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&setpagename(memory-29 「代役の名は」)
タルブの村を奪還してから半刻程経ち、空が僅かに明るみ始めた頃……。
エツィオは村の中央に据え付けられた物見櫓の上から、迎撃の準備を整える傭兵達を俯瞰していた。
先ほど、エツィオが進んで死者の埋葬を行ったためか、兵士たちの士気は高いようだ。劣勢にありながらも逃げだそうとしなかったあたり、彼らは元々質のいい傭兵団だったのだろう。
村に運び込まれた大砲を据え付けている彼らを見て、エツィオは共に戦う仲間達がいることをうらやましく思った。
ルイズ達は確かに大事な仲間なのだが、自分が孤独なアサシンであることに変わりはないのだ。
「アウディトーレ」
そんな風に物思いにふけっていると、背後から名前を呼ばれエツィオは振り向く、梯子を上ってきたアニエスがひょこっと顔を出した。
「兵の一人に首をもたせて本陣に向け出発させた。最も馬の扱いに長けた者だ、迂回するルートとはいえ、おそらく夜明け前までにはラ・ロシェールへ辿りつけるだろう」
「彼の遺体は?」
「首を取った後、埋葬した」
「そうか……。わかった」
エツィオは一つ頷くと、大草原の上空に浮かぶアルビオン艦隊を見上げる。
旗艦『ゴライアス』号を始めとしたアルビオン艦隊は、三千メイル上空で、ラ・ロシェールを中心に展開したトリステイン艦隊と睨みあっている。
「さて、どうしたものかな……」
エツィオが小さく呟き首を傾げると、隣に立ったアニエスも空を見上げた。
「アルビオン艦隊か」
「ああ。これが海だったらまだ何とかなったんだろうけどな、空に浮いてるんじゃ手も足も出ない」
「流石のお前も、艦隊には歯が立たぬか」
「生憎、俺は空を飛べなくてね。最も、飛べたとしてもアレの相手はご免だけどな」
「ふふっ、なるほど、お前も人の子と言うわけか」
エツィオが笑みを浮かべ肩を竦めると、アニエスもつられてクスッと笑った。
「まあ、艦隊の相手はトリステインに任せるとするさ。俺達には俺達のできることをしよう。そう言えば、元々ここの指揮をしていた指揮官はどうした? 討ち取れたのか?」
アニエスは首を横に振った。
「いや、まだだ。ここを制圧する時に指揮を執っていた指揮官は、ヴィリアーズ公の到着に合わせ前線拠点へと向かったようだ。
捕虜からの聴取によると、そいつが地上部隊の副指令にあたる、ということだそうだ」
「前線拠点?」
アニエスはなにやら筒のようなもの取りだすと、エツィオに手渡した。
「これは? 何に使うんだ?」
筒を受け取ったエツィオは小さく首を傾げアニエスに尋ねる。
するとアニエスは、僅かに眉間にしわを寄せた。
「はあ? お前、ふざけているのか?」
「いや、ふざけるも何も、初めて見たんだ、これは何をする道具なんだ?」
本当に何も知らないと言いたげなエツィオに、アニエスは唖然とした表情で見つめた。
「何って、これは遠眼鏡だろう? まさか、本当に知らないのか?」
「だからそう言ってるじゃないか……」
肩を竦めるエツィオに、アニエスは遠眼鏡をひったくると、筒を伸ばし、端についた小さいガラスを指さした。
「ここを覗いてみろ」
「どれどれ……? うわわっ!」
言われたとおりエツィオが遠眼鏡を覗き込む。そして驚きの声を上げた。
それからエツィオは、まるで新しいおもちゃを与えてもらった子供のように何度も遠眼鏡を覗きこんだ。
「これはすごいな! 遠くのものが近くに見えるのか!」
「まったく……、遠眼鏡も知らんとは……何なんだお前は?」
アニエスは目の前で無邪気にはしゃいでいるエツィオを見つめ首を傾げる。
その様子は、どこか子供っぽく、とてもアルビオン軍がその名を聞いただけで震えあがるアサシンとは思えなかった。
「……堪能したか?」
「あ、ああ。レオナルドの奴に見せたらどんな顔をするかな」
「なによりだ、本題に戻ってもいいか?」
にこにことほほ笑むエツィオに、アニエスはこほん、と小さく咳払いし、草原の片隅を指さした。
「あの寺院が見えるか?」
遠眼鏡を再び覗き込むと、なるほど森と草原の境目あたりに古びた木造の寺院が見えた。
「ん、ああ……、随分変わった形だな」
「ずっと昔、ここの村の住民が建立したものだそうだ。何が祀られているかは知らないがな」
「なるほど……。篝火に……歩哨が見えるな、となると……」
エツィオが呟くと、アニエスが肯定するように頷いた。
「ああ、アルビオン軍だ、そこに地上部隊副司令官がいる」
「そいつの名は?」
「ウィリアム・フィールディング。お前の標的である貴族議会の議員ではないが、それでも名のある貴族らしいな」
「なるほど……、副指令と言うことは、彼が新しい司令官になるのか」
エツィオは遠眼鏡から目を離すと、小さく畳んで腰のポーチにしまい込んだ。
東の空を見上げると、僅かに空が明るくなりつつある。エツィオは顎に手を当てなにやら考えると、アニエスに尋ねる。
「奴らの予定では、夜明けと共にラ・ロシェール攻撃だったな」
「そうだ、無論トリステインもそれを察している、ヴィリアーズ公の死でどう影響が出るかはわからんが、空は空、陸は陸で両軍のぶつかり合いになるだろうな」
「そうか……、なら、先手を打っておく必要があるな」
エツィオはニヤリと笑うと、突如手すりに足をかけ、物見櫓から飛び降りた。
アニエスが驚いて櫓の下を見やる、するといつの間にか馬に跨ったエツィオが、こちらを見上げていた。
「アニエス! 俺が戻るまでの間、留守番を頼む!」
「待て! アウディトーレ! どこに行く気だ!」
「新しい司令官殿に御挨拶をな! 開戦前までにケリを付ける! 戦いの準備を怠るなよ!」
「あっ、おい!」
エツィオはそれだけ言うと馬の腹に蹴りを入れる、驚いた馬は馬首を上げながら一声嘶くと、村の外へと向け一直線に走り出した。
「くっ……! 好き勝手言ってくれる……!」
物見櫓に一人残されたアニエスは、苦い表情で呟くと、地上でぽかんとアサシンの姿を見送っていた傭兵を怒鳴りつけた。
「見ての通りだ! アサシンが出撃した! 夜明けまでに戦う準備を整えろと全員に伝えろ! 急げ!」
タルブの村から少し離れた森の外れ……丁度森と大草原の境目に位置する古びた寺院を臨時の前線拠点としたアルビオン軍の幕僚達は、
日の出と共に行われるラ・ロシェール攻撃作戦について話し合っていた。
「……と、このような形で我らはラ・ロシェールに総攻撃をかける、なにか意見はあるかね?」
小さなランプの灯りの下、長方形のテーブル、祭壇を背にした上座に腰かけ、会議の進行を執り行っているのはラ・ロシェール攻撃部隊参謀、ウィリアム・フィールディング伯。
アルビオン軍総司令官であるジョージ・ヴィリアーズ公の副官でもある彼は、その補佐の為に先んじてこの前線拠点へと赴き、
幕僚を始めとした、各部隊を指揮する野戦指揮官達と会議を行っていたのであった。
「トリステインの対応がここまで早かったのは予想外であったが、この戦、何としても短期で決せねばならぬ、
この戦い、ヴィリアーズ総司令閣下が直接指揮をなさる、各員の奮闘に期待したい」
「ヴィリアーズ公は今どちらに?」
「地上司令部だ、たしか、タルブの村と言ったか。そろそろお見えになる頃だが……」
指揮官からの質問にウィリアム伯がそう答えた、その時……。
俄かに外が騒がしくなった。何事かと一人のメイジの士官が窓を開けると、
寺院の周囲を警備していた見張りの兵達がなにやら慌てて一か所に集まりつつあるのが見えた。
そこへ向かおうとしている一人の若い兵を呼び止め、士官は問うた。
「おい、どうした、なんの騒ぎだ?」
「はっ! 森の奥で小火が起きたようです! おそらく焚火の不始末かと」
兵士の答えに、士官がそちらを見ると、たしかに森の奥、暗がりの中から黒い煙がもくもくと上がっているのが見えた。
「たるみ過ぎだ馬鹿者! すぐに火を消し止めろ!」
「は、はっ! も、申し訳ありません!」
「まったく……」
兵士をどやしつけ、眉根を顰めながら席に戻る。
「何か起こったのかね?」
「いえ、ただの小火騒ぎの様です。すぐに消し止められるでしょう」
士官が再び席についた時、今度は寺院の扉が、ドンドンドン! と強く叩かれた。
「誰だ、今は軍議中だぞ」ウィリアム伯が問うた、次の瞬間、会議場の中に連絡士官が飛び込んできた。
「でっ、伝令! ち、地上司令部が陥落! サー・ジョージ・ヴィリアーズ総司令閣下が戦死なされました!」
「戦死? 陥落だと!」
ラ・ロシェール攻撃を前に届いたその衝撃的な報せに、会議場が騒然となる。
ウィリアム伯は、信じられないと言った様子で立ち上がった。
「馬鹿な! 一体何があったのだ! トリステインはまだ部隊を隠していたのか?」
「サー。そ、それが……、司令部を陥落させたのは『アサシン』であります! 『アサシン』が地上司令部を強襲!
我が軍が捕虜としていたトリステイン兵を解放し扇動、蜂起を起こさせた模様です!」
「あ……アサシン……だと! まさか……奴か!」
ウィリアム伯は、目を丸くし、呆然と立ちつくした。顔を蒼白にし、握っていた杖を思わず取り落とす。
集まった幕僚たちは愕然とした面持ちで顔を見合わせた。
「アサシン……! 奴が……この戦場に?」
「ど、どうするのですか? サー! 総司令官が討たれたとあっては、兵達の……いや、それどころか、全軍団の士気と統制にすら関わりますぞ!」
会議場の指揮官たちは立ちつくすウィリアム伯に向け直立した。総司令官が討たれた今、代わって指揮を取るべき人物は彼以外にはいない。
「と、とにかく、ご命令を! 総司令閣下!」
「閣下!」
その声で我に返ったウィリアム伯は、はっとした表情で顔を上げた。
そうだ、とにかく今は、この混乱を治めなければ。総司令官を失い、統制と士気を失った軍団に未来はない、
もし今トリステインに攻め込まれれば、あっという間に地上部隊は壊走してしまうだろう。
いや、それどころか、アルビオン艦隊含む全ての部隊に多大な影響を及ぼすかもしれない。それだけはなんとしても避けなければならなかった。
ウィリアム伯は伝令に向け発令した。
「ぜ、全部隊長に伝達! 戦死したヴィリアーズ総司令閣下に代わり、私が指揮を取る! 部隊の混乱を治めるのだ!」
「はっ!」
命を受けた伝令は、一礼すると、会議場の外へとすっ飛んでゆく。
それを見送ったウィリアム伯はどかっと椅子に腰を下ろすと、頭を抱え、うめき声を上げた。
予想どころか想像すらしていなかった、アサシンの襲撃という最悪の事態。
今、アルビオンで最も恐れられるアサシンが、よりにもよってこのタイミングで現れ、総司令官を暗殺してゆく。最早悪夢以外の何物でもなかった。
「ああ……なんということだ……。アサシンッ……! あの悪魔め……!」
やり場のない怒りに、唇をきつく噛みしめテーブルを殴りつける。
「どうか冷静に、ここで取り乱しては、奴の思う壺です!」
「ともかく、今はラ・ロシェールを陥落させる事が先決かと、今はアサシンを相手取っている余裕はありませぬ」
「ご安心を! アサシンなど、トリステインもろとも虫けらの如く捻りつぶしてやりますとも!」
幕僚たちは勇ましい声を上げ、椅子から立ち上がる。
その声に、ウィリアム伯が俯いていた顔を上げた、その時……。
「悪いがそうはいかない」
突然聞こえてきたその冷たい声に、何事かと幕僚たちが辺りを見回す。
その瞬間、会議場中央に置かれたテーブルの上に、白のローブに身を包んだフードの男が、どすん! という音と共に着地する。
突然の闖入者に唖然とする幕僚たちの目の前で、その男は目の前にいたウィリアム伯の胸倉を掴むと、ぐいと手元に引き寄せた。
「さらばだ、『総司令閣下』」
顔を鼻先に突きつけ、呟くや否や、左手首から飛び出した短剣を振い、ウィリアム伯の首を深々と貫いた。
ウィリアム伯の身体が椅子から床に崩れ落ちる。就任したての新たなアルビオン軍総司令官、彼の死は不意に、そして速やかに訪れた。
突然の出来事に、一瞬、会議場が静まり返る。周囲にいた幕僚たちも、瞬時には何が起こったのか理解しかねていた。
フードの男が、テーブルの上で立ち上がり、ゆっくりと幕僚たちの方を振り返る。
はらりと、肩に掛かっていたマントが垂れ下がる。そのマントに刺繍された紋章をみた士官が、我に返って叫ぶ。
「アサシン!」
そう叫んだ彼の眉間に、深々と一本のボルトが突き刺さる。そして彼が床に横たわるよりも早く、アサシンが動いた。
いつの間にか手に持っていたクロスボウを投げ捨て、すぐ近くにいたメイジの騎士に襲いかかる。
馬乗りになる形で押し倒し、メイジの首にアサシンブレードを突き立てる。鋭い刃が頸椎を断ち、あっという間に死に至らしめる。
「お、おのれ!」
士官の一人が杖を引き抜き呪文を詠唱する、杖の先から巨大な火球が飛び出し、アサシンを焼き尽くす……筈だった。
だが、その瞬間はいつまでたっても訪れない、それどころかその士官の額には一本の小ぶりな短剣が突き立っており、そこから一筋の血が流れ落ちてゆく。
「……ぁ」
どうっ、と士官がその場に崩れ落ちる。士官が杖を振り切るよりも早く、アサシンの手から放たれた小さな投げナイフが寸分たがわず彼の額を撃ち抜いたのであった。
最後に残された将校が杖を引き抜く、だがアサシンが再び投げナイフを放ち、彼の手から杖を叩き落した。
「ひっ……! ひいッ!」
杖を失った将校は、情けない悲鳴を上げながら祭壇へと逃げてゆく。
そしてその祭壇に祀られていた一振りの短刀を手に取ると、鞘から引き抜きアサシンに突きつけた。
「こ、この悪魔め! くっ、来るな! 来ないでくれ!」
「悪あがきはよせ、観念するんだな」
「う、うわああああっ!」
恐怖に駆られた将校は、悲鳴に似た叫び声を上げながら、アサシンに斬りかかった。
死に物狂いで振り回しているだけに攻撃の軌道が読みにくい、振り下ろされた短刀が、アサシンの左前腕を叩く。
鈍い衝撃が走ったが、金属の手甲が腕を守ってくれた。無傷のアサシンに、将校は目を剥いている。
「お、お前はっ! お前は悪魔に守られているのか!?」
その姿にひるんだ瞬間を、エツィオは見逃さず、将校の手首を捻り上げ、握っていた短刀を奪い取る。
そのまま短刀を逆手に持ち、相手の首筋に刃を添える。首元で鈍い光を放つ短刀に、将校は怯えたようにアサシンを見つめた。
「や、やめろ……、やめてくれ! ど、どうしてこんなことをする!」
「それを問うか? お前達がここにいるからだ」
将校の問いにエツィオは小さく呟くと、相手の首筋に添えた短剣を横に滑らせた。
その短刀は驚くほどの切れ味で、ぱっくりと将校の喉笛を切り裂いた。
「汝らの死は必然なり――眠れ、安らかに」
喉笛を裂かれた将校は、かっと目を見開いたかと思うと、ほどなくその身体は弛緩して膝から床の上に崩れ落ちた。
瞬く間に全員の息の根を止めたエツィオは返り血を拭きとると、先ほど短刀が叩きつけられた左腕の腕甲をみて、思わず目を見張った。
見るとアルタイルの文献を元に、レオナルドが作り上げた特殊金属製の腕甲に傷が入っているではないか!
防具としての機能に問題はないものの、重装兵の斧の一撃にもビクともしなかった腕甲に傷が入ったのはエツィオにとって些かショックな事であった。
「俺の腕甲に傷を付けるなんて……」
エツィオは信じられないと言った様子で呟くと、先ほど殺した将校から奪い取った短刀を見つめた。
刀身が鏡のように磨かれた、とても美しい片刃の短刀である。人を切ったと言うのに脂が付いておらず、錆一つ浮いていない。
この寺院の祭壇に祀られていたところを見るに、この寺院に治められた聖遺物、あるいはそれに準ずるものなのだろうとエツィオは当たりを付けた。
「ほー、こりゃすげえ短刀だな」
「わかるのか?」
興味深げにそれを見ていたエツィオに、腰に下げたデルフリンガーが感嘆したように呟いた。
「まあ剣だからな、……しっかしこりゃあ、相当な業物だぜ。相棒ツイてるな、これ持ってっちまえよ」
「いいのかな……」
「いいんだよ、どうせここ置いてたって、アルビオンの連中が持ってっちまうぞ、連中にゃもったいないだろうが」
さすがに祀られていた物を勝手に拝借するのは気が引けるのか、エツィオは顔を渋める。
しかしデルフリンガーの言うことも尤もである。先ほどこの寺院を占拠していた士官達は全員がメイジだったからこそ、この短刀に興味を示さなかったのだろう。
エツィオは祭壇に向き直ると、何となく厳粛な気分になったのか胸の前で十字を切った。
「しばらくの間、お預かりいたします、願わくば我が力とならんことを」
エツィオが呟き、落ちていた鞘を拾い上げた、その時であった。
異変を察知し駆け付けたアルビオン兵が、寺院の扉を開け、中に踏み込んできた。
「閣下! なっ……! あ、ああ……!」
中に踏み込んだアルビオン兵は、寺院の中に転がる幕僚達の死体を見て言葉を失った。
いずれもが名のあるメイジの貴族である彼らが、皆一様にして首を裂かれ、或いは急所を貫かれ絶命してしまっている。
その中にはアルビオン軍総司令官に就任したばかりの、ウィリアム伯の姿まであるではないか。
その地獄の様な惨状に唖然としていたアルビオン兵であったが、祭壇の前に血の滴る短刀を握り締めた一人の男が立っていることに気がついた。
瞬間、アルビオン兵は恐怖でたちまち凍りついた。赤黒いマントに白のローブ、間違いない、この男は!
「あ、アサシン! だ、だだ、誰か来てくれ! アサシンだ! アサシンが出たぞ!」
我に返ったアルビオン兵は悲鳴を上げながら、ほうほうの体で逃げ出した。その絶叫に、にわかに外の様子が騒がしくなった。
見ると騒ぎを聞きつけた敵兵達が寺院に殺到より先に、エツィオは驚くほどの俊敏さで壁を駆けあがり、天井の梁へと飛び移る。
そのまま梁の上を伝い、侵入経路であった換気用の窓から外へと出ると、屋根の淵に手をかけ、寺院の屋根の上へよじ登る。
彼がその上から身を躍らせた時には、あまりの早業に、敵の兵達はぽかんと口をあけていた。
風を受けてマントが翻るなか、アサシンブレードを発動させたエツィオは馬に乗っていたアルビオンの軍曹に飛びかかって鋭い刃で切りつける。
エツィオは敵を落馬させてそのまま馬を乗っ取ると、他の兵が反撃に出るより前に森へ向け全速力で走り出した。
一度も振り返らず、拠点である村を目指すことだけを考えて、さらに速く馬を駆り立てていった。
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