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#navi(ゼロのルイズと魔物の勇者)
「大変ですオールド・オスマン!城からの知らせです!チェルノボーグの牢獄から、フーケが脱獄したそうです!」
ルイズ達が去った学院で、ミスタ・コルベールが血相を変えて叫ぶ。
「ふむ・・・」
オスマンは、眉間にしわを寄せて深く椅子に腰かける。
「門番の話では、さる貴族を名乗る怪しい人物に『風』の魔法で気絶させられたそうです!」
その風の魔法を使ったメイジが脱獄の手引きをした。
それはつまり、城下に裏切り者がいるということ。
しかし、オスマンは全く焦った様子を見せない。
もし、あの使い魔が本当に伝説のリーヴスラシルなら・・・
――――――――――――――――――――――
ワルドはグリフォンに跨り、空を飛んでいる。
ルイズはワルドの膝の上。
ルイズの馬に乗るはずだったスラおは、ギーシュの馬に乗るはめになった。
「ちぇっ・・・なんでオイラがお前と一緒に・・・」
ケチをつけるスラおに対してギーシュが呟く。
「ぼくだってヴェルダンデを置いてきたんだ。我慢したまえ」
ギーシュもまた、スラおと同じように傷心していた。
ラ・ロシェールの港町までは、馬で約二日の距離。
一刻も早く任務を遂行したいのか、ワルドのグリフォンはノンストップで空を駆け続ける。
それに馬で追いつくのは至難の業だ。
ワルドは楽しげにルイズと話している。
そんな様子を、ギーシュの脇越しに、スラおが怪訝そうな面持ちで見つめる。
これは別にやきもちではない。魔物であるスラおが人間に恋するはずもない。
ただ、あのワルドとかいう男は、何故かいけ好かないのだ。
何度か馬を交換して、休まずただひたすら走り続けた結果、その日の夜中にラ・ロシェールの入り口に着くことができた。
港町と聞いていたが、そこは明らかに山の中。
「なぁ、何処に海があるんだ?それとも川か?」
疲れで意気消沈気味なギーシュに聞いてみる。
ギーシュは大きくため息をつく。それは疲れから出るものではなく、単純に呆れているようだ。
「君はアルビオンを知らないのか?」
そう言って、ギーシュがハッとした顔になる。
「人語を喋るから、つい君が人のように接してしまった」
人間ならば、人の常識を持っているのは当たり前。しかし、魔物であるスラおは、異世界から来ようと来まいと、人の常識を知る筈もない。
と、いうことなのだろう。
「アルビオンに行くには・・・」
ギーシュらしからぬ親切心で、スラおの疑問に答えようとしたそのとき。
ギーシュとスラおが乗る馬に幾つもの松明が投げ込まれる。
馬は驚き、前足を高く上げて暴れる。そのせいで馬から放り出されてしまった。
「奇襲か!?」
ギーシュが喚く。
スラおはすぐさま戦闘態勢に入るが、暗くて敵の場所と人数を瞬時に把握できない。
無数の矢が二人目掛けて飛んでくる。
その時、一陣の風が舞い上がる。
小さな竜巻が、まるで生きているかのように全ての矢を巻き込み、あさっての方に弾き飛ばした。
地上に降り立ったグリフォンからワルドが降りる。
「大丈夫か!君達!」
「もしかしたら、アルビオンの貴族の仕業かも・・・」
「貴族なら、弓は使わんだろう」
ルイズの予想はどうやら外れたらしいが、そうでなければ一体誰の仕業なのか。
スラおは辺りを見回し、ようやく地形を理解する。敵の場所も数も大体は分かった。
だが、敵はこちらを見ていない。全員が空を見上げているのだ。
そして、天に向けて矢を放つ。
「何してんだ?あいつら」
敵の間抜けな行動に、仕返しするのも忘れる。
彼らが放った弓は先ほどと同じように小さな竜巻に絡めとられて、矢としての役割を失う。
「おや、『風』の呪文じゃないか」
ワルドがそう呟くということは、あの竜巻はワルドが作り出したものではない。
月の光を背に、一匹の竜のシルエットが浮かび上がる。
「シルフィード!」
ルイズが驚きの声を上げる。確かにそれはタバサの風竜。
それが地面に降り立つと、二人の少女が風竜から飛び降りる。
一人はもちろんタバサ。もう一人はキュルケだった。
「お待たせ」
キュルケは赤い髪をかきあげて言った。
「お待たせじゃないわよ!何であんたが!」
グリフォンから降りたルイズは、一目散にキュルケの元に駆け寄って怒鳴り散らす。
「助けにきてあげたのよ。朝方、あんたたちが馬に乗って出かけたから後をつけてきたの」
これはお忍び。尾行に気付かなかった方も悪いが、尾行する方もする方である。
一国の危機に対して、ただの好奇心や悪ふざけで干渉しようとするのだから迷惑此の上ない。
しかし、敵は全てキュルケ達が倒したようだ。怪我をして呻く男たちが転がっている。
大きな戦力になることは間違いない。
ギーシュが男達を尋問したところ、彼らはただの物取りであることが分かった。
「今日はラ・ロシェールに一泊して、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」
ワルドが一行にそう告げた。
結局、何故山中に港町があるのかというスラおの疑問は解決することなく、町の光を目指して歩き出す。
ラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』。
一階の酒場でくつろいでいる一行は、各々、酒を飲んだり食事をとったりしている。
そこに、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていた、ワルドとルイズが帰ってくる。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ」
ギーシュの隣の席に腰を掛けて、ワルドは言った。
本来二日かかる距離を、精神と体力を削って一日で辿り着いたというのに、船に乗れないとはこれ如何に。
「そりゃ、波が荒れてるってことか?それとも海賊関係か?」
体力は有り余っているが、長い間、ただ馬の尻に乗っているだけの暇な時間を過ごしたおかげで、精神的には疲れ果てている。
納得のいかないスラおはワルドに少し強い口調で問いかける。
「波?何のことだ?明日の夜は月が重なる。その翌朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく」
よくわからなかったが、ギーシュやキュルケがうんうんと頷いているのを見て、スラおはそれ以上聞くことをやめた。
この世界にはこの世界の常識が存在する。わざわざそれを全て理解する必要もないだろうと、スラおは楽観的になる。
しばらくたって、全員が部屋に戻ろうとする。
部屋分けは、キュルケとタバサが同室。ギーシュとスラおが同室。ルイズとワルドが同室だ。
最初は、ワルドのせいでシルフィードやグリフォンと同じく、外で寝かされそうになったが、ルイズが気を使ってギーシュの部屋に居座ることができた。
人語が話せるスラおに聞かれたくない話でもあるのだろうか、ルイズと同室になることはワルドが拒否した。
翌日、スラおはソファーの上で目を覚ます。
本来、外で寝泊まりするはずだったため、ベッドは一つしかない。
ベッドの上には口を開いた間抜け面のギーシュがうつ伏せで、スースーと寝息を立てている。
この世界に来るまでは、ずっとクリオと共に過ごしてきた。
それ故、気付かなかった。ルイズと過ごして初めて気づいた。
朝のまどろみの中で、最初に目にするのが男か女かだけでその日、一日のやる気が全く違ってくることに。
人間の姿に強く憧れ、実際に何度か人間になったせいか、そういう気持ちも理解できるようになってきた。
こんな時は、気分転換に外に出るのが一番だ。
スラおは、ピョンと飛び跳ね、器用にドアノブを捻る。
宿の共有スペース。そこの窓を出れば、大きなバルコニーがある。
大きく欠伸をした後、背伸びをする。
「おはよう。使い魔君」
後ろから声をかけたのはワルドだった。
「よ、よぉ・・・」
どんなに偉い人間であっても、敬意の示し方なんて知らないし、別に仲が良いわけでもない。
そんな気持ちから、スラおは気まずい声を出してしまう。
「人の言葉を話せるとは珍しい。それに頭も良さそうだ。そう、ずっと思っていたんだ」
ワルドは微妙な笑顔を浮かべて言った。
誉められてはいるのだろうが、喜べない。
その後も、出身地は何処かとか、一体どういった種類の生き物なのか、スライムという種族は全員人語を喋れるかなど、ワルドの口から噴水のように質問が溢れる。
答えられる質問には答えた。信じてもらえるとは思っていないが、一応異世界の出身であることも伝えた。
異世界の話を聞いた途端、ワルドが目を見開き、怪しい笑みを浮かべたことにスラおは気付かない。
「君の体にはルーンが刻まれていないようだが・・・本当にルイズの使い魔なのかい?」
一番知りたい質問なのか、ワルドの表情は真剣なものに変わる。
「背中にあったけど、消えちまったよ」
正直、ワルドと話すのは疲れる。おそらくワルドのことを、今だにいけ好かない奴だと思っているせいだ。
さっさとくだらない会話を終わらせたいスラおは素直に本当のことを話す。
「背中?それは本当に背中だったのかい?君の体は少し透けているようだし・・・もしかしたらルーンは体内に刻まれていたのかもしれないな」
スラおにとって、どうでもいい憶測を展開するワルドを尻目に、再び大きな欠伸をする。
「例えば、心臓の部分・・・とかね」
そう言うと、ワルドはおどけた表情に戻り、スラおの体をぐにぐにと握り始める。
「そんなことより、この体は一体どういう作りをしているんだい?」
ハハハッと笑う、その顔を殴りたい衝動を抑え、ワルドの手を振り払い自室に戻ろうとする。
しかし、ワルドは今までよりも少し大きな声でスラおを制止する。
「ルイズに聞いたよ。土くれのフーケを倒したんだって?」
「みんなで倒したんだ。オイラだけじゃねぇ」
「手合わせ願いたい」
「手合わせ?」
もちろん言葉の意味は知っているが、聞きなれない言葉に少しだけ戸惑う。
「そいつはモンスターバトルってことか?」
「モンスターバトル?使い魔同士を戦わせるってことかい?違う。僕と君の決闘さ」
この世界では、使い魔同士を戦わせる習慣はあまりないらしい。
立派なメイジがわざわざ使い魔と戦いたがる理由は何だろうか。
「お前、オイラの実力を知っておく必要があんのか?」
なんとなくそう思った。
ギーシュ達の実力は大体想像できるだろうが、この世界に存在しない生き物であるスライムの実力は定かではない。
「うむ、鋭いね。これからは危険な戦いに身を投じることになるかもしれない。大事な戦力として君の実力を知っておきたい」
何故かその言葉からは真実味が感じられなかった。
だが、ワルドが言う以外の理由が思い浮かばない。
昨日の大移動で、ストレスが溜まっていたスラおはそれを了承する。
「いいぜ。やってやるぜ。後悔すんなよ!」
「中庭に練兵場がある。そこでやろう」
一人と一匹はそろって中庭に向かった。
「君は平民どころか人ですらない。しかし、貴族同士の決闘と考えて構わん」
「おうおう、そんなことどうでもいいから、さっさと始めちまおうぜ」
スラおは体をつぶしたり、伸ばしたりして準備運動をする。
「そう言うわけにもいかない。立ち会いには、それなりの作法というものがある。介添え人がいなくてはね」
すると、物陰からルイズが現れる。
どうやらワルドに呼ばれたらしい。
「ワルド、バカなことはやめて。それは私の使い魔・・・ただのペットみたいなものだから」
向かい合う一人と一匹を見て、ルイズはすぐに状況を察したらしい。
決闘をやめさせるために、仕方なくルイズの言った『ペット』という単語にスラおは強く反応する。
もちろん、それが本心でないことには気づいているが、そこまで言われて黙っているわけにはいかない。
「これはオイラとこいつの問題だぜ?ルイズは黙って見てな!」
つい、そんな風に言ってしまう。その言い草に怪訝そうに言い返す。
「やめなさい。これは命令よ?」
それでも、スラおは口をへの字にして言うことを聞こうとはしない。
「なんなのよ!もう!」
ルイズもついに匙を投げてしまう。
「では、介添え人も来たことだし、始めるか」
ワルドは腰から杖を引きぬく。フェンシングの構えのように、それを前方に突き出す。
この世界での強さの基準は、魔法が使えるか使えないか。スラおは単純にそう考えている。
ならば、この男も当然強力な魔法を使ってくるはずだ。
問題なのは、その魔法の性質。
学院の授業を傍らで聞いてはいたが、日常魔法か、技術面での講義ばかりだった。
戦闘においての魔法が如何なるものなのかをまだ理解できていない。
ギーシュ戦やフーケ戦は、特技を使わない魔物と戦っていたようなもの。
魔法らしい魔法との直接対決は初めてだ。
スラおはまず、自慢のスピードでワルドを翻弄しようとする。
しかし、ワルドは小回りの効く見事なステップで逆にスラおを翻弄する。
「結構速ぇじゃねーか!・・・ベギラマァ!!」
稲妻のような炎がワルド目掛けて唸る。
しかしベギラマは、練兵場の隅に積み上げられている木箱を破壊した。
外れるはずがない。そう思っているスラおには隙ができていた。
「随分軽い魔法だ。おかげで難なく風に乗せることができた」
そう、ワルドは魔法で風を起こし、ベギラマの軌道をずらしたのだ。
ワルドが呪文を唱え、杖を突きだす。
隙があったといえど、瞬きもせずに目を見開いていた・・・。
攻撃の実態を視認した時点で、ベギラマでの相殺、体当たりを利用しての回避など、幾らでも対処はできた。
しかし何も見えない。
空気を圧縮して固めたような、不可視の槌。エア・ハンマーがスラおに直撃する。
何が起こったのか瞬時には理解できない。
スラおは吹き飛ばされ、壁にぶち当たる。
「いてて・・・」
もろにダメージを受けてしまったが、まだまだ戦える。
ワルドもそんなスラおの状態に気付いたのか、再び杖を構え直す。
しかし、ルイズがスラおの元に駆け寄り、庇うように抱き上げる。
「もうやめて!あなたは魔法衛士隊の隊長じゃない!強いのは当たり前よ・・・だからこんな風に見せつける必要なんてないじゃない!」
まだ余力を残している。なのに邪魔をするなんてありえない。
しかし、何故だか嫌な気はしなかった。
「すまないルイズ。そんなつもりではないんだ。彼の実力を知ることは、より完璧に任務を遂行するために必要なことだったんだ」
ワルドが優しい声でルイズに答える。
決闘が中断された以上、状況的にスラおの負けだ。堂々とはしていられない。
「大丈夫だってルイズ。オイラ部屋に戻るからさ・・・放してくれよ」
ルイズは俯いて、目に微かに涙を浮かべて頷いた。
「行こう、ルイズ」
そう言って、ルイズの手をワルドが引く。
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