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ウルトラマンゼロの使い魔
第百十六話「弄ぶ眼」
奇獣ガンQ 登場
ガリア王国からタバサを救出し、遂に魔法学院へと帰還を果たしたルイズたち。しかしそれから
ほどなくして、すぐに次の冒険がアンリエッタによってもたらされた。
ルイズたちはティファニアをウエストウッド村の子供たちごとトリステインまで保護するよう
命じられたのだった。やはり、ガリアが暗躍を見せる中で誰にも守られずにいるというのが心配
とのことだった。
道中目立ってはいけないので、アルビオンに向かったのはルイズ、才人、ギーシュ、タバサと
キュルケの五人という少人数だった。本来は前者の三人だけのはずだったが、学院を出発した
ところでタバサたちが同行してきたのだ。しかもそれを決めたのは、意外にもキュルケではなく
タバサの方だという。シルフィードに乗せてもらえたので、結果的には大助かりではあるのだが……。
タバサの見せた積極性を、才人はいささか怪訝に思った。彼女は直前にも、侵略者ではなく
国家そのものを敵に回すということでとりあえず読み書きが出来た方がいいだろうと思い立ち、
勉強を始めた才人とばったり鉢合わせになると、何を思ったかその手伝いをしてくれたのであった。
お陰でとてもはかどったのだが……確かに今までにも何度も危ないところを助けてくれたとはいえ、
平時までこんなにも積極的に協力してくれるのは初めてのことだった。ガリアから救い出したことに
恩義を感じているのかとも思ったが、それならルイズたちにも同様でないといけない。今のところ、
それらしい様子は見られなかった。
タバサのそんな変化の原因について、彼女の親友キュルケに尋ねたところ「きっと、あなたは
特別なのよ」と何やら意味深な答えをいただいた。それはどういう意味なのか、才人にはよく分からなかった。
ウエストウッド村の入り口に到着してから、チラ、とタバサの顔を一瞥する。
「パムー」
タバサの頭の上のハネジローがひと鳴きした。ハネジローはタバサにベッタリなほど懐いており、
ウエストウッド村にまでついてきてしまったのだった。それはともかく、肝心のタバサの方は相変わらずの
無表情で黙りこくっており、何を考えているのかは窺い知れなかった。
黙りこくっているといえば、もう一人……ルイズもタバサに負けないくらい静かで、しかも
纏う雰囲気がどこか重かった。
キュルケが才人をつつく。
「ねぇサイト。ルイズ、一体どうしちゃったの? 朝から変よ。黙っちゃって……」
「いや……実はな」
才人が事情を打ち明けると、キュルケは驚いた声を上げた。
「まあ! 精神力が!」
「しッ! 声が大きいよ」
実は今のルイズは、精神力を使い果たして魔法を撃てない状態に陥っているのだった。
それが発覚したのは、前述のタバサに読み書きを教わったことに連なる混乱の際。タバサが
才人をいやに親しくしているのをルイズが邪推し、そこからなんやかんやあってまぁいつも通りに
ルイズが憤怒して爆発を食らわそうとしたのだが……何も起きなかったのだ。他の魔法も一切、
発動しなかった。
このことについてデルフリンガーが、ルイズの精神力が底を尽きたのだと語った。しかも
“虚無”の魔法の場合は普通の系統魔法よりも溜めるのに長い時間が掛かり、いつ回復するかは
彼にも分からないという。
「強いってことは、それだけ使いづらいってことさ。むしろ今まであれだけバカスカ撃ってて、
よく持ってたもんだよ。恐らく、相棒がそうだったように、娘っ子もでっけえ悪を前にした際の
感情の高ぶりで精神力を生み出してたんだろうな。だがそいつも遂に限界が来たんだろうね。
そうそう上手い話はねえってことさね」
それで朝から落ち込んでいたルイズではあるが、どうもそれだけではないようだった。
出発時に彼女へ実家からの手紙が届いたのだが、それを読んでからますますひどくなった
ように見える。アンリエッタを前にした時も、ひと言も発しなかったくらいだ。
どんな内容が書いてあったのかは知らないが、あの厳格な家族の元から送られてきたものだ。
きっと今のルイズに追い打ちを掛ける内容だったのだろう、と才人は考え、ひとまずはそっと
しておくことにした。
「あらら、じゃあゼロのルイズに逆戻りって訳? でも、爆発すらしないんじゃ、更に重症ね」
「言うなよ。気にしてるんだから」
「でも、そっちの方がいいんじゃない?」
キュルケが真顔で言った。
「何でだよ」
「あの子に“伝説”なんて、常々荷が重いって思ってたの。あたしぐらい楽天的な方が、
過ぎたる力にはちょうどいいのよ」
そうかもしれない、と才人は思った。
さて、一行はティファニアの家の前に並んだ。藁葺きの屋根から、煙が立ち上っている。
「お、いるみたいだな」
「いやぁ、こんな簡単な任務でいいのかねぇ。いつもの怪獣に追われるような苦労に比べたら、
何だか拍子抜けしてしまうよ」
ギーシュが鼻歌交じりに言った。
「もう、ほんとにお前ってば緊張感がない男だな」
「きみに言われたくないな。というか最近のきみはおかしいぞ」
「俺が?」
「そうさ。何だか妙な使命感に振り回されているように感じるよ。昔のきみはもっとこう、
適当だったじゃないか」
「そうか?」
「ああ。もっと気楽にいきたまえよ。気楽に! あっはっは!」
確かに言われてみれば、最近はどうガリアに立ち向かうかということばかり考えているような
気がすると感じる才人だった。しかし状況が状況だし、幾度もの戦いを越えて戦う勇気を手に
したのだ。考え方の一つくらいは変わるだろう、と重くは受け止めなかった。
「そんな油断してるとね、ろくなことがないわよ」
キュルケがギーシュに呆れた目つきを送った。
「望むところさ! ウチュウ人でも何でも来い! さてと、この家だな」
ギーシュは調子づいて、ティファニアの家の扉の前で声を張る。
「ご家中の方に申し上げる! オンディーヌ隊長、ギーシュ・ド・グラモン! 王命により
参上つかまつった! では御免」
返事もなしに扉を開けたギーシュが、一瞬で固まる。
「何よ。どうしたのよ。ほんとに中にウチュウ人がいたの?」
キュルケも中を覗き込むと、やはりその身体が硬直した。
才人とタバサは顔を見合わせて、二人同時に扉の中に顔を突っ込んだ。家の中にいた二人の
人物の姿に、才人たちも固まった。
一人はティファニア。こちらに呆然とした顔を向けている。しかし懐かしいティファニアに、
声をかける余裕さえなかった。残りの一人が問題だったのである。
タバサがつぶやく。
「フーケ」
もう一人は、学院から破壊の杖――スパイダーと青い石を盗み出そうとした盗賊であり、
ウェールズを一度殺害したワルドに協力していた女であり、タルブの村を焼き、あの悲惨な
アルビオン戦役の原因となったレコン・キスタに与していた、フーケがそこにいたのだった。
そこから、一時は大混乱となった。激昂した才人がフーケに斬りかかり、激しい決闘が
始まろうという事態にまでなった。しかしそれを止めたティファニアによって、フーケの
意外な事実が明らかとなった。フーケの本名はマチルダであり、彼女の父が仕えていた
相手でありフーケの命の恩人の娘がティファニアだということが。どこから捻出されているか
不明だったウエストウッド村の生活費は、フーケによって賄われていたのだ。もちろん、
フーケは己の仕事をティファニアには秘密にしているのだが。
憎き相手ではあるが、ティファニアの姉代わりだという彼女をよりによってティファニアの前で
倒すことは出来ない。才人たちは仕方なしに、フーケと同じ空間を過ごすことになった。ずっと
ギスギスした空気が漂い、ハネジローだけが同じ小怪獣のミーニンに興味を持って戯れていた。
そして本題である、ティファニアのトリステインによる保護に関しては、意外にもフーケが賛同した。
その晩、さっさと帰り支度を行うフーケを才人は呼び止めて問いかけた。
「俺たちがどうしてテファを連れていこうとするのか、聞かないのか? 心配じゃないのかよ」
フーケは微かに寂しそうな表情を浮かべて、答えた。
「どんな道だろうが、わたしと行くよりは、マシだからさ」
そのひと言に、フーケも己の現状に思うところがあるのかもしれない、と才人は一瞬思った。
フーケはローブを深く被ると、才人に告げた。
「あんたもたまには、故郷に帰るんだね。親に顔を見せてやりな。わたしみたいに、帰る場所が
なくなっちまう前にね」
その言葉が、才人の頭の中に残った。
眠れない才人はティファニアの家の外に出て、ぼんやりと月を見上げながらフーケに言われた
ことを脳裏で反芻していた。
『故郷に帰るんだね』
そう言われても、ゼロと合体している内は帰ることは出来ない。
しかし……いざ分離する時が来たとしても、自分は地球に帰ろうとするのだろうか?
どういう訳か、その欲求が湧いてこないのだ。何だか、自分のことでない話のように感じる……。
「サイト」
不意に名前を呼ばれ、振り返ると、ルイズが傍に来ていた。ずっと黙っていたのにどうしたのだろう、
と手を伸ばすと、ルイズの頬が濡れているのが触感で判明した。
ルイズは泣いているのだと、才人は慌てた。
「おい、どうしたんだよ。泣いてるじゃねぇか」
才人の言葉を無視して、ルイズは言った。
「あんた、帰りたくないの?」
「……え?」
「故郷に、帰りたくないのかって、聞いてるの」
「どうして、いきなりそんなこと聞くんだよ」
「答えて」
才人はゆっくりと、最近いつも繰り返していた言葉を口にした。
「いや、こっちの世界で、やれることをやってから帰ろうっていうか……」
「嘘」
「嘘じゃねぇよ」
「じゃあ、どうして、ちいねえさまには故郷のことを相談したの? わたしにはそんなこと、
ひと言も言わないのに」
才人は一瞬、呆気にとられる。
「どうして、お前が知ってるんだよ」
「ちいねえさまからの手紙に書いてあったのよ」
手紙を差し出すルイズ。それを受け取った才人は、月明かりの下で読む。タバサに教えて
もらったお陰で、字を追うだけで内容が頭に飛び込んできた。
そこには、故郷を想っていた才人が心配であること、ルイズには才人を故郷に帰す義務が
あることが書かれてあった。
涙で顔をぐしゃぐしゃにして、ルイズは言った。
「どうしてあんたは、わたしに本音を打ち明けてくれないの?」
才人はその理由を考える。惚れた女には弱みを見せたくないから……だけではない気がした。
そもそも、ルイズの前で故郷を意識したことがほとんどないのだ。
ルイズの後ろから、小さな声が答えた。
「使い魔だから」
「タバサ」
タバサがいつの間にか外に出てきていた。ルイズは自分に言い聞かせるように言った。
「そう。タバサの言う通りなんだわ。だからあんたは、わたしが傍にいると、帰りたいと
心の底から思わない。いや、思えない。こっちの世界に、いなければならない理由まで
作り上げて、あんたはわたしの傍にいようとする。いや、させられてる」
「違う。それは違う。それは……」
才人は否定しようとしたが、し切れなかった。ルイズの言うことは、筋は通っている。
タバサが語る。
「使い魔は、主人の都合のいいように“記憶”を変えられる。記憶とは、脳内の情報全てのこと。
あなたが簡単な勉強で、わたしたちの文字を覚えたのもそう。あまり故郷のことを思い出さない
のもそう。そして“ガンダールヴのルーン”は、あなたの心の中に『こっちの世界にいるための
偽りの動機』を作ったのかもしれない。あなたは本当の気持ちをごまかされてる可能性がある」
「そんなことがあるのかよ?」
「その効果は、時間が経つにつれ、強くなる。使い魔が徐々に慣れ、最後には主人と一心同体にも
なるのは、そういうこと」
「パム……」
タバサの頭の上のハネジローが、不安げな視線を才人に向けた。
「おいおい、そんな、自分が自分でなくなるなんて、そんなことが……」
才人がそう言ったら、背負っているデルフリンガーが発した。
「まあな、自分のことは、自分が一番分からんもんさ」
才人は思い悩む。タバサの言うことは真実なのか。自分は心を、知らず知らずの内に変えられて
いたのか。もしかしたら、ゼロとともに戦う勇気までも、ルーンによって作られた感情では……。
「い、いや、それだけは絶対に違う! 作りものの勇気で、試練を乗り越えられたはずがねぇ!
俺の中に芽生えた勇気だけは本物だ! なぁ、そうだよな!?」
左腕のブレスレットを持ち上げて、ゼロに助けを求める。ゼロからの返答はこうだ。
『ああ。お前の勇気は本物だと、俺が保証するぜ。お前の熱い心の震えを肌で感じれば、
それは確かに分かる』
一瞬安堵する才人だったが……。
『けど、勇気は己の本心を覆い隠すためのものでもねぇ。……才人、お前は自分の偽りのない
本当の気持ちと向き合う必要があるのかもしれない』
「い、偽りのない本当の気持ちなんて……そんなのどうすれば」
才人が戸惑っていると、ティファニアたちまで目を覚まして才人たちの元に来た。
「サイト、それ、本当なの?」
「ティファニア」
「あなたの気持ちが偽られてるとか、記憶を変えられてるとか……」
「分かんねぇ。自分がどうなのか、自分じゃよく分からねぇ」
正直につぶやくと、ルイズがティファニアの方を向いた。
「ねぇ、ティファニア。あなた、記憶を消せるじゃない。その部分を消すことが出来る?
ガンダールヴのルーンが作った才人の心の中の、『こっちの世界にいるための偽りの動機』を
消すことが出来る?」
「分からないけど……」
「出来るだろうさ。“虚無”に干渉できるのは、“虚無”だけだ」
「おいおい、人の心に勝手なことすんなよ!」
才人は叫んだが、デルフリンガーは取り合わずにルイズに問いかける。
「でもな、娘っ子……。その部分を消したら、お前さんへの気持ちもなくなっちまうかもしれないんだぜ」
「いいわ」
ルイズはきっぱりと言って、涙を拭いながら気丈に言い放った。
「め、迷惑だもん。す、好きでもない男の子に言い寄られるなんてひどい迷惑だわ。勝手に
ナイト気取りでおかしいわよ。ほっといてよ!」
「ルイズ……お前……」
「ほら、さっさと魔法をかけられて、元のあんたに戻るがいいわ」
「ルイズ!」
ルイズは駆け出したが……一旦立ち止まり、うつむいて言った。
「わたし、お手伝いしたいけど。今のわたしじゃ無理よね。本当のゼロのルイズじゃ……」
ルイズはそれだけ言い残すと、この場から逃げていく。追いかけようとした才人の腕を、
キュルケとギーシュが掴んだ。
「離せよ! 離せ!」
「ぼくはね、きみを友人だと思う。だからこそ、こうした方がいいと思うんだ」
「あたしも同じ気持ちよ」
二人は珍しく真剣な顔で、うなずき合う。
更に才人の耳に、虚無のルーンが聞こえてきた。
「ティファニア……」
見ると、真剣な顔をしたティファニアが、才人に向かって虚無のルーンを唱えていた。
呪文が完成し、杖が振り下ろされると……才人の意識に色んな光景が現れてきた。
学校から帰ってきて、くぐった自宅の玄関。いつも観ていたテレビの番組。電話越しの
クラスメイトとのどうでもいい会話。隣の席だった女の子。母の味噌汁の味。そして母の顔……。
それまで抑圧されていたものが解放されると、才人の目からどっと涙が溢れ出た。
「……帰りてえ。帰りてえよ」
そのつぶやきを最後に、才人は意識の糸が切れた。
翌日の早朝、ルイズたちはロサイスへの道をとぼとぼと歩いていた。
昨晩に気を失い、それから一度も目を覚まさなかった才人はウエストウッド村に置いてきた。
タバサが才人についていると言ったので、彼らは陸路でロサイスを目指しているのだ。
「ここからロサイスは五十リーグは離れてるんだろ? そんな距離を歩くなんて、いや、
随分と大変だな」
「仕方ないでしょ。タバサが残るって言うんだから。サイトが国にすぐには帰れないって、
そんなに遠いところなの?」
黙って唇を噛んでいるルイズに、キュルケが囁きかける。
「なんてね。ほんとはあたし、知ってるの。サイトが別の世界とやらから来た人間で、
ウルトラマンゼロの正体ってこと。タバサと一緒に気づいたのよ」
チラッとルイズに視線を送るキュルケ。
「しかしまぁ、あんたも冷たいわよね。何回もお世話になったサイトを置いていっちゃうなんて」
ルイズは押し黙ったまま、何も答えない。
「ねぇルイズ」
「何よ」
「ほんとはあなた、怖いんでしょ」
「何が」
「サイトの自分に対する気持ちが、使い魔としての気持ちだったらどうしようって……。
あなたはそれを見たくない。だからこうやって結果を見届けずに逃げ出してる」
「違うわ」
「タバサが“預かる”って言ってくれなかったら、どうするつもりだったの? 放っておいたの?」
「そんなことしないわ。姫さまが急いでティファニアを連れてこいって言うから、仕方なく
先に行くだけよ。タバサがそう言ってくれなかったら、そりゃ残ってるわよ」
「言い訳だけは一人前なんだから」
「言い訳じゃないもん」
「もし、サイトのあなたに対する想いが、使い魔のそれだったら、あなたはどうするの?」
「どうもしないわ。サイトがゼロと別れられる時が来たら、見送ってあげる。それだけだわ」
「じゃあその想いが、サイト自身の本物だったわ?」
「か、変わらないわよ」
「今、照れたわね」
「照れてない。照れてないわ!」
「ほんとに分かりやすい子ね。あなた。やっぱり大好きなんじゃないの。サイトのこと」
「勘違いよ! 馬鹿!」
「ねぇルイズ。あなたの今の行動、卑怯よ。相手の気持ちが偽りだったとしても、あなたの
気持ちがそうじゃないならいいじゃない。今度こそ、自分自身の魅力で勝負すればいいだけの話だわ」
「……わたし、好きじゃないもん」
と自分に言い聞かせるルイズだったが、目からは涙がこぼれた。
本当は分かっているのだった。キュルケの指摘が紛れもない真実だということを。彼女に
とってはどんな大怪獣よりも、才人の自分への感情が偽りだったということを確かめることの
方が怖いのだ。だからこんな風にみっともなく、尻尾を巻いて逃げ出している。
才人と過ごした時間が、思い出が、掛けられた言葉が、全部嘘になってしまう。この世で
何より大事なものが……。どんなに成長しようとも、それを確かめられるルイズではなかったのだ。
最後尾のギーシュは、一人うなっていた。
「何だか哀れになって、サイトの“こっちの世界にいるための偽りの動機”とやらを消すことに
賛成してしまったが……考えてみたら余計に可哀想なことをしてしまったんではないかな」
もしかしたら才人は、そう思うことで精神のバランスを取っていたのかもしれないのではないか、
とギーシュは今更ながらに考えていた。『こっちの世界で自分が出来ることをする』というのは、
使い魔だからというだけでなく、精神のバランスを取るために、才人の心が生み出した苦肉の策では
ないのか。
でも、才人は故郷に帰ろうという素振りを見せたことはついぞないではないか、とも思い、
自分がもし使い魔として召喚されたら? と想像した。
「うーむ」
しかし上手く想像できなかった。ハルケギニアしか知らないギーシュには、他の土地の
ことなんて思い描けなかった。
そのため考え方を変えてみた。今の才人の置かれている状況を、自分に当てはめてみたのだ。
まず女の子がいて、次にメイドの女の子がいて、もう一人小さな女の子がいて、最後に
ハーフエルフだが巨乳の女の子。そして忘れちゃいけないのが、
「みんな可愛い、という点だな、うん」
ギーシュははた、と膝を叩いた。何だ、そんな場所に召喚されたら、帰る必要なんかないじゃないか!
何とも浅はかな結論にたどり着いたギーシュは、この事実を落ち込んでいるルイズに教えて
やろうと駆け出そうとしたが、その時に後ろから肩をちょんちょんとつつかれた。
「ん? 誰だね。今、忙しいんだ。後にしてくれたまえ」
再び、その肩が叩かれた。
「全く、ぼくの肩を叩く奴は誰だ?」
ふと疑問を抱いた。一緒に村を発った者が全員、自分の前にいる。彼らが自分の肩を叩く
ことは出来ない。ということは……。
「きみはサイトだな! うんそうだ。どうしたね。戻ってきたのかね。というかきみの言った通り、
あのティファニアという女の子、胸が大変にけしからんな! あれはちょっと本物かどうか、
確かめる必要があるとこのギーシュ、考えた。断然同意だろう? なあきみ!」
振り返ったギーシュは絶叫する。
「ぎぃやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
それで前を歩くルイズたちは一斉に振り返った。彼らの顔は一瞬で青ざめる。
「な、何よあれ!」
いつの間にか自分たちの背後に、巨大怪獣が出現していた。
いや……あれも『怪獣』と呼んでいいものなのか? 身体の半分ほどもある異常な大きさの
一つ目から、手足が生えているかのような針の振り切れた異形。どう見てもまともな生き物
ではない。その眼が自分たちをジロジロ舐め回していた。
「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
巨大な目玉そのものの怪物……奇獣ガンQが笑い声のような鳴き声を発した。
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