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「残り滓の使い魔-02」(2009/02/21 (土) 19:13:00) の最新版変更点
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#navi(残り滓の使い魔)
目の前に真っ黒な自分がいる。薄っぺらいような、水面に映る影のような、真っ黒な自分が。
(これは、夢だ)
すぐに理解し、思い出した。
一度だけ見た、真っ黒な自分が目前にいる夢。
今度は、何も声を発しない。確認のような、詰問のような、どちらともとれない問いはなかった。
──ふいに、影が揺れる。
自身に接するほど近くに在ったはずの影は、手を伸ばしても届かない距離までに離れていた。
引き止めることは、しない。影も、縋るようなことは、決してしてこない。
影が自分から離れていっているのか、それとも小さくなっているだけなのか、判断は出来ない。
そして、ついに見えなくなってしまった。
悠二がただ一つ直感的にわかることは、ここにいる間はもう現れることはないということだった。
「…………ユージ……」
「シャナッ!?」
シャナに呼ばれたと思い、飛び起きた悠二だったが、そこは悠二にとって見慣れた場所ではなかった。
(そういえば、昨日召喚されたんだったな)
異世界に召喚されていたことを思い出し、暗鬱な気持ちになった。
(さっきのは、ルイズの寝言か)
ベッドを見ると、自分をこちらに呼び出した元凶であるルイズが気持ちよさそうに寝ていた。
(やっぱり、シャナの声と瓜二つだよな)
目の前で寝ている少女と、フレイムヘイズの少女を思い、考える。
(なんか性格も似てるっぽいし。素直じゃなさそうなところとか)
苦笑をもらし、立ち上がると大きく伸びをした。
床に寝ていたにもかかわらず体は全く痛くなかった。それでも伸びをしたのは、気分の問題だった。
そして、悠二はもう一度ルイズを見てから、既に習慣になっている早朝の鍛錬をするために部屋の外に出た。
悠二は、考え事をしながら廊下を歩いていた。
(そういえば、なんで何事もなく使い魔のルーンが刻まれたんだろう)
悠二は、身の内に宝具『零時迷子』を宿している“ミステス”である。
過去、“紅世の徒”との戦いでは『零時迷子』にかけられている自在法『戒禁』によって、『零時迷子』に触れた“徒”はその“存在の力”を悠二に吸収されていた。
(魔法が例外なのか、『零時迷子』自体に関係がなかったから『戒禁』が発動しなかったのかな)
そこまで考察し、[仮装舞踏会]の巫女“頂の座”ヘカテーに『戒禁』の奥に刻まれた刻印を見た。
この刻印によって[仮装舞踏会]は常に『零時迷子』の位置をわかるはずであった。
(今日見た夢のせいか、確信を持てる。[仮装舞踏会]ですら僕の居場所はわからない)
根拠のない自信であったが、悠二はそれを信じて疑わなかった。
(居場所がわからないから、皆心配してるんだろうな。特に母さんは身重だから心配だな)
自分がいなくなって混乱の極地であろう御崎市を思い、知らないうちにため息をついていた。
そうこうしていると、朝もやに包まれた外が見えてきた。
(気分転換ってわけじゃないけど、今日は『吸血鬼』を使って鍛錬しようかな)
寮塔の外の広場に立つと、悠二はそう思い至って、封絶を展開した。
銀色の炎が悠二を中心にドーム状に広がる。
悠二がポケットから一枚栞を取り出すと、それは瞬時に大剣『吸血鬼』に変化した。
剣を握ると、悠二は驚きに眼を見開く。左手のルーンが輝き、自身の“存在の力”が増したように感じた。
一瞬“存在の力”の増加にあっけに取られたが、すぐに冷静になると再び驚愕することになる。
“存在の力”が増加したと思ったが、それは勘違いだった。
(
これは“存在の力”の増加というよりは、『洗練』って感じかな?)
その『洗練』は身体能力の向上として現れ、いつもより体が軽くなったように感じる。
しかし、それは長くは続かなかった。なぜなら、悠二が『吸血鬼』を再び栞に戻したからだった。
(ルイズから使い魔のルーンには付与効果があるとは聞いてたけど)
悠二はルーンの効果について検証したかったが、もしそれに対する代償、デメリットが有った場合のことを考え、とりあえず見送ることにした。
(そういえば、昨日コルベールっていう先生がルーンをスケッチしてたから、何か知ってるかもしれないな)
今日中にコルベールのもとを訪ねることを決め、封絶を解いた。
近くの森に行き、落ちていた適度な長さの木の枝を拾った。
このときはルーンが反応しなかったので、いつもと同じように木の枝を使った鍛錬をすることにした。
シャナの剣を振る姿をイメージしながら、悠二は枝を振り続けた。
学院のほうでメイドさん達が働き始めるのが見えると、枝を振るのを止め、悠二は部屋に戻るために歩き出した。
悠二が部屋に戻ると真っ先にルイズの下着が目に入り、思わず赤面した。
(とりあえずルイズを起こして、それから洗濯をしにいこう)
悠二はベッドに近づき、いまだに寝ているルイズの肩を揺すった。
「んにゅ」
「ルイズ、そろそろ起きたほうがいいと思うよ」
「はぁ~~~。今起きる」
ルイズが寝ぼけ眼で上半身を起こし、大きくあくびをした。
「服」
…………何も反応がなかった。
ルイズが目をこすり部屋の中を見回すが、既に使い魔の姿はなかった。
そこでやっと、寝ぼけていたルイズは一瞬にして覚醒した。
「え? 使い魔は?」
今起こしてくれた使い魔がいなくなっていることに呆然としたが、すぐに怒りに取って代わった。
「あああ、あんの使い魔。ご主人様の世話をしないなんてどういうことかしら……」
静かに怒りのオーラを発散しているルイズをよそに、悠二はのんきに洗濯をしに行っていた。
悠二が洗濯を終え部屋に戻ってくると、制服姿のルイズが仁王立ちで睨みつけてきた。
「ああ、あんた。ごごごご主人様の身の回りの世話をしないでどこに行ってたのかしら?」
「え? 洗濯をしに行ってただけなんだけど……」
なんか怒られるようなことした? という言葉を呑み込み悠二はルイズの様子を探る。
こと戦闘になると、歴戦のフレイムヘイズでさえ目を見張る鋭い冴えを見せるが、それはあくまで戦闘時であって、普段の生活、特に女心(この場合女心かは疑問であるが)には殊更鈍感だった。
「私言ったわよね。使い魔の仕事は身の回りの世話をすることだって」
「それで、洗濯に行ってきたんだけど」
「ご主人様を起こしてすぐにいなくなる奴がどこにいんのよ!」
「えーと、それはごめんなさい?」
ルイズは荒い息をついていたが、数回深呼吸をした。
「まあいいわ。次からは気をつけなさい」
とりあえずルイズの怒りは収まったようで、悠二はルイズに見えないようにため息をついた。
食堂に向かうためにルイズと悠二が部屋を出ると、同時に赤い髪の女生徒が廊下に出てきた。
「おはようルイズ」
「おはようキュルケ」
ルイズが嫌そうに返事をすると、キュルケと呼ばれた生徒は悠二を指差し言った。
「あなたの使い魔って、それ?」
「そうよ」
キュルケと呼ばれた生徒はあからさまにルイズと悠二を馬鹿にしていたが、悠二はほとんど聞いてなかった。
自分を『それ』と言われた事に懐かしさを感じていたからだった。
(シャナも最初のころは僕のことを物扱いしてたんだよな)
と回想していたが、急に現実に引き戻された。
「熱っ! って真っ赤な何か!」
いきなり現れた真っ赤な生物に熱気に悠二は驚いた。
「あはは! 大丈夫よ。これが私の使い魔のフレイム。火竜山脈のサラマンダーよ、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
「あんた『火』属性だからお似合いね」
得意げに使い魔自慢をするキュルケに、ルイズが実に憎憎しげにつぶやく。
「ええ。この『微熱』のキュルケにぴったりよ。そこの平民も『ゼロ』のあなたにはぴったりよ、ルイズ」
「ふん! 早く食堂に行くわよ!」
ルイズは憤怒の形相で悠二を引っ張るが、後ろから声をかけられる。
「ところで、使い魔さんのお名前は?」
「坂井悠二です」
「そ、よろしくね」
ルイズに力の限り引かれながら悠二は答え、そのまま食堂に向かった。
ルイズは食堂に向かいながら、いまだに怒っていた。
「キィー! なによ、あいつ! 自分がサラマンダー召喚したからって!」
独り言を言って話しかけにくかったが、悠二は先ほどの会話で気になったことを聞いてみた。
「あのさ、『微熱』とか『ゼロ』とかってあだ名のようなものでしょ? 『微熱』っていうのはわかったけど『ゼロ』って何?」
「あんたには関係ないでしょ!」
ルイズはそう言って誤魔化そうとしたが、悠二は気づいた。
(ひょっとしてひょっとすると、身体的な特徴のことなのかも)
横目でルイズの『ゼロ』と思わしきところを見ていると、ルイズから右ストレートが飛んできた。
「痛っ! なにするんだよ!」
ルイズがジト目で悠二を見据える。
「あ、あああんた、今ご主人様のことを失礼な目で見たでしょ」
「え? な、なんのことかわからないなあ。あははは……」
図星をつかれた悠二は、冷や汗をかきつつも笑って誤魔化した。
(少なくとも、シャナよりはあるんじゃないかな?)
そんな失礼なことを考えて。
そうこうしているうちに二人は食堂に着いた。
ルイズは悠二に色々と説明した。
メイジの大半が貴族であること、貴族としての作法なども学ぶこと、平民は本来入れないことなど。
実際、食堂の装飾や料理の豪華さに悠二は圧倒されていた。
(トーチはいないみたいだな。ここだけなのか、この世界全体なのかはまだわからないけど)
「あんたの食事はそれだから」
そうやって差し出されたのは、床に置かれたスープと硬そうなパン二切れだった。
「……これだけ?」
「普通だと使い魔は外、あんたは私の特別な計らいでここにいるの。まだなんか文句あるわけ?」
(文句はあるけど、言ったら怒るんだろうな)
これ以上の面倒ごとを避けたい悠二は文句を心の中にしまった。
「あのさ、ちょっと質問があるんだけど」
「あによ、文句あるって言うの?」
ルイズがサラダを食べながら悠二を一瞥する。
「文句じゃないんだけど、コルベール先生っているよね。で、先生は普段どこにいるのかなと思ってさ」
「ミスタ・コルベールなら、本塔と火の塔の間にある研究室じゃなかったかしら。で、なんであんたがミスタ・コルベールのいる場所を聞くわけ?」
「別に、ちょっと気になっただけだよ」
本当は、ルーンのことについて聞きに行こうと思っていたのだが、ルイズに言うのはまずい気がして、顔を背けながら下手なごまかし方をした。
しかし、ルイズは自分の使い魔が何を考えているのかなど、別段気にならないようで、また食事を始めた。
#navi(残り滓の使い魔)
#navi(残り滓の使い魔)
目の前に真っ黒な自分がいる。薄っぺらいような、水面に映る影のような、真っ黒な自分が。
(これは、夢だ)
すぐに理解し、思い出した。
一度だけ見た、真っ黒な自分が目前にいる夢。
今度は、何も声を発しない。確認のような、詰問のような、どちらともとれない問いはなかった。
──ふいに、影が揺れる。
自身に接するほど近くに在ったはずの影は、手を伸ばしても届かない距離までに離れていた。
引き止めることは、しない。影も、縋るようなことは、決してしてこない。
影が自分から離れていっているのか、それとも小さくなっているだけなのか、判断は出来ない。
そして、ついに見えなくなってしまった。
悠二がただ一つ直感的にわかることは、ここにいる間はもう現れることはないということだった。
「…………ユージ……」
「シャナッ!?」
シャナに呼ばれたと思い、飛び起きた悠二だったが、そこは悠二にとって見慣れた場所ではなかった。
(そういえば、昨日召喚されたんだったな)
異世界に召喚されていたことを思い出し、暗鬱な気持ちになった。
(さっきのは、ルイズの寝言か)
ベッドを見ると、自分をこちらに呼び出した元凶であるルイズが気持ちよさそうに寝ていた。
(やっぱり、シャナの声と瓜二つだよな)
目の前で寝ている少女と、フレイムヘイズの少女を思い、考える。
(なんか性格も似てるっぽいし。素直じゃなさそうなところとか)
苦笑をもらし、立ち上がると大きく伸びをした。
床に寝ていたにもかかわらず体は全く痛くなかった。それでも伸びをしたのは、気分の問題だった。
そして、悠二はもう一度ルイズを見てから、既に習慣になっている早朝の鍛錬をするために部屋の外に出た。
悠二は、考え事をしながら廊下を歩いていた。
(そういえば、なんで何事もなく使い魔のルーンが刻まれたんだろう)
悠二は、身の内に宝具『零時迷子』を宿している“ミステス”である。
過去、“紅世の徒”との戦いでは『零時迷子』にかけられている自在法『戒禁』によって、『零時迷子』に触れた“徒”はその“存在の力”を悠二に吸収されていた。
(魔法が例外なのか、『零時迷子』自体に関係がなかったから『戒禁』が発動しなかったのかな)
そこまで考察し、[仮装舞踏会]の巫女“頂の座”ヘカテーに『戒禁』の奥に刻まれた刻印を見た。
この刻印によって[仮装舞踏会]は常に『零時迷子』の位置をわかるはずであった。
(今日見た夢のせいか、確信を持てる。[仮装舞踏会]ですら僕の居場所はわからない)
根拠のない自信であったが、悠二はそれを信じて疑わなかった。
(居場所がわからないから、皆心配してるんだろうな。特に母さんは身重だから心配だな)
自分がいなくなって混乱の極地であろう御崎市を思い、知らないうちにため息をついていた。
そうこうしていると、朝もやに包まれた外が見えてきた。
(気分転換ってわけじゃないけど、今日は『吸血鬼』を使って鍛錬しようかな)
寮塔の外の広場に立つと、悠二はそう思い至って、封絶を展開した。
銀色の炎が悠二を中心にドーム状に広がる。
悠二がポケットから一枚栞を取り出すと、それは瞬時に大剣『吸血鬼』に変化した。
剣を握ると、悠二は驚きに眼を見開く。左手のルーンが輝き、自身の“存在の力”が増したように感じた。
一瞬“存在の力”の増加にあっけに取られたが、すぐに冷静になると再び驚愕することになる。
“存在の力”が増加したと思ったが、それは勘違いだった。
(これは“存在の力”の増加というよりは、『洗練』って感じかな?)
その『洗練』は身体能力の向上として現れ、いつもより体が軽くなったように感じる。
しかし、それは長くは続かなかった。なぜなら、悠二が『吸血鬼』を再び栞に戻したからだった。
(ルイズから使い魔のルーンには付与効果があるとは聞いてたけど)
悠二はルーンの効果について検証したかったが、もしそれに対する代償、デメリットが有った場合のことを考え、とりあえず見送ることにした。
(そういえば、昨日コルベールっていう先生がルーンをスケッチしてたから、何か知ってるかもしれないな)
今日中にコルベールのもとを訪ねることを決め、封絶を解いた。
近くの森に行き、落ちていた適度な長さの木の枝を拾った。
このときはルーンが反応しなかったので、いつもと同じように木の枝を使った鍛錬をすることにした。
シャナの剣を振る姿をイメージしながら、悠二は枝を振り続けた。
学院のほうでメイドさん達が働き始めるのが見えると、枝を振るのを止め、悠二は部屋に戻るために歩き出した。
悠二が部屋に戻ると真っ先にルイズの下着が目に入り、思わず赤面した。
(とりあえずルイズを起こして、それから洗濯をしにいこう)
悠二はベッドに近づき、いまだに寝ているルイズの肩を揺すった。
「んにゅ」
「ルイズ、そろそろ起きたほうがいいと思うよ」
「はぁ~~~。今起きる」
ルイズが寝ぼけ眼で上半身を起こし、大きくあくびをした。
「服」
…………何も反応がなかった。
ルイズが目をこすり部屋の中を見回すが、既に使い魔の姿はなかった。
そこでやっと、寝ぼけていたルイズは一瞬にして覚醒した。
「え? 使い魔は?」
今起こしてくれた使い魔がいなくなっていることに呆然としたが、すぐに怒りに取って代わった。
「あああ、あんの使い魔。ご主人様の世話をしないなんてどういうことかしら……」
静かに怒りのオーラを発散しているルイズをよそに、悠二はのんきに洗濯をしに行っていた。
悠二が洗濯を終え部屋に戻ってくると、制服姿のルイズが仁王立ちで睨みつけてきた。
「ああ、あんた。ごごごご主人様の身の回りの世話をしないでどこに行ってたのかしら?」
「え? 洗濯をしに行ってただけなんだけど……」
なんか怒られるようなことした? という言葉を呑み込み悠二はルイズの様子を探る。
こと戦闘になると、歴戦のフレイムヘイズでさえ目を見張る鋭い冴えを見せるが、それはあくまで戦闘時であって、普段の生活、特に女心(この場合女心かは疑問であるが)には殊更鈍感だった。
「私言ったわよね。使い魔の仕事は身の回りの世話をすることだって」
「それで、洗濯に行ってきたんだけど」
「ご主人様を起こしてすぐにいなくなる奴がどこにいんのよ!」
「えーと、それはごめんなさい?」
ルイズは荒い息をついていたが、数回深呼吸をした。
「まあいいわ。次からは気をつけなさい」
とりあえずルイズの怒りは収まったようで、悠二はルイズに見えないようにため息をついた。
食堂に向かうためにルイズと悠二が部屋を出ると、同時に赤い髪の女生徒が廊下に出てきた。
「おはようルイズ」
「おはようキュルケ」
ルイズが嫌そうに返事をすると、キュルケと呼ばれた生徒は悠二を指差し言った。
「あなたの使い魔って、それ?」
「そうよ」
キュルケと呼ばれた生徒はあからさまにルイズと悠二を馬鹿にしていたが、悠二はほとんど聞いてなかった。
自分を『それ』と言われた事に懐かしさを感じていたからだった。
(シャナも最初のころは僕のことを物扱いしてたんだよな)
と回想していたが、急に現実に引き戻された。
「熱っ! って真っ赤な何か!」
いきなり現れた真っ赤な生物に熱気に悠二は驚いた。
「あはは! 大丈夫よ。これが私の使い魔のフレイム。火竜山脈のサラマンダーよ、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
「あんた『火』属性だからお似合いね」
得意げに使い魔自慢をするキュルケに、ルイズが実に憎憎しげにつぶやく。
「ええ。この『微熱』のキュルケにぴったりよ。そこの平民も『ゼロ』のあなたにはぴったりよ、ルイズ」
「ふん! 早く食堂に行くわよ!」
ルイズは憤怒の形相で悠二を引っ張るが、後ろから声をかけられる。
「ところで、使い魔さんのお名前は?」
「坂井悠二です」
「そ、よろしくね」
ルイズに力の限り引かれながら悠二は答え、そのまま食堂に向かった。
ルイズは食堂に向かいながら、いまだに怒っていた。
「キィー! なによ、あいつ! 自分がサラマンダー召喚したからって!」
独り言を言って話しかけにくかったが、悠二は先ほどの会話で気になったことを聞いてみた。
「あのさ、『微熱』とか『ゼロ』とかってあだ名のようなものでしょ? 『微熱』っていうのはわかったけど『ゼロ』って何?」
「あんたには関係ないでしょ!」
ルイズはそう言って誤魔化そうとしたが、悠二は気づいた。
(ひょっとしてひょっとすると、身体的な特徴のことなのかも)
横目でルイズの『ゼロ』と思わしきところを見ていると、ルイズから右ストレートが飛んできた。
「痛っ! なにするんだよ!」
ルイズがジト目で悠二を見据える。
「あ、あああんた、今ご主人様のことを失礼な目で見たでしょ」
「え? な、なんのことかわからないなあ。あははは……」
図星をつかれた悠二は、冷や汗をかきつつも笑って誤魔化した。
(少なくとも、シャナよりはあるんじゃないかな?)
そんな失礼なことを考えて。
そうこうしているうちに二人は食堂に着いた。
ルイズは悠二に色々と説明した。
メイジの大半が貴族であること、貴族としての作法なども学ぶこと、平民は本来入れないことなど。
実際、食堂の装飾や料理の豪華さに悠二は圧倒されていた。
(トーチはいないみたいだな。ここだけなのか、この世界全体なのかはまだわからないけど)
「あんたの食事はそれだから」
そうやって差し出されたのは、床に置かれたスープと硬そうなパン二切れだった。
「……これだけ?」
「普通だと使い魔は外、あんたは私の特別な計らいでここにいるの。まだなんか文句あるわけ?」
(文句はあるけど、言ったら怒るんだろうな)
これ以上の面倒ごとを避けたい悠二は文句を心の中にしまった。
「あのさ、ちょっと質問があるんだけど」
「あによ、文句あるって言うの?」
ルイズがサラダを食べながら悠二を一瞥する。
「文句じゃないんだけど、コルベール先生っているよね。で、先生は普段どこにいるのかなと思ってさ」
「ミスタ・コルベールなら、本塔と火の塔の間にある研究室じゃなかったかしら。で、なんであんたがミスタ・コルベールのいる場所を聞くわけ?」
「別に、ちょっと気になっただけだよ」
本当は、ルーンのことについて聞きに行こうと思っていたのだが、ルイズに言うのはまずい気がして、顔を背けながら下手なごまかし方をした。
しかし、ルイズは自分の使い魔が何を考えているのかなど、別段気にならないようで、また食事を始めた。
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