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「ルイズと夜闇の魔法使い-23a」(2011/04/09 (土) 09:24:24) の最新版変更点
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「なるほどなあ……」
手にしたシャベルの刃を蹴りつけながら、柊は嘆息交じりに言った。
柊達と同じくファー・ジ・アースから召喚された少年、平賀 才人との邂逅を果たした後、柊は何故かサイトと共に部屋の掃除をやらされていた。
部屋の中にこんもりと積もっている土山をシャベルで削り、床に空いた謎の大穴に放り込む。
それこそ魔法を使って片付けろという話なのだが、当のフーケ――本名はマチルダというらしい――は全く取り合ってくれなかった。
そんな訳で柊は押し付けられた土木作業をこなす傍ら、マチルダから一年前にサイトが召喚された話をかいつまんで聞いたのだった。
……ちなみにサイトは、出会った直後こそどうやってここに来たのかとか地球は今どんな感じとか根掘り葉掘り色々と聞いてきたのだが、
柊がサイトと同じように召喚されて帰る手段もない事を聞くとガッカリ感丸出しの表情を浮かべてしまった。
まあそれでも同じ地球の人間に会えたのが嬉しかったのか、どこか喜色を称えて柊との共同作業にあたっている。
「……しかし、俺等以外にも人間が召喚されてるのかよ」
話を聞き終えた後、柊は作業の手を止めて嘆息交じりにマチルダをねめつける。
すると彼女の隣にいる帽子を被った少女――ティファニアが申し訳なさそうに頭を垂れた。
「……ごめんなさい」
サイトを召喚した事に負い目を感じているのだろう、彼女は消え入りそうな声でそう漏らす。
一方のマチルダは逆に不服といわんばかりに顔を顰めてテーブルを軽く叩いて見せた。
「召喚したのはこっちが先だよ。それに、人間だの異世界だのっていうのが本来ありえない事なんだ、イレギュラーにまで責任とれるか」
「いや、別に責任とれとはいわねえけどさ」
ルイズの時もそうだが、別に彼女等が意図して柊達をこの世界に召喚した訳ではないのでその点に関して特に責めたりするつもりはない。
学院にいた時使い魔召喚についても調べてみたが、異世界は当然ながら同じ世界であっても『召喚』する手段はあれど『送還』する手段は皆無だった。
これはもう根本的に責任がどうのというものではないようだ。
だからマチルダの言の通り、イレギュラーと言われれば単にそれだけの話なのだが――
「イレギュラーねえ……」
柊は呟いてから少しの間黙考し、そしてティファニアへと眼を向ける。
「えぇと、ティファニアって言ったっけ。あんたがサイトを召喚したんだよな?」
「え、は、はい……」
人見知りが激しいのか、ティファニアは僅かに身を縮こまらせて頷いた。
まるで何かを隠すようにして帽子を目深に被りなおす彼女の仕草はさておき、柊は更に重ねて尋ねる。
「てことは、あんたもメイジなのか?」
「えっと、それは……」
するとティファニアは何故か困ったようにマチルダへと視線を向けた。
マチルダは小さく嘆息した後、ティファニアの代わりに柊に向かって言う。
「まあそんなモンだよ」
「微妙な言い回しだな……まあいいや」
いちいち追求するような事ではないし、そうすべき事は他にあるのだ。
「メイジなら魔法は使えるか? えーと……そう、コモン・マジックとかじゃなくて系統魔法の方だ。ドットでもラインでもなんでもいいけど」
「……なんでそんな事を聞くんだ」
そこまで聞けば流石に何か勘ぐっている事を察し、マチルダは声を潜めて柊を睨みつけた。
やや剣呑な雰囲気を纏った視線を受けながら、しかし柊は僅かな沈黙の後にこう返した。
「……ルイズと同じなんじゃないかと思ってよ」
ルイズとティファニア、二人して『本来ありえないほどの偶然』で柊達やサイトを召喚した、とするよりも、二人に共通して『本来ありえない事を起こす要因』があるとした方が納得がいくのだ。
これはルイズがフール=ムールから情報を得たときから考えていた事だった。
フール=ムールから教わったと思われる彼女の系統。
四系統ではありえない特別な系統――それが異世界からの召喚を可能にした要因ではないか。
「同じってどういう事さ。テファも魔法が使えないゼロって事かい?」
「魔法が使えないって訳じゃなくてな……」
ここで柊は言いよどんだ。
これはルイズのプライバシーにも関する事なので言ってしまっていいものか迷ったのだ。
しかしそこを伏せて婉曲的に聞いても埒が明かないだろう。
それにこの点は柊やエリス、サイトの今後にも関わる可能性もあるのだ。
「ルイズが魔法を使えないのはそれが自分の系統じゃねえからだ」
「はあ? メイジなら四つの系統のどれかに適正があって当たり前じゃないか。それができないから『ゼロのルイズ』なんだろう?」
「もう一個系統があるだろ。誰も使わねえ、誰も使った事がねえ系統がよ」
「……。ちょっと……」
それを聞いて流石にマチルダの顔色が変わった。
しかし柊は畳み掛けるように言った。
「ルイズは多分『虚無』の系統って奴なんだよ。確証はねえんだけど、少なくともここでは信頼できる筋の情報だ」
マチルダは絶句した風に柊を見つめた。
隣にいたティファニアはいまいち話の内容を理解できないのか、きょとんとした表情を浮かべていた。
サイトに至っては意味がわからないといった風情で――誰かに向かって声をかけた。
「な、なあ。キョムの系統ってなんだ?」
「始祖ブリミルが使っていたとされる系統。伝聞だけでしか伝わっていないから詳細は不明」
……と、そこでようやく。
柊は彼女の存在を思い出した。
「うわっ、タバサ!?」
そういえばマチルダに案内されて一緒に来ていたのだ。
普段から無口で存在感が皆無であり、ここに来てからも一言も口を開かず部屋の片隅で佇んでいただけだったので完全に忘れていた。
ルイズの系統の事だけでなく柊やサイトが異世界から召喚されたという事も全て話してしまっている。
「タ、タバサ。あ、あのな、これは色々と事情があって、だから頼むからこの事は内密に……」
泡を食って柊がタバサに向かって言うと、彼女はさほど表情を動かさないまま首を振った。
「誰にも言うつもりはない。その程度の事はわきまえているし……言っても誰も信じない」
「ま、まあそれはそうだけど……すまねえ、頼む」
頭を下げる柊にタバサは小さく頷くと、ほんの少し興味を帯びた視線で柊とサイトを交互に見つめる。
「……この人も貴方と同じ力を持っているの?」
「いや、サイトはイノセントだろうから持ってねえ……多分」
「力? イノセント? 何のことだ?」
不思議そうに首を傾げてサイトは柊を見やったが、彼は軽く手を振って「後でな」とだけ言い、改めてティファニアとマチルダに眼を向けた。
すると何とか内容を呑みこんだのか、ティファニアは僅かに視線を彷徨わせた後、おずおずと声を上げる。
「あ、あの。虚無って、あの虚無? 始祖ブリミルの系統っていう……」
「多分、その虚無」
ティファニアは頷いて返した柊をしばしぼんやりと見つめ、次いで乾いた笑いを漏らした。
「そ、そんなのある訳ないわ! わたしが虚無だなんて、そんな大それたこと……!」
同意を求めるようにティファニアは隣に座るマチルダに顔を向け、そして固まってしまった。
まっとうな人間ならまず一笑に伏すような話を聞いたマチルダは、しかし険しい表情のまま何事かを思案している。
「ね、姉さん……?」
不安になって恐る恐る声をかけるが、マチルダはそれには答えずサイトの方へと眼をやった。
「サイト。こないだ話したあんたのルーンの話、覚えてるかい?」
「ルーン? 確かガンダールヴっつって始祖ブリミルの使い魔――」
そこまで言いかけてサイトも流石に気付いたのか、思わず息を呑んだ。
そしてマチルダはようやくティファニアへとふりかえり、言う。
「あのルーンは契約したときに自然に刻まれたものだ。伝説の使い魔のルーンが刻まれたのなら、必然その主は伝説――虚無って事になる」
「ね、姉さんまで……!」
信頼しているマチルダにまでそう言われ、ティファニアは思わず腰を浮かせた。
彼女はその発端となった発言をした柊に眼をやると、食って掛かるように口を開く。
「だ、だからなんなんですか!? 私がその虚無だったら、どうだっていうんです!?」
食い入るように見つめてくるティファニアの視線を受けて、しかし柊は動じることもなく一つ頭をかいてから言った。
「この世界の奴等にとって虚無の系統がどうかってのはわからねえ。ただ、俺達とサイトにとっては結構重要なことかもしれねえんだ」
「え――」
「お、俺も?」
眼を丸めたサイトとティファニアに、柊は頷いた。
「俺達がハルケギニアに召喚されたのは虚無の力が関係してるのかもしれねえ。
だったら、俺達が元の世界に戻るのも、虚無の力を使えばできるんじゃねえかな」
「ま、まじで!?」
泡を食ってサイトが詰め寄り、そして期待交じりにティファニアに眼を向ける。
彼女は気圧されるように半歩後ずさると、一転して怖気づいたような表情を見せて呟いた。
「そ、そんなのできない……私、そんなこと、知りません……」
「うん、それはわかってる。できるようになるかもしれねえって話だよ」
そんなティファニアを落ち着かせるように柊は言った。
ティファニアという少女が知っていて隠すような人間ではない事はなんとなくわかる。
それで彼女は幾分落ち着きを取り戻したのか、静かに椅子に腰を下ろした。
そして彼女は一度サイトに眼をやってから、柊に問いかける。
「本当に、私が貴方達を……サイトを元の世界に戻せるようになるんですか?」
投げかけられた問いに柊は僅かに眉を潜めて答える。
「推測だから確実にそうなのかはわかんねえ。そもそも虚無の魔法ってのがどういうもんで、どうすれば使えるようになるかもわかんねえしな……」
実際学院でルイズがあれこれと調べていたが、てがかりは掴めていないようだった。
柊を見ていたティファニアは隣のマチルダに目をやった。
彼女は何も言いはしなかったが、どこか諦めたかのように嘆息し、瞑目して小さく頷く。
ティファニアは柊に向き直った。
「あ、あの……私、魔法が使えるんです」
「魔法? コモン・マジック?」
「そうじゃなくて、別の魔法……姉さんによると、系統魔法ではないそうです。ええと……」
上手く説明する事ができないのか、ティファニアはそこで言葉を詰まらせてしまった。
すると今まで黙っていたマチルダが引き継ぐようにして説明し始める。
昔、ティファニアはとある縁で貴族の家に住んでいたらしい。
その家には王家に伝わるというルビーの指輪と、同じく王家に伝わる秘宝のオルゴールがあった。
そのオルゴールは音が鳴らない不良品と思われていたのだが、ティファニアが王家のルビーを嵌めてオルゴールの蓋を開くと歌とルーンが聞こえてきたそうだ。
そしてそのルーンこそが系統魔法では類を見ない効果のものであったらしい。
「確か記憶を消す……んだったっけ?」
確認するようにマチルダが目を向けると、ティファニアは静かに首肯する。
「水の系統じゃできないのか?」
「できない。洗脳や暗示で忘れさせたり方向性をずらしたりはできるが、完全に『消す』ことはできない」
それをやるにもスクエアクラスの力と水の秘薬があってようやくだからね、とマチルダは首を振った。
「王家の秘宝と……王家のルビー?」
柊は眉を潜め、反射的に懐に手を伸ばした。
厳密にはそこにある訳ではないのだが、月衣の中にはアンリエッタから預かった『水のルビー』がある。
そこでようやく柊は合点がいき、大きく溜息を吐き出した。
「どうした?」
「いや、こっちの話だ」
――王家のルビーと王家の秘宝によって虚無の魔法が使えるようになる。
おそらくルイズはこの話をフール=ムールから聞いていたのだろう。
だからアンリエッタがルビーを持ち出した辺りから同行することに意固地になっていたのだ。
(あいつ……)
柊は心中で呻いてしまった。
そういう事情があるのなら、ちゃんと言ってくれさえすればあんな風に置いていく事はしなかった。
要するに、そこまで打ち明けてくれるほど信用されていなかったということなのだろう。
「そ、それじゃその秘宝とルビーってのがあれば元の世界に戻れるようになるのか?」
具体性を帯びてきた希望に縋るようにしてサイトが声を上げると、柊は軽く肩を竦めながら返した。
「まだ確実って訳じゃねえけどな。でも、闇雲に方法を探し回るよりはずっと可能性はあると思うぜ」
「でも帰れるかもしれないんだろ? うおお、何だよおい! すげえ道が開けてきた感じだぞ!?」
まあ道が開けてきたという点に関してはサイトの言う通りではある。
だが、立ち塞がる関門がない訳ではない。
それを示すようにマチルダが軽く鼻で笑った。
「簡単に言うけどね、王家のルビーや秘宝をどうやって手に入れるっていうのさ。アレは本来王宮の宝物庫に収められてるような代物なんだよ?」
「うっ……えーと、それじゃ忍び込んで盗み出……はい、なんでもありません。すいません」
言いかけたサイトがマチルダの物凄い睨みを受けて黙り込んだ。
それを嘆息して見やりながら、柊は軽く頭をかいた。
「あー、その辺の事はこっちでどうにかする」
今回の任務を無事果たすことができたら、報酬代わりという訳ではないがアンリエッタにそれらを見せてもらうくらいはできるだろう。
柊は怪訝な表情で見つめてくるマチルダから逃げるようにしてサイトに顔を向けた。
「だから、サイトはここで待っててくれ。進展があったら連絡入れっから」
「ホ、ホントか? 頼んだぞ、マジで」
「ああ。手紙かなんか送る……って、手紙でいいのか? 届くのか、ここ?」
電話などという文明の利器がある訳でもなく、手紙を送るにしても現代日本の郵便方法しか知らない柊は住所もないだろうこの場所にちゃんと手紙が届くかいまいちわからなかった。
不安になってマチルダを見やると、彼女は呆れたように溜息を吐き出した。
「サウスゴータ経由で普通に届くよ。……っていうか、あのマジックアイテムを使えばいいんじゃないのかい?」
言って彼女は部屋の脇を指差した。
追って視線をやると、棚の上には何故かノートPCが鎮座している。
開かれたディスプレイからはスクリーンセイバーらしき画像が動き回っていた。
「……?」
柊は思わず首を傾げてしまった。
机の上ならわかるが、何故棚の上。
「ネットに繋がらねえから使い道がなくて……インテリアに……」
「……あぁ、そう」
サイトがさめざめと漏らした台詞に柊はぼんやりと返した。
まあ確かにこの世界の技術水準からすればノートPCの造形もディスプレイに映る画像も芸術品と言っていいレベルのものだろう。
「あれ、あんたが持ってるマジックアイテムと同じような奴なんだろう? あれで連絡を取れるんじゃないのかい?」
確かにサイズはともかくとして全体的な造形自体は似通っている。
マチルダが柊に地球の事を尋ねたのも0-Phoneを見てこのPCを思い出したからなのだろう。
だが――
「俺とエリスの持ってる奴は特別製だから、これとは多分繋がらねえな……」
柊達がハルケギニアで連絡を取り合う事ができるのは0-Phoneが魔法技術を組み込んで作られたものだからだ。
もちろん通常の携帯電話としても使用できるのだが、通常回線が存在しないハルケギニアでは使用する事はできない。
「…………?」
と、そこで柊はある事に気付いて眉を潜めた。
色鮮やかなディスプレイを凝視したまま、サイトに声をかける。
「サイト、お前確か一年前にハルケギニアに来たんだよな?」
「あ? 正確な所はよくわかんねえけど、多分大体それくらい……」
「……このPCはそれからずっと立ち上げっぱなしなのか?」
「こっち来て一ヶ月くらいは使う時だけ立ち上げてたけど、この村のガキ共が珍しがって見せてくれっていうから後はそのまんま――っ!?」
柊が言わんとしている事にサイトも気付き、表情を凍らせた。
二人が何に驚愕しているのかさっぱりわからない回りの三人は一様に首を傾げるだけだったが、当の柊とサイトは慌てて棚の上のPCを取り寄せて机の上に移動させる。
「なんでまだ動いてんだよ!?」
「し、知らねえよ!」
仮にこの世界に来る直前に充電していたとしても、約一年間起動させっぱなしでバッテリーが持つわけがない。
そして言うまでもなく、ハルケギニアではバッテリーの充電などできるはずもなく。
つまり、目の前のPCが今だに動作しているのは本来ありえないことなのだ。
「なんだこのPC、普通の奴じゃねえのか? もしかしてお前ウィザードだったりすんのか?」
「普通にアキバで買った奴だよ! 調子悪かったんで叔父さんに修理頼んで、直った奴を持って帰る時にこの世界に……ってか、うぃざーどって何だよ!」
周囲の怪訝そうな視線をものともせず、二人はPCをあちこち観察する。
が、一見してもPCに何か特別なものがあるという訳ではない。
分解して中身を見たところでその手の知識がほぼ皆無な柊では判別することなどできないし、何も知らないだろうサイトも論外だ。
「くそ、わかんねえ……いや」
仮にこのPCが"そう"であるのなら、確かめる方法がある。
柊は懐から0-Phoneを取り出した。
「!? うわああぁああん!! けえたいでんわあぁああああ!!!」
「おちつけっ!! メール送ってみっから、メアド!」
狂喜の表情を浮かべて被り付いて来るサイトを押しのけながら柊は適当にメールを打つ。
慌ててサイトはPCを操作しメールソフトを立ち上げるが、
「おああぁ!?」
いきなり素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「今度は何だよっ!?」
耳元でいきなり叫ばれて柊は思い切り眉を顰めた。
サイトは震える手でディスプレイを指差し、再び叫ぶ。
「め、メール!」
「いや、だからメール送るからメアドを――」
「違う! メールが来てる!!」
「はぁ!?」
思わず柊はサイトを押しのけてディスプレイに顔を寄せた。
まだサイトのメールアドレスを聞いてないので柊のメールは送信していない。
だが、開かれたエディタには確かに新着のメールが届いていた。
それも複数。
全てがほぼ同時に送られているようで、一番上のものを除いて全てに添付ファイル付だ。
表題は『才人くんへ』。
送信者は――平賀 十蔵。
「……叔父さん?」
「届いたのは……半年前? 半年前だと?」
つまりこのメールはサイトがハルケギニアにいる間に届いたという事なのだ。
世界を越えて連絡を取る手段を見つけていたということなのだろうか。
だがそれでは、そこから今までの半年間この世界に来る事はおろか何の音沙汰もないというのはおかしな話だ。
「……ちょっとあんた達。二人だけで何を盛り上がってるのさ」
と、そこで蚊帳の外にいたマチルダがやや語気を強めて口を開いた。
はたと気付いて柊は不思議そうに見つめてくる三人の女性を振り返った。
「……コイツは簡単な手紙をやり取りできる機能があってな。で、サイトの親戚から手紙が届いてた」
「――!」
するとティファニアは絶句して眼を見開き、マチルダは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
それ以上の追求がなくなってしまった二人を見やった後、柊は再びサイトに向き直る。
「な、なんでメールが来てるんだよ。ネットは通じないはずなのに……」
「……この平賀 十蔵って人は多分ウィザードだろうな。そっちの技術ならできるかもしれねえ」
「だからそのウィザードって……」
「メール、一緒に見てもいいか?」
「え、お、おう」
サイトの疑問に答えるのはとりあえず後回しにして、柊は彼を促した。
半分疑心暗鬼のままサイトはPCを操作してメールを開いた。
※ ※ ※
----
#navi(ルイズと夜闇の魔法使い)
#navi(ルイズと夜闇の魔法使い)
「なるほどなあ……」
手にしたシャベルの刃を蹴りつけながら、柊は嘆息交じりに言った。
柊達と同じくファー・ジ・アースから召喚された少年、平賀 才人との邂逅を果たした後、柊は何故かサイトと共に部屋の掃除をやらされていた。
部屋の中にこんもりと積もっている土山をシャベルで削り、床に空いた謎の大穴に放り込む。
それこそ魔法を使って片付けろという話なのだが、当のフーケ――本名はマチルダというらしい――は全く取り合ってくれなかった。
そんな訳で柊は押し付けられた土木作業をこなす傍ら、マチルダから一年前にサイトが召喚された話をかいつまんで聞いたのだった。
……ちなみにサイトは、出会った直後こそどうやってここに来たのかとか地球は今どんな感じとか根掘り葉掘り色々と聞いてきたのだが、
柊がサイトと同じように召喚されて帰る手段もない事を聞くとガッカリ感丸出しの表情を浮かべてしまった。
まあそれでも同じ地球の人間に会えたのが嬉しかったのか、どこか喜色を称えて柊との共同作業にあたっている。
「……しかし、俺等以外にも人間が召喚されてるのかよ」
話を聞き終えた後、柊は作業の手を止めて嘆息交じりにマチルダをねめつける。
すると彼女の隣にいる帽子を被った少女――ティファニアが申し訳なさそうに頭を垂れた。
「……ごめんなさい」
サイトを召喚した事に負い目を感じているのだろう、彼女は消え入りそうな声でそう漏らす。
一方のマチルダは逆に不服といわんばかりに顔を顰めてテーブルを軽く叩いて見せた。
「召喚したのはこっちが先だよ。それに、人間だの異世界だのっていうのが本来ありえない事なんだ、イレギュラーにまで責任とれるか」
「いや、別に責任とれとはいわねえけどさ」
ルイズの時もそうだが、別に彼女等が意図して柊達をこの世界に召喚した訳ではないのでその点に関して特に責めたりするつもりはない。
学院にいた時使い魔召喚についても調べてみたが、異世界は当然ながら同じ世界であっても『召喚』する手段はあれど『送還』する手段は皆無だった。
これはもう根本的に責任がどうのというものではないようだ。
だからマチルダの言の通り、イレギュラーと言われれば単にそれだけの話なのだが――
「イレギュラーねえ……」
柊は呟いてから少しの間黙考し、そしてティファニアへと眼を向ける。
「えぇと、ティファニアって言ったっけ。あんたがサイトを召喚したんだよな?」
「え、は、はい……」
人見知りが激しいのか、ティファニアは僅かに身を縮こまらせて頷いた。
まるで何かを隠すようにして帽子を目深に被りなおす彼女の仕草はさておき、柊は更に重ねて尋ねる。
「てことは、あんたもメイジなのか?」
「えっと、それは……」
するとティファニアは何故か困ったようにマチルダへと視線を向けた。
マチルダは小さく嘆息した後、ティファニアの代わりに柊に向かって言う。
「まあそんなモンだよ」
「微妙な言い回しだな……まあいいや」
いちいち追求するような事ではないし、そうすべき事は他にあるのだ。
「メイジなら魔法は使えるか? えーと……そう、コモン・マジックとかじゃなくて系統魔法の方だ。ドットでもラインでもなんでもいいけど」
「……なんでそんな事を聞くんだ」
そこまで聞けば流石に何か勘ぐっている事を察し、マチルダは声を潜めて柊を睨みつけた。
やや剣呑な雰囲気を纏った視線を受けながら、しかし柊は僅かな沈黙の後にこう返した。
「……ルイズと同じなんじゃないかと思ってよ」
ルイズとティファニア、二人して『本来ありえないほどの偶然』で柊達やサイトを召喚した、とするよりも、二人に共通して『本来ありえない事を起こす要因』があるとした方が納得がいくのだ。
これはルイズがフール=ムールから情報を得たときから考えていた事だった。
フール=ムールから教わったと思われる彼女の系統。
四系統ではありえない特別な系統――それが異世界からの召喚を可能にした要因ではないか。
「同じってどういう事さ。テファも魔法が使えないゼロって事かい?」
「魔法が使えないって訳じゃなくてな……」
ここで柊は言いよどんだ。
これはルイズのプライバシーにも関する事なので言ってしまっていいものか迷ったのだ。
しかしそこを伏せて婉曲的に聞いても埒が明かないだろう。
それにこの点は柊やエリス、サイトの今後にも関わる可能性もあるのだ。
「ルイズが魔法を使えないのはそれが自分の系統じゃねえからだ」
「はあ? メイジなら四つの系統のどれかに適正があって当たり前じゃないか。それができないから『ゼロのルイズ』なんだろう?」
「もう一個系統があるだろ。誰も使わねえ、誰も使った事がねえ系統がよ」
「……。ちょっと……」
それを聞いて流石にマチルダの顔色が変わった。
しかし柊は畳み掛けるように言った。
「ルイズは多分『虚無』の系統って奴なんだよ。確証はねえんだけど、少なくともここでは信頼できる筋の情報だ」
マチルダは絶句した風に柊を見つめた。
隣にいたティファニアはいまいち話の内容を理解できないのか、きょとんとした表情を浮かべていた。
サイトに至っては意味がわからないといった風情で――誰かに向かって声をかけた。
「な、なあ。キョムの系統ってなんだ?」
「始祖ブリミルが使っていたとされる系統。伝聞だけでしか伝わっていないから詳細は不明」
……と、そこでようやく。
柊は彼女の存在を思い出した。
「うわっ、タバサ!?」
そういえばマチルダに案内されて一緒に来ていたのだ。
普段から無口で存在感が皆無であり、ここに来てからも一言も口を開かず部屋の片隅で佇んでいただけだったので完全に忘れていた。
ルイズの系統の事だけでなく柊やサイトが異世界から召喚されたという事も全て話してしまっている。
「タ、タバサ。あ、あのな、これは色々と事情があって、だから頼むからこの事は内密に……」
泡を食って柊がタバサに向かって言うと、彼女はさほど表情を動かさないまま首を振った。
「誰にも言うつもりはない。その程度の事はわきまえているし……言っても誰も信じない」
「ま、まあそれはそうだけど……すまねえ、頼む」
頭を下げる柊にタバサは小さく頷くと、ほんの少し興味を帯びた視線で柊とサイトを交互に見つめる。
「……この人も貴方と同じ力を持っているの?」
「いや、サイトはイノセントだろうから持ってねえ……多分」
「力? イノセント? 何のことだ?」
不思議そうに首を傾げてサイトは柊を見やったが、彼は軽く手を振って「後でな」とだけ言い、改めてティファニアとマチルダに眼を向けた。
すると何とか内容を呑みこんだのか、ティファニアは僅かに視線を彷徨わせた後、おずおずと声を上げる。
「あ、あの。虚無って、あの虚無? 始祖ブリミルの系統っていう……」
「多分、その虚無」
ティファニアは頷いて返した柊をしばしぼんやりと見つめ、次いで乾いた笑いを漏らした。
「そ、そんなのある訳ないわ! わたしが虚無だなんて、そんな大それたこと……!」
同意を求めるようにティファニアは隣に座るマチルダに顔を向け、そして固まってしまった。
まっとうな人間ならまず一笑に伏すような話を聞いたマチルダは、しかし険しい表情のまま何事かを思案している。
「ね、姉さん……?」
不安になって恐る恐る声をかけるが、マチルダはそれには答えずサイトの方へと眼をやった。
「サイト。こないだ話したあんたのルーンの話、覚えてるかい?」
「ルーン? 確かガンダールヴっつって始祖ブリミルの使い魔――」
そこまで言いかけてサイトも流石に気付いたのか、思わず息を呑んだ。
そしてマチルダはようやくティファニアへとふりかえり、言う。
「あのルーンは契約したときに自然に刻まれたものだ。伝説の使い魔のルーンが刻まれたのなら、必然その主は伝説――虚無って事になる」
「ね、姉さんまで……!」
信頼しているマチルダにまでそう言われ、ティファニアは思わず腰を浮かせた。
彼女はその発端となった発言をした柊に眼をやると、食って掛かるように口を開く。
「だ、だからなんなんですか!? 私がその虚無だったら、どうだっていうんです!?」
食い入るように見つめてくるティファニアの視線を受けて、しかし柊は動じることもなく一つ頭をかいてから言った。
「この世界の奴等にとって虚無の系統がどうかってのはわからねえ。ただ、俺達とサイトにとっては結構重要なことかもしれねえんだ」
「え――」
「お、俺も?」
眼を丸めたサイトとティファニアに、柊は頷いた。
「俺達がハルケギニアに召喚されたのは虚無の力が関係してるのかもしれねえ。
だったら、俺達が元の世界に戻るのも、虚無の力を使えばできるんじゃねえかな」
「ま、まじで!?」
泡を食ってサイトが詰め寄り、そして期待交じりにティファニアに眼を向ける。
彼女は気圧されるように半歩後ずさると、一転して怖気づいたような表情を見せて呟いた。
「そ、そんなのできない……私、そんなこと、知りません……」
「うん、それはわかってる。できるようになるかもしれねえって話だよ」
そんなティファニアを落ち着かせるように柊は言った。
ティファニアという少女が知っていて隠すような人間ではない事はなんとなくわかる。
それで彼女は幾分落ち着きを取り戻したのか、静かに椅子に腰を下ろした。
そして彼女は一度サイトに眼をやってから、柊に問いかける。
「本当に、私が貴方達を……サイトを元の世界に戻せるようになるんですか?」
投げかけられた問いに柊は僅かに眉を潜めて答える。
「推測だから確実にそうなのかはわかんねえ。そもそも虚無の魔法ってのがどういうもんで、どうすれば使えるようになるかもわかんねえしな……」
実際学院でルイズがあれこれと調べていたが、てがかりは掴めていないようだった。
柊を見ていたティファニアは隣のマチルダに目をやった。
彼女は何も言いはしなかったが、どこか諦めたかのように嘆息し、瞑目して小さく頷く。
ティファニアは柊に向き直った。
「あ、あの……私、魔法が使えるんです」
「魔法? コモン・マジック?」
「そうじゃなくて、別の魔法……姉さんによると、系統魔法ではないそうです。ええと……」
上手く説明する事ができないのか、ティファニアはそこで言葉を詰まらせてしまった。
すると今まで黙っていたマチルダが引き継ぐようにして説明し始める。
昔、ティファニアはとある縁で貴族の家に住んでいたらしい。
その家には王家に伝わるというルビーの指輪と、同じく王家に伝わる秘宝のオルゴールがあった。
そのオルゴールは音が鳴らない不良品と思われていたのだが、ティファニアが王家のルビーを嵌めてオルゴールの蓋を開くと歌とルーンが聞こえてきたそうだ。
そしてそのルーンこそが系統魔法では類を見ない効果のものであったらしい。
「確か記憶を消す……んだったっけ?」
確認するようにマチルダが目を向けると、ティファニアは静かに首肯する。
「水の系統じゃできないのか?」
「できない。洗脳や暗示で忘れさせたり方向性をずらしたりはできるが、完全に『消す』ことはできない」
それをやるにもスクエアクラスの力と水の秘薬があってようやくだからね、とマチルダは首を振った。
「王家の秘宝と……王家のルビー?」
柊は眉を潜め、反射的に懐に手を伸ばした。
厳密にはそこにある訳ではないのだが、月衣の中にはアンリエッタから預かった『水のルビー』がある。
そこでようやく柊は合点がいき、大きく溜息を吐き出した。
「どうした?」
「いや、こっちの話だ」
――王家のルビーと王家の秘宝によって虚無の魔法が使えるようになる。
おそらくルイズはこの話をフール=ムールから聞いていたのだろう。
だからアンリエッタがルビーを持ち出した辺りから同行することに意固地になっていたのだ。
(あいつ……)
柊は心中で呻いてしまった。
そういう事情があるのなら、ちゃんと言ってくれさえすればあんな風に置いていく事はしなかった。
要するに、そこまで打ち明けてくれるほど信用されていなかったということなのだろう。
「そ、それじゃその秘宝とルビーってのがあれば元の世界に戻れるようになるのか?」
具体性を帯びてきた希望に縋るようにしてサイトが声を上げると、柊は軽く肩を竦めながら返した。
「まだ確実って訳じゃねえけどな。でも、闇雲に方法を探し回るよりはずっと可能性はあると思うぜ」
「でも帰れるかもしれないんだろ? うおお、何だよおい! すげえ道が開けてきた感じだぞ!?」
まあ道が開けてきたという点に関してはサイトの言う通りではある。
だが、立ち塞がる関門がない訳ではない。
それを示すようにマチルダが軽く鼻で笑った。
「簡単に言うけどね、王家のルビーや秘宝をどうやって手に入れるっていうのさ。アレは本来王宮の宝物庫に収められてるような代物なんだよ?」
「うっ……えーと、それじゃ忍び込んで盗み出……はい、なんでもありません。すいません」
言いかけたサイトがマチルダの物凄い睨みを受けて黙り込んだ。
それを嘆息して見やりながら、柊は軽く頭をかいた。
「あー、その辺の事はこっちでどうにかする」
今回の任務を無事果たすことができたら、報酬代わりという訳ではないがアンリエッタにそれらを見せてもらうくらいはできるだろう。
柊は怪訝な表情で見つめてくるマチルダから逃げるようにしてサイトに顔を向けた。
「だから、サイトはここで待っててくれ。進展があったら連絡入れっから」
「ホ、ホントか? 頼んだぞ、マジで」
「ああ。手紙かなんか送る……って、手紙でいいのか? 届くのか、ここ?」
電話などという文明の利器がある訳でもなく、手紙を送るにしても現代日本の郵便方法しか知らない柊は住所もないだろうこの場所にちゃんと手紙が届くかいまいちわからなかった。
不安になってマチルダを見やると、彼女は呆れたように溜息を吐き出した。
「サウスゴータ経由で普通に届くよ。……っていうか、あのマジックアイテムを使えばいいんじゃないのかい?」
言って彼女は部屋の脇を指差した。
追って視線をやると、棚の上には何故かノートPCが鎮座している。
開かれたディスプレイからはスクリーンセイバーらしき画像が動き回っていた。
「……?」
柊は思わず首を傾げてしまった。
机の上ならわかるが、何故棚の上。
「ネットに繋がらねえから使い道がなくて……インテリアに……」
「……あぁ、そう」
サイトがさめざめと漏らした台詞に柊はぼんやりと返した。
まあ確かにこの世界の技術水準からすればノートPCの造形もディスプレイに映る画像も芸術品と言っていいレベルのものだろう。
「あれ、あんたが持ってるマジックアイテムと同じような奴なんだろう? あれで連絡を取れるんじゃないのかい?」
確かにサイズはともかくとして全体的な造形自体は似通っている。
マチルダが柊に地球の事を尋ねたのも0-Phoneを見てこのPCを思い出したからなのだろう。
だが――
「俺とエリスの持ってる奴は特別製だから、これとは多分繋がらねえな……」
柊達がハルケギニアで連絡を取り合う事ができるのは0-Phoneが魔法技術を組み込んで作られたものだからだ。
もちろん通常の携帯電話としても使用できるのだが、通常回線が存在しないハルケギニアでは使用する事はできない。
「…………?」
と、そこで柊はある事に気付いて眉を潜めた。
色鮮やかなディスプレイを凝視したまま、サイトに声をかける。
「サイト、お前確か一年前にハルケギニアに来たんだよな?」
「あ? 正確な所はよくわかんねえけど、多分大体それくらい……」
「……このPCはそれからずっと立ち上げっぱなしなのか?」
「こっち来て一ヶ月くらいは使う時だけ立ち上げてたけど、この村のガキ共が珍しがって見せてくれっていうから後はそのまんま――っ!?」
柊が言わんとしている事にサイトも気付き、表情を凍らせた。
二人が何に驚愕しているのかさっぱりわからない回りの三人は一様に首を傾げるだけだったが、当の柊とサイトは慌てて棚の上のPCを取り寄せて机の上に移動させる。
「なんでまだ動いてんだよ!?」
「し、知らねえよ!」
仮にこの世界に来る直前に充電していたとしても、約一年間起動させっぱなしでバッテリーが持つわけがない。
そして言うまでもなく、ハルケギニアではバッテリーの充電などできるはずもなく。
つまり、目の前のPCが今だに動作しているのは本来ありえないことなのだ。
「なんだこのPC、普通の奴じゃねえのか? もしかしてお前ウィザードだったりすんのか?」
「普通にアキバで買った奴だよ! 調子悪かったんで叔父さんに修理頼んで、直った奴を持って帰る時にこの世界に……ってか、うぃざーどって何だよ!」
周囲の怪訝そうな視線をものともせず、二人はPCをあちこち観察する。
が、一見してもPCに何か特別なものがあるという訳ではない。
分解して中身を見たところでその手の知識がほぼ皆無な柊では判別することなどできないし、何も知らないだろうサイトも論外だ。
「くそ、わかんねえ……いや」
仮にこのPCが"そう"であるのなら、確かめる方法がある。
柊は懐から0-Phoneを取り出した。
「!? うわああぁああん!! けえたいでんわあぁああああ!!!」
「おちつけっ!! メール送ってみっから、メアド!」
狂喜の表情を浮かべて被り付いて来るサイトを押しのけながら柊は適当にメールを打つ。
慌ててサイトはPCを操作しメールソフトを立ち上げるが、
「おああぁ!?」
いきなり素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「今度は何だよっ!?」
耳元でいきなり叫ばれて柊は思い切り眉を顰めた。
サイトは震える手でディスプレイを指差し、再び叫ぶ。
「め、メール!」
「いや、だからメール送るからメアドを――」
「違う! メールが来てる!!」
「はぁ!?」
思わず柊はサイトを押しのけてディスプレイに顔を寄せた。
まだサイトのメールアドレスを聞いてないので柊のメールは送信していない。
だが、開かれたエディタには確かに新着のメールが届いていた。
それも複数。
全てがほぼ同時に送られているようで、一番上のものを除いて全てに添付ファイル付だ。
表題は『才人くんへ』。
送信者は――平賀 十蔵。
「……叔父さん?」
「届いたのは……半年前? 半年前だと?」
つまりこのメールはサイトがハルケギニアにいる間に届いたという事なのだ。
世界を越えて連絡を取る手段を見つけていたということなのだろうか。
だがそれでは、そこから今までの半年間この世界に来る事はおろか何の音沙汰もないというのはおかしな話だ。
「……ちょっとあんた達。二人だけで何を盛り上がってるのさ」
と、そこで蚊帳の外にいたマチルダがやや語気を強めて口を開いた。
はたと気付いて柊は不思議そうに見つめてくる三人の女性を振り返った。
「……コイツは簡単な手紙をやり取りできる機能があってな。で、サイトの親戚から手紙が届いてた」
「――!」
するとティファニアは絶句して眼を見開き、マチルダは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
それ以上の追求がなくなってしまった二人を見やった後、柊は再びサイトに向き直る。
「な、なんでメールが来てるんだよ。ネットは通じないはずなのに……」
「……この平賀 十蔵って人は多分ウィザードだろうな。そっちの技術ならできるかもしれねえ」
「だからそのウィザードって……」
「メール、一緒に見てもいいか?」
「え、お、おう」
サイトの疑問に答えるのはとりあえず後回しにして、柊は彼を促した。
半分疑心暗鬼のままサイトはPCを操作してメールを開いた。
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#navi(ルイズと夜闇の魔法使い)
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