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「聖樹、ハルケギニアへ-05」(2010/11/18 (木) 22:11:45) の最新版変更点
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#navi(聖樹、ハルキゲニアへ)
聖樹、ハルケギニアへ―5
「オオオオオオオオオールドドドドオ、オス、マン!
早く!早く見つけてください!」
「ええい!静かにせんかい!気が散って見付けられるものも見つけられんわい!」
エクスデスがギーシュを掴んで姿を消したころ、学院長室では二人の男が大騒ぎしていた。
といっても、主に騒いでいるのは教師のコルベールで学院長のオスマンは彼に揺さぶられる様にされているだけだが。
「しかし・・・お主の見間違いじゃないかのう?」
「いいえ!見間違いではありません!ほら!この通り!間違いないでしょう!」
ずい、とライブラリから持ってきた本に記されたルーンとエクスデスの手に浮かんだルーンのスケッチをオスマンの前に突き出す。
「ああもう!鏡が見えんじゃろう!」
言いつつも二つのルーンを見比べる目は真剣だった。
「ミス・ヴァリエールの使い魔のあのまも・・・いえ、彼は「ガンダールヴ」です!
とんでもないことですよ!伝説の復活です!」
(伝説の使い魔ガンダールヴ・・・あの異形の者がのう・・・)
「ところで見つかりましたか!?」
思考を大声で遮られオスマンは眉をしかめるが、まずは探査に集中することにした。
ミス・ロングビルの報告で当の使い魔ことエクスデスが学園の生徒と決闘するというかと思えば突然コルベールが駆け込んできて大騒ぎしそうになり、慌ててミス・ロングビルにその場を外してもらった。
「眠りの鐘」の使用も考えたが、グラモン家のバカ息子はともかく、エクスデスに果たして通用するか考えたのだ。
使い魔召喚の日、一人一人の生徒の使い魔達を鏡を使って見ていたのだが、最後にやってきたエクスデスを見ているとき、ふと、こちらを見ているように見えたのだ。
いや、あれは間違いなく自分の存在を知覚していた。
遠見ごしに殺気を感じるなど、長い間生きてきたが初めてのことだった。
それもただの殺気ではなく、まるで暗い穴に飲み込まれるかのような感覚。
あんな気を放つ相手とは自分だったらなんとしても対決を避けようとしただろう。
しかしそれは長年の勘が警告する物。
まだ年若いギーシュでは感じなかったかもしれない。
だからこそ、合意の上の決闘とはいえ万が一を考え見張っていたが、まさかこんなことに
なるとは。
(何事も起きていないでくれれば良いんじゃが・・・)
オスマンは再び鏡の捜査に集中し、見あたらない学園のあちこちの探査をやめ、手掛かりを見つけるために消失現場であるヴェストリの広場をもう一度映した。
「・・・・・・・?」
エクスデスに肩を掴まれて何をされるのかと咄嗟に目を閉じ、手で簡単に庇う姿勢は取った。
が、あれから何かをされる気配がない。
てっきり殴られるか斬られるかされるかと思ったが、一瞬体が浮いた感覚の後に肩を掴んでいた手が離れるのが分かった。
なんで離したのかは分からないが、それから何をされるのか。
正直どう動けばいいのかさっぱりでギーシュは防御体勢が崩せない。
「・・・・・・・・・」
しかしいつまでもこうしている分けにもいかないので、意を決して恐る恐る目を開けていく、手の防御態勢は崩さないまま。
「ようやく動く気になったか?」
「!」
聞き覚えのある声を耳にして正面を見る。
その先にはエクスデスが刃を下に向け、柄に両手を置きながら立っていた。
「くっ!一体何のつもりなんだ!」
エクスデスの雰囲気、また先の圧倒的な実力差を思い出して押されそうになるがギーシュはこらえて精一杯力んで見せた。
だが正直恐ろしさは隠しきれない。
握った手や足が微妙に震え、堪えようとしても堪え切れなかった。
「特に何をした、ということはない。
あの広場では喧しくなりそうでな、少しばかり話をしたいと思ったまでだ」
「ぼ、僕に話は無い!」
そんなギーシュの様子にエクスデスは満足気にふむ、と小さく頷いた。
「最初に見たときはただの気取り屋かと思ったが・・・。
なかなか肝が据わっているようだな」
「え・・・?」
まさか褒められるとは思っていなかったのでギーシュは驚いた。
「一つは力の差があると分かったであろう相手にも再び吠えつく度胸。
もう一つは・・・」
「もう一つは・・・?」
「突如こんな場所に連れてこられても全く動じないところ、と言ったところか」
「へ?」
エクスデスの言ったことが一瞬理解できなかったが、
「こんな場所と言ってもここは広場に決まって・・・・」
辺りを見渡したギーシュの時が止まった。
真っ青な空、地面も無い大空の真っただ中、雲がとても近い、いや自分の体を包むように通り抜けていく。
近いという問題ではない。
触れた。
そんな自分は白く輝く円の上にいる。
不思議な模様の描かれた不思議な円で術の類の陣にも見える。
円の下、遥か真下のほうに見える小さな建物は学園だろうか。
風が吹いてばさばさっとマントが翻る。
エクスデスのマントも同じように翻る。
「・・・・・・・・・・・」
大空の真っただ中。
レビテーションは使っていない。
というより、杖が無い。
なのに自分は浮いている、というより、空中に立っている。
「では聞こう。 おま」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ギーシュ・ド・グラモンは後に語った。
あんなに大声を出したのは今まで生きてきてあの時だけだったよ、と。
ギーシュがこの世の終わりのような魂の叫びを上げている一方その頃、決闘の場だったヴ
ェストリの広場は大混乱になっていた。
「いない!やっぱりどこにもいないぞ!」
「消えちまった!ルイズの使い魔もろともギーシュが消えた!」
「どうやったら一瞬で消えるなんて出来るのよ!魔法!?」
「あいつは芸人だろ!?手品か何かじゃないのか!?」
「手品や芸にしては凄まじすぎるだろ!」
ただの貴族による平民への制裁のはずが、予想を大きく外れる展開に多くの生徒が付いて
いけなくなり、大騒ぎとなっていた。
二人を探して右往左往する者、未だに放心状態で固まっているもの、騒ぎに刺激され暴れ
だした自分の使い魔にノックアウトされる者。
平和なはずの学園の広場はお祭りの前日のような慌ただしさとなっていた。
「ど、どうするのよルイズ!」
「わわわ、わたっわたしにどうしろってのよ!」
その喧騒に紛れてルイズとキュルケが言い争いをしている。
「どう見てもあなたの使い魔がやったとしか思えないじゃないの!」
「そ、そうかもしれないけど!
あんなことが出来るなんて聞いてないわよ!」
(エクスデス!あいつ何やってるのよぉ!)
キュルケに肩を掴まれて揺さぶられながら、心の中ではルイズは泣きたいぐらいだった。
「ルイズ・・・・」
そこへモンモランシーがやって来た。
「待って、待って!今取り込みちゅ・・・・・・」
今これ以上の問題はお断りしようとしたモンモランシーの顔を見たルイズは言葉を失った。
表情は険しく、不安と焦りが入り混じってように青冷めているのだ。
キュルケもその様子にルイズを揺さぶる手を止める。
「・・・・ルイズ」
「な、なに」
不意近寄って来たと思えば急に手を掴まれたのだ。
そのまま膝を折ってルイズを見つめる。
その目には涙が浮かんできていた。
「・・・お願いルイズ!ギーシュを許してあげて!」
(ええっ!?)
「確かにギーシュは勝手だけど! ただ変にプライドが高いだけなの!
あなたの使い魔に当たり散らしたのは本当に、本当にごめんなさい!」
(い、いやちょっとわたしに謝られても!というよりなんでモンモランシーが謝るのよ!)
「本当に悪気があったわけじゃない!だから・・・だから命だけは助けてあげて!」
「わたしにそんなこと言われても!落ち着いて!」
モンモランシーの涙ながらの助命嘆願が加わりルイズの頭の中はぐっちゃぐちゃだ。
(あああああ!エクスデス!早く!早く戻って!・・・・・)
「さっさと戻ってきなさいよ!ばか―――――――っ!!」
ルイズは空に向かって叫びあげた。
(ルイズに呼ばれたか?)
そんな気がしたが、今声が届く距離に居るわけがないので気のせいだとしておくことにし
た。
そんなエクスデスは白い陣の上に胡坐をかくように座っている。
その前ではギーシュが正座をしてうつ向き気味に座っていた。
(ようやく落ち着いたか)
というのもさっきは自分すら驚く程の大声で叫んだ挙句、こっちに向かって飛びついてき
たのだ。
流石に顔にしがみつかれた時は参った。
引きはがすのにもどこにこれだけ力があるのかと思うほど手を焼いたのだ。
「それで僕に・・・話というのは?」
「それなのだが・・・」
攻撃される気配は無いので安心はしているものの、何を言われるか分からずゴクリと唾を飲み込む。
「お前はモンモランシーとケティという娘のどちらを好いているのだ?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
「いや、お前の様子からするに他にも声をかけた者はいるか。
訂正する、誰を好いているのだ」
「キ、キミには関係ないことだろう!」
予想だにしなかった質問にギーシュは慌てふためく。
内容は同じだが、友人の男子生徒達に茶化される様に聞かれるのと一対一で真面目に聞かれるのでは感じがまるで異なる。
前者は適当にあしらえばいいが、こういった場合は想定していなかった。
急用のふりをして逃げようにもここから飛び降りるなど出来るわけがない。
いや、その前に正面に鎮座するエクスデスが逃がしてはくれないだろう。
「いや、大いにある!
私はその問題に巻き込まれた揚句にお前と決闘することとなったのだからな」
「ぐ」
そう言われると弱い。
今になって考えてみると食堂の時の自分の行動が情けなくなる。
半ば八つ当たり気味に決闘を行い、エクスデスを叩きのめしてもやもやとした気持ちを晴らそうとした結果がこれだ。
「それで先程の質問だが、特定の相手はいないのだな?」
「・・・・」
「沈黙は肯定ととるが」
何と言えばいいか分からず黙ったままになってしまう。
「安心したぞ。
それならばあの娘達を私の物にしようともなにも問題は無いな。
そうだな・・・あの金髪の娘はなかなか悪くない」
「!」
エクスデスの言葉にギーシュが立ち上がる。
「モンモランシーは渡さない!」
考える前に言葉は出ていた。
きっとエクスデスを強い意志で見据えている。
「・・・ほう」
ギーシュの怒気をはらんだ言葉にも動じることなくエクスデスは構えて、
「私より弱いお前が止められると思うか?」
若干語気を強めて尋ねる。
「それでもモンモランシーは渡さない!」
ギーシュも臆することなく言い張った。
そのままお互いにらみ合いになりそうだったがそうはならなかった。
「ファッファッファッファッファッ!」
「!?」
突然の大笑いにギーシュはびくっとなる。
エクスデスは行動がまるで読めず、一挙一動にこちらが驚かされるばかりだ。
「いるではないか、 好意をもっている相手が。
高らかに名を叫ぶほどの」
「!い、いや今のはそのあの・・・!」
ギーシュはまんまとエクスデスの誘導尋問に引っ掛かってしまったのだ。
(適当に名を挙げてみただけなのだがな・・・)
エクスデスとしては一発目で当たるとは思っていなかった。
おたおたとするギーシュに座るように言う。
「だがギーシュよ、 それ程思う相手ならば何故他の娘にまで手を出す?
一人では満足出来ないとでも言うか?」
「そ、そんなことは!」
「ならば私が言いたいことは分かるな?
モンモランシーにその正直な気持ちを伝えるがいい。
お前は今のままでいいかもしれないが、あの娘がどう思っているやらな。
それと、他の手を出した者たちに詫びを忘れないことだ」
(このままで続ければ、嫉妬の感情を芽生えさせる者も出てくるであろう。
そうなればまたいらぬ諍いに巻き込まれる者がでるやもしれんしな)
正論だ。
言い返すことなどまるで出来ず、その場に力なくへたり込んでしまった。
「僕は何をやっていたんだろう・・・」
ギーシュの様子にエクスデスは満足した。
これで問題は片付いたか。
高度があるので強い風を魔力で抑えていて、吹きつけてくる風はそよそよと心地よい。
(思ったより長居をしてしまったか)
エクスデスは立ち上がるとギーシュに手を差し出した。
「そろそろ下に待っている者がしびれを切らすだろう、戻るとしよう」
「ところでタバサ。
さっきから空を見上げてるみたいだけど何かあるの?」
「・・・・・・・」
タバサはエクスデスとギーシユがいなくなった後、しばらくしてから不意に空を見上げだしたのだ。
キュルケもつられて見てみるが青空と雲ばかりでなにも他にはないように見える。
「まぁ、この騒ぎから目を背けたい気持ちも分からないでもないけど・・・」
「来る」
「え」
何が来るのだろう。
タバサは視線を下ろし、立ち上がるとルイズとそれにしがみ付いているモンモランシーの所に近づいていく。
「そこは危険。 離れたほうがいい」
「これ以上何が起こるっての―」
やっとモンモランシーを引きはがしたルイズがタバサに向きなおった瞬間。
白い光と共にその場にエクスデスと、お姫様だっこにされているギーシュが現れた。
「今戻った」
「えっえええっ!」
いなくなったはずの二人が突然現れてキュルケは何がなんだか分からない。
他の生徒たちも一様にポカンとしている。
モンモランシーも何が起こったのかという顔をしていたがギーシュの姿を見てすぐさま駆け寄ってきた。
「ギーシュ!」
「モンモランシー!」
ギーシュもすぐさま駆け寄ろうとするが、足がどうにもおぼつかない。
「無事で良かった!」
「心配してくれていたのかい!?
ああ、僕は間違っていたよ!
君にはいろいろと謝らなくちゃならない」
もういつもの調子に戻ったようだ。
ギーシュはその場その場の適応が早いのかもしれないとエクスデスは思った。
「ギーシュ」
エクスデスは腰元の紫色の小さな球体を一つ取るとギーシュに渡した。
「これは?」
「これを水にでも溶かして飲むがいい、失われた魔力を少しは回復させるだろう。
あとは寝て休むがいい」
ギーシュの体を支えているモンモランシーがその球体をいぶかしげに見つめる。
「毒・・・とかじゃない?」
「それはない。 命を奪うなら二人だけの時にもう実行しているはず」
ギーシュがそれはないよと言う前に、タバサがそれを否定した。
「そういうことだ」
エクスデスもそれに合わせる。
「いろいろとすまなかった。 後日改めて謝罪させてもらうよ」
そういうとギーシュはモンモランシーに支えられながら学園のほうへと歩いて行き、
それを数人の生徒も追いかけていった。
見送ったエクスデスは隣にいるタバサにそれとなく話しかける。
「上空にいることに気づいていたか」
「・・・・・」
タバサは無言で小さく頷く。
「お前とも一度話がしたいのだが」
「私もあなたに聞きたいことがある」
「ではこのあとにで、もうっ!?」
エクスデスは膝の裏側に衝撃をうけて崩れそうになる、がなんとか堪えて後ろを振り返る。
そこには、
「あんたねぇ・・・・!
勝手にいなくなった挙句、戻って来たとたんにご主人様をぶっとばすとか・・・」
磁場転換に巻き込まれて吹き飛ばされて顔から地面に突っ込んだのだろう。
服は所々汚れ、顔には土が付いている。
髪の毛もぼさぼさだ。
青筋が額に浮いているようにも見える。
「待て!これには訳が!
「問 答 無 用!!!あんたには徹底的な調教が必要!」
「タバ・・・」
タバサにも説明をしてくれるよう求めようとしたが、当の本人は既にその場から離脱していた。
ルイズの杖がバチバチ音を立てて閃光を放った。
「ファ―――――――!!!」
爆発にエクスデスは直撃を受けて学園の方に飛んで行った。
「・・・・・・
一体なんだったのかしら今日は」
当事者達でもないのにキュルケはどっと疲れた気がした。
考えても仕方がないので、今日は早めに休もうと思うだけにした。
「はぁ~~~~~~良かった・・・本当に」
べちゃりとコルベールが崩れ落ちる。
オスマンも髭をなで下ろしてふうと息を吐く。
「まさか上空にいるとは思いませんでしたよ。
生徒の一人が空を見ていなかったら考えもしませんでしたね」
「約束を守って傷つけるような真似はせず、説教だけですませたようじゃ。
ミスタ・コルベール?
少し疑い過ぎたようじゃな、彼を」
「はい。
ミス・ヴァリエールに彼を信じろと言ったのに、わたしは疑ってしまいました。
・・・情けない限りです」
「現にあの娘と今のところはうまくやっとるようじゃしな」
「はい・・・・」
項垂れるコルベール。
唯でさえ冴えない顔がさらに暗くなっている。
「うむ、まぁそれでこの話は終わりじゃが・・・。
君は今回の彼の力はガンダールヴの物じゃと思うかね?」
「・・・正直分かりません。
ですが、彼がガンダールヴに関する知識を既に承知していてその力をふるっているとは思えないのです。いくらなんでも早すぎます。
それにあの慣れたような戦い方は、彼が昔から身につけていた実力のような気がします」
「同感じゃ」
「ガンダールヴは千人の軍隊をものともせずにうち破るとは聞いていますが・・・」
「今日のあれでも全く本気じゃなかろう。
もし本気を出したら千人、いや万の軍勢でも一捻りかもしれん」
元の実力でそれならば、それにガンダールヴの力が加わったら・・・
「ミスタ・コルベール。
この一件はワシが全責任を持って預かる。
他言無用じゃ。二人だけの秘密にする。
特に王室などにこの件がばれたら・・・」
「発覚すれば・・・」
「たちまち王室のボンクラどもが各国に宣戦布告をするかもしれん。
彼はおろか主である彼女、ミス・ヴェリエールも最前線送りになるじゃろう」
「はい。それはなんとしても避けなければならないことです!」
(彼に戦いを強要したり命令することをしたならば逆鱗に触れるかもしれない・・・!)
「うむ」
(彼とは一度ワシからも話をしておいたほうが良さそうじゃな)
オスマンは目を閉じた。
神の左手ガンダールヴ
勇猛果敢な神の盾
左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる
了
#navi(聖樹、ハルキゲニアへ)
#navi(聖樹、ハルケギニアへ)
聖樹、ハルケギニアへ―5
「オオオオオオオオオールドドドドオ、オス、マン!
早く!早く見つけてください!」
「ええい!静かにせんかい!気が散って見付けられるものも見つけられんわい!」
エクスデスがギーシュを掴んで姿を消したころ、学院長室では二人の男が大騒ぎしていた。
といっても、主に騒いでいるのは教師のコルベールで学院長のオスマンは彼に揺さぶられる様にされているだけだが。
「しかし・・・お主の見間違いじゃないかのう?」
「いいえ!見間違いではありません!ほら!この通り!間違いないでしょう!」
ずい、とライブラリから持ってきた本に記されたルーンとエクスデスの手に浮かんだルーンのスケッチをオスマンの前に突き出す。
「ああもう!鏡が見えんじゃろう!」
言いつつも二つのルーンを見比べる目は真剣だった。
「ミス・ヴァリエールの使い魔のあのまも・・・いえ、彼は「ガンダールヴ」です!
とんでもないことですよ!伝説の復活です!」
(伝説の使い魔ガンダールヴ・・・あの異形の者がのう・・・)
「ところで見つかりましたか!?」
思考を大声で遮られオスマンは眉をしかめるが、まずは探査に集中することにした。
ミス・ロングビルの報告で当の使い魔ことエクスデスが学園の生徒と決闘するというかと思えば突然コルベールが駆け込んできて大騒ぎしそうになり、慌ててミス・ロングビルにその場を外してもらった。
「眠りの鐘」の使用も考えたが、グラモン家のバカ息子はともかく、エクスデスに果たして通用するか考えたのだ。
使い魔召喚の日、一人一人の生徒の使い魔達を鏡を使って見ていたのだが、最後にやってきたエクスデスを見ているとき、ふと、こちらを見ているように見えたのだ。
いや、あれは間違いなく自分の存在を知覚していた。
遠見ごしに殺気を感じるなど、長い間生きてきたが初めてのことだった。
それもただの殺気ではなく、まるで暗い穴に飲み込まれるかのような感覚。
あんな気を放つ相手とは自分だったらなんとしても対決を避けようとしただろう。
しかしそれは長年の勘が警告する物。
まだ年若いギーシュでは感じなかったかもしれない。
だからこそ、合意の上の決闘とはいえ万が一を考え見張っていたが、まさかこんなことに
なるとは。
(何事も起きていないでくれれば良いんじゃが・・・)
オスマンは再び鏡の捜査に集中し、見あたらない学園のあちこちの探査をやめ、手掛かりを見つけるために消失現場であるヴェストリの広場をもう一度映した。
「・・・・・・・?」
エクスデスに肩を掴まれて何をされるのかと咄嗟に目を閉じ、手で簡単に庇う姿勢は取った。
が、あれから何かをされる気配がない。
てっきり殴られるか斬られるかされるかと思ったが、一瞬体が浮いた感覚の後に肩を掴んでいた手が離れるのが分かった。
なんで離したのかは分からないが、それから何をされるのか。
正直どう動けばいいのかさっぱりでギーシュは防御体勢が崩せない。
「・・・・・・・・・」
しかしいつまでもこうしている分けにもいかないので、意を決して恐る恐る目を開けていく、手の防御態勢は崩さないまま。
「ようやく動く気になったか?」
「!」
聞き覚えのある声を耳にして正面を見る。
その先にはエクスデスが刃を下に向け、柄に両手を置きながら立っていた。
「くっ!一体何のつもりなんだ!」
エクスデスの雰囲気、また先の圧倒的な実力差を思い出して押されそうになるがギーシュはこらえて精一杯力んで見せた。
だが正直恐ろしさは隠しきれない。
握った手や足が微妙に震え、堪えようとしても堪え切れなかった。
「特に何をした、ということはない。
あの広場では喧しくなりそうでな、少しばかり話をしたいと思ったまでだ」
「ぼ、僕に話は無い!」
そんなギーシュの様子にエクスデスは満足気にふむ、と小さく頷いた。
「最初に見たときはただの気取り屋かと思ったが・・・。
なかなか肝が据わっているようだな」
「え・・・?」
まさか褒められるとは思っていなかったのでギーシュは驚いた。
「一つは力の差があると分かったであろう相手にも再び吠えつく度胸。
もう一つは・・・」
「もう一つは・・・?」
「突如こんな場所に連れてこられても全く動じないところ、と言ったところか」
「へ?」
エクスデスの言ったことが一瞬理解できなかったが、
「こんな場所と言ってもここは広場に決まって・・・・」
辺りを見渡したギーシュの時が止まった。
真っ青な空、地面も無い大空の真っただ中、雲がとても近い、いや自分の体を包むように通り抜けていく。
近いという問題ではない。
触れた。
そんな自分は白く輝く円の上にいる。
不思議な模様の描かれた不思議な円で術の類の陣にも見える。
円の下、遥か真下のほうに見える小さな建物は学園だろうか。
風が吹いてばさばさっとマントが翻る。
エクスデスのマントも同じように翻る。
「・・・・・・・・・・・」
大空の真っただ中。
レビテーションは使っていない。
というより、杖が無い。
なのに自分は浮いている、というより、空中に立っている。
「では聞こう。 おま」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ギーシュ・ド・グラモンは後に語った。
あんなに大声を出したのは今まで生きてきてあの時だけだったよ、と。
ギーシュがこの世の終わりのような魂の叫びを上げている一方その頃、決闘の場だったヴ
ェストリの広場は大混乱になっていた。
「いない!やっぱりどこにもいないぞ!」
「消えちまった!ルイズの使い魔もろともギーシュが消えた!」
「どうやったら一瞬で消えるなんて出来るのよ!魔法!?」
「あいつは芸人だろ!?手品か何かじゃないのか!?」
「手品や芸にしては凄まじすぎるだろ!」
ただの貴族による平民への制裁のはずが、予想を大きく外れる展開に多くの生徒が付いて
いけなくなり、大騒ぎとなっていた。
二人を探して右往左往する者、未だに放心状態で固まっているもの、騒ぎに刺激され暴れ
だした自分の使い魔にノックアウトされる者。
平和なはずの学園の広場はお祭りの前日のような慌ただしさとなっていた。
「ど、どうするのよルイズ!」
「わわわ、わたっわたしにどうしろってのよ!」
その喧騒に紛れてルイズとキュルケが言い争いをしている。
「どう見てもあなたの使い魔がやったとしか思えないじゃないの!」
「そ、そうかもしれないけど!
あんなことが出来るなんて聞いてないわよ!」
(エクスデス!あいつ何やってるのよぉ!)
キュルケに肩を掴まれて揺さぶられながら、心の中ではルイズは泣きたいぐらいだった。
「ルイズ・・・・」
そこへモンモランシーがやって来た。
「待って、待って!今取り込みちゅ・・・・・・」
今これ以上の問題はお断りしようとしたモンモランシーの顔を見たルイズは言葉を失った。
表情は険しく、不安と焦りが入り混じってように青冷めているのだ。
キュルケもその様子にルイズを揺さぶる手を止める。
「・・・・ルイズ」
「な、なに」
不意近寄って来たと思えば急に手を掴まれたのだ。
そのまま膝を折ってルイズを見つめる。
その目には涙が浮かんできていた。
「・・・お願いルイズ!ギーシュを許してあげて!」
(ええっ!?)
「確かにギーシュは勝手だけど! ただ変にプライドが高いだけなの!
あなたの使い魔に当たり散らしたのは本当に、本当にごめんなさい!」
(い、いやちょっとわたしに謝られても!というよりなんでモンモランシーが謝るのよ!)
「本当に悪気があったわけじゃない!だから・・・だから命だけは助けてあげて!」
「わたしにそんなこと言われても!落ち着いて!」
モンモランシーの涙ながらの助命嘆願が加わりルイズの頭の中はぐっちゃぐちゃだ。
(あああああ!エクスデス!早く!早く戻って!・・・・・)
「さっさと戻ってきなさいよ!ばか―――――――っ!!」
ルイズは空に向かって叫びあげた。
(ルイズに呼ばれたか?)
そんな気がしたが、今声が届く距離に居るわけがないので気のせいだとしておくことにし
た。
そんなエクスデスは白い陣の上に胡坐をかくように座っている。
その前ではギーシュが正座をしてうつ向き気味に座っていた。
(ようやく落ち着いたか)
というのもさっきは自分すら驚く程の大声で叫んだ挙句、こっちに向かって飛びついてき
たのだ。
流石に顔にしがみつかれた時は参った。
引きはがすのにもどこにこれだけ力があるのかと思うほど手を焼いたのだ。
「それで僕に・・・話というのは?」
「それなのだが・・・」
攻撃される気配は無いので安心はしているものの、何を言われるか分からずゴクリと唾を飲み込む。
「お前はモンモランシーとケティという娘のどちらを好いているのだ?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
「いや、お前の様子からするに他にも声をかけた者はいるか。
訂正する、誰を好いているのだ」
「キ、キミには関係ないことだろう!」
予想だにしなかった質問にギーシュは慌てふためく。
内容は同じだが、友人の男子生徒達に茶化される様に聞かれるのと一対一で真面目に聞かれるのでは感じがまるで異なる。
前者は適当にあしらえばいいが、こういった場合は想定していなかった。
急用のふりをして逃げようにもここから飛び降りるなど出来るわけがない。
いや、その前に正面に鎮座するエクスデスが逃がしてはくれないだろう。
「いや、大いにある!
私はその問題に巻き込まれた揚句にお前と決闘することとなったのだからな」
「ぐ」
そう言われると弱い。
今になって考えてみると食堂の時の自分の行動が情けなくなる。
半ば八つ当たり気味に決闘を行い、エクスデスを叩きのめしてもやもやとした気持ちを晴らそうとした結果がこれだ。
「それで先程の質問だが、特定の相手はいないのだな?」
「・・・・」
「沈黙は肯定ととるが」
何と言えばいいか分からず黙ったままになってしまう。
「安心したぞ。
それならばあの娘達を私の物にしようともなにも問題は無いな。
そうだな・・・あの金髪の娘はなかなか悪くない」
「!」
エクスデスの言葉にギーシュが立ち上がる。
「モンモランシーは渡さない!」
考える前に言葉は出ていた。
きっとエクスデスを強い意志で見据えている。
「・・・ほう」
ギーシュの怒気をはらんだ言葉にも動じることなくエクスデスは構えて、
「私より弱いお前が止められると思うか?」
若干語気を強めて尋ねる。
「それでもモンモランシーは渡さない!」
ギーシュも臆することなく言い張った。
そのままお互いにらみ合いになりそうだったがそうはならなかった。
「ファッファッファッファッファッ!」
「!?」
突然の大笑いにギーシュはびくっとなる。
エクスデスは行動がまるで読めず、一挙一動にこちらが驚かされるばかりだ。
「いるではないか、 好意をもっている相手が。
高らかに名を叫ぶほどの」
「!い、いや今のはそのあの・・・!」
ギーシュはまんまとエクスデスの誘導尋問に引っ掛かってしまったのだ。
(適当に名を挙げてみただけなのだがな・・・)
エクスデスとしては一発目で当たるとは思っていなかった。
おたおたとするギーシュに座るように言う。
「だがギーシュよ、 それ程思う相手ならば何故他の娘にまで手を出す?
一人では満足出来ないとでも言うか?」
「そ、そんなことは!」
「ならば私が言いたいことは分かるな?
モンモランシーにその正直な気持ちを伝えるがいい。
お前は今のままでいいかもしれないが、あの娘がどう思っているやらな。
それと、他の手を出した者たちに詫びを忘れないことだ」
(このままで続ければ、嫉妬の感情を芽生えさせる者も出てくるであろう。
そうなればまたいらぬ諍いに巻き込まれる者がでるやもしれんしな)
正論だ。
言い返すことなどまるで出来ず、その場に力なくへたり込んでしまった。
「僕は何をやっていたんだろう・・・」
ギーシュの様子にエクスデスは満足した。
これで問題は片付いたか。
高度があるので強い風を魔力で抑えていて、吹きつけてくる風はそよそよと心地よい。
(思ったより長居をしてしまったか)
エクスデスは立ち上がるとギーシュに手を差し出した。
「そろそろ下に待っている者がしびれを切らすだろう、戻るとしよう」
「ところでタバサ。
さっきから空を見上げてるみたいだけど何かあるの?」
「・・・・・・・」
タバサはエクスデスとギーシユがいなくなった後、しばらくしてから不意に空を見上げだしたのだ。
キュルケもつられて見てみるが青空と雲ばかりでなにも他にはないように見える。
「まぁ、この騒ぎから目を背けたい気持ちも分からないでもないけど・・・」
「来る」
「え」
何が来るのだろう。
タバサは視線を下ろし、立ち上がるとルイズとそれにしがみ付いているモンモランシーの所に近づいていく。
「そこは危険。 離れたほうがいい」
「これ以上何が起こるっての―」
やっとモンモランシーを引きはがしたルイズがタバサに向きなおった瞬間。
白い光と共にその場にエクスデスと、お姫様だっこにされているギーシュが現れた。
「今戻った」
「えっえええっ!」
いなくなったはずの二人が突然現れてキュルケは何がなんだか分からない。
他の生徒たちも一様にポカンとしている。
モンモランシーも何が起こったのかという顔をしていたがギーシュの姿を見てすぐさま駆け寄ってきた。
「ギーシュ!」
「モンモランシー!」
ギーシュもすぐさま駆け寄ろうとするが、足がどうにもおぼつかない。
「無事で良かった!」
「心配してくれていたのかい!?
ああ、僕は間違っていたよ!
君にはいろいろと謝らなくちゃならない」
もういつもの調子に戻ったようだ。
ギーシュはその場その場の適応が早いのかもしれないとエクスデスは思った。
「ギーシュ」
エクスデスは腰元の紫色の小さな球体を一つ取るとギーシュに渡した。
「これは?」
「これを水にでも溶かして飲むがいい、失われた魔力を少しは回復させるだろう。
あとは寝て休むがいい」
ギーシュの体を支えているモンモランシーがその球体をいぶかしげに見つめる。
「毒・・・とかじゃない?」
「それはない。 命を奪うなら二人だけの時にもう実行しているはず」
ギーシュがそれはないよと言う前に、タバサがそれを否定した。
「そういうことだ」
エクスデスもそれに合わせる。
「いろいろとすまなかった。 後日改めて謝罪させてもらうよ」
そういうとギーシュはモンモランシーに支えられながら学園のほうへと歩いて行き、
それを数人の生徒も追いかけていった。
見送ったエクスデスは隣にいるタバサにそれとなく話しかける。
「上空にいることに気づいていたか」
「・・・・・」
タバサは無言で小さく頷く。
「お前とも一度話がしたいのだが」
「私もあなたに聞きたいことがある」
「ではこのあとにで、もうっ!?」
エクスデスは膝の裏側に衝撃をうけて崩れそうになる、がなんとか堪えて後ろを振り返る。
そこには、
「あんたねぇ・・・・!
勝手にいなくなった挙句、戻って来たとたんにご主人様をぶっとばすとか・・・」
磁場転換に巻き込まれて吹き飛ばされて顔から地面に突っ込んだのだろう。
服は所々汚れ、顔には土が付いている。
髪の毛もぼさぼさだ。
青筋が額に浮いているようにも見える。
「待て!これには訳が!
「問 答 無 用!!!あんたには徹底的な調教が必要!」
「タバ・・・」
タバサにも説明をしてくれるよう求めようとしたが、当の本人は既にその場から離脱していた。
ルイズの杖がバチバチ音を立てて閃光を放った。
「ファ―――――――!!!」
爆発にエクスデスは直撃を受けて学園の方に飛んで行った。
「・・・・・・
一体なんだったのかしら今日は」
当事者達でもないのにキュルケはどっと疲れた気がした。
考えても仕方がないので、今日は早めに休もうと思うだけにした。
「はぁ~~~~~~良かった・・・本当に」
べちゃりとコルベールが崩れ落ちる。
オスマンも髭をなで下ろしてふうと息を吐く。
「まさか上空にいるとは思いませんでしたよ。
生徒の一人が空を見ていなかったら考えもしませんでしたね」
「約束を守って傷つけるような真似はせず、説教だけですませたようじゃ。
ミスタ・コルベール?
少し疑い過ぎたようじゃな、彼を」
「はい。
ミス・ヴァリエールに彼を信じろと言ったのに、わたしは疑ってしまいました。
・・・情けない限りです」
「現にあの娘と今のところはうまくやっとるようじゃしな」
「はい・・・・」
項垂れるコルベール。
唯でさえ冴えない顔がさらに暗くなっている。
「うむ、まぁそれでこの話は終わりじゃが・・・。
君は今回の彼の力はガンダールヴの物じゃと思うかね?」
「・・・正直分かりません。
ですが、彼がガンダールヴに関する知識を既に承知していてその力をふるっているとは思えないのです。いくらなんでも早すぎます。
それにあの慣れたような戦い方は、彼が昔から身につけていた実力のような気がします」
「同感じゃ」
「ガンダールヴは千人の軍隊をものともせずにうち破るとは聞いていますが・・・」
「今日のあれでも全く本気じゃなかろう。
もし本気を出したら千人、いや万の軍勢でも一捻りかもしれん」
元の実力でそれならば、それにガンダールヴの力が加わったら・・・
「ミスタ・コルベール。
この一件はワシが全責任を持って預かる。
他言無用じゃ。二人だけの秘密にする。
特に王室などにこの件がばれたら・・・」
「発覚すれば・・・」
「たちまち王室のボンクラどもが各国に宣戦布告をするかもしれん。
彼はおろか主である彼女、ミス・ヴェリエールも最前線送りになるじゃろう」
「はい。それはなんとしても避けなければならないことです!」
(彼に戦いを強要したり命令することをしたならば逆鱗に触れるかもしれない・・・!)
「うむ」
(彼とは一度ワシからも話をしておいたほうが良さそうじゃな)
オスマンは目を閉じた。
神の左手ガンダールヴ
勇猛果敢な神の盾
左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる
了
#navi(聖樹、ハルケギニアへ)
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