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Mr.0の使い魔 第七話

 深夜。全てが寝静まる時刻。雲一つない夜空に、赤と青、二つの月が
煌煌と輝く。その光は家も、大地も、人も差別しない。たとえそれが、
悪名高い盗人であっても。

「ふふん……いい具合だねぇ」

 トリステイン学院のペンタゴンを形作る五つの塔、そのうちの一本の
上で、黒いローブが風に揺らぐ。月明かりの中、僅かに覗いた唇が薄く
笑った。視線の先には、かつてと変わらぬ偉容でそびえ立つ本塔。
 だが。数日前にあの壁が強度を失った事、そして修復の際、ある教師
が唱えた【固定化】が“数日で効果が消えるタイプ”の簡易呪文であった
事を知る人間にとっては、頑丈そうに見えるだけのハリボテでしかない。

「さぁ、仕事の時間だ」

 人気のない中庭の地面が、山のように盛り上がった。


 Mr.0の使い魔
  ―エピソード・オブ・ハルケギニア―

     第七話


 自分はなぜ、こんなところにいるのだろう?
 半分寝ぼけてうまく回らない頭を必死に動かしながら、ルイズは現状
を理解しようと試みていた。
 朝、食事に行こうと部屋を出たところで、慌てた様子のコルベールに
クロコダイル共々連行された。学院長室に入ると、自分達の他に困惑顔
のギーシュと相変わらず無表情のタバサ、そして苦々しげな表情の教師
達が集まっている。全員が部屋に収まったところで、オスマンの長い話
が始まった。
 が。肝心の内容がさっぱり頭に入らないのである。やれ盗賊だのやれ
宿直だのやれ責任だの、単語の意味はわかるがそれぞれが繋がらない。
周りの教師達が、途中から口々に喚き出したせいかもしれない。
 五分ほど経っても喧噪は治まらず、結局よくわからなかったルイズは
隣のクロコダイルに小声で尋ねた。

「ねぇ、クロコダイル。何がどうなってるの?」
「宝物庫に盗賊が入って、【破壊神の槌】だとかいうお宝を盗み出したんだとさ。
 『土くれ』のフーケってヤツで、この間おれが壊したところをゴーレムで破壊したらしい」
「なっ、一大事じゃない!?」

 思わず叫んだルイズに周囲の視線が集まる。矛先が自分に向いた事に
気づいたが、少しばかり遅かった。

「そう、一大事なのです!」
「しかも元はと言えばミス・ヴァリエール、あなたの使い魔が壁を壊したからですよ?」
「以前の【固定化】の強度があれば、ゴーレムの攻撃でもそう簡単には破られなかった筈」
「まったく使い魔の制御もろくにできぬとは、主の資質が疑われますな!」

 これ幸いとばかりに口々に責め立てる教師に、ルイズは反論できない。
彼らの言う通り、きちんとクロコダイルの手綱を握っていれば、今回の
惨事は避ける事ができた筈なのだ、多分、きっと。

「黙らんかい、このボンクラどもッ!」

 目を剥いたオスマンの一喝が、すっかり縮こまったルイズを救った。
それまで騒いでいた者がはたと我に返り、ばつが悪そうに互いに目配せ
しあう。そんな彼らをじろりと睨み、オスマンは大仰にため息をついた。

「教師が生徒に当たり散らすなど何たる醜態!
 いくら盗賊騒ぎで気が立っとるとしても、彼女をなじる理由にはならんぞ」
「し、しかし、ミス・ヴァリエールの使い魔が壁を壊したのは事実で」
「それは既に解決済みじゃ! 今の問題はフーケが宝を盗んだ事じゃろうが!」

 反論しかけた教師の一人が、オスマンの剣幕に押されて後ずさる。
 ふと、「それなら詰問されるべきはクロコダイルでは?」との思考が
ルイズの頭に浮かんだが、口には出さなかった。彼らも怖いのだと理解
できたし、再び口撃の矛先が自分に向くのは勘弁願いたい。
 息を荒げる老体に代わり、今度はコルベールが口を開いた。

「さて、今回君達を集めた理由なんだがね。
 先日のミスタ・クロコダイルによる塔の破壊現場に居合わせたからだ。
 ミス・ヴァリエール、君には彼の主人という事で来てもらったんだよ」

 さらに続くコルベールの丁寧な説明によって、ようやくルイズも現状
を把握した。
 昨夜かの『土くれ』のフーケが学院の宝物庫に侵入、【破壊神の槌】
を盗み出して逃走した。その時ゴーレムが破壊した壁が、クロコダイル
の手によって削り取られた部分と一致する。迅速に塞いだにも関わらず
フーケがこの“弱点”を知り得たのは、破壊の現場に居合わせたからでは
ないか。オスマンらはそう判断して、当事者である三人+一人を朝早く
から呼び出した、というわけだ。

「だから、あの時不審な人影を見たとか、何か気づいた事があるとか。
 そういう事があれば教えてもらいたい。手がかりは一つでも多く欲しいからね」
「そう言われても……」
「特に怪しい輩はいなかったかと」
「知らない」
「心当たりはねェな」

 順にルイズ、ギーシュ、タバサ、クロコダイルである。四人の芳しく
ない反応に、コルベールを含め教師達はがっくりと項垂れた。

「こりゃあミス・ロングビルの報告待ちかのう」
「そう言えば、彼女は?」
「『一足先に情報収集に行く』と書き置きがあった。
 わしが言うより早く動いてくれるとは、まったく有能な秘書じゃよ。
 他の者にもあれくらいの積極性が欲しいもんじゃが、なぁ?」

 トゲトゲしいオスマンの言葉が終わるとほぼ同時、学院長室の扉が勢
いよく開く。駆け込んで来たロングビルは、期待の視線に応えるだけの
朗報を持ち帰った。

「オールド・オスマン、フーケの居場所が判明しました。
 森の奥の廃屋に入っていくのを、近くの農民が見ていたそうです」

 おお、と室内がどよめく中、クロコダイルが鋭い眼光をロングビルに
向けた。特に何を言うでもなかったが、値踏みするような視線に思わず
身じろぎするロングビル。
 そんな二人の様子に気づく事なく、オスマンが杖を振り上げる。

「うむ。では、これより捜索隊を編制する」
「え、王室に知らせて兵を出してもらうのでは?」
「バカモン! そんな事をしとる間に逃げられてしまうわい!
 第一、自らの不始末の尻拭いができんで貴族を名乗れようか!」

 首を傾げるコルベールにオスマンの怒声が飛んだ。言葉に詰まる彼を
一瞥すると、オスマンは鼻息を荒くして再び告げる。

「改めて、捜索隊を募るぞい。我こそはという者は杖を掲げよ」

 その言葉に反応する者はいない。互いに顔を見合わせるばかりで、誰
一人立候補しようとしなかった。相手は盗賊とはいえ、多数の貴族屋敷
を荒らし続ける凄腕のメイジだ。しかも、強度的には以前より劣る事を
差し引いても、多重の【固定化】をやすやすと突破したのである。平穏
な生活に慣れている教師にとって、そんな危険な敵と戦うなど冗談では
なかった。

「なんじゃい、フーケを取っ捕まえようという気概ある貴族はおらんのか」

 呆れたようにオスマンが呟いた、その時。


「わたしが行きます」

 俯いていたルイズがその杖を掲げ、凛とした声で宣言した。教師達が
呆然とする中、クロコダイルも左手のかぎ爪を挙げる。

「主に従うのが使い魔のつとめだ、おれも行こう」
「と、当ぜ「ミスタが向かうのならば、このぼくも!」な「行く」ちょ、あんた達!?」
「ほほ、こりゃあいいわい! 教師より生徒の方がよほどやる気がある」

 さらに続いてギーシュとタバサも。
 おまけにオスマンが口を挟んで、余計に教師が出る幕がなくなった。
今ルイズ達を諌めれば、その者にお鉢が回るのはわかりきった事。また、
クロコダイルは以前の強力な【固定化】を破壊した張本人、つまりそれ
だけ強いのだ。口出しをしない方が丸く収まるのは、誰の目にも明らか
だった。
 うむうむと頷いたオスマンは、一転して厳めしい顔つきでロングビル
に告げた。

「ミス・ロングビル、彼らの案内役を頼むぞい」
「かしこまりました、オールド・オスマン」


 馬車をとりに向かったロングビルと別れ、ルイズ達は塔を出る。途端
に、ルイズは今最も顔を合わせたくない人物と遭遇するハメになった。

「あら、タバサ。そんな大勢でどこ行くの?」

 声をかけたのはキュルケであった。大所帯、しかも普段は見ないよう
な組み合わせであるので、かなり目立つのだ。特にタバサが自分以外の
誰かと行動を共にしている光景は、キュルケにとって初めてのもの。声
をかける要因としては十分だと言えよう。
 呼びかけられたタバサが顔を向けたが、彼女より早くルイズが口を開
いた。しかもキュルケを無視する形で。

「みんな、急ぐわよ。敵は待ってくれないんだから」
「ちょっと、ヴァリエール。あたしはタバサに……いえ、それよりも、敵って何?」

 カチンときたキュルケだったが、聞き逃せない単語に矛先を変えた。
敵、つまりこのグループはこれから戦いに行くという事だ。あるいは何
かのトラブルに対しての比喩表現か。どちらにしてもおもしろそうだ、
とキュルケは思った。

「な、何でもないわ。あんたには関係ないわよ」
「あら、つれないわね。あたし達友達じゃない」
「誰がよ!」
「まあまあルイズ、落ち着きたまえ。戦力は多いにこした事はないだろう」

 出かける前のもめ事はごめんだとばかりにギーシュが仲裁に入った。
思わず彼を睨みつけたルイズだったが、言っている事はもっともである。
自分のプライドと戦力増強、どちらをとるべきか。

「小僧の言う通りだが、役に立つのか?」

 思い悩むルイズをよそに、相変わらずの横柄な態度でクロコダイルが
問う。対するキュルケは、不適な笑みを浮かべて杖を抜いた。

「あら、言ってくれるわね。これでもトライアングルよ?」
「なるほど。なら連れて行っても問題はなかろう、ミス・ヴァリエール」
「……わかったわよ、もう」

 クロコダイルの一言で、ルイズはあっさりと意見を翻した。渋る理由
はあくまで個人的なもの。あまりわがままを言うとあの顔で睨まれるの
は確実なので、それを避ける為に意見を曲げるのも止むなし、である。
 逆にキュルケは拍子抜けしていた。実力を披露しようかと思っていた
のに、思いがけない対応で気勢を削がれてしまったのだ。脳裏に浮かべ
ていた呪文も完全に無駄である。
 ちょうどそこへ、幌のない荷馬車に乗ったロングビルが到着した。

「お待たせしました。あら、ミス・ツェルプストー?」
「同伴する事になった」

 小首を傾げたロングビルに、クロコダイルが簡潔すぎるほど簡潔に説
明する。彼女はそれで納得したようで、キュルケに優しく微笑んだ。

「まぁ、頼もしい。よろしくお願いしますわ」
「え、ええ」

 釈然としないものを感じながらも、荷台へ乗り込むキュルケ。人数を
一人増やしつつ、捜索隊は学院を出発した。


   ...TO BE CONTINUED

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