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#navi(ゼロと損種実験体)
それを最初に発見したのが誰かなどタルブの村人たちにとって、どうでもいいことであった。
ラ・ロシェールの方角から聞こえた爆発音と燃え上がり山に激突し森に落ちるトリステイン艦。
それが、アルビオン軍によるトリステイン侵攻の始まりであるなどと知るはずもなく、村の上空に停泊した戦艦を不安に脅える眼で見ていた彼らは、そこから飛び立った火竜が村の家々に火炎の息を吐き出した時点で初めて悲鳴を上げて逃げ出した。
トリステインとアルビオンの間には不可侵条約が結ばれている。
しかし、アルビオンの側にとって、それは奇襲のために持ちかけたものでしかなかった。
一応、親善訪問に訪れたという名目で送り出してきた自分たちの船の一つを沈めて見せて、先に攻撃してきたのはトリステイン艦隊である。
こちらは応戦しているだけだなどと宣言したが、そんなことを信じるものがいるとすれば、よほどおめでたい頭をしたものだけであろう。
それを卑怯と罵るのは容易い。しかし、アルビオン側の、例えば上陸作戦の指揮を担っているワルドなどからすれば、隠密裏の任務での事であったとはいえ、魔法衛士隊隊長に祖国を裏切らせ、一国の皇太子を暗殺させるような組織の申し込んだ同盟を疑いもしないなど愚かしいにも程がある。
実際のところ、トリステイン貴族はワルドの想像以上に度し難い愚か者たちであった。
アルビオン艦隊から降り立った上陸部隊を迎え討たんと現れた近在の領主の軍が竜騎士によって蹴散らされ、タルブの領主が戦死するという事態が起きた後も、王宮では、アルビオンに使者を送り話し合いによって軍を引いてもらうのか、迎え撃つべくゲルマニアに助けを求めるのかという方針すら決定できていなかったのだから。
ただし、これには仕方のない側面もある。
トリステインの政務を一手に取り仕切るマザリーニが枢機卿が、あくまでもアルビオンとの対話によって戦争を回避する事を望んでいたのである。この国の実権を握る者が、そんな実現不可能なことを望んでいたのでは、会議がまとまるはずがない。
彼を、トリステインで、唯一と言ってもいい優秀な政治家であると見なしていたワルドがこの体たらくを知れば、買い被りが過ぎたと失笑したであろうが、これは別にマザリーニが無能だったからということにはならない。
マザリーニ枢機卿は優秀な政治家である。あるいは優秀すぎたのかもしれない。なまじ優秀であったばかりに、ここで戦を起こしても勝ち目がないと気づいてしまっていたのだ。
勝ち目がない戦を起こして、無駄に民の犠牲を増やすことは、間違いである。これは正しい見解である。ただし、この時点では彼に見えていないものもある。
今、犠牲になっているのは無辜の民である。そして、アルビオン軍が何のためらいもなく、それどころか積極的に民を害していると言う事実は、これから先アルビオン軍はトリステインの王宮までの進軍の過程において、全ての民を殺しつくす勢いで攻めてくる。すなわち、彼の選択は民の被害を増やす結果にしかならないということである。
そんな中、会議室の席の一つに座るアンリエッタは考えていた。どうすることが正しいのかを。
彼女は、政治のことを知らない。優秀な政治家であるマザリーニが、太后である母にも王女である自分にも、相談なく全てを取り仕切り、結果だけを報告してきたからである。
今まで、マザリーニのやってきたことに間違いだったことはない。ルイズに頼んだ、アルビオンに行ってウェールズから手紙を返してもらう任務にしても、マザリーニに相談していればよかったと、そうすればルイズを危険な目にあわせることも悲しませることもなかったかもしれないと今では後悔している。
だから、ここでもマザリーニにすべて任せて、自分は黙って座っていればいいのかもしれない。
だけど、それでいいのかと問う声が頭に浮かぶ。その声は、ルイズのもののようにも聞こえた。ウェールズのもののようにも聞こえた。
ルイズをアルビオンに生かせたのは間違いだった。だけど、ルイズがそのことに不満を漏らしていただろうか?
ウェールズは、自分よりも国を取った。それは、誰に決められたのでもなく、自分自身の心に従ってのことではなかったか?
ならば、自分は……。
アルビオンの宣戦布告の報が、トリステイン魔法学院まで届いたのは、タルブの村が焼かれた翌朝のことである。
本来なら、トリステイン王女アンリエッタとゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式に参加するルイズを迎えに来るはずの馬車は来ず、代わりに来たのは息を切らせて青い顔をした使者であった。
式には、オールド・オスマンも出席することになっていたのだが、彼は準備に忙しく「ミス・ロングビルはやく帰ってきてくれ。おまえさんがいれば、ワシもギリギリまで仕事をしないですんだんじゃ」などと泣き言を言いながら自室で、この期に及んでも書類を片付け、荷物をまとめていた。
そこに、王宮からの使者が飛び込んできて、アルビオンの宣戦布告、そしてアンリエッタの結婚式の無期延期と学院の生徒や職員の学院外への外出を禁じる旨を伝えてきたのだ。
「宣戦布告とな? 戦争かね?」
「いかにも! タルブの草原に、敵軍は陣を張り、ラ・ロシェール付近に展開した我が軍とにらみ合っております!」
「現在の戦況は?」
「敵の竜騎士によって、タルブの村は焼かれているそうです……。同盟に基づき、ゲルマニアへの軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは三週間後とか……」
「……見捨てる気じゃな。敵はその間に、トリステインの城下町をあっさり落とすじゃろうて」
おそらくは、ゲルマニアも、この事態は想像していなかっただろう。
ゲルマニアはトリステインのような小国とは違う軍事強国である。だから、その同盟国であるトリステインにアルビオンが宣戦布告をするとしたら、二国を相手に勝てるだけの戦力を得てからのことだと誰もが考えてしまっていた。
つまり、ゲルマニアは考えてしまったのだ。今トリステインを攻めているアルビオン軍は、ゲルマニアの軍を蹴散らせるだけの戦力を有しているのではないかと。
そんな相手に、何の準備もなく軍を送って戦力を減らすわけには行かない。どうせ犠牲になるのは他国の民だ。それが、ゲルマニアの選択であったのだろうとオスマンは、ため息を吐く。
そんな使者とオスマンの会話をルイズは聞いてしまった。王宮で何かがあったのだろうかという好奇心で使者の後を追い、部屋の前で聞き耳を立てていたのだ。
脳裏に浮かぶのは、青い空の下をどこまでも続く緑の絨毯と、それを背に穏やかに微笑む黒髪の少女。ルイズを恩人と呼ぶ村人たちと、彼らの暮らす家々。
衝動的に走り出したルイズは、こちらは使者に興味がなく学院の玄関先で待っていたアプトムに捕まる。
「どこに行く気だ?」
「タルブの村よ!」
「話が見えないな」
アプトムは、学院長と使者の会話を聞いていない。結論だけを言われても、何のことを言っているのか理解できない。
そんな彼に、ルイズは自分の心の中で渦巻く衝動を口に出していく。
「アルビオンが攻めてきたって、タルブが焼かれてるって、だから、わたしは、シエスタを助けに行くの!」
「行って、お前に何ができる」
冷淡なアプトムの言葉に、ルイズはギクリと肩を震わせ、動きを止める。
そうだ。自分に何ができるというのだ。ろくに魔法も使えないゼロのルイズのクセに、軍隊を相手に人を守れるとでも言うのか。
タルブの村で、さすがは貴族さまだと、ちやほやされて自分に力があると勘違いをしていたのだろうか。村を襲ったオーク鬼を追い払ったのは自分ではなくアプトムだったというのに。アルビオンでも結局はアプトムに助けてもらっただけで、自分は何もできなかったというのに。
だけど、それならどうすればいいというのだろうか。ルイズは自分が無力な人間だと理解している。だけど、救いたいのだ。シエスタを、彼女の家族を、タルブの村人を。
気がつけば、ルイズは涙を流していた。
そして、そんな弱い自分を嫌悪する。力が無いなら考えればいいのだ、力がなくてもタルブの人々を救える方法を、それなのに、無力を嘆くだけの自分の弱さが許せない。
考えるのだ、自分に出来ることを。自分は何だ? ヴェリエール公爵家の三女、魔法成功率ゼロのルイズ、アプトムの主人で、王女アンリエッタのおともだち。
実家の両親に助けを求める? ダメだ、公爵家の力で兵を集めるにしても、間に合わない。自分の魔法で? 失敗の爆発魔法しか使えないのに? 爆発……?
ふと脳裏に、始祖の祈祷書のことが思い浮かぶ。
あれに載っていたエクスプロージョンの呪文。その魔法ならば、アルビオン軍を追い払えるのではないか?
唐突に、そんな思いつきが頭に浮かぶ。根拠は無い。だけど、それが事実であるとルイズは信じた。
だけど、それは自分ひとりでは無理だ。さっきは考えなしに一人で走っていこうとしたが、それでは間に合わない。馬を借りても同じだろう。
そうしてルイズは、アプトムを見る。彼の力を借りれば、自分は……。
「アプトム! わたしをタルブに連れて行って!」
「行ってどうする? お前にできることなど何も……」
「ある!」
叫ぶ。できるのだ。自分にならできるはずだ。いや、できなくてはいけないのだ。
「わたしは、伝説に名を残すことになる人間よ! わたしは始祖ブリミルと同じ虚無の系統のメイジなんだから!」
それは宣言。一度は否定した自分が虚無の系統であるという事実を受け入れる決意。
だから、つれていけとルイズは命ずる。この程度のこともできなくて、アプトムを帰す魔法を作ることなどできないと告げる。
そして、アプトムは考える。ルイズの言うことは正しいのかもしれないと。
彼は魔法を知らない。彼女の言うことを間違いだと断じる根拠を持っていない。
少女を危険に近付けないことが自分のやるべきだと彼は考えているのだけれど、それだけでは彼女は成長できないのではないのかという考えもある。
それに、自分もまた、助けに行きたいと考えなかったわけではないのだ。
シエスタという少女に対して特別な思い入れは無い。そのはずだ。だけど、ルイズのことで色々と借りがある。その借りを返さずに見捨てるというのは気分が良くない。ただ、それだけのことだと彼は自身に言い聞かせる。
だが、これだけは確認しておかなければならない。
「本当に、やれるんだな?」
「もちろんよ!」
「そうか」
そうしてアプトムの肉体は変化を始める。表皮を漆黒の甲殻に変えた昆虫じみた姿の亜人に。
「また前と違う?」
呟くルイズの声には困惑の色がある。彼女が知るアプトムの亜人としての姿は、最初がカメレオンのような顔の獣人。次が、前にアルビオンで見せた直立するカブトムシといった感じのものであったが、今度は前の姿をスマートにしたような姿である。
それが、前に見せた形態であるゼクトールという名の獣化兵を含める四人衆と呼ばれた超獣化兵の能力全てを兼ね備えた複合形態であり、前に『土くれ』の二つ名を持つ盗賊フーケのゴーレムと戦った時に見せたフルブラストという呼び名を持つ形態であるなどとルイズは知らない。
それに、今はそれどころではないのだ。
焼け落ちたタルブの村の傍の草原に展開したアルビオン軍と、ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍が一触即発の空気を纏いつかせ睨み合っていた。
そして、森に潜み、それらを不安な面持ちで見ているいくつもの視線があった。タルブの村人たちである。
彼らの中に、何が起こったのか正確に理解している者はいない。突然にアルビオンの竜騎士の襲撃に晒され、逃げ惑うしか出来ない彼らを救い出した者がいた。
と言っても、竜騎士と戦ったとか、撃退したというわけではない。彼がやったのは、人間と同じ大きさのゴーレムを作り出し、それに村人と同じ服を着せて囮にして、人々を逃がすことである。
言葉にすれば、それだけのことであり、お世辞にも村を守ったと言えるものではないが、それで救われた命がある事を否定することはできない。
「どうしたんですか? ミスタ・グラモン」
村人たちの救い主たる少年に声をかけたのはシエスタである。
シエスタは、彼と親しいというわけではなかったが、学院で何度か顔を合わせたことのある知り合いではあったので、少年に話しかけるのは逃げてきた村人たちの中で彼女の役割になっていた。
他の村人たちも、少年に感謝をしていなかったわけではないのだが、彼がやってきたのはアルビオンの上陸部隊のいる方向からだったので、疑念を抱いてしまっていた。
少女の質問に対し、険しい顔をしていた少年、ギーシュ・ド・グラモンは、困った顔になる。
「いや、なんでもないんだ。ちょっと、お腹がすいたな、って思ってただけだから」
「まあ! すみません。ミスタ・グラモンのおかげで、いくらか持ち出せましたけど、数に限りがありますから」
すまなそうに頭を下げる少女に、ギーシュは、いいよと手を振る。
実際、彼が考えていたのは別のことである。彼の予想では、とっくに王宮からトリステイン軍の増援が来ていなければならないのに、それがまったく見えてこない。
増援がくれば自分も合流して、国のために戦おうと意気込んでいたために、肩透かしをくらった気分である。
アルビオンに入り込み、情報を集めていた彼は、アルビオンが話し合いに応じるはずがない事を知っていたので、トリステインが応戦か話し合いかで意見が決まらず長らく会議を続けていたなどと想像もしていなかったのだ。
それに、ギーシュはアルビオン艦隊の戦艦に備え付けられた新型の大砲についても知識を得ている。このままでは、ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍は街ごと壊滅させられることになるだろう。
そんな焦りを話しても意味はなく、自身の思考に埋没しがちな彼の耳にシエスタの声が滑り込んだのは、そのすぐ後のことである。
「あれは、なんでしょうか?」
そう彼女が指さした先は、魔法学院のある方向の空であり、そこには黒い点が見えていた。
タルブの村の上空に展開し、周囲を警戒していた竜騎士の一人が、こちらに近づいてくる黒い何かを発見した。その瞬間、彼はその生を終える。
黒い何か、ルイズを抱きかかえて飛ぶアプトム・フルブラストが額の発振器官から撃ち出した生体熱線砲に焼かれたのだと気づく暇もなかった。
アプトムに抱えられ、上空からタルブの村を見下ろしたルイズは歯噛みする。
ここに住んでいた人たちは、とてもいい人たちだった。こんな戦争に巻き込まれて焼かれていい村ではない。命を落としていい人たちではない。それを……。
「アプトム!」
ルイズの叫びに応えて、アプトムが加速する。
仲間が突然撃墜されたことに驚き、それによって接近する彼に気づくのが遅れた竜騎士を次々と撃ち墜としながら艦隊へと突撃する。
次々と墜とされていく仲間の姿に、いつまでもアプトムの存在に気づかない竜騎士たちではない。少しの時間を必要としたが、彼らは何かを抱えて飛ぶ黒い亜人の姿を確認した。だが、気づいたところでどうにもならない。
攻撃の精度と射程距離に差がありすぎた。竜騎士の攻撃は、基本的に自分たちの乗る火竜の吐く炎の息である。だが、高速で飛ぶ火竜が前方に吐くブレスが、それほど遠くまで届くはずがないし、空気圧の風に流されもする。それ以前に、自分の乗る竜に、同じく高速で飛ぶ敵を狙わせること自体が至難の業である。
だが、亜人の方はそうではない。あちらは、顔をこちらに向けるだけでいいのだ。それだけで、額から発する光の線で竜騎士たちを撃墜する。風に流されることなく、遠距離まで届くそれは、恐れを知らぬはずの竜騎士たちに得体の知れない恐怖を抱かせる。
「それで、どうするつもりなんだ!」
風に負けないような大声で叫ぶ。アプトムの能力を持ってすれば、敵の竜騎士を全て撃ち墜とすことは容易い。だけど、それだけでは意味がない。
戦争なのだ。彼一人が敵兵士を倒していくだけでは敵軍を打ち負かせない。人々を守れない。
アプトムには、敵の艦隊全てを葬り去る必殺の一撃がある。だけど、それは威力がありすぎてトリステイン軍や、どこかに逃げ延びているかも知れないタルブの村人たちを巻き込む可能性がある。なにより、自分自身すら消し滅ぼす危険性のある技である。そんなものをルイズを抱えた状況で使えるはずがない。更にもっと言えば、もし彼がルイズを抱えた状況でなければ、手が空き巻き添えを気にしなくても良くなる分、額の生体熱線砲だけでなく、それよりも直接的な威力こそ数段落ちるものの、一度に大量に射出する事が出来、尚且つ彼の視界内であるのならば、射出されたそれらをひとつひとつある程度自由に軌道を操る事をも出来る、生体ミサイルをも同時使用する事が出来るようになり、それこそ&s(){逆弾幕ゲー状態}敵兵の一方的な虐殺が可能となっていたのである。
それに、ここに来ると言ったのはルイズである。できることがあるとの宣言が嘘ではないのなら、彼女には考えがあるはずなのだ。
そして、使い魔の言葉に答えて、少女は人差し指を立てた右手を伸ばす。
その指の先は、ラ・ロシェールの街の上空。雲の隙間からその偉容を覗かせる巨大戦艦にしてアルビオン軍の旗艦『レキシントン』。
「あの巨大戦艦に近づいて。できるはずだから。ううん。できるの。やってみせるから」
何がとは言わない。アプトムも聞かない。彼女はできると言ったのだ。ならば、彼はそれに応えるだけだ。
旗艦に接近する黒き亜人に気づいた艦隊からいくつもの砲撃が撃ち出されるが当たらない。アプトムの機動についていけないのもあるが的が小さすぎるのだ。戦艦に備えられた大砲は、竜騎士などの高速で移動する小さな的を撃つようにはできてはいないし、アプトムの身長は二メイルを越える人に比べれば大きなものであるが、竜騎士の乗るドラゴンなどに比べればまだ小さい。
対竜騎士用に用意された散弾もあるが、アプトムの肉体は、大砲を凌駕する攻撃力を誇る重圧砲を受けても傷一つ負わない獣化兵ゼクトールと同等以上の耐久力を持っている。抱きかかえたルイズにさえ当たらなければ、どうということはない。
ほどなくしてアプトムは、そして彼に抱きかかえられたルイズは敵旗艦を前にする。
ワルドは全てを見ていた。
どこからか飛んできた謎の亜人。それが、額から放つ光線で配下の竜騎士たちを撃ち墜としていくさまを。
「『ガンダールヴ』め。亜人ではないかと思っていたが、あれが真の姿か」
彼は、黒い亜人がアプトムであると確信していた。竜騎士を墜とした光線には憶えがあったし、自分を苦もなく撃退したバケモノなら、変化の魔法くらい使ってもおかしくはない。
正面から向かって勝てる相手ではない。だけど、自分はアレの弱点を知っている。
亜人は、何かを抱えている。多くの竜騎士たちは、それが人であるとすら知ることが出来なかったであろうが、ワルドは違う。彼は、それがルイズであると気づいていた。
どれほど強力な力を持ったバケモノであろうと、足手纏いを連れて生き残れるほど戦場は生易しい場所ではない。
とはいえ、相手が想像を絶するバケモノである事実は動かない。だから、彼は機を窺っていた。そして、その時は訪れた。
竜騎士隊を全滅させた後、ガンダールヴが旗艦を墜としにかかることを彼は予期していた。普通に考えれば、単騎で戦艦を、ましてやこの巨大戦艦を墜とすことなど不可能なことである。あの光線を何度撃ちこんだ所で徒労にしかなるまい。だが、あのバケモノになら出来るのではないか? そう思いワルドは隠れ待っていた。そして、彼は賭けに勝った。
『レキシントン』には真上という死角がある。そこを目指してアプトムがやってきた瞬間、ワルドは飛び出し背後を取った。
静かにとはいかない。竜は、翼をはためかせて飛ぶ生き物であり、無音とは行かない。飛び回る以上サイレントの魔法を使っても無意味である。だが、ここまで近づけば充分だ。亜人が振り返って光線を放てば、その一撃でワルドは命を奪われるだろうが、その心配はない。近すぎるのだ。胸の前にルイズを抱きかかえたアプトムが振り向くということは、彼女を危険に晒すということに他ならない。
逃げる暇も与えない。ワルドが乗るのは風竜だ、指揮を取るならと選んだこの竜のスピードは他の竜騎士が乗った火竜など比較にならない。
逃がさぬという意思を込めて竜を駆り杖を振るう。唱えた呪文は敵を刺し貫く空気の槍エア・スピアー。
この時のワルドに、油断があったわけではない。彼は一切の過信も妥協もなくアプトムの命を奪おうとした。
では、何が悪かったのかと言えば、まだアプトムという存在を過小評価していたのだろうか。否、それは唯一つの勘違い故である。
アプトムの背に生えた翅の付け根から伸びた鞭のような一対の触手。それが伸びワルドの乗る風竜に巻きついた。そうと気づいたとき、決着はついていた。
それは、電気ウナギの500倍の発電能力を持つ超獣化兵エレゲンを融合捕食して手に入れた能力。十万ボルトを超える電撃を放つ触手の一撃で風竜は絶命し、無論のこと背に乗っていたワルドもただではすまない。命だけは取り留めた彼は、しかし意識を失い、死体となった竜と共に遥か下にある大地へと落ちて言った。
ワルドは、たった一つの、しかし致命的な勘違いをしていた。フーケの言うバケモノの意味を取り違えていた。
ワルドの考えるバケモノとは、竜やエルフのような人間などより遥かに強大な力を持つバケモノのことであり、フーケの言ったバケモノとは、強いとかそういうものを超越した違う土俵にいる、人の身では打倒することが叶わない存在のことである。
例えば、アプトムの反撃がなく、ワルドの魔法が直撃していたとしても、獣化した今のアプトムには傷一つつけられなかっただろう。
ようするに、ワルドはアプトムを倒そうなどと考えるべきではなかった。天災か何かと考えて身を潜めているべきだったのだ。
ワルドを退けたアプトムは、何事もなかったように上昇し、レキシントンの真上に到達する。というか、彼は自分が墜とした竜騎士をワルドと認識しておらず、ルイズにいたっては奇襲があったことにすら気づいていない。
そして、そこでアプトムはルイズに眼を向ける。ここまで運ぶようにと言ったのはルイズである。ならば、何か考えがあるのだろうと。ここで、それを明かせと言う意思を込めて。
エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ
聞こえてくるのは、アプトムの胸の前に抱えられたルイズの口からこぼれるルーンの詠唱。
オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド
それが、タルブの村でオーク鬼を追い払った時にルイズが唱えていた呪文だとアプトムだけが知っていた。
べオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ
だが、あの時のルイズは呪文の詠唱を途中で止めていた。だが、今回のこれは止まらない。
ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……
アプトムは魔法のことなど知らない。だけど、呪文によってルイズの体から、強大な力が引き出されていることには気づいた。
そして……。
シエスタは見ていた。自分が働く魔法学院の方角から飛んできた黒い何かが、アルビオンの竜騎士たちを撃ち墜とし侵略者の艦隊へと突撃して行ったところを。
ギーシュは見ていた。黒い何かが魔法ならざる光線で戦い、敵旗艦である巨大戦艦の上空に進んだ姿を。
少女は思う。あれは、自分の知る小さな貴族の少女の仕業ではないかと。
少年は思う。あれは、自分の知る使い魔の男がやっているのではないかと。
根拠などない。馬鹿げた思い付きであるという自覚もある。だけど、二人はそれを信じた。そして、思ったのだ。これで、この国は救われるのだと。
二千の兵を連れてタルブまで来たアンリエッタは、しかし自分がここにいる意味を見出せずにいた。
この期に及んでも、彼女には分からなかったのだ。侵攻してきたアルビオンを相手に応戦するべきかどうかが。
民を守るためには、戦うべきだとも思う。だけど、マザリーニはそうではないと言う。
自分の考えが間違いだとは思わない。だけど、マザリーニの言葉より自分の考えが正しかったことが今までにあっただろうか。
自分は政治について何も知らない小娘なのだ。それは、自身が興味を持って取り組んだことがないからであり、王女は政治など知らなくてもいいというトリステイン王宮の方針のせいでもあったのだが、それを今言っても意味などない。
だけど結局は兵を連れ、ここに来た。
それは、アルビオンとの全面戦争を受け入れたためなどではない。
彼女は、ただ逃げ出したかっただけなのだ。アンリエッタは何も知らない。何も出来ない。なのに、貴族たちは選択を迫ってくる。そして、責任をまわしてくるのだ。それが恐ろしくて彼女はここに来た。
戦うと、彼女は言った。そうして、出てきた。だけど、その選択がはたして正しかったのか。
アンリエッタにだって分かっているのだ。トリステインに勝ち目などない事くらい。
もちろん、アンリエッタ本人が兵を率いることにも、マザリーニが反対した。だが、これに関しては聞き入れなかった。戦場は恐ろしいところだと分かっていたつもりだったが、それでも王宮よりマシだと信じたから。
そして、それは思い違いだと気づかされる。
殺し殺される。それが当たり前の光景となるのが戦場というものだ。だけど、アンリエッタは、自分にはそれが受け入れられない事に気づいてしまった。
それだけではない。敵艦隊が、ラ・ロシェールに立てこもった兵を砲撃で一方的に蹂躙しているところを目の当たりにしてしまったのだ。
奇跡でも起こらない限り、勝ち目がない。そんなことは最初から分かっているつもりだった。だけど、理解には至ってなかったのだと今頃になって気づいた。
そうして、奇跡が起こる。
その光景に、驚愕しなかったものはいなかった。
巨大戦艦レキシントンの上方に生まれたもう一つの太陽とも言うべき光球。それが膨れ上がり、空を行く全ての艦隊を飲み込み、それが消えた後には、炎上し墜落する艦隊の姿があったのだ。
声が上がる。あれこそは、ブリミルより使わされ、トリステインを建国の頃から見守る守護神の力だと。
悪虐なる侵略者からトリステインを守るために現れたのだと。
それは士気向上のための方便であったが、奇跡を目の当たりにした者たちは、それを信じた。敵も、味方も。
そして、勝敗は決する。
それらを見下ろし、アプトムは胸に抱えた少女を見る。今の魔法はよほど精神力を消耗するのだろう。ルイズは疲れきり意識を手放し、しかしやり遂げたものの顔をして穏やかな寝息を立てている。
「よくやった。ああ、そうだ。お前は、なれる。伝説に名を残す者に」
ポツリと呟いた後、彼は地上へと降りていく。
「とんでもないねぇ。私も、あんたのやることなら、大概のことには驚かなくなった自信があったけど、またまだだね」
苦笑と共に吐かれた言葉に、男は首を振る。あれは自分ではないと。自分があれと同じ事をやろうとすれば命を引き換えにする必要があるのだと。
命と引き換えならできるって、それでも充分にとんでもないじゃないかと思っていると、別の声が上がる。
「ありゃあ、エクスプロージョンだ。虚無の魔法だよ」
「虚無って伝説の系統じゃないかい?」
「ああ。つまり、相棒を召喚した、あの嬢ちゃんが伝説の魔法使いだったってことじゃねーか?」
伝説ねぇ。と彼女はゼロと呼ばれる少女の姿を思い浮かべ。しかし、この声の主は何故そんなことを知っているのかと目を細め、男が右手
に持つ、刀身の錆びついた剣を睨むのであった。
#navi(ゼロと損種実験体)
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それを最初に発見したのが誰かなどタルブの村人たちにとって、どうでもいいことであった。
ラ・ロシェールの方角から聞こえた爆発音と燃え上がり山に激突し森に落ちるトリステイン艦。
それが、アルビオン軍によるトリステイン侵攻の始まりであるなどと知るはずもなく、村の上空に停泊した戦艦を不安に脅える眼で見ていた彼らは、そこから飛び立った火竜が村の家々に火炎の息を吐き出した時点で初めて悲鳴を上げて逃げ出した。
トリステインとアルビオンの間には不可侵条約が結ばれている。
しかし、アルビオンの側にとって、それは奇襲のために持ちかけたものでしかなかった。
一応、親善訪問に訪れたという名目で送り出してきた自分たちの船の一つを沈めて見せて、先に攻撃してきたのはトリステイン艦隊である。
こちらは応戦しているだけだなどと宣言したが、そんなことを信じるものがいるとすれば、よほどおめでたい頭をしたものだけであろう。
それを卑怯と罵るのは容易い。しかし、アルビオン側の、例えば上陸作戦の指揮を担っているワルドなどからすれば、隠密裏の任務での事であったとはいえ、魔法衛士隊隊長に祖国を裏切らせ、一国の皇太子を暗殺させるような組織の申し込んだ同盟を疑いもしないなど愚かしいにも程がある。
実際のところ、トリステイン貴族はワルドの想像以上に度し難い愚か者たちであった。
アルビオン艦隊から降り立った上陸部隊を迎え討たんと現れた近在の領主の軍が竜騎士によって蹴散らされ、タルブの領主が戦死するという事態が起きた後も、王宮では、アルビオンに使者を送り話し合いによって軍を引いてもらうのか、迎え撃つべくゲルマニアに助けを求めるのかという方針すら決定できていなかったのだから。
ただし、これには仕方のない側面もある。
トリステインの政務を一手に取り仕切るマザリーニが枢機卿が、あくまでもアルビオンとの対話によって戦争を回避する事を望んでいたのである。この国の実権を握る者が、そんな実現不可能なことを望んでいたのでは、会議がまとまるはずがない。
彼を、トリステインで、唯一と言ってもいい優秀な政治家であると見なしていたワルドがこの体たらくを知れば、買い被りが過ぎたと失笑したであろうが、これは別にマザリーニが無能だったからということにはならない。
マザリーニ枢機卿は優秀な政治家である。あるいは優秀すぎたのかもしれない。なまじ優秀であったばかりに、ここで戦を起こしても勝ち目がないと気づいてしまっていたのだ。
勝ち目がない戦を起こして、無駄に民の犠牲を増やすことは、間違いである。これは正しい見解である。ただし、この時点では彼に見えていないものもある。
今、犠牲になっているのは無辜の民である。そして、アルビオン軍が何のためらいもなく、それどころか積極的に民を害していると言う事実は、これから先アルビオン軍はトリステインの王宮までの進軍の過程において、全ての民を殺しつくす勢いで攻めてくる。すなわち、彼の選択は民の被害を増やす結果にしかならないということである。
そんな中、会議室の席の一つに座るアンリエッタは考えていた。どうすることが正しいのかを。
彼女は、政治のことを知らない。優秀な政治家であるマザリーニが、太后である母にも王女である自分にも、相談なく全てを取り仕切り、結果だけを報告してきたからである。
今まで、マザリーニのやってきたことに間違いだったことはない。ルイズに頼んだ、アルビオンに行ってウェールズから手紙を返してもらう任務にしても、マザリーニに相談していればよかったと、そうすればルイズを危険な目にあわせることも悲しませることもなかったかもしれないと今では後悔している。
だから、ここでもマザリーニにすべて任せて、自分は黙って座っていればいいのかもしれない。
だけど、それでいいのかと問う声が頭に浮かぶ。その声は、ルイズのもののようにも聞こえた。ウェールズのもののようにも聞こえた。
ルイズをアルビオンに生かせたのは間違いだった。だけど、ルイズがそのことに不満を漏らしていただろうか?
ウェールズは、自分よりも国を取った。それは、誰に決められたのでもなく、自分自身の心に従ってのことではなかったか?
ならば、自分は……。
アルビオンの宣戦布告の報が、トリステイン魔法学院まで届いたのは、タルブの村が焼かれた翌朝のことである。
本来なら、トリステイン王女アンリエッタとゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式に参加するルイズを迎えに来るはずの馬車は来ず、代わりに来たのは息を切らせて青い顔をした使者であった。
式には、オールド・オスマンも出席することになっていたのだが、彼は準備に忙しく「ミス・ロングビルはやく帰ってきてくれ。おまえさんがいれば、ワシもギリギリまで仕事をしないですんだんじゃ」などと泣き言を言いながら自室で、この期に及んでも書類を片付け、荷物をまとめていた。
そこに、王宮からの使者が飛び込んできて、アルビオンの宣戦布告、そしてアンリエッタの結婚式の無期延期と学院の生徒や職員の学院外への外出を禁じる旨を伝えてきたのだ。
「宣戦布告とな? 戦争かね?」
「いかにも! タルブの草原に、敵軍は陣を張り、ラ・ロシェール付近に展開した我が軍とにらみ合っております!」
「現在の戦況は?」
「敵の竜騎士によって、タルブの村は焼かれているそうです……。同盟に基づき、ゲルマニアへの軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは三週間後とか……」
「……見捨てる気じゃな。敵はその間に、トリステインの城下町をあっさり落とすじゃろうて」
おそらくは、ゲルマニアも、この事態は想像していなかっただろう。
ゲルマニアはトリステインのような小国とは違う軍事強国である。だから、その同盟国であるトリステインにアルビオンが宣戦布告をするとしたら、二国を相手に勝てるだけの戦力を得てからのことだと誰もが考えてしまっていた。
つまり、ゲルマニアは考えてしまったのだ。今トリステインを攻めているアルビオン軍は、ゲルマニアの軍を蹴散らせるだけの戦力を有しているのではないかと。
そんな相手に、何の準備もなく軍を送って戦力を減らすわけには行かない。どうせ犠牲になるのは他国の民だ。それが、ゲルマニアの選択であったのだろうとオスマンは、ため息を吐く。
そんな使者とオスマンの会話をルイズは聞いてしまった。王宮で何かがあったのだろうかという好奇心で使者の後を追い、部屋の前で聞き耳を立てていたのだ。
脳裏に浮かぶのは、青い空の下をどこまでも続く緑の絨毯と、それを背に穏やかに微笑む黒髪の少女。ルイズを恩人と呼ぶ村人たちと、彼らの暮らす家々。
衝動的に走り出したルイズは、こちらは使者に興味がなく学院の玄関先で待っていたアプトムに捕まる。
「どこに行く気だ?」
「タルブの村よ!」
「話が見えないな」
アプトムは、学院長と使者の会話を聞いていない。結論だけを言われても、何のことを言っているのか理解できない。
そんな彼に、ルイズは自分の心の中で渦巻く衝動を口に出していく。
「アルビオンが攻めてきたって、タルブが焼かれてるって、だから、わたしは、シエスタを助けに行くの!」
「行って、お前に何ができる」
冷淡なアプトムの言葉に、ルイズはギクリと肩を震わせ、動きを止める。
そうだ。自分に何ができるというのだ。ろくに魔法も使えないゼロのルイズのクセに、軍隊を相手に人を守れるとでも言うのか。
タルブの村で、さすがは貴族さまだと、ちやほやされて自分に力があると勘違いをしていたのだろうか。村を襲ったオーク鬼を追い払ったのは自分ではなくアプトムだったというのに。アルビオンでも結局はアプトムに助けてもらっただけで、自分は何もできなかったというのに。
だけど、それならどうすればいいというのだろうか。ルイズは自分が無力な人間だと理解している。だけど、救いたいのだ。シエスタを、彼女の家族を、タルブの村人を。
気がつけば、ルイズは涙を流していた。
そして、そんな弱い自分を嫌悪する。力が無いなら考えればいいのだ、力がなくてもタルブの人々を救える方法を、それなのに、無力を嘆くだけの自分の弱さが許せない。
考えるのだ、自分に出来ることを。自分は何だ? ヴェリエール公爵家の三女、魔法成功率ゼロのルイズ、アプトムの主人で、王女アンリエッタのおともだち。
実家の両親に助けを求める? ダメだ、公爵家の力で兵を集めるにしても、間に合わない。自分の魔法で? 失敗の爆発魔法しか使えないのに? 爆発……?
ふと脳裏に、始祖の祈祷書のことが思い浮かぶ。
あれに載っていたエクスプロージョンの呪文。その魔法ならば、アルビオン軍を追い払えるのではないか?
唐突に、そんな思いつきが頭に浮かぶ。根拠は無い。だけど、それが事実であるとルイズは信じた。
だけど、それは自分ひとりでは無理だ。さっきは考えなしに一人で走っていこうとしたが、それでは間に合わない。馬を借りても同じだろう。
そうしてルイズは、アプトムを見る。彼の力を借りれば、自分は……。
「アプトム! わたしをタルブに連れて行って!」
「行ってどうする? お前にできることなど何も……」
「ある!」
叫ぶ。できるのだ。自分にならできるはずだ。いや、できなくてはいけないのだ。
「わたしは、伝説に名を残すことになる人間よ! わたしは始祖ブリミルと同じ虚無の系統のメイジなんだから!」
それは宣言。一度は否定した自分が虚無の系統であるという事実を受け入れる決意。
だから、つれていけとルイズは命ずる。この程度のこともできなくて、アプトムを帰す魔法を作ることなどできないと告げる。
そして、アプトムは考える。ルイズの言うことは正しいのかもしれないと。
彼は魔法を知らない。彼女の言うことを間違いだと断じる根拠を持っていない。
少女を危険に近付けないことが自分のやるべきだと彼は考えているのだけれど、それだけでは彼女は成長できないのではないのかという考えもある。
それに、自分もまた、助けに行きたいと考えなかったわけではないのだ。
シエスタという少女に対して特別な思い入れは無い。そのはずだ。だけど、ルイズのことで色々と借りがある。その借りを返さずに見捨てるというのは気分が良くない。ただ、それだけのことだと彼は自身に言い聞かせる。
だが、これだけは確認しておかなければならない。
「本当に、やれるんだな?」
「もちろんよ!」
「そうか」
そうしてアプトムの肉体は変化を始める。表皮を漆黒の甲殻に変えた昆虫じみた姿の亜人に。
「また前と違う?」
呟くルイズの声には困惑の色がある。彼女が知るアプトムの亜人としての姿は、最初がカメレオンのような顔の獣人。次が、前にアルビオンで見せた直立するカブトムシといった感じのものであったが、今度は前の姿をスマートにしたような姿である。
それが、前に見せた形態であるゼクトールという名の獣化兵を含める四人衆と呼ばれた超獣化兵の能力全てを兼ね備えた複合形態であり、前に『土くれ』の二つ名を持つ盗賊フーケのゴーレムと戦った時に見せたフルブラストという呼び名を持つ形態であるなどとルイズは知らない。
それに、今はそれどころではないのだ。
焼け落ちたタルブの村の傍の草原に展開したアルビオン軍と、ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍が一触即発の空気を纏いつかせ睨み合っていた。
そして、森に潜み、それらを不安な面持ちで見ているいくつもの視線があった。タルブの村人たちである。
彼らの中に、何が起こったのか正確に理解している者はいない。突然にアルビオンの竜騎士の襲撃に晒され、逃げ惑うしか出来ない彼らを救い出した者がいた。
と言っても、竜騎士と戦ったとか、撃退したというわけではない。彼がやったのは、人間と同じ大きさのゴーレムを作り出し、それに村人と同じ服を着せて囮にして、人々を逃がすことである。
言葉にすれば、それだけのことであり、お世辞にも村を守ったと言えるものではないが、それで救われた命がある事を否定することはできない。
「どうしたんですか? ミスタ・グラモン」
村人たちの救い主たる少年に声をかけたのはシエスタである。
シエスタは、彼と親しいというわけではなかったが、学院で何度か顔を合わせたことのある知り合いではあったので、少年に話しかけるのは逃げてきた村人たちの中で彼女の役割になっていた。
他の村人たちも、少年に感謝をしていなかったわけではないのだが、彼がやってきたのはアルビオンの上陸部隊のいる方向からだったので、疑念を抱いてしまっていた。
少女の質問に対し、険しい顔をしていた少年、ギーシュ・ド・グラモンは、困った顔になる。
「いや、なんでもないんだ。ちょっと、お腹がすいたな、って思ってただけだから」
「まあ! すみません。ミスタ・グラモンのおかげで、いくらか持ち出せましたけど、数に限りがありますから」
すまなそうに頭を下げる少女に、ギーシュは、いいよと手を振る。
実際、彼が考えていたのは別のことである。彼の予想では、とっくに王宮からトリステイン軍の増援が来ていなければならないのに、それがまったく見えてこない。
増援がくれば自分も合流して、国のために戦おうと意気込んでいたために、肩透かしをくらった気分である。
アルビオンに入り込み、情報を集めていた彼は、アルビオンが話し合いに応じるはずがない事を知っていたので、トリステインが応戦か話し合いかで意見が決まらず長らく会議を続けていたなどと想像もしていなかったのだ。
それに、ギーシュはアルビオン艦隊の戦艦に備え付けられた新型の大砲についても知識を得ている。このままでは、ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍は街ごと壊滅させられることになるだろう。
そんな焦りを話しても意味はなく、自身の思考に埋没しがちな彼の耳にシエスタの声が滑り込んだのは、そのすぐ後のことである。
「あれは、なんでしょうか?」
そう彼女が指さした先は、魔法学院のある方向の空であり、そこには黒い点が見えていた。
タルブの村の上空に展開し、周囲を警戒していた竜騎士の一人が、こちらに近づいてくる黒い何かを発見した。その瞬間、彼はその生を終える。
黒い何か、ルイズを抱きかかえて飛ぶアプトム・フルブラストが額の発振器官から撃ち出した生体熱線砲に焼かれたのだと気づく暇もなかった。
アプトムに抱えられ、上空からタルブの村を見下ろしたルイズは歯噛みする。
ここに住んでいた人たちは、とてもいい人たちだった。こんな戦争に巻き込まれて焼かれていい村ではない。命を落としていい人たちではない。それを……。
「アプトム!」
ルイズの叫びに応えて、アプトムが加速する。
仲間が突然撃墜されたことに驚き、それによって接近する彼に気づくのが遅れた竜騎士を次々と撃ち墜としながら艦隊へと突撃する。
次々と墜とされていく仲間の姿に、いつまでもアプトムの存在に気づかない竜騎士たちではない。少しの時間を必要としたが、彼らは何かを抱えて飛ぶ黒い亜人の姿を確認した。だが、気づいたところでどうにもならない。
攻撃の精度と射程距離に差がありすぎた。竜騎士の攻撃は、基本的に自分たちの乗る火竜の吐く炎の息である。だが、高速で飛ぶ火竜が前方に吐くブレスが、それほど遠くまで届くはずがないし、空気圧の風に流されもする。それ以前に、自分の乗る竜に、同じく高速で飛ぶ敵を狙わせること自体が至難の業である。
だが、亜人の方はそうではない。あちらは、顔をこちらに向けるだけでいいのだ。それだけで、額から発する光の線で竜騎士たちを撃墜する。風に流されることなく、遠距離まで届くそれは、恐れを知らぬはずの竜騎士たちに得体の知れない恐怖を抱かせる。
「それで、どうするつもりなんだ!」
風に負けないような大声で叫ぶ。アプトムの能力を持ってすれば、敵の竜騎士を全て撃ち墜とすことは容易い。だけど、それだけでは意味がない。
戦争なのだ。彼一人が敵兵士を倒していくだけでは敵軍を打ち負かせない。人々を守れない。
アプトムには、敵の艦隊全てを葬り去る必殺の一撃がある。だけど、それは威力がありすぎてトリステイン軍や、どこかに逃げ延びているかも知れないタルブの村人たちを巻き込む可能性がある。なにより、自分自身すら消し滅ぼす危険性のある技である。そんなものをルイズを抱えた状況で使えるはずがない。更にもっと言えば、もし彼がルイズを抱えた状況でなければ、手が空き巻き添えを気にしなくても良くなる分、額の生体熱線砲だけでなく、それよりも直接的な威力こそ数段落ちるものの、一度に大量に射出する事が出来、尚且つ彼の視界内であるのならば、射出されたそれらをひとつひとつある程度自由に軌道を操る事をも出来る、生体ミサイルをも同時使用する事が出来るようになり、それこそ&s(){逆弾幕ゲー状態}敵兵の一方的な虐殺が可能となっていたのである。
それに、ここに来ると言ったのはルイズである。できることがあるとの宣言が嘘ではないのなら、彼女には考えがあるはずなのだ。
そして、使い魔の言葉に答えて、少女は人差し指を立てた右手を伸ばす。
その指の先は、ラ・ロシェールの街の上空。雲の隙間からその偉容を覗かせる巨大戦艦にしてアルビオン軍の旗艦『レキシントン』。
「あの巨大戦艦に近づいて。できるはずだから。ううん。できるの。やってみせるから」
何がとは言わない。アプトムも聞かない。彼女はできると言ったのだ。ならば、彼はそれに応えるだけだ。
旗艦に接近する黒き亜人に気づいた艦隊からいくつもの砲撃が撃ち出されるが当たらない。アプトムの機動についていけないのもあるが的が小さすぎるのだ。戦艦に備えられた大砲は、竜騎士などの高速で移動する小さな的を撃つようにはできてはいないし、アプトムの身長は二メイルを越える人に比べれば大きなものであるが、竜騎士の乗るドラゴンなどに比べればまだ小さい。
対竜騎士用に用意された散弾もあるが、アプトムの肉体は、大砲を凌駕する攻撃力を誇る重圧砲を受けても傷一つ負わない獣化兵ゼクトールと同等以上の耐久力を持っている。抱きかかえたルイズにさえ当たらなければ、どうということはない。
ほどなくしてアプトムは、そして彼に抱きかかえられたルイズは敵旗艦を前にする。
ワルドは全てを見ていた。
どこからか飛んできた謎の亜人。それが、額から放つ光線で配下の竜騎士たちを撃ち墜としていくさまを。
「『ガンダールヴ』め。亜人ではないかと思っていたが、あれが真の姿か」
彼は、黒い亜人がアプトムであると確信していた。竜騎士を墜とした光線には憶えがあったし、自分を苦もなく撃退したバケモノなら、変化の魔法くらい使ってもおかしくはない。
正面から向かって勝てる相手ではない。だけど、自分はアレの弱点を知っている。
亜人は、何かを抱えている。多くの竜騎士たちは、それが人であるとすら知ることが出来なかったであろうが、ワルドは違う。彼は、それがルイズであると気づいていた。
どれほど強力な力を持ったバケモノであろうと、足手纏いを連れて生き残れるほど戦場は生易しい場所ではない。
とはいえ、相手が想像を絶するバケモノである事実は動かない。だから、彼は機を窺っていた。そして、その時は訪れた。
竜騎士隊を全滅させた後、ガンダールヴが旗艦を墜としにかかることを彼は予期していた。普通に考えれば、単騎で戦艦を、ましてやこの巨大戦艦を墜とすことなど不可能なことである。あの光線を何度撃ちこんだ所で徒労にしかなるまい。だが、あのバケモノになら出来るのではないか? そう思いワルドは隠れ待っていた。そして、彼は賭けに勝った。
『レキシントン』には真上という死角がある。そこを目指してアプトムがやってきた瞬間、ワルドは飛び出し背後を取った。
静かにとはいかない。竜は、翼をはためかせて飛ぶ生き物であり、無音とは行かない。飛び回る以上サイレントの魔法を使っても無意味である。だが、ここまで近づけば充分だ。亜人が振り返って光線を放てば、その一撃でワルドは命を奪われるだろうが、その心配はない。近すぎるのだ。胸の前にルイズを抱きかかえたアプトムが振り向くということは、彼女を危険に晒すということに他ならない。
逃げる暇も与えない。ワルドが乗るのは風竜だ、指揮を取るならと選んだこの竜のスピードは他の竜騎士が乗った火竜など比較にならない。
逃がさぬという意思を込めて竜を駆り杖を振るう。唱えた呪文は敵を刺し貫く空気の槍エア・スピアー。
この時のワルドに、油断があったわけではない。彼は一切の過信も妥協もなくアプトムの命を奪おうとした。
では、何が悪かったのかと言えば、まだアプトムという存在を過小評価していたのだろうか。否、それは唯一つの勘違い故である。
アプトムの背に生えた翅の付け根から伸びた鞭のような一対の触手。それが伸びワルドの乗る風竜に巻きついた。そうと気づいたとき、決着はついていた。
それは、電気ウナギの500倍の発電能力を持つ超獣化兵エレゲンを融合捕食して手に入れた能力。十万ボルトを超える電撃を放つ触手の一撃で風竜は絶命し、無論のこと背に乗っていたワルドもただではすまない。命だけは取り留めた彼は、しかし意識を失い、死体となった竜と共に遥か下にある大地へと落ちて言った。
ワルドは、たった一つの、しかし致命的な勘違いをしていた。フーケの言うバケモノの意味を取り違えていた。
ワルドの考えるバケモノとは、竜やエルフのような人間などより遥かに強大な力を持つバケモノのことであり、フーケの言ったバケモノとは、強いとかそういうものを超越した違う土俵にいる、人の身では打倒することが叶わない存在のことである。…いいや、本当にただの「バケモノ」に過ぎない存在であれば、人…「人間」によって打倒される運命にあるのかもしれないが、今の彼はクロノスの支配から解き放たれた後、紆余曲折を経て「人」の心を取り戻す事の出来た、謂わば「人の心を持った化け物」である。この人と怪物の強さを併せ持った相手に、中途半端なテロリスト崩れに過ぎないワルドが、太刀打ち出来よう筈もないのも当然であると言えよう。
仮に、アプトムの反撃がなくワルドの魔法が直撃していたとしても、獣化した今のアプトムには傷一つつけられなかっただろう。&s(){生体熱線砲の電磁エネルギーをバリヤのように使用する応用法も存在するし。}
ようするに、ワルドはアプトムを倒そうなどと考えるべきではなかった。天災か何かと考えて身を潜めているべきだったのだ。
ワルドを退けたアプトムは、何事もなかったように上昇し、レキシントンの真上に到達する。というか、彼は自分が墜とした竜騎士をワルドと認識しておらず、ルイズにいたっては奇襲があったことにすら気づいていない。
そして、そこでアプトムはルイズに眼を向ける。ここまで運ぶようにと言ったのはルイズである。ならば、何か考えがあるのだろうと。ここで、それを明かせと言う意思を込めて。
エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ
聞こえてくるのは、アプトムの胸の前に抱えられたルイズの口からこぼれるルーンの詠唱。
オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド
それが、タルブの村でオーク鬼を追い払った時にルイズが唱えていた呪文だとアプトムだけが知っていた。
べオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ
だが、あの時のルイズは呪文の詠唱を途中で止めていた。だが、今回のこれは止まらない。
ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……
アプトムは魔法のことなど知らない。だけど、呪文によってルイズの体から、強大な力が引き出されていることには気づいた。
そして……。
シエスタは見ていた。自分が働く魔法学院の方角から飛んできた黒い何かが、アルビオンの竜騎士たちを撃ち墜とし侵略者の艦隊へと突撃して行ったところを。
ギーシュは見ていた。黒い何かが魔法ならざる光線で戦い、敵旗艦である巨大戦艦の上空に進んだ姿を。
少女は思う。あれは、自分の知る小さな貴族の少女の仕業ではないかと。
少年は思う。あれは、自分の知る使い魔の男がやっているのではないかと。
根拠などない。馬鹿げた思い付きであるという自覚もある。だけど、二人はそれを信じた。そして、思ったのだ。これで、この国は救われるのだと。
二千の兵を連れてタルブまで来たアンリエッタは、しかし自分がここにいる意味を見出せずにいた。
この期に及んでも、彼女には分からなかったのだ。侵攻してきたアルビオンを相手に応戦するべきかどうかが。
民を守るためには、戦うべきだとも思う。だけど、マザリーニはそうではないと言う。
自分の考えが間違いだとは思わない。だけど、マザリーニの言葉より自分の考えが正しかったことが今までにあっただろうか。
自分は政治について何も知らない小娘なのだ。それは、自身が興味を持って取り組んだことがないからであり、王女は政治など知らなくてもいいというトリステイン王宮の方針のせいでもあったのだが、それを今言っても意味などない。
だけど結局は兵を連れ、ここに来た。
それは、アルビオンとの全面戦争を受け入れたためなどではない。
彼女は、ただ逃げ出したかっただけなのだ。アンリエッタは何も知らない。何も出来ない。なのに、貴族たちは選択を迫ってくる。そして、責任をまわしてくるのだ。それが恐ろしくて彼女はここに来た。
戦うと、彼女は言った。そうして、出てきた。だけど、その選択がはたして正しかったのか。
アンリエッタにだって分かっているのだ。トリステインに勝ち目などない事くらい。
もちろん、アンリエッタ本人が兵を率いることにも、マザリーニが反対した。だが、これに関しては聞き入れなかった。戦場は恐ろしいところだと分かっていたつもりだったが、それでも王宮よりマシだと信じたから。
そして、それは思い違いだと気づかされる。
殺し殺される。それが当たり前の光景となるのが戦場というものだ。だけど、アンリエッタは、自分にはそれが受け入れられない事に気づいてしまった。
それだけではない。敵艦隊が、ラ・ロシェールに立てこもった兵を砲撃で一方的に蹂躙しているところを目の当たりにしてしまったのだ。
奇跡でも起こらない限り、勝ち目がない。そんなことは最初から分かっているつもりだった。だけど、理解には至ってなかったのだと今頃になって気づいた。
そうして、奇跡が起こる。
その光景に、驚愕しなかったものはいなかった。
巨大戦艦レキシントンの上方に生まれたもう一つの太陽とも言うべき光球。それが膨れ上がり、空を行く全ての艦隊を飲み込み、それが消えた後には、炎上し墜落する艦隊の姿があったのだ。
声が上がる。あれこそは、ブリミルより使わされ、トリステインを建国の頃から見守る守護神の力だと。
悪虐なる侵略者からトリステインを守るために現れたのだと。
それは士気向上のための方便であったが、奇跡を目の当たりにした者たちは、それを信じた。敵も、味方も。
そして、勝敗は決する。
それらを見下ろし、アプトムは胸に抱えた少女を見る。今の魔法はよほど精神力を消耗するのだろう。ルイズは疲れきり意識を手放し、しかしやり遂げたものの顔をして穏やかな寝息を立てている。
「よくやった。ああ、そうだ。お前は、なれる。伝説に名を残す者に」
ポツリと呟いた後、彼は地上へと降りていく。
「とんでもないねぇ。私も、あんたのやることなら、大概のことには驚かなくなった自信があったけど、またまだだね」
苦笑と共に吐かれた言葉に、男は首を振る。あれは自分ではないと。自分があれと同じ事をやろうとすれば命を引き換えにする必要があるのだと。
命と引き換えならできるって、それでも充分にとんでもないじゃないかと思っていると、別の声が上がる。
「ありゃあ、エクスプロージョンだ。虚無の魔法だよ」
「虚無って伝説の系統じゃないかい?」
「ああ。つまり、相棒を召喚した、あの嬢ちゃんが伝説の魔法使いだったってことじゃねーか?」
伝説ねぇ。と彼女はゼロと呼ばれる少女の姿を思い浮かべ。しかし、この声の主は何故そんなことを知っているのかと目を細め、男が右手
に持つ、刀身の錆びついた剣を睨むのであった。
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