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#navi(ゼロ=パペットショウ)
痛い。熱い。怖い。辛い。悲しい。酷い。
それは地獄のような責め苦だった。
少なくとも、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーにはそう思えたのだ。
気を抜くと目の前に異形がいる。怖い。
魔法の届くぎりぎりの射程からは、見たこともない形の銃を持った女性≠人形がいる。痛い。
目の前には、飛んでくる銃弾からキュルケ達を守ろうと、血塗れになりながらも身を盾にしているコルベールがいる。酷い。
自慢の髪や肌は、幾度となく掠った銃弾により傷だらけに。辛い。
気がつけば、五十人以上の人間≠人形が周囲を覆い尽くしている。
しかし、そんな恐怖よりもさらに熱く、キュルケを焦がしているものが存在した。
“それ”が存在している限り、キュルケは決して、屈しない。
ゼロ=パペット・ショウ
第五幕
エア・ストーム。エア・ハンマー。ウィンド・ブレイク。タバサの放つ様々な風が、人形達を吹き飛ばしてゆく。
しかしそれは、断じて攻撃として使用されたものではなかった。
人形は生物ではない。吹き飛ばされたところで痛みなど感じず、怯みもせず、ただ距離が離れるだけ。
竜巻に巻き込まれ大地に叩きつけられても、指先ひとつで動き出す。
切断系の魔法でも使わない限り、風では人形を倒せない。しかしそれでも、タバサは風の魔法を打ち続ける。 何故か。
微熱のキュルケが、彼女の前に立っているからだ。
そう、キュルケは自覚している。それは紛れもない事実の一つであったし、キュルケ自身が自らを鼓舞するための願望でもあった。
暴風に吹き飛ばされた人形に向かい放たれるフレイム・ボール。それは狙い通りに人形達を焼き尽くしてゆく。
タバサが人形を破壊する必要はない。タバサは防御を担当し、キュルケが攻撃を担当すればよい。
言葉一つ交わさずに顔を見合わせるだけで実行される連繋だった。
召喚の儀。自身は滞りなくサラマンダーを召喚した。ルイズが呼んだ老紳士もまた、気になる存在ではあった。
しかし、普段のキュルケならばこの場に残ろうとなどしなかっただろう。
“ここ”に残って、ルイズを心配する義理など、キュルケにはなかった“はず”だった。
ならば、なぜキュルケは此処に残ったのだろう。
「貴方達は実に素晴らしい」
ルイズを抑えつけている青年の人形が、口を開く。実に不快だ。
あの人形も、老紳士も、纏めて灰になるまで焼き尽くしたくなる衝動をキュルケは感じている。
「誰もが生を諦めず、誰もが必死に生きている。貴方も、貴女も、アナタも」
言葉と同時に飛んでくる銃弾。タバサの竜巻では逸らしきれず、また一つコルベールに銃創が増える。二十二。
「正直、あなた方は素晴らしい。誰もが自らの役割を、迷うことなく選択し続けている。まるで、一つの生命のように」
後方から襲い掛かる異形に、ファイヤーボール。命中。しかし、破壊できたのは胸部のみ。
命中する寸前に、空中でバラバラに解体され大部分を退避させられている。信じられない所行だった。
「安心してクだサい。子ノママ殺シは縞セン」
今度は上から振り下ろされる刃。コルベールの火炎で大部分が燃え落ちながらも、それはキュルケの髪を切り裂いてゆく。二十三。
「孔タ方モ、人形ニ、四テアゲ魔粧!!
(あなた方も人形にしてあげましょう!!)」
人形。人形。人形!!
そんなものに、そんなものに、このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーを!
親友であるタバサを!
宿敵であるあのルイズを!
そして目の前で血塗れになりながら自分達を守ってくれているあのコルベールを!!
命も心もなくした人形などに!!
それはやはり、“微熱”だった。
普段の彼女が感じ続けている微熱ではない。それは、目の前の老紳士に対する怒りという名の微熱だった。
擦過音。詠唱の途切れるタバサ。左肩には醜い弾痕。二十四。
そんな様を、ルイズが涙を流しながら見つめている。私のために泣くなんて、まるでヴァリエールらしくない、などと思いながらも、
彼女の涙もまた、キュルケに“微熱”を与えてゆく。
ああ、考えてみれば簡単だった。キュルケが此処に残った理由。妙にあの老紳士を警戒していたタバサとはまた別の理由。
それはやはり、ルイズのことが心配だったのだ。
どこか放っておけないルイズ。魔法が一切使えないことに絶望せず、ただひたすらに努力を重ね続けるルイズ。
恐らく、この学院で誰よりも貴族であろうと努力しているルイズ。
キュルケにとって、ライバルであるに相応しいとまで判断させた、ルイズ。
そんなルイズを、放っておけるわけがないじゃない。
キュルケは思い至る。タバサという親友を得た時、自分はどれほど嬉しかったか。
ならば、“あの”ルイズとも親友になりたいと思っても不思議などどこにもない。
苦悶の声。コルベールが人形の突きだした刃に軽い傷を負った声だった。二十五。
よく見ると、ルイズの首筋にも傷が付いている。二十六。
二十六。そう、二十六。今まで皆が傷つけられた二十六回。その回数を執拗に数えていたキュルケは誓う。
あの男は、二十六回焼き尽くす。
「フレェェイムッ!!」
それは、必殺の言葉だった。
コルベールが牽制し、タバサが防ぎ、キュルケが薙ぎ払う。
しかしそれは老紳士の前では儚い抵抗に過ぎなかった。コルベールの炎も、キュルケの火弾も、人形の壁の前に届かない。
老紳士には届かない。
そう、思わせることが策だった。
老紳士は気付いていない。戦闘が始まった一瞬。絶妙なタイミングで。風竜が火蜥蜴を乗せ大空へと舞い上がったことを。
長い時間をかけ老紳士の背後へと回り込んだことを。
キュルケの胸中を、熾火の様に“微熱”が焦がす。怒りという燃料をくべ、“微熱”は“灼熱”へと変化する。
友人を傷つけた老紳士を、キュルケは決して許さない。
位置が、絶妙だった。老紳士の立ち位置が。
老紳士の右前方には抑えつけられたルイズがいる。そして、老紳士の後方には。
堆くそびえ立つ、棺の塔があった。
シルフィードの先住魔法。歪に積み重なる棺の塔を崩す、裁きの風。
棺は今や、雪崩であり津波であった。老紳士にはもう、避けることすら叶わない。
なぜならば、キュルケの忠実なる使い魔が放った炎の壁が、逃げ場を無くすように老紳士を包み込んでいたからだった。
降り注ぐ棺は、老紳士を埋め尽くした。
彼の慟哭の言葉さえ、呑み込むかのように。
イザベラ。 それが、キュルケの耳に届いた老紳士の慟哭だった。
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