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ハルケギニア外伝 機忍・零 第二話「契約」
ルイズによる白怒火とのコントラクト・サーヴァントが一旦保留となった為、使い魔召喚の儀式は終了となり、級友達は揃って学院へと帰っていった。
文字通り“飛んで”行く少年少女達に驚いた白怒火だったが、自分を除く全員が当たり前の事と受け止めている為、辛うじて自制していた。
(「飛んでいった者達は全員気合値が一~六程減っていた、何がしかの妖術の類を用いたと考えるのが妥当か……」)
白怒火はそう考えると、近くにいる二人の人物に話しかける。
「それで、これからどうするのだ?」
「これから我がトリステイン魔法学院の最高責任者オールド・オスマンに会っていただきます。」
「トリステイン?それに魔法学院とは?」
「アンタそんな事も知らないの?一体どんな田舎に住んでいたのよ。」
呆れたように言うルイズに白怒火は特に気にもせずに「二年前まで諏訪部家に仕えていた」と、ただそれだけ答えた。
「スワベ?聞いた事も無いわね」
「うむ、俺もトリステインという国は聞いた事が無い、恐らくお互いかなり離れた場所にあるのだろう。
ところで、みすた・こるべぇるだったか。」
話しかけられたコルベールは少し驚きながらも頷く。
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたな。
私はジャン・コルベール。あそこに見えるトリステイン魔法学院で教職に就いている者です。
そして、こちらが君を召喚したミス・ヴァリエール……さ、自己紹介を。」
コルベールに促されたルイズは渋々ながらも自己紹介をする。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。本来ならアンタみたいな平民は私とは話すら出来ないんだから感謝なさい。」
そんな、ルイズやコルベールの会話で“ミス”や“ミスタ”が性別に付けられる呼称のようなものである事、コルベールの職、ルイズの地位等を推測する事ができた。
「分かった、“ミスタ・コルベェル”に“ミス・ばりえぇる”だな?」
「違う!ヴァリエールよ!」
「“バリエェル”だろう?」
「発音が違うでしょう?ヴァ!よ、ヴァ!それからエの後は伸ばしなさい!」
ルイズの駄目出しに何度かやり直す白怒火だったが、結局小さいエを伸ばせはしたもののヴァの発音は出来なかった。終いにはルイズの方が折れてしまい、「もう!じゃあミス・ルイズで良いわよ!」ということになった。
多少のゴタゴタはあったものの、質問が出来るような状況になったので、学院に向かいながら気になっていた事をコルベールに聞き始める。
「魔法学院とか言っていたが、魔法というのはあの様に空を飛ぶ為の術の事なのか?」
「あれは“レビテーション”というコモンマジックで、術者を浮かしながら比較的遅い速度で飛ぶという術ですな。」
「というと、早く飛び為の魔法や、他の魔法もあると?」
「ええ、“フライ”という風魔法がそれに当たりますな。しかし、そういう事を聞いてくるという事は君の所には魔法は無かったのかな?」
「うむ、俺がいた諏訪部家周辺では魔法という術は無かった。俺が知っているのは妖術や法術位であろうか」
「妖術に法術……ですか、法術はともかく妖術という言葉には何やら不穏な響きがありますな。」
「然り、妖術の力の大本は異界にいる邪悪な存在であることが多い。だから妖術を操る術者は妖気を帯びているのだ。
最初、この様な場所に放り出された時は何がしかの妖術に囚われたのかと警戒していたのだが杞憂だった様だな。」
「当たり前でしょう?私達が使う魔法は始祖ブリミルから授かった物なのよ?そんな訳の分からない怪しげな術と一緒にしないでちょうだい。」
ルイズは白怒火が言う妖術の不気味さに怖気を覚えながらも、自分達が使う魔法の事を誇らし気に話す。
そんな二人を見てコルベールはもう大丈夫だろうと判断したのか、先に学院に戻っている事を告げて去ってしまった。
白怒火はレビテーションを使って急ぎ学院へ去っていくコルベールを見ながら隣にいるルイズに問いかける。
「ミス・ルイズは飛んで行かぬのか?」
「……い、いいい良いのよ。私が飛んで行っちゃったらアンタが置き去りになっちゃうでしょ。」
「ふむ、あの程度の速さであれば問題は全く無いが……丁度良い、学院とやらに到着するまで『機忍』の事について話しておこう。」
「アンタの事?それにキニンって傭兵の事なんじゃないの?」
面倒そうに返事をしてくるルイズに白怒火は「否」と答えると、学院に向かって共に歩きながら話し始めた。
戦乱続く故郷の話。
異界の邪悪な存在“黒鷺”に率いられて悪辣の限りを尽くす黒鷺軍と現世における首領たる妖術師・雷鳴法師の話。
親族の悉くを討たれながらも気丈にも黒鷺軍と戦い続けたかつての主君・サキ姫の話。
そして、黒鷺軍の主力……人を超えた身体機能をもって戦い続けるカラクリ仕掛けの存在“機忍”の話。
「そ、それじゃあ。アンタって人じゃないって言うの?」
白怒火の話を聞いたルイズは、顔を真っ青にしながら聞き返す。
しかし、それに対する白怒火の返事は何とも歯切れが悪いものだった。
「いや、そうではない、少なくとも俺は人間だ……そう思っている。」
「どういう意味よ。だって貴方は自分で機忍だって言ってたじゃない。で、その『機忍』っていうのはカラクリで動く……、ええとゴーレムみたいな存在って事でしょう?アンタはどっちかっているとガーゴイルっぽいけど。
だけど自分は人間だ……って、言っている事チグハグよ?」
「うむ、それにはとある事情があってだな……と、着いた様だ。
どうだろうミス・ルイズ、俺の事情についてはこれからこの学院の責任者にも話さなければならぬ。2度手間にならぬ為にもその責任者とやらと共に聞いてはくれないだろうか。」
ルイズは白怒火の言葉に少し考えた後、同じ話を二度聞くのも馬鹿らしいと思い、了承する事にした。
そうして二人はルイズの案内の元、学院長オールド・オスマンの執務室に到着する。
目の前にある重厚な扉をルイズがノックすると、「入りたまえ」という老人の声と共に扉が独りでに開いた。扉周辺に人の気配を感じなかった事から白怒火は“物を動かす魔法”かと推察した。
扉が開ききるのを待った後、ルイズは「失礼します」と言って入室する。
それを見た白怒火も「失礼する」と一言挨拶して入室すると、開いていた扉は再び閉じてしまう。
広々とした室内には白怒火とルイズ以外に三人の人間がいた。
一人は先に帰っていたコルベール師。もう一人は眼鏡を着けた二十代程の女性、書類仕事をしている所を見ると勘定方の様な役職にあるのだろう。そして最後の一人、この部屋にある最も大きな文机に腰を据えている老人こそ、この学院の最高責任者オールド・オスマンその人なのだろうと白怒火は確信する。
そのオスマン翁が口火を切って二人に話しかけてきた。
「始めましてじゃな、遠き地からのお客人。ワシはこの学院を取り仕切っておるオールド・オスマンという老いぼれじゃ。
そちらにいる女性は、ワシの秘書でミス・ロングビルという。」
表面上はにこやかに、しかし全く笑っていない目で白怒火を観察しながらオールド・オスマンは挨拶する。
対する白怒火も、オスマン翁の佇まいに軽い警戒を抱きながらも言葉を返す。
「丁寧な挨拶痛み入る。俺は白怒火という……今はしがない浪々の身だ。」
白怒火の挨拶を聞いたオスマン翁はミス・ロングビルに退室を促す。彼女が退室したのを確認した後、コルベールが此処に至るまでの経緯をオスマン老に説明する。
オスマン翁の方も先に聞いていたのか、特に聞き返す事もせずにコルベールの説明は終わった。
「ふむ、ミスタ・コルベールから聞く所によるとお主は数年前までスワベなる貴族に仕えていたというが、その家はどうなったのかね?」
顎鬚を扱きながら質問してくるオスマン翁に白怒火はごく端的に「かなり力は落としはしたであろうが、付近の最大勢力たる黒鷺が壊滅した事でもあるし、今の所は安泰だろう」と答えを返す。
白怒火が返事を返した時を見計らったのか、ルイズが声を上げる。
「あ、あのっ!オールド・オスマン、少々よろしいでしょうか。」
「む、どうしたのかねミス・ヴァリエール」
「あのですね、この白怒火が言うには『自分は機忍だが人間でもある』と言っているのですが。」
その聞き慣れない『機忍』という言葉に反応したのは、当然というべきかコルベールだった。
「キニン?」
「はい、白怒火が言っていた事からするとゴーレムや、ガーゴイルの兵士の事だと思われるのですが……」
「ゴーレムやガーゴイルが自分の事を人間だと言うのはありえませんぞ、ミス・ヴァリエール」
「ええ、それは私も十分承知しています、ですが」
ルイズがそう言った時、白怒火が口を挟んできた。
「ミス・ルイズ、良ければ俺から話そうか?」
「……そうね、私じゃあ説明しきれないだろうし。」
「承知した、では学園長もミスタ・コルベールもよろしいか?」
両者が頷いた事を確認した白怒火は、さっきまでルイズにしていた話を再び始めた。
「事の始まりは妖術師・雷鳴法師率いる黒鷺軍の来襲だった、俺が仕えていた諏訪部家と周辺の家は同盟を組み何とか抵抗していた。
しかし、時と共に我々は次第に追い詰められていった……。
我等とて決して弱かった訳ではない、しかし、黒鷺には『機忍』と呼ばれる機械…カラクリの身体を持つ忍者--隠密--がいたのだ、『機忍』は人以上の働きをした、機械の身体は疲れず・弱い攻撃は容易く無効化する。その上、戦力として見れば『機忍』一人に対して我等は数人を持って当たっていた。」
白怒火の話を聞きながら、ルイズ達はその内容をハルケギニアに置き換えていった。
即ち『機忍』を“メイジ”に、諏訪部の兵達を“平民”に。
「そして、俺にとって忘れられないあの合戦の日。
時は慶雲元年、黒鷺の機甲軍団の前に諏訪部家は辛うじて戦線を維持していた。
我等を率いるは諏訪部の数少ない生き残りであるサキ姫。
諏訪部の若き兵達は姫を統領と仰ぎ、戦場に立った。
合戦が始まった当初は拮抗していた戦力も、黒鷺の無尽蔵ともいえる物量の前に少しずつ押されていった。
その頃の俺は飛勇鶴という名前の剣士だった、俺は弟と共に戦場を駆けていたが状況はあまり芳しくなかった。周囲では味方が一人、また一人と倒されていく中、俺も致命傷を負い意識を失ってしまったのだ。
それから幾年経ったのか……、気が付いたら俺は白怒火という機忍となって黒鷺に仕えていた。
だが、ある時気付いたのだ。己が元は飛勇鶴という名前の人間だったという事実と、失われた肉体が何処かにあるという事に。
俺は戸惑ってはいられなかった、すぐに黒鷺を抜け出して何処かにあるという己を探し始めた。
しかし、時を同じくして黒鷺がかつての主家・諏訪部家からサキ姫をかどわかした。諏訪部家は精鋭をもって姫を取り戻さんとした……その中には何の因果か俺の弟・次郎丸もいた。
俺は成り行きから彼等と同道した、多数の犠牲を払いながらも我々は奇械ヶ城の天守閣にまで到達して、黒鷺の首領・雷鳴法師を倒し、サキ姫を救出する事ができた。」
「君の身体は見つかったのかね?」
「ああ、見つけた。」
「ならば、何故その『キニン』の身体のままなんじゃ?」
オスマン翁の疑問に白怒火は幾分躊躇した後、見出した己の身体について語った。
「俺の身体は……雷鳴法師の手により、黒鷺を現世に呼び出す為の贄として生命力の悉くを吸い尽くされていた。
ようやく見出した己の…飛勇鶴の身体は……木乃伊に成り果てていたのだ。」
「……え?」
「何と……、それは……」
気が付いた時に人でなくなっていた恐怖や悲しみ。自らの身体を取り戻すという旅路の果てに待っていた、己の死と己の屍骸との対面という常識では考えられない絶望は、その場にいる三人の言葉を失わせるのには十分なものだった。
飛勇鶴……いや、白怒火の言葉が偽りだと断ずる事は誰にも出来なかった、己の屍骸を見出したと語る白怒火の姿や雰囲気は偽りを口にする者には到底出せないモノだったからだ。
「なるほどの、確かにそういう経緯であるならば、その身がキニンであろうとも人だと認識するのであろうな。」
沈黙が支配した室内にオスマン翁の声が響き渡った。
その言葉に納得できないのか、ルイズがよく分からないという顔をする。
少女のそんな顔を見たオルマン翁は孫娘を見る様な温かい目をして、彼女に語り始めた。
「のう、ミス・ヴァリエール。お主は朝起きて鏡を見た時に、己が全く別の人間になっていたとしたらどう思うね。
その人物が己だと自然に受け入れるかね?」
オスマン翁の問い掛けにルイズは、なるほどと納得した。自らの意思とは無関係に、別の身体に己の意思が移された処で自分が己である事に違いは無いのだ。
そうすると白怒火の不可解な言動にも頷ける。
「では、オールド・オスマン。ミス・ヴァリエールのコントラクト・サーヴァントはいかがしましょう?」
「ふむ、神聖な儀式とはいえ流石に人に対して問答無用という訳にもいくまい、事前に説明をするべきであろう。」
「分かりました。ミスタ・白怒火、少々よろしいですかな?」
コルベールの言葉に白怒火は首肯する事で応える。
そんな白怒火にコルベールがルイズの事情を説明しはじめる。彼を召喚したのがルイズである事・学院における神聖な儀式である事・契約が出来ない場合、最悪退学処分になる事。等々。
そして、それを踏まえて彼女の使い魔になって欲しいという自分の希望を告げる。
コルベールの説明が終わった後、白怒火はカメラアイ周辺の装甲を眇めて幾らか考え込む。
変わってしまった己の身体。最早、人であった自分を取り戻すのは不可能であることは明白だった。しかも、機忍である以上、故郷に帰ったとしても碌な事にならないだろう事は想像に難くない。
カメラアイを通常状態に戻してこの部屋にいる人々を見る。興味深そうにこちらを見るコルベールとオスマン翁、そして自分を除いた他の人々よりも圧倒的な気合値を誇る少女の必死な表情を見た時、白怒火の気持は決まった。
「この身では故郷に帰参したとて最早立場も無い、それにこれも何かの縁であろう。
ルイズ殿の使い魔なるその役職、賜ろうではないか。」
「おお!そうですか。それは助かりましたぞミスタ・白怒火。さ、ミス・ヴァリエール。コントラクト・サーヴァントを…」
「は、はい!」
コルベールに言われたルイズは、座っていたソファーから、ぴょこんという感じで立ち上がって白怒火の傍に立った。
立ち上がろうとする白怒火を「いいからそのままで」と留めると、コントラクト・サーヴァントの呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
五つの力を司るペンタゴン
この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そうして仕上げの軽い接吻を口に当たるだろう場所に施す。
コントラクト・サーヴァントを受けた白怒火は軽いパニックに陥っていた。彼の常識では恋仲にもなっていない、ましてや娼婦でもない女性と接吻を交わすなどありえない話だったからだ。
しかし、次の瞬間。白怒火の全身に比喩でもなんでもなく青白い稲光が走った。
白怒火は言葉も出せない程の痛みに苛まれているのか、何も言わずにただ身体をガクガクとのた打ち回っていた。
稲光は白怒火だけではなく、学院長室の中を蹂躙する。ルイズは悲鳴を上げながらしゃがみこみ、一瞬でも早く稲光が収まる様に心の中でひたすら始祖の名を唱え続けた。
室内を走り回った稲光は次第に白怒火の左手に収束していき、やがて静かになる。
伏せていた面を恐る恐る上げたルイズの目には、惨憺たる状況に成り果てた院長室の光景が入ってきた。
同じ様に非難していたオスマン翁やコルベールも、この状況には言葉も出ない様だった。
「やれやれ、えらい目におうてしもうた。」
「ええ、ですが生徒達がいる前でなくて助かりましたな。」
確かにコルベールの言う通り、召喚した直後に契約をしていたら級友達に被害が出た事だろう。下手をすると召喚云々ではなく、そちらの方で退学になる可能性があったのだ。
ルイズはその事に安堵したが、直後にちゃんとコントラクト・サーヴァントに成功したのかと不安に襲われて白怒火の傍に歩み寄る。
身体が動く様になったのか、白怒火は立ち上がって左手を眺めたり擦ったりしていた。
その左手の甲を見たルイズは、其処に見慣れないルーンが刻まれている事を確認して、今度こそ安堵の吐息を吐いた。
「ミスタ・コルベール!契約に成功しました!」
その端正な面に喜びの表情を浮かべて、ルイズはコルベールに報告する。
何といっても東方から来た、人の魂を宿すガーゴイルである。希少価値としてはこれ以上無い存在だろう、しかも今まで見たどのゴーレムやガーゴイルよりも滑らかに動いている。ゴーレムやガーゴイルの製作で名を馳せているガリアであっても、これ程の物は作れない筈だ。まぁ、メイジには敵わないだろうが、護衛とする分には十分過ぎる力量があるだろうとルイズは見ていた。
そんな嬉しそうなルイズを見たコルベールも祝福を述べると、使い魔のルーンを確認するべく白怒火の傍に近付く。
「ミスタ・白怒火、少々左手を見せて頂けますかな?」
コルベールの言葉に白怒火は躊躇い無く左手を翻して、刻まれたルーンを露にする。
そのルーンを見たコルベールは、見慣れない“それ”に眉を顰めると、ルイズの許可を得るとそのルーンを記録した。
「おめでとう、ミス・ヴァリエール。色々あったが契約は確かに成功している、彼の事は色々と言われるかもしれないが、彼
は間違い無く君の使い魔だ。
一応は東方で作られた、自立稼動型のガーゴイルという事にしておいた方が良いだろう。」
「え?ああ、そうですね。分かりました。」
コルベールに返事を返しながらも、そわそわしているルイズに微笑ましいものを感じながらもオスマン翁は釘を刺す。
「少々良いかね?ミス・ヴァリエール。」
いきなり話しかけて来た学院長に、ルイズは緊張しながらも「はい」と返事を返す。
「確かに彼の身体はゴーレムやガーゴイルと同様、人の物では無いじゃろう。しかしじゃ、その魂は人である事を忘れてはならんぞ。
我々は確かにメイジであり貴族でもある。しかし、それ以前に一人の人間であるという事も忘れてはいかん。
平民と我々が呼ぶ彼等と我々が同じ人間である事を忘れた時。貴族の誇りは傲慢に、平民を導く我等の精神たる魔法の力は唯の暴力に成り下がる事じゃろう。
“メイジを見るにはその使い魔を見よ”という、その言葉を心するのじゃぞ、ミス・ヴァリエール」
影で“セクハラ爺”と揶揄されている学院長の二つ名、“オールド(偉大なる)”という二つ名が伊達ではないと思い知らされたルイズは、緊張して上ずった声で「はい」と返事を返すと、白怒火と共に院長室を退室した。
ルイズと白怒火の二人が退室した後、学院長室で二人きりになったオスマン翁とコルベールは、ルイズが呼び出した白怒火という存在について語り合っていた。
「それで、ぶっちゃけどうかね、ミスタ・コルベール。あの白怒火と名乗るキニンは?」
「はぁ、召喚した当初に見た感じでは鋼鉄を素材としたガーゴイルだと思っていたのですが……、まさかあの様な経歴を経ていたとは。」
「うむ、確かにあの話は衝撃じゃったな、己の屍骸を見せられるというのは想像もしたくないわい。
しかし、ヴァリエールの娘も妙な事になったのう。普通に考えれば土と言えるじゃろうが、契約の時の稲光から考えると風かもしれん。」
「ですが、ミスタ・白怒火の事を考えると何とも言えません……。そういえばオールド・オスマン、彼に刻まれていた使い魔のルーンですが、見覚えはありませんか?」
そう言うと、コルベールは白怒火のルーンを記録したメモをオスマン翁に確認してもらう。
メモを渡されたオスマン翁は、受け取ったメモを横にしたり逆さにしたり様々な角度から見てみたが、己の記憶には無いとコルベールに返す事になった。
「使い魔のみならず、ルーンも未見ときたか。ミスタ・コルベール、彼女の成績はどうなのかね?」
「座学は間違い無くトップクラスです、もしかすると学院内にいる生徒で、彼女に知識量で上回る生徒は片手で事足りるのではないでしょうか」
「座学は……ときたか、では実技の方ではどうなのかね?
ヴァリエールの所の娘じゃ、かなりやるんじゃろう?」
コルベールは、期待を込めて尋ねてくるオスマン翁から目を逸らすと言い難そうに返す。
「それが、どういう訳か呪文を唱える度に爆発を起こすのです。その為に級友達から付けられた二つ名が“ゼロ”というものでして……。」
「馬鹿かね?その生徒は、仮にも公爵家の娘じゃぞ?」
「はぁ……」
「教育方針間違ったんじゃろうか?まぁ良い、失敗の鍵はそのルーンを調べれば分かるかもしれん。
ミスタ・コルベール、フィニアのライブラリでそのルーンの事を調べておいてもらえんか?」
「承知致しました。それでは…」
「まぁっ!何事ですのこの惨状は!」
オスマン翁の命に従って学院長室を辞しようと思っていたコルベールと、デスクに肘をついて渋く決めていたオスマン翁の耳に、学院長室の惨状を見て怒り狂ったミス・ロングビルの声が叩きつけられた。
結局その日、コルベールはフィニアのライブラリーに行く事は無かった。
オスマン翁は翌日から数日間、腰痛に悩まされたという。
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