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#navi(ウルトラマンゼロの使い魔)
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ウルトラマンゼロの使い魔
第四十七話「潜入者Xを倒せ(前編)」
友好巨鳥リドリアス
地中怪獣モグルドン
電撃怪獣ボルギルス
浄化宇宙人キュリア星人
暗黒星人シャプレー星人 登場
「ねえねえサイトさん。旅ってわくわくしますわね!」
シエスタは、そう叫んで才人の腕に大きめの胸を押しつけた。
「わくわくというより、むにむに、ですね」
激しくゆだった頭で、才人が相槌を打った。
『シエスタ! はしたないと言っているだろう! そのような真似はやめたまえ! サイトも
困っているではないか!』
シエスタの腕のブレスレットから、ジャンボットが非難の声を上げた。それにシエスタは、
むくれた顔で言い返す。
「いいじゃないですか。ちょっとしたスキンシップくらい」
『明らかに、ちょっとしたのレベルを超えているだろう! それも、わざとやっていることが明白だ!
いいかシエスタ、女性というものは、慎みというものを持って……』
「もう、やめて下さいよ。旅行に来てまで、お説教なんて」
くどくどと説教するジャンボットに、顔をしかめるシエスタ。だがゼロも、ジャンボット側につく。
『ここはジャンボットの言う通りにするべきだぜ。じゃなきゃ……今度は壁がなくなるかもな』
才人は上を見上げる。馬車の天井は、先ほどのルイズからの攻撃で綺麗になくなり、晴れ渡る
青空がよく見えた。
『お前も、さすがに風に晒されっぱなしになるのは嫌だろ? 到着まで、二日も掛かるそうだし』
と、ルイズの実家、ラ・ヴァリエール家の領地へ向かう馬車の中、ゼロが諭した。
ヒッポリト星人率いる大怪獣軍団との戦いから、早くも二ヶ月が経過した、ある日のこと。
魔法学院に、アルビオンへの侵攻作戦が発布された。アンリエッタは、今やヤプールの
支配下となったアルビオンに打って出るつもりのようなのだ。しかし遠征軍の編成など、
何十年振りかのこと。相次ぐ怪獣災害と侵略者の攻撃もあって、王軍は士官不足。そのため、
貴族学生を士官として登用することになった。オスマンなどはこれに反対したが、
アンリエッタたち王政府はそれを抑えつけた。そしてアンリエッタ直属の女官であるルイズには、
特別任務が与えられた。
しかし、問題が発生した。ルイズが実家に王軍の参加を報告したら、実家からは、従軍はまかりならぬ、
との返信が来た。ルイズがそれを無視していたら、学院に突然彼女の姉、ラ・ヴァリエール家の長女の
エレオノールがやってきて、ルイズと才人、ついでに道中の侍女としてたまたま居合わせていたシエスタを
とっ捕まえ、強引に帰省に連れ出した。家族間で、きっちりと話をつけようというつもりのようだ。
そんな訳で、才人とシエスタは今、馬車の中であった。ルイズとエレオノールは別の馬車で
その後に続いているが、シエスタが才人にモーションを掛けようとしてルイズが怒り、馬車の屋根を
吹っ飛ばしてエレオノールに頬をきつくつねられるということが行われていた。
才人たちの馬車の方でひと悶着が終わると、シエスタが不意につぶやいた。
「わたし、貴族の人たちが嫌いです。戦争なんて、自分たちだけですればいいのに……。
サイトさんに、わたしたち平民も巻き込んで……」
「姫さまは、戦争を終わらせるためだって言ってたけど」
「終わらせるためだろうが始めるためだろうが、戦は戦です」
シエスタの意見に、ゼロとジャンボットが同意する。
『そうだな。俺も、出来ることなら人間同士での戦なんて、やめてもらいたい。多くの血が
流れるんだ。とても、見てらんねぇぜ……』
『私たちがヤプールを倒せれば、それで決着が着くのだろうが……奴らめ、パッタリと動きを
見せなくなった。これでは手出しすることが出来ん』
アンリエッタは、侵略者の傀儡となったことが公然の秘密であるアルビオンを解放することを名目に、
開戦を宣言した。それを本心では止めたいゼロたちだが、このままでは侵略者のなすがままなのは
本当のところなので、説得できそうにない。ならば自分たちでヤプール人の軍団を倒せればいいのだが、
ただでさえ異次元に手出しは出来ないことに加え、ヒッポリト戦以降は、ヤプールはこれといった動きを
見せていない。そのため、ヤプールを引きずり出す糸口も掴むことが出来ずにいるのだ。
ヤプールは、如何なる刺客を送ってもウルティメイトフォースゼロを打倒することが出来ないため、
戦力を溜め込む方針に切り替えたようだった。折りしも、トリステインとアルビオン間で戦争が
起ころうとしている。マイナスエネルギーを力の源にするヤプールにとっては、多くの人間が
苦しむ戦争はエネルギー補充に打ってつけ。このまま沈黙を決め込むつもりのようだ。
『くそ、ヤプール人め……』
ゼロは歯がゆい思いで、悪態を吐くしかなかった。
さて、時間は進み、魔法学院を出て二日目の昼となり、才人たちはラ・ヴァリエールの領地に到着した。
が、しかし、肝心の屋敷に到着するのは夜遅くとのこと。夜遅くって……、と才人は青くなった。
『ところで、あのトリステイン軍のキング砲って奴、すげぇよな。技術体系が全然違うキングジョーの
兵器を転用するなんて。魔法ってすごいな』
「ホントだな。あれって、要はメテオールだろ? それをあんな短期間で完成させるなんて。
地球じゃ、実用に何年も掛かったっていうのにさ。しかも作った人の一人が、あのエレオノールさんだって」
『いやはや、ルイズは偉大な姉を持っていたのだな』
馬車に揺られるばかりですることがないので、ゼロたちが雑談していると、急に馬車が停止した。
馬車馬がヒヒーン! と慌てたようにいなないている。
「ん? いきなりどうしたんだ?」
才人が前を向くと、オープントップになっている馬車に、影が被さった。
「え?」
ふと上を見上げて、才人とシエスタは目を丸くした。きっと、ルイズも同じようにしているだろう。
「ピィ――――――!」
何故なら、自分たちの馬車の目の前に、青い鳥型の怪獣が着地したからだ。鳥怪獣は首を伸ばして、
ジロジロとこちらに視線を向けている。
「あわわわわ!? か、怪獣です! こんなところに!?」
「サイト、シエスタ! すぐ逃げましょう! とりあえず後ろに……!」
反射的に馬車を飛び出すルイズ、シエスタ、才人。ルイズは来た道を引き返して逃げようと踵を返すが、
「ブルルルルルッ……ピュ―――――ウ!」
背後の地面が盛り上がったかと思うと、地中からモグラにカツオを足したような怪獣が現れた!
「えぇッ!? そんな、二匹も!?」
前門には鳥怪獣、後門にはモグラ怪獣。たちまち挟まれてしまって、ルイズたちは気が動転した。
「ピィ――――――!」
「ピュ―――――ウ!」
鳴き立てている二体の怪獣を前にして、逃げ場を失ったルイズたちはたじろぐ。と、馬車から
エレオノールも降りてきた。
「あッ、エレオノール姉さま! ここは危険です! どこかに逃げないと!」
ルイズが泡を食って呼びかけるが、エレオノールは何故か怪獣を前にしているのに、落ち着いた様子で
ため息を吐いていた。
「全く、カトレアったら……しっかり面倒を見なさいって言ってるのに」
「え? ちいねえさま? どうしてここでちいねえさまの名前が?」
キョトンとするルイズ。すると、彼女らの耳にドシン、ドシンと巨大生物の足音が飛びこんできた。
見ると、道の脇の林の向こうから、赤茶色のゴツゴツとした体表を持つトカゲ型怪獣が新たに出現した。
「グイイイイイイイイ!」
「あッ! 誰か、女の人が乗ってるぞ!?」
三体目の怪獣を指差す才人。彼の言う通り、怪獣の首の上には、ルイズを大人にして包容力と胸を
持たせたような可憐な乙女が騎乗していた。怪獣と乙女のギャップに、才人たちはポカーンとする。
「まあ! リドリアスが急に飛び立ったと思ったら、嬉しいお客だわ! エレオノール姉さま!
帰ってらしたの? それに、わたしの小さいルイズまで! あなたも帰ってきたのね!」
「お、お久しぶりです、ちいねえさま……」
才人はルイズの口振りから、カトレアという乙女がルイズの二人目の姉だと理解した。前に聞いた話だと、
カトレアの方はエレオノールと違い、相当懐いているようだったが、さすがに今目の前に広がる光景を
受け止め切れずに、カトレアの前でも唖然としていた。
「あ、あの……この怪獣たちは、一体何なのでしょうか? どうしてちいねえさまが、怪獣の上なんかに……」
怪獣たちは特に暴れる様子がないので、ひとまずは落ち着きを取り戻したルイズが質問すると、
屈んだトカゲ型怪獣の上から地上に降りたカトレアが、あぁ、とつぶやいた。
「ルイズは知らなかったわね。実は少し前に、この子たちがラ・ヴァリエール領に迷い込んできたの。
どうも、人間に住処を追われたみたいで。わたしも最初は驚いたけど、それを知って不憫になってね。
父さまと母さまにお願いして、うちに置いてもらってるの。今では、みんなわたしのお友達よ」
カトレアの言葉に応じるかのように、怪獣たちがピィー! ピューイ! グイイイ! と鳴き声を上げた。
才人は端末で、怪獣たちがそれぞれリドリアス、モグルドン、ボルギルスという名前だと調べた。
「ちいねえさま、昔から動物によく好かれて飼ってるけど、まさか怪獣まで飼うなんて……」
呆然としているルイズ。エレオノールは片手で頭を抱える。
「わたしも反対したんだけど、カトレアはどうしてもって聞かなくてね……」
「いいじゃないですか、エレオノール姉さま。この子たちがいると、わたしも気軽に外に出られるんですよ。
お散歩で、あっという間に領地を一周できるし」
エレオノールと対照にニコニコと笑うカトレアは、ポンと手を叩いて提案した。
「そうだわ。リドリアスは空を飛べるから、とっても速いのよ。みんなで乗って、お屋敷まで
行きましょうよ。そしたらお屋敷でゆっくり出来るわ」
「えぇッ!? ほ、本気で言ってるんですか?」
普段気の強いルイズだが、さすがに怪獣に跨るというのには抵抗があるようで、及び腰になっていた。
それとは反対に、才人はリドリアスに近寄る。
「そんなに怖がるなよ。こいつ、すっごく人懐っこいぞ」
「ピィ――――――」
リドリアスは才人に首を寄せ、クルクルと喉を鳴らした。それを微笑んでながめるカトレア。
「あらあら、リドリアスがひと目会った人にあんなに懐くなんて。ルイズ、あなたの恋人はとってもいい人みたいね」
いきなり言われて、ルイズはブッと噴き出した。シエスタはスッ……と目が細くなった。
「ただの使い魔よ! 恋人なんかじゃないわ!」
「あらそう? まぁ、それはいいわ。それよりほら、みんなで乗りましょう。怖くなんてないから、ほらほら」
カトレアがグイグイ勧めるので、結局ビクビクしているルイズとシエスタ、色々と諦めているのか
ため息を吐いたエレオノールもリドリアスの背中に乗り、馬車は自動で旅籠へ向かわせて、全員で屋敷まで
ひとっ飛びした。モグルドンとボルギルスはその後を追いかけて、ドスドスと領地を横切った。
リドリアスに乗って、あっという間にラ・ヴァリエールの屋敷……というより、明らかに城に到着した一行。
それを真っ先に出迎えたのは、慌てた様子で駆け寄ってきた白衣の青年だった。ハルケギニアで一般的な
白人タイプではなく、才人とシエスタに似通った東洋人系の顔つきだ。
「カトレアお嬢さま! 困ります、許可なく外出されては。あなたに何かあったら、奥さまに顔向け出来ません」
「あらあら、ヤマノ先生。そんなに心配してくれなくても大丈夫よ。あなたのお陰で、近頃調子が
とってもいいんだから」
「それでも、です。大事があってからでは遅いんですよ」
カトレアは、ヤマノと呼んだ白衣の青年ににこやかに笑いかける。ルイズは彼が何者か尋ねる。
「ちいねえさま、この人は?」
「彼は、今のわたしのかかりつけ医のヤマノ先生。ちょっと前にふらりとやってきたんだけど、
若くして腕がとても立って。色んなお医者さまが匙を投げたわたしの身体を良くしてくれてるの。
それでうちのお抱えになったのよ。物知りでもあって、怪獣の名前も教えてくれたの。先生、
こちらは前に話した、妹のルイズ。その使い魔さんと侍女さんよ」
「お初にお目に掛かります、ルイズお嬢さま。半年前よりこちらに置かせてもらっております、
ヤマノと申します……」
カトレアに紹介されて、ヤマノはルイズたちに深々とお辞儀した。しかし、才人、特に
ウルティメイトブレスレットに目を留めると、ピクリと動きを止めた。
「!」
『あいつ……!』
ゼロも小さくつぶやいたので、才人は何事か訝しんだ。だが、ゼロはそれ以上何も言わなかった。
「? 先生、どうかしたかしら?」
「あッ、いえ、何でもありません!」
しばし固まっていたヤマノだが、カトレアに呼びかけられて、我に返った。ゼロはそのヤマノを、
じっと見つめているようだった。
無事にルイズの実家に到着した一行だが、ルイズの父親が明日まで不在ということで、
肝心のルイズの従軍の件の話は明日に持ち越しとなった。それまで、才人たちは
ラ・ヴァリエール家に滞在することになった。
そして夜になると、才人はゼロに頼まれて、ヤマノという医者に会いに行くこととなった。
目的のヤマノは、人気のない廊下の真ん中に突っ立っていた。才人が来るのを待っていたようで、
ひと目見るなりこう言い放った。
「来ると思っていた。君の中の異星人は、私も同じ異星人だということに気がついたようだったからね」
「! ゼロ、それって……」
『その人の言う通りだ。その医者は、宇宙人だ。だが、敵意はないみたいだな』
肯定するゼロの、普通の人間には聞こえない声が、ヤマノには聞こえていた。
「如何にも。私の種族はキュリア星人。かつて同族が、ウルトラマンコスモスに助けられた。知ってるかな?」
『コスモスのことはよく知ってるぜ。コスモスペースの宇宙人か』
ヤマノの姿が一瞬だけ、奇怪な模様のマネキンのような怪人に変わった。宇宙人というのは本当のようだ。
「私は旅行で、宇宙を旅しているところだった。しかし突然、空間の歪みが生じたかと思うと、
それに吸い込まれてこの星に流れ着いた。今この星は、様々な宇宙から集められた異星人の侵攻に
遭っているんだってね」
『ああ。ヤプールって異次元人が黒幕だ。あんたが呑み込まれたって歪みも、ヤプールが次元を
曲げた影響で生じたのかもな』
「宇宙船が完全に故障し、帰る術を失った私は、医者に扮してこの星で生きることにした――
名前は、地球を第二の故郷とした同族のものを借りたんだ。キュリア星は医療が発達した星で、
その技術が役立った。そして流浪していると、私の噂を聞いたこのラ・ヴァリエール家に頼まれて、
カトレアお嬢さまの治療をすることになった。彼女の病は、キュリア星の医術を以てしても
完全治癒が困難なものだが、どうにか手を尽くして、容態を安定させている。そうして
行く宛てのない私は、ラ・ヴァリエール家のご厚意でここに住まわせてもらってるんだ」
己の素性を語ったヤマノ=キュリア星人に、ゼロはうなずいた。
『嘘はないみたいだな』
「ウルトラマンゼロ、君たちに頼みがある。私の正体は、誰にも話さないでもらいたい。
最初は生きる術として始めた医者だが、カトレアお嬢さまやこの家の人たちは、流れ者の私を
懇意にしてくれる心優しい人たちだ。彼らの気持ちを裏切りたくないし、カトレアお嬢さまの
病も治してあげたい。どうか、お願いできるだろうか」
ヤマノの頼みを、ゼロはすぐに了承した。
『是非もねぇさ。俺も、平和を求める奴の平穏をいたずらに乱したくはない。お互いの秘密は、
胸の内にしまい込んどこうぜ』
「ありがとう……感謝するよ」
ヤマノは痛み入ったように、深くお辞儀した。
翌朝、ラ・ヴァリエール公爵がとうとう帰宅した。彼は早速ルイズを呼び、朝食の席で
彼女の従軍の件を話し合った。
ルイズは許可を求めたが、そもそも戦に反対の立場の公爵は頑として認めなかった。彼の言によると、
今度の戦は間違いなのだという。
「『攻める』ということは、圧倒的な兵力があって初めて成功するものだ。敵軍は五万。我が軍は
ゲルマニアと合わせて六万。攻める軍は、守る側に比べて三倍の数があってこそ確実に勝利できるのだ。
侵略者の軍勢はウルティメイトフォースゼロが抑えてくれるとしても、この数では、拠点を得て、
空を制してなお、苦しい戦いになるだろう」
「我々は包囲をすべきなのだ。空からあの忌々しい大陸を封鎖して、日干しになるのを待てば、
向こうは根を上げるだろう。戦の決着を、白と黒でつけようとするからこういうことになる。
もし攻めて失敗したらなんとする? その可能性は低くはないのだ」
「タルブでたまたま勝ったからって、慢心が過ぎる。おまけに魔法学院の生徒を士官として連れていく?
バカを言っちゃいかん。戦は数だけそろえればよいというものではない。攻めるという行為は、
絶対に勝利できる自信があって初めて行えるのだ。そんな戦に、娘を行かせるわけにはいかん」
ルイズは父の言うことが全く正しかったので、論理的な反論が出来なかった。しかし、それでも
アンリエッタが自分の力を必要としているからと食い下がる。だがそれでも公爵は許さず、
ルイズに謹慎と、心を落ち着かせるために婿を取れと命じた。すっかり意気消沈してしまったルイズは、
朝食の席から逃げ出したのだった。
だがラ・ヴァリエール家で一人だけ、カトレアだけはルイズの選択を尊重し、彼女を逃がす用意を
整えてあげた。そしてその旨を才人に話し、ルイズの迎えに行くように送り出した……。
才人は指示された、中庭の池にやってきた。果たしてカトレアの言う通り、ルイズは池に浮かんだ
小舟に隠れて泣いていた。
「……サイト?」
「ルイズ、行くぞ。お前の姉さんが、馬車を用意してくれた」
「……行けないわよ。家族の許しをもらってないもの」
「無理だよ。向こうだってお前の家族だ。頑固なんだろ」
才人は手を伸ばすが、すねたルイズは振り払う。
「もうやだ。いくら頑張っても、わたしの頑張りは家族にも話せない。誰もわたしを認めてくれない。
そう思ったら、すごく寂しくなっちゃった」
才人はため息を吐き、小舟に乗り込んで、ルイズの手を握った。
「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから立てっつの。ほら」
「何が認めてやるよ。調子いいこと言わないで。サイトも、ゼロや父さまたちと同じで、
戦には反対なんでしょ。ほんとは、従軍なんてしたくないんでしょ」
「……ああ、そうだよ。人間同士の殺し合いなんて、真っ平だ。部屋で寝てる方がずっとマシだよ」
「だったら、そうしたらいいじゃない」
すっかりすねているルイズは、ついとそっぽを向く。
そんな彼女に、才人は、言い放った。
「それも出来ねえよ。だって……お前が好きなんだからよ!」
「……え?」
ルイズは一瞬、何を言われたか分からず、才人に向き直った。
「ああ、好きなんだよ! 顔見てるとドキドキすんだよ! それって好きってことじゃねーのかよ!
だから好きなんだよ! だからほっとけないんだよ!」
ルイズの顔は、真っ赤になっていた。才人も同じだ。何でこの状況で告白してるんだ、
なんて後悔までする。
しばし二人で見つめ合っていると、ルイズから先に口を開いた。
「嘘だったら、殺すわよ」
「嘘じゃねぇよ」
「……サイト……」
「……ルイズ……」
二人の世界に入り切る。自然に互いに顔が……唇が近づく……。
「おほん」
突然、池のほとりから咳払いが聞こえ、我に返ったルイズと才人はバッと勢いよく離れた。
振り返ると、ヤマノが頬を赤らめてこちらを手招きしていた。
「ヤ、ヤマノ先生!」
「あー、お二人とも……お熱いところ申し訳ないんだけど、早くしないと旦那さま方が集まってきて
逃げられなくなってしまうんだ。だから続きは後にして、とにかく今は、街道の馬車のところへ
移動してくれないかな?」
「……」
まっかっかの二人は無言でうなずく。
「私が後ろを警戒しよう。さぁ、街道への道はそっちだ。人が来る前に、早く」
「す、すいません……」
ヤマノに指示されるまま、才人とルイズは彼の示す道へ進もうとする。そうしてヤマノの前に回った、その時に、
パァンッ! と、渇いた銃声が起きた。
「つうッ!?」
「ルイズ!?」
崩れるルイズの身体。見れば、右の脛の裏に銃創が出来て、血が垂れ流れていた。背後から撃たれたようだ。
「えッ……!?」
「何だ、今の音は!?」
「ルイズ、あなた何をやってるの!? 血が出てるじゃない!」
背後に振り返る才人とヤマノ。更に銃声を聞きつけた公爵家族や使用人たちが集まり、
ルイズの惨状に顔を青くする。
その時に、いつの間に現れていたのか、ヤマノの背後から近づいてきた、使用人のような格好の男が、
ヤマノを指差して叫んだ。
「旦那さま、わたくしは見てました! 医者の先生が怪しい銃を使って、お嬢さまを撃ったのです!」
「なッ……!?」
目をひん剥く才人に、ヤマノ。男は続けて言う。
「怪しい銃を使ったそいつはきっと、人間じゃありません! 侵略者の手先、宇宙人です!
お嬢さまのお命を狙って、ここに忍び込んだに違いありません! 早く、そいつをひっ捕らえて下さい!」
人間じゃない、と言われて、ヤマノは顔面蒼白となった。そこは図星だからだ。しかし……。
『サイト、分かってると思うが、先生は銃撃犯じゃねぇぞ。あの男が怪しい……』
「ああ……」
ゼロに言われるまでもなく、才人はヤマノの仕業ではないと思っていた。昨日、わざわざ自身が
異星人だと明かした彼が、こんなことをするとは思えない。しかし、弁護する材料もない……。
うかうかしていると、公爵がヤマノを尋問し出す。
「先生、あなたが人間ではないという話、本当かな?」
「……」
重い表情で沈黙していたヤマノだが、ごまかせないと判断したか、正直に認めた。
「その通りです、旦那さま……。私は遠い星から来た、宇宙人です。ハルケギニアの人間ではありません……」
「そうか……」
公爵はおもむろにうなずき、
「やはり、カトレアの言葉に間違いはなかったか」
「……は!?」
ヤマノも才人もルイズも、告発した男も驚愕した。
「だ、旦那さま、それはどういうことでしょうか!? カトレアお嬢さまは……既に私の正体に気づいてた!?」
「早々にな。あの子は勘が妙に鋭いのだ。しかし、あなたが優しい人だということも見抜き、
そのことでどうか追い出さないで下さいとわしに頼んできた。わしとしても、娘の病に手をつけられた
二人といない名医を手放したくなかったので、学院に通っているルイズ以外の家族と使用人全員に
伝えた上で、決して口外しないよう固く命じたのだ」
エレオノールたちや使用人が次々うなずく。ヤマノに才人たちは、すっかり呆然としていた。
「……して、今更そんな周知の事実を、大事のように取り沙汰したそこのお前は、一体誰なのかね?」
「はッ……!?」
公爵の矛先は、告発した男に向いていた。八方からにらまれた男は、汗だくになって弁明する。
「わ、わたくしは新参故、そのようなことは知らなかったので……」
「新しい使用人は、しばらくは雇い入れてないはずだ。そうだろう、ジェローム?」
「間違いございません」
「それに、どこぞの貴族の屋敷や王宮にまで侵略者の手先が潜入した事件があった故、この屋敷で
働く人間の顔は頭に入れている。その中に、お前はいない。もう十分だろう。……娘を撃った罪、
その命で贖ってもらおう」
公爵や夫人、エレオノールが杖を抜いた。使用人たちもそれぞれ獲物を手にする。
「……フッ……フフフッ……! 文明の遅れた原始人と思って、舐めて掛かりすぎたか!」
追い詰められた男は、開き直ったかのように笑うと、一足飛びで離れた盛り土の上に飛び乗った。
明らかに常人を越えた動きだ。
「その通り、私こそが侵略者の正体だ! むんッ!」
懐から取り出した、四角形の周りに複数の円を取りつけた金属のプレートを胸に当てると、
軽い爆発で全身が覆われる。そして硝煙が晴れると、怪人の正体を晒した。
『暗黒星雲の惑星、シャプレー星人だ!』
頭部のほとんどを覆う複眼を持ち、光線銃を構える凶悪宇宙人の姿が、そこにあった。
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ウルトラマンゼロの使い魔
第四十七話「潜入者Xを倒せ(前編)」
友好巨鳥リドリアス
地中怪獣モグルドン
電撃怪獣ボルギルス
浄化宇宙人キュリア星人
暗黒星人シャプレー星人 登場
「ねえねえサイトさん。旅ってわくわくしますわね!」
シエスタは、そう叫んで才人の腕に大きめの胸を押しつけた。
「わくわくというより、むにむに、ですね」
激しくゆだった頭で、才人が相槌を打った。
『シエスタ! はしたないと言っているだろう! そのような真似はやめたまえ! サイトも
困っているではないか!』
シエスタの腕のブレスレットから、ジャンボットが非難の声を上げた。それにシエスタは、
むくれた顔で言い返す。
「いいじゃないですか。ちょっとしたスキンシップくらい」
『明らかに、ちょっとしたのレベルを超えているだろう! それも、わざとやっていることが明白だ!
いいかシエスタ、女性というものは、慎みというものを持って……』
「もう、やめて下さいよ。旅行に来てまで、お説教なんて」
くどくどと説教するジャンボットに、顔をしかめるシエスタ。だがゼロも、ジャンボット側につく。
『ここはジャンボットの言う通りにするべきだぜ。じゃなきゃ……今度は壁がなくなるかもな』
才人は上を見上げる。馬車の天井は、先ほどのルイズからの攻撃で綺麗になくなり、晴れ渡る
青空がよく見えた。
『お前も、さすがに風に晒されっぱなしになるのは嫌だろ? 到着まで、二日も掛かるそうだし』
と、ルイズの実家、ラ・ヴァリエール家の領地へ向かう馬車の中、ゼロが諭した。
ヒッポリト星人率いる大怪獣軍団との戦いから、早くも二ヶ月が経過した、ある日のこと。
魔法学院に、アルビオンへの侵攻作戦が発布された。アンリエッタは、今やヤプールの
支配下となったアルビオンに打って出るつもりのようなのだ。しかし遠征軍の編成など、
何十年振りかのこと。相次ぐ怪獣災害と侵略者の攻撃もあって、王軍は士官不足。そのため、
貴族学生を士官として登用することになった。オスマンなどはこれに反対したが、
アンリエッタたち王政府はそれを抑えつけた。そしてアンリエッタ直属の女官であるルイズには、
特別任務が与えられた。
しかし、問題が発生した。ルイズが実家に王軍の参加を報告したら、実家からは、従軍はまかりならぬ、
との返信が来た。ルイズがそれを無視していたら、学院に突然彼女の姉、ラ・ヴァリエール家の長女の
エレオノールがやってきて、ルイズと才人、ついでに道中の侍女としてたまたま居合わせていたシエスタを
とっ捕まえ、強引に帰省に連れ出した。家族間で、きっちりと話をつけようというつもりのようだ。
そんな訳で、才人とシエスタは今、馬車の中であった。ルイズとエレオノールは別の馬車で
その後に続いているが、シエスタが才人にモーションを掛けようとしてルイズが怒り、馬車の屋根を
吹っ飛ばしてエレオノールに頬をきつくつねられるということが行われていた。
才人たちの馬車の方でひと悶着が終わると、シエスタが不意につぶやいた。
「わたし、貴族の人たちが嫌いです。戦争なんて、自分たちだけですればいいのに……。
サイトさんに、わたしたち平民も巻き込んで……」
「姫さまは、戦争を終わらせるためだって言ってたけど」
「終わらせるためだろうが始めるためだろうが、戦は戦です」
シエスタの意見に、ゼロとジャンボットが同意する。
『そうだな。俺も、出来ることなら人間同士での戦なんて、やめてもらいたい。多くの血が
流れるんだ。とても、見てらんねぇぜ……』
『私たちがヤプールを倒せれば、それで決着が着くのだろうが……奴らめ、パッタリと動きを
見せなくなった。これでは手出しすることが出来ん』
アンリエッタは、侵略者の傀儡となったことが公然の秘密であるアルビオンを解放することを名目に、
開戦を宣言した。それを本心では止めたいゼロたちだが、このままでは侵略者のなすがままなのは
本当のところなので、説得できそうにない。ならば自分たちでヤプール人の軍団を倒せればいいのだが、
ただでさえ異次元に手出しは出来ないことに加え、ヒッポリト戦以降は、ヤプールはこれといった動きを
見せていない。そのため、ヤプールを引きずり出す糸口も掴むことが出来ずにいるのだ。
ヤプールは、如何なる刺客を送ってもウルティメイトフォースゼロを打倒することが出来ないため、
戦力を溜め込む方針に切り替えたようだった。折りしも、トリステインとアルビオン間で戦争が
起ころうとしている。マイナスエネルギーを力の源にするヤプールにとっては、多くの人間が
苦しむ戦争はエネルギー補充に打ってつけ。このまま沈黙を決め込むつもりのようだ。
『くそ、ヤプール人め……』
ゼロは歯がゆい思いで、悪態を吐くしかなかった。
さて、時間は進み、魔法学院を出て二日目の昼となり、才人たちはラ・ヴァリエールの領地に到着した。
が、しかし、肝心の屋敷に到着するのは夜遅くとのこと。夜遅くって……、と才人は青くなった。
『ところで、あのトリステイン軍のキング砲って奴、すげぇよな。技術体系が全然違うキングジョーの
兵器を転用するなんて。魔法ってすごいな』
「ホントだな。あれって、要はメテオールだろ? それをあんな短期間で完成させるなんて。
地球じゃ、実用に何年も掛かったっていうのにさ。しかも作った人の一人が、あのエレオノールさんだって」
『いやはや、ルイズは偉大な姉を持っていたのだな』
馬車に揺られるばかりですることがないので、ゼロたちが雑談していると、急に馬車が停止した。
馬車馬がヒヒーン! と慌てたようにいなないている。
「ん? いきなりどうしたんだ?」
才人が前を向くと、オープントップになっている馬車に、影が被さった。
「え?」
ふと上を見上げて、才人とシエスタは目を丸くした。きっと、ルイズも同じようにしているだろう。
「ピィ――――――!」
何故なら、自分たちの馬車の目の前に、青い鳥型の怪獣が着地したからだ。鳥怪獣は首を伸ばして、
ジロジロとこちらに視線を向けている。
「あわわわわ!? か、怪獣です! こんなところに!?」
「サイト、シエスタ! すぐ逃げましょう! とりあえず後ろに……!」
反射的に馬車を飛び出すルイズ、シエスタ、才人。ルイズは来た道を引き返して逃げようと踵を返すが、
「ブルルルルルッ……ピュ―――――ウ!」
背後の地面が盛り上がったかと思うと、地中からモグラにカツオを足したような怪獣が現れた!
「えぇッ!? そんな、二匹も!?」
前門には鳥怪獣、後門にはモグラ怪獣。たちまち挟まれてしまって、ルイズたちは気が動転した。
「ピィ――――――!」
「ピュ―――――ウ!」
鳴き立てている二体の怪獣を前にして、逃げ場を失ったルイズたちはたじろぐ。と、馬車から
エレオノールも降りてきた。
「あッ、エレオノール姉さま! ここは危険です! どこかに逃げないと!」
ルイズが泡を食って呼びかけるが、エレオノールは何故か怪獣を前にしているのに、落ち着いた様子で
ため息を吐いていた。
「全く、カトレアったら……しっかり面倒を見なさいって言ってるのに」
「え? ちいねえさま? どうしてここでちいねえさまの名前が?」
キョトンとするルイズ。すると、彼女らの耳にドシン、ドシンと巨大生物の足音が飛びこんできた。
見ると、道の脇の林の向こうから、赤茶色のゴツゴツとした体表を持つトカゲ型怪獣が新たに出現した。
「グイイイイイイイイ!」
「あッ! 誰か、女の人が乗ってるぞ!?」
三体目の怪獣を指差す才人。彼の言う通り、怪獣の首の上には、ルイズを大人にして包容力と胸を
持たせたような可憐な乙女が騎乗していた。怪獣と乙女のギャップに、才人たちはポカーンとする。
「まあ! リドリアスが急に飛び立ったと思ったら、嬉しいお客だわ! エレオノール姉さま!
帰ってらしたの? それに、わたしの小さいルイズまで! あなたも帰ってきたのね!」
「お、お久しぶりです、ちいねえさま……」
才人はルイズの口振りから、カトレアという乙女がルイズの二人目の姉だと理解した。前に聞いた話だと、
カトレアの方はエレオノールと違い、相当懐いているようだったが、さすがに今目の前に広がる光景を
受け止め切れずに、カトレアの前でも唖然としていた。
「あ、あの……この怪獣たちは、一体何なのでしょうか? どうしてちいねえさまが、怪獣の上なんかに……」
怪獣たちは特に暴れる様子がないので、ひとまずは落ち着きを取り戻したルイズが質問すると、
屈んだトカゲ型怪獣の上から地上に降りたカトレアが、あぁ、とつぶやいた。
「ルイズは知らなかったわね。実は少し前に、この子たちがラ・ヴァリエール領に迷い込んできたの。
どうも、人間に住処を追われたみたいで。わたしも最初は驚いたけど、それを知って不憫になってね。
父さまと母さまにお願いして、うちに置いてもらってるの。今では、みんなわたしのお友達よ」
カトレアの言葉に応じるかのように、怪獣たちがピィー! ピューイ! グイイイ! と鳴き声を上げた。
才人は端末で、怪獣たちがそれぞれリドリアス、モグルドン、ボルギルスという名前だと調べた。
「ちいねえさま、昔から動物によく好かれて飼ってるけど、まさか怪獣まで飼うなんて……」
呆然としているルイズ。エレオノールは片手で頭を抱える。
「わたしも反対したんだけど、カトレアはどうしてもって聞かなくてね……」
「いいじゃないですか、エレオノール姉さま。この子たちがいると、わたしも気軽に外に出られるんですよ。
お散歩で、あっという間に領地を一周できるし」
エレオノールと対照にニコニコと笑うカトレアは、ポンと手を叩いて提案した。
「そうだわ。リドリアスは空を飛べるから、とっても速いのよ。みんなで乗って、お屋敷まで
行きましょうよ。そしたらお屋敷でゆっくり出来るわ」
「えぇッ!? ほ、本気で言ってるんですか?」
普段気の強いルイズだが、さすがに怪獣に跨るというのには抵抗があるようで、及び腰になっていた。
それとは反対に、才人はリドリアスに近寄る。
「そんなに怖がるなよ。こいつ、すっごく人懐っこいぞ」
「ピィ――――――」
リドリアスは才人に首を寄せ、クルクルと喉を鳴らした。それを微笑んでながめるカトレア。
「あらあら、リドリアスがひと目会った人にあんなに懐くなんて。ルイズ、あなたの恋人はとってもいい人みたいね」
いきなり言われて、ルイズはブッと噴き出した。シエスタはスッ……と目が細くなった。
「ただの使い魔よ! 恋人なんかじゃないわ!」
「あらそう? まぁ、それはいいわ。それよりほら、みんなで乗りましょう。怖くなんてないから、ほらほら」
カトレアがグイグイ勧めるので、結局ビクビクしているルイズとシエスタ、色々と諦めているのか
ため息を吐いたエレオノールもリドリアスの背中に乗り、馬車は自動で旅籠へ向かわせて、全員で屋敷まで
ひとっ飛びした。モグルドンとボルギルスはその後を追いかけて、ドスドスと領地を横切った。
リドリアスに乗って、あっという間にラ・ヴァリエールの屋敷……というより、明らかに城に到着した一行。
それを真っ先に出迎えたのは、慌てた様子で駆け寄ってきた白衣の青年だった。ハルケギニアで一般的な
白人タイプではなく、才人に似通った東洋人系の顔つきだ。
「カトレアお嬢さま! 困ります、許可なく外出されては。あなたに何かあったら、奥さまに顔向け出来ません」
「あらあら、ヤマノ先生。そんなに心配してくれなくても大丈夫よ。あなたのお陰で、近頃調子が
とってもいいんだから」
「それでも、です。大事があってからでは遅いんですよ」
カトレアは、ヤマノと呼んだ白衣の青年ににこやかに笑いかける。ルイズは彼が何者か尋ねる。
「ちいねえさま、この人は?」
「彼は、今のわたしのかかりつけ医のヤマノ先生。ちょっと前にふらりとやってきたんだけど、
若くして腕がとても立って。色んなお医者さまが匙を投げたわたしの身体を良くしてくれてるの。
それでうちのお抱えになったのよ。物知りでもあって、怪獣の名前も教えてくれたの。先生、
こちらは前に話した、妹のルイズ。その使い魔さんと侍女さんよ」
「お初にお目に掛かります、ルイズお嬢さま。半年前よりこちらに置かせてもらっております、
ヤマノと申します……」
カトレアに紹介されて、ヤマノはルイズたちに深々とお辞儀した。しかし、才人、特に
ウルティメイトブレスレットに目を留めると、ピクリと動きを止めた。
「!」
『あいつ……!』
ゼロも小さくつぶやいたので、才人は何事か訝しんだ。だが、ゼロはそれ以上何も言わなかった。
「? 先生、どうかしたかしら?」
「あッ、いえ、何でもありません!」
しばし固まっていたヤマノだが、カトレアに呼びかけられて、我に返った。ゼロはそのヤマノを、
じっと見つめているようだった。
無事にルイズの実家に到着した一行だが、ルイズの父親が明日まで不在ということで、
肝心のルイズの従軍の件の話は明日に持ち越しとなった。それまで、才人たちは
ラ・ヴァリエール家に滞在することになった。
そして夜になると、才人はゼロに頼まれて、ヤマノという医者に会いに行くこととなった。
目的のヤマノは、人気のない廊下の真ん中に突っ立っていた。才人が来るのを待っていたようで、
ひと目見るなりこう言い放った。
「来ると思っていた。君の中の異星人は、私も同じ異星人だということに気がついたようだったからね」
「! ゼロ、それって……」
『その人の言う通りだ。その医者は、宇宙人だ。だが、敵意はないみたいだな』
肯定するゼロの、普通の人間には聞こえない声が、ヤマノには聞こえていた。
「如何にも。私の種族はキュリア星人。かつて同族が、ウルトラマンコスモスに助けられた。知ってるかな?」
『コスモスのことはよく知ってるぜ。コスモスペースの宇宙人か』
ヤマノの姿が一瞬だけ、奇怪な模様のマネキンのような怪人に変わった。宇宙人というのは本当のようだ。
「私は旅行で、宇宙を旅しているところだった。しかし突然、空間の歪みが生じたかと思うと、
それに吸い込まれてこの星に流れ着いた。今この星は、様々な宇宙から集められた異星人の侵攻に
遭っているんだってね」
『ああ。ヤプールって異次元人が黒幕だ。あんたが呑み込まれたって歪みも、ヤプールが次元を
曲げた影響で生じたのかもな』
「宇宙船が完全に故障し、帰る術を失った私は、医者に扮してこの星で生きることにした――
名前は、地球を第二の故郷とした同族のものを借りたんだ。キュリア星は医療が発達した星で、
その技術が役立った。そして流浪していると、私の噂を聞いたこのラ・ヴァリエール家に頼まれて、
カトレアお嬢さまの治療をすることになった。彼女の病は、キュリア星の医術を以てしても
完全治癒が困難なものだが、どうにか手を尽くして、容態を安定させている。そうして
行く宛てのない私は、ラ・ヴァリエール家のご厚意でここに住まわせてもらってるんだ」
己の素性を語ったヤマノ=キュリア星人に、ゼロはうなずいた。
『嘘はないみたいだな』
「ウルトラマンゼロ、君たちに頼みがある。私の正体は、誰にも話さないでもらいたい。
最初は生きる術として始めた医者だが、カトレアお嬢さまやこの家の人たちは、流れ者の私を
懇意にしてくれる心優しい人たちだ。彼らの気持ちを裏切りたくないし、カトレアお嬢さまの
病も治してあげたい。どうか、お願いできるだろうか」
ヤマノの頼みを、ゼロはすぐに了承した。
『是非もねぇさ。俺も、平和を求める奴の平穏をいたずらに乱したくはない。お互いの秘密は、
胸の内にしまい込んどこうぜ』
「ありがとう……感謝するよ」
ヤマノは痛み入ったように、深くお辞儀した。
翌朝、ラ・ヴァリエール公爵がとうとう帰宅した。彼は早速ルイズを呼び、朝食の席で
彼女の従軍の件を話し合った。
ルイズは許可を求めたが、そもそも戦に反対の立場の公爵は頑として認めなかった。彼の言によると、
今度の戦は間違いなのだという。
「『攻める』ということは、圧倒的な兵力があって初めて成功するものだ。敵軍は五万。我が軍は
ゲルマニアと合わせて六万。攻める軍は、守る側に比べて三倍の数があってこそ確実に勝利できるのだ。
侵略者の軍勢はウルティメイトフォースゼロが抑えてくれるとしても、この数では、拠点を得て、
空を制してなお、苦しい戦いになるだろう」
「我々は包囲をすべきなのだ。空からあの忌々しい大陸を封鎖して、日干しになるのを待てば、
向こうは根を上げるだろう。戦の決着を、白と黒でつけようとするからこういうことになる。
もし攻めて失敗したらなんとする? その可能性は低くはないのだ」
「タルブでたまたま勝ったからって、慢心が過ぎる。おまけに魔法学院の生徒を士官として連れていく?
バカを言っちゃいかん。戦は数だけそろえればよいというものではない。攻めるという行為は、
絶対に勝利できる自信があって初めて行えるのだ。そんな戦に、娘を行かせるわけにはいかん」
ルイズは父の言うことが全く正しかったので、論理的な反論が出来なかった。しかし、それでも
アンリエッタが自分の力を必要としているからと食い下がる。だがそれでも公爵は許さず、
ルイズに謹慎と、心を落ち着かせるために婿を取れと命じた。すっかり意気消沈してしまったルイズは、
朝食の席から逃げ出したのだった。
だがラ・ヴァリエール家で一人だけ、カトレアだけはルイズの選択を尊重し、彼女を逃がす用意を
整えてあげた。そしてその旨を才人に話し、ルイズの迎えに行くように送り出した……。
才人は指示された、中庭の池にやってきた。果たしてカトレアの言う通り、ルイズは池に浮かんだ
小舟に隠れて泣いていた。
「……サイト?」
「ルイズ、行くぞ。お前の姉さんが、馬車を用意してくれた」
「……行けないわよ。家族の許しをもらってないもの」
「無理だよ。向こうだってお前の家族だ。頑固なんだろ」
才人は手を伸ばすが、すねたルイズは振り払う。
「もうやだ。いくら頑張っても、わたしの頑張りは家族にも話せない。誰もわたしを認めてくれない。
そう思ったら、すごく寂しくなっちゃった」
才人はため息を吐き、小舟に乗り込んで、ルイズの手を握った。
「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから立てっつの。ほら」
「何が認めてやるよ。調子いいこと言わないで。サイトも、ゼロや父さまたちと同じで、
戦には反対なんでしょ。ほんとは、従軍なんてしたくないんでしょ」
「……ああ、そうだよ。人間同士の殺し合いなんて、真っ平だ。部屋で寝てる方がずっとマシだよ」
「だったら、そうしたらいいじゃない」
すっかりすねているルイズは、ついとそっぽを向く。
そんな彼女に、才人は、言い放った。
「それも出来ねえよ。だって……お前が好きなんだからよ!」
「……え?」
ルイズは一瞬、何を言われたか分からず、才人に向き直った。
「ああ、好きなんだよ! 顔見てるとドキドキすんだよ! それって好きってことじゃねーのかよ!
だから好きなんだよ! だからほっとけないんだよ!」
ルイズの顔は、真っ赤になっていた。才人も同じだ。何でこの状況で告白してるんだ、
なんて後悔までする。
しばし二人で見つめ合っていると、ルイズから先に口を開いた。
「嘘だったら、殺すわよ」
「嘘じゃねぇよ」
「……サイト……」
「……ルイズ……」
二人の世界に入り切る。自然に互いに顔が……唇が近づく……。
「おほん」
突然、池のほとりから咳払いが聞こえ、我に返ったルイズと才人はバッと勢いよく離れた。
振り返ると、ヤマノが頬を赤らめてこちらを手招きしていた。
「ヤ、ヤマノ先生!」
「あー、お二人とも……お熱いところ申し訳ないんだけど、早くしないと旦那さま方が集まってきて
逃げられなくなってしまうんだ。だから続きは後にして、とにかく今は、街道の馬車のところへ
移動してくれないかな?」
「……」
まっかっかの二人は無言でうなずく。
「私が後ろを警戒しよう。さぁ、街道への道はそっちだ。人が来る前に、早く」
「す、すいません……」
ヤマノに指示されるまま、才人とルイズは彼の示す道へ進もうとする。そうしてヤマノの前に回った、その時に、
パァンッ! と、渇いた銃声が起きた。
「つうッ!?」
「ルイズ!?」
崩れるルイズの身体。見れば、右の脛の裏に銃創が出来て、血が垂れ流れていた。背後から撃たれたようだ。
「えッ……!?」
「何だ、今の音は!?」
「ルイズ、あなた何をやってるの!? 血が出てるじゃない!」
背後に振り返る才人とヤマノ。更に銃声を聞きつけた公爵家族や使用人たちが集まり、
ルイズの惨状に顔を青くする。
その時に、いつの間に現れていたのか、ヤマノの背後から近づいてきた、使用人のような格好の男が、
ヤマノを指差して叫んだ。
「旦那さま、わたくしは見てました! 医者の先生が怪しい銃を使って、お嬢さまを撃ったのです!」
「なッ……!?」
目をひん剥く才人に、ヤマノ。男は続けて言う。
「怪しい銃を使ったそいつはきっと、人間じゃありません! 侵略者の手先、宇宙人です!
お嬢さまのお命を狙って、ここに忍び込んだに違いありません! 早く、そいつをひっ捕らえて下さい!」
人間じゃない、と言われて、ヤマノは顔面蒼白となった。そこは図星だからだ。しかし……。
『サイト、分かってると思うが、先生は銃撃犯じゃねぇぞ。あの男が怪しい……』
「ああ……」
ゼロに言われるまでもなく、才人はヤマノの仕業ではないと思っていた。昨日、わざわざ自身が
異星人だと明かした彼が、こんなことをするとは思えない。しかし、弁護する材料もない……。
うかうかしていると、公爵がヤマノを尋問し出す。
「先生、あなたが人間ではないという話、本当かな?」
「……」
重い表情で沈黙していたヤマノだが、ごまかせないと判断したか、正直に認めた。
「その通りです、旦那さま……。私は遠い星から来た、宇宙人です。ハルケギニアの人間ではありません……」
「そうか……」
公爵はおもむろにうなずき、
「やはり、カトレアの言葉に間違いはなかったか」
「……は!?」
ヤマノも才人もルイズも、告発した男も驚愕した。
「だ、旦那さま、それはどういうことでしょうか!? カトレアお嬢さまは……既に私の正体に気づいてた!?」
「早々にな。あの子は勘が妙に鋭いのだ。しかし、あなたが優しい人だということも見抜き、
そのことでどうか追い出さないで下さいとわしに頼んできた。わしとしても、娘の病に手をつけられた
二人といない名医を手放したくなかったので、学院に通っているルイズ以外の家族と使用人全員に
伝えた上で、決して口外しないよう固く命じたのだ」
エレオノールたちや使用人が次々うなずく。ヤマノに才人たちは、すっかり呆然としていた。
「……して、今更そんな周知の事実を、大事のように取り沙汰したそこのお前は、一体誰なのかね?」
「はッ……!?」
公爵の矛先は、告発した男に向いていた。八方からにらまれた男は、汗だくになって弁明する。
「わ、わたくしは新参故、そのようなことは知らなかったので……」
「新しい使用人は、しばらくは雇い入れてないはずだ。そうだろう、ジェローム?」
「間違いございません」
「それに、どこぞの貴族の屋敷や王宮にまで侵略者の手先が潜入した事件があった故、この屋敷で
働く人間の顔は頭に入れている。その中に、お前はいない。もう十分だろう。……娘を撃った罪、
その命で贖ってもらおう」
公爵や夫人、エレオノールが杖を抜いた。使用人たちもそれぞれ獲物を手にする。
「……フッ……フフフッ……! 文明の遅れた原始人と思って、舐めて掛かりすぎたか!」
追い詰められた男は、開き直ったかのように笑うと、一足飛びで離れた盛り土の上に飛び乗った。
明らかに常人を越えた動きだ。
「その通り、私こそが侵略者の正体だ! むんッ!」
懐から取り出した、四角形の周りに複数の円を取りつけた金属のプレートを胸に当てると、
軽い爆発で全身が覆われる。そして硝煙が晴れると、怪人の正体を晒した。
『暗黒星雲の惑星、シャプレー星人だ!』
頭部のほとんどを覆う複眼を持ち、光線銃を構える凶悪宇宙人の姿が、そこにあった。
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#navi(ウルトラマンゼロの使い魔)
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