「秋山異世界物語 天気晴朗ナレドモ風強シ(仮)-05」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「秋山異世界物語 天気晴朗ナレドモ風強シ(仮)-05」(2009/10/02 (金) 13:35:54) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#navi(秋山異世界物語 天気晴朗ナレドモ風強シ(仮))
イーグル号が、トリステインに着いた。
まず、アンリエッタは秋山とギーシュとシエスタの労を労う。
そして、回収した手紙を、次にウェールズの手紙を受け取り。
ウェールズの手紙を読んだ。
「マザリーニ」
どこから現れたのか、何時の間にか隣に現れた枢機卿。
その間、自身の恋文は自身の服の中に隠した。
「はっ――」
「これを読みなさい」
マザリーニ枢機卿はそれを読んで言った。
「……実は、新政府から既に不可侵条約の――」
「捨てなさい」
アンリエッタの即答。
秋山の反論。
「いや、捨てない方が良い」
「え?」
「卑怯かもしれんが、不可侵を結んだまま相手に『おし!相手は油断してるぞな、今じゃー!』と思わせる方が、良い」
「……確かに、だが敵はあのアルビオン、勝ち目はあるのかね?主に空海軍の戦力差なんて酷い物だ」
「じゃから、今学院内にいる科学者に、新しい兵器をな、任せておる」
「科学者?どのような兵器なのだ?」
「コンセプトは、地上からフネを叩く大砲、これがあれば勝てるじゃろうな」
「そんなことが、可能なのか?」
「金と職人と施設を用意してくれれば、3日でみせちゃる」
コルベールは、少し考えた、だがこの手紙のウェールズ皇太子がいうように、この秋山に任せれば平和があると書かれている。
アルビオンの王族がこの秋山とやらを認めている、何をしたかはわからないが、それくらいに実力があるのだろう。
ここは一度賭けに出る事にした、それしか、無かった。
「分かった、十分な資金と十分な人員と施設を渡す。それで私が目を通して行けると考えたら、それの生産に取り掛かる事にしよう」
「度肝ぬいちゃるぞなー」
そう言ってから、シエスタの後ろで馬に乗りながら学院に着いた。
まずルイズの部屋よりコルベールの研究室である。
「コルベール殿!」
「はっはぁ、あぁ、秋山さん!!どうです、砲できました、自信作ですよ!!」
1メートルはあるでかい紙に、現在の技術力で、生産できる限り最高の飛距離と最高の火力の現時点最高レベルの砲が出来上がっていた。
「おぉ、おぉ!すごいぞな!流石コルベール殿、性能は?」
胸を張って細い鉄の棒を取り出して、設計図に当てる。
「はい、まず砲弾には導火線点火式の時限爆弾を搭載して、円柱と円錐の形にして見せました」
「うむ、威力は大丈夫そうじゃな、次」
「理論上これは高さ4kmまで飛ばす事ができるでしょう、命中させるに最適な距離は2.6kmです。砲身を長くする事で実現できました。しかし、命中率は少し悪いです」
「うむ、うむ空のフネまでの距離は大丈夫そうじゃ、命中力は別段、必要ない、でかいからな、次」
「バネ式の複座機と駐退機もできました」
「ほぉっ!それなら速射もできるのぉ、流石じゃ、次」
「火薬は従来の黒色火薬に、この白色の結晶のようなものをふっかけて、砕いた事により、いつもより1.4倍は威力が出るようになりました。これを紙で包む事により事故を半減させます」
「よし、では王宮から資金と人員も出た、その設計図を元に砲を作るぞな!」
少し間をおいて。
「はっ?ぇえ、本当に許可出たんですか!?」
「出たぞな、いち早く砲を生産させないと不味いんじゃ、トリステインの存亡の危機にまでなる、国民を救えるのはあしらだけじゃ!」
「そ、そうですね!急ぎましょう」
コルベールの杖に二人乗り。
流石に箒もぎりぎり、目的地は城。
「コルベール、御見さん背が高いのぉ」
「ははは、あなたは器がでかいですよ」
全力でかっ飛ばした為、1時間も掛からなかった。
ちょうど、マザリーニ枢機卿が待っていた。
横にいる貴族と適当な相談をしている。
「うむ、遅かったな。ここから少し東ロハ通りにいってくれ、少し歩けば、プロネン製作所がある、そこに人材も施設も置いた、姫からの署名もある、皆やる気はあるから安心せい。
で、いつできる?」
「2日もあれば、可能かと。まぁ、1日目の突貫作業と青銅を冷やすので1日、正式に使えるのは3日後になりそうですが、流石に」
コルベールが設計図を見ながら答える。
「うむ、とにかくいそいでくれ。アルビオンが攻勢を整えているなら、一刻も早く、それを打破しなくては、な」
なかなか老人なのに頭が柔軟な人と、秋山はそう評価した。
案外近代化のしやすい国なんじゃないか、まぁ。
軍人が政治に関わるとろくな事にならない、適当な口出しだけでよい、それを強行させなければ、の話だが。
「プロネン製作所?そんなところが出来たんですか?」
「ああ、城下町にはてんてんと製作所があったんだが、一番でかい製作所に全て併合させたんじゃ、まぁ数日前の話じゃから知らんのも無理はないだろう」
「ほぉっ!それはそれは!!」
「一つ一つに注文するのも面倒だからな」
「では、善は急げ、行って来ます」
「出来たらすぐ言うんじゃぞ、頼んだ」
背中を向けて段々遠くなる秋山とコルベール。
相談していた貴族も既にいない、ただ1人、ため息を吐いた。
このトリステインに仕えて、何年経つだろうか、目的に私欲など混じっていない、全て今は亡き王が守った王国を守る為だけだ。
それ以外に欲などない、ただ平和であればよい。しかし、外交努力はいとも簡単に打ち破られてしまった。
なら後はどうする、若い奴等の頭を使うしかない、老人は国の知識であって脳ではないのだ。
王がいるときは、王の脳を使い、そこに知識を出すだけだったが。
王が亡くなってからは、自身が脳と知識なのだ。
それでは、駄目なのだ、国が腐る、自身の脳みそと同じに。
しかし、自分の後を継げる者はいない、今は。
これが、今最大の悩みであった。しかし、悩んでも仕方が無い、ただ自分は、今できる政務をこなすだけだ、それしかできないのだから。
「いや、意外と広いの、ほんに意外じゃった」
「まー、トリステイン中の製作所を集めればこんなもんじゃないのでしょうかね」
一言で工場のおっさんが、自分達の存在に気づくとずかずか近づいてきた。
「おうおう、女王様の使いか!」
「はい、そうですが」
「ならとっとと設計図を寄越すんだな!新兵器の開発なんだろ?なら鋳型から作らないといけねぇからな!!」
「これです」
丸めて持ってきても楽に1メートルを超える物を広げておっさんに渡した
「ほぉ、ほぉ!こりゃ、腕が鳴るな!最近はちゃちな鉄球とか盾ばっかだったからな!」
「何日かかるかなもし」
「2・3日でやり遂げてやるよ、こりゃ精密に作んないと駄目だろうから、それ以下は流石にできねぇな」
「十分ぞな」
「そうかい!おい、釜焚け!!大仕事だ、職人魂みせちゃれ!」
「アキヤマさん、自由に行動してて構いませんよ、私がいれば大丈夫でしょう」
「ほうか、なら学院に戻る、お上が切れてるじゃろうしな」
秋山は駆け足で、製作所から引き上げていった。
「こりゃ、本当に複雑な仕組みだねぇ、量産は大変そうだ」
「はは、可能ですよ、すぐに」
冗談ではなく、本当に可能だろう。
この砲が出来れば、予算がもっとおりる、こんな木製鋳型を鋼鉄製鋳型にする事も楽だろう。
そして、この砲は速射が出来る、なら砲弾の消費量は爆発的だろう。
この砲と新型砲弾が出来れば、このトリステインの城下町と城を1日で焼け野原にする事もできる。
焼け野原……。
「うっ……」
自己嫌悪の渦だ、胸が痛い、脳を抑えたい。
火を。
あの事件が。
だから自分は……。
「おい、ここはどうすればいいんだ?」
「あ、あぁ、そこは……」
設計図に指を刺しながら、手順を教えていく。
たまにあの猛火を見る、また自分はこれを作って猛火を作ってしまいそうだ。
だが、これを作らなければ、自国の人々が、猛火に焼かれる、それを防ぐ為。
防ぐ為なのだ。
「うん、うん、分かった、また分からなかったら聞くからな!」
「はい」
一人守れれば、自分の過去を消せるだろうか。
無理だろう、全ての人を守れたら……。
自分は許されるだろうか。
少し時間が経つと、秋山が戻ってきた。
そこには少し信じられない光景があったのである。
何と100名近くの水兵が学院前にいるのである。
「おぉっ、アキヤマ君じゃないかね!やっときたのか」
「オスマン氏、これは何が?」
「いや、何がも無いじゃろう、お主の部隊らしいぞ、まったく」
「はぁっ?」
何か思い当たりが無いか、脳内を探った。
『数は少ないけど、アルビオン空海軍を君に任せたよ』
少し曖昧な記憶なので変化はしてるが、ウェールズが言っていた。
「あぁ。なるほど」
「思い当たりがあったのかね?ならなんとかしてくれ、困るんじゃ」
ぞろぞろと100名近くの水兵がアキヤマの下に集まった。
1名1名ががやがやとアキヤマに何か言っているので一つ一つがまったく聞こえない。
「待て、待て!この中で一番偉い奴は誰じゃ!」
無精ひげの生えた、20代前半位の男が一団から出てきた。
「私です、空海軍中尉です。私より上の者は全て反乱軍に行ったか、戦死しました」
女子供をつれたイーグル号の中の、本当に少ない船員達、それがアルビオン空海軍だった。
「じゃ、イーグル号は!」
「回収されました、トリステイン空海軍に」
一隻でもフネが欲しいトリステインの残酷すぎる回収である。
「じゃあトリステイン空海軍に所属すればよかろう」
普通に、トリステインの空海軍は、誘ったのだが、訓練模様を見たら。
入る気がうせたのである、確かに最低水準はあるかもしれないが、それでもアルビオン空海軍に比べれば……。
「それは亡き皇太子殿下の命令には入っておりません、それに、トリステインの空海軍は訓練が浅すぎるのです」
「困ったの……、まぁ、姫さんに尋ねるかの」
流石に100人が学院外の所で寝たりという奇妙な光景はまずい。
それにこの100人をウェールズから頼まれているのである。
そんな事は出来ない。
「オスマン氏」
「なんじゃ、解決したか?」
「いえ、なんか速く手紙を送れはせんか?」
「フクロウとかを使えばよいのじゃないかな?少し待っておれ学院内にあったな」
オスマン氏退場。
残されるはアキヤマと100人近くの水兵。
この間「訓練は主に何を!!」「ねるとこは?」「食べ物は!」「女はぁっ!!」主に訓練は、と聞く率が高い分ましだろう。ちなみに最後に言葉吐いた奴には鉄拳が飛んだ。
でも、意外とこういうタイプは伸びる、長生きはするかどうか分からないが、伸びるだろう。
さて、オスマンが戻ってきた。
「うむ、で、どのような要件を書くのかな」
「あぁ、まずな……」
羊皮紙を開いて、そこにペンを取り出した。
秋山が一つ一つ、要件を言うと。
同時にペンを走らせた。
「うむ、これでよいかな?」
「あぁ、頼む」
すぐにフクロウに手紙を掴ませると、すぐに王宮へと飛ばした。
「後は頼んだからの、といってオスマンは学院長室に戻ってしまった
「で、アキヤマさん、私達はどうすれば、せめて訓練を……」
「あ、あぁ。分かった、じゃあ魔法学院の周りを10周、お前等は多分陸戦兵が主体になるじゃろう」
「な、何故です!」
「いや、まーフネの操作もさせるがの、陸戦兵もやってもらう」
「む……分かりました、陸戦兵も良いでしょう。命令だ!」
「おうっ!」
元アルビオン空海軍100名近くが、いっせいに魔法学園の周りを走り出した。
多分これくらいは楽にこなすだろう。
「暑苦しい人達ね、どう?アルビオンは楽しかった?」どこかから空耳が聞こえ……、空耳ではなかった。
「あぁ、お上か、うむ、楽しかったぞな」
「そう……」
秋山は少し悲しげな顔をした為、気を察し、深く言及はしなかった。
「お上、失ってからだとな、遅いんじゃ」
「変ね、いきなり」
「じきに分かるじゃろう、じき」
秋山は元々軍人に向いていないのだ、どうせ、10年も経てば分かる事だが。
バサバサと、鳥の羽音が聞こえてきた、見れば、オスマンが持ってきたふくろうである。
「うむ、なかなか早いな、少しこいつを届けてくる、後5週ちゃんと走っておけ」
「はっ!」
「あっちょっと――」
大急ぎで、オスマンがいる学院長室に走った。ルイズの呼び止めもあったが
空気のように。
さらりと流した。
思い切りドアを開けると、ミス・ロングビルと、オスマン氏がいる。
早速手紙を渡した。
それをすらすらと目で読んだあと、要約して伝えてくれた。
「うむ、うむ、即時戦力として王宮の近郊に、専用の訓練所と兵舎を立てる為、そこに入れると良い、特に心配は要らず、との事じゃ。後、イーグル号等は、後々話し合って返すだろうと」
「ふむ、何故そんな場所が立てられる事に?」
「姫も大変なんじゃろう、近頃平民の女だけで作る近衛隊を編成するとかなんとか、そこの訓練所なんじゃろ」
どうやら、ワルドの行方不明はアルビオンへの裏切りらしい、魔法衛士隊隊長が裏切りである、何時首を取られていたかも分からない。
それに対する警戒を強化するようだ、もっとも平民がいくら集まっても、ワルドを倒す事は出来ないだろう。
彼はスクウェアなのだ、王族のコンビネーション魔法意外、敵はいないようなもの。
ただ、裏切っても力は無い、忠誠は一段と高い、そういう利点はある。
「いや、はや。恵まれとるの」
「ほんにほんに」
「では、伝えてくるから、失礼する」
「うむ、またきなさい」
学院長室のドアを開けた瞬間、結果から言えば殴られた、ルイズに。
「無視するなっ!」
「すまん、少し待て」
「……何よ」
「御見さん最近丸いな」
「太ってないわよ」
「違う、性格じゃ」
「……どこが違うのよ、ったく、そんな事は気にしないでいいのよ」
「ほうか」
どう考えても、おかしい。
前までは刺々しいまでのオーラを放っていた。
しかし今はか弱い女のそれだ。
だが、原因が分からない。
深く入れば深く傷つけてしまうかも知れない。
ほおっておこう、すれば事態は好転するかもしれない。と、秋山は考えた。
大抵思春期の頃の悩みなんて、日が経てばどうにでもなるものだ。
気にせず、学院外に出れば、愉快な100人達が休憩していた。
「終わったようじゃな、うむ」
「で、私達はどうすれば」
「王宮の近郊に兵舎と訓練所が出来る、そこに住まう事が出来るようになった。イーグル号はいずれ返される。だ、そうだ。という事で、王宮まで駆け足」
「なんですと」
「駆け足」
「……」
「うむ」
「駆け足!」
「はっ」
疲れのせいか覇気の無い応答になっている。
それもそうだろう。
駆け足10周よりも長い距離を更に行く事になるのだ、馬ですら何時間と掛かるのを歩きである。
しかも体力消耗した後で。
やけくそな掛け声を発した後、そのまま駆け足で、王宮まで行っていく。
それと入れ替わるように、学院内からシエスタがこちらへ駆けて来た。
「あ、アキヤマさーん!」
「んぉ、シエスタさんか」
「はい!で、ですね!突然ですが、20日後に少し休みが取れたんです!私の故郷に来ませんか?あ、あの……疲れてるだろうと思って!」
「おー、そりゃいい、落ち着ける場所が欲しかったからのー」
「……」
隣にいた、小さなピンク色の髪を持ったお上がいる事を忘れていた。
「あ、お上もくるかの?」
「授業があるわ、どうせ」
「ほうか」
このまま桃色の髪だけ残してフェードアウトしそうな勢いである。
髪の毛もおいていかず、学院内へ入っていった。
「ふむ……」
「ラ・ヴァリエールさんと何かあったんですか?」
「いや、何もしとらん、が、あちらが何かあったみたいじゃの」
「思春期の悩みですか……」
「まぁ、手出しても、何も得はせんじゃろ、放っておくのが一番じゃ」
「そうですね、確かに」
「という事で、あしは寝たい、ちと疲れた」
「分かりました、おやすみなさい」
「うむ」
色々ありすぎた、とにかく明日はまたプロネン製作所を覗きにいかないといけない。
さて、少し長い眠りから醒めて、朝に王宮まで(シエスタに乗せてもらって)馬で行き、プロネン製作所へ行った。
着いた時には、既に朝から昼に変わる所であった。
職人達が休憩していた、既に青銅は部品ごとに完成していた。
後は長時間冷まして、組み立てるだけとなっていた。
見れば、職人達の目の下にクマが出来ていた。
久しぶりの大仕事だったので気合が入りすぎたのだろう。
ちなみにコルベールも寝ていた。
さて、プロネン製作所には他なにも無く、夜にまた来る事にした。
多分その頃には完成しているだろうと考えたのだ。
「あれは何ですか?大砲の部品?」
「察しがいいの、そうじゃ、大砲の部品じゃ」
「戦争でも始まるんですか!?」
「内緒じゃが、高い確率でな」
「恐いですね……」
「安心せい、あれが生産された暁にはどこの空海軍も役にたたんくなるからな、はっはっは――」
「すごい大砲なんですね!」
「うむ」
そんな談話をしていると、遠くから衛兵がやって来た。
アキヤマの姿を下から上まで検査するように見ると。
ところで、空海軍が壊滅状態となると、アキヤマは何処で活躍するのだろうか。
戦争が元々嫌いな節がある為、その元を無くそうとでもしているのだろうか。
「アキヤマ様でしょうか!」
「うむ」
「あぁ、よかった、キリとした格好をしていると聞いていたので、いやはや」
「何のようかなもし?」
「はい、枢機卿様がお呼びになっておりまして。はい」
「ふむ、枢機卿さんが?」
「はい、とにかくこちらへ。いやー、でも早く見つかって良かったですよ、これで大人数使わずに済みました」
「そりゃ、良かったの」
確かに迷惑はかけたくない。
途中シエスタと引き離された、用があるのはアキヤマだけらしい。
いや、当たり前だが。
衛兵が立派な造りのドアをノックし。
「アキヤマ様をお呼びしました!」と、言った。
すると、中から枢機卿の声がし。
「うむ、入れ」
と言った。
次に。
「ご苦労、持ち場にもどれ」
「はっ!」
衛兵はさっさと視界から消えていった。
「さて、少し、話がある、気抜いて答えてくれんか」
「うむ」
「まず、あの砲台はお前さんが提案したんじゃろう、あの技術者が言っておった」
「うむ」
「お前さんは他にも色々な兵器を知っている、違うか」
「何が言いたいんじゃ」
「要は……、お前さんは肌の色、素行、知識がこのハルケギニア大陸西部の連中とは違う、おおよそロバ・アル・カリイエから来た、違うか?」
「ロバ・アル・カリイエ?もしそこから来てたとすれば、どうなる」
「いや、ただ、な。ここ西部の連中のところは殆ど王制を敷いておる、東方は、共和制が多いと聞いてな、思想からして、革命を起こすやも、したら私らには止められん」
「なるほど――」
枢機卿の言おうとしている事は分かった。
確かに少し前は考えた、が。
今必要なのは貴族が平民を見下している所にある。
ここを平等化させたいとは思っている。
しかし――。
「枢機卿、窓をご覧になりなされ」
アキヤマは、枢機卿が座っている椅子を超えて、枢機卿に背を向ける。
「窓、ふむ、城下町が見える」
「じゃろ?じゃあ、そこをみてみい」
横5メイルほどしか無い所を指差したそこで、子供が鬼ごっこだろうか、とにかく走って遊んでいる。
「子供が笑顔で走っておる」
「そう、次は……あそこじゃな」
次に見せたのは、少し広い空き地だ、家が建てられる前の場所だろうか。
「ほれ」
「縄跳びをしておるな」
「分かるか?」
次々と平民達の行動を指差し。
真剣な眼差しを枢機卿に向ける。
「革命を起こさなければならない状況というのは、女子供から、老人全てが絶望に浸った顔をしている時じゃ」
「……なるほど」
枢機卿は少し微笑する。
「国民全てが笑ったり、泣いたり、怒ったり、嬉しがったり、悲しがったりしている国に革命なんかいらん、必要な時にするもんじゃ、無駄にする必要はない」
「うむ、その誠意見事」
「そもそも、こんな平和な良い国に革命を起こしたがる奴は元々何か気が狂ってるんじゃないかな、その時代に適した制度が敷かれているのなら、それでいいんじゃないかなもし」
「その意見に反論は無い、うむ、気に入った」
「そりゃどうも。ま、戦争で負け続けさえしなければ、王制は変わらん」
革命気分が高い時に、日本に負けて王制が崩れた国といえば、ロシアがある。
この時の秋山はこの事を知らないが、この秋山が、ロシア崩壊の要因を一つ作ったともいえるのではないだろうか。
「例の秘密兵器は、なかなか進んでおったな」
説明するまでもないが、青銅式高角砲の事である。
「あれがあれば、トリステインは空からの進入には絶対じゃ」
「そうか、このトリステインが平和なら、良い、それ以上に望む事は無い。さて、お主の考えも分かった、もう下がっても良いぞ」
「うむ、そうさせていただく」
そういってドアの前まで行きドアを開ける、後ろから枢機卿が。
「たまに、お主の意見を聞くかもしれん」
「分かったぞな、じゃが、御見さんにはあしは必要なかろう」
「そこまで、私は有能じゃないよ」
「ほうかね」
それだけ言うとドアを閉じた。
王宮からでると、ずっとシエスタが待っていた。
なかなか律儀な女子である。
「何話されてたんです?」
「ま、色々じゃ」
「気になります」
「聞いたら、トリステインの間諜から首がスパっといくぞな」
「そ、そんな恐い話してたんですか?」
「冗談じゃ、はっはっは――」
「も、もう。びっくりするじゃないですか」
平和だ、戦争が起こると考えると興奮と拒絶が一緒に来る。
若気の至りなのだろうか。
この日から20日後まで、トリステインの製作所は煙突から絶えず煙を出していた。
砲が正式に認められたのである、少し命中率に不安が残る物の、砲だけが反動で移動し、すぐに戻るという仕組みと。
その有効射程の長さは他の砲に類を見ない物だった。
そして導火線式榴弾も、どこもまだ知らないものだ。
ちゃんと、長さで時間が調節できる為、有効的に敵艦にダメージを与えられる。
ここまでで一番の問題といえば、砲弾が現在の技術レベルで大量生産するのに適さない事であった。
20日掛かって、出来た砲弾数は約120程度である、砲は15基生産できた。つまり、砲を全て連続発射させると、8発ずつで終わってしまう。
1回発射して次を発射するまでのディレイに最速で8~10秒程度である。1分20秒以下で砲は効果を無くしてしまう。
一番の問題であった、しかし、砲弾はこれ以上造れなかった、トリステイン王宮貴族達は、アルビオン艦隊がアンリエッタとゲルマニア皇帝が結婚する日の少し前に祝砲を上げる為だけに来る。
という事を知ってしまった、つまり、この日が開戦の日になるという事を予測していたのだ。
マザリーニは個人で秋山を呼び、意見を聞いたが。
「今ある艦隊から砲をはずして、警護は4~5艦程度向かわせれば良い、戦が始まれば逃げさせれば良い」
と元アルビオン空海軍に砲の訓練をするようだけ言って、メイドとタルブに言ってしまった。
マザリーニはすぐに意図が分かった、最初から負けるような戦をするよりも、砲で潰した後の消耗した兵を地上で待ち受ければ良いという事だろうと。
すぐに艦隊から砲がはずされた。
空海軍からの反論を全て説得したマザリーニの弁舌は素晴らしいものだった。
決戦まで後、五日。
#navi(秋山異世界物語 天気晴朗ナレドモ風強シ(仮))
#navi(秋山異世界物語 天気晴朗ナレドモ風強シ(仮))
人は熱中すると時間が急激に短くなる。
そんな訳で、特に何も無く、ラ・ロシェールに着いた秋山一行。
「実物を初めて見たがほんに飛ぶんじゃのー、がいじゃのー!」
「はい、すごいですね!」
「本当、田舎者の集団だな。さ、そろそろ出発の時間だ、準備しよう!」
「うむ、はやくのりたいな。」
そのはしゃぎ様といえば初めて三輪車を与えられた子のようなもの。
最初は二輪に補助輪がついてても、勝ち誇った感じになれるが、徐々にはずしたくなる、だが恐怖でよく自転車が倒れて、その痛みからまた恐怖が起こるデススパイラルは、慣れで克服するあたり不思議だ。
余談である。
アルビオンに行く為に今回乗る物は、硫黄をたんまり積んだ商船である。
どうやら、アルビオンは上下しながら浮いてるようで、今の時間が一番風石の消費を抑える事が出来る位に下がっているらしい。
それに乗せてもらう事になった、費用も安く済む。
船長によれば、日も眠る少し前には着くようだ。
出航開始。
「おー、おー!ほんとに飛んどる、ほんとにとんどるぞー!!ガイじゃなー!!」
「ほんとう!初めて乗るけど、すごいです!」
「えらいはしゃぎようだね、ほんとに」
とにかく船の中を隅々まで、見ていった、風石という物質が浮かしている、というのは説明されてもちんぷんかんぷんだったが、実物を見てもちんぷんかんぷんだったのは
言うまでも無く。
要するに風石がフネを浮かせてるだけである。
「これは少し違うのー」何が違うとは科学で飛ばしてるのではない、魔力だ。
片手で数えられる程度の砲があった、まぁ近代より少し前の大砲だ、隣に砲弾があって、足りなくなったら弾薬庫から運んでくる、そして弾を中に入れて、火の付いた棒を点火口に入れる。
そういう設計であった。
「ふるいのー」確かに古い、確かに古いが、日本軍の砲だって秋山がいた世界からすれば遅れているのである。
これを古いといってもしょうがない、だから全力でコルベールに砲の研究にあたらせたのである。
正直、装填の所で時間を早める事が出来るなんて思っていない。
復座機とか駐退機のバネ式を作ってくれさえすれば、一々照準を変えなくて良いという点が生まれる、それにより発射から次の発射までの時間を短縮できればよいと考えていた。
後はコルベールの知識量、運、努力頼りである。
この世界の大砲は、まず飛距離が無い。
だから、自分の持ってる知識をコルベールに渡し、それを元にコルベールが自分で考えるしか無いのである。
砲を適当に見ながら、考え事をしていると、シエスタが慌てた様子でこちらに来た。
「――大変です!海賊が!!」
と、言い、シエスタはすぐさまアキヤマの手を繋ぎながら甲板に出た。
「ほー、あれが西洋式海賊かー、ガイなフネじゃのー、でかいのー」
「の、ののんきな事をよく言えるね、さすが僕を倒した奴だ、み、見直したぞ」
「面舵一杯!!」
ギーシュの足は短機関銃の反動のように、震えていた。
なら弾は……。
余談である。
「あしの海賊の血もさわぐのー、じゃが、どんぱちしても勝てんのー」
「ほ、本当のんきですね、流石です」
「駄目だ!逃げ切れねぇ!!」
シエスタはがっちりアキヤマの腕に組んでいた。
残念ながらアキヤマは身長を見れば頼れる男とは見れない。
だから彼女とかが「きゃっ、こわーい」「はっは、そんな近づくなよ」みたいな図は出来ないのである。
余談である。
「ほ、砲をぶっ放してきました!!」
「フネ止めろ!!」
「ほー、砲の性能はやはり、予測通り煙が酷いな、まぁ空の上じゃからすぐ消えるじゃろう」
秋山は冷静に分析していく、とにかくこの世界での情報を貪欲なまでに集めている。
「というか本当に空に島がういとるのー」
海賊いや、空賊から目をそらして、船内にいたため見れなかったアルビオンをはじめて目に入れた。
「さっきから見えていたよ……それよりどうするんだい?」
「どうもできんじゃろうな、捕まるしかないぞな」
「く、空賊の連中どもが!糞っ!!」
フネが商船にくっついて、空賊のフネから空賊が飛び移ってきた。
無精ひげを生やして片目眼帯、たくましい胸筋を持った男も乗り移ってきた。
どうやら、船長のようだ。
「おー、おー拿捕かー、野蛮じゃのー」
「おい、船長はどこだ」
「船長は、俺だが」
船長も威厳を保つのに精一杯だが、全身が硬直と緊張で震えが止まっていない。
「にしてもでかいのー、たかが賊がこんなフネを綺麗にするもんかの、どこが拠点なんじゃろ、とてもでかいんじゃろな」
「積荷は何だ」
「硫黄だが……」
「よし、買った!てめえらの命を売ってな!」
船長が悔しさに顔を歪ませた。
「考えられる事は軍から色々やってうばったんじゃろーな」
「おいてめぇ、ちょっと黙ってろ!」
「……」
空賊たちがせっせと商船を占拠して操縦桿を握る、それが終わると、今度はアキヤマ達も収容した。
収容された場所は一般的な監獄をほとんど木製にしたような物だ。
ギーシュはフードとか平民らしい服を着ていた為、貴族という事はばれなかったようだ。
「大変な事になったの」
「最後まで呑気ですね、アキヤマさん」
「あわてちゃーても仕方ないじゃろ。短気は損気じゃ」
本当は地団駄でも踏みたいものだが、短気を直そうとしている為、そんな事はしないであくまで平常を装った。
すると、空賊の一人が飯を持って現れた。
「飯だ」
それだけ行ってスープを渡して出て行った、秋山は妙に背筋が伸びている事を不思議に思った。
次にやせ細った空賊の一人が来た。
「お前等は船員でも何でもないそうだが、何をしにアルビオンに行こうとしたんだ?」
「姫殿下からアルビオン皇太子への密書を授かったのだ、いち早く僕達を解放する事を要求する!」
あくまで正直に伝える。
「は?お前等みてぇな奴らが?はっはっは、寝言は寝て言え」
ギーシュは体に密着させていた薔薇の杖を引き抜くと。
「いいから僕等をアルビオンの港に降ろすんだ、そう船長に言え!!」
「き、貴族!!なんだてめぇ平民じゃなかったのか!」
「もう一度言わせる気か!船長を、呼べ!」
「わ、分かった。落ち着け、今から呼んで来るから……」
「急げ!」
すぐさま看守とやせ細った男はこの部屋から去っていった。
厳重な身体検査などしていない、適当なとこ触るだけで終わった。
女に対しては触れてもいない。
「ギーシュ、お前はやっぱ何かする男じゃな」
「はい、今のはかっこよかったです!」
「ふ、ふ、ふいー、いやもう死ぬかとおもったよ……」
緊張が解けたのか、足から力を失って床に手を付ける。
「にしても、どうしようか」
「死ぬんでしょうか……」
「ま、それはないじゃろ」
「なんでそんな事が分かるのさ」
「じき、分かる――」
言い終わると同時に、この部屋に空賊の頭がドアを開けた。
「貴族のぼっちゃんはお前か、良い度胸をしてる」
「……」
「で、トリステインのぼっちゃん達が何のようだね?あの廃れた王族に」
「密書を預かっている、アルビオンの港に連れて行ってくれればいいだけだ」
床に座りながら、ばっちり杖を船長に向ける。
「威勢のいい若者だ、だが、私も杖は持っているのでね」
頭が杖を引き抜く、その杖の形はいかにも気品溢れる上品な物、そこらへんの貴族が触れるような物じゃなかった。
そして次に、眼帯を外し、不精ひげの付け髭を取った。
「君みたいな若者が我が国にも多くいればいいがね、さて、私がウェールズ、アルビオン皇太子だ」
「なっ……!し、知りもせず、さきほどのご無礼をお許しください!」
「よい、よい。さて、まぁこんな狭い部屋に座らせて悪かったね、こっちへ」
と、言われて船長室に案内された。
「まぁ、ここならまともに話せるんじゃないかな、密書とやらを運ぶ任務なんだろう?見せてくれるかな?」
「は!こ、これです!」
「うむ、ありがとう」
その手紙を早速広げて、じっくりと読んでいった。
「はは、馬鹿だなぁ、そんな手紙は死ぬ前に燃やすよ……、でも。アンリエッタらしいな」
ギーシュはずっと直立不動のまま。
秋山はあぐら、シエスタと適当な会話をしていた。
「ふむ、なるほど。まだ、私事と政が混合してる……。ギーシュ君?だったかな、ご苦労様」
「はい!」
「一旦アルビオンの国まで行く、そしてから君達は姫の手紙を持ってアルビオンが陥落する少し前にこのイーグル号に乗って、アルビオンを脱出させる。安心したまえ」
「アルビオンは、いつまでもちますか……」
「城攻めが始まれば、その日に陥落するだろうね」
自分の命に関する事なのに、その表情はネガティブではなかった。
ようするに死ぬ覚悟が出来ている男である。
じぐざぐと海岸線、空岸線?どちらでもよいが、とにかくそこをジグザグと航行していき、大陸の下にもぐりこみ、王党派空海軍しかしらない秘密の抜け道。
から、この世界で他にだれにもできないような操作をし、ニューカッスル城へ着いた。
イーグル号がまず巨大な鍾乳洞へ入っていき、それに商船が続いた。
イーグル号に一斉にもやいが放たれ、それを船員がフネにくくりつけていく。
その次に木製のタラップがフネの出入り口へつけられる。
そこからギーシュ達を促して、フネから地上へ足をつけた。
「諸君!すごいぞ、硫黄が手に入った!!」
鍾乳洞にいる兵員が歓声を上げる。
まずウェールズの傍に、老メイジがやってくる。
「硫黄とは火の秘薬ではござらんか、しかもこんなにたんまりと……今日ほど嬉しき日は無いですぞ殿下」
「あぁ、明日の敗北には最高の調味料だと思う」
「はい……その通りで。それと反乱軍の輩は明日正午から城攻めをはじめるとのうまを通達してきました、間に合ってよかったですな!」
「それは我が生涯最高の運だな!戦場に遅れるなど、武人にあらず」
「その通りで、今まさに晩餐が始まろうとしております、急いでくだされ」
「うむ、ギーシュ君とアキヤマとシエスタさんだったかな?美味しいご馳走が食べられる、ついてくるといい」
「おや、この方達は?」
「うむ、廃れた王国の最後の客人、トリステインからの使者だ」
パリーという名の老メイジは泣きながら、一人一人に手を握っていった。
「応援してくれる人がいるとは、これこそ最後の舞台にふさわしい……、ささっ、こちらへいそいでください!」
パリーを先頭にウェールズと一緒に城の中へ、流石に腐っても城その作りはとても豪華に、そして広かった。
「さて、ここです。――閣下、ウェールズ皇太子がお帰りになりました!!」
大きな扉を開けると、そこは城のホールだった、簡易な王座によぼよぼな、しかしどこか威風のある爺さんが座っていた。
テーブルには豪勢な料理があって、皆がそれを談笑しながら食べていた。
そこにウェールズがこのホールに現れた時、この部屋全体をつつみこむような拍手が起こった。
ここでも人気なようだ。
「おぉ、ウェールズ、ご苦労じゃった」
ウェールズは一回軽く礼をすると、ジェームズ一世に耳打ちをした。
それをきいたジェームズ一世は席を立とうとした、が、既に足も老いて、立つ事すらも容易ではなかった。
それをウェールズがささえた。
「さて、この愚鈍な王に反旗を見せた反乱軍が、明日、ようやく我が城へ攻め入るという事、諸君は私によく従って勇ましく戦った。
そんな君達の死ぬ姿を私は見たくない、故に暇を与える、明日イーグル号が女子供を乗せてこのアルビオンから旅立つ、皆はこれにのり脱出するとよい」
誰も返事はしない、ある貴族が。
「耄碌には早いですな、陛下!」
「私は先の大砲の音で耳がやられておりましてな!全軍前へ、全軍前へ。それしか耳に入らないようになっております!」
その言葉にその場にいる全員が頷いた。
「馬鹿者どもめ……」と一ついうと咳を一つして、さらに言葉を続けた。
「よかろう、よかろう!なら今夜は飲め歌え食え!楽しもうではないか!今日はよい日だ!なんと、トリステインからのお客が来ておる、まさに奇跡、この奇跡に乗じようではないか!!」
城全体を包むような、歓声がホールから発せられた。
そして、宴が続けられた。
ギーシュは先程、いつもの服に着替えた。
身なりともに貴族になった、為によく王党派貴族が飯を勧めたり話しかけたりする。
それをテンションにあわせ、自分も酔っていった。
そんな中アキヤマの元にウェールズが来た。
「君は、何者なんだい?」
「あしか、あしは日本海軍の秋山真之じゃ、今はルイズという貴族の使い魔をやっとる」
「人が使い魔になるのか、不思議な国だね、トリステインは」
「いや、トリステインだけでもあしだけらしい」
「はっはっは――!うむ、うむ」
「しかも、この人は貴族を決闘でやっつけちゃった人なんですよ!」
長らく喋っていないシエスタがようやく口を開いた。
「おや、そうなのかい?とても強いんだね」
「いや、あれはただ運が強かっただけじゃ」
「ふむ、ふむ。そういえば軍人なんだってね?ここに来たのも視察かい?」
「それもある、もし、たら、れば。という事もある、だから偵察に出た、もう一つは、あしはこの世界の事をあんまり知らんから、様々な事を勉強する為という事もある」
「勉強熱心はすばらしいと思う。あんまり知らないという事はこの大陸からはなれた所からきたのかい?」
「まぁ、そうじゃ」
「にしては、いい顔をしてるね、君みたいな軍人がいれば王党派も後一ヶ月は保ってたかな……」
ホールのドアが突然開けられた、王党派の貴族だ、陛下の前に行くと方膝を床にした。
「何じゃ」
「報告にございます。夜間に乗じて敵兵士が城壁前を通過していた為、これを捕らえました、すると、一枚の手紙を持っていました」
「みせい」
と王党派貴族から差し出された一枚の紙を見ていくと。
「ふむむ」
と難しい顔をした。
ウェールズが父王の近くへ行った。
「どうしたのです父上」
「これを見てみい」
アンリエッタの手紙をみていた時とは違う表情で、その紙を読んでいった。
「王党派制圧後、トリステイン制圧の為の弾薬、補給船、食料の確保を忘れぬよう、これを念頭に置いて城攻めを開始せよ……」
「あいつらはわしらの国を制圧した後、トリステインにまで手を付けようという事らしい、まったく貪欲な奴等じゃ」
「アキヤマ君!」
「なんじゃ」
「君のいる国にすぐさま危機が迫っている」
「じゃろうな、だからあしがここに来たぞな」
「えらく落ち着いているな、頼もしい、一つ手紙を書いてくる、それを無事、アンリエッタの元へ送ってほしい」
「まかされた」
せっせかせっせかと、ウェールズはホールを出て行く、されど宴は続いて言った。
「陛下殿」
「うむ?君は、トリステインからのお客さんアキヤマ君じゃな、なんの用かな」
普通はたかが平民や一般市民程度が話せる人ではないが、もはやこの城の中にそんなしきたりは無い、王はどんな人にも微笑みながら接していく。
「ご武運を祈ります」
「うむ、うむ!ありがたい、明日は精一杯戦ってみせようぞ!」
少し時間が経つと、一人の貴族が秋山に駆け寄ってきた。
「ウェールズ皇太子が呼んでおります、ついてきてください」
「うむ」
ウェールズ皇太子の部屋はとても質素な作りになっていた。
本棚があってベッドがあってランプに机、椅子がある、それ以外は何も無い。
その椅子に座りながら秋山を待っていた。
「この手紙、どうか渡しておいてくれ」
「まかされた、一つ聞きたい事があるんじゃが」
「なんだね?分かる範囲でなら、答えるよ」
「何故、反乱が?」
この事を聞くとウェールズが、空に指を上げて。
「今上にある、レキシントンっていう我が国の全てを導入した船が、暴動を起こしてからがこの事の始まりだ」
「そのフネはどんなものぞな?」
「設計図があったな、うむ、これだ」
「えらく砲をつんどるのー」
「うむ、すごいぞ砲台数は百門を超える、まさに我が国の全てだ」
「この設計図、くれんか?」
「あぁ、良いだろう、ゆっくり研究してくれ、だがこのフネは厄介だ、隔壁が大量にあるせいで、生半可な砲じゃ、風石にも弾薬庫にも到達しないんだ」
「ほら」とフネの中心を指差した。
「まずこのフネはね、200m近づいて、砲をぶっぱなしても、風石を貫通する事が出来ないくらいに隔壁を多くしてる」
確かに、見れば分厚い木製の隔壁が、10cm程度の感覚で、風石の周りを囲っているように描いてある。
「ふむ、ふむ。下からは弱いようじゃな」
「あぁ、下からなんて砲撃できるわけが無い、重力によって砲の距離が狭まるしね、威力もよわまる、貫通なんて出来るわけが無い」
「ほう、ほう……」
「で、近づけば片方50近くの門が一気にずどん、やれやれ」
秋山の目論見が当たった、船の下から攻撃という事を誰も実行しない、技術力が無いからだ。
「そうだな、私も暇だ、少し遊びに付き合わないか?」
と、机の下からなにやら大きなマップを出して、床に広げた。
「昔は、これでよくパリーと机上の戦争をやったものだよ」
床に置かれたものは、様々なハルケギニアの地図、そこには色々な施設とか、町色々なものが正確に描きだされていた。
そして隣にあるものはちっさなフネの模型、弓を持った兵士、剣や槍を持った兵士だ。
「やり方はわかるかね?」
秋山は首を横に振る、なんとなく予想はついているが。
「そうだね、これはアルビオン空海軍の司令官が、実際の戦闘で作戦を立てるときに使う物だ」
秋山の世界では、この方式はアメリカ海軍が始めて採用したものだ。
もちろん秋山も知らない、これを知るのは秋山が10年たってからだ。
「この兵士は何人、この兵士は何人。勝利条件は~~、といった具合に色々シチュエーションを変えるんだ」
「おもしろそうじゃな」
「では、じゃんけんだ」
秋山が守る側になった。
戦力は歩兵ユニット12内、歩兵6弓6、一ユニット600人本隊に800人、野砲は6門フネは登場しない、野戦である。
ウェールズの方は歩兵ユニット18内、歩兵16弓2、一ユニット900人本隊に1600人
始まった、秋山は背後にある砦から弓兵を速攻で出して、攻撃、引く。攻撃、引く。
を繰り返し、その間に歩兵に砦を中心に丸いUの形にユニットを配置していく。
「なるほど、確かに囲まれて戦うことはできない」
と、歩兵を退かせたところで敗因が決まった。
ウェールズはこのひかせた時に、長方形のまま引かせてしまった。
16番目になった時に秋山が全部隊を円形に配置させようとする。
18番目、円形が出来た、この時ウェールズもこれを迎え撃つ陣形を構築した。
鋒矢、↑左のような形で配置していく陣だ。
19番目最前線がぶつかる。
20番目円形が右回転をして、最前線の部隊が変わった。
21番目さらに一回右回転をしてウェールズ側の最前線の兵数の被害が広くなったところで。
「まいった、降参だ」
といって第一試合は終わった。車掛の陣形を用いた秋山の勝利だった。
「なるほど、考えた事もない作戦だった。では次は艦隊戦をやろう」
「うむ」
ジグザグに配置していったウェールズに対して、秋山は一直線に艦を並べた。
戦いはすぐ終わった、相手は砲全体を一隻でなく、全体に向けようとした、が秋山は全砲を一隻に向けた。
これにより各個撃破されてしまった為28番目には全艦大破、または消失となった。
その後も4戦した、がそのつど秋山が勝利した
「君は、君は天才だな!君がいれば王党派は革命派を倒せたかもしれない。あぁ、なんという不運だ!さて、最後のゲームだ。これでしまいにしよう」
「はっはっは、いや、これはただ前からある知識の流用じゃな、まだまだ」
最後に用意された舞台は陸だった、城があって、守り側は300、攻め側は5万、攻め側にはフネまである。
守り側は秋山になった。
「降参じゃ!はっはっはっ!」
「流石の君も無理かい?はっはっは!」
「いや、はや、これは無理じゃのー流石に」
「そうだね、でもトリステインにはまだ戦力がある、こうはならないよう、君にトリステインを任せたい」
「じゃが、あしはトリステイン軍人じゃないただの軍人じゃが」
「うむ、その手紙に追記しておこう『このアキヤマ君は稀代の天才だ、この者に軍事を任せておけばトリステインは絶対的な平和を手にするだろう』とでも、付け加えておこう」
「そんな事で、できるのかの」
「私の遺言だ、愛しいアンリエッタは必ずこれを守るよ、後はそうだな、私の配下の空海軍を君に任せたい。と、言っても数も少ないがね」
「そんな、あしはそんな身分じゃ――」
「友人の最初で最後の頼み事だ、頼むよ?」
「……あい分かった、あしが最強の空海軍にしちゃる、任せちゃらい」
ウェールズはこくりと頷くと、すぐ机の上で一枚の手紙を書き、もう一枚の既に書いてある手紙に追記していった。
「ほら、これを」
「うむ」
「さ、宴ももう既に終わってるだろう。今日は、寝て。明日の朝、イーグル号に向かいたまえ」
今度は秋山が頷き、部屋から出て行った、ドアを閉める前に一度敬礼をする。
それに、ウェールズも合わせる。
少ない時間だったが、ウェールズと秋山の中にはその少ない時間以上の友情が出来ていた。
日が変わった。
アルビオン王国の滅亡が始まった既に攻城が始まって30分は経つ、外の貴族達が何もかもを使って応戦している、そろそろ崩れるだろう。
「はっはっは――」
「どうしました皇太子様」
「いや、昨日の事を思い出してな、アキヤマとあれをやっていたのだ」
「あぁ、あれですか、私との戦績は確かウェールズ様が23勝6敗5引でしたな、いやはや、本当に強かった、であの軍人とはどのように?」
「なんとな、私が1勝、彼は6勝だ、あれは100年に一度の天才だった」
「左様で!?皇太子様の負け数のほうが多いなんて……」
「そうさ、さて……と、パリー、馬を連れてきてくれるかな?もう限界だろう、それと同時に相手の本隊に突撃を仕掛けて、勇ましく死のう」
「そうですな!王党派の最後、立派に飾りましょうぞ!!」
早速用意された馬に乗り、最後の号をかける。
「諸君、最後の突撃だ!馬をひけ、敵のど真ん中を突っ切れ、しからば勇ましく死のう!」
最後の男達の歓声があがる、砲から手を離し、城壁から降りる、馬の数は足りた、それまでに死んだ人数は40人位。
ただし相手に与えた打撃はそれの100倍はあるだろう。
「アルビオン万歳!!」
馬の駆ける音が無数に轟いた、浮いた大地を踏んで前へ、ただ、敵の大群の中へ。
風を操るウェールズは器用にエアシールド展開を使う最中に詠唱、氷の矢を出し、敵を一度に倒していく。
この騎馬隊は、殆どがメイジの為、たかが傭兵の群衆如き、どうという事はない。
だが、しだいに精神力が切れていくと、一人ずつ槍で貫かれていった。
パリーとウェールズ、その他の数人も、この騎馬隊を崩す事なくただ前進した。
栄光の為だけに走った。
突如、ウェールズの右肩に、エア・ニードルが突き刺さった、見てみれば相手の持ってる魔法の杖がフェンシングで使うそれであった、何かの部隊だろう。
「ぐぅっ……」
「大丈夫ですかぁっ!」
「この程度……!!」
風に操られるマントを片手で器用に取ると、それを肩に巻いた。
「流石、流石です。皇太子!」
「ウェールズで良い、既に城は無いのだから」
そのフェンシングのような杖を持った男を無視してそのまま突き進んだ。
死ぬ為に。
「――逃げるか、ウェールズ!!」
馬を反転させて、ウェールズを追う。
詠唱を素早く唱えると、エア・カッターを繰り出した。
「ぐ……くっ…」
「ウェールズ様!!」
またも右肩に命中、すでに右肩は胴体から切り離されてしまった。
「よくよけるっ……!!」
「このっ、反乱分子風情がぁっ!」
パリーが急遽馬をワルドの方へ向け魔法を唱えた。
「ふんっ、そんなもの!」
軽々しくよけると、それは間も無く、エア・ニードルを放ち、パリーの胴体を貫いた。
「ぐっ、く……陛下、お先に」
パリーが最後に見た物は、片手を失い、ながらも優雅に奮戦していく皇太子の姿であった。
しかし、この詠唱のすばやい男に一矢報う事が出来た事を、パリーは永遠に知る事は無かった。
そのままその男に向けた馬が、停止もせずそのまま突撃したので、その男の馬はこけてしまい、上の男も落ちてしまった。
「パリー……良い死に様だった、パリーに続け!!」
既に着いてくる貴族は、たったの2人。
だが、既に精神力も切れかけていた。
また一人、走っている時に槍が刺さってしまい絶命。
2人。
「私が最後になりそうだな」
「王は最後にしぬものですからの」
「はっはっは、たしかに……な……」
「皇太子様、皇太子様!?」
どうやら死んではいない、肩から出てる血の量からの気絶だろう。
「こんな死に方を皇太子様は望まないだろう……」
結構走った、故に兵の塊の端が見えた。
馬を併走させ、ウェールズに紐を通して、レビテーションを掛けた、それを後は自分の馬の後ろに乗せるだけだ。
そして全力で走らすと、すぐに兵の塊から脱出した。
後は市街に入るだけだ。
大分兵を遠ざけると、最後の王党派メイジが馬を止めて、地面に降りた。
ウェールズの腕に止血と増血させる魔法をかけた、既に精神力はない。
「なるほど、ここで死ぬか。綺麗な場所じゃないか」
と、言って馬の尻を思いっきり叩いた。
馬は疲れながらも、驚いて、走っていった。
上には、ウェールズが乗っている。
「ご無事で」
既に精神力が切れた貴族は、メイジとはいえない、ただの平民と同じである。
そんな平民がメイジに対抗する為に作った剣を腰から引き抜くと、後から追いかけてきた兵士達を待った。
ぞろぞろと追いかけてきた。
「これぞ、我が最後」
そういうとただ一人剣を振り上げ、この傭兵達に振り下ろした。
剣が、折れた。
アルビオン大陸より上の空から、この様子を眺め、敬礼する指揮官、ボーウッドがいた。
そしてアルビオン大陸より下の空で、甲板に出てきた異世界の軍人もアルビオン大陸ニューカッスル城に向けて敬礼をしていた。
#navi(秋山異世界物語 天気晴朗ナレドモ風強シ(仮))
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: