あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 6

午後の日差しを浴びながら、屋根の上でブータはゆっくりと伸びをした。
眼下の広場では、生徒たちが思い思いに腰を下ろして談笑している。
目を移せば、午前中の魔法の授業でルイズが破壊した教室が目に入った。
なるほどゼロのルイズか。老猫は鼻で笑った。
この世界の教師たちも見る目が無い。
あれでは魔法が成功するはずも無いではないか。
あの爆発の直前、ブータには見えたのだ。
全てのリューンがルイズの呼びかけに答えるのを。
なのにルイズはその中の「土」のみを使用しようとした。それでは歪みが起きるのも当然である。
黒のアラダが白のオーマを使うようなもので、当然効果も出なければ反動も大きい。
毛づくろいをしつつ、いつルイズにそれを告げようかと頭を悩ます。
機を逸した所為で自分が何なのかすら話していないのだ。
シエスタからかつてのブータの伝説を聞いてはいたが、
まさか自分の使い魔がその本猫だとは思っていないだろう。
どうするべきか、と首をかしげてふと気づく。
どうも広場が騒がしい。
悪趣味な服を着た道化師のような男が薔薇を咥えて叫びを上げた。

「諸君、決闘だ!」



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学院長室で、二人の男が顔を見合わせながら考え込んでいた。
オールド・オスマンとコルベール。
二人の視線の先には昨日ブータの前脚に刻まれたルーンの写しが有り、その横には全く同じルーンが描かれた書物が置いてあった。
開かれた箇所には『ガンダールヴのルーン』と見出しがついている。

始祖ブリミルに仕えた伝説の使い魔『ガンダールヴ』。
その力は一騎当千。全ての武器を使いこなし、詠唱中のブリミルを守りきったとされる“神の楯”。

「のうコルベール君、本当にミス・ヴァリエールの使い魔は猫だったんじゃな?」
「はい、猫でした」

二人が脳裏に思い描いたのは一人の少女。
初めて魔法が成功したと、無邪気に喜んでいたあの少女の姿だった。

「やはり……失敗だった、ということなのですか?」
「わからん。ガンダールヴがどんな姿をしていたかなどという伝承は残っておらんのじゃからな」

猫では武器は使えない。
だが刻まれたのはガンダールヴの印。
明らかに矛盾した二つの事象。
これは一体何を意味しているのか。

「ガンダールヴを呼び出すはずが猫を呼び出したのか、それとも契約を失敗して猫がガンダールヴになったのか……」

考え込んでも結論は出ない。
だがそれよりも問題なのは、

「もしミス・ヴァリエールがこのことに気づけば……」
「……あの子は真面目な子じゃ。きっと落ち込んで自分を責めるじゃろうな」

一生涯気づかぬなどということは有りえない。
ならば今の内にこちらから教えた方がいい。
けれど、どう言えばあの少女を傷つけずにすむのだろうか。

「始祖ブリミルは猫の手も借りたかったと言うのは……」
「ミスタ・コルベール、きみ、ぶっちゃけアホだろう」

二人の沈黙は、ミス・ロングビルによる決闘の報告が来るまで続いたのだった。



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周囲から向けられる嘲りの視線を全く意に介さず、ルイズは威風堂々と広場の中央へと進み出た。
その背後にシエスタを庇い、怒りに燃える視線で眼前のギーシュ・ド・グラモンを睨みすえる。

「やれやれ、考え直す気はないのかい、ゼロのルイズ。そのメイドが謝れば許してあげようと言ってるんだよ?」
「あなたこそわからない人ね。シエスタは謝らねばならない事など何一つしていない。彼女への侮辱はわたしへの侮辱とみなすわ」

ギーシュはやれやれと肩を竦め、どうすればこの頭の固い少女を納得させられるかと考える。

「ああ、いいかいゼロのルイズ。魔法が使えない、貴族とは名ばかりの君には解らないとは思うが……」
「解りたくもないわね、馬鹿の言い訳なんて。そもそも、貴族とは名ばかりなのはあなたの方でしょう、ギーシュ・ド・グラモン」

広場の雰囲気が変わった。
どこか余裕があったギーシュの笑みが強張り、薔薇を握る手に力が入る。

「二股をかけておいて責任も取らず、謝罪もせず、その罪を他人に押し付けるなんて最低よ。なぜそれが解らないの」

言いながらルイズは広場にいる全ての者の視線を感じた。
嘲笑の視線、憐憫の視線、ギーシュの怒りの視線。
幾十幾百もの視線の中で、それでもルイズは暖かい視線を感じる事が出来た。
後ろに立つシエスタの視線を、横で見守っているキュルケの視線を。
ならばいい。ならば大丈夫。
例え一人でも認めてくれる人がいるのならば、自分は万の敵の前でも臆さない。
だって、わたしは貴族なのだから。

「平民を守り、平民を助け、その代償として尊敬と権力とを持つ事が許されたのが貴族よ。
 それを忘れ、平民を蔑み、ただの道具のように扱う者をわたしは貴族と認めない」



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壁にかけられた鏡の向こうを見つめ、
洩れ聞こえたルイズの声にコルベールとミス・ロングビルが顔を見合わせて唇をほころばせる。
オールド・オスマンも満足げに笑いながら『眠りの鐘』の準備を始めた。
決闘になれば魔法の使えないルイズに勝ち目はない。
大事に至る前に発動させるつもりだった。



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キュルケもまた微笑みながら杖を握った。
変わらないなとルイズを見る。
あの日、ツェルプストーの夜会で、堂々と嘘をついたあの時そのままの姿だった。
あの時の自分は何も出来ず、ただ彼女を見ることしか出来なかった。
だが今の自分は違う。彼女と肩を並べることも、彼女を助けることも出来るのだ。
なんだか楽しくなった。自分と彼女は敵同士なのに、どうして彼女に力を貸す事が楽しいんだろう。
なにかあればすぐにでも飛び出すつもりだった。
ここでルイズが怪我でもすれば、大怪我して学院を去ったりすれば、自分が彼女に勝つ日がまた遠のいてしまうのだから。
横に立っていたタバサが本を閉じ、杖を構えた。

「タバサ?」
「手伝う。ヴァリエールは正しい事を言っているから」



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「僕が貴族じゃないって言うのか!」

怒りと共に呼び出された青銅のゴーレム『ワルキューレ』を見てもルイズの心は揺るがなかった。
幼い日に受け取った蒼い首飾りが、敬愛する父の姿が、母の教えが、誇りとなって彼女を支えていた。

「その通りよ、ギーシュ・ド・グラモン。
 人は貴族として生まれるのではなく、自分の意思で貴族になる。
 そしてあなたは自分の意思で貴族であることをやめたのよ」



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「ガンプオード、ガンプシオネ・シオネオーマ」
(勇気は偉大なり。勇気こそは諸王の王なり)


屋根の上の大猫が身を起こし、強大な敵を前に尚も嘘をつき続ける少女を見下ろした。
服の下に隠されていたが、それでも彼にはあの蒼い首飾りが彼女の胸で輝き始めたのを感じ取る事が出来た。
かつてと同じように、それはそのものの胸で燦然と輝きだしていた。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、我が主よ。
 わしはそなたの使い魔となったことを誇りに思う」



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自分を見つめるルイズの瞳にギーシュは狼狽し、心を震わせた。
彼はその瞳を見たことがあった。
それは彼の父の瞳、幼い彼に貴族の何たるかを教えてくれた父の瞳だった。

「認めない、僕は認めないぞ!」

そうだ、魔法の使えぬゼロのルイズの方が貴族を理解しているなんて、僕が貴族じゃないなんて、断じて認めない

―――認めるわけにはいかない!

この時、確かに、ギーシュはルイズに恐怖した。



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「―――そこまでだ」

それは誰よりも早かった。
ワルキューレに攻撃を命じるギーシュよりも、
杖を構えたキュルケとタバサよりも、
ルイズを庇おうとしたシエスタよりも、
鐘を鳴らそうとしたオールド・オスマンよりも。
稲妻のような速さで広場に飛び込んだそれは、雷鳴のような轟音を立ててワルキューレを吹き飛ばした。
宝物庫にぶち当たり、木っ端微塵に砕け散らせる。
それは軽やかに飛び退ると、空中で三回転してルイズの前に着地した。

「そこまでだ、若造。これ以上の狼藉はわしが許さぬ」

そしてそれは千年の昔にそうしていたように、主人の敵の前に立ちふさがった。



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