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#navi(マリア様が使い魔)
薬を使うと、女性は直ぐに目を覚ました。
「ここは・・・・何処ですの?」
「ここはトリステイン魔法学院の救護室です。どこか痛い所はありませんか?」
「トリステイン魔法学院?」
「お名前と出身地を教えて下さいますかな?」
「小笠原祥子。出身は東京です。」
「トウキョウ?聞いた事の無い地名ですな。ひょっとして、東方の地名ですかな? ご自分が何をなさっていたのか、お話出来ますかな?」
「自宅で誕生日のパーティーをしていました。目の前にキラキラしている物が浮かんでた所までは覚えているんですけど・・・。」
と言って頭を抑えてしまった祥子にルイズは聞いた。
「貴方は貴族ですか?」
「貴族? 小笠原家は元は華族の家柄ですけど。ここイギリスですの? でも英語じゃないし、今私が話してるのは一体、何処の言葉ですの?
もう何がなんだか・・・」と言って、祥子は泣きだしてしまった。
コルベールは「取り合えず。今日の所はミス・ヴァリエールにお任せします。落ち着いてゆっくり話をするように。」と言って出て行ってしまった。
その日の晩は祥子にとって試練の連続だった。魔法が存在する事を知って、うろたえたり、双月を見て卒倒しかけたり、使い魔に成れといわ
れて憤慨したりと・・・・。しかし翌朝、祥子は立ち直っていた。
「昨日は随分と見苦しいところを見せてしまったわね。」
「まぁ・・・・異世界から来たって言うのが本当の事なら仕方ないわよ。気にしないで。」
「私に使い魔に成れって、言ったわね。条件付きで承知するわ。」
「条件?」
「そう条件。2つね。」
「言ってみなさいよ。」
祥子はまっすぐにルイズの目を見て言った。
「1つは小笠原家の娘として相応の待遇を保証してもらう事。」
「まぁ、サチコも貴族の家柄だって言うんだから当然よね。良いわ。」
祥子はルイズの頬を手で挟んで続けた。
「もう一つは・・・・・・ルイズ、あなた・・・・私の妹に成りなさい。」
「妹に成れ? あ・・姉なら実家に2人いるわ。間に合ってるわ。何を言い出すのよ!」
「私昨日一晩考えたの。この異世界で私が私でいられる方法を・・・・。支えに成る妹を作れば良いのよ。私だって祐巳と言う立派な妹がいるわ。
でもそれは異世界での話。」
「私はルイズを立派な淑女として指導するわ。それが姉の務めなのだから。ルイズは私を妹として精神的に支えて頂戴。これが条件よ。」
ルイズは「うー」と唸って座りこんでしまった。
「私が使い魔に成らなければ、退学に成るかも知れないんじゃなかったの?」
「判ったわ。妹に成ります。だから使い魔に成って。」
「契約成立ね。」
「んじゃ、使い魔の儀式を始めるから屈んで。」
「我が名はルイズ・フランソワ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
ルイズのキスが終わると祥子の左手に激痛が走った。
「使い魔のルーンが刻まれるだけよ。直ぐ終わるわ。」
痛みが止むと祥子は言った。
「本当ならスールに成るにはロザリオを授受するのだけど、今のキスをその代わりとしましょう。これからは私の事を祥子お姉様と呼ぶように。」
「祥子お姉様?」
「あら、妹に成ったんだから当然でしょう。後、目上の者に話すときは基本敬語を使いなさい。」
「敬語?」
ルイズはまた「うー」と唸って座りこんだ。
「ところでルイズ。今日は授業は無いの?」
「今日は呼び出した使い魔と親睦を深める日なので授業はありません。さ・・・祥子お姉様。」
「そうなの。では学校の中を案内してくれないかしら? これから生活していくのだから、隅々まで知る必要が有るわ。」
ルイズは祥子を案内する事にした。意外な事に祥子が興味を示したのは、トイレや風呂・厨房・馬屋だった。
(文明レベルは中世ヨーロッパってところかしら・・・) 祥子は視察を終えると、空腹を覚えたので、
「ルイズ。お茶にしましょう。」といって中庭に案内させた。
中庭では、貴族たちが昨日呼び出した使い魔と過ごしていた。コルベールがルイズに近づいてきて、昨日の顛末を聞いた。
「ほう。異世界の貴族ですか・・・。ちょっとルーンを見せてもらえますかな? ほう・・・・見た事のないルーンですな。これは調べて見ないと。」
と言って、資料室へ去って行った。
「使い魔って、やっぱり動物ばっかりね。人間は私一人?」
「基本的に人間が呼び出されるなんて聞いた事がありません。」
「そうなの。ではルイズは特別な存在な訳ね。」
「特別なんてトンデモありませんわ。祥子お姉様。」
「あら、異世界へ扉を開いたんですもの。充分特別だわ。」
祥子とルイズが軽食を取っていると、騒ぎが起こった。ギーシュの二股がバレたのである。
「こっちの世界でも殿方と云うのは変わらないわね。」
祥子は感想を述べるとお茶を飲んだ。ふと見るとギーシュはメイドに八つ当たりをしているようだ。
「ルイズ。行くわよ。」
祥子はギーシュに近寄り言い放った。
「見苦しい八つ当たりはやめなさい。二股を掛けている男が悪いのです。発覚した原因など関係有りません。」
「君はルイズが呼び出した貴族じゃないか・・・・。いくら貴族でも使い魔風情に言われたくないな。」
「ギーシュ! 祥子お姉様に無礼な口を聞かないで!」 ルイズが叫んだ。
「お姉様? ルイズ・・・君は使い魔をお姉様と呼ぶのかい?」
「そうよ。祥子お姉様に無礼を働く輩は、ヴァリエール家に無礼を働く物と思って頂戴。」
普段ゼロのルイズと陰口を叩かれていても、ヴァリエール家の娘である。トリステインで暮らす者にとって、ヴァリエール家に逆らって良い事など
一つもない。
ギーシュは「まぁ・・・ルイズがそこまで言うのなら、この紅い薔薇の様な御婦人に免じて、このギーシュ・ド・グラモン、メイドの不始末を不問に処す
事に致しましょう。」 と言って引き下がった。
この瞬間を見ていた者に「祥子様=紅薔薇様」のイメージが焼き付いたのだった。
「あの・・・・助けて下さいましてありがとうございました。私はメイドのシエスタといいます。ご用がありましたら、何でも申し付けて下さい。」
「どういたしまして、シエスタさんね。それじゃ、早速で悪いんだけど・・・。着替えをしたいので服を用立てて下さらないかしら。」
祥子は昨日のパーティドレスを着たきりだった。
「学院の制服でよろしければ、合うサイズがあると思います。直ぐにミス・ヴァリエールのお部屋にご用意させて頂きますね。」
と言って、シエスタは服の調達に出掛けた。
「祥子お姉様、学院の制服で宜しいのですか? 別の服でも私が直ぐ用意させますけど・・・。」
「制服かぁ・・・・去年までは私も制服着てたし、懐かしいわ。」
ルイズは祥子の着てた制服の事を部屋に戻りながら、祥子と話した。
「祥子お姉様、起きて下さい。今日から授業が再開します。祥子お姉様。」
「誰? 瞳子ちゃん? 誰なの?」
「祥子お姉様、ルイズです。朝です。起きて下さい。」
「ルイズ・・・・あぁ・・・・そうだった。」
祥子は寝起きが悪い。異世界に来てもそれは変わりなかった。祥子とルイズは身支度を済ませると食堂に向かった。
「お早う。ゼロのルイズ。」
キュルケが挨拶して来た。
「ごごごご・・・御機嫌よう。キュルケ。」
ルイズはしたくなさげな挨拶をした。
「御機嫌よう? なにそれ?」
「挨拶よ。挨拶。祥子お姉様に挨拶は御機嫌ようで統一しなさいって言われてるの。」
キュルケは祥子を見て、
「はじめまして。私、キュルケ・フォン・ツェルプストーと申します。お見知りおきを。紅薔薇様。」
「御機嫌よう。キュルケ。私はサチコ・オガサワラと申します。魔法学校は初めてですから、よろしくお願いします。」
「紅薔薇様、もう一人妹を持つ気は有りませんか?」
「何よ、ツェルプストー。恋人だけじゃなく、お姉様までヴェリエールから奪うつもり?」
「おやめなさい。ルイズ。」
「残念ですが、キュルケ。妹は一人と決まっていますので・・・。」
「あら、ゼロのルイズなんかより、私の方が良いと思いますわ。紅薔薇様。」
「あんたなんか・・・あんたなんか。」
「行きましょうルイズ。朝食が冷めてしまうわ。では御機嫌よう、キュルケ。」と食堂に急いだ。
「ルイズ。淑女と言うのはそう簡単に感情を前に出す物では有りません。」
「でも祥子お姉様。ヴァリエール家とツェルプストー家は不倶戴天の敵同士で・・・。」
「因縁があるって訳ね。ま・・・・後で聞かせて貰いましょう。」
食堂には当然のように祥子の分も食事も用意されていて、当然のように祥子も貴族たちと同席した。
「偉大なる始祖ブリミルよ・・・・」食事の前の祈りが始まった。祥子は後でルイズに聞いた
「始祖ブリミルって言うのは誰?」
「神様の様な人です」
「私の世界のイエス様のようなものね。もっともリリアンではイエス様よりマリア様が信仰されてるけど。」
「祥子お姉様の世界では、神様よりも信仰を集めている人がいるんですか?」
「いえ、マリア様って言うのはイエス様のお母様なのよ。ルイズもいつも、ブリミル様のお母様に見られてると考えて行動しなさいね。」
「それがマリア様なんですね。わかりました。」
授業が始まった。
「本年度から土系統の魔法を教える。シュブルーズです。属性は土。二つ名を赤土のシュブルーズといいます。」 新任の先生のようだ。
「では誰かに錬金の魔法をやってもらいましょう。そこの貴女。」 ルイズが指名された。
「危険です。ミセス・シュブルーズ。ルイズがやる位なら私が・・・」
キュルケは言ったが取り合ってもらえなかった。
「錬金の何が危険なんですか。いいから貴女。やって見なさい。錬金したい金属を強く思い描くのです。」
「ルイズやめて!」
キュルケは叫んだが、ルイズは聞かなかった。
ちゅどーん! 爆発音が響いた。
「やっぱりこうなったか。」 ギーシュはつぶやいた。
ルイズの服はボロボロになり、先生は気絶していた。
「魔法って危ないのね。失敗すると爆発するなんて・・・。」 祥子は呟いた。 それを聞いていたキュルケは
「危なくなんかないわ。失敗して爆発起こすのはルイズだけの事よ。いつもの事だけど、全く傍迷惑だわ・・・・。ゼロのルイズ! 一体何回爆発
させたら気が済むのよ。」とルイズを非難した。
「失敗して爆発するのはルイズだけ? 他の魔法使いが失敗したらどうなるの?」
祥子はキュルケに聞いた。
「何の変化も起こりはしないわ。全く、未だに二つ名も持てないゼロのルイズは・・・・。」
キュルケは憤慨していたが、祥子は引っかかりを感じた。
(なんでルイズだけは失敗すると爆発するのかしら? 異世界に扉を開いたのと関係有りそうね。)
ルイズは罰として掃除を命じられた。
「すみません。祥子お姉様にも手伝って頂いて・・・。」 ルイズは済まなそうに詫びた。
「気にする事はないわ。掃除なんて、高校時代に戻ったみたいで楽しいし。それよりルイズ。あなた、ひょっとしてとんでもない力を持っているので
はなくて?」
「私の魔法はいつもこうなんです。必ず爆発して・・・・。今まで成功した事がありません。きっと出来そこないなんです。」 ルイズは涙を溜めて
いた。 それを見た祥子は
「そんな事はないわ。だって貴女は異世界に召還のゲートを開いたじゃない。きっと魔力が有り余っているのよ。ところで、一体何を錬金するつもり
だったの?」
「ゴールドですわ。祥子お姉様。みんなをあっと言わせてやろうと思って・・・。」
「金って・・・金を練成できるのは、スクウェアクラスだけだって、先生も言ってたじゃない。ルイズって度胸だけは一人前ね。階段は一歩づつ登ら
ないと、踏み外して落ちるわよ。」 祥子は呆れて言った。
祥子は学院の授業に付いて一通り見てみた。魔法実技・方法論・幾何数学・音楽など魔法に関する事は一通りやっているみたいだった。
「でも音楽が魔法と関係あるなんて意外ね。」
「祥子お姉様。スクウェアクラスの巧みの技になると、音楽的要素が強くなるのですわ。だから音楽の授業は重要です。」
祥子は音楽の授業で使われている楽器を一通り見て見たが、驚いた事に地球で使われている物と寸分変りが
なかった。(これなら私も楽器を使えそうだわ。楽譜は全く違うみたいだけれど・・・)
祥子は学院の視察を大方終えた。それでこの学院に何が足りないかを悟った。生徒は楽員の決めたスケジュールに参加するだけで、自分
から関りを持とうとしない。この学院には生徒会が必要であると祥子は考えた。
「その内で良いんだけど、学院長と少し話出来ないかしら。」
「学院長ならいつも暇してるみたいですよ。」 ルイズは答えた。
「そう、じゃぁ今から面談を申し込んで見るわ。」
祥子は宣言すると学院長室へ向かった。
「ちょっと祥子お姉様。何故に?」
「この学院に足りない物を創設するのよ。」
面談の申し込みはすんなり通った。オスマン学院長の方はコルベールからルーンの報告を受けて興味を持っていたからだ。学院長は祥子
の「生徒会設立」の話を一通り聞いた後、
「生徒の代表を選挙で選ぶとな? それはちと問題が有ろうて・・・。」と感想を漏らした。
「まず目立ちたい者が我こそはと、名乗り出る事になるの。それが生徒の間に要らぬ軋轢を生みかねん。どうしても生徒の代表が必要な場合は
学院の方から任命するのが筋ではないかの? それに滅多な者が生徒代表にでもなったら問題が生じかねん。君の国ではどうか知らんが、
このトリステインで選挙などと云う物を認めるわけには行かんぞよ。」
祥子は自分の認識の甘さを悔やんだ。ここは中世の世界なのだ。まだ選挙制が認められる筈が無かったのだ。民主制に慣れていた祥子の認識
不足だった。トリステインは王政の国なのだ。
「そうですか。では下がります。ご面談に応じて頂いてありがとうございました。」 祥子は引き下がる事にした。生徒会を立ち上げる為には、
生徒からの声が必要と思ったからだ。
「ときにそなた、武器は・・・・」
「武器?」
「あ、いや、その・・・なんでもないよ。」
学院長はルーンについて話をしかけてやめた。いずれ時が全てを明らかにすると思ったのだ。
学院長室を出るとキュルケとタバサがいた。
「御機嫌よう、紅薔薇様。」
「何よキュルケ。あんた立ち聞きしてたの?」
「偶然よ。学院長室に紅薔薇様が向かわれたのが見えたから、後付いて行ったら、丁度ミス・ロングビルが出て行ったんで・・・。」
キュルケは続けた。
「生徒の代表を選挙とか云うので選ぶんですか? なんか面白そうじゃない。」
「残念だけど、その話は潰されたわ。」
「ええ? そうなんですか。それは残念ですねぇ・・・。」
3人は歩きながら話を続けていた。3人が宝物庫の傍を通った時、祥子は大きな土ゴーレムを見て驚いた。
「ルイズ、あれ、何?」
祥子は震えてルイズに聞いた。
「土ゴーレムですね。トライアングルクラスの・・・。」解説を終えると、ルイズは叫んだ。
「あんた何やってるの? 盗賊ね! ファイヤーボール!」
ルイズのファイヤーボールは壁を爆破しただけで失敗に終わった。
「ファイヤーボールってのはこうするのよ!」
キュルケはゴーレムに向かってファイヤーボールを撃った。ゴーレムはモノともしない。
「ちっ、もう戻って来たのか・・・・。」
盗賊のフーケはそう漏らしたが、壁にヒビが入っているのを見てゴーレムのパンチを宝物庫に浴びせた。
フーケは宝物庫から出てくると、
「感謝するよ!」と、祥子達に向かって叫び、ゴーレムの肩に乗ったまま姿を消した。
「待ちなさい!」ルイズ達はフーケを逃がすまいとしたが、フーケは学院の壁を越えると土くれとなって消えた。
フーケが現れた事で学院は騒然となった。授業は自習となり、祥子・ルイズ・キュルケ・タバサの4人は目撃者と云う事で学院長室に呼ばれた。
「すると3人ともしかとは顔を見ておらんのじゃな?」 学院長は念を押して聞いた。
「はい。フーケは顔を隠していました。」 ルイズは代表して答えた。この時、ミス・ロングビルが入ってきた。
「この学院の一大事に何処に行って居ったのじゃ?」
学院長が聞くとミス・ロングビルは答えた。
「近所に聞き込みに行って参りました。それで炭焼き小屋に出入りしている者が、フーケではないかと云う情報を得ました。」
「ほぉ、流石、仕事が早いな。」 学院長は感心した。
「誰かフーケを捕らえて名を挙げようという貴族は居らんか?」 学院長は問うたが、誰一人名乗り出なかった。
「あの・・・・私が・・・・」 ルイズが杖を上げた。
「ルイズ、よしなさい。」 祥子はルイズを咎めたが、ルイズは
「私はフーケを目撃しておりますし、確認が取れると思います。」と言って聞かなかった。
「では私も;・・。」 今度はキュルケが杖を上げた。
「あんたはいいのよ。」 ルイズは嫌そうに言ったが、キュルケは
「ヴァリエールには負けられませんわ。」と言って引かなかった。次にタバサが杖を上げた。
「まぁ・・・いいじゃろ。君達に任せるとしよう。ではミス・ロングビル、彼女等をその小屋に連れて行くように。」と指示した。
炭焼き小屋へは馬車で向かった。
「祥子お姉様は来なくても良かったんですよ。」
「私はルイズの姉であり、使い魔でもあるのよ。ルイズが行くと言うなら、守りに行かないわけにはいかないわ。」
キュルケは祥子の世界に付いて興味深々で話を聞くのだった。
馬車が炭焼き小屋に着くと、ミス・ロングビルは周囲の偵察にいった。タバサとキュルケは炭焼き小屋の中に入って調べる事にした。しばらく
すると2人が破壊の杖を持って出てきた。
「どういう事? 何で盗んだ物を放置してるのかしら?」 4人が思案していると、ゴーレムが現れた。
祥子は真っ先に避難した。キュルケとタバサは魔法をぶつけたが無駄であった。ルイズは逃げなかった。
「ルイズ! 早く逃げなさい。」
「ルイズ、逃げて。」
皆が勧めたが、ルイズは逃げなかった。
「魔法が使えるものが貴族なんじゃない。敵に後ろを見せない者が貴族なのよ。私はゼロなんかじゃないわ!」
ルイズはそう言って魔法を放った。しかし、いつもの通り小さな爆発が起こるだけだった。祥子はルイズの元に走りながら
「破壊の杖を使ってゴーレムを倒して!」と叫んだ。
キュルケは破壊の杖の箱をあけたが、そこにあったのは杖ではなかった。タバサはエアハンマーでゴーレムに打撃を与えつつゴーレムの気を
引いた。
祥子はルイズを伴って、キュルケに合流した。そして破壊の杖をゴーレムに向けると叫んだ。
「皆伏せて!」
破壊の杖は一撃でゴーレムを屠った。
「祥子お姉様、魔法は使えないんじゃなかったんですか?」 ルイズは祥子に問いかけた。
「それともこれ、マジックアイテムなのかしら?」
「何でこんなものがここにあるのかしら? 何で私に扱えたのかしら?」
祥子は自分の行為に驚き、破壊の杖を地面に投げ捨てた。
ミス・ロングビルがいつの間にか戻ってきていて、破壊の杖を手に取りながら言った。
「破壊の杖と言うだけの事はあるわね。私のゴーレムが一撃じゃないの・・・・。」
「私のゴーレム?」 ルイズは呟いた。
「そう。盗んだは良いけど使い方が判らなくてね。仕方なくこう言う手段を取った訳。動かないで!」
「あなたがフーケなのね。」 祥子は鋭い眼でフーケをにらんだ。
「そうよ。教師じゃなく、生徒が来たのは誤算だったけど、そのお姫様なら扱えると思ったわ。」
「ミス・ロングビルどうして貴女が盗賊を?」 ルイズは訊ねた。
「盗賊の方が本業でね。それではさようなら。」
フーケは破壊の杖を作動させようとしたが、破壊の杖は煙も吐かなかった。
「タバサ! エアハンマーよ!」
祥子の言葉と同時にタバサはエアハンマーをフーケに叩きつけた。
「どうして・・・・」
フーケは意識を失いかけながらも問うた。 祥子は
「これは魔法の杖でもマジックアイテムでもないの。ロケットランチャーっていう、私の世界の武器よ。あいにく、単発式なの。弾が無いからもう使え
ないわ。」
学院に戻ると直ぐ学院長からお呼びがかかった。学院長は
「いや、フーケを捕まえるとはたいした手柄を立てたものじゃ。君達には王宮から恩賞が下るじゃろう。」といって皆を労った。
祥子は「少しお聞きしたい事が有るのですけど、どうして私の世界の武器があるんですか? どうしてフーケは私にこの武器が扱えると知っていた
のですか?」と問い正した。
学院長は破壊の杖の由来を祥子に話し、祥子に刻まれたルーンが伝説の使い魔ガンダールヴの物である事、ガンダールブは全ての武器を扱っ
てブリミルを守った事を話した。
「私がそのガンダールヴだとおっしゃるのですか・・・・。」 祥子とルイズは驚いた。
「今宵は舞踏会じゃ。たっぷり踊って、ゆっくり休むように。」 学院長はそう言って話を終わらせた。
舞踏会では大勢の男性からダンスの申し込みがあった。祥子とルイズはそれを全て断って二人で話した。
「祥子お姉様が伝説の使い魔だと云うのは凄いですね。流石は祥子お姉様です。」
「私を呼び出したのはルイズ、あなたよ。やはりあなたは特別だったわ。」
「それにしても全ての武器を自在に扱えるというのは凄いです。明日は虚無の曜日だし、早速武器を買いにいきましょう。」
「ルイズ。淑女というのは武器を扱えなくても良いのよ。」
「でも力が勿体無いじゃないですか。祥子お姉様、私の為だと思って付き合って下さい。」
「仕方ないわね。判ったわ。」 祥子は同意させられた。
「ルイズ、あなた踊らないの?」
「祥子お姉様だって申し込まれてたじゃないですか。なんで踊らないのですか?」
「私は殿方は苦手なの。これでも随分、殿方に免疫が出来た方なんだから・・・・。ルイズは何故踊らないの?」
「日頃、ゼロのルイズって馬鹿にしてる男達と踊る気にならないんです。」
「じゃ、私と踊りましょうか?」
「祥子お姉様と? それは楽しそうですね。」
二人はダンスを踊った。
「こうしていると、祐巳と踊った時の事を思い出すわ。あの時もとてもダンスが楽しかった・・・。」
ルイズは「私、祐巳様に嫉妬を覚えますわ。祥子お姉様、祐巳様の話をなさる時、とても幸せそうなんですもの。」と膨れた。
次の日、祥子とルイズは街の武器屋に来ていた。
店主は「貴族のお嬢様方。ウチは真っ当な商売をしておりますが、何の御用でしょうか?」と不審がって聞いて来た。
ルイズは「客よ。別に文句を言いに来たわけじゃないわ。祥子お姉様に相応しい武器を見繕って頂戴。」と店主に告げた。
「これは失礼しました。こちらのお嬢様にですか? そうですね。華奢だし、細身の剣なんてどうでしょうか?」
と言って装飾付の細身の剣を取りに行こうとした時、
「はぁ・・・女の身で剣を買うのかい? こりゃ次の戦争は負けだな!」
と声がした。 祥子とルイズは無礼な声の主を探したが見当たらなかった。
店主は「こらデル公! 商売の邪魔だ、黙って居やがれ!」と怒鳴った。祥子とルイズは声の主に気が付いた。
それは一本の剣だった。
「インテリジェンススォード?」 ルイズは手に取って見た。それは古くて錆も浮いたボロ剣だった。
「ルイズ、私にも見せてくれないかしら?」
祥子が剣を手に取って見ると、
「おでれぇた。おまいさん、女の身で使い手か! なら俺を買え! 俺はデルフリンガーっていう名の伝説の剣だ!」と、剣が喚いた。
「伝説の剣?」 ルイズは疑問を浮かべつつ店主の顔を見た。
「こりゃ、たまげた。デル公が俺を買えだとよ」店主は呆れ顔で言った。
「その剣なら、100で結構でさ。いつも商売の邪魔されて困ってたとこです。いい厄介払いでさ。」
「でもこんな錆だらけのボロ剣を祥子お姉様に買えるわけ無いじゃない。」
「錆だらけだと? よし見てな。」
デルフリンガーはそう言うと光り出した。光が止むと錆は綺麗になくなっていた。
「どうだ? 俺様を買えば手入れ要らずで便利だぞ。そら買え、俺を買え!」と喚いた。
ルイズは「どうします? 祥子お姉様。」と祥子に判断を任せることにした。
「私には重すぎると思うけど・・・・。」と祥子が言うと、デルフリンガーは、
「でえじょうぶだ。おまいさんなら片手で扱えらぁ。抜いて見ろ!」と喚く。祥子が言われた通り抜くと、確かに片手で扱える。
「あら、本当だわ・・・。じゃぁ・・・・これにしましょうか・・・。」
店主は「やいデル公! お前手入れ要らずの剣ならそう言えってんだ。100で売るって言っちまったじゃねぇか!」 と頭を抱えた。
ルイズは「100? 祥子お姉様に相応しい剣が100の訳無いでしょう? 500よ。500出すわ。」と勝手に値段を変えた。
店主は「貴族のお嬢様。ありがとうございます。」と頭を下げ、金貨500枚でデルフリンガーは祥子の剣となった。
「祥子お姉様、私達、ここで死ぬんですね。」 ルイズは表情も変えずに言った。
「そのようね。」 祥子は答えた。 「何故祥子お姉様だけでも逃げて下さらなかったんですか? 私、祐巳様に申し訳なく、辛いです。」
「妹を守るのが姉の役目、主人を守るのが使い魔の役目。2つの役目が一致してるんだから、逃げるわけには行かないでしょう。」
祥子はルイズをまっすぐに見つめて答えた。
「まぁ7万の敵って言ったって、各部隊は指揮官が倒れりゃ、後方に引いて再編成するんだ。指揮官を確実に倒せば、戦えない相手じゃねぇ
よ・・・・。」 デルフリンガーは二人を励ました。
「ルイズ、祈祷書を見て使えそうな魔法を探してみなさい。」 ルイズは祈祷書の頁をめくった。
「テレポートの魔法が新たに見つかりました。」
「私を連れてどの位跳べるか、試して見て。」 ルイズは呪文を唱えた。
「ざっと100メイル程ですね。祥子お姉様。これでは逃亡用には使えませんわ。」
「それでも敵の指揮官の前に私を連れて行く事は可能ね・・・・。イリュージョンで相手の気をそらして、テレポートで指揮官前に出現、指揮官を
倒した後、テレポートで離脱。これを繰り返せば、7万の足止めと云う目的は達成出来るわね。虚無の担い手と虚無の使い魔の力を敵に見せて
やりましょう。」
祥子は精一杯気を張って言い放った。そしてルイズと2人、7万の敵に向かって行くのだった。
「相棒! 足止めはもう充分だ。離脱方法を探した方がいいぜ。」 デルフリンガーは祥子に言った。
「そんな事言ったって、もう周りは敵で一杯だわ。」
「草の茂みでも良い。隠れられるところにテレポートするんだ。」 ルイズはデルフリンガーの言葉に従った。
「ここももって5分でしょうね。ルイズ、もう一度祈祷書を読んで見て。」 ルイズが祈祷書を読むと新しい魔法が見つかった。
「祥子お姉様、世界扉というのが見つかりました。」 ルイズが世界扉を唱えると、目の前に小さな穴が開いた。
「その穴に飛び込みなさい。早く。」
祥子がそう言うのと大量の矢が飛んで来るのがほぼ同時だった。祥子はルイズが逃げ延びるまで、矢の雨を食い止めたが、祥子が穴に飛び込もう
とした瞬間祥子の胸に一本の矢が突き刺さった。
「祐巳・・・・・・」 祥子は消え行く意識の中で最愛の妹の名を呼んだ。
小笠原祥子が消えて半年、祐巳はリリアン女子大受験の為、最後の追い込みにかかっていた。現役のロサキネンシスが受験に失敗する
訳にはいかない。何事にも「平均点が売り」の祐巳にとって、受験は大問題だった。それでもどうしても考えてしまう。
「お姉様は一体何処に行ってしまったのかしら・・・・。」 今夜も受験勉強をしていても、お姉様の事が気になる。
「うーん。ちょっと一服しようかな?」 と伸びをしていると、背後でドサっと大きな音がして祐巳は振り向いた。
そこには桃色の髪をした女の子が、血まみれの黒い髪の女性に縋って呼びかけていた。
「祥子お姉様! 死なないで!」
「相棒!」
「祥子お姉様? え?」
祐巳は血まみれの女性が消えた小笠原祥子であると認識するのに時間がかかった。
「え? お姉様?」
漸く認識すると、胸の矢を抜こうとした。
「抜くんじゃねぇ! 失血死するぞ!」 男の声が祐巳を怒鳴った。
祐巳は慌てて、「えと、救急車!」と叫ぶと、携帯に手を伸ばした。
その晩の事を祐巳は断片でしか思い出せない。ルイズと名乗る女の子と一緒に救急車に乗って、病院に運ばれた事。あまりの事に、小笠
原家への連絡が遅れた事。連絡を受けて飛んで来た柏木さんの顔。蓉子様の蒼ざめた顔。瞳子の泣き顔。手術中の文字が灯ったライト。
数日後、祥子が意識を取り戻したとの知らせを受けて、祐巳はルイズと面会に行った。この半年、何があったのかはルイズから聞き出した。
信じられない話だったが、目の前でテレポートされれば信じる他無かった。
ドアをノックして祐巳とルイズは祥子の病室に入った。
「お姉様、無理はなさらないで下さい。」
祥子が起き上がっているのを見て祐巳は心配した。
「祐巳・・・・・・。やっとあなたに会えたわね。」 祥子は幸せそうに微笑んだ。
「相棒・・・。もうダメかと思ったぜ。」 デルフリンガーが言うと祥子は
「もう相棒じゃなくなっちゃったわ。」 と左手を見せた。ガンダールヴのルーンが消えていた。
「心筋に矢が刺さっていたから、心停止させて手術したって、お医者様が言ってらしたわ。」
祥子はルイズに「ごめんなさい、ルイズ。使い魔の契約が切れちゃった・・・・。」と笑って言った。
「いえ、祥子お姉様に生きて居て貰えれば、私はそれだけで・・・・。」 ルイズは涙を浮かべて言った。
「また召還のゲートが開いても、今度はもう入らないわよ。」
「はい。祥子お姉様はこの世界で祐巳様とお暮らし下さい。御機嫌よう、祥子お姉様、祐巳様。」
ルイズがトリステイン魔法学院に戻ると、大騒ぎになった。ルイズが殿軍を勤めた事を皆が知っていたのだ。生きて帰った英雄を皆が称えた。
しかし、ルイズはもうそんな事に興味はなかった。新しい使い魔を呼び出す気も起こらなかった。
ルイズは自分に必要な物が何かを悟っていた。そう、私も持つのだ・・・・・。妹を・・・・・。
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