「ぜろ☆すた ポケットきゃらくた~ず-02」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ぜろ☆すた ポケットきゃらくた~ず-02」(2011/10/04 (火) 14:55:05) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#navi(ぜろ☆すた ポケットきゃらくた~ず)
「ぜろ☆すた ポケットきゃらくた~ず 第2話」
遡る事1週間程前。こなたは体調を崩したカトレアの自室まで見舞いに来ていた。
「ねえ、コナタちゃん……」
窓の向こうに広がる外の風景を眺めていたカトレアは俯いて、近くの椅子に座り本を読んでいたこなたに声をかけた。
「ん?」
「私……、どうしてこんなに体が弱いのかな……。すぐ風邪引いちゃうし……、背もちっちゃくて全然成長しないし……」
それを聞いたこなたは笑みを浮かべて本を閉じ、
「大丈夫だよ。風邪なんかすぐ治るし成長もするよっ」
とカトレアを元気付けたものの、即座に悪戯っぽい笑みに表情を変えて指を立てる。
「まー、キャラ的に私を超える事は無いと思うけどね」
「ええ、酷い」
口を尖らせ頬を膨らませたカトレアだったがそれも一瞬の事、すぐに普段通りの優しげな笑顔になる。
「もう、私絶対コナタちゃんより大きくなってみせるんだから」
「はっはっは、どうかな~♪」
そして現在。
カトレアの掌の上にはこなたが、テーブルの上にはルイズ・キュルケ・ロングビルが立っていた。
「なったね」
「なったのかな……?」
「だから違うでしょ!」
こなたの言葉にカトレアは首を傾げ、ルイズは冷静にツッコミを入れたのだった。
「えっと……、つまりコナタちゃん達は、朝起きたら小さくなっていて何がなんだかわからないって事でいいのかな……?」
「そうそう。カトちゃんなかなか飲み込みが早いね」
「いや、それしか言いようが無いでしょ……」
ルイズのツッコミにカトレアも思わず苦笑する。
「原因とかってわからないのかな?」
「いや~、それがとーんと心当たりが……」
こなたが肩をすくめると、キュルケも困惑の表情でロングビルに視線を向ける。
「どうしようかしら……。こんな体になっちゃって……」
「困りましたね……」
2人ともどうしたものか悩んでいるのを見て、ルイズは自分の考える限り最もそうした方面に詳しそうな人物に相談する事を提案する。
「ひとまずオールド・オスマンに報告した方がいいんじゃない? 小さくなってしまいました、って」
その発言にロングビルは顔面蒼白で硬直した。
ここにいる5人の中で最もオールド・オスマンに近い彼女には、今の自分の姿を見たオスマンの反応が容易に予想可能だった。
『ミ~ス・ロングビル~、またわし好みのか~わゆい姿になっちゃってええ~ん』
そんな言葉を言われながら頬擦りされる自分の姿のイメージに、
「それは無しです!!」
と慌ててその提案を却下した。
「何でですか……?」
「この姿では抵抗力は0に等しいですから……」
表情を引きつらせつつカトレアの方に向き直ったロングビルの態度に、ルイズは怪訝な表情で首を傾げていた。
「コナタちゃん達、こうして見るとお人形さんみたいだね」
「あー、そうかも……」
そこでふとこなたはテーブル上に置かれたフィギュアに視線を向ける。
「あああーっ!!」
こなたが突然大声をあげた。
「ど……、どうしたの、コナタ……?」
「行かなきゃ……。ケバキ……、行かなきゃ……」
天井を仰いで硬直しているこなたにルイズが恐る恐る声をかけると、こなたはぽつりぽつりと呟いた。
「は?」
「急いでケバキ行かなきゃ! 買わなくちゃいけない物があるんだよ!」
言葉の意味がわからず聞き返したルイズに、一気にまくし立てるこなた。
「え? コナタ、ケバキーア街って昨日行ったわよ」
「買い物もたくさんしましたね」
「あのねえ、コナタ……、あんた昨日さんざん買い物して私達に荷物持ちさせたでしょ!! あんなにたくさん買い込んだのに何を買いに行くってのよ!!」
そう言ってルイズは部屋の隅に置かれた戦利品の山を指差したが、
「やだなあるいずん、昨日は昨日今日は今日の限定品があるのだよ。うん」
「あんた達オタクは何でこうも『限定』の2文字に踊らされるのかしら……」
こなたの言葉に青筋を立てていたルイズだったが、すぐに冷静さを取り戻しこなたを嗜める。
「ま、そんな事言ってもこの体じゃ出かける事もできないんだから、今日のところは諦めなさい」
「う~ん、そっかあ……。う~ん……!」
ルイズにそう言われてしばらく考え込んでいたこなただったが、何かを思いついた表情でカトレアの方に向き直る。
「カ~ト~ちゃ~ん♪」
「は……、はい?」
「………」
それから数時間後、トリスタニア・ケバキーア街に並ぶ長蛇の列の中にカトレアの姿があった。
「私が来る事になっちゃった……」
「や~、すまないね、カトちゃん。こんな事お願いしちゃって」
とカトレアが提げている鞄の端からこなたが顔を出した。
「わっ、コナタちゃん、出てきちゃ駄目だよ……」
「こらコナタ、おとなしくしてなさい! 顔出して誰かに見つかっちゃったら大変でしょ!」
「え~、いいじゃん。少しくらい大丈夫だよ~」
鞄の中でそんなやり取りをするこなた・ルイズ。
ちなみにキュルケ・ロングビルは、鞄のもう片方の端から外の様子を眺めている。
「っていうか、何でみんなついてきたの? 家で待ってればよかったのに」
と言いつつこなたは鞄の縁から飛び降りる。
「コナタ達だけじゃ心配でしょ!」
「そんな事言って、『一緒に行きたい』って素直に言えばいいのに~。るいずんのさびしんぼさん♪」
こなたの言葉にだいぶ頭に血が上っていたルイズだったが、そんな彼女を察したのか察していないのかキュルケが行列を眺めて、
「でもコナタ、凄い列ね」
「皆さん限定品が目当てで並んでるんですよね」
列の先頭部分は今カトレアがいる場所からは見えず、先程到着した最後尾ももう随分後方に遠ざかっていた。
「うん。まあ、限定品というか限定版を買うためにね」
「限定『版』?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるロングビルに、こなたは今回の目当ての詳細を説明し始める。
「今日出るゲームの特典目当てで並んでるんだよ。通常版なら並ばなくても買えるし」
「ミス・コナタの欲しい物はゲームだったんですね」
「そう! 雑誌見たんだけど、も~超面白そうで!! っていうか、超美少女揃いで!!」
テンションが上がって奇妙な動作をするこなただったが、ルイズは彼女の言葉の中に入っていた気になる単語を聞き逃さなかった。
「美少女……?」
「ああ、今日買うのってギャルゲーだから♪」
「それってちい姉様が買える物なの?」
ルイズが首を傾げつつ尋ねた率直な疑問に、こなたは瞬時に硬直したのだった……。
カトレアは列から離れ、ある建物内の階段に腰掛けていた。
「どうしたの、コナタちゃん? 急にゲームが要らなくなっちゃうなんて……」
「ああ~……、いや、何て言うか、その……」
あさっての方向を見上げてかいてもいない汗を拭いつつ、こなたはそう言葉を濁す。
「まあ、私にもまだ人の心が残っていたというか……。ちょっと法的にアレというか……」
「?」
(そりゃ言えないわよね)
首を傾げたカトレアに対し、詳細を知っているルイズは顔を背けつつ汗を垂らした。
「ま、まあ、気が変わっただけだから気にしないでいいよ」
「うん。じゃあまた何かあったら言ってね」
そこでルイズは開けられた鞄の口から周囲を見上げ、
「それでコナタ、今度はどこに来たの?」
「ん~、ここはねー……、ゲーセン」
「は?」
こなたの言葉に一瞬呆然として聞き返すルイズ。
「新作のシューティングが今日から稼動でね~。あ、カトちゃ~ん、3階に行ってくれる~?」
「この体でゲームなんかできるわけないでしょー!!」
ルイズの指摘はもっともだったが、こなたはどこ吹く風でカトレアをに階段を上らせる。
「大丈夫大丈夫、私にいい考えがあるんだって」
「いや、どう考えても無理だし他の人に見つかるわよ……」
「んっふっふ~♪」
筐体前に座り、苦笑しつつぶかぶかな服の袖をボタン・スティックに向けて伸ばすカトレア。
右袖の中ではこなたがボタンに手を乗せて待機し、左袖ではルイズがスティックを抱え込んでいた。
「ちょ……、あの、ミス・コナタ、これは何の冗談かしら……?」
「ほら、俗に言う『協力プレイ』ってやつだよ。これなら姿を見られずにゲームができる! ナイスアイディア♪」
当然そのような提案にルイズが納得するはずもなく、
「っていうか、何で私がこっちなのよ!? コナタがスティックでしょ!!」
「そこはシューティングが得意なルイズに一任って事で。ほら、始まるよ」
ゲームが開始されたため仕方なくスティックを操作するものの、ルイズは大声を上げる。
「無理よこんなやり方!! できるわけないでしょー!!」
……そのルイズの予想に反して、ゲームは非常に順調に進んでいった。
カトレアの(もののように見える)腕前に、店内にいる客達が彼女の周囲に群がっている。
人垣から漏れ聞こえる自分への賞賛に、真相を知っているカトレアは緊張しきりだった。
ゲームを終えて、カトレア達は建物内の階段を下りていた。
「や~、流石るいずん。上手かったね~」
「何言ってんの。ほとんどミスを防いだのはコナタのボムじゃない」
カトレアが手を胸元に当てる仕草のふりをして接近させたこなた・ルイズがそんな会話を交わしていると、
「ルイズ、上手だったわよ~」
「素敵でしたわ」
「うん、2人とも凄かったよ。あんなに人を集めちゃうんだもんね」
(ま、人を集めたのはカトちゃんの要因も大きいけどね~)
鞄の中を探るふりをして入れた袖から、こなた・ルイズは鞄に戻った。
「さあ、もう帰るわよ。コナタも十分楽しんだでしょ」
「そだね。とりあえず外へ~」
2人のそんな会話を聞きつつ、カトレア達はクレーンゲーム機の横を通って建物の外に出た。
カトレアを鞄の中から見上げていたルイズは、彼女の頬にうっすら汗が浮かんでいる事に気付いて声をかける。
「ちい姉様、大丈夫?」
「え?」
「ずっと1人で歩いてるけど、疲れてません?」
ルイズがかけてきた言葉にカトレアは笑顔で答えるが、その顔にはかすかに疲労の色が浮かんでいた。
「あ、大丈夫です。歩きっぱなしってわけじゃないですし。今も座ってましたから」
「そっか、ならいいけど……」
店頭のショーウィンドーに貼られていた広告が、そう答えたルイズの目に止まる。
(あ、あれ、コナタが持ってたフィギュアの……)
それは昨日こなたが購入した少年のフィギュアの広告で、「売り切れ」と書かれた紙が貼られていた。
その後も幾つもの店のショーウィンドーに同じ広告が貼られていて、やはり「完売御礼」「SOLD OUT」「高価買取中」という表示があった。
(へえ、あのフィギュアって本当に人気あるのね。貼り紙に全部『売り切れ』って書いてあるわ)
カトレアの手で隠されつつ鞄の底に下りようとしたルイズだったが、そんな事を考えてふと足を止めた。
「ねえコナタ、あんたのフィギュアって凄いのね。凄い値段で買い取ってる所があるわよ? っと……うわっ!?」
ルイズがそう言いかけた時、突然鞄が激しく揺れてルイズは底まで転落した。
「な、何!?」
横倒しになった鞄の中を歩いて外の様子を伺うルイズ・ロングビル。
するとカトレアは地面にへたり込み、苦しげに息を荒げていたのだった。
「ちい姉様!? ち、ちい姉様、どうしたの!?」
「え、えっと、少し気分が……」
「コナター! どうしよう、ちい姉様が……!! コナ……」
そう叫びつつこなたの方に振り返るルイズ。
しかし鞄の中にいたのはロングビルただ1人だった。
「何でいないのー!?」
「あら?」
ルイズの声にロングビルも振り向いて、自分達しかいない事に気付いた。
「な、何で2人ともいなくなってるのよ!?」
「変ですね。さっきまでいましたのに……」
鞄の口から顔を出して周囲を見回したロングビルだったが、こなた・キュルケの姿はどこにも見えなかった。
「こんな時にコナタはー!! あーっ、もう、どうしたらいいのよ!? こんな姿じゃ助けも呼べないじゃない!」
「少し休めば大丈夫だから……。心配しないで……」
精一杯の笑顔を浮かべてカトレアがルイズに語りかけたその時、
「……ミス・カトレア……」
そうカトレアに声がかけられた。
「え……?」
顔を上げたカトレアの視線の先には……。
一方、こなた・キュルケ組。
「ね、ねえ、コナタ、みんなとはぐれちゃったけどいいの……?」
何やら狭い小部屋の中でキュルケは心配そうな表情でこなたに言ったが、
「だ~い丈夫! ルイズ達ならすぐ戻ってきてくれるから。それよりキュルケ」
「え?」
「ここがどこだかわかるかな?」
逆にこなたからそう問いかけられて、キュルケは周囲を見渡しつつ答える。
「え……? クレーンゲームの……中かしら?」
首を傾げつつ、自分達がここには言ってきた時の事を思い出して答えるキュルケ。
それを聞いたこなたは万歳せんばかりの勢いで、
「そう! あのアームがスッカスカで全然景品が取れないクレーンゲーム!! でも何と! この姿なら中に入って取り放題じゃん!!」
と言うと上方にある開口部めがけて何度も跳躍する。
「というわけでキュルケ、ちょっと下から押し上げてくんない?」
「あー、あたしそれ要員で連れてこられたのね……」
そう言いつつもこなたの脚を押し上げる、面倒見のいいキュルケ。
「誰かに見つかっちゃったら大変よ。みんなの所に戻りましょうよ」
「見つからないようにすぐ終わらせるよ♪」
開口部の端にしがみついて登攀に成功したこなたは、
「ふいー……おおお♪」
目の前にある宝の山と言うべき大量のぬいぐるみに目を輝かせた。
「キュルケー、どんどん落としていくからねー」
「か、勝手に取ったら泥棒になっちゃわないかしら?」
「取った分だけ銀貨1枚入れてくから大丈夫♪」
(1個銀貨1枚!? 達人でも無理なんじゃ……)
呆然とするキュルケをよそに、こなたは手近にあったクマのぬいぐるみをつかむ。
「さてさて、じゃあキュルケの好きそうなのから落としてあげようかな……ん? お、意外に重い」
外見より重いぬいぐるみの重量に首を傾げて振り返ると、伸びてきたクレーンがそのぬいぐるみをつかんでいた。
「……あうわあ!? し、しまった! 誰かがクレーンを動かしてる!!」
内部に入る自分の存在が露見する事を危惧して一瞬狼狽したこなただったが、
「いや、お、落ち着け……。幸い景品の陰でプレイヤーからこっちの姿は見えないし……」
確かにこなたとクレーンを操作する人物の間は、ぬいぐるみが遮蔽物となって視線を遮っていた。
これ幸いとさらに奥にあるぬいぐるみの陰に隠れようとこなたは這い進もうとする……が、
「ここはひとまず退散~……お?」
その動作が突然停止する。
見るとクレーンがこなたの脚をしっかりつかんでいた。
「おおおおおお!!」
そしてそのままこなたはぬいぐるみ諸共、上空高く持ち上げられていってしまった。
「コ、コナタが! コナタがさらわれちゃう!! コナタああああ!!」
キュルケは突然の展開に悲痛な叫び声を上げた。
「リリース」
「むきゅ!?」
直後、クレーンから解放されたこなたがぬいぐるみと共にキュルケの頭上に落下してきた。
「身を挺してまで落下衝撃から私を守ってくれたぬいぐるみ……と、キュルケ……。私はこんなにも想われていたんだねえ……。2人の事は忘れないよ……」
「コナタ……、早くどい……て……」
少々ほろりとなったこなたの足元では、ぬいぐるみの下敷きになったキュルケが苦しげに声を上げていた。
「あ、でもやばいな。景品取れたって事は、ここ開けられちゃうじゃん」
「え!?」
するとクレーンを操作していたらしい少年達の声が聞こえてくる。
「わ、何か結構簡単に取れたな」
「ギーシュの腕がいいんだな」
「あはは、運だよ運。アームの力も強かったみたいだし……」
そうギーシュがマリコルヌに笑いかけつつぬいぐるみを取り出そうとして、
『は?』
ぬいぐるみの向こうから突き出たこなたのアホ毛・必死でぬいぐるみの下に隠れようとするキュルケの姿に、呆然とするのだった。
「いや~、一時はどうなるかと思ったね~」
ヴァリエール邸・浴室。
こなたは浴槽の縁に置かれた小鉢のお湯に浸かり、タオルで汗を拭っていた。
「うん、見つかったのがギーシュ達でよかったわね」
椅子の上で歯ブラシで体を洗うキュルケも、そう安堵の言葉を口にした。
「あんた達ねー、勝手にいなくなるんじゃないわよ! こっちは大変だったのよー」
「まあいいじゃない、みんな無事だったんだしさ~」
こなたから少々離れた場所でロングビルと共に縁に腰掛けているルイズが苦言を呈したものの、こなたは大して気にした様子も無かった。
「タバサちゃん達、協力してくれるんですって」
「ん? 協力って?」
どこまでも楽観的なこなたの態度に、流石のカトレアも驚愕の色を隠せない。
「え……、コナタちゃん達が元に戻る方法を一緒に探してくれるって……」
「あー」
「『あー』じゃないわよ! あんたはこのまま戻れなくてもいいの!?」
「ん~、まあ急がなくてもこれはこれで楽し──」
「でもよかったですね。親しい協力者は心強いですものね」
こなたの言葉を遮って、ロングビルが口を開いた。
それを聞いたこなたはバスタオルが巻かれたロングビルの胸部に視線を向け……、
「!! 戻ろう!!」
と叫んで立ち上がった。
「は?」
「ロングビルさんの胸がこんなに小さいなんてロングビルさんじゃない! 今すぐ元に戻さなきゃ!!」
「ちょっ……、胸だけなの!」
「わあ……、ミス・ロングビル……ロングビル?」
「ひゃっ、ミ、ミス・ツェルプシュトー……!?」
夜のヴァリエール邸に、そんな声が響くのだった。
#navi(ぜろ☆すた ポケットきゃらくた~ず)
#navi(ぜろ☆すた ポケットきゃらくた~ず)
遡る事1週間程前。こなたは体調を崩したカトレアの自室まで見舞いに来ていた。
「ねえ、コナタちゃん……」
窓の向こうに広がる外の風景を眺めていたカトレアは俯いて、近くの椅子に座り本を読んでいたこなたに声をかけた。
「ん?」
「私……、どうしてこんなに体が弱いのかな……。すぐ風邪引いちゃうし……、背もちっちゃくて全然成長しないし……」
それを聞いたこなたは笑みを浮かべて本を閉じ、
「大丈夫だよ。風邪なんかすぐ治るし成長もするよっ」
とカトレアを元気付けたものの、即座に悪戯っぽい笑みに表情を変えて指を立てる。
「まー、キャラ的に私を超える事は無いと思うけどね」
「ええ、酷い」
口を尖らせ頬を膨らませたカトレアだったがそれも一瞬の事、すぐに普段通りの優しげな笑顔になる。
「もう、私絶対コナタちゃんより大きくなってみせるんだから」
「はっはっは、どうかな~♪」
そして現在。
カトレアの掌の上にはこなたが、テーブルの上にはルイズ・キュルケ・ロングビルが立っていた。
「なったね」
「なったのかな……?」
「だから違うでしょ!」
こなたの言葉にカトレアは首を傾げ、ルイズは冷静にツッコミを入れたのだった。
「えっと……、つまりコナタちゃん達は、朝起きたら小さくなっていて何がなんだかわからないって事でいいのかな……?」
「そうそう。カトちゃんなかなか飲み込みが早いね」
「いや、それしか言いようが無いでしょ……」
ルイズのツッコミにカトレアも思わず苦笑する。
「原因とかってわからないのかな?」
「いや~、それがとーんと心当たりが……」
こなたが肩をすくめると、キュルケも困惑の表情でロングビルに視線を向ける。
「どうしようかしら……。こんな体になっちゃって……」
「困りましたね……」
2人ともどうしたものか悩んでいるのを見て、ルイズは自分の考える限り最もそうした方面に詳しそうな人物に相談する事を提案する。
「ひとまずオールド・オスマンに報告した方がいいんじゃない? 小さくなってしまいました、って」
その発言にロングビルは顔面蒼白で硬直した。
ここにいる5人の中で最もオールド・オスマンに近い彼女には、今の自分の姿を見たオスマンの反応が容易に予想可能だった。
『ミ~ス・ロングビル~、またわし好みのか~わゆい姿になっちゃってええ~ん』
そんな言葉を言われながら頬擦りされる自分の姿のイメージに、
「それは無しです!!」
と慌ててその提案を却下した。
「何でですか……?」
「この姿では抵抗力は0に等しいですから……」
表情を引きつらせつつカトレアの方に向き直ったロングビルの態度に、ルイズは怪訝な表情で首を傾げていた。
「コナタちゃん達、こうして見るとお人形さんみたいだね」
「あー、そうかも……」
そこでふとこなたはテーブル上に置かれたフィギュアに視線を向ける。
「あああーっ!!」
こなたが突然大声をあげた。
「ど……、どうしたの、コナタ……?」
「行かなきゃ……。ケバキ……、行かなきゃ……」
天井を仰いで硬直しているこなたにルイズが恐る恐る声をかけると、こなたはぽつりぽつりと呟いた。
「は?」
「急いでケバキ行かなきゃ! 買わなくちゃいけない物があるんだよ!」
言葉の意味がわからず聞き返したルイズに、一気にまくし立てるこなた。
「え? コナタ、ケバキーア街って昨日行ったわよ」
「買い物もたくさんしましたね」
「あのねえ、コナタ……、あんた昨日さんざん買い物して私達に荷物持ちさせたでしょ!! あんなにたくさん買い込んだのに何を買いに行くってのよ!!」
そう言ってルイズは部屋の隅に置かれた戦利品の山を指差したが、
「やだなあるいずん、昨日は昨日今日は今日の限定品があるのだよ。うん」
「あんた達オタクは何でこうも『限定』の2文字に踊らされるのかしら……」
こなたの言葉に青筋を立てていたルイズだったが、すぐに冷静さを取り戻しこなたを嗜める。
「ま、そんな事言ってもこの体じゃ出かける事もできないんだから、今日のところは諦めなさい」
「う~ん、そっかあ……。う~ん……!」
ルイズにそう言われてしばらく考え込んでいたこなただったが、何かを思いついた表情でカトレアの方に向き直る。
「カ~ト~ちゃ~ん♪」
「は……、はい?」
「………」
それから数時間後、トリスタニア・ケバキーア街に並ぶ長蛇の列の中にカトレアの姿があった。
「私が来る事になっちゃった……」
「や~、すまないね、カトちゃん。こんな事お願いしちゃって」
とカトレアが提げている鞄の端からこなたが顔を出した。
「わっ、コナタちゃん、出てきちゃ駄目だよ……」
「こらコナタ、おとなしくしてなさい! 顔出して誰かに見つかっちゃったら大変でしょ!」
「え~、いいじゃん。少しくらい大丈夫だよ~」
鞄の中でそんなやり取りをするこなた・ルイズ。
ちなみにキュルケ・ロングビルは、鞄のもう片方の端から外の様子を眺めている。
「っていうか、何でみんなついてきたの? 家で待ってればよかったのに」
と言いつつこなたは鞄の縁から飛び降りる。
「コナタ達だけじゃ心配でしょ!」
「そんな事言って、『一緒に行きたい』って素直に言えばいいのに~。るいずんのさびしんぼさん♪」
こなたの言葉にだいぶ頭に血が上っていたルイズだったが、そんな彼女を察したのか察していないのかキュルケが行列を眺めて、
「でもコナタ、凄い列ね」
「皆さん限定品が目当てで並んでるんですよね」
列の先頭部分は今カトレアがいる場所からは見えず、先程到着した最後尾ももう随分後方に遠ざかっていた。
「うん。まあ、限定品というか限定版を買うためにね」
「限定『版』?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるロングビルに、こなたは今回の目当ての詳細を説明し始める。
「今日出るゲームの特典目当てで並んでるんだよ。通常版なら並ばなくても買えるし」
「ミス・コナタの欲しい物はゲームだったんですね」
「そう! 雑誌見たんだけど、も~超面白そうで!! っていうか、超美少女揃いで!!」
テンションが上がって奇妙な動作をするこなただったが、ルイズは彼女の言葉の中に入っていた気になる単語を聞き逃さなかった。
「美少女……?」
「ああ、今日買うのってギャルゲーだから♪」
「それってちい姉様が買える物なの?」
ルイズが首を傾げつつ尋ねた率直な疑問に、こなたは瞬時に硬直したのだった……。
カトレアは列から離れ、ある建物内の階段に腰掛けていた。
「どうしたの、コナタちゃん? 急にゲームが要らなくなっちゃうなんて……」
「ああ~……、いや、何て言うか、その……」
あさっての方向を見上げてかいてもいない汗を拭いつつ、こなたはそう言葉を濁す。
「まあ、私にもまだ人の心が残っていたというか……。ちょっと法的にアレというか……」
「?」
(そりゃ言えないわよね)
首を傾げたカトレアに対し、詳細を知っているルイズは顔を背けつつ汗を垂らした。
「ま、まあ、気が変わっただけだから気にしないでいいよ」
「うん。じゃあまた何かあったら言ってね」
そこでルイズは開けられた鞄の口から周囲を見上げ、
「それでコナタ、今度はどこに来たの?」
「ん~、ここはねー……、ゲーセン」
「は?」
こなたの言葉に一瞬呆然として聞き返すルイズ。
「新作のシューティングが今日から稼動でね~。あ、カトちゃ~ん、3階に行ってくれる~?」
「この体でゲームなんかできるわけないでしょー!!」
ルイズの指摘はもっともだったが、こなたはどこ吹く風でカトレアをに階段を上らせる。
「大丈夫大丈夫、私にいい考えがあるんだって」
「いや、どう考えても無理だし他の人に見つかるわよ……」
「んっふっふ~♪」
筐体前に座り、苦笑しつつぶかぶかな服の袖をボタン・スティックに向けて伸ばすカトレア。
右袖の中ではこなたがボタンに手を乗せて待機し、左袖ではルイズがスティックを抱え込んでいた。
「ちょ……、あの、ミス・コナタ、これは何の冗談かしら……?」
「ほら、俗に言う『協力プレイ』ってやつだよ。これなら姿を見られずにゲームができる! ナイスアイディア♪」
当然そのような提案にルイズが納得するはずもなく、
「っていうか、何で私がこっちなのよ!? コナタがスティックでしょ!!」
「そこはシューティングが得意なルイズに一任って事で。ほら、始まるよ」
ゲームが開始されたため仕方なくスティックを操作するものの、ルイズは大声を上げる。
「無理よこんなやり方!! できるわけないでしょー!!」
……そのルイズの予想に反して、ゲームは非常に順調に進んでいった。
カトレアの(もののように見える)腕前に、店内にいる客達が彼女の周囲に群がっている。
人垣から漏れ聞こえる自分への賞賛に、真相を知っているカトレアは緊張しきりだった。
ゲームを終えて、カトレア達は建物内の階段を下りていた。
「や~、流石るいずん。上手かったね~」
「何言ってんの。ほとんどミスを防いだのはコナタのボムじゃない」
カトレアが手を胸元に当てる仕草のふりをして接近させたこなた・ルイズがそんな会話を交わしていると、
「ルイズ、上手だったわよ~」
「素敵でしたわ」
「うん、2人とも凄かったよ。あんなに人を集めちゃうんだもんね」
(ま、人を集めたのはカトちゃんの要因も大きいけどね~)
鞄の中を探るふりをして入れた袖から、こなた・ルイズは鞄に戻った。
「さあ、もう帰るわよ。コナタも十分楽しんだでしょ」
「そだね。とりあえず外へ~」
2人のそんな会話を聞きつつ、カトレア達はクレーンゲーム機の横を通って建物の外に出た。
カトレアを鞄の中から見上げていたルイズは、彼女の頬にうっすら汗が浮かんでいる事に気付いて声をかける。
「ちい姉様、大丈夫?」
「え?」
「ずっと1人で歩いてるけど、疲れてません?」
ルイズがかけてきた言葉にカトレアは笑顔で答えるが、その顔にはかすかに疲労の色が浮かんでいた。
「あ、大丈夫です。歩きっぱなしってわけじゃないですし。今も座ってましたから」
「そっか、ならいいけど……」
店頭のショーウィンドーに貼られていた広告が、そう答えたルイズの目に止まる。
(あ、あれ、コナタが持ってたフィギュアの……)
それは昨日こなたが購入した少年のフィギュアの広告で、「売り切れ」と書かれた紙が貼られていた。
その後も幾つもの店のショーウィンドーに同じ広告が貼られていて、やはり「完売御礼」「SOLD OUT」「高価買取中」という表示があった。
(へえ、あのフィギュアって本当に人気あるのね。貼り紙に全部『売り切れ』って書いてあるわ)
カトレアの手で隠されつつ鞄の底に下りようとしたルイズだったが、そんな事を考えてふと足を止めた。
「ねえコナタ、あんたのフィギュアって凄いのね。凄い値段で買い取ってる所があるわよ? っと……うわっ!?」
ルイズがそう言いかけた時、突然鞄が激しく揺れてルイズは底まで転落した。
「な、何!?」
横倒しになった鞄の中を歩いて外の様子を伺うルイズ・ロングビル。
するとカトレアは地面にへたり込み、苦しげに息を荒げていたのだった。
「ちい姉様!? ち、ちい姉様、どうしたの!?」
「え、えっと、少し気分が……」
「コナター! どうしよう、ちい姉様が……!! コナ……」
そう叫びつつこなたの方に振り返るルイズ。
しかし鞄の中にいたのはロングビルただ1人だった。
「何でいないのー!?」
「あら?」
ルイズの声にロングビルも振り向いて、自分達しかいない事に気付いた。
「な、何で2人ともいなくなってるのよ!?」
「変ですね。さっきまでいましたのに……」
鞄の口から顔を出して周囲を見回したロングビルだったが、こなた・キュルケの姿はどこにも見えなかった。
「こんな時にコナタはー!! あーっ、もう、どうしたらいいのよ!? こんな姿じゃ助けも呼べないじゃない!」
「少し休めば大丈夫だから……。心配しないで……」
精一杯の笑顔を浮かべてカトレアがルイズに語りかけたその時、
「……ミス・カトレア……」
そうカトレアに声がかけられた。
「え……?」
顔を上げたカトレアの視線の先には……。
一方、こなた・キュルケ組。
「ね、ねえ、コナタ、みんなとはぐれちゃったけどいいの……?」
何やら狭い小部屋の中でキュルケは心配そうな表情でこなたに言ったが、
「だ~い丈夫! ルイズ達ならすぐ戻ってきてくれるから。それよりキュルケ」
「え?」
「ここがどこだかわかるかな?」
逆にこなたからそう問いかけられて、キュルケは周囲を見渡しつつ答える。
「え……? クレーンゲームの……中かしら?」
首を傾げつつ、自分達がここには言ってきた時の事を思い出して答えるキュルケ。
それを聞いたこなたは万歳せんばかりの勢いで、
「そう! あのアームがスッカスカで全然景品が取れないクレーンゲーム!! でも何と! この姿なら中に入って取り放題じゃん!!」
と言うと上方にある開口部めがけて何度も跳躍する。
「というわけでキュルケ、ちょっと下から押し上げてくんない?」
「あー、あたしそれ要員で連れてこられたのね……」
そう言いつつもこなたの脚を押し上げる、面倒見のいいキュルケ。
「誰かに見つかっちゃったら大変よ。みんなの所に戻りましょうよ」
「見つからないようにすぐ終わらせるよ♪」
開口部の端にしがみついて登攀に成功したこなたは、
「ふいー……おおお♪」
目の前にある宝の山と言うべき大量のぬいぐるみに目を輝かせた。
「キュルケー、どんどん落としていくからねー」
「か、勝手に取ったら泥棒になっちゃわないかしら?」
「取った分だけ銀貨1枚入れてくから大丈夫♪」
(1個銀貨1枚!? 達人でも無理なんじゃ……)
呆然とするキュルケをよそに、こなたは手近にあったクマのぬいぐるみをつかむ。
「さてさて、じゃあキュルケの好きそうなのから落としてあげようかな……ん? お、意外に重い」
外見より重いぬいぐるみの重量に首を傾げて振り返ると、伸びてきたクレーンがそのぬいぐるみをつかんでいた。
「……あうわあ!? し、しまった! 誰かがクレーンを動かしてる!!」
内部に入る自分の存在が露見する事を危惧して一瞬狼狽したこなただったが、
「いや、お、落ち着け……。幸い景品の陰でプレイヤーからこっちの姿は見えないし……」
確かにこなたとクレーンを操作する人物の間は、ぬいぐるみが遮蔽物となって視線を遮っていた。
これ幸いとさらに奥にあるぬいぐるみの陰に隠れようとこなたは這い進もうとする……が、
「ここはひとまず退散~……お?」
その動作が突然停止する。
見るとクレーンがこなたの脚をしっかりつかんでいた。
「おおおおおお!!」
そしてそのままこなたはぬいぐるみ諸共、上空高く持ち上げられていってしまった。
「コ、コナタが! コナタがさらわれちゃう!! コナタああああ!!」
キュルケは突然の展開に悲痛な叫び声を上げた。
「リリース」
「むきゅ!?」
直後、クレーンから解放されたこなたがぬいぐるみと共にキュルケの頭上に落下してきた。
「身を挺してまで落下衝撃から私を守ってくれたぬいぐるみ……と、キュルケ……。私はこんなにも想われていたんだねえ……。2人の事は忘れないよ……」
「コナタ……、早くどい……て……」
少々ほろりとなったこなたの足元では、ぬいぐるみの下敷きになったキュルケが苦しげに声を上げていた。
「あ、でもやばいな。景品取れたって事は、ここ開けられちゃうじゃん」
「え!?」
するとクレーンを操作していたらしい少年達の声が聞こえてくる。
「わ、何か結構簡単に取れたな」
「ギーシュの腕がいいんだな」
「あはは、運だよ運。アームの力も強かったみたいだし……」
そうギーシュがマリコルヌに笑いかけつつぬいぐるみを取り出そうとして、
『は?』
ぬいぐるみの向こうから突き出たこなたのアホ毛・必死でぬいぐるみの下に隠れようとするキュルケの姿に、呆然とするのだった。
「いや~、一時はどうなるかと思ったね~」
ヴァリエール邸・浴室。
こなたは浴槽の縁に置かれた小鉢のお湯に浸かり、タオルで汗を拭っていた。
「うん、見つかったのがギーシュ達でよかったわね」
椅子の上で歯ブラシで体を洗うキュルケも、そう安堵の言葉を口にした。
「あんた達ねー、勝手にいなくなるんじゃないわよ! こっちは大変だったのよー」
「まあいいじゃない、みんな無事だったんだしさ~」
こなたから少々離れた場所でロングビルと共に縁に腰掛けているルイズが苦言を呈したものの、こなたは大して気にした様子も無かった。
「タバサちゃん達、協力してくれるんですって」
「ん? 協力って?」
どこまでも楽観的なこなたの態度に、流石のカトレアも驚愕の色を隠せない。
「え……、コナタちゃん達が元に戻る方法を一緒に探してくれるって……」
「あー」
「『あー』じゃないわよ! あんたはこのまま戻れなくてもいいの!?」
「ん~、まあ急がなくてもこれはこれで楽し──」
「でもよかったですね。親しい協力者は心強いですものね」
こなたの言葉を遮って、ロングビルが口を開いた。
それを聞いたこなたはバスタオルが巻かれたロングビルの胸部に視線を向け……、
「!! 戻ろう!!」
と叫んで立ち上がった。
「は?」
「ロングビルさんの胸がこんなに小さいなんてロングビルさんじゃない! 今すぐ元に戻さなきゃ!!」
「ちょっ……、胸だけなの!」
「わあ……、ミス・ロングビル……ロングビル?」
「ひゃっ、ミ、ミス・ツェルプシュトー……!?」
夜のヴァリエール邸に、そんな声が響くのだった。
#navi(ぜろ☆すた ポケットきゃらくた~ず)
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: