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#navi(ルイズとヤンの人情紙吹雪)
「ヒューーーッ なんだここ? スゲー広(ひれ)ーー 宮殿かよ? バカみてーだな まさにブルジョワジィってか?」
ヤンはルイズに連れられて女子寮に来ていた。
ヤンは感心を通り越して呆れていた。
「バカってどういゆことよ! あんたの方がよっぽどバカっぽいわよ! さっきからちょっとは静かにできないの!? 恥ずかしいじゃない田舎モン!」
ヤンは先程からこの調子で、ちんたら歩きながら感嘆の声をあげていた。
しかもその声がやたらデカくてオーバーリアクションなのだ。
ヤンの服装も手伝って、悪い意味で目立ちまくっていた。
すれ違う生徒達がくすくす笑っている様な気がした。
「もーっ なんなのよ、さっきから! 全然人の言うこと聞かないし! 私まで恥かくのにぃーーッ! ほら、はやくきなさいよ 馬鹿犬!」
ルイズはヤンの左手を掴むと、顔を赤くしながら引っ張った。
ヤンは「へいへい」と呟きながらルイズに引っ張られるままになっていた。
「ここがオマエの部屋ァッ!? オメェ一人でこの部屋!? マージーでッ!? 許しがてぇぇぇ!」
こんなガキのうちから贅沢したらろくな人間にならネェ!
ヤンは憤慨した。
人が空を飛ぶほうがまだ許せる気がした。
もっとも、ヤンみたいな人間(吸血鬼だが)もいるので贅沢は関係無いかもしれない。
「ふふん そうよ。 驚いた? 私がどれだけ高貴な人間か理解できたみたいね?」
ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりーーー。ヤンの歯軋りが聞こえる。理不尽だー理不尽だーと小声で呪詛の言葉を吐いている。
「ちょっと落ち着きなさいよ あんた私の使い魔なんだからね! さっきみたいなのもヤメテ! 使い魔の恥は私の恥なのよ!!」
その言葉にヤンは、あーそーだったと冷静になる。
「………その『使い魔』ってのは何なんだ? さっきも契約とか儀式とか言ってたよなー?」
ルイズはまるでカワイそうなモノを見るような目をしてヤンを見やった。
「あんたそんなことも知らないの? ……うぅ~~~~まさかこんなド田舎の平民を呼んじゃうなんて……はぁ。 まぁいいわ! 説明してあげるから、キタナイ耳の穴キレイにしてよーく聞きなさい!!」
サラっとさっき言われたことを言い返してやった。ふんッ。
「あんたは私に召喚されて契約したの。 晴れて使い魔になれたのよ。 ヴァリエール公爵家三女たるこの私の使い魔になれるなんてとっっっっっても名誉なことなのよ!」
ありがたく思いなさい!というのが言外にありありだった。
「契約ってのはイツしたんだよ。 俺した覚えねーぞーーー?」
そう言われてルイズは廊下の時よりも顔を赤くしてしどろもどろになった。
「そ、それは…………その…えと…………………キ、キスよ……。」
ルイズは小声で(特にキスの部分)答える。
「エッ? なになに? よく聞こえねーーーもー1回言って。」
「…ッ! だ、だから………うぅ~……………キ、キキキキキキキキキスしたでしょって言ってるのよ!!」
『キス』というと、召喚した時のことが思い出される。脳ミソが沸騰しそうだった。
「へぇーー キスで契約ゥーーーー? メルヘンだなァー まぁそんなことでゴダゴダ言わねーよ俺ァ別に。 次行こう、次! ココはどこだァ? 召喚ってどーゆーこった?」
ルイズはキスなんてありました?って顔をしているヤンに無性に腹が立った。
「う~~~~~~ッなによ! ちょっとはアンタも恥ずかしがったりしなさいよ! 悪いとは思わないの!? あ、ああああんなししししし舌まで入れておいてナンでそんな冷静なのよッ!!」
「あーーにぎやかな女だなー んなことよりサッサと説明しろって。 ほれ次次次 話進めろ。」
ヤンは既に完全にその話題への興味を失っているようだ。
「く~~~~~~~~~~ッ ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ~~! ………ま、まぁいいわ! アンタなんて所詮使い魔だし、犬に噛まれたのと同じなんだからッ!」
捨て台詞じみた言葉しかルイズからは出てこなかった。
ルイズの説明を一通り聞いたヤンだったが、天を見上げて嘆息した。
「マジかよ… まじでファンタジーなのかよ… 信じられねェーー三文小説みてーな話だな 笑えるぜェ~~~ヒャハハハハハッ」
ヤンの笑いを見てルイズはムッとする。
「人が丁寧に説明してやったのに何よ! ちっとも笑える話じゃないでしょ!?」
「いやいや笑えるぜ? コレはよォーー だってココ俺の世界と違うもン。」
「へ?」
ルイズはヤンの突然の発言に目を丸くする。
「僕様チャンの世界には魔法なんてありはしまチェェェン。 まぁ似たようなモンを使えるヤツは少しいるみてぇだが、一般的じゃねーから。 ……しかも『あれ』だ。」
ヤンはそういって窓の向こう、薄暗くなった空を指す。
指が示した先には『月』が『二つ』浮かんでいた。
「月がどーしたのよ?」
双月。ルイズにとっては当たり前の風景だった。
「僕チンのワールドではお月様は一つなのですよ これマジホント。 つまりここは異世界ってわけだ オーマイガッ。 じゃなきゃよっぽどラッピーなドラッグキメてタリラリホーってとこだな。」
ヤンの発言にルイズはポカーンとしている。
冗談にしても質が悪い。全然おもしろくもない。
「……あんたねぇ もうちょっとマシな嘘言いなさいよ。 田舎者って思われるのがそんなに嫌なの? 本当にそう思ってるなら最初から言いなさい 二度と言わないわ。」
誰だって言われたくないコトはある。ルイズはそれを誰よりも知っているからヤンに対しても少しは気を使ってやろうか、という気持ちになる。
「チゲーよ マジだ、マジ。 ハルケギニアもトリステインも聞ーたことねーよ。 まぁ俺にとっちゃぁ異世界だろーがナンだろーがどうでもいいことでよォ。
どうやらオメェのおかげで生き返ったみたいだからさァ 使い魔ってヤツ? ヤってやってもいいぜ なにすりゃいいんだ?」
ヤンは深く考えない性格。そして今、ヤンは気分が良かった。
死んだと思ったが召喚とやらのお陰で自分は間違いなく生きている。
異世界にいるという衝撃など二の次だった。
学校などというヌルま湯に浸かった世界は、ヤンにとっては刺激が足りないように見える。
しかしこの学院の女共は大分レベルが高い(召喚時と廊下で騒いだ時、チェック済み)。ルイズも胸と性格以外はかなりイケてる。
行く当ても無いしここで女をクッて過ごすのも悪くは無い。
その為にも『ルイズの使い魔』というポジションは有効だ。そのついでにチョットだけ借りを返してやるか。
ヤンはそう考えていた。
「や、やってやってもいいって違うでしょ!? やらないといけないの! 義務なのよ、ギ・ム!」
やっぱりこの男に気を使う必要は無い!
「はーいはいはいはい……わかったわかった… ヤラセていただきます、ヤラセていただきますヨ『ル・イ・ズ・さ・ま』。 コレでよーございマスかァ?」
絶対バカにしている。ルイズは思ったがグッとこらえた。
いちいちヤンにつっかかったら話がまったく進まぬうちに一日が終わってしまう。ルイズは少し大人になった。
「……使い魔の仕事は主に3つよ。 1つ目は主と感覚を共有しその手足となること。」
「感覚のキョウユウぅ? なんだそりゃ つまり俺がナニすりゃオメェも感じチャうノぉ~んってこと? ヒャハハハハハ!」
よくは分からないが、ヨロシクないことを言っているのであろうことはルイズにも想像できた。華麗にスルー。
「……アンタが見たものや聞こえたものが私にも見えたりするってことよ。 でも何も見えないし聞こえない……。」
「まぁ俺みたいのって初なんダロ? だからかは知んねーけどさー デキねェもんはしょーがねーなー アキらめろ。」
そう、そうだ。コイツだから駄目なんだ。メイジを見るには使い魔から、とか言うけど忘れることにした。全部ヤンのせい。うん、私ダメじゃない。
「2つ目は秘薬とか鉱石とか…主人が望むものを探すことよ。」
「無理 パス。」
ソッコーで断られた。
「はやッ! な、なんでよ!?」
「できるわけねぇだろー 召喚されたてだぜ俺 ここの知識ゼロkgだかンな。」
ルイズは『ゼロ』のところで一瞬ピクッとなり不満そうな顔をする。
「………3つ目…これが一番重要なんだけど…主の身を一生守り続けること。 ……まさかコレも無理なんて言わないわよね?」
なかなか鋭い目でヤンを睨みつけている。
「オーイエーー! それそれ そーゆーの待ってたんすよォ ようは敵を全員ぶっ殺してやりャあイイわけだ 楽勝楽勝♪ んで敵はどこにいんだぁ? 数は?」
ヤンはオモチャを見つけた子どものように目を輝かす。
すぐに部屋を飛び出したい、そう思っているんだなと一目でわかるぐらいソワソワし始める。
「ちょ、ちょっと物騒なこと言わないでよ! 敵なんていないわよ!! もしも敵とか危険なことがあったら、その時私を守ればいいの!」
「えーーーーーーーなんだそりゃーーつまんねーーー やっぱバトルは攻めだぜ? わかってねーーなーーー。」
肩をガックシ落としてあからさまに悲しむ。
「……とにかく、それだけ戦いたがるってことはヤンは強いってことでいいのよね?」
「まーかせとけって そこらの雑魚には負けねーよ? 俺様無敵だからネ。」
訝しげな目をヤンに向ける。……うそ臭い……と、ルイズは思った。
「はぁ…もういい… 今日は疲れたから寝る…」
本当に疲れた顔をしながら深いため息をつく。
「そーか じゃあ俺はちょっとぶらついて来るからよ じゃーーーな。」
ヤンはそう言いながら扉に向かって行く。
それを見たルイズは慌てて止める。
「だ、だめよ! アンタも今日は寝なさい! もう外も暗いんだし夜出歩くとアンタなんて完全に不審者なんだから! ここは貴族の子弟の学校だから警備も厳しいのよ!!」
出会ったばかりだがヤンの言動を見ていると、目を離すとトンデモナイことになりそうな気がした。
「オメェーの使い魔だから平気だろ? 俺は。」
「ダメッたらダメ! アンタが問題起こしたら私の恥になるって言ってるでしょ!」
またソレか。ため息をついて呆れるヤン。
「チッ わーったよ 寝ますよ寝ますー。 で? 俺はどこに寝んだ? ベッドは一つみてーだけどソコで寝ていいわけ?」
「ここは私のベッドなの! アンタが寝ていいわけないでしょ! アンタはそこ!!」
ズビシッ!と指をさす。
「? どーみても床だぜ?」
「藁もあるじゃない。」
「………」
やった!動揺してるわ!今こそ使い魔の立場を理解させるチャンスよ!
「そうね…それだけじゃかわいそうだからコレ、使ってもいいわよ。」
勝ち誇った顔をしながらルイズは薄っぺらい毛布を差し出す。
藁も毛布も、人間ではない普通の使い魔のために用意しておいたものだ。
人間に対してはちょっと気の毒かもしれないが、コイツにはこれでお灸を据えることができるかもしれない。
「あ あと明日から洗濯とか水汲みとか、私の身の回りのこと全部やらすから。 それじゃオヤスミ。」
言うやいなや暖かそうな毛布に顔をうずめる。
「………」
ヤンは黙っている。
「……マジかよ……兄ちゃ~ん、どうにかしてくれよ……」
ヤンはボソリと、今は亡き兄に助けを求めた。
ワンちゃん……。
犬を抱きしめ呟く兄が見えた気がしたが、気のせいだと思うことにした。
しばらくは大人しくしてやる。
そう思っていたヤンであったが、早くも挫けそうだった。
つづく…と、思う
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