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「ZONE OF ZERO8」(2009/03/16 (月) 06:16:56) の最新版変更点
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シエスタから休暇を利用して実家へ帰ることを聞いたルイズは、同行を申し出た。
ここ最近のゴタゴタに良い感じに疲れ果てていたルイズは、心底骨休めをしたかった。
そこで、シエスタみたいな純朴な癒し系の少女を育むような村なら、
戦争だとか陰謀だとか裏切りだとか政略結婚だとか、
そんなしょっぱい浮世の闇とは無縁のひと時を送れると思ったのだ。
唐突な申し出にシエスタはしばし呆然としていたが、やがてやたら嬉しそうに頷いて、
ちょっと馴れ馴れし過ぎたかなー、とか考えていたルイズをホッとさせた。
街道に出て人気がなくなると、ルイズはシエスタを抱え、飛行体制をとった。
「あ、ああああの、ミス・ヴァリエール!?」
「ちょっとスピード出るけど、危険は無いから安心しなさい」
ルイズの飛行能力の慣性制御は完璧に近い。
中空で、何やら顔を真っ赤にして慌てているシエスタに一言告げると、
ルイズはバーニアを一気に噴射させ、加速した。
その後しばらくバーニアの噴射音をも上回る、メイドの悲鳴が街道に響き渡った。
例え飛竜を用いても数時間かかる道程を僅か数分で踏破し、
シエスタの故郷であるタルブの村に到着すると、村の広場で目を回すシエスタを降ろした。
「ご、ごめんなさい。ちょっとやりすぎちゃったかしら」
「い、いいええ、だ、大丈夫れす……。そ、それより、ありがとうございます。
こんなに、速く、辿り着けるなんて、思ってもみませんでひた……!」
ひよこみたいによたよたして、回らない舌で必死にお礼を言おうとするシエスタに、
ルイズは何かこう、癒しとはまた似て非なる、言い知れない衝動のようなものを覚え、
何故だか無性に抱きしめたり撫で回したりしたくなったが、周囲に村人がいたので自重した。
適当に挨拶して回りながらシエスタの生家に着くと、家族総出で迎えられた。
シエスタを含め丁度十人になる一家は、騒がしくも優しく暖かく、微笑ましいものだった。
ルイズの実家の人々も、根は優しい人ばかりなのだが、約一名を除いて
根っこの部分以外は全然優しくない人達ばかりでもあった為、やっぱり癒された。
ルイズの素性を知り、しきりに恐縮するシエスタの父と母に、
シエスタにはいつも世話になっている、自分も静かな所で骨休めしたかった、とルイズが
癒され、満たされた表情で告げると、何か知らんがあっという間に一家に受け入れられた。
それからしばらく、シエスタとともにタルブの村に滞在したルイズは、思わぬ収穫を得た。
以前シエスタから聞いていた、竜の羽衣を見せてもらった折、
それがADAの世界の、古代の飛行機械である事が判明したのだ。
しかし、例えADAにとっては古代の遺物であっても、
コルベール師にとっては貴重な資料となるだろう。
シエスタの父と交渉し、対価を支払って竜の羽衣を入手すると、圧縮空間に保管した。
その後ルイズは、本場のタルブ村の郷土料理をご馳走になったり、
夕焼けの紅を映す幻想的で郷愁的な草原をシエスタと共に眺めたりと、
学園に入学して以来最高の休暇を満喫し、疲れた精神を完全に復調させたのであった。
その翌朝、ルイズはシエスタを残し、学院へと帰還した。
手土産に竜の羽衣……ADAが言う所のゼロ戦をコルベール師に手渡し、
ADAの解説を受けながら狂喜乱舞する師を横目に、ルイズは溜息をつく。
ADAとルイズは一心同体。今日は徹夜する事になりそうだ。
そして数日後――
「いい加減、本当にいい加減、ちょっとは空気読む事覚えなさいよコンチクショウ……!!」
予定調和といえば予定調和ではあった。
式典の日、万が一を考え、タルブの村付近で待機していたルイズの強化された視線の先で、
アルビオンの大使を迎えにきたトリステインの艦隊は次々と炎を吹き、大地に墜落してゆく。
事ここに及んで名目など大した意味は持たない。
ただ紙より薄い建前が破り捨てられただけ。
要するに――戦争である。
ルイズにとって重要なのは、艦隊の真下がタルブの村であると言う事。
蹂躙される。
静かな村が。
美しい草原が。
優しい人々が。
――――シエスタが蹂躙される。
あの優しい笑顔のメイドが喪われると思い至った時、ルイズの思考は沸騰し、脳裏で何かが弾けた。
ブレードを展開し、ルーンを一際眩く輝かせ、バーニアを吹かし上昇する。
「――潰すわ。連中には、あの村の何一つとして奪わせはしない」
『了解。後方からトリステイン軍の接近を確認。
敵の地上部隊は彼らに任せましょう。全てを相手にしていたら魔力が保ちません』
それは意外な早さであった。
計算では、状況を聞いた瞬間に即断でもしなければ出来ない進軍スピードだ。
誰が統率しているのかは知らないが、ありがたい。これは好都合だ。
「――なら、まずは竜騎士隊ね。艦隊に関しては後で考えましょう」
『了解。敵の位置と民間人の位置をマップ上に表示します』
「ええ、村人の助けは聞き逃さないようにして……!」
『了解』
『……何だか久しぶりに呼ばれたと思ったら、ものすげぇハードな展開になってるなぁ。
と言うかそろそろ俺の扱いに対して何か思うところとか出てきたりしないか娘っこども
ってーはい聞いてないねわかってたさどうせ俺なんて俺なんて……』
バーニアを全開まで吹かし、決意を胸に万感の思いを込め、ルイズは戦闘空域へ突入した。
音を超える速度で飛来するルイズを察知した数騎が、炎のブレスを浴びせ掛ける。
数瞬前からそれを予測していたルイズは直前で回避。
髪を焦がす臭いと感覚を置き去りにしながらホーミングレーザーを撃ち放つ。
幾条もの熱線が竜騎士隊に降り注ぎ、前衛の数騎を撃ち抜き地上に叩き落す。
隊列の乱れた瞬間を逃さず突撃。
体勢を立て直すのにてこずっている数騎を、通り抜け様にブレードで薙ぎ払う。
その間に何とか体勢を立て直した一騎が、しゃにむに突撃を仕掛けて来ようとするのを
察知したルイズは、ゲイザーを投げ放つ。
非致死性の光の針に呆気なく動きを封じられ、墜落しようとする火竜の頭を、
ルイズは無造作に引っ掴み、真横にかざした。
そこに動揺から立ち直った数騎が火炎のブレスを浴びせ掛ける。
即席の盾と化した火竜は、攻撃を難なく防ぎきることに成功した。
しかし、耐熱性に優れた火竜ならばともかく、騎乗している騎士はたまった物ではない。
肉の焼ける臭いと、燃えながら落下する騎士の断末魔に顔を顰めながらも、
ルイズはバーニア制御で思いっきり遠心力をつけながら火竜をブン回し、
ブレスを放ったうちの一騎に向け、投げ揮った。
弾丸の勢いで投擲された火竜は狙い違わず標的に衝突する。
炎に巻かれていた火竜は、標的の火竜のガス袋に引火し、派手に爆発を引き起こした。
更に、残りの数騎も爆発に巻き込まれ、或いは誘爆を引き起こし、墜落していった。
マップ上の敵を示す光点が、残り一つに減らされるまで、その間、実に十秒。
撃つ。斬る。掴む。揮う。
重力と慣性をあざ笑うかのような動きで、ルイズは空を縦横無尽に駆け巡る。
かつて最強のOFジェフティが所有していた機動力。
スケールこそ違えど、異界の少女はここに再現して見せた。
そして――
振り向き様に放ったバーストショットが、最後に残った敵を、奇襲(のつもりなのだろう)の
エア・スピアーごと飲み込んで爆砕し、最後の光点を消滅させた。
敵騎兵はどうやら命中の瞬間に竜から飛び降り、直撃を免れたようだが、
爆発にはしっかり巻き込まれていたため、良くても重傷だろう。
「何かどこかで見た事あった相手のような気もしたけど――まあいいわ。
それより、残るは艦隊だけね。魔力も余裕があるとは言い難いし……どうする、ADA?」
『エクスプロージョンの使用を提案』
「エクスプロージョン? 初めて聞く武装ね」
『私の所有する武装ではありません。始祖の祈祷書の解呪を試みた結果、
現在一つ目の解読に成功しています』
「え――」
『あれは虚無の系統を記した魔法書です』
「そ、そんな!虚無の系統なんてただの伝説――」
『いいえ、貴女の魔力とこの魔法の構成パターンの適合率は99.89パーセント。
貴女ならまず間違いなく扱えます……いえ、貴女の系統こそが虚無だったのです』
「――」
一目置かれ始めたとはいえ、魔法の使用に関しては相変わらず
見込みゼロの自分が実は伝説の系統の使い手――?
唐突な宣告にルイズは錯乱しそうになった。
しなかったのは単に、考える前にするべき事があったからだろう。
「――わかったわ。どうすればいい?」
『詠唱を代行します。残存の魔力を全て消費する為、恐らく使用後は気絶すると思われます。
安全地帯を探してください。――エクスプロージョン、詠唱を開始します』
「……へ?」
『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ』
「ちょ、ちょっ、待って、ADA!?」
この高度で気絶すれば命は無い。慌ててルイズは周囲を見渡す。
地上部隊は一部こちらを畏怖の感情を込め見つめてくる者もいるが、概ね乱戦の真っ最中だ。
ただ、竜騎士隊を全滅させた為、若干敵側の士気が下がっているように見える。
『オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 』
タルブの村も多少焼けてしまった箇所はあるが、概ね無事だ。
草原も殆ど損傷しておらず、すぐにまたあの素晴らしい景観を取り戻すだろう。
『ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシュラ 』
何よりタルブの村の人間を示す光点が一つも減らなかった事が嬉しく、誇らしい。
彼らは現在、村から南の森に避難しているらしく――
「――森!?」
強化された視界の先、森のふもとで、祈るような目で
こちらをじっと見つめるシエスタの姿があった。
『ジュラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル』
バーニアを全開まで吹かす。
加速から二秒かからずに、シエスタの傍まで降り立つ。
「え……み、ミス・ヴァリエール!?」
「ごめんシエスタ!後は、よろしく」
『――撃てます』
既に標的の設定も完了していた。ロックオンの先は敵の旗艦。
それはルイズの思考と完全に一致していた。
地上部隊に被害は出さず、最小の犠牲でこの戦争を終わらせる方法。
「貴女、戦闘用って言ってた割には手際がいいわね。……これで終わりにするわよ!」
そして彼女たちは終焉の言葉を紡いだ。
「『エクスプロージョン』!!」
――ミッション終了。
建造物残存率: 97%
民間人生存率:100%
総合評価:S
『民間人死者ゼロ。村の損害も極めて軽微です。お見事でした』
「貴女のサポートがあったからよ。それにしても……よかった」
――新たな魔法『エクスプロージョン』を取得しました。
#navi(ZONE OF ZERO)
シエスタから休暇を利用して実家へ帰ることを聞いたルイズは、同行を申し出た。
ここ最近のゴタゴタに良い感じに疲れ果てていたルイズは、心底骨休めをしたかった。
そこで、シエスタみたいな純朴な癒し系の少女を育むような村なら、
戦争だとか陰謀だとか裏切りだとか政略結婚だとか、
そんなしょっぱい浮世の闇とは無縁のひと時を送れると思ったのだ。
唐突な申し出にシエスタはしばし呆然としていたが、やがてやたら嬉しそうに頷いて、
ちょっと馴れ馴れし過ぎたかなー、とか考えていたルイズをホッとさせた。
街道に出て人気がなくなると、ルイズはシエスタを抱え、飛行体制をとった。
「あ、ああああの、ミス・ヴァリエール!?」
「ちょっとスピード出るけど、危険は無いから安心しなさい」
ルイズの飛行能力の慣性制御は完璧に近い。
中空で、何やら顔を真っ赤にして慌てているシエスタに一言告げると、
ルイズはバーニアを一気に噴射させ、加速した。
その後しばらくバーニアの噴射音をも上回る、メイドの悲鳴が街道に響き渡った。
例え飛竜を用いても数時間かかる道程を僅か数分で踏破し、
シエスタの故郷であるタルブの村に到着すると、村の広場で目を回すシエスタを降ろした。
「ご、ごめんなさい。ちょっとやりすぎちゃったかしら」
「い、いいええ、だ、大丈夫れす……。そ、それより、ありがとうございます。
こんなに、速く、辿り着けるなんて、思ってもみませんでひた……!」
ひよこみたいによたよたして、回らない舌で必死にお礼を言おうとするシエスタに、
ルイズは何かこう、癒しとはまた似て非なる、言い知れない衝動のようなものを覚え、
何故だか無性に抱きしめたり撫で回したりしたくなったが、周囲に村人がいたので自重した。
適当に挨拶して回りながらシエスタの生家に着くと、家族総出で迎えられた。
シエスタを含め丁度十人になる一家は、騒がしくも優しく暖かく、微笑ましいものだった。
ルイズの実家の人々も、根は優しい人ばかりなのだが、約一名を除いて
根っこの部分以外は全然優しくない人達ばかりでもあった為、やっぱり癒された。
ルイズの素性を知り、しきりに恐縮するシエスタの父と母に、
シエスタにはいつも世話になっている、自分も静かな所で骨休めしたかった、とルイズが
癒され、満たされた表情で告げると、何か知らんがあっという間に一家に受け入れられた。
それからしばらく、シエスタとともにタルブの村に滞在したルイズは、思わぬ収穫を得た。
以前シエスタから聞いていた、竜の羽衣を見せてもらった折、
それがADAの世界の、古代の飛行機械である事が判明したのだ。
しかし、例えADAにとっては古代の遺物であっても、
コルベール師にとっては貴重な資料となるだろう。
シエスタの父と交渉し、対価を支払って竜の羽衣を入手すると、圧縮空間に保管した。
その後ルイズは、本場のタルブ村の郷土料理をご馳走になったり、
夕焼けの紅を映す幻想的で郷愁的な草原をシエスタと共に眺めたりと、
学園に入学して以来最高の休暇を満喫し、疲れた精神を完全に復調させたのであった。
その翌朝、ルイズはシエスタを残し、学院へと帰還した。
手土産に竜の羽衣……ADAが言う所のゼロ戦をコルベール師に手渡し、
ADAの解説を受けながら狂喜乱舞する師を横目に、ルイズは溜息をつく。
ADAとルイズは一心同体。今日は徹夜する事になりそうだ。
そして数日後――
「いい加減、本当にいい加減、ちょっとは空気読む事覚えなさいよコンチクショウ……!!」
予定調和といえば予定調和ではあった。
式典の日、万が一を考え、タルブの村付近で待機していたルイズの強化された視線の先で、
アルビオンの大使を迎えにきたトリステインの艦隊は次々と炎を吹き、大地に墜落してゆく。
事ここに及んで名目など大した意味は持たない。
ただ紙より薄い建前が破り捨てられただけ。
要するに――戦争である。
ルイズにとって重要なのは、艦隊の真下がタルブの村であると言う事。
蹂躙される。
静かな村が。
美しい草原が。
優しい人々が。
――――シエスタが蹂躙される。
あの優しい笑顔のメイドが喪われると思い至った時、ルイズの思考は沸騰し、脳裏で何かが弾けた。
ブレードを展開し、ルーンを一際眩く輝かせ、バーニアを吹かし上昇する。
「――潰すわ。連中には、あの村の何一つとして奪わせはしない」
『了解。後方からトリステイン軍の接近を確認。
敵の地上部隊は彼らに任せましょう。全てを相手にしていたら魔力が保ちません』
それは意外な早さであった。
計算では、状況を聞いた瞬間に即断でもしなければ出来ない進軍スピードだ。
誰が統率しているのかは知らないが、ありがたい。これは好都合だ。
「――なら、まずは竜騎士隊ね。艦隊に関しては後で考えましょう」
『了解。敵の位置と民間人の位置をマップ上に表示します』
「ええ、村人の助けは聞き逃さないようにして……!」
『了解』
『……何だか久しぶりに呼ばれたと思ったら、ものすげぇハードな展開になってるなぁ。
と言うかそろそろ俺の扱いに対して何か思うところとか出てきたりしないか娘っこども
ってーはい聞いてないねわかってたさどうせ俺なんて俺なんて……』
バーニアを全開まで吹かし、決意を胸に万感の思いを込め、ルイズは戦闘空域へ突入した。
音を超える速度で飛来するルイズを察知した数騎が、炎のブレスを浴びせ掛ける。
数瞬前からそれを予測していたルイズは直前で回避。
髪を焦がす臭いと感覚を置き去りにしながらホーミングレーザーを撃ち放つ。
幾条もの熱線が竜騎士隊に降り注ぎ、前衛の数騎を撃ち抜き地上に叩き落す。
隊列の乱れた瞬間を逃さず突撃。
体勢を立て直すのにてこずっている数騎を、通り抜け様にブレードで薙ぎ払う。
その間に何とか体勢を立て直した一騎が、しゃにむに突撃を仕掛けて来ようとするのを
察知したルイズは、ゲイザーを投げ放つ。
非致死性の光の針に呆気なく動きを封じられ、墜落しようとする火竜の頭を、
ルイズは無造作に引っ掴み、真横にかざした。
そこに動揺から立ち直った数騎が火炎のブレスを浴びせ掛ける。
即席の盾と化した火竜は、攻撃を難なく防ぎきることに成功した。
しかし、耐熱性に優れた火竜ならばともかく、騎乗している騎士はたまった物ではない。
肉の焼ける臭いと、燃えながら落下する騎士の断末魔に顔を顰めながらも、
ルイズはバーニア制御で思いっきり遠心力をつけながら火竜をブン回し、
ブレスを放ったうちの一騎に向け、投げ揮った。
弾丸の勢いで投擲された火竜は狙い違わず標的に衝突する。
炎に巻かれていた火竜は、標的の火竜のガス袋に引火し、派手に爆発を引き起こした。
更に、残りの数騎も爆発に巻き込まれ、或いは誘爆を引き起こし、墜落していった。
マップ上の敵を示す光点が、残り一つに減らされるまで、その間、実に十秒。
撃つ。斬る。掴む。揮う。
重力と慣性をあざ笑うかのような動きで、ルイズは空を縦横無尽に駆け巡る。
かつて最強のOFジェフティが所有していた機動力。
スケールこそ違えど、異界の少女はここに再現して見せた。
そして――
振り向き様に放ったバーストショットが、最後に残った敵を、奇襲(のつもりなのだろう)の
エア・スピアーごと飲み込んで爆砕し、最後の光点を消滅させた。
敵騎兵はどうやら命中の瞬間に竜から飛び降り、直撃を免れたようだが、
爆発にはしっかり巻き込まれていたため、良くても重傷だろう。
「何かどこかで見た事あった相手のような気もしたけど――まあいいわ。
それより、残るは艦隊だけね。魔力も余裕があるとは言い難いし……どうする、ADA?」
『エクスプロージョンの使用を提案』
「エクスプロージョン? 初めて聞く武装ね」
『私の所有する武装ではありません。始祖の祈祷書の解呪を試みた結果、
現在一つ目の解読に成功しています』
「え――」
『あれは虚無の系統を記した魔法書です』
「そ、そんな!虚無の系統なんてただの伝説――」
『いいえ、貴女の魔力とこの魔法の構成パターンの適合率は99.89パーセント。
貴女ならまず間違いなく扱えます……いえ、貴女の系統こそが虚無だったのです』
「――」
一目置かれ始めたとはいえ、魔法の使用に関しては相変わらず
見込みゼロの自分が実は伝説の系統の使い手――?
唐突な宣告にルイズは錯乱しそうになった。
しなかったのは単に、考える前にするべき事があったからだろう。
「――わかったわ。どうすればいい?」
『詠唱を代行します。残存の魔力を全て消費する為、恐らく使用後は気絶すると思われます。
安全地帯を探してください。――エクスプロージョン、詠唱を開始します』
「……へ?」
『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ』
「ちょ、ちょっ、待って、ADA!?」
この高度で気絶すれば命は無い。慌ててルイズは周囲を見渡す。
地上部隊は一部こちらを畏怖の感情を込め見つめてくる者もいるが、概ね乱戦の真っ最中だ。
ただ、竜騎士隊を全滅させた為、若干敵側の士気が下がっているように見える。
『オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 』
タルブの村も多少焼けてしまった箇所はあるが、概ね無事だ。
草原も殆ど損傷しておらず、すぐにまたあの素晴らしい景観を取り戻すだろう。
『ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシュラ 』
何よりタルブの村の人間を示す光点が一つも減らなかった事が嬉しく、誇らしい。
彼らは現在、村から南の森に避難しているらしく――
「――森!?」
強化された視界の先、森のふもとで、祈るような目で
こちらをじっと見つめるシエスタの姿があった。
『ジュラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル』
バーニアを全開まで吹かす。
加速から二秒かからずに、シエスタの傍まで降り立つ。
「え……み、ミス・ヴァリエール!?」
「ごめんシエスタ!後は、よろしく」
『――撃てます』
既に標的の設定も完了していた。ロックオンの先は敵の旗艦。
それはルイズの思考と完全に一致していた。
地上部隊に被害は出さず、最小の犠牲でこの戦争を終わらせる方法。
「貴女、戦闘用って言ってた割には手際がいいわね。……これで終わりにするわよ!」
そして彼女たちは終焉の言葉を紡いだ。
「『エクスプロージョン』!!」
――ミッション終了。
建造物残存率: 97%
民間人生存率:100%
総合評価:S
『民間人死者ゼロ。村の損害も極めて軽微です。お見事でした』
「貴女のサポートがあったからよ。それにしても……よかった」
――新たな魔法『エクスプロージョン』を取得しました。
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