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#navi(蒼い使い魔)
「バージル! 姫さまを殺しちゃダメ! 絶対よ!」
「……」
「ちょっと返事は!?」
魔法が飛び交う中、ルイズが必死にバージルに呼びかける
しかしバージルはそんなルイズの叫びを無視しながら、魔法を掻い潜り敵の中へと踊りこむ。
――カシャン! という小気味よい音とともに彼の口元にフェイスマスクが装着される、
一人のメイジの眼前に躍り出ると、バージルに装着されたギルガメスの噴気孔が火を噴いた。
"着弾"と同時に――ドゴンッ! という凄まじい音があたりに響き、大気が衝撃で打ち震える。
フルスチームストレイトを食らった哀れなメイジはあまりの衝撃に骨と内臓をごちゃまぜに破裂させながら
遥か彼方まで殴り飛ばされる、メイジだった肉塊は砲弾のようにウェールズの横を吹っ飛んで行き、
道に生えていた木々を薙ぎ払いながらようやく停止する。
『アンドバリ』の指輪の力をもってすら再生不可能のダメージを負い、その肉塊は二度と立ち上がることはなかった。
「……」
仲間が目を覆いたくなるほど悲惨な死体になったにも関わらず敵はぐるりとバージルを取り囲む、
殺到してくるメイジ達をバージルは首を傾けて見守っていたが、
彼らが間合いの内に入るやいなや出し抜けに背のデルフに手を掛け、襲い掛かった。
挨拶代わりの後ろ回し蹴りを皮切りに、剣劇の幕が開く。
メイジと魔剣士が切り結ぶ、それは正に剣劇としか言えなかった、
あらかじめ示し合わせていたかのように、
不意を突こうが魔法を放とうが、『ブレイド』を唱え接近戦を挑もうが、メイジたちの行動は抵抗の真似事でしかなく、
事前に全て決まっていたことのようにただただ目の前の魔剣士に虐殺されることしかできなかった。
眼前で呪文を唱えていたメイジが空間ごと切り刻まれるのは当然のこと、
不意を突いたつもりか、背後からの攻撃ですらバージルはあっさりと受け止めて、
蹴飛ばす先にはちゃっかり巻き添えを見込んでいる。
バージルは身をひるがえしながら閻魔刀を振い、横一文字に薙ぎ払う
小気味いい程の切れ味で上と下に両断されたメイジの上半身と下半身を勢いよく蹴り飛ばす
それぞれ蹴飛ばした先で呪文を詠唱していたメイジが巻き添いを喰らいもんどりうって吹っ飛んで行った。
杖を叩き折られ、よろめいたメイジの肩を捕まえ腹にデルフを突き立てる、バージルは引き抜くのも面倒だといわんばかりに、
それこそハンマー投げのように一回転させなぎ払った周囲のメイジごと吹き飛ばす。
いくら再生しようが関係ない、二度と起き上がれぬよう徹底的に叩き潰すと言わんばかりに
バージルはメイジ達を次々斬り伏せていった。
「そんな……こんなのって……」
アンリエッタが思わず恐怖で後ずさる
怖い、あの男が怖い、ルイズの使い魔である彼が怖い、彼は、彼は本当に、人間なのだろうか?
「あ……ぁ……」
恐怖で歯の根が合わない、ガチガチと歯が音を立てる
違う、あれは人間ではない、あれはまるで悪魔。
「ひ……」
恐怖のあまり倒れそうになったアンリエッタの肩を優しくウェールズが抱きよせる
「何も恐れることはない、僕がついてるよ、アンリエッタ」
ウェールズが優しく囁く、その言葉がアンリエッタを心の底から安心させた。
ウェールズは空を見上げる薄く笑う、そして手勢のメイジ達を呼び寄せた。
ルイズ達と交戦していたメイジや、バージルと戦い損害の少なかったメイジ達が
態勢を立て直すべくウェールズのもとへ集い円陣を組み始める。
「もうちょっとで勝てるわ! あいつら火に弱いの、私達に十分勝機はあるわ……」
キュルケが呟く、するとぽつぽつと頬に何かが当たりはじめた。
タバサが珍しく焦ったように空を見上げる、空には巨大な雨雲がいつの間にか発生していた。
振り出した雨は、一気に本降りへと変わる、
ルイズが叫んだ。
「姫さま! 目を覚まして! お願いです!」
ルイズの叫びが激しく振りだした雨粒でかき消される。
「見てごらんなさい! 雨よ! 雨! 天は私達を見捨てなかったわ!
雨の中で『水』に勝てると思っているの!? この雨のおかげでわたし達に分があるわ!
あなた達のことを殺したくない! だから杖を捨てて!」
「また寝言が始まったか」
叫びだしたアンリエッタにやれやれといった表情でバージルが呟く
「雨がなんだというのだ、その儚い希望ごと叩き潰してやる」
そう言うと背中のデルフを外しルイズに放り投げる
「わったっ、な、何する気なの!?」
「邪魔だ、持ってろ」
ルイズににべもなくそう言うと左手に握られた閻魔刀を引き抜いた。
「閻魔刀……聞いていたとおり、恐るべき剣だ、僕らの命を喰らい尽すとはね」
それを見たウェールズが苦い表情で低く呻く、
本来『アンドバリ』の指輪で蘇生させられた者は驚くべき再生能力を得ることができる、
もっとも、先ほどギルガメスで殴られたメイジのように原形をとどめないほど破壊されればその限りではないが……
とはいえ、本来は剣で斬られようが、魔法で心臓を貫かれようが、首を切り裂かれようが
その『アンドバリ』の指輪の魔力による再生能力で再び動き出すことができるのだ。
だが例外があった。バージルが振るう閻魔刀、これにより直接斬られたものは、
『アンドバリ』の指輪の魔力を根こそぎ喰い尽され再生が不可能になってしまっていた。
つまり、閻魔刀に斬られることは、完全なる死を意味する。
とある力で他の者より再生能力を高めているとはいえ、ウェールズにとってもそれは例外ではない。
「ヤマトならあの死者達を完全に殺せる」
それに気が付いたタバサが短く呟くとルイズの手元のデルフが半ば自暴自棄気味に叫びだした。
「はいはい! どーせ俺っちは役立たずさっ! へっ! 畜生! 閻魔刀がなんだってんだ!」
「な、何よ急に! いきなり叫ばないでよ!」
ルイズがデルフに怒鳴りつける、するとキュルケがデルフに対し質問をした
「ねぇ、ダーリンの持ってるヤマトってどういうの? そんなにすごい剣なの?」
「あぁ? すげぇもなにも、あいつは人と魔を分かつ剣なんだ、魔に対して絶対的なアドバンテージを持ってるんだよ、
この世界に存在するありとあらゆる"魔"、それを片っ端から喰い尽くし、斬り裂いちまう、
先住系統、精霊、悪魔、果ては神様すら叩っ斬りかねない魔剣さ、
くそっ! 閻魔刀の野郎! 俺だってなぁ! ここじゃ伝説の剣なんだぞ! 畜生……」
デルフはそう言うとさめざめと泣きだしてしまった。
「あんた……相当悩んでたのね……」
ルイズがどこか同情したような表情で柄を撫でる。
すると何かを思い出したのか、またもデルフが叫びだした。
「あぁっ! 思い出した! おい娘っ子! 祈祷書もってるよな!?」
「なっ、なによ藪から棒に!」
「これ以上閻魔刀の野郎に出番取られてたまるかってんだ! 急げ! 相棒が殺しちまう前に!」
急かすデルフにルイズが始祖の祈祷書を開く
「ちょっとボロ剣! ちゃんと説明しなさいよ!」
「あいつらはな、先住の魔法で動いてんだ、根本は俺っちと同じだ、ブリミルもあれにゃあ苦労したもんだ、
でもまぁ、ブリミルもなかなか大した奴だぜ、ちゃんと対策は練ってるはずさ」
ルイズは言われたとおりページをめくる、しかし、エクスプロージョンの次は相変わらず真っ白である。
「なんにも書いてないじゃない! 真っ白よ!」
「あぁ! もっとだもっと! 必要がありゃ読めんだよ!」
ルイズは文字が書かれたページを見つけ、それを見つめる
そこに書かれた古代語のルーンを読み上げる。
「……ディスペル・マジック?」
「そいつだ! 『解除』さ、ようは姫さまの目を覚まさせりゃいいんだろ?
そいつならウェールズから『アンドバリ』の効果を消すことができる!
相棒に姫さまごと斬られる前にさっさと唱えるんだ!」
デルフがそう言う間に、バージルがまた一人メイジの首を胴体を斬り飛ばす。
『アンドバリ』の指輪の魔力を失い、崩れ落ちるように倒れ伏してゆく。
十人はいたメイジ達は、すでに6人ほどまでに人数を減らしていた。
「ほ、本当に間に合うの?」
戸惑いながらもルイズが呪文を詠唱し始めた。
「キュルケ! 俺を相棒に投げ渡してくれ!」
キュルケは頷くとデルフをルイズの腕からひったくり、バージルへ向け投げつけた。
「ダーリン! これ使って!」
キュルケが投げた抜き身のデルフをバージルは難なく左手で受け取ると
生き残りのメイジの一団に向け猛然と疾走する。
「ハァァァァアアアアアアッ!!!」
裂帛の雄たけびとともに目にも留まらぬ速さで両手に持った閻魔刀とデルフを振り抜いてゆく。
突き進む空間ごとメイジの一団を斬り刻む。
「ハァッ!!」
一陣の刃の暴風と化しバージルが駆け抜ける。
あまりの速さに斬られたという事実が追い付くまでに数瞬を要したのか、
バージルに斬られたメイジ達が、大量の血を噴き出しながら、
まるで示し合わせたかのごとく、ぼとぼとと同時に身体をバラバラにしながら崩れ落ちた。
メイジ達を皆殺しにしたバージルは、
ああ、まだ肝心のが残っていたか、と言わんばかりに顔を上げウェールズとアンリエッタを睨みつける。
雨と返り血により垂れ下った髪を元に戻すこともせず、沈黙のまま二人へ向け歩を進めてゆく。
アンリエッタは今まで感じたことのない恐怖に支配されていた。
目の前にいるのは、絶対的な強さを持った化物、この雨で少しでも優位に立てると思っていた。
だが自分の放った魔法はすべて男が振るう魔剣によりたちまち力を失い、ただの水となり果てる。
周囲にいた貴族たちと力を合わせようにも、この化物の前ではまるで無力。
あれだけの数がいた味方を一瞬で全滅させた化物は、今自分に明確な敵意と殺意を向けてきている。
このままでは……殺される……。
アンリエッタはなけなしの勇気を振り絞り、呪文を唱え始める。
殺される前に、殺す、この化物を打ち倒す、そしてウェールズと共にこの先へ進む。
固い決意が、彼女を動かした。
その詠唱にウェールズの詠唱が加わる。
ウェールズはアンリエッタを見つめて、冷たい笑みを浮かべた。
その温度に気が付きながらも、アンリエッタの心は熱く潤んだ。
水の竜巻が、二人の周りをうねり始めた。
『水』、『水』、『水』、そして『風』、『風』、『風』。
水と風の六乗。
トライアングル同士といえど、このように息が合うことは珍しい、
ほとんど無い、といっても過言ではない
しかし選ばれし王家の血がそれを可能にさせる。
王家のみ許された、ヘクサゴン・スペル
詠唱は干渉し合い、巨大に膨れ上がる。
二つのトライアングルが絡み合い、巨大な六芒星を竜巻に描かせる。
津波のような竜巻だ、この一撃を受ければ、城でさえ一撃で吹き飛ぶだろう。
「切り札か」
詠唱が始まったのを見てもバージルの歩調は緩まない、
詠唱を終えるのと同時にウェールズを殺す、貴様からその一片の希望すら奪い取ってやる。
ドス黒い感情がバージルを突き動かす。
だが、彼の歩みはそこで止まった。
「ぐッ……!? 何だッ!?」
身体が動かない、これ以上先へ進めない。
左手を見ると、デルフが淡い光を放っている。
どうやらデルフにより身体を止められているらしい
「デルフ……貴様何のつもりだ! なぜ邪魔をする!」
バージルが声を荒げデルフに怒鳴りつける。
「……ッ! こうでもしねぇとッ! 姫さま殺しちまうだろ!?」
デルフが息も絶え絶えな様子で答えた。
どうやらバージルの動きを制御するのに、今まで吸収した全ての魔力を総動員しているらしい。
「当然だ、生かしておくつもりはない! くっ……! 邪魔をするな!」
「だからってな! 娘っ子の気持ちは考えないのかよ!」
「知ったことではない! 敵は斬る!」
「おい! お前こないだ言ったこともう忘れちまったのか!?」
デルフがバージルに怒鳴りつける、だがバージルは引き下がらない。
「他に何の方法がある! 奴らを殺す以外に! 何の方法が!」
「今娘っ子が、『解除』の呪文を唱えてる! その詠唱が終わるまで娘っ子を守れ!」
「そんな必要などない! 俺が奴らを殺せば全て終わる!」
「馬鹿野郎! 勘違いすんじゃねぇ! お前は何だ『ガンダールヴ』!! 言ったはずだ!
お前さんの仕事は敵を皆殺しにすることじゃねぇ! 詠唱中の主人を守る! それだけだ!
その時にこそルーンは最大限の力を発揮する! なのに娘っ子の心を無視して
姫さまとウェールズを斬り殺してみろ! 二度とルーンは力なんか貸さねぇぞ! 力が欲しくないのか!?」
「……!! クソッ!!!」
その一言にバージルは苦々しい表情を浮かべるとエアトリックを使い、
主人の元へと戻る、ルイズを守るべく……。
ルイズは呪文を詠唱していた。今のルイズにはもう何も届いてはいない。
己の中でうねる精神力を練り込む、
古代のルーンを次から次へと口から吐き出させ続けている。
バージルの背中に、ルイズの詠唱がなぜか心地よくしみ込んでゆく、
「この子、どうしたの?」
キュルケが笑みを浮かべて尋ねる。
「さぁな、伝説の真似ごとだろう」
バージルが不機嫌そうな顔で答える、不機嫌そうだが、その顔はどこか柔らかく感じた。
ルイズの『虚無』の詠唱を聞いている内に、
今まで彼を支配していたドス黒い感情が徐々に薄くなってゆくのを感じる、
その心境の変化にバージルは少し眉を顰めながら左手を見つめた。
なぜか悪い気はしない、ルイズの詠唱を聞くと、なぜか心が安らぐのだ。
「そう、そりゃよかったわ、せめて『伝説』くらい持ってきてもらわないと、あの竜巻には勝てそうにないからね」
ウェールズとアンリエッタの周りをめぐる巨大な水の竜巻はどんどん大きくなる。
ルイズの小さな詠唱はいまだに続いている。
「いよぉし、相棒、仕事の時間だぜ、娘っ子の詠唱が終わるまで守り切るんだ、それがお前さんの役目だぜ?」
「殺してやりたいのは山々だが……なぜか気分がいい、今回だけその戯言に付き合ってやる」
「そりゃありがたいね」
「任せたわよ」
キュルケが呟く、タバサがバージルを見つめる
「誰に言っている」
コートを翻し、不遜に鼻をならしながら、巨大な竜巻へと悠然と歩を進める。
「前から気になってたけど、彼の父上、スパーダって一体何者なの?」
キュルケがタバサに尋ねる、
「はるか昔、悪魔でありながら人の情に目覚め、魔界の侵攻から人間界を守り抜いた、伝説の魔剣士」
「その息子が彼? そんなのを使い魔に? どこまで常識外なのよ……」
呆れたように呟くと、やれやれと肩をすくめる。
「伝説を持ってこいって言ったけど、どっちも桁違いね……まったく」
ウェールズとアンリエッタの魔法が完成した。
うねる巨大な水の竜巻がバージル達にむかって飛んでくる
でっかいくせに、驚くほど速い。
まるで水の城だ、その城が激しく回転し、バージルを飲み込もうと激しく唸る。
「やべぇなぁ、いっくら相棒でもありゃ耐えられねぇんじゃねぇか?」
デルフが他人事のように呟く
「この事態を招いたのはどこのどいつだ」
バージルが手元のデルフをじろりと睨みつける
「それにこんなもの、ダンテに比べれば児戯に等しい」
最も、繰り出してきたのは炎の竜巻だったが……、
バージルはそう言うと閻魔刀を引き抜く、そして竜巻へ向かい駆けた。
バージルと水の竜巻が激突する。
身体の前でデルフリンガーと閻魔刀を交差させ竜巻を受けとめる。
それを中心にしながら水の竜巻が回転する。
「ぐぅ……ぬっ……」
バージルが思わず呻く程の強烈な魔法、だがデルフリンガーが一気に水の中の魔力を吸い込み
閻魔刀が竜巻を切り裂いてゆく。
危うく飲み込まれそうになったが、固く両脚で地面を踏みしめる。
鋭く竜巻の先のウェールズ達を睨みつけると、バージルが低く呟く。
「……スパーダの力、思い知らせてやる」
――バチリッ! と彼の体に紫電が走る、その時、彼を中心にドーム状の力場が展開する
「あぁ、そういやあの手があったな……」
魔力を吸い込みながらデルフが小さく呟く、――相変わらず反則だぜその力は……
沸き起こる力の波動が地鳴りを起こし、彼の立つ地面にひびを入れる。
蒼い稲妻を孕みながら彼の姿が変わる。
――魔人化、悪魔の、彼の魔力を再び解放する。
「人間じゃ……ない!?」
彼の姿をみたアンリエッタが呻く様に呟く。
「そうだアンリエッタ、彼は――悪魔だ」
杖を突きつけながらウェールズが開いた手でアンリエッタの肩を優しく抱く
「倒すんだ、僕らを引き裂こうとする悪魔を、僕らの道を阻もうとする悪魔を、この蒼き悪魔を!」
その言葉とともにさらに竜巻の魔力を強める。
「オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
再び勢いを取り戻した竜巻と、蒼き魔人が再び激突する。
魔力を吸収していたデルフリンガーにバージルの凄まじい程の魔力が流れ込んでくる。
刀身は彼を象徴する蒼い魔力に覆われ、輝きを放つ。
その時、ルイズの呪文が完成した。
音でも、光でもなく、背中から伝わる感覚がバージルにそれを教えてくれた。
呪文を完成させたルイズの目の前では雷を纏った巨大な竜巻が荒れ狂っていた。
しかしこちらへは近づいてこない。中には蒼き魔人の姿、
ルイズはそれがバージルだと一瞬でわかった。
「あれが……バージルの本当の姿……」
ルイズは思わず呟く、そこにいるだけにも関わらず恐ろしい程の力が伝わってくる。
そして彼の内にある哀しみも……。
「ウゥォオオオオオオオオオ!! ハアッ!!!!」
バージルが渾身の力を振い、交差させたデルフリンガーと閻魔刀を勢いよく振り抜く。
×の字を描き、振りぬいた剣閃はとてつもない衝撃波を生み、
巨大な竜巻を文字通り薙ぎ払いながらウェールズ達に襲い掛かる。
ウェールズ達の立っていた地面が衝撃波によって抉り取られ爆散する。
ウェールズとアンリエッタが木の葉のように上空へ吹き飛ばされる。
「Dust to dust.(――塵は塵へ)」
魔人化を解除したバージルが閻魔刀とデルフリンガーを振り抜き、納刀する。
閻魔刀がカチンと小気味よい音をたてると当時に、
上空へ跳ね上げられた二人がそろって地面へと叩きつけられた。
「グッ……くっ……」
運よく直撃は免れたらしい、二人は吹きとばされただけで命に別条はなさそうだ。
ルイズは唇を噛みながら、ウェールズ目がけ『ディスペル・マジック』を叩きこむ。
アンリエッタの周りに眩い光が輝いた。
立ちあがったウェールズの体が地面に再び崩れ落ちる。
ウェールズの体から、青い光を放つ小石がすぅっと現れ……やがて力を失ったのか、
コロコロとバージルの足元へ転がってきた。どうやらウェールズの異常とも言える再生能力はこれの影響だったらしい。
バージルはそれを回収しコートの中へとしまいこんだ。
アンリエッタは駆け寄ろうとしたが、身体的なダメージと精神力を消耗しきっていたせいもあり、
意識を失い、地面に倒れ伏す。
辺りは一気に静寂に包まれた。
しばらく気を失っていたアンリエッタは、自分を呼ぶ声で目を覚ました。
ルイズが心配そうに自分を覗き込んでいる。
雨は止んでいた。辺りの草は濡れ、ひんやりとした空気に包まれている。
先ほどの激しい戦闘が嘘のようにアンリエッタには思えた。
しかし嘘ではない、隣には冷たい躯となったウェールズが横たわっている。
そこかしこにも、無残にも切り刻まれた死体が転がっていた。
夢だと思いたかった。しかし全ては悪夢のような現実だった、そして自分は
全てを捨て、その悪夢に身をゆだねようとしていたのだった。
アンリエッタは顔を両手で覆った。
今の自分にはウェールズの躯にすがりつく権利はない。
ましてや幼いころから自分の支えになってくれた目の前のルイズにも合わせる顔がない。
「わたくし、なんてことをしてしまったのかしら」
「目が覚めましたか?」
ルイズは、悲しいような、冷たいような声でアンリエッタに尋ねる。そこに怒りの色はなかった。
アンリエッタは頷いた。
「なんといって貴方に謝ればいいの? わたくしのために傷ついた人々に、
なんと言って赦しを請えばいいの? 教えてちょうだい、ルイズ」
そう言うとその後ろに立つバージルを見つめた。
バージルはこれ以上ないほど冷え切った目でアンリエッタを見ていたが、
やがて興味を失ったかのように踵を返すとすたすたと歩き去ってしまった。
「ど、どこに行くつもり?」
「くだらん、俺は帰る」
ルイズが呼びとめようとする、だがバージルは歩みを止めずにそれだけ言うと
どこから見つけてきたのか、逃亡者の一団が使っていた馬の生き残りを一頭引っ張ってくる、
そしてすぐさまそれに飛び乗った。
「待って!」
アンリエッタが立ち上がりバージルへ駆け寄ろうとする、だが……
「っ!?」
アンリエッタの脚はそこで止まる、鼻先にいつの間にか抜き放たれていた閻魔刀が突きつけられていたからだ。
「貴様と話す舌など、俺は持たん」
射抜くようなバージルの視線がアンリエッタを貫く、
へなへなと力を失うように地面へとへたり込む、
それを冷たく一瞥すると、バージルは馬を走らせ、闇の中へと消えて行った。
「……」
魔法学院に向けバージルは馬を走らせる、
その顔には、嫌悪感がありありと浮かんでいた。
見かねたデルフが声をかける。
「おーい相棒、なんでそんな機嫌悪くしてんだよ、さっきは気分がいいなんて言ってたくせによ」
「お前が知るところではない」
バージルは眉間に皺をよせ短く答える。するとデルフがわかったように再び口を開いた。
「あーわかったぜ、相棒、なんで機嫌が悪いのか」
「……」
「あんとき姫さまが言ってたよな、本気で人を愛したら、全てを捨ててでもついていきたいって」
「それがどうしたというんだ」
「スパーダが力を捨てた理由がそれだからだ」
図星をさされたのか、彼には珍しく動揺を含んだような表情になった。
「ただ一人の魔は人間の女を愛し、生涯を共にせんと自らの力を封じ、
一人の人間として生涯をささげた、魔は人となり人間としてその生を終えた、そうだな?」
「黙れ……」
「愛などという下らない感情に惑わされ、力を捨てた。そのせいで自分達兄弟がもがき苦しむハメになった。
相棒の機嫌が悪いのはそんなところだろ? あってるか?」
「デルフ、俺の世界では詮索屋というものは早死にすると相場が決まっている、お前は……どうだろうな?」
チャキ……っと閻魔刀の鯉口が切られる。青くなったデルフがあわてて口を噤もうとした。
「悪かった! 悪かったって! ……たく、しっかし、あの姫さまの言うことにも、一応の筋は通ってたんだなぁ、
まぁ、今回ばっかしはそれ以外がダメダメだったがね」
デルフの呟きは闇へと消える、朝日が昇り、学院が見え始めていた。
「ただいま……」
ルイズが学院に戻るころには、既に日は高く昇ってしまっていた。
自室に戻ると椅子に腰かけたバージルが読んでいた本から目を離さずに声をかけた。
「遅かったな」
「え? ……うん、ちょっといろいろあってね……」
ルイズがそう言うと、バージルが去ったあの後、起きた奇跡について話し始めた。
なんとあの後、ウェールズが一時的に息を吹き返したというのだ、
そして皇太子の希望でラグドリアン湖へ赴いたそうだ、
その後、アンリエッタに自分を忘れさせる誓いをさせた後、静かに息を引き取ったらしい。
「……」
それを本を読みながら華麗に聞き流していたバージルはつまらなそうに小さく鼻を鳴らすと、ぱらりとページをめくった。
「それで……その話は変わるんだけど……わたし、あの時見たの、あんたの姿」
続けてルイズは言いにくそうに話を切り出した。
「……それがどうした、今さら俺が恐ろしくなったのか?」
バージルは本から視線を外しルイズを見た。
「そんなことない! そんなことないのよ! でも……その……」
「言いたいことがあるならはっきり言え」
「あの姿を見たとき、なんだか、あんたが悲しそうに見えたって言うか……」
その感想は意外だったのかバージルが少々驚いたような顔になった。
「なんだそれは……」
「そ、そう感じちゃったんだからしょうがないじゃない! でも……なんでそう感じちゃったんだろう?」
ルイズは首を傾げると、突然顔を赤くし、言いづらそうに口をもごもごと動かし始めた。
「で、でも、それでもあんたが姫さまの魔法から私を守ってくれたことには、そ、その、か、か、感謝……」
ルイズがそこまで言った時、不意にドアがノックされた。
バージルが応対のため立ち上がり、ドアを開ける、
すると、そこには見知らぬ中年の女性が、にこやかな笑顔で立っていた。
「えぇと、貴方がバージルさん?」
「……」
「支払いはこちらに回してほしいって、言われてきたんですけど」
女性はそう言うと一枚の紙をバージルに手渡した。
「人違いだ」
バージルはそう言うやドアを閉めようとする、が女性が閉まりかけたドアに足を引っ掛けなおも食い下がった。
「いやいやいや、確かにここですっ! 4人のお客様から別々にっ!」
「4人?」
バージルは受け取った紙に目を通す、そこには……
「……ルイズ、キュルケ、タバサ、シエスタ……なっ……!?」
とんでもない金額にバージルが目を丸くする、ほぼ全財産だ
日付はトリスタニアへ秘薬を買いに行った日である、
「払っていただけますか?」
「なぜ俺が支払わねばならん!」
ずいっと詰め寄る女性に声を荒げる、だが女性は引き下がらない。
「そんなこと言われたって困ります! ほら、請求書にはちゃんとサインが!」
「……ルイズ! これは一体どういう――」
バージルが怒鳴りながら振り返る、だが部屋の中にはすでにルイズの姿はなくなっている、
きぃ……っと音を立てながら、窓が半開きになっていた。
急ぎ窓から下を覗くと、地上を全速力で走り去るルイズの姿が確認できた。
かなりの高さだが……どうやら窓から飛び降り逃走したらしい。
「Damn...!」
「払っていただけますね?」
そんなバージルを追い詰めるように女性がバージルの肩を叩く。
「いや……ちょっと待て、今金がない」
「無いじゃ困ります!」
「そもそもなんだこの値段は……」
「服ですよ?」
「服だと!? 奴らの服を何故俺が支払わねばならん!」
「そんなことはその人たちに聞いてください!」
バージルと取立人の口論はいつまでも続き……
結局支払うハメになってしまったバージルは全財産を失うこととなってしまった。
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