「蒼い使い魔-33」(2008/12/28 (日) 09:50:57) の最新版変更点
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#navi(蒼い使い魔)
「うふふっ! やっと二人っきりなのね!」
ルイズがタバサを呼びに部屋を出てから、テンションが上がる一方のシルフィード。
それとは逆にむすっとした表情で腕を組みながら、バージルが静かに目をつむっている。
執拗に体を摺り寄せてくるシルフィードをいなしつつルイズを待っていると
――コンコンッ、とドアをノックする音が聞こえてきた、
ようやく来たか……、そう思いソファから立ち上がると、首に腕を回し背中にしがみ付くシルフィードをそのまま引きずりながらドアを開ける。
「ちょっとルイズ? 朝から何をやってるの? さっきからすごい音が聞こえてきたけ……」
ドアをあけると、そこにいたのはルイズではなく、隣室のキュルケが立っていた、
どうやら先ほどの爆発音に目がさめ、何事かと様子を見に来たらしい、
見たことがない女性がバージルに抱きついている光景を目の当たりにし目を点にして固まっていた。
「あっ! あばずれ! おにいさまを誑かしに来たのね!?」
「なっ……!」
キュルケを見たシルフィードが指をさしながら声を上げる、初対面(?)の人間に対してこれ以上ないご挨拶である、
その言葉を聞いたキュルケの片眉がピクリと動いた。
「こいつのことは気にするな」
バージルはそう言うやガシリとシルフィードの頭を掴み、体から引きはがし床へと突き飛ばす。
「きゃんっ! おにいさま……人前なのね! でも私は構わないの! さぁ飛び込んでき――ぎゃうん!」
色っぽい格好で座り込む形になったシルフィードの頭に持っていた本を投げつけ黙らせる。
「あらぁー……ちょっとまずいもの見ちゃったかしら?」
「好きでやっているわけではない、こちらも迷惑している」
苦笑するキュルケにバージルはそう吐き捨てる。
「それで、何の用だ?」
「えっ? あぁ、その、なんかさっきからすごい音が聞こえてきたから…何があったのかな? って」
「この際だ、お前にも説明しておくか……入れ」
面倒事の空気を薄々感じ取っていたバージルはキュルケを部屋に招くと、事情を話し始めた。
「タバサ? いる? 私よ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
ルイズがタバサを部屋まで呼びに行くと、タバサは中で何やら荷物をまとめている。
「あら? 旅行にでもいくの?」
その様子をみたルイズが尋ねると、タバサは短く
「実家へ帰る」
とだけ答えた。
「そう……って、そうじゃなかった! あなたの使い魔が大変なのよ! 悪いけど今すぐ私の部屋に来て!」
ルイズはそう言いながら無遠慮に中に入るとタバサの手を引き自分の部屋へと戻って行った。
「じゃあこの人はシルフィードなの?」
バージルから事情を聞いたキュルケは少し驚いた様子で目を回しているシルフィードを見る。
「そう名乗っている、……今ルイズがタバサを呼びに行っている」
「へぇ~……ふふっ、シルフィードにまで好かれるなんてダーリンはやっぱりモテるのね」
「茶化すな、迷惑なだけだ」
クスクスと笑うキュルケにバージルは肩をすくめると心底迷惑そうな表情をする、
「茶化してなんかいないわ、事実だもの、でも驚いたわ、まさかシルフィードが風韻竜だなんてね?」
「そんなに珍しいのか?」
先のルイズもシルフィードが風韻竜であることに驚いていた、バージルはキュルケに尋ねる。
「風韻竜……人語を解し操ることもできる非常に高度な知能を持った竜のことね、
もうずいぶん前に絶滅したって伝わってるわ、そんな存在だから、あの子がひた隠しにする理由も頷けるわね」
もしシルフィードが風韻竜であることが周囲にバレてしまった場合、面倒事になるだろう。
下手をするとアカデミーという魔法の研究機関に実験体として提供を要求されることもあり得るという。
そんな危険も顧みずここまで来たということは、思ったよりも深刻な事態のようだ……。
バージルが大きくため息を吐くと、廊下からドタドタと騒がしい音が聞こえてきた。
「……来たか」
「バージル! タバサ連れてきたわよ!」
「ハァイ、ルイズ」
息を切らしながらタバサを連れてきたルイズが勢いよくドアをあける、
そんなルイズを出迎えたのはこの状況を最も見られたくない人物、キュルケであった。
「きっ、キュルケ!? な、なんであんたがここにいるのよ!!」
「話は聞いたわよ? やっぱり彼ってモテるわね~……流石といったところかしら?」
「ちょっとバージル! あんたどんな説明したのよ!」
「起こったことを話しただけだ」
バージルはそう言うとルイズの後ろに立っているタバサへ視線を送ると、床を顎で差す
「あの女に見覚えは?」
だらしない格好で目を回している女性を見てタバサの目が驚愕で開かれる
「……あの子……シルフィード」
「やはりか」
タバサがそう言うのだからやはりこの女性はシルフィードらしい、
どうやら本当に先住の魔法である『変化』を使い人間の姿になっているようだった。
「……何があったの?」
「どうもこうもない……ルイズ、説明してやれ」
視線を向けるタバサにバージルはぎゃんぎゃんとキュルケに向かい吠えたてるルイズに説明するように促す、
今朝起こったことの説明を受けたタバサは持っていた杖で気を失っているシルフィードの頭を小突いた
「うっ……うぅ~ん……ふぇ?」
間抜けな声を上げながらシルフィードが目を覚ます、そしてタバサを見るや目をぱちくりさせ飛び起きる
「おねえさま? こんなところで何をしているのね? はっ! まさか! シルフィの邪魔をしに来たの!?
ひどいのひどいの! おにいさまは絶対に渡さないのね!」
そう言うやバージルにがしりと抱き付き、あろうことか主であるタバサに対し「う~」っと唸りながら敵対心むき出しで睨みつけている。
その様子に思わずタバサも目を点にし呆然と立ち尽くしていた。
「あらぁ~タバサ……どうやらこの子本気みたいよ?」
そんなタバサの肩にポンとキュルケが手を置く、それにつられる様にルイズもタバサの肩を掴みガクガクと揺らす。
「ね、ねぇ、こんなのって絶対おかしいわよ! タバサ! なんとかしてよ、あなたの使い魔でしょ!?」
従順な使い魔であるはずのシルフィードがよりにもよってバージルにベッタリな状況に多少ショックを受けているのか
タバサはしばし放心状態になり、二人のその言葉に反応を示さない。
「離れろ鬱陶しい」
その言葉とともにバージルがシルフィードの頭を掴みアイアンクローをかける
「あいたたたたた! 痛いのね! でも感じちゃうっ! 新世界!」
何やら新しい世界の扉を開こうとしているシルフィードをよそにバージルは再びタバサに顔を向ける。
「何かコイツがこうなったことに心当たりは?」
ギリギリと頭を締めあげながらバージルはタバサに尋ねる、
その一言にはっと我に返ったのかタバサはしばらく考えるように俯き……首を横に振った。
「……わからない、昨日までこの子に変わった様子はなかった」
「どっ、どういうことよ! わからないじゃ困るわよ!」
そんなタバサに必死にルイズがすがりつく、それを無視しタバサは続ける。
「あなたは? 何か心当たりは?」
「あれば話している、……昨日、コイツが俺の前に現れた時、茶だけ飲んで走り去ったということくらいしか記憶にない」
「あなたの前に現れた? あの時言ってた女の人?」
タバサが必死にバージルの腕をタップアウトしているシルフィードを指す、
バージルが短く「そうだ」と返すと、タバサは何やら考えるように手を顎に当てた。
「その時、この子の様子は?」
「昨日言った通りだ、何やら憤慨していた様子だったが…、はしばみのポーションとやらが入った茶を飲んだ途端走り去っていった」
「……はしばみのポーション? タバサ、あなたまさかモンモランシーのポーションを拾ったの?」
はしばみという言葉が出たとき、キュルケがタバサに尋ねる、するとコクリと頷く
「まったく……拾ったものを飲むなんて、みっともないマネはよしなさいって言ったのに……」
キュルケが呆れたようにタバサの頭をペチペチと叩く、
するとアイアンクローから解放されたシルフィードが頭をさすりながらきょとんとした表情で口を開いた。
「……はしばみのお茶? なんのことなの?」
「……?」
その言葉にその場にいた全員がシルフィードを見る
「え? だって飲んだんでしょ? はしばみのお茶」
「そんな味全然しなかったのね、おいしかったわ」
「……? では何故逃げた」
「きゅい、それはおにいさまがあまりにも素敵だから…きゃ! 言っちゃったのね!」
そこまで言ったシルフィードは頬に手をあてクネクネと体をくねらせる。
それを冷めた目で見つめながらバージルは首をかしげる。
「どういうことだ? そのポーションとやらは一振りすればはしばみの味になると聞いたが」
「……………」
沈黙がその場を支配する、その中でふとルイズが口を開いた
「ねぇ、もしかして、それってはしばみのポーションじゃなかったんじゃない?」
「どういうこと?」
「えっと、確信はないんだけど……タバサ、それ、味を確認した?」
ルイズのその問いにタバサは静かに首を横に振る、
「じゃあシルフィード……って! バージルから離れなさいよ! このぉ!」
ルイズが再びバージルに絡みついているシルフィードを見て引きはがしにかかる、
「いやいや! 離れたくないのね! おにいさまも離れたくないって言って――」
「離れろ」
必死に頭を振り抵抗するシルフィードをにべもなくバージルが振り払う。
「もうっ! おにいさまったら照れてるのね! ふたりっきりの時はあんなに優しく抱きしめて下さったのに!」
「……っ!?」
その一言に場の空気が一瞬で凍りつく、
ルイズはまるで酸欠の魚のように口をパクパクさせ、タバサに至っては軽く眼尻に涙が溜まっている。
「あらぁ、ダーリンったら罪な人……」
キュルケがほぅっ……とため息をつきながらバージルを見る、
それは咎めるというよりかはどこか愉しんでいるかのような口調だ。
もちろんそんな事実はない、当のバージルにしてみれば非常に迷惑な話である。
「貴様……、斬られたくなかったらこれ以上でたらめを抜かすな…!」
眉間にふっか~い皺を寄せながら閻魔刀の鯉口を切る、相手がシルフィードでなければ即座に解体しているだろう。
痛む頭を押さえつつ溜息を吐きルイズへと視線を戻す。
「話が逸れたな、コイツになにか聞くことがあるんだろう?」
「え? あっ、そうだったわね……とりあえずあんたへのおしおきは後よっ……!」
「そんなくだらん真似などしないと何度……」
ルイズがうぅ~っと唸りながらバージルを睨みつけると、シルフィードへと問いかける。
「ねぇシルフィード、本当にそのお茶は苦くなかったのよね?」
「むっ、シルフィは美食家なのね! はしばみみたいな強烈な苦みはすぐにわかるの!」
「ということは……」
ルイズがそう言うと後を引き継ぐかのようにタバサが口を開く。
「中身が違う可能性が高い」
「原因はそのポーションだ、とでも言うのか?」
バージルが腕を組みながらその疑問を口にする。
「一口飲んだだけでここまで性格が豹変するものが存在するとでも?」
するとキュルケが思い出したかのように答えた。
「あー、一応、あることにはあるわよ、ご禁制だから作るのも所持するのも禁じられてるけどね」
「なんだそれは」
「惚れ薬よ」
その単語を聞いた時、ずっしりと頭が重くなるのを感じる。
シルフィードの態度の豹変っぷり、その一言で全て説明がついてしまう。あまりにも大きな説得力がその単語にはあった。
「でもまぁ、まだそうと決まった訳じゃないし、とりあえずモンモランシーに話を聞きに行きましょ? ってあら? ルイズは?」
キュルケが静かになった部屋の中を見回すと、ルイズの姿はすでになく、キィ…とドアが軋んだ音を立てながら半開きになっていた。
一方そのころ、モンモランシーは自室で授業に出るための準備をしていた、
心配ごとであったポーションも無事回収し上機嫌で部屋を出ようとする、すると不意にドアがノックされた。
「どなた?」
「僕だ、君への永久の奉仕者! ギーシュだよ!」
朝から何の用だろう? そう思いつつドアを開ける、するとそこには相も変わらずキザったらしく薔薇を持ったギーシュが立っていた
「どうしたの? こんな朝から」
「朝、君の顔を一番に見ておきたくてね! 君は僕にとっての太陽だ! 君を見なくては僕に夜明けは訪れない!!」
朝っぱらから元気な男である、モンモランシーはそんなギーシュに少々呆れつつも不思議と悪い気はしなかった。
ふとモンモランシーはギーシュにポーションが無事見つかったことをまだ伝えていなかったことを思い出す。
「あぁ、そういえばギーシュ、あなたが探してくれていたポーションだけど、ちゃんと見つかったわ。心配掛けてごめんなさいね」
「そうなのかい? いやぁよかった! 君の顔が不安で曇ってしまうことが僕にとっては一番つらいことだからね!」
ギーシュはそう言うとモンモランシーをひしと抱きしめる
恋人同士、二人で過ごす甘く穏やかな時間、だがそれは魔人の乱入によって破られることとなる
「モンモランシィィィィーーーーーーーー!!!!!!!!!」
突如ドアをブチ破る勢いで…実際ブチ破って部屋に飛び込んできたルイズに二人は目を白黒させる。
「なっ…! ルイズ!?」
「うわっ!? なっ、なんの用だね!? いきなり乱入するなんて野暮天だな君は!」
だがルイズはそれに構わずに杖を抜きモンモランシーに突きつけた。
「死にたくなかったら3秒以内に答えなさい、あなたがこないだ落としたって言うポーション、あれの中身は一体何? ハイ、残り3秒」
「なっ…突然飛び込んできて何のことよ! わ、私にはなんのことだか…」
――ドォンッ! 「ギャア!!」
モンモランシーがシラを切った瞬間、隣にいたギーシュが爆発に巻き込まれもんどりうって吹っ飛ばされる
ルイズはピクピクと気を失っているギーシュには目もくれずにまっすぐモンモランシーを睨みつける
「あら、手元が狂ったわ、残り2秒……1秒……Die!!!」
「ほっ! 惚れ薬ですっ!!」
デビルトリガーを引いたルイズに恐怖したモンモランシーはあっさりと自白する、それを聞いたルイズの目が益々つり上がる
「あぁそう……やっぱりね……というわけで死になさい」
「待ちなさいルイズッ!」
あとから部屋に飛び込んできたキュルケに羽交い絞めにされルイズはじたばたと抵抗する
「離しなさいよっ! このぉ!! 消し飛ばしてやるんだから!!」
「なっ、何よ! 何があったのよ!?」
突然乱入してきたルイズにわけも分からず殺されかけたモンモランシーはキュルケに食ってかかる。
「あー、それがね、説明するとちょっと長くなっちゃうんだけど…」
そう言うとキュルケはルイズを抑えつつ事の顛末をモンモランシーに説明した。
「えーーっ!? タバサが使っちゃったの!? あぁ……あの子がはしばみと聞いて使わないなんておかしいと思ったのよね……」
モンモランシーが頭を抱えながら呟く。そしてふと顔を上げるとキュルケに尋ねる
「それで? 飲んだのはタバサ?」
「いいえ、飲んだのはあの子の使い魔のシルフィードよ。それでその子がダーリン…あぁほら、バージルに惚れちゃったのよ。
タバサは今、この子の部屋でシルフィードを監視してるわ」
「シルフィードって…あの風竜の? それが人間に惚れるなんて…まるでどこかのおとぎ話ね…」
人間が使ったわけじゃないと聞き安心したのか、どこか他人事のようにモンモランシーが肩をすくめる。
「茶化すんじゃないわよぉぉぉぉ!!!!!」
「あぁもう! 落ち付きなさいな!」
そんなモンモランシーに再び怒りの炎を再燃させたルイズは再び杖を抜こうとするがキュルケに阻止される。
「もう……そんなに怒ることないじゃない、竜でしょ? 人間が飲んだわけじゃないんだからいいじゃない、
動物に好かれて困ることなんてないと思うけど? 竜が人に恋をするなんて、ロマンチックな話だわ」
「それだけだったら私もここまでしないわよぉ!!!」
そんなルイズを見てモンモランシーは呆れたように言う、
だがキュルケは問題はそう単純ではない、とルイズを押さえながら苦笑する。
「……そうだとよかったんだけどねぇ……、まぁいいわ、とりあえずついてきて、詳しい話はそれから。
あぁ、それとその言葉、間違ってもダーリンの前で言っちゃダメよ? 間違いなく殺されるから、ね?」
キュルケはそう言うとモンモランシーと意識を取り戻したギーシュを連れ部屋を後にした。
「こっ、この人がシルフィードだってのかい!?」
「シルフィード!? この人が!? 嘘よ……だって人間じゃ……」
ルイズの部屋に入った二人は驚愕する、
見たことがない美女がバージルにベッタリとくっついているのだ、
ギーシュに至っては人間の姿をしたシルフィードに心を奪われているようだった。
「きゅいきゅい! また邪魔者が増えたのだわ! みんなして私達の邪魔をするの!」
「貴様が一番邪魔だ……」
そんな二人をみてシルフィードは怒ったような口調で頬を膨らませた。
「そう…この子は風韻竜なのよ、今変化の先住魔法で人間に姿を変えているらしいわ…」
キュルケは苦笑しながら呆然と立ち尽くす二人に説明をする。
「いやぁ、すごいなぁ、まさか風韻竜だなんて……すごい美女じゃないか、なんてうらやましい……」
説明を聞いたギーシュが感嘆の声を漏らす、ついでにシルフィードの胸に視線が釘付けになっている。
「ギーシュ……見るとこ間違ってるわよ……。でも本当、すごいじゃない、風韻竜っていったらもう絶滅したって伝えられてるわよ」
「周りに知れたら騒ぎになる、私たちだけの秘密」
「うーん……確かにすごいけど……正直、彼に比べるとちょっとインパクトにかけるよね」
ギーシュがそう言うと、全員がうんうんと頷く、人間だと思っていたら魔人だった、というインパクトを越えるものはそうそうあるものではない。
唯一事情を知らないモンモランシーは「え? なんのこと?」と疑問の表情を浮かべていたが
「知らないほうがいい、知ったらここにいる全員の命の保証がない」との一言に、追及をあきらめることにした。
「それで? 何かわかったのか?」
ようやくシルフィードを引きはがしたバージルが戻ってきたキュルケに尋ねる、
「えぇ、やっぱり惚れ薬だったそうよ、モンモランシーが白状したわ」
「そうか……」
それだけ言うとズンズンとモンモランシーに向かって怒りの歩調で近づく、
そして右手で襟首を掴むとグイと上へと持ち上げた。
「貴様が原因か……」
「うっ……ぐぐっ……」
立つ地面を失ったモンモランシーが苦しそうに足をジタバタと動かす、
――チキッという鯉口が切られる音が響く
「ままままままってくれ! 彼女を殺さないでくれ! この通りだよ!」
「バージル! 気持ちはわかるけど殺しちゃダメ! モンモランシーがいないと解除薬は作れないわ!」
さっきまでモンモランシーを殺そうとしていたルイズが必死にバージルを止める。
「そうよ、作ったのが彼女なら解除薬を作れるのも彼女しかいないわ!」
「私にも責任がある」
全員に止められチッっと舌打ちをするとモンモランシーを壁へ投げつけ閻魔刀を抜き放ちつきつける
「解除薬をだせ、今すぐだ!」
「げほっげほっ……むっ……無理よ……作ってないもの……」
「では今すぐ作れ! さもなくば……!」
「無理よ! 調合出来ないわ!」
「出来ないだと?」
部屋の空気が一瞬で変わった、
――バチッ! バチバチッ! とバージルの体に紫電が走る、
ディティクトマジックを使わずともわかる、それほどまでに凄まじい魔力が彼を中心に渦巻いているのだ
――ビシィッ! と窓ガラスにヒビが入る。これと同じ状況を前に体験したことのあるギーシュ達は戦慄する
魔人化の兆候だ、このままだとこの場にいる全員が殺される。おそらくこの部屋の中には何も残らないだろう、
壁や床、果ては天井にまで至る真っ赤な模様以外は…。
「ざ……材料がないのよ! 材料自体は街に行けばあるだろうけど……! もうお金がないの……!」
モンモランシーが半泣きになりながら説明をする、このままでは本当に首を飛ばされかねない。
バージルはその言葉を聞くとモンモランシーに尋ねる。
「……街で買えるもので作れるのか?」
「え……えぇ、秘薬屋に行けば買えると思うわ、ただ…」
「ただ……何だ」
言い淀むモンモランシーにバージルは続けるように促す
「貴重な秘薬も必要だから結構お金もかかるの、それに入荷してなかったらそれまでよ……」
「金ならある、材料を言え、俺が行ってくる、貴様はその間に解除薬の調合を進めろ」
モンモランシーに金を渡して買いに行かせることも考えたが……、こんな状況だが金を渡すほど彼女を信用していない。
そのため自分で直接、確実に調達しに行く方法をバージルは採用した。
「わ、わかったわ、じゃあ今ある材料をそろえておくから、後で必要な物をメモにして渡すわ。
で、でもさすがに今日中は無理よ! 色々調べなきゃいけないし! だから明日! 明日の朝には必ず調べ終えるから!」
「………………一日この状況でいろというのか…?」
バージルは呻く様に呟くとシルフィードへ視線を送る、当の彼女はバージルの憂鬱などどこ吹く風、
明日、街に出かけるという話を聞き嬉しそうに小躍りしている。
「し、仕方ないじゃない! 調合は慎重に行わないと失敗しちゃうのよ!」
「……わかった、だが明日には調合に取りかかってもらう」
バージルはどこかあきらめたような表情になると、閻魔刀を納刀した。
「お買いもの! 明日はおにいさまとデートなのね! シルフィうれしい! きゅいきゅい!」
「なっ……! バージル! 私も行くわ! デ、デートなんて絶対許さないんだから!」
デートという言葉に反応したのかルイズが慌てて同行を申し出る。
「当然だ、お前にも来てもらう、案内は必要だ」
バージルはそう言いながら、指で眉間を抑えつつ呟く
「しかし、もう少しで俺とタバサが飲む羽目になっていたのか……」
あの時カップのお茶を飲まずに捨てておいて本当に良かった、
もしあの時にメイドが来ず、お互い飲み交わしていたら、間違いなくR指定展開だったろう。
犠牲者がシルフィードのみで済んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
そう考えながらタバサを見る、彼女も同じ考えに至っていたのか、少々顔が赤くなっていた。
「そういえばタバサ、実家に帰るんだっけ?」
そんな中、ルイズが先ほどタバサが部屋で荷物をまとめていたことを思い出す、
その問いにタバサはコクリと頷いた。
「いつ出発するの?」
「明日」
タバサのその答えにルイズは思わずう~んと腕を組み考える。
シルフィードがこの状況ではバージルから引きはがすのは困難だ、
かといってバージルをタバサに付き合わせるワケにもいかない、それはなんかこう、嫌だ。
そんな風にルイズが考えていると、
「馬車が迎えに来る」
とタバサが付け加える、なるほど、それならば無理にシルフィードに乗って行く必要はないだろう
だが、シルフィードは彼女の使い魔だ、使い魔は主の身を守らなくてはならない。
万一何かあった時、そばにいなくては何かと彼女も困るだろう。
ルイズがどうしようかと再び頭を悩ませていると、キュルケがタバサに一つ提案をした。
「タバサ? あたしも付いて行っていいかしら? シルフィードがこの調子じゃ何かあったら困るでしょ?」
そんなタバサに何か感じるものがあるのかキュルケが同行を名乗り出る。
タバサはその申し出に少し考えると、コクリと頷いた。
「決まりね、大丈夫よ、学院に戻るころにはシルフィードも元に戻ってるわ」
キュルケがポンとタバサの肩を叩く、するとルイズも前にでてタバサに宣言する。
「タバサ、あなたの使い魔、シルフィードは必ず元に戻すから安心して、必ず! 絶対! この杖に誓うわ!」
「私も出来る限り協力する」
ルイズとタバサが力強く頷く、そして同時にシルフィードをキッと睨みつけた。
「あっと、そろそろ授業ね、……そういえば朝食取り損ねちゃったわね」
妙に張りつめた空気の中、キュルケが思い出したかのように口を開く、気がつけば朝食の時間はとっくに過ぎそろそろ始業時間だ。
「う~……とりあえず授業には出ないと……バージル! 絶対シルフィードに変なことしちゃダメだからね!?」
「……………」
もはや反論する気も失せたらしい、バージルは倒れこむようにソファに腰かけるとあとは腕を組み目をつむってしまった。
「返事は!?」
「……さっさと行け」
「うぅ~~~………」
ルイズが低く唸りながら渋々とキュルケ達とともに部屋を後にする、もはや止める者は誰もいない、
シルフィードはようやく二人っきりになれた事を確信し彼に襲い掛かる。
「もうっ! みんなして邪魔ばっかりして! でもようやく二人っきりなのね!」
「……………」
シルフィードがソファに座るバージル目がけ飛びかかったとたん、彼はスッと立ち上がる、
目標を失ったシルフィードは、そのまま派手にソファに突っ込んでしまった。
「あたたた…、もぅ…受け止めてくれたっていいのに!」
顔を強打しながらもシルフィードは顔を上げる、すると、部屋の中にはすでに誰もおらず、窓が風に揺られキィ…と音を立てていた。
「あれっ!? おにいさま! どこに行ったの!?」
シルフィードはすぐさま窓に駆け寄り身を乗り出すと外を見まわす、すると蒼い影が本塔の中に消えて行くのがチラリと見えた。
「きゅいきゅい! おいかけっこ! シルフィから逃げられるとお思い? 絶対捕まえるのね!」
そう言うや自身も窓から飛び降り、結構な高さがあるにもかかわらず華麗な着地を決め、すぐさま本塔へと向け走り出していく。
「おでれーた……相棒が逃げて行ったよ……」
その場に取り残されたデルフリンガーは、驚きのあまり呆然と呟いた。
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