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第3話 『決闘未満』後編
ヴェストリの広場において甲冑を着込んだ女性を象った青銅色のワルキューレ7体と、鮮やかな真紅の鎧を纏った大柄なゴーレムが対峙している。
ギーシュが薔薇をさっと振ると、ワルキューレ達は赤いゴーレムを半円状に取り囲む。赤いゴーレムは、ルイズに召喚されてから初めて明らかな戦闘体勢へと入っていた。棍棒を腰溜めに抱え前傾姿勢を取り、いつ何時走り出せるようにとワルキューレ達を見据えている。
「いけっ、ワルキューレ!」
端正な顔に似つかわしい高めの澄んだ声でギーシュが命令すると、ワルキューレ達は赤いゴーレムを確実に屠らんと、一斉に行動開始する。ギーシュは3体のワルキューレを使い、3方向からの同時攻撃を仕掛けようとした。これで仕留められなかったとしても、相手は必ず体勢を崩す。それを見計らって、支援に回した4体のワルキューレによって、体勢を立て直す暇を与えずに連続攻撃を仕掛ければ、あの赤いゴーレムとて無傷ではいられまい。あとは7体全員で確実に仕留めればいい。
たとえあの巨大な棍棒が恐ろしい破壊力を持っていたとしても、当らなければどうと言うことはないのだ。見るからに鈍重な赤いゴーレムを前にし、ギーシュは速度重視の戦闘を取る自分の勝利を確信した。
しかし、そこで観客の誰もが予想しない展開が始まった。
「なっ……!」
ギーシュはまともな言葉を発することすらできなかった。余りの短時間に目まぐるしく変わる戦況に、人間の思考速度が追い付かなかったのである。
3方向から同時攻撃を仕掛けられたゴーレムは身を固めて防御するでもなく、どたどたと走り出すこともなかった。3体のワルキューレが肉薄し青銅の剣を振り上げた瞬間、その巨体には似つかわしくない速度で動き出したのだ。ゴーレムは地面をすべるようにして3体のワルキューレの包囲網を抜け、即座に背後へと回り込んだ。ワルキューレの3本の剣はむなしく空を切り、赤いゴーレムに対し完全に無防備な姿を晒してしまう。そして赤いゴーレムはその決定的な隙を見逃すことはしなかった。攻撃を回避されたため一箇所に集まってしまった3体のワルキューレ目掛け、豪腕に握られた棍棒を横方向へ薙ぐように目にも止まらぬ速度で振り切った。
ワルキューレは防御姿勢を取る間もなく、その攻撃を食らってしまう。青銅でできたワルキューレの体が、めきめきと音を立てながらまるで紙細工のようにひしゃげていく。3体のワルキューレは高速で空中へと打ち出され、観衆の頭上を飛び越え本塔の壁に折り重なるようにして激突した。
「……そ、んな。……しまったっ、散開するんだワルキューレ!」
己の使役するワルキューレが余りにもあっさりと返り討ちに遭い、ギーシュは一瞬茫然自失状態へと陥ってしまった。主人の忘我はワルキューレの完全停止を引き起こし、もはや取り返す事のできない隙を作り出してしまう。我に返ったギーシュが慌てて指令を出すも時既に遅く、残った4体のワルキューレもまた、まるで抵抗できない赤子が屈強な大人の男に捻り潰されるが如く破壊されていく。
あるものは全身を弾丸とした体当たりを受けて奇妙に捻れた体を地面に転がし、またあるものは縦に振り下ろされた棍棒を脳天から受け、地面にめり込んでいた。他の2体は、最初の3体と同じように空中へと打ち出され、遠くの校舎の壁に激突した。
「う、うそだろう……? こんな、こんな簡単に僕のワルキューレが……」
決闘に要された時間はわずか1分にも満たなかった。手だれの傭兵一個小隊に匹敵すると言われる7体のワルキューレがたった1体のゴーレムに、いとも簡単に倒されてしまったのだ。呆然としているのはギーシュだけではなく、先程までやんややんやと囃し立てていた観衆もまた驚愕を顔に貼り付けている。
圧倒的な力を見せ付けたゴーレムは最早ギーシュに抗う力は無しと見たのか、ただ静かに見つめているだけだった。そのような余裕すら見せ付けるゴーレムに、ギーシュはどうしようもなく喚き出したい思いに駆られる。しかし一蹴されたことで、ただでさえ無様な姿を晒しているというのに、これ以上ルイズ曰くみっともない真似はできなかった。悔しさに血が滲むほど唇を強く噛むと、ギーシュはぐっ目を瞑り手にしていた花びらを失った薔薇を手放す。薔薇はぱさりと地面へ落ち、そこでギーシュは敗北宣言をした。
「僕の、負けだ……」
ギーシュの敗北宣言に、広場は騒然となる。生徒の間ではルイズの魔法音痴ぶりは周知の事実であり、たとえ偶然から高位のゴーレムを従えることになったとしても、満足に操ることなどできないと考えられていたのだ。ただしそれは又聞きしたものや遠くから眺めていた者の意見であり、間近でルイズのゴーレムを見た者はみなその異様な威圧感に圧倒され、決闘の勝敗云々を口に出すものは少なかった。ギーシュの友人が必死に止めたのもそのためだった。
そして騒然となった広場にて一人、抑え切れない喜びにはしゃいでいるものがいた。赤いゴーレムの主人、ルイズである。
「やっったぁ! さっすがわたしの使い魔、めちゃくちゃ強いじゃない!」
ゴーレムに駆け寄り、その赤い体をばんばんと叩きながらルイズは全身で喜びを表現していた。確かに只者ではないと感じていた。根拠は無かったが、ギーシュに勝てるとも信じていた。それでもここまで圧倒的な力の差を見せ付けて勝利するとは、当のルイズも予想していなかったのだ。こんな強力なゴーレムを使い魔に出来るなんて、自分はなんと幸せなのだろう、とルイズは思わず始祖ブリミルの感謝の言葉を送る。
ルイズに付いてきて観衆にまぎれて決闘を見ていたシエスタは、やはり例に漏れず呆然としていた。ルイズが自分の厄介事を引き受けてくれるとは言ってくれたが、それは決闘に勝たなければ意味のない言葉だった。もし負けてしまえばきっと自分に厄が戻ってくると、シエスタは戦々恐々としていたのだ。しかし、余りにも決闘の時間が短かったため、はらはらするにも時間が足りなかった。
「ギーシュ、これに懲りて自分の責任を他人に押し付けるなんてみっともない真似するんじゃないわよ。たとえ相手が平民でもね。あんたもグラモン家ならそれに相応しい振る舞いをしなさい」
「……分かったよ」
「まったく、あんたみたいな軽薄男のどこがいいのかしらね? モンモランシーもケティって子も理解に苦しむわ」
ルイズがゴーレムに抱え上げられ、意気揚々と広場を去ろうとした時、後ろから呼び止める声が掛けられた。その声の主は俯いたギーシュだった。ルイズは怪訝な表情を浮かべる。
「ルイズ、君が僕をどう言おうと構わない。僕は紛れもない敗者なんだからね。でもあの二人の名誉を傷つけるような発言はやめて欲しい」
「名誉って、あの二人に男を見る目が無いのは事実じゃない。あんたみたいな男に引っかかってるんだから」
「いいかい、グラモンの家名に賭けて誓う。僕はあの二人のレディを傷物になどしていない。君は決闘の前に僕を侮辱したね。誰彼構わず突っ込むんじゃないと。でもそれは酷い誤解だ。マリコルヌも君も、他の連中も揃いも揃って誤解する。僕はそれが我慢ならない……!」
その後に続いたギーシュの言葉を要約すると、モンモランシーとケティに対し、性的な事に及ぶことはしていない。ということであった。あの時ギーシュはマリコルヌを始めとする取り巻きに、何人に手を出したのか、またその感想は何か無いか、などとしつこく質問責めにされて不機嫌になっていた。自分はそんなことをしてはいないと否定しても、そんなはずはないだろうといつまでも食い下がってくる。
そんな時件の小瓶を取り落とし、それを見てなるほどモンモランシーと付き合っているのか、と更に騒ぎ立てられた。その後はケティに酷い裏切りだと糾弾され、モンモランシーにも手酷い誤解をされた。
自分は手を繋ぐ、キスをする以上の行為は絶対に行わない。それは相手の未来に影を落とす原因になりかねないからだと、ギーシュは言う。自分が望むのは相手の幸せであって不幸ではないと、普段のギーシュからは想像もつかない真剣さで語っていた。
話を聞くうちに、ルイズの高揚とした気分は逆に落ち込んでいった。これでは自分が悪役ではないか。確かに自分は仲裁に入ったが、その時の挑発は完全に無用なものだった。あのような態度ではギーシュが激怒するのも仕方がない。ルイズは周囲の全ての視線が己を責めているように感じられ、俯いてしまう。
「使用人の彼女を責めてしまったのは僕の落ち度だ。どうしてもいらいらを抑えることができなかったんだ。できれば彼女にすまなかったと伝えて欲しい」
「……わかったわよ」
ルイズの声はか細く、いまにも雑音に掻き消されそうなほどであった。いまや、決闘に負けたはずのギーシュの方が誇り高く感じられてしまう。実際には見苦しい面も多々見せたのだが、潔く敗北を認める姿と、自分の頬を叩いた女性達の身を第一に考える姿勢に、ルイズは自分が余りにも卑小な理由で戦っていたことを自覚させられる。
「あと、最後にこれだけは言わせて貰うよ。僕は君に負けたのではない。あのゴーレムに負けたんだ」
「んなっ、何言ってんのよ! あいつはわたしの使い魔なのよ!?」
勝利まで否定され、流石にルイズは抗議の声を上げる。確かにこの決闘において、どちらの非が大きいかと言われれば間違いなく自分だろう。しかし決闘の勝利まで否定される謂れはないはずだ。こればかりは受け入れるわけにはいかない。
「確かに使い魔は主人の力を反映すると言われている。主人に力があればあるほど強力な使い魔が呼ばれると。しかし使い魔の力が全て主人の力というわけではない。主人と使い魔、二つの力が合わさってこそ、そのメイジの力と認められるんだ」
「そ、それがなんだってのよ」
「君はこの決闘でゴーレムに指示を出していたかい? いいや、していないね。君は最初に行けと命令しただけだ。後はあのゴーレムが自分で判断して戦っていた。使い魔に戦いを丸投げするメイジなど主人としての資格はない!」
追い討ちをかけるかのようなギーシュの言葉にルイズは言い返すことができなかった。言われてみればその通りだと改めて気付き、また今までそれを気にしていなかった自分にも驚いていた。この決闘は自分とギーシュが行っていたのではない。自分のゴーレムが全て片をつけてしまった。そこに自分は介入していない。勝利する為の寄与を何一つ行っていないのだ。
「僕はいつか自力で君のゴーレムに勝ってみせる。必ずその高みへと到達してみせる。僕が言いたいのはこれだけだ。それじゃあ失礼するよ」
ギーシュはそう宣言すると、マントを優雅に翻らせて広場から去っていく。先程の一連の会話を聞き、観衆のざわめきは落ち着いてきていた。そして圧勝したルイズ側へのやっかみも込めて、これ幸いとばかりにルイズに聞こえるよう中傷する者もいた。
そんな中、こっそりと決闘を眺めていたシエスタがルイズへと駆け寄り、俯き黙り込んでしまった少女に声をかける。
「あ、あの、ミス・ヴァリエール。ありがとうございます。……す、凄いですよね、あのゴーレム! あんなに強いなんてびっくりしちゃいました!」
何も反応を見せないルイズをなんとか元気付けようと、シエスタはわざとはしゃいでみせる。しかしそれでもルイズは何も言わず、とぼとぼと校舎へ向かって歩き出した。その後を、やはりゴーレムがのそのそとした動きで付いていく。先程の俊敏な動きからもとの鈍重な動きに戻っていた。
「ミス・ヴァリエール……」
シエスタの呟きは広場のざわめきに掻き消され、誰も耳にする者はいなかった。
学院長室にてオスマン、コルベール、ロングビルの3人が驚愕に目を見開いていた。コルベールがオスマンに事の詳細を説明している時に、ロングビルがヴェストリの広場で決闘騒ぎが起きていると報告しに現れ、当事者は誰かとオスマンが尋ねると、ギーシュ・ド・グラモンと今の今話し合っていたルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだと答えたのだ。
オスマンはコルベールは目配せをすると杖を振るった。すると壁に掛けられていた大鏡に件の広場が映し出され、学院長室から事の顛末を最初から最後まで眺めていたというわけであった。
「……余りにも力の差がありますね。ミスタ・グラモンは『土』のドットですが、ゴーレムを操る才能は侮れません。それをああも簡単にあしらってしまうとは……」
「うむ……」
コルベールの言葉はオスマンの胸中そのものであった。グラモン家とは長い付き合いなので、その息子達のことはよく知っている。確かにギーシュは兄達よりも劣るドットメイジだったが、ワルキューレの練成や、それらを使用した連携には目を見張るものがあったのだ。オスマンはコルベールともう少し話し合う必要があると考え、ロングビルへ指示を出す。
「ミス・ロングビル。学院としては理由はどうあれ私闘を認めるわけにはいかん。グラモンの馬鹿息子とヴァリエールの三女をここへ連れてくるのじゃ」
私闘を止めようともせずに観戦していた身としては苦しい理由だとオスマンは考えたが、とにかく人払いをする必要がある。ロングビルはやはり表情一つ変えずに、わかりましたと一言だけ言うと静かに退室した。ロングビルが去っていったことを確認すると、コルベールはオスマンへと話しかける。
「あの戦闘能力、やはりあれは伝説の使い魔『ガンダールヴ』だと思われます。記述にも残されておりますが、『ガンダールヴ』は主人であるブリミルを守護する為に一騎当千の戦闘力を持っていたとか」
「確かに先程の決闘を見る限り、グラモンのゴーレムを2倍3倍に増やしたとしても結果は同じじゃろうな」
「現代に蘇った『ガンダールヴ』……。やはり王宮に報告するべきではないでしょうか」
コルベールの進言にオスマンは顔を渋らせる。ここトリステイン王国は周辺諸国に比べ、軍事力において劣っている。最も古い歴史を持つということで未だ独立していられるが、一度ガリアやゲルマニアあたりの強国に攻め込まれればそう長くはもたない。慢性的な戦力不足に悩むゆえに、王宮は戦力になると踏めば徴発にかかる可能性が高い。そのような者達にこの件を報告することは肉食獣の前に肉をちらつかせるようなものだ。やはり、自らの預かる学院に在籍する生徒を差し出すような真似はできない。オスマンはそう結論付けた。
「いや、この件はしばらくわしが預かる。王宮への報告は折を見て行う。影響を考えると今報告するのは時期尚早じゃ」
「……わかりました。ということは、この件は他言無用ということですね?」
「無論そのとおり」
そろそろロングビルが二人を引き連れ戻ってくる時間だ。これ以上の議論はできない。そう考え議論を切り上げるとほぼ同時刻に扉が叩かれ、ロングビルとギーシュ、ルイズが入室してきた。
学院長室で学院長直々に絞られたルイズは、自室に戻ってくるとぼふんとベッドに飛び込んだ。あの後、今日は講義には出ずに部屋で頭を冷やしておれと言われ、そのとおりにしたのだった。
ベッドに潜りながらルイズは先程の決闘を思い返していた。ゴーレムは自分の力ではない。ただ神が気まぐれに与えたおもちゃで喜んでいた自分。自分は何も変わってはいない。結局魔法を使うこともできない無力なメイジということには違いないのだ。
(わたしは……結局落ち零れ……)
強力なゴーレムを使い魔としたことで自分は舞い上がっていた。確かにあのゴーレムはギーシュのワルキューレすら物ともしない強さを持っていた。だが、主人である自分はというと降って沸いた幸運に胡坐をかいていただけだ。
決闘前の自分がしていた酷い誤解と侮辱もまた、ルイズの顔に影を落とす原因となっていた。とどのつまり増長しきっていたのだ。それを自覚すると、ルイズの気分は際限なく落ち込んでいく。ギーシュに家名を汚さぬ振る舞いをしろなどと、どの口が言うのだろう。
その時、自室の扉が控えめに叩かれた。ルイズが黙っていると再度叩かれたので、鍵は開いていると一言だけ言ってまたベッドに潜り込んだ。
「あの、ミス・ヴァリエール。紅茶をお持ちしたのですが、大丈夫ですか……?」
訪問客はシエスタだった。遠慮がちに、ベッド潜り込んでいるルイズに声をかける。
「先程はその、本当にありがとうございました。ミス・ヴァリエールに助けて頂かなければどうなっていたことか……」
「……決闘したのはわたしじゃないわよ。あそこに突っ立ってるゴーレムよ」
ルイズは手だけベッドから出し、赤いゴーレムを指差す。シエスタが顔を向けると、主人が寝込んでいるのもどうでもいいとばかりに真紅のゴーレムがだんまりと佇んでいる。
「……わたしのやることって空回りばっかりだわ。ギーシュの誤解も、ゴーレムの強さに喜んでたのも……。わたしなんて結局何やっても駄目なのね」
「そ、そんなことありません! ミス・ヴァリエールは私を助けてくれたじゃないですか!」
「あれだって気が大きくなってただけよ。ゴーレムが無かったらあんなことできなかったわ」
「それでもっ、それでも私は救われたんです。誰も助けてくれない時にミス・ヴァリエールが助けてくれて、本当に私嬉しかったんです。……だから、そんなに自分を卑下なさらないで下さい。私まで悲しくなっちゃいます……」
平民相手に弱みを見せるなど、普段のルイズからは想像もつかない光景であった。常に気を張り、揚げ足を取られまいと努力してきたルイズが、格下である平民に愚痴を零すまでにルイズの精神は弱っていた。しかし、シエスタの言葉にほんの少しだけ救われた気分にもなっていた。ゴーレムは自分に従ってはくれるが、声を掛けてくれることは無い。今まで自分に優しくしてくれるのは、人の目が無い時の父親と、常にたおやかさを失わない姉のカトレアぐらいのものだった。
ベッドの中で少し潤んでいた目をごしごしと擦ると、ルイズはもそもそと這い出してきた。シエスタに紅茶を渡すように言うと、澄んだ紅茶の注がれたカップが手渡される。数口飲むとベッドの傍らに置かれているテーブルにカップを置いた。そしてシエスタにほんの少し、本当に少しだけ感謝を込めて礼を言う。
「……ありがと。紅茶、おいしかったわ」
「……! ありがとうございます。ご迷惑でなければ明日もお持ちしましょうか?」
ルイズが自分に礼を言ってくれてことにシエスタはつい嬉しくなってしまった。シエスタの心遣いに、ルイズはならお願いするわと言うと、またベッドに潜り込んでしまった。そんなルイズを見て、シエスタはくすりと微笑む。それでは失礼します、とシエスタが部屋を出ようとすると、ルイズに呼び止められた。
「……ギーシュがあんたには悪いことしたってさ。申し訳なかっただって」
シエスタも決闘の場にいたのでギーシュの言葉は聞いていたが、シエスタははい、と短く答えると静かに扉を閉めて立ち去っていった。シエスタの遠ざかる足音を聞きながら、ルイズはベッドの中で平民相手にあんな態度を取るなんてどうかしていると思ったが、何故か先程までの暗澹とした気分はほんの少し和らいでいた。
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