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#navi(ゼロのルイズと魔物の勇者)
馬車に揺られながら、空を見上げる。
この世界に来た時と同じ青が広がっていた。
ロングビルが手綱を引き、その他が荷台に乗っている。
キュルケの使い魔は無駄に大きいせいか、学院に置いてきたようだ。
タバサの使い魔も巨大だが、風竜であるため空を飛べる。
もしかしたら近くを飛んでいるのかもしれない。
スラおは小さくて、場所に困ったらギュッと圧縮できるので問題なくルイズ達に同行する。
「で、ルイズ。昨日のあの殿方は一体誰なのよ」
「知らないわよ。私も初めて見た人よ」
キュルケはゴーレムを圧倒的な強さで翻弄した自称勇者が何者なのか気になるようだ。
ルイズを救ったため、ルイズの知り合いだと思っているらしい。
「嘘よ。あの人、ルイズに対して親しげに話しかけてたわ」
まぁ、正体がスラおであるから当然なのだが。
たわいも無い会話で盛り上がっている中、相変わらずタバサは本を片手に黙っている。
馬車は深い森に入っていった。
妙に薄暗く、じめじめしている。
不気味で、できることなら近づきたくない森だ。
しかし、スラおは胸が躍る。
この世界に飛ばされて、始めて学院から出た。
クリオと冒険していた頃は、旅の扉の先でこんな森に何度も遭遇したものだ。
「ここから先は、徒歩で行きましょう」
森の中は木が生い茂り、小道しか存在しない。
馬車で進むことが不可能と判断したのだろう、ロングビルが提案する。
全員が馬車から降りて、森の奥へと進んでいく。
歩き続けると、開けた場所に出た。
そこには一件の小屋がある。
ロングビルが小屋に指を指す。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にフーケが」
全員で木と草の陰に隠れる。
タバサがその場にちょこんと座り、杖を使って地面に絵を描き始めた。
「作戦」
短くそう言うと、キュルケもルイズも腰をおろして、タバサの描いた絵を囲む。
小屋までには罠が張られているかもいるかもしれない。
まずは道中の安全を確保する。
次に、中にフーケがいた場合は外に誘き出す。
そこに一斉攻撃を仕掛けるというわけだ。
「で、誰が罠が仕掛けてあるかもしれない場所を突っ切って、フーケを誘き出す囮になるわけ?」
キュルケが嫌そうな顔でタバサに尋ねる。
「すばしっこいの」
タバサのその一言で全員がスラおの方を見る。
「や、やっぱりオイラ・・・?」
もはやスラおに拒否権はなかった。
地面に罠が仕掛けられている可能性を排除するため、飛び跳ねずにあえて這うように進む。
「罠はないみたいよ」
スラおが小屋に到着したのを確認して、ルイズが安全であることを確信する。
小屋の中に入ると、まるで物置のよう。人の姿は見られない。
不自然な点を挙げるとすれば、中央にこれ見よがしに宝箱が置かれていることだ。
「誰もいないぜー!」
小屋から出て、ピョンピョン跳ねながらルイズ達にフーケの不在を伝える。
「あのバカ!大声出してっ!」
ルイズが怒って、キュルケがため息をついて呆れる。タバサは無表情である。
早速全員で小屋に向かう。
「結局、フーケはとっくに逃げてたわけねー」
キュルケが残念そうに項垂れる。
だがとんでもない収穫はあった。『破壊の杖』が宝箱の中から見つかったのだ。
「あら、フーケって随分とドジなのね」
「お、おい!それってホントに破壊の杖なのか!?」
「間違いないわ。宝物庫を見学したとき確かに見たもの」
キュルケに確認したが、それは間違いなくこの世界で『破壊の杖』と呼ばれているものらしい。
「マ、マジかよ・・・」
スラおはその事実に驚く。
正確にはそれは杖ではない。
しかし、槍でもないし、剣でもない。トゲが付いてるわけでもない。
見た目で杖と勘違いしても仕方がないだろう。
次の瞬間、外で見張りをしていたルイズが悲鳴を上げる。
「きゃああああああああ!」
「ルイズ!?」
小屋の屋根が吹き飛ぶ。
そのおかげで視界を遮るものがなくなった。
ズシンという音がなり、ゴーレムが現れる。
「まさか、フーケ!?」
キュルケがそう言う間に、タバサは真っ先に呪文を唱える。
ゴーレムをも包みこんでしまいそうなほど巨大な竜巻が巻き起こる。
しかし、ゴーレムはびくともしない。
少し遅れてキュルケが呪文を唱えて、杖の先から炎を放出し、ゴーレムを焼く。
だが、衝撃のないただの炎では、ゴーレムにダメージを与えることはできない。
「退却」
タバサが呟く。
「お、おい!ルイズはどこだよ!」
逃げてゆくキュルケとタバサを背に、スラおはルイズを探す。
ルイズはいつの間にかゴーレムの背後に立っていた。
ゴーレムの背中が爆発する。
たとえ失敗魔法であっても、今だけはキュルケの炎やタバサの風よりは強いダメージを与えられるだろう。
それでも削れたゴーレムの一部はすぐに元通りになってしまう。
「ばっかやろおおお!」
スラおは勢いよくルイズを蹴飛ばす。
「何すんのよ!バカ!」
既にゴーレムはルイズを標的としている。このままでは危険だ。
「お前の魔法であんなのに敵うわけねぇだろ!」
「そんなのやってみないとわからないじゃない!」
「オイラが注意を引くからルイズは離れてろ!」
「だめよ!私がやらなきゃだめなの!・・・私の魔法ならっ!・・・失敗魔法だけど・・・あいつに傷をつけられる」
大声で捲し立てていたルイズの声が急に小さくなる。
「フーケを捕まえれば、もうゼロだなんて言われない・・・」
スラおは何も言えない。ルイズにはルイズの思いがある・・・。
クリオは時に弱音を吐くものの、自信に満ちていた。
だからこそルイズにどう声をかければいいか分からない。
もしかしたらルイズのプライドを傷つけてしまうかもしれない・・・それでも自分の素直な気持ちをぶつける。
「オイラを信じろ!」
そうだ・・・結局自分は何の力にもなれない。
使い魔の方が自分より優秀だ。スラおに任せればいい・・・自分は役には立てない・・・。
「好きに・・・しなさいよ」
ルイズは泣きそうな声で言う。
「バカ野郎!オイラにもお前を信じさせろ!」
スラおはルイズのマントを噛んで引っ張る。
ゴーレムの攻撃は範囲が大きく強力だが、動きは鈍い。その攻撃を避けることは可能だ。
「オイラもルイズを信じるから、お前もオイラを信じろっつってんだよ!」
再びスラおが叫ぶ。
ルイズはその意味をまだ理解できずにいる。
私は何もできない。信じられても困る。
そんな時、思い出すのはスラおの世界の話。
別の世界が存在するなんて信じられない・・・でも、モンスターマスターの話には興味を引かれた。
使い魔と主人の関係とは少し違う。主従関係がハッキリしているわけではなく、まるで親友同士のような関係。
そうだ、スラおは『信じろ』と言った。『任せろ』とは言ってない。
私にも・・・やれることがあるの・・・?
「スラお・・・」
ルイズはゆっくりと自分の足で立ち上がる。
「あいつの足、あんたの魔法で壊せる?」
「あたぼうよ!」
「右足だけ狙って!」
ルイズの声に反応して、スラおはゴーレムの右足だけを狙う。
「ベギラマァ!!!」
ゴーレムの足は、抉るような炎に焼かれ、ボロボロと崩れる。
それでも太い足はかろうじて繋がっていた。
そこに爆発が起こる。ルイズの魔法だ。
ようやくゴーレムの右足を破壊することに成功した。
「やるじゃねーか、ルイズ!」
「当然よ!私は貴族なんだから!」
ルイズはすっかり自信を取り戻したようだ。
スッキリした頭は冴えわたる。
以前、謎の剣士がゴーレムの両足を切断した時は、だるま落しのように見事に着地し、バランスを保たれてしまった。
なら片足ならどうだ。あの巨体ならバランスを崩して倒れるはずだ。
その作戦は正しい。だがゴーレムは、執拗にバランスを取り続けて倒れない。
その時、強い風がゴーレムを刺す。
風竜に跨ったタバサだ。キュルケもいる。
片足を失い、強風に煽られたゴーレムは前のめりに倒れる。
「スラお!思いっきり体当たりしてあげなさい!」
ルイズはしっかり計算して、ゴーレムの下敷きにならない位置に移動していた。
スラおの強烈な体当たりは対ギーシュ戦で一度見ている。
ゴーレムが倒れる勢いと、スラおが下から突き上げる勢いが合わされば、ゴーレムの胸に風穴を開けることができるだろう。
「いいぜ!オイラの取って置きを見せてやる!」
スラおの体がバッと掌のように開いて巨大化した。
「いくぜ・・・超神秘的で超かっこいいオイラのオリジナル技・・・」
「え?ちょっと、オリジナル技とかじゃなくて体当たりだってば!」
今までスラおとの息が合っていたぶん、急に訳の分からない技を使おうとしたことで、ルイズは少し戸惑ってしまった。
それでも構わずスラおは叫ぶ。
「スラお・ジャスティスアッパァー!!!!!」
掌のように広がったスラおの体が丸くなる。それはまるで拳。
胸に風穴を開けるどころではない。ゴーレムの胴体は粉々に砕け散り、残された四肢と頭は繋がりを失って、崩された積み木のようになってしまった。
威力は全然違ったが、確かに体当たりには違いない。
「す、すごい・・・」
ルイズは謎の剣士がゴーレムに攻撃した時と同じ感想を言ってしまう。
「へへーん、どうだ!オイラのこと見直しただろ?」
ギーシュを倒した時よりも何倍も凄い。
素直に感心する。
「やるわねぇ、ルイズの使い魔」
タバサの風竜に乗って、ルイズ達の上空を飛ぶキュルケもまた感心する。
すると、『破壊の杖』をしっかりと握りしめたタバサが呟く。
「いない」
「え?誰が?」
「ミス・ロングビル」
一方、地上で喜び合うルイズとスラお。
しかし、その背後でゴーレムが音を立てて蠢く。
やはりフーケを倒さない限り、ゴーレムは何度も復活してしまうのだ。
フーケの魔力切れを狙う手もあるが、そうなる前にやられてしまいそうだ。
「ど、どうしよう。何度やっても・・・」
自信をつけたルイズも、流石に弱音を吐く。
こうなったら、タバサ達に上空からフーケを探してもらおうかとも考えた。
だが、スラおは『破壊の杖』のことを思い出す。
あれはフーケには使えないはずだ。
そして、見つけてくださいと言わんばかりに、分かりやすい場所に仕舞われていた。
ならもしかしてフーケの目的は・・・。
この考えが正しければ、フーケは自ら姿を現すはず。
「破壊の杖を投げてくれ!!」
スラおはタバサに向けて叫ぶ。
タバサは素直に破壊の杖を投げる。
「ちょ、ちょっと!何やってるの!?タバサ!」
おそらくは、風竜に乗っている間はフーケも破壊の杖に手が届かないであろう状態。
にも関わらず、タバサはあっさりと破壊の杖を地上に戻してしまった。
「大丈夫」
その後に、たぶん、と付け加えてタバサがキュルケをなだめる。
不安ではあるが、タバサの判断は大体正しい。
キュルケは無理にでも納得して、破壊の杖のその後を見守るしかなかった。
「何言ってるのよスラお!」
「オイラを信じろって!」
ルイズは仕方なく破壊の杖をキャッチする。
ゴーレムはすでに復活して、今にも拳を振り降ろそうとしている。
「そいつを振るんだ!」
それはここにいる誰も使えないはずの代物。
でもスラおはルイズを信じている。ただ、それだけではない。
何故か、それをルイズが使えるような気がしたのだ。本来は使えるはずのない、それを・・・。
これもルーンの力なんだろうか?それともモンスターマスターとの繋がりによるものなのか。
ルイズは訳も分からず、破壊の杖を振る。
どうせ何も起こらない。起こったとしても、それはただの爆発だろう。
ルイズ自身もそう思っていた。
視界に入るのは光。野蛮な爆発が起こるわけでも、炎や風が巻き起こるわけでもない。
強い光が、天から降り注ぎ、ゴーレムを包む。
あまりの眩しさに、ルイズはもちろん、キュルケとタバサも目を瞑る。
瞼を開けた時・・・そこにゴーレムの姿はなかった。
「「「え?」」」
全員が状況を飲み込めず、意味のない声を上げてしまう。
これほどの魔法は見たこともない。どの系統に属するかも分からない。
そう、それはまるで虚無の魔法・・・。
風竜が地上に降り立ち、タバサとキュルケがルイズに駆け寄る。
「やったわね、ルイズ!」
素直にルイズと喜び合おうとするキュルケ。二人が犬猿の仲とはとても思えないほど。
その時、呆気にとられて隙だらけのルイズの足元が盛り上がる。
バランスを崩したルイズは、破壊の杖を手放してしまう。
落ちた杖を拾う。誰が拾ったのか?
ミス・ロングビルだ。
「ミス・ロングビル!無事だったんですね。いままで何処に?」
キュルケが声を掛けるが、彼女は答えない。
それどころか、破壊の杖をこちらに向けた。
「これは・・・一体どういうことですか?」
尻もちをついたルイズが、目を細め、厳しい口調で聞く。
「まだ分からないの?私が土くれのフーケよ」
その事実に、驚いていないのはタバサだけ。
この状況下で、冷静なのはタバサとスラお。
「予想以上の威力だったわ・・・この破壊の杖。まさか私のゴーレムを跡形もなく吹き飛ばすなんてね」
フーケは全員に杖を捨てるように要求。それに逆らうものはいない。
そんな時、不穏な空気をかき乱すようにスラおが言った。
「残念だけど、そいつは使えないぜ?」
忠告するが、フーケは聞き入れない。
こうなれば、力尽くで杖を奪い返すまで。
体当たりをしようと動いたスラおを見て、フーケは透かさず杖を振る。
しかし、何も起きない。
「そいつは商人しか使えねーんだ」
鳩尾に体当たりされたフーケは簡単に気絶した。
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