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#navi(”舵輪(ヘルム)”の使い魔)
#setpagename( 第1話 『そしてトリステインに流星が降った』)
《その日 私の人生は終わりを告げた――》
「ねぇ、ルイズ。私が召喚したこのコ、とっても可愛いわよ」
モンモランシーが、ルイズに手の平に乗せた蛙を見せびらかす。
「きゃ、そんなもの、見せないでくれる!『洪水』のモンモランシー」
ルイズは軽く悲鳴を上げて、嫌がりながら言う。
「誰が『洪水』ですって!わたしは『香水』のモンモランシーよ!」
「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いのよ」
ルイズは同じ歳の学友に軽口を叩く。
《直前まで―― そんな気配も なかったのだ》
「ルイズ。まだあなた、召喚が出来ていないの?」
キュルケがこれみよがしに大きな火トカゲの頭を撫でながら、ルイズを冷やかす。
「あんたなんかに負けない位、立派な使い魔を召喚してやるんだから、待ってなさい!」
ルイズは宿敵に負けじと、声を張って言い放ち、鼻をフンッと鳴らす。
《貴族の子弟が集うこのトリステイン魔法学院で―― どうにかやってきたのだ》
「ミス・ヴァリエール、あなたで召喚の儀式は最後です。心して使い魔を呼び出すのですよ」
監督役の教師であるコルベールは、穏やかにそれでいて厳しく、ルイズに召喚を行う様に促す。
《なのに 春の使い魔召喚の儀式―― その日》
ルイズは何度目かの召喚呪文を唱え、杖を振るう。
「宇宙の果ての何処にいる私の下僕よ。神聖で美しく強力な使い魔よ。私は心より求め訴えるわ。我が導きに答えなさい!」
《多くを望んでなどいなかったというのに》
杖を振るった時、空の一点が瞬き、そこから何かが物凄いスピードで落ちて来たのを、その場にいた面々で気付く者は少なかった。
ルイズの目の前に、これまでを超える大きな音と土煙が広がる。
その中心に、子供の様な人影とその後ろに控える大きな影が見えた。
土煙が晴れると、そこにはコップを持った年端のいかない『鎖が繋がった首輪を付けた』少女が立っていた。
《突然に その少女は やってきたのだ》
「お水を…ください…」
「な、に?」
ルイズは、自分が召喚したものと、それの発した言葉に惑乱する。
・・
「ぼくは――”力”、あなたが望む全てを手に入れられる”力”。だから、ぼくとひきかえに水を…いっぱい…」
その少女は、真っ赤な大きな布で体を包み、右肩でその布の端を結び、腰や脚に沢山のベルトを巻き付けた、身窄しい格好をしていた。
背や体型からして、12歳位だろう。茶を帯びた金髪のショートヘアで、顔には、手入れされていない太めの眉毛と、明るい緑色の大きな瞳が目立つ。
「なん、ですっ…て?」
《そして私は混沌と とまどいの中で…》
《その日コップ一杯の水と その中に映る”全て”とを交換したのだ》
「うわっ、なんだ?あの娘?」「ルイズが召喚したの?」
周りで見ている生徒達から次々に疑問の声が上がる。
「”主(マスター)”が…傷ついています…。お願いです…水を」
少女が手に持ったコップを差し出しながら、心細い声を発した。
「その娘の後ろ!何かいる」
誰かがそう叫ぶ。
布を覆われた大きなものが呻き声を上げ、躯を引き擦りながら少女に近寄っている。
生徒達は驚懼の声を出して、ルイズが召喚したものから離れていく。
それは布を被った、躯が甲殻で形作られた、首の長いドラゴンだった。
布の下から見える脚や複眼、光沢を持つ青黒色の甲殻が昆虫を思わせる。
「きゃあぁ!怪物っ!」「生きてる?ドラゴンだぁ」
離れた生徒達から悲鳴が上がり、最も近くにいたルイズも後退る。
「待ってください。お願いっ…”主(マスター)”は…、もう命の火が消えかけています!じきに…死んでしまう!最後の願いなんです。ぼくに何かしてあげられる最後の機会なの。」
少女は叫び、瞳に涙を溜めて嘆願する。
(なぜ…その時、そんな気になったのかは…自分でもよくわからないけれど、その娘の瞳と、息苦しそうなそのドラゴンの姿をみていると…)
「……水?ね」
ルイズの言葉に少女は深く首肯する。
そして、ルイズは少女からコップを受け取った。
「ねぇ、モンモランシー。水を作ってくれるかしら?」
ルイズは生徒達の方を向き、知り合いの水メイジに水の初歩的な魔法を使う様に頼む。
「お願い、貴女が頼りなの。『香水』のモンモランシー」
「判ったわ、ルイズ。水メイジの魔法を見てなさい」
モンモランシーは、他人にそうそう頼る事のないルイズの願いに答え、杖を振るう。
宙空に水の塊が生じ、コップの中に注がれていく。
それをルイズは少女に渡そうとした瞬間、横からルイズ達の手を噛み付かん勢いで、息苦しそうにしていたドラゴンがコップを咥える。
ルイズは手を噛み付かれそうになり、恐怖から尻餅を突いてしまう。
ドラゴンはその長い首を高々とのけ反らせ、喉を鳴らして水を飲み、空のコップを口で投げ捨てる。
「うまい…水であった」
ドラゴンは躯が軋む音を立てながら、湧き出る泉の様にこつこつと喋り出す。
ルイズ達はそのドラゴンが喋る事に驚いていた。
魔法成功確率0%のルイズが、伝説的な幻獣の韻竜を召喚したからだ。
その場に居たもの全てが、韻竜の弱々しい声を聴き漏らさんと、耳を傾ける。
「かつて、千の星をめぐり、千億の命を殺めた…。その名を轟かせ、銀河そのものをも手にせんとしたわれが、最後に手にせしものが…、たった一杯の水だったとはな…」
しかし、その韻竜の口から漏れ出る言葉は、狂人の譫言より理解しがたい話であった。
ルイズを含め耳を傾けていた多くの生徒達は、『ルイズ(自分)』が何処の芝居小屋から『連れて来(召喚し)』た、物乞い役の少女と張りぼてのドラゴンだと思った。
「だが…それは今われが望みし、全てのもの…。裏切りと謀略の人生にあって…、手に入れた唯一の真実」
『龍』は、少女を突き飛ばし、腰が抜けたルイズにその少女を寄越す。
「受け取れ!全てには全てをもって応えよう。”黄金の下僕”ミュズ…、わが手に残る最高傑作!銀河最強を誇る”黄金の船”ネクシート号の”舵輪(ヘルム)”にして、”黄金の地図”ネクストシートそのもの!」
抱き留めたルイズと受け止められたミュズは、『龍』の言葉と、見知らぬ人と抱き合っている状態に、お互い困惑の表情を浮かべている。
「宇宙の…全ての神秘と真実を手に入れる。そのチャンスと力をおまえは今…、手に入れた。おまえのような奴にやっても無駄だろうがな! ハハハ! くだらない! 意味がない! おもしろい…」
『龍』の躯は、ジュウウジュウウと音を立て、濁った泥の様な煙を吹かし、甲殻の隙間からドロドロとした液体を垂らしている。
「だが…、われを裏切った者どもにだけは…くれてやらぬ…のだ。ハ ハ ハ あとは…好きにしろ…」
『龍』の硬そうな甲殻がボロボロに崩れ、ドロドロとした液体が滝の様に流れ出す。
「きゃあっ、とっ とける」
ルイズは『龍』の様子に驚き、悲鳴を上げる。
「ファ…”一枚目の地図(ファーストシート)”に気をつけろっ」
『龍』は不可解な言葉を残して事切れ、グッシャアァと音を立て、その躯が自重から地面に叩き付けられた。
コルベールや幾人かの生徒がルイズに近寄ってくる。
「ルイズ!」
「あ…とけちゃった、完全に。ううう」
ルイズは緊張の糸が解け、今更になって恐ろしくなりブルブルと震える。
「ミス・ヴァリエール、ケガはありませんか?」
コルベールに名を呼ばれ、ルイズは混乱した頭が現実に引き戻されて、ミュズをぎゅっと抱き締めている事に気付く。
ミュズは眼を潤ませ、ぼんやりと虚空を見つめていた。
「きっと、ヒトはこれを悲しいというのでしょうね…」
ミュズはルイズの視線を感じ、まるで自分が『ヒト』では無い様な口振りで呟き、手の甲で目尻を拭う。
「こんなヒトでも、ぼくの親だったから。でも、ぼくは…生まれたてだから、まだよくわからない…や……」
「生まれたて え?」
ミュズは愛想の良い顔をして、不思議な事を言いながら、ゆっくりと立ち上がる。
ミュズのその不思議な言葉から、既に立っていたルイズの頭に疑問符が浮かぶ。
「ありがとう、願いをきいてくれて。これでぼくはあなたのものになりました。さあ!どこへなりとも」
「ちょちょちょっと待って!まだ話がさっぱりみえないわ」
ルイズは、上目使いで緩く握った右手を胸に当てた異国の礼儀の様な振る舞いをするミュズの、隷従発言に当惑する。
ミュズと呼ばれる少女、ドロドロに溶けた張りぼてのドラゴン、その一人と一頭の不可解な言葉。
何が事実で何が偽りか、ルイズは冷静にこの事態を考えれば考えるほど、納得のいく話が思い浮かばない。
「きゃー。何を言っているの、あの娘」「そーだ!ずるいぞ、ルイズ!」
「ちゃんと説明し「そんなのゆるさないぞ」「ひとりじめはいかん!みんなでわけるのだ」」
「うるさい!外野は黙ってなさいっ!」
周りの生徒達、特に男子の一部が騒ぎ立てるので、ルイズは腹を立て怒鳴り声を上げる。
ミュズに待つように告げると、ルイズは状況を静観しているコルベールの方に詰め寄って行く。
「ミスタ・コルベール!」
「なんだね。ミス・ヴァリエール」
「あの!もう一回召喚させてください!」
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。何故なら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるにかかわらず、彼女を使い魔にするしかない」
「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!それに私が呼び出したのは、溶けてしまったあのドラゴンかも知れません!」
ルイズは自分が偽物だと思っている事を棚に上げ、『ドラゴンを召喚した』と主張する。
「何を言っているのかね、ミス・ヴァリエール。彼女は『ぼくはあなたのものになりました。』と言ったではありませんか?これこそ、彼女が使い魔として召喚に応じた証拠ですぞ」
「そんな……」
ルイズは、コルベールの強引な理屈に押し込まれ、がっくりと肩を落とした。
「さて。では、儀式を続けなさい」
「えー、彼女と?」
「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は儀式にどれだけ時間をかけたと思ってるのだね?いいから早く契約したまえ」
そうだそうだ、と外野から野次が飛ぶ。
ルイズはミュズの顔を困ったように見つめ、諦めた様に目をつむる。
手に持った小さな杖をミュズの目の前で振った。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴンこの者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
朗々と呪文を唱え、すっと、杖をミュズの額に置いた。
そして、ゆっくりと顔を近付けていく。
「何をするんですか?」
「いいからじっとしてなさい」
戸惑うミュズに怒り声で、ルイズは叱り付け様に言った。
ルイズはミュズの頭を左手でがっと掴み、唇を合わせる。
「終わりました」
ルイズが唇を離すと、恥ずかしそうに言い放つ。
「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできましたね」
コルベールが嬉しそうに言った。
「相手が只の平民だから、『契約』できたんだよ」「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんてできないって」
何人かの生徒が笑いながら言っている。
ミュズは、ルイズが野次っていた生徒達を睨みつけ怒鳴っている光景を、未知の現象が起きたかの様に珍しそうに見つめていた。
その時、不意にミュズは自らの頭を抱える様にうずくまる。
「あ、ああ…。『データ』が流入する…!『プログラム』が書き加えられる…」
ミュズは途切れ途切れに弱々しい声を漏らすと、ずるりと地面に横たわった。
その様子を見ていたコルベールは慌ててミュズに近寄る。
ルイズもコルベールに続くと、倒れているミュズに心配そうな顔をする。
「ふむ……。『使い魔のルーン』が刻まれた痛みで、気を失ってしまった様ですね」
片膝を付いたコルベールはミュズの口元に手を近付け、呼吸をしている事を確認した。
「ふむ……。珍しいルーンだな」
コルベールは、気を失っているミュズの左手の甲をしげしげと確かめる。
そうすると、素早く立ち上がり踵を返し、生徒達に号令を掛ける。
「さて。じゃあ、皆さんは教室に戻りますよ」
多くの生徒達は宙に浮かび、トリステイン魔法学院に向かって飛んでいく。
「ミス・ヴァリエール。この娘は私が医務室に運んでおきますから、貴女も教室に戻りなさい」
コルベールは杖を振るい、ミュズを宙に浮かべると、ルイズ次の授業に参加する様に促す。
やむを得ず、ルイズはコルベールの言葉に頷くと、とぼとぼとトリステイン魔法学院へ戻って行った。
おまけ
リプリム … ルイズ
エイブ … 才人
スソクホウ … シエスタ
ゲン … ギーシュ
リム(一人二役) … ケティ
星見 … モンモランシー
リプミラ … キュルケ
シアン … タバサ
息子たち … ギーシュの悪友
ゲン「なんだこりゃ?」
エイブ「ああ、新しい寸劇のキャスティングですよ。地球のファンタジーを題材にしてみたんです」
リプミラ「私の衣裳の露出、少ないな」
リム「主役はいいんだけど、ややこしい役ね」
星見「私の役、出番少なくない?」
ゲン「俺はこんな浮気者じゃない!」
(全員の意見を無視して)エイブ「問題がありまして、話が長くなりそうなんですよ」
ゲン「それは『指輪物語』より長いのか?」
エイブ「小説が文庫で15冊、漫画が単行本で5巻、アニメで3期38話」
ゲン「ミョーに具体的だな…」
ちゃんちゃん
#navi(”舵輪(ヘルム)”の使い魔)
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