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「るろうに使い魔-28」(2012/10/14 (日) 23:24:20) の最新版変更点
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#navi(るろうに使い魔)
アルビオンによる宣戦布告、トリステイン軍の壊滅の報が王国に届いたのは、それからすぐ後だった。
上層部による、終わりを見せない話し合いの末、トリステイン側も徹底抗戦すべく、アンリエッタを筆頭に出陣。根城にすべくアルビオン側が侵入を始めたタルブへと殺到した。
そして、少し遅れてその報告は、トリステイン学院にも入ってきた。
その頃、剣心は丁度燃料がノルマまで達成できたとの事をコルベールから聞いて、それにルイズと共に向かう途中だった。
「ホントにあれが飛ぶの?」
「まあ、今からそれを試しに行くところでござ――――」
そのすれ違い様、オスマンと勅使の会話を聞いて、剣心は顔色を変えた。
「現在の戦況は?」
「敵の竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです」
「…その様子だと、見捨てる気のようじゃな」
その瞬間、剣心はルイズの制止も聞かずに走り出していた。
「ま、待ってよ、ケンシン!!」
しかし、ルイズの声はもう、剣心には届かない。
剣心は、手頃な窓を見つけると、腰の逆刃刀で叩き割り、そこから外へと、なんの躊躇もなく飛び降りた。
このまま落ちたら、間違いなく大怪我じゃ済まないほどの高さだったが、剣心は壁についてる小さな窪みや穴に、的確な動作で手を引っ掛けて、軽業師のように地面に着地した。
ルイズが窓から見下ろした時には、剣心はもう中庭を駆け始めている最中だった。
「……ケンシン」
第二十八幕 『因縁の出会い、虚無の誕生』
「コルベール殿!! 大変でござる!!」
「なっ…どうしたんだね、急に!!」
剣心は、そのままコルベールの研究所まで向かい、これまでのいきさつを手短に説明した。
「何だって!? タルブがそんな事に!!?」
「それで、直ぐに試運転をしたいのでござるが」
「…分かった。準備しよう」
剣心の眼を見て、どうにも止められないと悟ったコルベールは、急いで燃料を掻き集め、それをゼロ戦に補給した。
剣心は、コックピットに乗り込み、離陸の手筈を整える。正直に言えば、戦いのためにこれを使いたくはなかったが、今は一刻を争う。
「シエスタ殿…」
昨日まで世話になった、自分を好きと言ってくれた無垢な少女。そして、暖かく迎え入れてくれた家族。平和で安穏な村。それが今、戦争に巻き込まれている。
それを知って放って置くことなど、剣心は出来る訳がなかった。
コックピットを閉めて、燃料の確認…大丈夫。操作手順…抜かりなし。目的地は、タルブの村に駐在する敵軍。
出発の準備が整った所へ丁度、ルイズが息を切らしてやって来た。否、ルイズだけじゃなく、様子を見に来たキュルケやタバサも、一緒に来ていた。
「ま…待ってよ…ケンシン!!」
ルイズは必死に叫んだ。一人で行ってどうするの、死ぬだけなのよ、と。
しかし声は回り始めたプロペラの音に、殆どが掻き消されたが、少なくとも剣心は、ルイズがいることには気づいたようだった。
剣心は、ルイズを安心させるように、身振り手振りで様子を伝えた。
(直ぐに帰るから。安心して欲しい)
それだけを伝えると、剣心はレバーを引いた。それと同時に、左手のルーンが輝き出す。
離陸の仕方、飛行の方法、それらが頭の中を駆け巡っていく。
と同時に、離陸するには距離が足りないということも知った。
(コルベール殿、風起こしを頼む)
今度は、コルベールにジェスチャーをして、剣心はこのことを伝えた。コルベールはすぐに理解したのか、直ぐに杖を振って風を吹かせる。
それと合わせるように、剣心は、ゼロ戦を一気に動かした。
「今だ!!!」
最初は不安定な動きだったが、ゆっくりとゼロ戦は上昇を始める。起動を上手く見ながら、剣心は動かした。
すると、一気に風に乗ったのか、ゼロ戦は空に浮き、それからルイズ達の目にも止まらぬ速さで飛んでいった。
「ほ、本当に飛んでいった…」
その場に残ったコルベールは、ただポカンとして空を見上げていた。
「…ケンシン」
ルイズもまた、ただ寂しそうな表情で空を見ていた。
自分は、無力だ…。今でこそ、それを実感したことはなかった。剣心は、話を聞いてから直ぐに行動に移ったというのに。
分かったように戦争についての恐ろしさを語ろうとして、でも剣心の方は明らかに慣れている手際の良さで、自分の入り込める隙間なんてなくて…。
「やっぱり…私はゼロなのかな…」
同じゼロでも、あの『ゼロ戦』と私は偉い違いだなぁ…。そんな自虐めいた考えが頭をもたげていた、その瞬間だった。
「…うん…?」
何となく嵌めていた『水のルビー』が、急に光り始めた。それと同時に、懐に入れてた『始祖の祈祷書』も、共鳴するように輝き始める。
一体何…? そう思って、ルイズは祈祷書の一ページをめくり、そして驚きに目を見開いた。
これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。
以前見たときには、何も書かれていないはずだった紙の空白に、確かにそれは記されていた。
ルイズは、読み続ける内に鼓動が高鳴っていくのを感じた。自分の中に秘めている、『何か』が開放されそうで…。
それは間違いなく、始祖ブリミルが遺した文章。そして最後には、呪文と共にこう書かれていた。
初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン』
「……ねえ、タバサ…」
「何?」
ルイズは、肩を震わせながら、隣にいるタバサに聞いた。
「シルフィード…貸してくれない……?」
「何故…?」
「ねえルイズ、あんたまさか…」
ルイズの様子に気付いたキュルケが、詰め寄るように近付いた。だが、ルイズはもう止まらなかった。
「お願い!! 今知りたいの、私の力は、一体何のためにあるのか!!」
杖を振ると、必ずと言っていいほど爆発する。
思うように魔法を使えなかったので、いつしかそれを『失敗』と呼ぶようになった。
そのせいで、今まで何故爆発が起こるのか、深く考えたことはなかった。
でも…今は思う。それは、もしかして伝説の力の片鱗なのかもしれないと。
存在すら疑わしいような話、『虚無』の力は、最初から自分の中に眠っているだけなのかも知れないと。
そして、今この時をキッカケに、それが目覚め始めているのではないのかと。
最初は、ルイズのこの剣幕に、少し困惑気味のタバサだったが、彼女の眼には強い意志が宿り始めているのを見て、共感するように頷いた。
タバサは、コルベールに気づかれないように隠れて、シルフィードを呼んだ。直ぐ様、シルフィードは翼を羽ばたかせてやって来た。
「全く、一体何なのよ!?」
状況は全く理解できないながらも、放ってはおけないとキュルケも、シルフィードに乗った。
タルブの村上空に鎮座する、『レキシントン』号。それを遠目で見据えながら、剣心はゼロ戦を飛行させた。
途中、襲ってきた竜騎兵は何人かいたが、皆初めて見るゼロ戦の風貌と性能に、すっかり恐れ戦き、無闇に突っ込んだ者はその風圧に吹っ飛ばされていった。
「なあ相棒、武器は使わねえのか?」
座席の隣にかけてあるデルフが、剣呑な口調で剣心に聞いた。
「銃は、加減が効かない」
「敵さんも、殺さねえでいくつもりかい?」
「その通りでござる」
屈託なく返す剣心の言葉に、デルフはさも面白そうに笑った。勿論、侮蔑とかの意味はなく、単純に気に入ったからである。
「面倒な戦いになるぜ? それでもその信念、貫くつもりかい?」
「無論でござるよ」
「面白ぇ! 今回の相棒は、かなり楽しい奴だなぁ! その信念、どこまで貫けるか、このデルフリンガー様がちゃんと見届けてやるよ!!」
竜騎士の攻撃を躱しながら、徐々に『レキシントン』号との距離を縮めていく。遂にあちら側も、砲弾で攻撃を始めたのだ。
その、竜騎士とは比べ物にならないほどの攻撃に、流石の剣心もこれ以上は進行できなかった。
「どうするよ? 上から攻めるか?」
しかし、剣心が銃を使わない限り、上から攻め行っても意味はない。乗組員に直接被害が出るからだ。
しかし、剣心は妙案とばかりに、上空へと旋回させ、『レキシントン』号の真上へと近付いていった。
「目標、『レキシントン』の上空へと接近!! 竜騎士の展開、間に合いません!!」
「ふむ…」
その頃、アルビオンの兵たちは、この事態に一時の恐慌状態へと陥っていた。
謎の竜が、次々と軍を蹴散らしていく。その報告が来たときには、その噂の竜の姿が、こちらにも視認できる距離にいたのだ。
「謎の竜…ねえ」
「シシオ様、どうなさいますか?」
隣のワルドが、伺うように志々雄に聞いた。何時でも出撃は出来る。後は彼の命令だけだ。
しかし、志々雄は上空へと飛び回るゼロ戦を一瞥して、何の気もなくこう答えた。
「まあ待て。暫く様子を見てみようじゃないか」
「?…と、言いますと…」
「まあ、風竜の準備はしておけ。これは俺の勘だが、恐らくあれは…」
志々雄がそう言いかけた、その次の瞬間だった。
おもむろにゼロ戦から何かが飛び降りた。それは、急速に接近し、どんどん大きくなっていく。
そして、ドン!! と大きな落下音と共に、兵士たちは驚きで目を見張った。
そこには、高いところから着地した剣心の姿が、そこにあったからだ。
「相棒…おめぇ…武器使いたくねえからって…そこまでするか普通…?」
デルフが、呆れ半分怖さ半分の調子で言った。まさか飛び降りて直接『レキシントン』号の上に着陸するなんて、考えても見なかったからだ。
乗り手を失ったゼロ戦は、そのまま落下して、大きな湖の上へと着陸した。その様子を遠巻きに見ながら、兵士たちはハッとした様に武器を、杖を剣心に構えた。
「なっ何奴!!?」
「貴様…何者だ!!!」
剣心も、それに応えるように逆刃刀に手をかけた、その時だった。
「久しぶりだな、先輩」
(……この感じは―――!?)
その声は、剣心の上から聞こえてきた。
聞き覚えのある声、それに剣心は弾けたように、上の方を見やった。
「――――なっ!!?」
そして驚きで目を見張る。
「馬鹿な…何故お前が…こんなところに…」
「さあね。だがまあ、一つだけ言えることがある」
全身くまなく包帯でまかれ、優雅に煙管を吸っているその男。
かつて、『人斬り』の後継者であり、運命を懸けて全力で勝負した剣客。
業火の炎に焼かれ、確かに地獄へと落ちていった筈なのに…。
「俺とあんたは今、間違いなくこの世界に存在するということだけさ」
「―――志々雄真実…」
剣心はそう呟いて、かつての仇敵に目を向けた。
ルイズ達は、シルフィードに跨りながら、タルブの村へと直行している最中だった。
ゼロ戦の速さは、風竜と互角位のものだから、直ぐに追いつくわけにはいかなかったが、それでも数分としないうちに、タルブ上空に構える『レキシントン』号の姿が見えてきた。
「敵兵がもっといると思ったのに…案外さっぱりね」
キュルケが、辺りを見回しながらそう言った。もう敵戦区域に入ってるだろう筈なのに、竜騎士の姿は影も形もなかった。
「多分、ケンシンが倒していったんだと思うわ」
ルイズは、大事そうに『始祖の祈祷書』を抱えていた。それを見かねたキュルケが、不思議そうに聞いた。
「ねえ、あんた一体どうしたの? 何かへんよ?」
「確かに…ヘンよね私。というよりヘンだわ」
キュルケの言を肯定するかのように、ルイズは頷いた。これが変でなくて何だろう? 常識で考えれば、こんな事、ありえない筈だってのは分かっている。
仮に自分が『虚無』の担い手だとして、それをキュルケ達に話しても、「頭がおかしくなったの?」と言われることだろう。
でも、今のルイズには何か「可能性」が満ち溢れていた。あの祈祷書の中身を見たとき、そして呪文の一文を見たとき、今まで失っていた歯車が、ガッチリと噛み合ったかのような感覚を覚えたのだ。
今なら、何かが起こせる気がする。それは理屈ではないのかも知れなかった。
そして今、眼前には巨大戦艦『レキシントン』が、その全貌をルイズ達に晒していた。
「この一連の事件の黒幕は、やはりお前の仕業でござるか?」
志々雄を見上げながら、鋭い目で剣心は聞いた。
「『君』位つけろよ。何だか暫く見ないうちに、随分ふてぶてしさが上がったな。先輩」
対する志々雄も、剣心を見下ろしながら、ニヤリと口元を歪ませた。
「お前も、その不遜な性格はどうやら直っていないようでござるな」
皮肉たっぷりに返しながら、剣心は遠くに写るタルブの村を見た。
「……何故この村を襲った?」
「まあ、この国の占領の拠点兼、あんたの挨拶も予てだ。村の一つや二つ燃やせば、あんたは間違いなく飛んでくると踏んでたからな」
その言葉に、剣心はその目に怒りの炎を燃やした。
「また…お前自身の勝手な正義のために…この国を、この村を…利用しようというのか?」
それを聞いて、志々雄はフッと笑った。
「相変わらず、そういう頑固さだけは変わらねえな、先輩。あの時言ったはずだぜ…」
志々雄は、目の前で握り拳をして、語るように口を開いた。
「俺の国盗りは、この世界での摂理。貴族だから何だのと、弱者が喚くような腐った世界は要らねえ。『聖地』を奪い返したいのなら、俺がそれを叶えさせてやる。そして俺が覇権を握りとってやる。それが、俺がこの世界を手に入れる正義であり、そして全てだと!!!」
「その時、拙者も言ったな…お前の願いを叶えるのに犠牲になるのは…今下にあるタルブと同じ、今を平和に生きていた人々だと」
剣心は、シエスタや家族、そして平穏に暮らしていたであろうタルブの人々を思い起こしていた。
一瞬、左手のルーンが光り輝くが、それを剣心はもう片方の手で抑える。
しかし志々雄は、相変わらずの不遜な笑みをしたまま言った。
「『所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ』これぐらいで死ぬようなら、ハナからそいつには生きる資格がねぇ、てなだけだ」
「その資格を決めるのは、お前ではない!!」
叫びと共に、剣心は抜刀。兵士の誰もが見切れぬ速さで、志々雄の元まで斬り込んだ。しかし、その間を割って入るように、ワルドを乗せた風竜が立ちはだかった。
「むっ!」
風竜のブレスと共に、剣心は一度大きく距離をとる。反応が出来なかった兵士たちは、そのまま叩き付けられ、吹き飛ばされていった。
「会いたかったぞ抜刀斎!! まさかこの腕の借りをすぐに返せる時が来るとはな!!」
「…何だ、またお前か」
歓喜の声を上げるワルドに対し、剣心は冷ややかな視線を送った。
「その様子だと、未だに懲りていないようだな」
「ほざけ、シシオ様に刃を向けたくば、まずこの俺を倒してみろ!!!」
ワルドの殺気に反応するかのように、風竜も大声で剣心に威嚇した。
そんな事態が起こっている『レキシントン』号に、ルイズ達を乗せたシルフィードもゆっくりとやって来ていた。
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