「ゼロと捕獲者」(2009/08/05 (水) 04:11:56) の最新版変更点
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「諸君、決闘だ!」
ギーシュは高らかにそう宣言をする。
すると、周囲の観客は盛り上がった声を上げた。
「よくやるわね」
キュルケは半ば呆れたような声で呟いた。
観客といっても居るのは学院の生徒や教師。
よほど暇だから来たのか。 いいや違う。
彼らは見物に来たのだ。
ギーシュの決闘の相手である平民が、地に這いつくばり許しを乞う、その姿を。
平民でも貴族になれる、『野蛮』と呼ばれるゲルマニアから来た彼女からすれば、その姿は嫌なものでしかなかった。
何故、止めなければならない教師まで居るのだろうか。
いいや、彼らも同じだ。
トリスティンの貴族は多くが平民を格下とし、見下す。
自分と同じ、生きている人間だとは思わない。
平民は貴族に従って当たり前。
それがトリスティンの、ハルキゲニアの長きに渡る因習だった。
悪しき因習、であろう。
平民が貴族に、尊敬の念で従うのならばそれは良い。
だが、大抵の場合が貴族が使う魔法に対する恐怖だ。
『恐怖』で従うということは、相手に逆らえないということ。
逆らわないのでなく逆らえない。
そんな相手を見て育つ貴族がどんな考え方をするのか、考えるまでもない。
平民とは、貴族に従って当たり前。
そんな考え方で育つのだ。
今回の決闘にきっかけは、メイド――否、メイドに扮したルイズの使い魔がギーシュの落とした香水ん拾ったからだった。
使い魔は確かに謝ったのだ。
でも使い魔も理由が理由なだけに、納得がいかなかったのだろう。
悪いのは二股をしていたギーシュであり、親切で拾った使い魔ではない。
使い魔は言ったのだ、「あなたはあの人達を『本当に好き』じゃないの?」と。
それを聞いて周囲のギーシュの友人達は笑った。
だから、謝った使い魔を見てほんの少し『貴族に対する礼儀』を説いただけで終わろうかと思っていたギーシュは、再び怒り、決闘を申し込んだのだった。
主であるルイズが自らの使い魔に駆け寄った。
「ちょっと、何を考えてるの! 謝ればギーシュも許してくれるわ!」
手を引き、使い魔に謝らせようとする。
だが使い魔は動こうとしなかった。
「ダメだよ、そんなの」
使い魔は言う。
「アンタ、分かってるの!? 平民はメイジに勝てないの!」
「でもダメだよ。 あのギーシュさんは、ケティさんとモン……えっと、とにかく二人の事を傷付けたんだよ? 『本当に好き』な一人じゃなくて、好きじゃない二人を傷付けたんだから」
使い魔は毅然として答える。
「ば、バカね! 怪我ですめば良い方なのよ!?」
一瞬気圧され、だがルイズは使い魔の愚行を止めようとする。
『ゼロ』と呼ばれ笑われたルイズ。
そんな自分がやっと呼び出せた使い魔だ、失いたくはない。
だが使い魔は、ゆっくりと首を振った。
「大丈夫」
柔らかく、微笑む。
「絶対、大丈夫だよ」
「ッ――知らないわよ!」
ルイズも諦めたのだろう。
踵を返し、二人を囲む人垣の中に入る。
絶対負ける、そう思いながら。
観客達も、キュルケも、ギーシュも、ルイズも。
ほぼ全員が、平民が負けると思っていた。
「ねぇ、タバサ。 どう思う?」
「…………」
キュルケの隣で本を読んでいたタバサはゆっくりと顔を上げて使い魔を見、すぐに本に視線を戻す。
「普通の平民じゃない」
と、小さく呟いて。
「僕はメイジだからね。
魔法を使わせてもらうよ、異論は無いね?」
「うん」
使い魔は頷く。
ギーシュは軽く笑うと杖を振った。
薔薇の花びらが一枚、はらりと落ちた。
と同時に、花びらは消え一つの鎧に姿を変える。
「僕は『青銅』のギーシュ。 相手をするのは僕のワルキューレさ」
その鎧は女性のような形をしていた。
青銅で出来た鎧。
だが、その強さは平民一人を地に伏すなど簡単である。
「ほぇー……」
使い魔は驚いたような声をあげる。
それを見て、ギーシュは余裕の笑みを浮かべた。
「僕が杖を落とせば君の勝ち、君が『参った』と言えば僕の勝ちだ」
「ねぇ、ギーシュさん」
使い魔が声をかける。
「私が勝ったら、あの二人に謝ってくれる?」
「良いだろう。
もしも君が勝てば、あのケティとモンモランシーに謝るさ」
ギーシュは大胆不敵な笑みを浮かべた。
対する使い魔は安心したような笑みを浮かべた。
「じゃあ私も……」
首から下げたペンダントを取り出す。
ぶら下がっているのは黄色い星が中央にある、鍵。
「なんだい?
故郷の親にでも祈るのかな?」
茶化すギーシュ。
鍵を手のひらに起き、使い魔は目を閉じた。
途端、使い魔から魔力と呼べるものが溢れだした。
とても、強い魔力。
こんな……ギーシュやルイズよりも年下にしか見えない、少女から。
「『星の力を秘めし鍵よ。
真の姿を我の前に示せ』」
ペンダントの紐が外れる。
だが鍵は宙に浮いたままだ。
強い魔力と共に、足元に金色に光る魔方陣が現れる。
中央に星、その周りに太陽と月を現すもの。
「『契約の元、さくらが命じる。
レリーズ
封印解除』!」
使い魔が叫ぶと、鍵に変化が現れた。
鍵の形が変わり、段々と伸びていく。
それはやがて、先端は丸い円を描き外側に小さな羽、内側に星の飾り、ピンクの色をした杖へと変わる。
「き……君は、メイジなのか……!?」
ギーシュは言う。
使い魔は、一枚のピンクをしたカードを取り出した。
女性が描かれ、その端にはこの場の誰もが読めない字が書かれていた。
使い魔はそのカードをギーシュの方に投げる。
杖をまるでバトンの様に回しながら、使い魔は呪文を詠唱した。
「『風よ。
戒めの鎖となれ。
ウインディ
風 !』」
カードが使い魔のすぐそばにまで戻ってくる。
使い魔は、詠唱を終えると同時に杖の先端をカードに当てた。
星の部分が回り、小さな羽が大きく広がる。
カードから光が発せられ、同時に光とも煙ともつかない白く僅かに緑がかった風が現れる。
それらは細かく細く、ギーシュのワルキューレに絡み付く。
まるで、鎖のように。
「くっ、メイジだったなんて思わなかったよ。
なら、油断はしない!」
ギーシュは再び杖を振るう。
数枚の花びらが落ち、青銅のワルキューレに変わった。
剣や槍を持つワルキューレが、使い魔に襲いかかる。
「『かの者の姿を消し、我を危機から遠ざけよ!
イレイズ
消』!」
同じようにカードを取り出し、詠唱をする。
同じく星の部分が回り、羽が大きく広がった。
すると、ワルキューレが全て消えた。
文字通り、音も無く。
「な、な……」
ギーシュは戦慄く。
メイジ、メイジだがこれはどの系統でもない。
水が、風か、土か、炎か。
いいや、どれでもない。
風を使ったが次の魔法は風ではない。
コモンマジックでもない。
そして、たとえどの系統に当てはまろうがこれはドットやラインでは有り得ない。 スクウェアクラスだと言われれば納得するだろう。
「君は、何者なんだ……」
ギーシュは後ろに後退する。
あまりの事に呆然としてしまい、杖を落としていた。 だがそれにも気付かない。
「もう全部捕まえ終わったんだけど……」
使い魔の少女は、まるで花が咲いたかのような笑顔を浮かべた。
捕 獲 者
「カードキャプター、さくらだよ」
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「諸君、決闘だ!」
ギーシュは高らかにそう宣言をする。
すると、周囲の観客は盛り上がった声を上げた。
「よくやるわね」
キュルケは半ば呆れたような声で呟いた。
観客といっても居るのは学院の生徒や教師。
よほど暇だから来たのか。 いいや違う。
彼らは見物に来たのだ。
ギーシュの決闘の相手である平民が、地に這いつくばり許しを乞う、その姿を。
平民でも貴族になれる、『野蛮』と呼ばれるゲルマニアから来た彼女からすれば、その姿は嫌なものでしかなかった。
何故、止めなければならない教師まで居るのだろうか。
いいや、彼らも同じだ。
トリスティンの貴族は多くが平民を格下とし、見下す。
自分と同じ、生きている人間だとは思わない。
平民は貴族に従って当たり前。
それがトリスティンの、ハルキゲニアの長きに渡る因習だった。
悪しき因習、であろう。
平民が貴族に、尊敬の念で従うのならばそれは良い。
だが、大抵の場合が貴族が使う魔法に対する恐怖だ。
『恐怖』で従うということは、相手に逆らえないということ。
逆らわないのでなく逆らえない。
そんな相手を見て育つ貴族がどんな考え方をするのか、考えるまでもない。
平民とは、貴族に従って当たり前。
そんな考え方で育つのだ。
今回の決闘のきっかけは、メイド――否、メイドに扮したルイズの使い魔がギーシュの落とした香水を拾ったからだった。
使い魔は確かに謝ったのだ。
でも使い魔も理由が理由なだけに、納得がいかなかったのだろう。
悪いのは二股をしていたギーシュであり、親切で拾った使い魔ではない。
使い魔は言ったのだ、「あなたはあの人達を『本当に好き』じゃないの?」と。
それを聞いて周囲のギーシュの友人達は笑った。
だから、謝った使い魔を見てほんの少し『貴族に対する礼儀』を説いただけで終わろうかと思っていたギーシュは、再び怒り、決闘を申し込んだのだった。
主であるルイズが自らの使い魔に駆け寄った。
「ちょっと、何を考えてるの! 謝ればギーシュも許してくれるわ!」
手を引き、使い魔に謝らせようとする。
だが使い魔は動こうとしなかった。
「ダメだよ、そんなの」
使い魔は言う。
「アンタ、分かってるの!? 平民はメイジに勝てないの!」
「でもダメだよ。 あのギーシュさんは、ケティさんとモン……えっと、とにかく二人の事を傷付けたんだよ? 『本当に好き』な一人じゃなくて、好きじゃない二人を傷付けたんだから」
使い魔は毅然として答える。
「ば、バカね! 怪我ですめば良い方なのよ!?」
一瞬気圧され、だがルイズは使い魔の愚行を止めようとする。
『ゼロ』と呼ばれ笑われたルイズ。
そんな自分がやっと呼び出せた使い魔だ、失いたくはない。
だが使い魔は、ゆっくりと首を振った。
「大丈夫」
柔らかく、微笑む。
「絶対、大丈夫だよ」
「ッ――知らないわよ!」
ルイズも諦めたのだろう。
踵を返し、二人を囲む人垣の中に入る。
絶対負ける、そう思いながら。
観客達も、キュルケも、ギーシュも、ルイズも。
ほぼ全員が、平民が負けると思っていた。
「ねぇ、タバサ。 どう思う?」
「…………」
キュルケの隣で本を読んでいたタバサはゆっくりと顔を上げて使い魔を見、すぐに本に視線を戻す。
「普通の平民じゃない」
と、小さく呟いて。
「僕はメイジだからね。
魔法を使わせてもらうよ、異論は無いね?」
「うん」
使い魔は頷く。
ギーシュは軽く笑うと杖を振った。
薔薇の花びらが一枚、はらりと落ちた。
と同時に、花びらは消え一つの鎧に姿を変える。
「僕は『青銅』のギーシュ。 相手をするのは僕のワルキューレさ」
その鎧は女性のような形をしていた。
青銅で出来た鎧。
だが、その強さは平民一人を地に伏すなど簡単である。
「ほぇー……」
使い魔は驚いたような声をあげる。
それを見て、ギーシュは余裕の笑みを浮かべた。
「僕が杖を落とせば君の勝ち、君が『参った』と言えば僕の勝ちだ」
「ねぇ、ギーシュさん」
使い魔が声をかける。
「私が勝ったら、あの二人に謝ってくれる?」
「良いだろう。
もしも君が勝てば、あのケティとモンモランシーに謝るさ」
ギーシュは大胆不敵な笑みを浮かべた。
対する使い魔は安心したような笑みを浮かべた。
「じゃあ私も……」
首から下げたペンダントを取り出す。
ぶら下がっているのは黄色い星が中央にある、鍵。
「なんだい?
故郷の親にでも祈るのかな?」
茶化すギーシュ。
鍵を手のひらに起き、使い魔は目を閉じた。
途端、使い魔から魔力と呼べるものが溢れだした。
とても、強い魔力。
こんな……ギーシュやルイズよりも年下にしか見えない、少女から。
「『星の力を秘めし鍵よ。
真の姿を我の前に示せ』」
ペンダントの紐が外れる。
だが鍵は宙に浮いたままだ。
強い魔力と共に、足元に金色に光る魔法陣が現れる。
中央に星、その周りに太陽と月を現すもの。
「『契約の元、さくらが命じる。
レリーズ
封印解除』!」
使い魔が叫ぶと、鍵に変化が現れた。
鍵の形が変わり、段々と伸びていく。
それはやがて、先端は丸い円を描き外側に小さな羽、内側に星の飾り、ピンクの色をした杖へと変わる。
「き……君は、メイジなのか……!?」
ギーシュは言う。
使い魔は、一枚のピンクをしたカードを取り出した。
女性が描かれ、その端にはこの場の誰もが読めない字が書かれていた。
使い魔はそのカードをギーシュの方に投げる。
杖をまるでバトンの様に回しながら、使い魔は呪文を詠唱した。
「『風よ。
戒めの鎖となれ。
ウインディ
風 !』」
カードが使い魔のすぐそばにまで戻ってくる。
使い魔は、詠唱を終えると同時に杖の先端をカードに当てた。
星の部分が回り、小さな羽が大きく広がる。
カードから光が発せられ、同時に光とも煙ともつかない白く僅かに緑がかった風が現れる。
それらは細かく細く、ギーシュのワルキューレに絡み付く。
まるで、鎖のように。
「くっ、メイジだったなんて思わなかったよ。
なら、油断はしない!」
ギーシュは再び杖を振るう。
数枚の花びらが落ち、青銅のワルキューレに変わった。
剣や槍を持つワルキューレが、使い魔に襲いかかる。
「『かの者の姿を消し、我を危機から遠ざけよ!
イレイズ
消』!」
同じようにカードを取り出し、詠唱をする。
同じく星の部分が回り、羽が大きく広がった。
すると、ワルキューレが全て消えた。
文字通り、音も無く。
「な、な……」
ギーシュは戦慄く。
メイジ、メイジだがこれはどの系統でもない。
水か、風か、土か、炎か。
いいや、どれでもない。
風を使ったが次の魔法は風ではない。
コモンマジックでもない。
そして、たとえどの系統に当てはまろうがこれはドットやラインでは有り得ない。 スクウェアクラスだと言われれば納得するだろう。
「君は、何者なんだ……」
ギーシュは後ろに後退する。
あまりの事に呆然としてしまい、杖を落としていた。 だがそれにも気付かない。
「もう全部捕まえ終わったんだけど……」
使い魔の少女は、まるで花が咲いたかのような笑顔を浮かべた。
捕 獲 者
「カードキャプター、さくらだよ」
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