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「蒼い使い魔-39a」(2009/03/11 (水) 07:12:28) の最新版変更点
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#navi(蒼い使い魔)
シルフィードに跨り、バージル達が王宮へたどり着いたのは、魔法学院を出発して二時間後、
深夜の一時を過ぎたころであった。
王宮にたどり着いた一行は、以前と同じように中庭に降り立った。
どうやら予想は当たったようだ、中庭はまるで蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。
それでも風竜が中庭に降りると、一斉に魔法衛士隊が周囲を取り囲んだ。
マンティコア隊の隊長が大声で誰何する。
「なにやつ! 現在王宮は立ち入り禁止だ! さがれ!」
しかし、その一行には見覚えがある、アルビオンとの戦争が始まる直前にも、
このようにしてやってきた一行ではないか。隊長は眉をひそめた。
「またお前たちか! 面倒な時に限って姿を現しおって!」
ルイズは飛び降り隊長に息せききって尋ねる。
「姫様は! いえ、女王陛下はご無事ですか!?」
「貴様等に話すことではない! 直ちに去れ!」
しかし、隊長はこちらと会話をする気はないようだ、
周囲を見ると、貴族やら兵士やらが、灯りの魔法や松明を持って何やら探している。
王宮で何かが起こったことは明白だった。
ルイズは顔を怒りで真っ赤にすると、ポケットの中から何かを取り出すと、隊長へ向け突きつける。
それはまさしく、アンリエッタがルイズに手渡した許可証であった。
「わたしは女王陛下直属の女官です! このとおり陛下直筆の権利書も持っているわ!
わたしには陛下の権利を行使する権利があります! ただちに事情の説明を求めるわ!」
隊長は呆気に取られながらもルイズの許可証に目を通す。
なるほど、言葉のとおりそれは女王直筆の許可証であった。
『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。右の者にこれを提示された公的機関の者は、あらゆる要求に応えること』
その言葉を見た隊長は目を丸くしてルイズを見つめた。
こんなただの少女が、女王陛下からこんなお墨付きをもらっているとは……。
彼は軍人であった、それゆえ相手がどんな姿をしていようと上官は上官、すぐさま直立し事の次第を報告した。
「今から二時間ほど前、女王陛下が何者かによってかどわかされたのです。
警備のものを蹴散らし、馬で駆け去りました。現在ヒポグリフ隊がその行方を追っています。
我々はなにか証拠がないかと、この辺りを捜索しておりました」
ルイズの顔色が変わった。
「どっちに向かったの?」
「賊は街道を南下しております。どうやらラ・ロシェールの方面に向かっているようなのです、
アルビオンの手のものと見てまず間違いありませんでしょう。ただちに近隣の警戒と港を封鎖する命令を出しましたが……。
先の戦で竜騎士隊が全滅しておりますゆえ、ヒポグリフと馬の足で賊に追いつけるかどうか……」
風竜についで足の速いヒポグリフの隊が追跡を開始しているらしいが、追いつけるかどうかは怪しいようだ。
ルイズは再びシルフィードに飛び乗った。
「急いで! 姫さまをさらった賊はラ・ロシェールに向かってるわ!
夜が明けるまでに追いつかないと大変なことになる!」
タバサが頷きシルフィードに命令する
シルフィードが夜の闇に再び飛び上がった、ルイズが叫ぶ。
「低く飛んで! 敵は馬に跨ってるわ!」
あっという間にトリスタニアの城下町を抜け、シルフィードは街道を沿って低空飛行を続けた。
グリフォンと馬を足して二で割ったような姿のヒポグリフの一隊は、飛ぶように街道を突き進んでいた。
馬の体に鳥の前足に嘴をもつヒポグリフは三隊の中でもっとも機動力に優れる、
おまけに夜目も利くため追跡隊に選ばれたのであった。
十数名程の一隊は怒りに燃えていた。
敵は大胆にも夜陰に乗じ宮廷を襲撃したのである。
まさか首都、しかも宮廷が襲われるとは夢にも思わなかった彼らは激昂した。
しかもさらわれたのは即位して間もない、うら若き王女、アンリエッタである。
宮廷と王族の警護を司る近衛の魔法衛士隊にとってこれ以上の屈辱はなかった。
「走れ! 一刻も早く陛下をお救いするのだ!」
隊長が部下を激しく叱咤し、一塊となってヒポグリフ隊は疾走した。
先頭を行く騎士のヒポグリフが大きくわなないた。
何かを見つけたに違いない。隊長の合図で炎の使い手が火球を前方に向け発射した。
その明りに照らされ、前方百メイル程の街道に疾駆する馬の一隊が確認できた。その数、およそ二十騎ほど。
「まずは馬を狙え! 陛下には当てるなよ!」
ヒポグリフ隊は一気に距離を詰め、次々と魔法を放つ、
騎士が唱えた土の壁の魔法が敵の進路を防ぎ、間髪入れずに攻撃の嵐が始まった。
炎の球が、風の刃が、氷の槍が、敵の騎乗する馬に向け飛んで行く。
――どうっ! と派手な音をたて馬が次々に倒れてゆく、隊長は先頭の馬の後ろに白いガウンを羽織った
女王アンリエッタを確認した、一瞬だけためらったが今は非常事態だ、怪我で済めば幸いとしなければならない。
お叱りならあとでいくらでも受けてやる。
口の中で小さくわびの言葉を呟くと、隊長は風の魔法で先頭の馬の脚を切り裂いた。
騎乗していた騎士と女王が地面に投げ出される。
ヒポグリフ隊は、容赦なく倒れた敵の騎士にとどめの魔法を打ち込んでゆく。
風の刃が憎き誘拐者の首を裂き、氷の槍が心臓を貫いてゆく。
隊長自らも、倒れて動かない先頭を走っていた騎士の首にひときわ大きな風の刃を見舞った。
その首が切り裂かれる、間違いなく致命傷だ。
勝負は一瞬で決した。
隊長は満足げに頷き、隊を停止させる、
そしてヒポグリフから飛び降り、草むらに倒れた女王に近づこうとした瞬間……。
倒したはずの騎士達が次々に立ち上がった。
驚く間もなく魔法が飛び、敵を全滅させたと思い込み、油断していた部下とヒポグリフ達が倒れてゆく。
「なっ――!!」
驚き杖を振ろうとした隊長の身体を巨大な竜巻が包み込む、
四肢を切断され、一瞬で薄れゆく意識の中、隊長はとどめを刺したはずの騎士が立ち上がり、
切り裂かれた喉をむき出しにして微笑んでいるのをはっきりとみた。
ウェールズは杖を下ろし、草むらに倒れたアンリエッタへと近づいてゆく
アンリエッタは草むらに投げ出されたショックで目を覚ましたらしい、
近づくウェールズを信じられないといった目で見つめた
「ウェールズさま……あなた一体……なんてことを……」
「驚かせてしまったようだね」
アンリエッタは、どんなときも肌身離さず持ち歩いている、腰に下げた水晶光る杖を握った。
それをウェールズに突きつける。
「あなたは誰なの?」
「ぼくはウェールズだよ」
にこやかな笑顔をくずさないウェールズにアンリエッタは口調を荒げる
「嘘! よくも魔法衛士隊の隊員達を……」
「仇をとりたいのかい? いいとも、ぼくをきみの魔法でえぐってくれたまえ
きみの魔法でこの胸を貫かれるなら本望だ」
ウェールズは優しく微笑むと自分の胸を指で指し示した。
杖を握る手が震える、その口から魔法の詠唱は漏れない、その代わりに
小さな嗚咽の言葉が漏れ始めた。
「なんで、どうしてこんなことになってしまったの?」
「ぼくを信じてくれるね? アンリエッタ」
「でも……でも……こんな……」
「わけはあとで全部話す。お願いだ。今は黙ってぼくについてくればいい」
「わからない……わたし、わからないわ……。
あなたどうしてこんなことをするのか、なにを考えていらっしゃるのかも……」
どこまでも優しい声でウェールズは告げた。
「わからなくてもいい、ただ、きみはあの誓いの通りに行動してくれればいいんだ
ほら、覚えているかい? ラグドリアンの湖畔で、きみが口にした誓約の言葉、
水の精霊の前できみが口にしたあの言葉を」
「忘れるわけがありませんわ、それだけを頼りに、今日まで生きてまいりましたもの」
「言ってくれ、アンリエッタ」
アンリエッタは、一字一句、正確にかつて誓った言葉を口にした。
「トリステイン王国王女アンリエッタは水の精霊の御許で誓約いたします。ウェールズさまを、永久に愛することを」
「その誓約の中で変わったことはただ一つ、きみが女王になったことだけさ、でも他は何も変わらない、変わるわけがないだろう?」
アンリエッタは頷いた、こうしてウェールズの胸に抱かれることを夢見て生きてきた自分だった。
「何があろうとも、水の精霊の前でなされた誓約は違えられることはない、
きみは己のその言葉だけを信じればいい、あとは全部僕に任せてくれ」
優しく、甘いウェールズの言葉のひとつひとつがアンリエッタを何も知らないただの一人の少女へと変えてゆく
アンリエッタは子供のように何度も頷いた、まるで自分に言い聞かせるように。
ルイズ達は飛行中、街道の上に無残に人の死体が転がる光景を見つけた。
シルフィードを止め、その上から降りる、タバサは降りずに油断なく辺りを見回している。
「ひどい……」
ルイズは口元を押さえ低く呟く、
周囲には焼け焦げた死体や、手足がバラバラにもがれた死体やらがたくさん転がっている。
血を吐いて倒れた馬やヒポグリフが何匹も倒れていた。
先行していたヒポグリフ隊だろう。
「生きてる人がいるわ!」
キュルケの声に、ルイズが駆け付ける。
腕に酷い怪我を負っていたが、なんとか生きながらえていたのだろう。
「大丈夫?」
ここにいるメンバーでは彼の腕の治療は不可能だ、
モンモランシーを連れてくるべきだったとルイズは後悔した。
「だ……大丈夫だ、あんた達は一体?」
「わたし達もあなた達と同じ、女王陛下を誘拐した一味を追ってきたのよ、一体なにがあったの?」
震える声で騎士は告げた。
「あいつら……致命傷を負わせたはずなのに……どうな……て……」
「なんですって?」
しかし、それだけ告げると騎士は首をかしげる、助けが来たという安心感で気を失ってしまったらしい。
その瞬間、バージルが閻魔刀を抜刀、草むらを中心に空間が歪み、次元斬が襲いかかる。
草むらから大量の血しぶきとともにバラバラに斬り飛ばされた貴族の死体が飛び出したのを皮切りに、
次元斬の範囲外から魔法が放たれた、
周囲を警戒していたタバサがいち早く反応し、頭上に空気の壁を作り出し魔法攻撃をはじき返した。
草むらからゆらりと影が立ち上がる、一度死んで、『アンドバリ』の指輪で蘇ったアルビオンの貴族たちであった。
キュルケとタバサが身構え、バージルは無表情のまま、鞘に納めた閻魔刀の柄を握り締めた。
しかし敵はそれ以上の攻撃を放ってこない、一同に緊張が走る。
その中に、懐かしい人影を見つけ、ルイズは驚愕した。
「ウェールズ皇太子!」
やはり、嫌な予感が当たってしまった、女王をさらった賊とは彼だったのだ。
クロムウェルは水の精霊のもとから盗み出した『アンドバリ』の指輪で、死したウェールズに偽りの命を与え
アンリエッタをさらおうとしたのだ、その卑怯なやり口にルイズは怒りを覚える。
杖を引き抜きウェールズに突きつける
「姫さまを返しなさい!」
だが、ウェールズは微笑を崩さない
「おかしなことを言うね、返せもなにも、彼女は彼女の意思でぼくにつき従っているのだよ?」
「なんですって?」
ウェールズの後ろから、ガウン姿のアンリエッタが現れた。
「姫さま!」
ルイズが叫ぶ
「こちらへいらしてください! そのウェールズ皇太子は、ウェールズさまではありません!
クロムウェルの手によって『アンドバリ』の指輪で蘇った皇太子の亡霊です!」
しかし、アンリエッタは足を踏み出さない、わななく様に唇をかみしめている
「……姫さま?」
「見ての通りだ、さて、取引と行こうじゃないか」
「取引ですって?」
「そうだ。ここできみたちとやりあってもいいが、ぼくたちは馬を失ってしまった。
朝までに馬を調達しなくてはいけないし、道中危険もあるだろう。魔法はなるべく温存しておきたい」
タバサが『ウィンディ・アイシクル』の呪文を詠唱、それと同時にバージルも急襲幻影剣を射出した。
あっという間に何十本にも及ぶ氷の矢と幻影剣がウェールズの身体を貫く。
幻影剣を射出していたバージルが、おもむろに背中のデルフリンガーを抜くと、魔力を込めラウンドトリップを放つ
バージルの手から放たれたデルフが回転しながらウェールズの身体を何度も執拗に斬りつける。
ウェールズはぐらりとよろめき仰向けに倒れると、トドメと言わんばかりに魔力を失ったデルフが彼の喉元に深々と突き刺さった。
「やれやれ、ひどいことをするね」
だが、驚くべきことにウェールズはそういいながらむくりと起き上がると、体に突き刺さった幻影剣を抜きとり始める。
幻影剣が刺さっていた傷口や、ラウンドトリップで負った傷がみるみる再生してゆく。最後にデルフを喉から引き抜くと地面へと突き立てる。
「だが、これでわかったかな? きみたちの攻撃では僕を傷つけることはできない」
その様子を見てアンリエッタの様子が変わった。
「見たでしょう! それは王子じゃないわ! 別のなにかなのよ! 姫さま!」
しかし、アンリエッタは信じたくない、とでも言うように首を左右に振る、
そしてアンリエッタはなにかを決意したかのような顔になると、はっきりとルイズに告げた。
「お願いよ、ルイズ。杖をおさめてちょうだい、わたしたちを行かせてちょうだい」
「姫さま? なにをおっしゃるの!? 姫さま! それはウェールズ皇太子じゃないのですよ!
姫さまは騙されているのですわ!」
アンリエッタはにっこりと笑った。鬼気迫るような笑みだった。
「そんなことは知ってるわ。わたしの居室で唇を合わせたときから、そんなことは百も承知。
でも、それでもわたしはかまわない。ルイズ、あなたは人を好きになったことがないのね。
本気で好きになったら、何もかもを捨ててもついて行きたいと思うものよ。
嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ。わたしは誓ったのよルイズ。
水の精霊の前で誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズさまに変わらぬ愛を誓います』と。
世のすべてに嘘をついても、自分の気持ちにだけは嘘はつけないわ。だから行かせてルイズ」
「姫さま!」
「これは命令よ。ルイズ・フランソワーズ。わたしのあなたに対する、最後の命令よ。道をあけてちょうだい」
アンリエッタがそこまで言った瞬間……
――ヴンッ……! っと空気が唸り、アンリエッタが立っている空間が歪む
「っ!?」
それにいち早く反応したウェールズがアンリエッタを突き飛ばす
――ギィン! と空間が切り裂かれる音とともにウェールズの腕が宙を舞う。
腕が切り飛ばされたにも関わらず、涼しい顔でウェールズはバージルに話しかけた。
「女王に剣を向けるとは……いやはや穏やかではないね、バージル君、
彼女にはまだ死なれては困るんだ、丁重に扱ってくれないと困るよ」
そう言うと落ちた腕を拾い、傷口に押し当てる、すると傷口はみるみる再生をはじめ、
数秒後には切断されたはずの腕が綺麗にくっついていた
「その再生能力、悪魔の力でも取り込んだか?」
それを見ながらバージルは右手で引き寄せるような仕草をとる、
すると地面に突き刺さっていたデルフが回転しながら彼の手元にもどってきた。
「あの時、首を切り飛ばしてやった方が、貴様のためにはなったかもしれんな」
デルフを背中に納めながらバージルは冷たい目でウェールズを見た。
「そうしなかったおかげで僕はこうしてアンリエッタと再会することができた。
君には礼を言っても言い足りないくらいさ」
「墓場から出てきたばかりで悪いが……お帰り願おうか、安心しろ、そこの女も一緒に地獄に送ってやる」
冷然と言いきったバージルにルイズが詰め寄った。
「ばっ……バージル! 姫さまになんてことをっ! 殺すつもりなの!?」
「何を言っている、こいつらは敵だ、俺にとってはそのへんに這いつくばる悪魔と、なんらかわらん」
バージルは当然のように言うと、まるで温度の感じられない目でウェールズとアンリエッタを睨みつける。
「敵は斬る、誰であろうとも」
魂の底まで凍り付きそうな冷たく低い声、その場にいた全員が思わず凍りつく。
「ど……どきなさい、これは命令よ!」
心が折れそうになるほどの恐怖を振り切り、精一杯の威厳を振り絞って、アンリエッタが叫ぶ
「誰に命令しているつもりだ、俺は貴様の敵で、貴様は俺の敵だ」
バージルはそう言うと大股でウェールズ達に歩み寄ってゆく。
だが、ウェールズまで後10メイルというところまで歩いたところで、バージルの目の前に水の壁が立ちはだかった。
杖をもったアンリエッタが震えながら立ちすくんでいた。
「ウェールズさまには指一本触れさせないわ」
バージルはぴくりと眉を動かすと閻魔刀を抜刀、魔力を喰われた水の壁はただの水と化し脆くも崩れ去ってしまう
「そんなっ……ッ!?」
アンリエッタが驚愕すると当時に目の前の空間が爆発する。
アンリエッタが吹き飛んだ。
エクスプロージョン、ルイズが呪文を詠唱したのだ。
「姫さまといえども、わたしの使い魔には指一本足りとも触れさせませんわ。
……いえ、姫さまでは触れることすらかなわない、と言ったほうが正しいかしら?」
髪の毛を逆立て、ピリピリと震える声でルイズが呟きニヤリと笑う。
その爆発で呆然と成り行きを見守っていたタバサとキュルケが呪文を詠唱した。
戦いが始まった。
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