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#navi(スナイピング ゼロ)
「ルイズ~!」
始祖の祈祷書に目を通していたルイズに自分の名を叫ぶ声が聞こえたのは、敵軍の艦隊「レキシントン号」に向けて
ヘリが急行している時だった。
何事かと思いながら、右側の窓から外を見る。そこには、見知った人物の姿が見えた。
「あれは!?」
そこに見えたのは、幻獣のグリフォンを操り、羽付き帽子と魔法衛士隊の制服を身に付けた男の姿。義手となった左手で
手綱を握り締め、右手でレイピア型の杖をコルト・シングル・アクション・アーミーのようにクルクルと回している。
「オセロッtじゃなくて、ワルド!」
「まだだぁっ!」
ワルドは杖を腰に仕舞うと、手綱を両手で握り猛烈な勢いでヘリに接近してきた。勢い良く回転するメインローターを
気にする様子は、全く無い。ルイズは操縦桿を握る二人に、大声で叫ぶ。
「ワルドが来たわ! 右方向、距離20メイル!」
「ワ、ワルドさんがですか!?」
即座にセラスが、遅れてリップが右方向に視線を向ける。デルフがボソリと「あのオッサンも頑張るねぇ」と呟いたが、
ローター音に掻き消された。
「早く離脱して、撃墜されるわ!」
「ヤ、ヤー!」
操縦桿を倒し、機体を大きく左へカーブさせる。だがワルドは離されること無く距離を詰めてくる。
ルイズは始祖の祈祷書を後部座席に置き、ドアの下部に取り付けられているハンドルに手をかけた。
「マスター、何を!?」
「セラスは前を向いてて!」
力を込めて、ハンドルを90度回転させる。ガチャッと言う音が響き、ドアのロックが外れた。
「せーの~!」
天井に走るパイプを両手で掴むと、ルイズは思いきりドアを蹴り飛ばした。
「何!?」
突然ヘリのドアが飛んできた事に、ワルドは驚いた。だが持ち前の腕前でドアを避けると、再び接近する。
ヘリの後部では、悔しそうに地団太を踏むルイズの姿があった。それを見て、ワルドは苦笑いを浮かべる。
「まさか元許嫁に、扉を蹴り飛ばされるとは思わなかったな……」
ぼやきながらも、ワルドは両足をグリフォンの背に乗せた。ヘリを操っている二人が銃器を使おうとしているが、操縦桿
を握っているため動きが遅い。その隙を逃す事無く、ワルドはヘリに飛び移ろうと背を蹴った。
「外したわ!」
ドアをぶつける作戦が失敗し、ルイズは床を踏みつける。リップは地表に向けて落下していくドアを見下ろしながら、
「後で回収しなきゃ」と呟いた。セラスはハルコンネンで攻撃しようと銃器に弾を装填しようするが、操縦桿から手を
離せないため手間取っている。
「どうすんだ、どうやら敵さんはヘリに飛び移る気だぜ」
デルフの声に、ルイズは足を止めて外を見る。ワルドがグリフォンの背中に座るような格好で近付いていることから、
明らかに飛び移ろうとしているのが分かる。
「何してんのよセラス、早く撃ちなさい!」
「ヤー!」
そう言ってセラスが銃口を窓から外へ突き出すと同時に、ワルドは飛んだ。
「あーッ!」
ルイズが叫ぶと同時に、ワルドはヘリ内部への侵入に成功。そのまま勢いよく回転し、左のドアにぶつかって
「あ」
ドアがガタンと言う音と共に外れ、ワルドは
「うわぁあああ~!」
雄叫びをあげながら、地表へ向けて落下して行った。その後を、グリフォンが雄叫びをあげながら追いかけて行く。
ルイズとセラスは、予想外の事に呆然としている。リップはアホ毛を指先で弄りながら、呑気な声で答える。
「ロックするの忘れてたわ」
それからしばらく、ヘリにはデルフの笑い声が響き続けた。ルイズは落下していくワルドに
「良いセンスよ……」と、フォローの言葉を送った。
◇
タルブ村の南部に位置する森の中で、ワルドは仰向けの状態で倒れていた。帽子やマントには、木の葉や小枝などが
幾つも付着している。空の上では、見失った主人を求めてグリフォンが回りながら飛び続けている。
「うぐぉぉ……」
膝に手を乗せ、痛む体を立ち上がらせた。傍に生えた大木に背を預け、息を整える。
「なんとか、墜落死は免れたか……」
痛む背中を撫でながら、苦悶の表情を浮かべた。帽子を脱ぎ、葉や枝を掃い落とす。
ヘリの飛び移りに失敗したワルドは、そのまま地面に向けて真っ逆さまに落ちてしまった。
フライの呪文は唱えたが落下の勢いを抑えきれず、大木の枝に接触しながら背中から地面に落ちた。
前日に降った雨で地面が柔らかくなっていたのは、不幸中の幸いと言えるだろう。
「まったく、私とした事がとんだ失態だな」
そう言って空に向けて口笛を吹こうとした時、ふと足元に目を向けた。
「ん?」
そこに見えた奇妙な物に気付き、唇に伸ばしかけた指を下ろす。
「なんだ、これは?」
そこに見えたのは、弁当箱のような形をした白い塊だった。木の根元に細い糸で結ばれており、動かないよう固定
されている。他にも数本の糸が伸びており、周りの木に真っ直ぐ繋がっていた。不思議に思いながら白い塊に顔を
近づけた時、ワルドは凍り付いた。
「まさかこれは!?」
白い塊に印字されている二つの文字を、しっかりとした声で呟く。
「C4爆弾!」
「そうだ、そのワイヤーに触れると貴様ともどもC4が爆発する」
ワルドは即座に杖を抜き、声のした方へ向ける。そこには、馬に乗った一人の女騎士がいた。短く切り揃えた金髪と、
トリステイン軍を示すマントが風で揺らいでいる。
「お前がクロムウェルとか言う皇帝のお気に入りか?」
「お前は!?」
ワルドは鷹のような眼で、相手を睨みつける。だが、女騎士に怯む様子は無い。
「私はアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン」
右手に持ったマスケットを、真っ直ぐワルドへ向ける。
「貴様が噂どおりの男かどうか試してやる」
女騎士の名前に、ワルドは心当たりがあった。
(任務でアルビオンに向かった頃に新設された部隊の隊長か。確か、平民の女だけで組織されていたはず……ん?)
そこでワルドは、アニエスの腰に付けられている袋が動いている事に気付いた。
「貴様、その動いている袋は何だ?」
「コレのことか?」
アニエスは袋の紐を解き、中身を掴み出す。それは、胴体が膨らんだ蛇らしき生物。ワルドは、その生物に
心当たりがあった。
「それは、まさか!?」
「どうやら貴様は、この生物を知っているようだな」
アニエスは、左手を高く掲げた。尻尾を掴まれた生物は、頭を左右に振りながら悶える。
「貴様が空から落ちて来たのを見て、ここへ来るまでにキャプチャーしたものだ」
幻の生物と言われるツチノコを揺らしながら、アニエスは当然のように言った。
「そのツチノコは必要だ!」
ワルドが叫んだ。
「お持ち帰りはさせん」
馬から降りると、アニエスは挑発するかのように手招きする。
「来い!」
その言葉を合図に、ワルドは駆けた。
向かって来るワルドに対し、アニエスは微塵の躊躇も無く引き金を引いた。黒色火薬が破裂すると同時に、大きな煙が
薬室から吹き出し視界を奪う。即座に左手で煙を払うが、ワルドの姿は見えない。
「どこだ!?」
周囲を見渡し警戒していると、上空から枝の折れる音が響いた。前方へ飛び伏せると同時に、先ほどまで立っていた場所に
ワルドが降り立った。レイピア型の杖が、地面に深く突き刺さっている。
マスケットを捨て、剣を握り一直線に立ち向かう。ワルドが杖を抜くと同時に、剣を勢いよく振り上げた。
「貰った!」
一刀両断するほどの威力で、剣を振り下ろす。だが接触する寸前で、ワルドは左腕だけで剣を防ぎ止めた。
「な!?」
予想していなかった防御の仕方に、アニエスは目を見開く。その隙を逃さず、ワルドはレイピアをアニエスの腹部に向けて
突き出した。鎖帷子が軋む音が響く。二人は互いを武器で払い、距離を取るため後ろへ飛び下がった。
互いを睨みながら、膠着状態が続く。しばらくして、アニエスは言った。
「もう一度いこうか……」
「良いのか?」
ワルドの問いに、アニエスは不敵な笑みを浮かべながら懐に手を入れた。回転式の拳銃を取り出し、撃鉄を起こす。
「六発以上、生き延びた奴はいない」
銃口をワルドに向ける。
「怪しいものだ」
ワルドは杖を握り締め、身構える。アニエスは立ち上がり、ポケットからオロシャヒカリダケを取り出し口に
放り込んだ。短く切り揃えられた金髪が発光しはじめる。
「良し生き返った、さあ行くぞ!」
アニエスが両手で拳銃を構えると、ワルドは杖を振り呪文を唱えた。自分と瓜二つの姿形をしたワルドが5人も現れ、
アニエスを円形状に取り囲む。
「良いセンスだ、そろそろ本気を出していこうか」
そう言うと、アニエスは片足を軸にして回転しながら銃を撃ち始めた。回りながらも狙いを外す事無く、分身した
ワルドの内の2体の心臓や頭部を撃ち抜いていく。そして3体目を撃とうとした時、分身に変化が生じた。
「何!?」
分身したワルドの姿が、じょじょに消えていく。他の2体も同じように消えていき、やがて見えなくなった。
「ステルス偏在か!?」
回転を止め、近くの大木に背を合わせる。銃を握り締めながら、周囲を警戒する。
「どこだ、どこから来る?」
その時、視界に自身が仕掛けたトラップが見えた。
「……そうだ!」
銃を構え、20メイルほど離れた木の根元に固定されているC4に向けて発砲した。
発砲音と爆発音、二重の轟音が鼓膜を振るわせる。一つのC4が爆発したため、ワイヤーで繋がれている他のC4も次々と
爆発していく。あっと言う間に、周囲は爆風で舞い上がった砂埃で覆われた。
「姿を消されては、標的を狙う事は出来ない。だが……」
一点に向けて、銃口を向ける。その地点を漂う煙が、微かに動いた。
「どこを動いているか分かれば、狙う事は可能だ!」
狙った場所に、銃弾を撃ちこんだ。即座に遍在のワルドが2体、姿を現わすと同時に砂のように消滅する。
銃口の向きを変え、残り一発を撃つ。残り1体の偏在が消え失せると同時に、煙も消え失せる。
「偏在は全て倒した、後は張本人である貴様だけだぞ!」
アニエスの叫びが、森に轟く。すると、上空から羽ばたきの音が降りてきた。
「流石だ、平民の女騎士と侮ったのは間違いだったようだな」
幻獣のグリフォンに跨り、ワルドは楽しそうに言った。銃口を向けられた状態のまま、アニエスの正面に降り立つ。
「どうする。まだ続けるか?」
「いや、続けている時間は無い」
ワルドは呟き、遠くの空を指差す。アニエスが視線を移すと、そこには燃え盛るアルビオン軍の艦隊が見えた。数秒ほど
経つと、轟音と衝撃波が二人にも伝わって来た。
弾が切れた銃を懐に仕舞い、アニエスは口笛を吹く。走り寄ってきた馬に乗り、ワルドに顔を向ける。
「邪魔が入った、まあ会おう!」
そう言うと、背を向けて走り去って行った。ワルドはハァっと息をつき、腰をトントンと叩く。
「新型のスニーキングスーツが欲しい所だな……」
そうボヤくとグリフォンに跨り、戦場へと飛び去って行った。
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