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「ゼロの賢王 第03話」(2010/11/27 (土) 01:28:01) の最新版変更点
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#navi(ゼロの賢王)
翌日の朝、ポロンの目が覚めると何時の間にか体に毛布が掛かっていることに気が付いた。
どうやらポロンが寝ている間にルイズが掛けてくれたものらしい。
(ったく、本当に素直じゃねえんだからよ)
心の中ではそう言いながらもポロンの顔は自然とはにかんでいた。
ポロンはよっこらせと身を起こすと、ベッドの上のルイズの顔を覗き込んでみた。
ルイズはまだくーかーと眠っている。
(幸せそうな顔して寝ていやがるぜ・・・ん?)
ふと床の方を見ると積まれた洗濯物が目に入った。
(そういやあ、洗濯しといてくれって頼まれてたっけなあ。やれやれ・・・)
ポロンは洗濯物を籠の中に入れると、それを抱えてなるべく音を立てない様に部屋を出た。
そのまま暫く歩いたところで、自分が洗い場の場所を知らないことに気が付いて立ち止まる。
(・・・とと、そういや何処に何があるか知らなかったな。ドジったね、俺としたことが。
昨日の内にルイズに聞いときゃ良かったぜ)
かと言って、今から部屋へ戻ってルイズに聞くのも躊躇われる。
あれだけ気持ち良さそうに寝ているのだ。
こんなことで起こせば、昨日の癇癪玉が再び爆発しかねない。
(さて、どうしたものか)
その時、ポロンの体に誰かがぶつかって来た。
「きゃあ!」
「おっと!」
気が付くと、メイド姿の少女が倒れていた。
辺りに散乱した洗濯物を見る限り、どうやら大量の洗濯物を抱えていて前が見えなかったらしい。
ポロンはルイズの洗濯物が入った籠を床に置くと、少女を助け起こす。
「すまねえ、大丈夫か?」
「あ、は、ハイ!」
少女はポロンの姿を見るなり、急に畏まって頭を下げた。
「も、も、申し訳ございません!私が注意していなかったばかりにこんな・・・」
「んあ?いや、俺が道の真ん中でボーっと突っ立ってたのが悪かったんだ。俺こそすまねえな」
「い、いえ!悪いのは私なんです!わ、私ったら貴族の方に何てことを!!」
「ん、貴族?誰が?」
「え?いや、え~と・・・え?」
少女は困った様な顔をしている。
ポロンはそんな彼女の表情を見て、ピーンと来た。
(・・・ははあ、この子は俺のことを貴族と勘違いしてビビっているんだな)
それならば誤解を解いておこうと思い、ポロンは辺りに散乱した洗濯物を拾い始めた。
少女はポロンの突然の行動に思わず慌てる。
「あ、そんな!貴族の方のお手を煩わせるなんて・・・」
「いいっていいって」
ポロンはそう言うと、テキパキと洗濯物を拾い集めている。
最後の一枚を拾い終えると、それらをまとめて少女に渡した。
「ほら、悪かったな。」
「本当に申し訳ございませんでした・・・。まさか貴族の方にこんな・・・」
「どうやら勘違いしているようだから言っておくけど、俺は貴族じゃ無い。だからそんな頭下げなくて大丈夫だぞ」
「ええ!?そうなんですか!?」
少女は思わず目を丸くする。
「格好や雰囲気から、てっきりこの学院に新しく来られた先生かと思っていました」
ポロンは今、聖なる衣を着ている。
とは言え、長旅の影響で聖なる衣はボロボロになっており、見た目的にはみすぼらしく見えてしまう。
しかし、目の前の平民と思われる少女にとっては、そんなポロンの格好も他の貴族と変わらなく見えたのであった。
無論、年季を重ねたポロンの賢王としての風格の様なものがそう見せていたという部分も多少はあるのだろうが。
(そういや、服なんか着替える暇無かったもんなあ・・・。ま、この先着替えられるかも分からんがね)
「あ、もしかして!」
「ん?」
少女は何かを思い出したかの様にポンと手を叩いた。
「あの・・・間違えていたら大変申し訳ないのですが、貴方様はその、ミス・ヴァリエールの・・・?」
「おお、よく分かったな」
「やっぱり!学院中の噂でしたもの!『ミス・ヴァリエールが平民を使い魔にした』と。・・・あ!も、申し訳ありません!」
「あー、いいって別に。まあ、事実だしな」
(学院中の噂、か。まあ十中八九いい噂では無いんだろうが・・・な)
ポロンは昨日のことを思い出す。
ルイズに呼び出されて使い魔の契約を交わしたあの時、
ルイズの学友と思われる少年少女たちは口々に彼女を『ゼロのルイズ』と揶揄し、罵倒していた。
言われた本人は目に涙を溜め、その拳を微かに震わせながらも必死に耐え、気丈に振舞っていた。
ポロンは内心舌打ちする。
こういったことは、どの世界でも変わらない。
ふと、ポロンは先程のルイズの幸せそうな寝顔を思い出した。
とても昨日、あれだけのことを言われた風には見えない。
(『ゼロのルイズ』・・・か)
「ところで、こんな道の真ん中で何をしていらしたんですか?」
ポロンが思案に暮れていると、少女が訊ねてきた。
「ん?ああ、うちのご主人様に洗濯を頼まれてな。でも洗い場の場所が分からなくて困ってたんだよ」
「まあ、そうでしたか。では私がご案内いたします。え~と」
「ああ、俺はポロンって言うんだ」
「ポロン様、ですか。私はこの学院で下働きをしておりますシエスタと申します。今後ともよろしくお願いいたします」
シエスタはそう言うと丁寧に頭を下げた。
「そうか。じゃあシエスタ、洗い場まで案内頼むわ」
「はい、分かりました」
ポロンはシエスタに連れられて洗い場へに到着した。
洗い場へ着くなり、ポロンは慣れた手付きで洗濯を開始する。
その様子を見て、思わずシエスタはポロンに声を掛けた。
「ポロン様はお洗濯がお上手なんですね」
「ん?ああ、たまにサクヤの代わりにやってたからなー」
「奥様ですか?」
「ああ、最高の女房だな」
「ポロン様がそこまでおっしゃるならば、きっと素晴らしい方なんでしょうね」
「・・・何かそうやってポロン様ポロン様って言われると、昔のサクヤを思い出すなあ」
(あいつも最初の頃は俺のことをポロン様、ポロン様って言ってたっけか)
ポロンは初めてサクヤと出逢った時のことを思い出した。
ふと、シエスタの顔を見る。
(シエスタ・・・だっけ?何となくサクヤに似ている気がするな。髪や瞳の色も同じだし)
ポロンはシエスタの純朴そうな雰囲気や黒曜石の様な髪と瞳を見て、サクヤを連想していた。
シエスタはポロンの視線に気が付くと、頬を赤く染め、思わず顔を背けてしまう。
「あ、すまねえ。こんなオッサンに見つめられたら、あまりいい気分はしねえよな」
「い、いえ!決して嫌なワケじゃ・・・!!」
ポロンがそう言うと、シエスタは慌てて否定する。
「は、早くお洗濯を済ませましょう!」
「あ、ああ、そうだな」
その後、無言で2人は洗濯を終わらせた。
「ふう、終わった。いやあ、すまなかったな」
「いえ、困った時はお互い様ですもの」
「じゃあ、俺はこれで」
「ハイ、ポロン様」
洗った洗濯物を干し終え、ポロンは洗い場を後にした。
遠目に洗濯をしているシエスタを見る。
大量の洗濯物をテキパキと洗い、干していく様もサクヤに似ている様な気がした。
(・・・とと、俺としたことが。軽いホームシックにでもなってんのか?)
ポロンは自嘲気味に笑うと、来た道を戻りルイズの部屋へと向かった。
部屋へ戻ると、まだルイズはくーかーと眠っている。
そのあまりに幸せそうな表情にこのまま寝かせておきたいところだったが、
残念ながら昨晩の内に「朝になったら起こせ」と言われている。
ポロンはルイズの体を揺すった。
「おい、起きろ」
「むにゃむにゃ・・・」
「起きろって!」
「むにゃむにゃ・・・ちい姉さま大好き・・・」
「こいつぁ手強いな・・・」
ザメハでも使えたら楽なんだが、とポロンは思ったが、取り敢えず布団を引っぺがす。
するとルイズが「う~ん」と唸った後、ゆっくりと身を起こし始めた。
「ん~・・・何よぉ・・・」
「お目覚めですか、ご主人様?」
「・・・キャッ!だ、誰!?」
「寝惚けてやがるな・・・」
「ん・・・?ああ・・・ポロンじゃないの」
ルイズは「ふぁ~」と大あくびした後、ベッドから起き上がった。
「ん!」
「ん!って何だよ?」
「着替え」
「ああ?着替えだあ?お前、いくら何でも1人で着替えられない様なガ・・・年齢じゃないだろ?」
「貴族は自分で着替えなんてしないものよ」
「へーへー、そうですか。ったく・・・」
ポロンは不満を言いながらもルイズの寝巻きを脱がしに掛かる。
こういうことは自分の子供たちが小さい時にはよくやっていた為、ポロンは意外と手馴れていた。
流石に下着はルイズ自身に脱着させたが、その後ブラウスとスカートを着させて着替えは完了した。
ポロンの一連の作業を見てルイズはフン、と鼻を鳴らす。
「まずまずね。取り敢えず合格点はあげとくわ」
「それはどうも、お褒めに与り光栄です」
「フン、じゃあ食堂へ行くわよ」
そう言ってルイズがドアを開けると、そこには1人の少女が立っていた。
その少女は浅黒い肌に赤い髪、そして思わず見てしまいそうになるボディスタイルが特徴的であった。
顔も体のプロポーションに負けず整っており、可愛いというより美しいという印象を与える。
少女はニヤリと笑ってルイズに話掛けた。
「おはようルイズ」
「・・・何か用?」
ルイズは目の前の少女を見るなり、急に不機嫌になる。
そんなルイズの様子を楽しげに見ながら少女は会話を続けた。
「あら、つれないお返事ね」
「アンタと交わす言葉なんてないわ。行くわよ、ポロン!」
少女はポロンの顔をチラっと見る。
「あなたの使い魔って、それ?」
女性はポロンを指差して、まるで馬鹿にしたかの様な口調でルイズに問い掛けた。
「・・・そうよ」
「アッハッハッハ!本当に人間なのね!凄いじゃない!『サモン・サーヴァント』で平民を召喚しちゃうなんて・・・、
本当にあなたらしいわ。流石は『ゼロのルイズ』ね!アッハッハッハ」
ルイズは目の前の少女をキッと睨み付ける。
ポロンもあまりいい気分では無かったが、取り敢えず平静を装っていた。
少女は一通り笑い終えると、再びポロンの顔を見た。
「アタシも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発で呪文成功したの。
どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。ねえ、フレイム?」
少女がそう声を掛けると、少女の後ろから大きな赤いトカゲの様な生き物が現れた。
尻尾の先に火を灯らせている。
「この子は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?好事家に見せたら値段なんかつかないわ」
「うるさ!「そっかー、そんなこと言ってたのかー。へー、見かけによらないんだなー」
何時の間にかポロンがフレイムと呼ばれたサラマンダーの頭を撫でていた。
フレイムも気持ち良さそうにポロンへ頭を摺り寄せる。
少女はその様子を見て、首を傾げた。
「あら?この子が私以外に懐くなんて」
「ちょっとポロン!何してんのよ!?」
「何って、こいつから話を聞いてたんだよ」
「話、ですって~?」
ルイズが訝しげにポロンを睨め付ける。
「ああ、俺はモンスター・・・いや、こういう生き物と心を通わせることが出来るんだ」
「何よそれ、嘘臭いわね!」
「いや、こいつの話によると、この子は昨日の夜からお前のことがしんぱ・・・」
「あー!!あー!!あー!!」
少女は突如大声を上げてポロンの言葉を遮ると、大急ぎでフレイムを連れてそそくさとその場を去って行った。
その様子をポカンとした顔でルイズは見ていた。
「何なの・・・?」
「さてね」
ポロンはニヤニヤしながら去って行く少女の背中を見つめた。
暫くした後、ルイズは再び不機嫌な面持ちで先程の少女のことを話し始めた。
少女の名は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプストー。
彼女の家柄とルイズの家柄には浅からぬ因縁があり、当人同士もお互いを敵視しているとルイズはポロンに語った。
その話を聞き、ポロンはかつてアルスに聞いた話を思い出していた。
勇者アルスと剣王キラは今でこそ仲間であり、無二の親友であるが、
彼らが幼い頃はお互い口喧嘩の絶えることが無かったという。
だが、いざという時は助け合い、そして認め合い、友情を育んで来て今に繋がっているんだ。
と、アルスはポロンに語ってくれた。
さっきのルイズとキュルケはあの2人の関係に似ているな、とポロンは1人微笑んでいた。
フレイムから聞いた話では、キュルケはルイズが今回のことで落ち込んでいないかとても心配だったという。
(あの子・・・キュルケも悪い奴じゃないんだな。ただ不器用っつーか、その、素直じゃねーんだ)
ルイズの周りにも、ルイズをちゃんと思ってくれる人がいるんだ。ということがポロンを安心させた。
「ほら、ポロン。早く行かないと朝食抜くわよ?」
「おっと、それは勘弁してくれよな」
2人は食堂へと向かって行った。
#navi(ゼロの賢王)
#navi(ゼロの賢王)
翌日の朝、ポロンの目が覚めると何時の間にか体に毛布が掛かっていることに気が付いた。
どうやらポロンが寝ている間にルイズが掛けてくれたものらしい。
(ったく、本当に素直じゃねえんだからよ)
心の中ではそう言いながらもポロンの顔は自然とはにかんでいた。
ポロンはよっこらせと身を起こすと、ベッドの上のルイズの顔を覗き込んでみた。
ルイズはまだくーかーと眠っている。
(幸せそうな顔して寝ていやがるぜ・・・ん?)
ふと床の方を見ると積まれた洗濯物が目に入った。
(そういやあ、洗濯しといてくれって頼まれてたっけなあ。やれやれ・・・)
ポロンは洗濯物を籠の中に入れると、それを抱えてなるべく音を立てない様に部屋を出た。
そのまま暫く歩いたところで、自分が洗い場の場所を知らないことに気が付いて立ち止まる。
(・・・とと、そういや何処に何があるか知らなかったな。ドジったね、俺としたことが。昨日の内にルイズに聞いときゃ良かったぜ)
かと言って、今から部屋へ戻ってルイズに聞くのも躊躇われる。
あれだけ気持ち良さそうに寝ているのだ。
こんなことで起こせば、昨日の癇癪玉が再び爆発しかねない。
(さて、どうしたものか)
その時、ポロンの体に誰かがぶつかって来た。
「きゃあ!」
「おっと!」
気が付くと、メイド姿の少女が倒れていた。
辺りに散乱した洗濯物を見る限り、どうやら大量の洗濯物を抱えていて前が見えなかったらしい。
ポロンはルイズの洗濯物が入った籠を床に置くと、少女を助け起こす。
「すまねえ、大丈夫か?」
「あ、は、ハイ!」
少女はポロンの姿を見るなり、急に畏まって頭を下げた。
「も、も、申し訳ございません!私が注意していなかったばかりにこんな・・・」
「んあ?いや、俺が道の真ん中でボーっと突っ立ってたのが悪かったんだ。俺こそすまねえな」
「い、いえ!悪いのは私なんです!わ、私ったら貴族の方に何てことを!!」
「ん、貴族?誰が?」
「え?いや、え~と・・・え?」
少女は困った様な顔をしている。
ポロンはそんな彼女の表情を見て、ピーンと来た。
(・・・ははあ、この子は俺のことを貴族と勘違いしてビビっているんだな)
それならば誤解を解いておこうと思い、ポロンは辺りに散乱した洗濯物を拾い始めた。
少女はポロンの突然の行動に思わず慌てる。
「あ、そんな!貴族の方のお手を煩わせるなんて・・・」
「いいっていいって」
ポロンはそう言うと、テキパキと洗濯物を拾い集めている。
最後の一枚を拾い終えると、それらをまとめて少女に渡した。
「ほら、悪かったな。」
「本当に申し訳ございませんでした・・・。まさか貴族の方にこんな・・・」
「何か勘違いしているようだから言っておくけど、俺は貴族じゃ無い。だからそんな頭下げなくて大丈夫だぞ」
「ええ!?そうなんですか!?」
少女は思わず目を丸くする。
「格好や雰囲気から、てっきりこの学院に新しく来られた先生かと思っていました」
ポロンは今、聖なる衣を着ている。
とは言え、長旅の影響で聖なる衣はボロボロになっており、見た目的にはみすぼらしく見えてしまう。
しかし、目の前の平民と思われる少女にとっては、そんなポロンの格好も他の貴族と変わらなく見えたのであった。
無論、年季を重ねたポロンの賢王としての風格の様なものがそう見せていたという部分も多少はあるのだろうが。
(そういや、服なんか着替える暇無かったもんなあ・・・。ま、この先着替えられるかも分からんがね)
「あ、もしかして!」
「ん?」
少女は何かを思い出したかの様にポンと手を叩いた。
「あの・・・間違えていたら大変申し訳ないのですが、貴方様はその、ミス・ヴァリエールの・・・?」
「おお、よく分かったな」
「やっぱり!学院中の噂でしたもの!『ミス・ヴァリエールが平民を使い魔にした』と。・・・あ!も、申し訳ございません!」
「あー、いいって別に。まあ、事実だしな」
(学院中の噂、か。まあ十中八九いい噂では無いんだろうが・・・な)
ポロンは昨日のことを思い出す。
ルイズに呼び出されて使い魔の契約を交わしたあの時、
ルイズの学友と思われる少年少女たちは口々に彼女を『ゼロのルイズ』と揶揄し、罵倒していた。
言われた本人は目に涙を溜め、その拳を微かに震わせながらも必死に耐え、気丈に振舞っていた。
ポロンは内心舌打ちする。
こういったことは、どの世界でも変わらない。
ふと、ポロンは先程のルイズの幸せそうな寝顔を思い出した。
とても昨日、あれだけのことを言われた風には見えない。
(『ゼロのルイズ』・・・か)
「ところで、こんな道の真ん中で何をしていらしたんですか?」
ポロンが思案に暮れていると、少女が訊ねてきた。
「ん?ああ、うちのご主人様に洗濯を頼まれてな。でも洗い場の場所が分からなくて困ってたんだよ」
「まあ、そうでしたか。では私がご案内いたします。え~と」
「ああ、俺はポロンって言うんだ」
「ポロン様、ですか。私はこの学院で下働きをしておりますシエスタと申します。今後ともよろしくお願いいたします」
シエスタはそう言うと丁寧に頭を下げた。
「そうか。じゃあシエスタ、洗い場まで案内頼むわ」
「はい、分かりました」
ポロンはシエスタに連れられて洗い場へ到着した。
洗い場へ着くなり、ポロンは慣れた手付きで洗濯を開始する。
その様子を見て、思わずシエスタはポロンに声を掛けた。
「ポロン様はお洗濯がお上手なんですね」
「ん?ああ、たまにサクヤの代わりにやってたからなー」
「奥様ですか?」
「ああ、最高の女房だな」
「ポロン様がそこまでおっしゃるならば、きっと素晴らしい方なんでしょうね」
「・・・何かそうやってポロン様ポロン様って言われると、昔のサクヤを思い出すなあ」
(あいつも最初の頃は俺のことをポロン様、ポロン様って言ってたっけか)
ポロンは初めてサクヤと出逢った時のことを思い出した。
ふと、シエスタの顔を見る。
(シエスタ・・・だっけ?何となくサクヤに似ている気がするな。髪や瞳の色も同じだし)
ポロンはシエスタの純朴そうな雰囲気や黒曜石の様な髪と瞳を見て、サクヤを連想していた。
シエスタはポロンの視線に気が付くと、頬を赤く染め、思わず顔を背けてしまう。
「あ、すまねえ。こんなオッサンに見つめられたら、あまりいい気分はしねえよな」
「い、いえ!決して嫌なワケじゃ・・・!!」
ポロンがそう言うと、シエスタは慌てて否定する。
「は、早くお洗濯を済ませましょう!」
「あ、ああ、そうだな」
その後、無言で2人は洗濯を終わらせた。
「ふう、終わった。いやあ、すまなかったな」
「いえ、困った時はお互い様ですもの」
「じゃあ、俺はこれで」
「ハイ、ポロン様」
洗った洗濯物を干し終え、ポロンは洗い場を後にした。
遠目に洗濯をしているシエスタを見る。
大量の洗濯物をテキパキと洗い、干していく様もサクヤに似ている様な気がした。
(・・・とと、俺としたことが。軽いホームシックにでもなってんのか?)
ポロンは自嘲気味に笑うと、来た道を戻りルイズの部屋へと向かった。
部屋へ戻ると、まだルイズはくーかーと眠っている。
そのあまりに幸せそうな表情にこのまま寝かせておきたいところだったが、
残念ながら昨晩の内に「朝になったら起こせ」と言われている。
ポロンはルイズの体を揺すった。
「おい、起きろ」
「むにゃむにゃ・・・」
「起きろって!」
「むにゃむにゃ・・・ちい姉さま大好き・・・」
「こいつぁ手強いな・・・」
ザメハでも使えたら楽なんだが、とポロンは思ったが、取り敢えず布団を引っぺがす。
するとルイズが「う~ん」と唸った後、ゆっくりと身を起こし始めた。
「ん~・・・何よぉ・・・」
「お目覚めですか、ご主人様?」
「・・・キャッ!だ、誰!?」
「寝惚けてやがるな・・・」
「ん・・・?ああ・・・ポロンじゃないの」
ルイズは「ふぁ~」と大あくびした後、ベッドから起き上がった。
「ん!」
「ん!って何だよ?」
「着替え」
「ああ?着替えだあ?お前、いくら何でも1人で着替えられない様なガ・・・年齢じゃないだろ?」
「貴族は自分で着替えなんてしないものよ」
「へーへー、そうですか。ったく・・・」
ポロンは不満を言いながらもルイズの寝巻きを脱がしに掛かる。
こういうことは自分の子供たちが小さい時にはよくやっていた為、ポロンは意外と手馴れていた。
流石に下着はルイズ自身に脱着させたが、その後ブラウスとスカートを着させて着替えは完了した。
ポロンの一連の作業を見てルイズはフン、と鼻を鳴らす。
「まずまずね。取り敢えず合格点はあげとくわ」
「それはどうも、お褒めに与り光栄です」
「フン、じゃあ食堂へ行くわよ」
そう言ってルイズがドアを開けると、そこには1人の少女が立っていた。
その少女は浅黒い肌に赤い髪、そして思わず見てしまいそうになるボディスタイルが特徴的であった。
顔も体のプロポーションに負けず整っており、可愛いというより美しいという印象を与える。
少女はニヤリと笑ってルイズに話掛けた。
「おはようルイズ」
「・・・何か用?」
ルイズは目の前の少女を見るなり、急に不機嫌になる。
そんなルイズの様子を楽しげに見ながら少女は会話を続けた。
「あら、つれないお返事ね」
「アンタと交わす言葉なんてないわ。行くわよ、ポロン!」
少女はポロンの顔をチラっと見る。
「あなたの使い魔って、それ?」
女性はポロンを指差して、まるで馬鹿にしたかの様な口調でルイズに問い掛けた。
「・・・そうよ」
「アッハッハッハ!本当に人間なのね!凄いじゃない!『サモン・サーヴァント』で平民を召喚しちゃうなんて・・・、本当にあなたらしいわ。
流石は『ゼロのルイズ』ね!アッハッハッハ」
ルイズは目の前の少女をキッと睨み付ける。
ポロンもあまりいい気分では無かったが、取り敢えず平静を装っていた。
少女は一通り笑い終えると、再びポロンの顔を見た。
「アタシも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発で成功したの。
どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。ねえ、フレイム?」
少女がそう声を掛けると、少女の後ろから大きな赤いトカゲの様な生き物が現れた。
尻尾の先に火を灯らせている。
「この子は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?好事家に見せたら値段なんかつかないわ」
「うるさ・・・」
「そっかー、そんなこと言ってたのかー。へー、見かけによらないんだなー」
何時の間にかポロンがフレイムと呼ばれたサラマンダーの頭を撫でていた。
フレイムも気持ち良さそうにポロンへ頭を摺り寄せる。
少女はその様子を見て、首を傾げた。
「あら?この子が私以外に懐くなんて・・・」
「ちょっとポロン!何してんのよ!?」
「何って、こいつから話を聞いてたんだよ」
「話、ですって~?」
ルイズが訝しげにポロンを睨め付ける。
「ああ、俺はモンスター・・・いや、こういう生き物と心を通わせることが出来るんだ」
「何よそれ、嘘臭いわね!」
「いや、こいつの話によると、この子は昨日の夜からお前のことがしんぱ・・・」
「あー!!あー!!あー!!」
少女は突如大声を上げてポロンの言葉を遮ると、大急ぎでフレイムを連れてそそくさとその場を去って行った。
その様子をポカンとした顔でルイズは見ていた。
「何なの・・・?」
「さてね」
ポロンはニヤニヤしながら去って行く少女の背中を見つめた。
暫くした後、ルイズは再び不機嫌な面持ちで先程の少女のことを話し始めた。
少女の名は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプストー。
彼女の家柄とルイズの家柄には浅からぬ因縁があり、当人同士もお互いを敵視しているとルイズはポロンに語った。
その話を聞き、ポロンはかつてアルスに聞いた話を思い出していた。
勇者アルスと剣王キラは今でこそ仲間であり、無二の親友であるが、
彼らが幼い頃はお互い口喧嘩の絶えることが無かったという。
だが、いざという時は助け合い、そして認め合い、友情を育んで来て今に繋がっているんだ。
と、アルスはポロンに語ってくれた。
さっきのルイズとキュルケはあの2人の関係に似ているな、とポロンは1人微笑んでいた。
フレイムから聞いた話では、キュルケはルイズが今回のことで落ち込んでいないかとても心配だったという。
(あの子・・・キュルケも悪い奴じゃないんだな。ただ不器用っつーか、その、素直じゃねーんだ)
ルイズの周りにも、ルイズをちゃんと思ってくれる人がいるんだ。ということがポロンを安心させた。
「ほら、ポロン。早く行かないと朝食抜くわよ?」
「おっと、それは勘弁してくれよな」
2人は食堂へと向かって行った。
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