った富豪の令嬢なのでは無かろうかと予想された。それもあの気品を見るに、貴族などに政略結婚で嫁がせ、メイジの血を自家に引き入れる事を目的として育てられた息女。だとしたら、使い魔とはいえ名門の大貴族であるヴァリエール家の息女であるルイズと契約を結ぶ事は、決して彼女の実家にとって不利益ではなく、むしろ祝福されるべき事柄ではなかろうか。コルベールはその結論に至り、決意を固めた。
「では、ミスヴァリエール。彼女と契約の儀式を。」
「はい。解りました。」
 ルイズは一瞬恨めしそうな眼差しをコルベールに向けるも、素直にその言葉に従うことにする。いざ、契約を結ぶべく真正面から見たこの少女は、同性である自分の目から見ても美しく清楚で、一瞬目を奪われた。刹那、紅を差した艶やかな花唇がふと開かれる。
「あ、あの一体・・・・。」
「いいから、
 我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 朗々とした詠唱と共に言葉を遮り、少女と軽く口吻を交わすルイズ。キスの経験の無い彼女は心から思う。召喚された使い魔が人間とはいえ、その相手がこの少女だったのは不幸中の幸いであったと。一方のマシロの方は、何がなにやら解らぬうちに、ふと気が付けば、目の前の桜色の髪の少女の、その可憐な唇で口を塞がれ、心臓が早鐘の様になり出していた。
『柔らかい。そしてキスがこんなに気持ちいいなんて、初めてだ……。』
 マシロのキスの経験はコレが最初という訳ではない。むしろ平均的な男子と比べるまでもなく多い。それというのも、共に暮らす4人の少女達の仕業なのではあるが、そんな彼女達との口付けより気持ちよく感じられたのだ。それはマシロの身に起こった異変が原因だったのであるが、その事には未だ気付いてはいなかった。ただ瞼を閉じ、うっとりと夢寐するかのように、その余韻に浸っていた。その二人の姿を目の当たりにした、ややふっくらとした体格の小柄な青年と、その友人らしき、やたら装飾の多いシャツを着た美しい顔立ちの金髪の青年が、貌を赤らめて股間を押さえうずくまっていたのだが、その事にマシロ達が気付く事も無く、ただ、マシロはその心地よい感覚に身をゆだねる。
 が、次の瞬間一変した。左手の甲に焼け火箸を押しつけた様な痛みが走る。あまりに唐突であった事もあり、その瞳には涙が浮かび、思わず右手を抱えてうずくまった。
「安心して。」
 目の前の桜の髪の少女ルイズが、マシロの肩に手を掛ける。
「それは、貴女の体に使い魔の印が刻まれているだけだから、すぐにおさまるわ。
 そういえば、出てきたときに、ここは何処か尋ねていたわね。ここはトリステイン王国のトリステイン魔法学院よ。」
「魔法学院?」
「ええ、そう。私達貴族の子弟が魔法を学ぶための学校。」
 ルイズの言うとおり、2,3言葉を交わしているウチに痛みは治った。恐る恐る右手の甲を見ると、彼女の言う通り、なにやらマシロの知らない文字で短い文の様な物が描かれているのが解る。呆然とその印を見つめるマシロの手を取り引き起こすと、ルイズが語りかけた。
「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。使い魔である貴女のご主人様よ。これから長い付き合いになるだろうし、仲良くしましょ。貴女の名前は何て言うの?」
「マシロ。マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム。ボクの事はマシロって呼んでくれると嬉しいな。」
 握手して微笑み合う二人。そしてマシロは、ルイズにこう尋ねた。そしてここから騒動の日々が始まる。
「で、ルイズちゃん。使い魔ってどういう事?それにトリステインなんて地名、ボクは知らないけど、エアルのどの辺りなの?」
 途端にルイズの表情が険しくなる。
「さっき言ったでしょ、私が貴女のご主人様って。つまりはそういう事よ、貴女は私の下僕な訳解った?。そもそもルイズちゃんってのは無いんじゃない?、ご主人様なんだから、そのまま『ご主人様』もしくは『ルイズ様』と呼ぶのが常識でしょうに。
 それとエアルって何よ。聞いたこともないわ。」
 プリプリと不機嫌さを隠そうともせずに言い放つルイズ。そうした二人の様子を見て、周りの生徒が『ゼロが使い魔を従えられずに揉めてるぜ』と指さして嘲笑し、それを聞きつけた彼女は、キッとにらみ付けて黙らせていた。そんなルイズの言葉にマシロは、困惑と共に答える。
「い、いや、エアルはこの星の名前でしょ?少なくともボクはトリステインなんて聞いた事無いよ。」
「ハア?トリステインを知らない?貴女一体どこの田舎者なのよ?」
 あきれ顔で返すルイズ。マシロはその勢いにやや気圧される。自然、その声はやや弱々しい物となっていた。
「いや、あのぉヴィントブルームの王都ヴィント市なんだけど。」
「ヴィントねえ?。それも聞いたこと無いわ。って、そう言えばヴィントブルームって、貴女の姓と同じじゃなかったかしら?」
 興味深そうな表情でルイズが言う。
「うん。ボクはコレでも一応はヴィントブルームの王様、というか女王様って言うべきなのかな。だから、国と同じ名前なんだよ。まあ、女王って言っても半年前に即位したばっかりの半人前の女王様なんだけどね。」
 屈託のない表情のマシロと対照的に、ルイズの表情はやや不機嫌な物となり、突如としてマシロの頬を摘み、そのままグイグイと捻りあげる。
「ウソおっしゃい。大体この世界にメイジでもない王族が居るわけ無いでしょ?。
 いくら貴女がそんな格好をしているといっても、精々が大富豪の令嬢ってとこでしょ。ウソを吐くにも限度ってモンがあるの。ヴィントブルームなんてもっともらしい名前を出しても騙されないわ、いい加減になさい。私も鬼じゃないから素直に答えれば許してあげるわ。さあ、さっさと本当の事をおっしゃい。」
「い、いひゃい。はなひて」
 泣いて懇願するマシロの言葉に、ルイズは捻りあげていた彼女の頬を放し、その手を腰に当てて詰め寄った。マシロは頬をさすって痛みが引くと、居住まいを正し答えた。
「じゃあ、答えるよ。さっき言ったのは全部本当のこと。証拠を出せと言われても困るけど、強いて言えばコレかな?」
「?」
 マシロが指さしたのは、自分の頭上。其処には、目映く光り輝くティアラが、光をたたえ存在していた。
「いくら富豪の令嬢だとしても、ティアラを身につけるなんて事は無いんじゃないかな?」
 正直ルイズは、マシロ自身に言われるまで、マシロの頭上のティアラの存在には気付いていなかった。それは今ならば解る。彼女の王としての気品に、ティアラも彼女の肉体の一部であるかのように、ごく自然な物と感じられたからだと。
 そして、全てが納得謂ったとき、ルイズの貌は真っ青となる。そう、自分が今為した事に。自分は一国の王を召喚し、使い魔として契約を行ってしまったのだ。でも、気付けというのも無茶な話だ。いくら何でもメイジでも無い人間が、貴族どころか王族だなどと解る筈もない。とりあえずだ、自分一人では決められないと、ルイズは判断した。

「ミスタ。ミスタコルベール!。」
 次の授業の為に、生徒達に学舎への帰還を促していたコルベールは、何か必死めいたルイズの声に、生徒達への指導を中断して彼女の元へ走り寄る。
「どうかしましたか?ミスヴァリエール。」
「ええ、実は・・・・・・。」
 ルイズの事情説明に、コルベールの顔もまた蒼白になる。
 当然だ。嫌がるルイズに無理に契約を勧めたのは他ならぬ自分なのであるから。彼女が王族であるかどうかの真偽の証拠は、未だに弱い。だが、これ以上の失礼があってはならないというのも確かだ。もはや、一教師の手に負える事態では無いのであるから、ひとまずは、学院長であるオールドオスマンに引き合わせるべきであろう。しかし、今日オールド・オスマンは公務で学園の外に出ている。
「解りました。ミスヴァリエール。貴方は本日この後の授業は欠席して良いですから、こちらのマシロ嬢に学園を夕方まで案内してから、学院長室までマシロ嬢を連れてきてください。そこで今後の事については話し合うことにしましょう。」
 ルイズはハイとだけ答え、悲しそうな面持ちで他の生徒達が教室へと戻っていく姿を見つめていた。マシロはといえば、状況こそ今一つ掴めていなかったものの、そんなルイズの悲しみの原因が自分にあると察し、せめて元気づけたいと思うのだった。



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