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#navi(ゼロの騎士団)
ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 7 「旅立ちと焦り」
トリステイン魔法学院 まだ朝日も昇らない時間
世界から音を奪う闇の時間。
本来、人が居ないであろう学院の入り口には、二つの声が聞こえていた。
「……眠い」
ルイズは目をこすりながら、不機嫌な顔で呟く。
朝がそれほど強いと言う訳でも無く、任務の重要性、昨日見た夢などもあり、ルイズは充分な睡眠をとれているとは言えなかった。
だが、不機嫌の理由はそれだけでは無かった。
「しかも、何でこんな恰好なのよ」
彼女の服はいつもの制服では無く、シエスタに頼んで用意してもらった平民の服に、長旅用の使い古されたボロボロのローブであった。
シエスタの服では大きすぎるので彼女の友人のメイドの服を借りたのだが、それでもルイズには胸の部分も含め大きく感じられた。
「当たり前だろう、聞くところによるとアルビオンは数日の長旅になるのだろう。
いつもの制服と言う訳にも行かないし、町の中を貴族の学生が歩いてたら不自然だろう」
ルイズと似たような、ローブを着たニューが答える。
彼らの目的は目立つ事と逆――隠れる事である。ここハルケギニアで、貴族という存在はそれから最も遠い存在であった。
ルイズは貴族としての旅行は経験して居ても、旅人としての旅行など経験はなかった。
昨日の準備ではトランクを二つも持ち出しており、ニューに呆れられていた。
「ルイズ、我々は観光旅行に行くんじゃないんだぞ。しかも、劣勢と言われる方に接触しなくてはならないんだぞ、目立つ訳にはいかないんだ」
(こんな事で大丈夫だろうか?)
ルイズの感覚に早くも黄色の信号が灯り始める。
ニューの顔を見て、ルイズが愚痴をこぼす。
「それは解るわよ、けど、さすがに早すぎない?」
目も慣れてきたが、朝と言うよりも夜と言っても過言ではないほど暗く、かろうじて数メイルが見える程度であった。
早く出ると言う事が陽が明け始めるくらいの出発を予想していたので、肌寒さすら感じる空気は自分の感覚に吹き付けるようであった。
「仕方ないだろう、朝食を食べてみんなに見送られるのとは訳が違うんだ。
マルトーさんに頼んどいて、朝食を作ってもらったから、少し走ってから休憩しよう」
そう言って、ニューは厩舎より連れて来た馬に乗る
文句の一つでも言いたかった。しかし、文句が無いくらい手際の良さを咎める事も出来なかった。
「……分かったわよ、じゃぁ行くわよ」
渋々ながらルイズも馬に乗り、二人は馬を走らせ始めた。
「行ったようですね」
学院長室
遠見の鏡から二人のやり取りを見ていたコルベールが呟く。その声には不安の混じった声があった。
「心配無いじゃろう、ニューもいる事なんじゃし。それに、姫様も自身の信頼できる人物を使わすそうじゃ」
それほど心配なさそうな口調で、オスマンは口を開く。
二人は昨夜、王室――アンリエッタより今回の任務を聞かされていたのだ。
「ただ、わしが気になるのはミス・ツェルプストーとダブルゼータがアルビオンに渡り
ミス・タバサとゼータもお馴染みの欠席じゃ、偶然であると思いたいのだがのぉ」
脳内でアナウンスされる偶然とは思えないキャスティングが、オスマンの表層に不安の石を投げ込む。
(……無事に帰ってくるのじゃぞ)
オスマンは、それぞれ居なくなった生徒と使い魔に、心の中で心配の言葉を投げかけた。
あと1時間もせずに、日は昇ろうとしていた。
二人は乗馬の心得があるので、速さは順調であった。
場所は解らないが、ニューは少なくともそう思っていた。
ルイズの方も意識の覚醒と趣味の乗馬という事も有り、次第に顔から不機嫌が消えて行った。
馬を走らせて数時間、馬と自分達の休憩の為に、ルイズ達は街道の無人の小屋に腰を降ろした。
「アンタって、旅慣れているのね」
意識も完全になったのか、ハムと野菜のサンドをかじりながら、ルイズはニューに話しかける。
「遠征の経験もあるし、険しい山道を越えた事もあるからな」
簡素な水筒から紅茶を出しながら、ニューはそれに応じる。
ラクロアまでの遠征は険しい山脈と凶悪なモンスターを相手にする為、旅人という人種では無謀とも言えるほどであった。
(あの時は大変だったな、私もアムロ殿の様に移動魔法が使えればな)
実際、アムロから聞いていたが予想以上に厳しく、一度遠征した後は魔法で移動する事がほとんどであった。
「私は完全には地理が解らないのだが、ペース的には悪くないだろう。ラ・ロシェールと言う所は約二日だそうだな」
自身の見た地図を頭に描きながら、ニューは確認する。
「そうよ、まぁ早ければ明日の夜には着くかもね」
そう言って、紅茶に手を伸ばそうとした時、二人は上空に強い風の流れを感じた。
上の方には、鳥と言うには大きい影が見えていた。
「何だあれは?」
自身の世界ではあのクラスの物体が空を飛ぶのは動物とは考えにくい。
(早速、敵か?)
警戒しながら、ニューがルイズに聞く。
「違うわ、あれはグリフォンよ……野生と言う訳でもなさそうだし、誰かしら?」
ルイズも不安そうに呟く。
比較的安全な街道で、グリフォンが自分達を狙って襲うとは考えにくかった。
その言葉の数秒後に、グリフォンはルイズ達の目の前に着陸した。
グリフォンに乗っていたのは帽子をかぶった長身の金髪の男であり、二人はその人物を知っていた。
誰よりも先に、ルイズが反応する。
「ワルド様、なんで此処に!?」
ルイズがその人物を見て、驚きの声をあげる。
本来会う事のない人物と思うだけに驚きは強い物があった。
ルイズの驚きに、ワルドは軽く受け流しながら、グリフォンの背中より降りる。
「私はアンリエッタ様より、君達の護衛を頼まれたのだ。ルイズ、久しぶりだね」
ワルドはルイズに近づき、ルイズの肩に手を掛ける。
肩を触れられて、ルイズは動きが硬くなる。
「そ、そうなんですか。ありがとうございます」
それだけを言いながら、ルイズは恥ずかしそうに身を震わせる。
その様子をニューは観察していた。
(姫様の言っていた護衛と言うやつか・・・)
ルイズの初々しい反応などではなく、目の前の男に注視する。
アンリエッタが護衛をつけると言っていたので、多分、目の前の男がそうなのだろう。
ルイズが言うには、若くして精鋭部隊の隊長になったとの事なので腕が経つとの事。
少なくとも、あの獰猛なグリフォンを乗りこなしているのを見れば、その実力は朧ながらも分かる物であった。
ワルドはルイズとの再会をそこそこに、今度はニューに向けて視線を送る。
その視線は何処かニューの事を推し量るような物を感じる。
(私の事を知っているのか?)
少なくともこの世界には自分達を知る物はいない。
しかし、目の前の男は対して驚きもしない様子だった。
(私の方が本命か?)
その視線に好意だけではない何かが、ニューを探ろうとする。
それに気づいても、ワルドは表に出す様子は無く。
「君がルイズの使い魔だね、今回はよろしく頼む。アンリエッタ王女から聞いたが、魔法が使えるようだね」
爽やかな様子で、ワルドはニューに挨拶をする。
「はい、ニューと申します。ワルド殿、主の護衛を引き受けてくれて、大変ありがたく思います。主のお相手は大変だと思いますが、よろしくお願いします」
丁寧ながらも少し慇懃な態度で応じる。
その様子に、ルイズがニューを睨みつける。
「ちょっと、もっと丁寧な態度を取りなさいよ!」
「ははっ、ルイズいいんだよ」
ワルドは気にしないといった様子で、ルイズの言葉を流した。
(人が出来ているな。ルイズの相手をするには、それぐらいでないといけないと言う事か)
子爵でルイズの相手をすると言う事はおそらく接待の様なものであろう。
ルイズの難しさを知っているだけに、若い頃からルイズの相手をしてきた目の前の男を見てそんな感想を抱いた。
「ルイズ、休憩も済んだしそろそろ出発しよう」
「そうだな、ルイズは僕のグリフォンに乗って貰うつもりだが、良いかね?」
ニューの合図に、ワルドが提案する。
それを聞いて、ルイズは頬を赤らめる。
それはルイズだけにではなく、自分にも聞いてる事がはっきりと分かった。
「分りました、今後の指揮はワルド殿がお願いします。私は外様ですので」
断る理由も無かった。むしろ。
(疲れて文句を言われてはかなわんからな)
ニューはそんな事を考えながら、ワルドの案を受け入れる。
しかし、今の会話がルイズの気に障ったのか、顔を恥ずかしいから怒りに切り替える。
「馬鹿ゴーレム! アンタのその態度は何なの、さっきからアンタ失礼よ!」
ルイズが先程からのニューの態度が気に入らないのか喰ってかかる。
しかし、ワルドが居る手前、手までは出さなかった。
「私もこの任務を絶対に成功させないといけないからね、そう言ってもらえると助かる。ではルイズ、行こうか」
ルイズを連れて、自身のグリフォンに乗っける。ニューはその様子をしばし見てから、馬へと向かった。
「まったく、あの馬鹿ゴーレム! なんで、あんな態度取るのかしら」
空から大地を走る馬を睨みつけながら、ルイズが愚痴る。
本来なら、ワルドとの再会の喜びを楽しむ時間の筈であったが、自身の使い魔がその時間を略奪した。
「彼がどうかしたのかい?」
ワルドはそれに起こった様子でも無く。ルイズの顔を嬉しそうに見つめる。
「いえ、何でもないんです」
その顔が自分の今の顔に合わない事に気付いて、ルイズは下を向く。
ニューはいつも皮肉を言うが、さっきの様に毒を撒き散らすような言い方はしない。
(それに、皮肉と言うよりも、何か拗ねている様だったし)
心なしかルイズはそんな事を感じていた。
心当たりと言えば昨日のやり取りだろう。ルイズは思い返す。
(そりゃあ二人より劣るとは思っていないけど、だからって、あんな態度取る必要ないじゃない)
本心で行ったわけでは無い。
ルイズとしてみればニューを動かす為に、言っただけである。
しかし、魔法学院に帰った後も、ニューは心なしか不機嫌な様子だった。
「彼の事を考えているのかい?」
ワルドがルイズの顔を覗き込みながら、聞いてくる。
「べっ、別にそう言う訳では無いんです。ただ、アイツは口が悪いけど、今まであんな態度は取らなかった……」
彼の不機嫌な理由は自分だろう。
(やっぱり、私が悪かったのかな)
ルイズには心なしか、ニューが苛立っているその理由が解らなかった。
そして、それがルイズの不機嫌の基でもあった。
「彼だって考える事はあるさ、使い魔だからって何でもわかる訳では無いよ」
「そうですよね……」
(謝らなくちゃ、駄目なのかな……けど、私はアイツの主人なのよ!
いくら私が悪いからって簡単に謝ったら鼎が問われるってものよね。もう少し、時間を置きましょう。そして、さりげなく謝るのよ)
自己弁護と解決方法を考えながらルイズは大地を眺め続けていた。
3人の旅は順調であった。妨害を予想していたがこれと言った事がある訳では無く、
次の日の夕方にはラ・ロシェールに到着していた。
岩肌に丘に作られた町 ラ・ロシェール
「女神の杵」――アルビオンに向かう貴族が利用する高級旅館
疲労回復と安全面からルイズ達はそこで宿を取る事にした。
「一番早いのは明日の夕方には船に乗る事が出来るよ、それに乗って明後日にはアルビオンに行く事が出来る。」
船長と乗船の交渉をしたワルドが、二人に出向の時間を告げる。
「そうですか……しかし、船が飛ぶとは驚きです」
出発も明日と言う事もあり、三人は宿の中の食堂で夕食を取っていた。
ニューは先程まで居た桟橋の光景を思い出しながら、驚きを口にする。
船が無い訳ではないが、それでも、巨大な木にクリスマスツリーの飾りの様に停泊する空飛ぶ船は素直に感動する物であった。
「アンタの所には船は無いの?」
ルイズがメインに手をつけながら、ニューに話題を振る。
「私の知る限りでは無いな、それに、大陸が浮くなんて聞いた事がない」
最初、ここに来た時港がなくて、道を間違えたのかと危惧したが、
アルビオンの事を聞き実際に空飛ぶ船を見た後だと、この世界が異世界であると今更ながら思い知るのであった。
「……ところでで、君は異世界からか来たそうだね」
ルイズと会話を楽しんでいたワルドが話題を変えて、ニューの方に声を掛ける。
「そんな事まで知っているんですね……信じるんですか?」
突然、話題を変えて、自分に振って来たワルドに対してある事に気付き考える。
(色々調べているんだな)
ワルドが自分達が異世界から来ている事に気付き、ニューも情報能力に感心する。
思えば、思うに目の前の男は、初めて会った時に自分が魔法をつく事を知っていたのだ。
「情報収集も仕事でね、アンリエッタ様から異世界から来たと聞いた時、最初は正直信じられなかったけどね」
ワルドがそう言って、ワインを口にする。
「さて、今夜泊まる部屋の事なんだが、悪いが僕はルイズと大事な話がしたいんだ、僕とルイズが一緒でいいかね?」
ニューの方を見ながら、ワルドが聞いてくる。
それを聞いたルイズは、頬を赤く染めてワルドの方を見やる。
(え! ちょっと待ってよ、いきなりそんな)
ニューといつも通り同室で泊まると考えていただけに、ワルドの言葉は意外であった。
「ちょっと、ワルド様、いきなりそんな事言われた」
「いいですよ」
ルイズの言葉を遮り、ニューがあっさり同意する。
音が聞こえるように首を動かし、ニューの方を見る。
「久しぶりに会って積もる話もあるでしょう……それに、ルイズ」
ニューが真剣な目で、ルイズを見つめる。
「な、何よ!」
(私の事、信用してくれるの)
その表情に、ルイズも勢いが止まる。
幾らなんでも、年頃の男と一緒の部屋で泊まる等とはルイズとしても抵抗がある。
それに、そう言った状況で流されてしまうのが良くある事はルイズの耳に入っていた。
しかし、ニューはそう言った事をしないとルイズを信用――
「お前がワルド殿の相手になる訳ないだろう、冗談は胸だけにしろ」
――する訳でも無かった。
握った拳に銀の感触が強くなる。
「この馬鹿ゴーレム! 絶対コロス!」
意識を失う直前、ニューが最後に見たのは、ルイズの手に持ったフォークとそれを止めるワルドであった。
ニューが次に目覚めたのは、数時間たったベットの上であった。
「ルイズの奴め、本気で刺してくるとは……」
自身の傷を魔法で回復させて、ニューはベットの上で横になっていた。
自身のいつもの環境に比べれば、ホテルのベットは極上と言っても差し支えなかったが、
ルイズに数時間の間、気絶させられた為に寝る事が出来なかった。
ニューは自分の事を考えていた。
「ルイズじゃないけど、確かにそう思うところがあったんだよな……」
(アイツ等の力は知っている。知っているだけにいつしか頼るようになってしまった)
ニューはベット上で寝がえりを打ちながら、そんな事を考える。
ニューはルイズに言われて以来、ずっとその事を気にしだしていた。
仲間達は前線で戦う事が多く、そして、優れた使い手が多かった為にニューは直接手を下す必要が多い訳では無い。
自身がその立場上、援護に回る事が多い為にニューは回復などの方が多い事もあった。
いつしかそれが当たり前だと思いはじめ、知らないうちに二人に依存しだしていたのだ。
ハルケギニアに来た時は、口には出さなかったが三人しかいないと言う孤独感もあり、
それは感じなかったがこの世界に馴染むにつれて、徐々にその事を思い出しつつあった。
(いつまでも二人に頼る訳にはいかない。今回の様にいつも三人で行動する訳では無いのだから)
これまでは騎士団であったために、ともに行動してきたが今は使い魔でもある為に何時また別行動をするかは解らない。
そこまで考えてから、ニューはルイズとワルドの事を考える。
「そもそも仮にも精鋭部隊の隊長が、公爵家の三女に手を出す訳ないだろう」
若くして魔法衛士隊の隊長であるワルドが、そんな事をすれば今の立場を失いかねない事はニューには解っていた。
(……おそらく、なるとしたら婿であろう)
何となく、ニューはそう考える。
ワルドは子爵の息子だ、ルイズは三女であるからもしかしたらもあるかもしれないが、家柄を考えたら彼の方が下だろう。
(ただ、ワルドからしてみれば、それでも得られる物は大きいだろう。なにより、ルイズは扱いやすいからな)
自身の口でついた傷を棚に上げて、ニューはそんな事を考える。
おそらく、ワルドはルイズとヴァリエール家の後ろ盾を得たいのだろう。
自身も、騎士団長を輩出した名家、等と呼ばれる家柄だけに、ニュー自身もそう言った思惑に晒された事が無い訳ではない。
この世界に長く居るつもりはない。
故にそう言った事には自身はなるべく関わらないようにと考えている。
(この世界で生きてくのはルイズ自身だ、私がとやかく言うべき事ではない。ルイズが自分で選ばなくてはいけないのだ)
そう考えてから、夜風に当たりたいと思いニューは部屋を出た。
宿の2階にあるテラスには先客が居た。
それを見て、ニューは声を掛ける
「どうしたルイズ、ワルド殿に結婚してくれとでも言われたのか」
からかい半分に、テラスに居るルイズに近づく。
ニューを見て何か言いたそうであったが、ルイズはニューの言葉を聞いて不機嫌な顔を作る。
「なっ、何を馬鹿な事を言ってるのよ!」
怒鳴りながらも、直にその意気を落とす。
「……ただ、ワルド様が昔約束した婚約の話を覚えていてくれてたの、けど、それは子供のころの約束だったし、なんて答えればいいのか分からなかったの」
(嬉しくないと言えば嘘になる、けど、いきなりそんなこと言われても)
久しぶりに会って自分との思いでを覚えてくれるのは嬉しかったが、それでも、ルイズには簡単に応えられる事では無かった。
(まぁ、普通はそうだよな)
「ルイズ、私はいずれアルガスに帰る身だ、いつまでもこの世界に居る訳では無い。」
ニューがルイズの隣に移動する。
「ニュー……」
「私は妻を持ったわけでもないし、恋愛に聡い訳では無い。私が責任を持って言える事ではないが言わせてもらう事がある」
「……何よ」
ルイズが身構えながら、ニューの話を待つ。
「ワルド殿はお前を愛して居るかも知れない、しかし、それは、ヴァリエール家の三女という事である事も忘れてはならない」
「え!」
「別に彼が酷いのではない。彼の様に若くしてそれ相応の地位に居れば、そう言った物を少なからず求めるだろう」
ニューは少し渋い顔でルイズを見る。その顔を見ながら、ルイズも何か言いたそうな顔をしている。
「ワルド殿が今更ながらそう言った事を述べると言う事は、そう思っているかもしれないと述べたのだ。
お前も十数年、貴族の社会で生きて来たのだ、全く分からなったり信じなかったりするわけではあるまい?」
ニューは以前の教室の様に、やさしい声で語る。
「そんな事言って、どうすればいいのよ」
(じゃぁどうしろって言うの、偉そうなことばかり言って)
そう思いながら、ルイズはニューの言葉を待つ。
「ワルド殿は少なくとも立派な人物だと思う。
ただ、あせる必要はない。彼と一緒に居て彼と言う人間を知ってからでも遅くは無い。私はそれくらいの事しか言えん」
風が強くなってきているのを感じて、ニューは戻るように促す。
何となく嬉しかった。
「偉そうなこと言わないでよ、使い魔のくせに」
ルイズは頬をふくらませる。
それを見て、ニューは笑いながら自室に戻ろうとする。
「悪かったな。だが、もう少し成長しなければ相手してもらえないぞ」
(そうだな、未熟者の私が偉そうなことは言えんな)
それだけを言って、ルイズの視界から消えた。
「……この馬鹿、一言多いのよ」
(心配するなら、もっと良い事言いなさいよ……けど、ありがとう)
ニューの居なくなった後を睨みつけた後、ルイズは戻っていた。
その時の、ルイズの表情を確認する者はいなかった。
翌日、ニューは朝の散歩を兼ねて無人の広場に来ていた。
(闘技場か何かだろうか)
周りに散らばる剣の金属片や杖らしき木片、そして、傷だらけの地面がそれを連想させる。
それらを見渡して、近くの岩に座ろうとした時、自身とは違う足音が聞こえる。
「やぁ、おはよう」
後ろから声をかけられても、その声の主は解っていた。
「おはようございます。ワルド殿」
ニューは振り返り挨拶をする。気のせいか、昨日とは空気が少しだけ違うような気がした。
(釘を刺しに来たのかな)
なんとなくそんな事を考える。
昨日ルイズに言った事はワルドにとってはマイナスであり、ワルドの評価を下げるには理由としては充分であった。
「今日の夕方頃までには時間がある。実は、君と手合わせしたいんだ」
(なんだ、釘を刺しに来たんじゃないのか)
自身の考えとは違うが、それでもワルドの言葉はニューにとって意外な物であった。
「どうしてですか?」
理由がないので、ニューはとりあえず聞いてみる。
「大した事じゃないんだよ。ただ、異世界の魔法とやらに興味があるんだ。
君の実力はフーケの件で知っているからね、初めて学院で君を見た時からずっと思っていた事だ」
(……なるほど、そう言う事か)
ワルドの理由を聞いて、ニューはこの間、パレードで目が合った時の事を思い出す。
あの時、ワルドは自分達がフーケを取らえた事を知っていたのだ。
だからこそ、目が合った時、驚きもせずに自分の方を観察していたのだろう。
ニューはそこまで考えて、目の前のワルドに目を移す。メイジであると言う事は恐らく、自身と似たようなタイプであろう。
力で魔法を押しつぶすようなタイプでなければ、そう簡単には後れを取らない。
「私が相手では不満かい?」
言葉とは裏腹に、ワルドの言葉には挑発的な意味が含まれている。
(いつまでも、二人に頼る訳にはいかない。今回の様にいつも三人で行動する訳では無いのだから)
心の中で昨日の自分の言葉が反芻する。
「受けさせていただきます。勝敗の方法はどうしますか?」
(これもいい機会だ、それにこの男相手に戦えれば、私もあの二人に頼ると言う考えも少しは薄れるだろう)
そう考えて、ニューは受ける事にした。
ワルドは近くにあった木の枝を取り、それをニューに渡す。
「メイジの戦いは杖を落としたら負けとなる、君は杖は要らないだろうがこう言うルールでいいかい?」
「いいですよ」
(それなら穏便に済ませそうだしな)
そう考えて、ニューは木の枝を握る。お互いがある程度距離を取った時、人の気配がやってくる。
「ワルド、ニュー!二人とも何やっているの」
起きたばかりのルイズが、慌てて二人の元にやってくる。お互いに杖を持っているので不穏な空気を来たばかりのルイズも感じていた。
「これは簡単な手合わせだよ、ルイズ、君には立会人をやってもらいたいんだ」
ワルドはそう言って、ルイズを下がらせる。
「何馬鹿な事やっているのよ、ニュー、アンタもやめなさいよ」
自身の使い魔に主として命令を出すが、それは聞き入れられなかった。
「ルイズこの機会に自分の使い魔の実力を見ておくんだ、ゼータやダブルゼータが居なくても大丈夫だと言う事を」
(そう、私は大丈夫だ……二人が居なくても問題ない)
そう思い聞かせて、ニューは木の棒を構える。
「アンタ、何言ってるのよ!」
(この間の事、まだ気にしてるんじゃない!それに、今のアンタ……)
ルイズから見て、今のニューはどこか冷静さを欠いているような印象を受けた。
「35颯爽とグリフォンに乗ったワルドが現れた」
魔法衛士隊隊長 ワルド
風のスクウェア
MP 1050
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