「鋼の使い魔-31」(2008/11/11 (火) 22:53:07) の最新版変更点
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#navi(鋼の使い魔)
ジャン・コルベールがこのトリステイン魔法学院に勤め、教職の傍らさまざまな研究を始めて、もう20年になる。
彼は本来、優秀な火のトライアングルメイジであるが、研究の課題は必ずしもただ火の属性だけに限った話ではない。
…例えば、今からさる10年前。
彼は土メイジが土壌を改良する時に作る錬金肥料『白色土』から酸の一種を抽出することに成功した。
次に、この酸と水メイジが薬品製造の過程で廃棄する別の酸を一定の濃度で混合し、繊維を細かく砕いた綿を投下した後、丹念に攪拌、洗浄する。
すると極めて燃焼しやすい物質が残る事を発見した。
コルベールはこの燃焼しやすい物質を『綿精』と名付けたものの、発見当初この物質の有益な利用法を思いつくことが出来ず、長い間帳面に記録したまま放置していた。
変化が起きたのはそれから数年後、今より4年ほど前である。
その頃コルベールは鳥や蝶を採集して標本を作っていた。足りない研究資金を調達する為にしばしば、標本を作って好事家を相手に売っていたのである。
その日も近くの森で捕まえた蝶を大事に持ち帰った時のこと。
自室の研究塔では当時の三年生であった男子生徒ラテーケ・ド・カールが待っていた。
「おや、ミスタ・カール。どうかしましたか」
「ミスタ・コルベールに課題だったレポートを見ていただきたくてずっと待っていたんです」
ラテーケ少年は言うと紙束をコルベールへずいっと手渡した。
「おおこれは。それでは随分と待たせてしまったみたいですね」
そのままコルベールは研究塔の中にラテーケを招き入れレポートを読む間待っているように頼んだ。
ラテーケのレポートは火の魔法を使う時の火炎形成別の威力などの実験を纏めた、割とありふれたものだったが、丁寧な筆致で書かれており、
教師として満足する出来だった。
「ミスタ・カール。貴方のレポートはとても素晴らしいですよ。何より読みやすい」
「ありがとうございます」
コルベールの声色からよい成績をもらえることが感じられてラテーケは嬉しく思ったのだが、鼻腔をくすぐる臭気に顔が固くなってしまう。
「しかしミスタ・コルベール…なんと言いますか…」
「なんですかな?」
実は二人がこうしている間も、コルベールが標本用に捕まえておいた鳥達がせわしなく鳴き続け、さらに研究塔内は標本を作る時に使う薬剤の匂いが取れず、
慣れないものには非常に辛い。
「標本をよくお作りになるようで…」
濁すようにラテーケは言ったが、鼻が慣れてしまったコルベールは気付かない。
「ええ。まぁ、副業のようなものです」
コルベールは籠の中で鳴き続ける鳥に黄色い粉末を振り掛けた。鳥は掛けられた粉に気付かず暫く鳴き続けたが、徐々に大人しくなりついに首を縮めて
こっくりこっくりと居眠りを始めた。次に彼は脇の棚から木枠に入った数羽の蝶の標本を取り出してラテーケ少年に見せる。
「最近ではこれが良い出来ですな。南東側の湿地で採れたものです」
木枠の中に鋲で留められた蝶は、ロマリア綿のような美しい羽をピンと伸ばして張り付いていた。
「綺麗なものですね…」
「残念ながらもう暫くで手離してしまうのですがね」
「そうなんですか。…それにしても不思議ですね。どうして鳥や蝶は空を飛べるんでしょう?魔法を使っているようには見えないですし」
ふむ、とコルベールは標本に見入っている生徒の疑問に、俄な興味を抱いた。
「そうですなァ……希少な種類の蝶や鳥の中には、先住魔法を使っている、などということを言う書物もありますぞ」
「でも、こうやって捕まえられる鳥が魔法で飛んでいるようにも見えないですよ」
ラテーケ少年が指差す籠の鳥は首を羽に埋めて奇妙な鼾を立てて眠っている。
「魔法じゃなくて、この翼に何か秘密があったりするんでしょうかね…」
「翼に…ですか……」
「よく分からないですけどね。…じゃ、僕はこれで失礼します」
ラテーケ少年を見送ったコルベールはその数日後、その何気ないやり取りから一つのテーマを見出して走り始めたのである。
『触れ合う歴史の糸二つ』
タルブで一泊して翌日。ギュスターヴ達はそれぞれが見繕ったタルブのワインを片手にシルフィードで学院へ帰還した。
女子生徒寮前の空き地にシルフィードが降下する。時刻は正午を少し過ぎた頃、である。
…本来ならもう少し早い帰還が出来たのであるが、朝一でギュスターヴがタルブの鍛冶屋を尋ねて居なくなっていたために合流と出発が遅れたのである。
「それじゃあ、僕は部屋に戻るよ」
手を振ってギーシュは場を離れて男子寮へと帰っていった。
…翌日、彼はケティとモンモランシーによって黄色い太陽を拝む事になるのだが、それはまた別の話である。
ルイズの部屋に戻ったギュスターヴは、FBを部屋に置かれた自分の荷物の中に加えた。
部屋にはルイズが居なかった。ただ、机の周りには開かれたままの本や、書きかけの便箋が何枚も広げられたままになっている。
「お嬢ちゃんいねーな」
「授業か、昼食だろう…。俺もマルトーに顔出しておかないとな」
ギュスターヴも腹が減っていたのだ。とりあえず荷物を置いたまま、部屋を後にした。
学院の地下厨房で相変わらずの繁忙を切り盛りしていたマルトーだが、ギュスターヴの顔を見ると相変わらず人懐っこい笑い顔を見せて駆け寄ってくる。
「おーギュス!お嬢ちゃん達の引率は終わったのかよ」
「引率はないだろう?第一俺は教師じゃない。…シエスタを借りてしまって悪かったな」
「なーに、そろそろ休みが取れる頃だったしな。気にすんな」
「…そうか。土産と言っては何だが、タルブのワインを持ってきたんだ。飲んでくれ」
「おお!気が効くじゃねぇか」
「飲みすぎるなよ」
男二人の笑いあう声が厨房に響く。
「っとと、そうだ忘れるところだったぜ。ギュス、お前さんに手紙が届いてるぞ」
肉の切れ端と野菜屑をパンに挟んだだけの代物――とはいっても、肉はトロトロになっていてかなり美味い――に手を伸ばしていたギュスターヴへ、マルトーが
青い封筒を寄越した。
受け取ったギュスターヴは裏面を見る。黒い蝋に三つ葉の印が押されていた。
実はこれ、『百貨店』を任せているジェシカからの手紙である。街から少し離れている学院では世間の情報が届きにくい。
そこでギュスターヴはジェシカに『王都で何か変わった情報があったらすぐに手紙で教えてほしい』と頼んでおいたのである。
因みに青い封筒は『緊急ではない情報』、赤い封筒が『緊急の情報』という具合。
さて、食事を取りながらギュスターヴは開封すると、中から三枚の便箋が出てくる。
中身は概ね、以下の様な内容であった。
『最近、出入りの業者の話だと、トリスタニアの西の平野に奇妙な集団が野営しているらしい。その集団は並みの馬車など比べ物にならないくらい大きな馬に、
これまたとても大きな馬車を繋げて平野に留まっているのだという。野営している集団から何人かが王都までやってきて大口の買い物をしていくのを他の商人からの
証言で聞いた。詳しく聞くと、その集団は毛皮飾りと銀色のバッチを付けていて、しかも武装もしているらしい。ただ、王都の外から行き来する人から聞くに、
野盗の類ではないと思う。宮仕えの人にも聞いてみたが、王宮はこの件に関して何も関知していないみたい』
「都のはずれの武装集団キャンプか…」
はぐはぐと飯を食べながら手紙を読んでいく。
他にも細々とした報告が併せてあった。店を畳んだ商人、新しく入った商人について。備品を管理する為に小さな倉庫を借りた件について。等々。
少し気にはなったが、アルビオンの件で王政府はかなり敏感になっている筈。王都の近くで武装集団が屯しているのを放っておくとすれば、
武装集団が政府の手の者であるか、でなければよっぽど政府が無能か。
さすがに後者はないだろうとギュスターヴは判断した。
(…あのマザリーニ殿がいて都の直近に敵対国の潜伏部隊が居たら気付かないはずもなかろう)
平民用食堂で腹を満たしたギュスターヴは腹ごなしがてら、ルイズの捜索をするために廊下を歩いていた。
食堂には居ない様子だったので、どこかの教室か広場かにいるんじゃないかと辺りをつける。
と、懐に仕舞っていた『あるもの』の感触を確認していた時。
ドォン!と、明らかな爆発音が何処からか聞こえてきた。
「?!」
音にギュスターヴは一瞬身を硬くして、音のした方向を見る。
「ルイズがまた何かした…のかな」
「かもしれねーな」
音の方向へ歩き出し、途中で使用人の何人かに聞きながらその場所にたどり着いた。
爆発があったのはコルベール研究塔の前だった。研究塔前では溶鉱炉を囲っていた天幕が取り払われ、少し離れた別の位置にまた新たな天幕が作られていた。
さらにその天幕の手前には、木枠と鉄棒が組み合わされた建物の出来損ないのような奇妙な構築物が配されている。
「なんだろーね?これはよ」
「さぁな…でもルイズがやったわけじゃなさそうだな」
しげしげと謎の構築物を眺めていると、天幕からコルベールが出てきてこちらを見て近寄ってきた。
「これはミスタ・ギュス。私の発明を見に来てくれたのですかな」
「発明?」
あまり聞き慣れない単語にギュスターヴが首を傾げる。
それを半ば無視したコルベールは一度天幕に戻ると、太さが15サント、長さが1メイルほどの金属の筒を持ってきた。
「これぞコルベール特製『飛び立つ蛇君』ですぞ!」
「飛び立つ蛇?」
ギュスターヴの反応をまた無視して、コルベールは木枠と鉄棒の構築物に『飛び立つ蛇君』を天上に向かって据え付けた。
「この『飛び立つ蛇君』は、貴方の教えてくれた鋼材法による鉄管に、調合率を変えた火薬と私が以前発見した『綿精』という物質を封入しています」
「はぁ」
据え付けた『飛び立つ蛇君』の具合を見てから、コルベールは木枠の影に移動する。
「ミスタ。そこに立つと大変危険ですぞ」
「は?」
「いいですからこちらへ」
わけもわからずギュスターヴはコルベールと同じ、木枠と鉄棒で作られた影に入り込んだ。
「此処にあるハンマーを叩けば、『飛び立つ蛇君』の底部にある火打石を打ち、蛇君の中に封入されている火薬が爆発、蛇君は天上へ向かって飛び立ってゆくのです」
「ほぉ」
「では発射10秒前…9…8…7…」
一人テンションの高いコルベールとは別に、ギュスターヴは据えられた『飛び立つ蛇君』を興味深そうに見ていた。
「4…3…2…1…発射!」
言うと同時にコルベールがハンマーを打ち下ろす。ハンマーは下にある鉄のバーを打ち、それが梃子の原理によって発射台に置かれた
『飛び立つ蛇君』の底にある火打石を押し込んだ。
次の瞬間。
ドォォン!
ギュスターヴの目の前を橙色の光と爆音が駆け抜ける。
目を瞑ってそれをやり過ごしたギュスターヴが目を空けた時、目の前には『飛び立つ蛇君』は既になかった。
「ご覧あれミスタ!空を飛ぶ『飛び立つ蛇君』を!」
指差すコルベールの先には、煙と火を噴きながら空中を飛んでいる『飛び立つ蛇君』があった。
「本日二回目の実験は現在成功中ですな」
「二回目?」
「今回の実験は試験的なものでして…一回目は無事飛ぶ事が出来るかと見る実験、二回目はどの程度の距離を飛ぶ事が出来るか、ですぞ」
見ると発射台の脇からロープが『飛び立つ蛇君』に括りつけられているらしく、先が空に向かって伸びている。
「ふむ…垂直発射で約1500メイル…、目標値を下回ってしまった」
コルベールが手の紙束へ羽ペンを舐めて何かを書き加えている。
「コルベール師…。この実験はどういった目的でやっているので?」
興奮気味のコルベールはギュスターヴの質問へ胸を張って答えた。
「これは空を飛ぶための壮大な計画の一部分なのです」
天幕の中には大きな机、その脇の縦1メイル横3メイルはあるボードには大きな紙に三方向から書かれた設計図らしき図形が記されていた。
それは樽の様に板木を箍で締め合わせた半円錐形の物体に、銀杏の葉のような形の翼がくっついている。
「『飛び立つ蛇君』に使った原理を使い、人を空に飛ばす。それが私の研究です。すでに設計は完了しておりまして、
あとは推進方法と強度重量の問題を解決するのみなのです」
机とボードの反対側にはボードに書かれている半円錐形の物体が既に作りかけて置かれていた。
「…こちらの魔法は空を飛ぶものがあると聞いてますが」
「勿論です。しかし私の目的は魔法を用いずに空を飛ぶ事なのですよ、ミスタ」
にっ、とコルベールが笑う。
「これが成功すれば、人はまさしく鳥のように空を飛べるでしょう。それはただ魔法を道具のように使って空を行くのとは違う…」
「鳥のように…」
ギュスターヴの脳裏を幼き日、母親に叱咤された言葉を過ぎる。。
「私でも飛べますかね」
「…飛べますとも。…もっとも、完成にはまだ少し掛かるでしょうが…」
天幕の外からぎぃぎぃと木の軋む音がする。自作の溶鉱炉が風車で稼動しているのだ。
「…ところで、コルベール師はルイズを見かけませんでしたでしょうか?」
「ミス・ヴァリエールでしたら、恐らく図書館ではないかと」
ギュスターヴはコルベールに礼し、その場を後にした。
…その後も一日、コルベール研究塔前では数度の爆発音が続き、オスマンから注意を貰う破目になる。
図書館棟の奥深く。ルイズは詩や散文を集めた棚が集まる一角に足を運んでいた。
そこは普段多くの学生が利用する階から、さらに一度階段で降りたところにあり、ランプで部屋は明るくされてはいるものの、あまり人が入らないせいか、
部屋全体が埃っぽい気がした。
ルイズは未だ祝詞に一文もそれらしいものが出来あがらないため、参考になりそうなものを探してここまでやってきたのであった。
「……寒いわね。ここ…」
人気もなく、石壁に囲まれた部屋は外気を逃れてひんやりとしている。
カンテラを片手にルイズは本棚の一つに止まり、適当に本を一冊抜き出して広げてみる。
「んー…掠れててよく読めないわね……『ツヴァイク美人教授傑作選・鼠の王様は見た、わたしが町長ですの真実』……なんなんだろ、これ…」
どうも見てはいけないものを見てしまったような気がしたルイズは静かに本を棚に戻した。
また少し歩く。足元の埃が僅かに波打ってルイズの靴に絡み付いては離れていく。
「これはどうかしら…ぇーと『極大三部作・1-怪傑ロビン対アルカイザー、アビスリーグの逆襲』……ぁーもう!こういうのじゃなくてもっとこう、
自然な詩を集めたようなものはないのかしら」
結局、摘み食いするように古い本棚から何冊か本を抜いてみたものの、劣化して読めなかったり、読めてもしょうもない笑い話しか修めてなかったりで、
埃に塗れて図書館を後にしたルイズだった。
とぼとぼと自分の部屋に帰ってくると、ギュスターヴの持ち物を置いてある場所に、見慣れない二つの袋が置かれていた。
よく見ると部屋全体も出かける前より何となく、片付いている気がする。
「ギュスターヴの奴、帰ってたんだ…」
埃塗れのマントを取り替え、置かれた袋をしげしげと見る。
「何入ってるのかしら…み、みみみ、みっちゃおうかなぁ~…べ、べつに、使い魔の持ち物は、主人の持ち物ってことで、も、問題はない、はずよ、うん、きっとそう!」
傍から見るとかなり挙動不審なルイズは恐る恐る、だがとてもわくわくしながら一つの袋を開けた。
中には二つに折れた大きな剣が入っていた。
「なにこれ、ガラクタ…?」
期待が裏切られて冷めた声が出る。ためしに取り出してみると半分に折れているはずなのに片手で持ち上がらないほど重い。
落胆を手元に残して袋へと戻した。
続けてもう一つの袋を開けてみる。中には、漆喰で作ったような真っ白くて大きな剣が入っていた。
「また剣…ギュスターヴってどれだけ剣が好きなのよ」
無造作に剣を左手で抜き取ってみる。剣は見た目ほど重くなく、むしろ軽かった。
「ん…この剣、どっかで見たことがあるような…ないような…」
剣は金属ではなく、石か何かで出来ているらしい。刃の部分は甘く、手で触れても問題がなかった。
「……まぁ、いいわ。ギュスターヴったら、ご主人様を置いて遊びに行ったと思ったら、こんながらくたばっかり持って帰ってくるなんて、後で文句言ってやるわ」
勝手に中身を見て文句を言えるものかは疑問が残るものの、ぶつぶつ言いながらルイズは白い石剣を袋に戻そうとして、
床に落ちた袋を拾う為に剣を左手から『水のルビー』を填めた右手に持ち替える。
「熱っ!?」
その瞬間右手が焼け石を素手で拾ったような熱さを感じ、剣を落としてしまった。
「な、何?…今の」
おっかなびっくり剣を拾い上げる。今度はなんともなく、剣を袋に入れてもとの位置に戻した。
「び、びっくりした……なんだったのかしら…」
荷物を荒らした事の後ろめたい気持ちが合わさってかなりどきどきしてくる。
「ふ…ふんだ!ご、ご主人様を置いて遊びに行ってるような、中年使い魔は一体何処に行ってるのかしら?か、帰ってきたらお仕置きね!
ま、ままま、まずはあのおしゃべりな剣を取り上げてやるわ!そ、それに寝床に使わせていたマットも没収よ!
あとそれから、鞭でやたらめったら高い頭を百叩きにして、それから、それから…」
傍目から見て『いや、絶対に無理だろ』という危険な妄想を始めたルイズは、静かに扉を開けて部屋に戻ってきたギュスターヴにまったく気付かなかった。
「ふふふ、これで諦めていたメイジとしての威厳が手に入るわ…」
「何が手に入るんだ?」
「はぁう!?」
まったく無防備だったルイズは背後からの声に素っ頓狂な声で飛び上がる。振り向いてギュスターヴの顔色が平素の通りであるのを見て聞かれなかった事を安堵した。
「な、何よ。帰ってきたのなら黙って入らず声くらいかけなさい」
「いや、悪い。…で、手に入るってなんだ?」
「な、ななな、なんでもないわよ!い、今まで何処に行ってたのよ」
「帰ってきても部屋に居なかったから歩き回ってたんだよ。土産を渡そうと思って」
「お土産?」
言ってギュスターヴが懐から取り出したのは、磨き上げられた漆黒のペンダントだった。
宝石を使ったものではないようだが、精巧なカットがされていて、手渡されると見た目よりも重たい、と感じた。
ルイズはしげしげと渡されたペンダントを眺める。
「気に入ってくれるといいんだが…」
「…ま、まぁいいわ。使い魔の、主人への忠誠の証と思ってもらってあげる」
理屈を捏ねつつも、ルイズは嬉しそうに首に巻く。
「…でも、これ何で出来てるの?宝石じゃ、ないみたいだけど…」
「鋼で出来ている。…只の鋼じゃないぞ?よく鍛えないと細工物にはできないんだ」
「ふぅん…」
鋼で作ったアクセサリーなど聞いたことが無いルイズは珍しそうにペンダントを見ていた。
タルブを離れる前、村の鍛冶屋を尋ね自身の『鋼のお守り』を鍛え直したものだ。僅かな時間しかなかったがギュスターヴ熟練の鍛冶技術によって、それは宝石のような耀きさえ持っていた。
「…本当は魔除けの一種なんだけどな」
「そう……」
陽に翳すと彫刻された文様がきらきらと反射する。
「ギュスターヴ」
「うん…?」
振り向いたルイズは自分より背の高いギュスターヴを見上げた。
「………ありがと」
「喜んでもらえたようで何より」
「ち、違うもん。お、贈り物をされた時は、しゃ、礼の一言くらいないと、いけないだけだもん」
「そうか」
「ほ、本当よ?!べ、別に私は、う、嬉しくなんかないんだから!」
ころころ顔色を変えてまくし立てるルイズを笑いながらいなすギュスターヴだった。
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