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「使い魔は変態執事-1」(2007/07/28 (土) 00:37:41) の最新版変更点
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抜けるような青空、壮大な城、鮮やかな緑の庭、なんともすがすがしいこの場所で、若いざわめきが跳ねる
そんな中ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはどうしていたかと言うと、困り果てていた。
同時に、恐ろしく恥をかいてもいた。理由は簡単、ちょっとした意地から大風呂敷を広げてしまった春の使い魔召喚の結果がこれだからだ。
一応一発で召喚はできた。あくまで『召喚』はできた。
しかし同時にいつもの爆発も起こしてしまったし、…こちらの方が重要だが、召喚された対象もイレギュラー中のイレギュラーだった。
何しろまず、人間である。しかも、平民である。
その平民は、タキシードを着て、銀髪をオールバックにしていた。そして今、いや、召喚直後から目の前で背中を地面につけて、白目のままキリモミ回転している。
最初は爆煙を巻き込んで小型の渦巻きを作っていたほどの高速回転もそろそろ終了らしく、今はのろのろと回転しているだけだった。
「ゼロのルイズ!平民なんて召喚してどうすんだよ?」
「黙りなさい!ちょっと間違えただけでしょ!?」
「間違えなかったことあるのかよ?」
「召喚できないからってそこらへんの平民捕まえてくるんじゃねーよ!」
ルイズは頭痛のしてくるこめかみを押さえ、周りの嘲笑を受けながら髪の薄い中年へ振り返った。
「ミスタコルベール!もう一度やらせてください!」
だが、コルベールは首を横に振る。
「駄目だ、春の使い魔召喚は大切な儀式なのだから、早く契約なさい」
「でも、平民じゃないですか!」
「決まりだ。例外は認められない、早くしなさい」
ルイズはむぅ・・と黙り込んだ。薄い髪の毛が、こんなときは何故か逆らえないような強制力を持つ。髪の薄さは年季の濃さのようなものをまとうのだ。
覚悟を決めた。一歩踏み出し、コントラクト・サーヴァントの呪文を
「はて、ここはどこ、あなたは誰、そして私は誰ですかな?」
唱える前に平民は起き上がった。
「は?アンタ記憶喪失なの?」
「いえ、全然」
「じゃあなんで私は誰とか言うのよ!」
しかし平民ははっはっはと笑うだけで、ルイズの問いに答えない。周囲もゼロのルイズが使い魔にからかわれてるぜと笑い出す。
ルイズは怒りに肩を震わせ、
「アンタ、どこの平民よ!貴族に対する礼儀がなってないんじゃないの!?」
勢い任せに怒鳴りつけた。
「ふっ、あなたは誰にモノを言っているのか解っているのですかな?」
不敵に顔を歪めるその銀髪オールバック男に、ルイズはたじろいだ。周りもしんと静まり返る。
それは、相当な身分なんじゃないかと疑念を持ち、すぼまった硬い空気。とんでもない無礼を働いてしまったのではないかと言う、恐れ。
「あ…あんた、何なの?」
「私は…そう」
その、一人で若い貴族たちを圧倒した銀髪オールバックの男がパチリと指を鳴らすと、彼の背後の地面が爆発した。どかーんと、ぼかーんと
そして腰を落として天を指差し指差し、声を高らかに張り上げる
「マギー家執事見習い、キース・ロイアルッ!」
執事見習いに尽くす礼儀はないと、周囲の生徒の攻撃魔法が一斉にキースに群がった
結局、ルイズは寝ている(気絶している)執事見習いにキスをして契約した。その間も他生徒からの嘲笑は絶えなかったが、もはや気にしない。
そして今、コルベールは執事見習いのルーンを確認し、
「珍しいルーンだなぁ」
などとスケッチしている。確かに全く見たことのないルーンで、勉強家であるルイズにも見覚えが無かった。やはり飛び切りのイレギュラーなのだろう。
何しろ、まず人間だ。そして言動が意味不明だ。行動も謎だ。
更にさっき、常人であれば半分死んだような状態になっているはずの量の魔法を受けたというのに、気絶しているだけで外傷は見られない。
ルイズの頭痛は強まる一方だった。呼んだのがただの執事見習いならまだしも、変態的な執事見習いだ。もうイヤだ。家族に顔向けできない。
そして、頭痛の原因がにょっきりと起き上がった。
「さて、ここはどこ、あなたは誰、私はキース・ロイヤルですかな?」
ルイズはこめかみを指で押さえながら後のキースへ振り返る。
「ここはハルケギニアのトリステインの魔法学院の中庭、私はヴァリエール家三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、で、あなたはキース・ロイヤルで合ってるんじゃないの?」
もはややけっぱちだ。
「で、結局あんたはどこの平民なのよ」
「キヒエルサマ大陸、アーバンラマ商業家、マギー家の執事見習い、キース・ロイヤルですが。」
「どこよそれ」
全く聞いた事が無い。むしろこの変態執事にマトモな返答を期待した私が馬鹿だったわ、と、ルイズは肩を落とす。
「まあ、異世界というところでしょうな。さて、私はボニー様のランチを用意しなくてはなりませんので、これにて」
そういうと執事はくるりと振り向いて駆け出した。かなり速い。馬の全速力と大差ないのではなかろうか。
「ちょ、ちょっと!あんた、召喚されたのに、どこに行けば帰れるのか解ってるんでしょうね!?」
土煙を巻き上げて疾駆するキースははっはっはと笑い、
「大丈夫ですぞ!大抵異世界とかに呼ばれたときは…とうっ!」
ぱりん!
急にキースは二階の窓へと飛び上がり、ガラスをタックルで突き破った。澄んだ音色を奏でながら学院の窓ガラスが割れる。
そして割れた窓から首だけをニュッと突き出し、
「異世界に通じる場所は大抵、ガラスか鏡と相場が決まっておるのです!では片っ端かられっつらごー!でございます」
まるで、魔法学院の壁に波縫いでもするかのようにガラスを割って中に飛び込み、割って外へ出る執事
マシンガンの掃射を受けたかのように端から割れてゆく窓
「や、やめなさいよ馬鹿!」
暴れているのはルイズの使い魔だ。責任は自分にある。しかし執事はまたもやはっはっはと笑って言うことを聞かない。
そんなとき、青髪の少女タバサが、指を指して笑う学生の群れから一歩前へ出て、杖を掲げた。
同時に、暴走していた変態が凄まじいまでの速度で吹っ飛んで中庭へ叩きつけられた。着弾点から土煙が立ち上る。
風の攻撃魔法『エアハンマー』だ。そしてタバサはぽつりと、消えそうな声で呟いた
「捕まえるならいま」
「痛いではありませんか青魔術師どの」
「!?」
真後からの声にタバサはびくりと向き直る。そこには、学生達からの唖然とした視線を受けている無傷の銀髪オールバック。
今が戦闘ならば自分は死んでいる。北花壇騎士として裏の仕事を何度もこなしているタバサだが、今のは全く気配が読めなかった。
むきになってもう一度『エアハンマー』を放つ。しかし、キースはそれを体を反らすだけで避けた。
さらにもう一度、相手を地面から打ち上げるようにエアハンマー。しかしキースはくるりと左に身を回して避ける。
また、エアハンマー。今度は左右から挟みこむように高さを変えて。しかしキースは一歩前に踏み出しながら上体を後に倒し、上手く隙間へ体をねじ込む。
つららやら風の刃やらを連発するが、全てを避けられる。おかしかった。何かがおかしかった。
基本的に魔法は避けるものではない。防御魔法で防いだり、攻撃魔法で相殺させるものなのだ。それをあの執事は全て避けている。
「何故っ!」
「青魔術師どのはやはり青いですな。」
今度は含みのある笑み
「そう殺気を放って狙っていては、来る場所を予測することは容易ですぞ。ほれ」
そう言いながら、キースは避ける。軽やかに、舞うように。
その言葉に、タバサは方向性を変えた。相手を中心に竜巻を起こす。
「むっ?」
そして相手を暴風の中に囲い、その内部に向かって氷の槍をランダムに、大量に飛ばす。
それはさながら日の光を乱反射するオブジェのようだった。
『ウィンディアイシクル』の応用だ。本来は竜巻の中から外へ大量のつららを吐き出すのだが、それをすべて内側に向かわせた。
今思いついた応用法だが、相手単体には恐らく最高の応用技となるだろう。
他の生徒達は、二人を唖然として見ていた。彼らは呆けるしかなかった、タバサの魔法の腕に、何より、それを全て避け切るゼロのルイズの使い魔に。
そして、光と風のオブジェが消え去ったときには、そこにはつららが生えた地面と
「む?」
誰も居なかった。生徒達はざわめき、辺りを見回す。そして、間もなくキースの姿を見つけた
「はっはっは、やはりそう思いますかなヴェルダンテどの!」
「きゅー!」
そいつは庭の端の深い穴の傍らで、ギーシュの使い魔の大きなもぐらと笑顔で語り合っていた。
もぐらもろとも皆の攻撃魔法がキースを吹き飛ばした。今度はルイズの失敗魔法も含まれていた。」
何となくルイズは、日常が変わりそうな気がしていた。冒険ものでも悲劇でもない、ドタバタギャグコメディに。
…その具現が今、目の前に居る。
彼がしているのは洗濯だ。もしも水の上に浮かせた衣類にストンピングを繰り出すことを洗濯と言うのなら、の話ではあるが。
それにしても、この使い魔は明らかに異常だ。時は遡る…
***使い魔は変態執事 第2話~侵食される日常~***
全員の攻撃魔法を叩き込まれたキースは、何故か黒コゲで凍り付いていた。そしてタバサが心持ち満足そうな顔で胸を張っている。
なおこれは比喩ではない。文字通り、まるで氷の彫像であるかのように黒コゲの体に霜をまとい、何故か両手を腰に当てて仁王立ちの体勢で凍っている。
一瞬脳裏を「仮面ライダー」という文字列がよぎったが、ルイズは気にしないことにした。
「みんな、そろそろ教室に戻るぞ」
さて、この使い魔を運ぶのは少し無理そうである。少女の細腕でこんな大の男を運べるわけが無いので当然である。
放置はしたくないが、教室に光を乱反射する黒い人型オブジェを置くのもちょっと気がひける。
そこで考えること数秒、やはりここはご主人様なんだから、と、
「タバサ、ちょっとコレを運ぶのを手伝ってくれない?」
タバサに頼んだ。ご主人様としてすることが頼むこと?と一瞬疑問に思ったが、仕方が無い。悔しいことに自分は魔法が使えないのだから。
「…」
タバサは無言でOKを出すと、レビテーションではなく風で教室まで氷の彫像を吹き飛ばす。途中でふとっちょの後頭部にぶつかって墜落していたが、きっと問題なかろう。
なにかいつもより扱いが荒い感じがするが、さっきのことをまだ根に持っているのだろうか。
まあ扱いの差はどうあれ、無事に教室に運べたことには違いなかった。壁が凹んでいるが幻覚だろう。そうだ、絶対そうだ。
そんなこんなで授業も夕食も終わり、再びタバサの手を借りて自室にキースと共に戻ったルイズは、いい加減に待ちくたびれていた。
大分表面が柔らかくなって解凍されてきた感はあるものの、まだまだ中身は凍っているようで、触った感じもまだ冷たくて中が固い。
と言うか普通は死んでいそうなものだが、ルイズは半ば直感的に、こいつなら生きているだろうと確信していた。
…むしろだんだん腹が立ってきた。なぜ主人の私がこんな使い魔なんかに待たされなくてはならないのだろう。
とりあえず早く解凍するために、メイドにアツアツの紅茶を持ってこさせ、それをキースの半開きの口から流し込んでみる。
これくらいすればすぐに解凍されるだろう、そう思って本を読み始める。そして徐々に没頭していき、そして
「一番乗りぃぃぃぃぃぃぃ!」
「うるさい!黙りなさい!」
奇声を上げつつ使い魔が覚醒する。
「ああ、大変ですぞ頭桃色魔術士どの!世界鼻毛にストパー委員会の魔手はすぐそこまで迫っておるのです!至急愛の天パ戦士を50人集めねば!」
「近所迷惑だから静かにしなさい!目を覚ましなさい!落ち着きなさい!」
そういう自分も最大声量で怒鳴っているのはお約束である。
「むぅ…しかし頭桃色魔術士どの、考えてみると鼻毛にストパーがかかっても意外と問題がない気がしてきたのですが」
「知らないわよ!あと変な呼び方はやめなさい!私にはルイズという名前があるの!」
「わかりました頭桃色ルイズどの」
「だから私が色ボケの馬鹿みたいだからその冠詞はやめなさい!」
キースは、あまりの声量で肩と桃色のブロンド髪を上下させるルイズの肩を白い手袋をつけた手でぽん、と叩き
「大声の出しすぎは体に悪いですぞルイズどの」
「誰のせいよっ!」
話が通じない。とりあえずまともな呼び方になったからよしとしよう。
力なくルイズは使い魔を従えるための説得に入った。
「それよりも、あなたは私の使い魔になったの。だから自覚を持ちなさい」
「はいはーい、せんせー、しつもんです!」
キースが手をびしりとキレイに伸ばしながら掲げ、甲高い怪しい声色で質問する。
「はいはいキースくん、なんですか~?」
受け答えるルイズも無論、適当である。眠気も手伝い、もはやマトモにやる気など存在しない。
「つかいまってなんなんでしゅかー!なにをすればいいんでしゅかー!」
「使い魔はねー、まずは主人の目となり耳となるのよー。通常は感覚をリンクさせてやるんだけどアンタ人間だしできないみたいねー」
「つまりスパイでしゅねー」
だんだんノリが固定されてきた。もはや自分は駄目なのかもしれない、とルイズは半分寝ながら考える。
「次にねー、秘薬の材料を持ってくるのー。あ、材料ってのは硫黄とかコケとかねー」
「つまりさつじんキノコきょうだいとかもってくればいいんでしゅねー」
「そーそー」
意味不明な単語が出てきたが、キース相手に言及する体力もないので適当に同意しておく。
「そしてねー、使い魔は主人の身の安全を守るんでしゅよ~」
「なにを変な赤子言葉で話しているのですかルイズどの?」
「…」
ぶちり
弛緩しきったルイズの神経が、伸びすぎで切れた。
「…あ・ん・た・が」
ルイズは傍らの杖を手に取り
「最初に始めたんでしょうがぁぁぁ!」
ありったけの魔力を込めて振り下ろした。そして毎度のごとく魔法は失敗し、キースは無色の爆発に吹き飛び、壁にめり込んだ。
「それで、他には何かあるのですか?」
にゅっとキースが復活する。もはや驚くことでもない。
「アンタの場合は人間だから、掃除洗濯その他雑用ってところかしらね?」
さっきのようにネジを緩めっぱなしにしていると面倒なことになるため、魔法を放ったついでに回転し始めた頭を維持する。
「…その使い魔の職務をすることで私に何のメリットがあるのでしょうか?」
そんなこと、決まっているではないか
「あんたのことを誰が養うと思ってるの?」
「一生ついて行きますルイズ様ぁ!」
ずざざとダイビング土下座
…変わり身が早すぎる。
「…確かあんた、執事見習いって言ったわよね?」
「ええ」
「じゃあ、やることは執事と大差ないし、できるわよね?」
「無論です」
そう言うとルイズはおもむろに服を脱ぎだし、ぽいとキースの前に投げた。しかし、なかなかこの使い魔は役立ちそうだ。丈夫だから盾にもなるし。
「なるほど、これを競売にかけろと?」
「んな訳ないでしょ!?明日洗濯しなさいって言ってるのよ!」
訂正。微妙に使いどころが難しそうだ。
朝、ルイズは澄んだハンドベルの音色で目を覚ます。
壁際に佇んで優雅にハンドベルを鳴らすタキシード姿を見て、そうか、昨日召喚したんだった、と思い出す。
ルイズは目をこすりながらむっくりと起き上がる。ハンドベルをBGMに。
「着替え」ルイズの声に、キースは左腕でハンドベルを鳴らしながら器用に右腕だけで服を持ってくる。ハンドベルをBGMに。
ルイズは、己の使い魔が片手で運んできた下着を身につける。ハンドベルをBGMに。
「着せて」ルイズの声に、キースが器用に右腕だけでスカート、ブラウス、マント全てを着させていく。ハンドベルを「うるさいっ!」
キースは無表情でベルを優雅に振りつつ、首を斜めにかしげた。
「ハンドベルをもうやめなさいって言ってるのよ!」
だがキースは平然と言い返す。
「しかし、目覚ましはボタンを押されるまで止まらないものと相場で決まっております。」
「あんたは目覚まし時計じゃないでしょうが人間!とにかく私が起きたら止まりなさい!」
朝からまったくもって体力の無駄遣いだ。
「解りました。以降気をつけましょう」
肩で息をしながらルイズはこめかみを押さえた。私の日常はだんだん塗りつぶされていくのだろうか。
しかし、これがなかなかおかしくもなかった。朝食は「執事が主人と共に食事をするなどありえません」と言って何も口をはさまず裏方へ引っ込んで行ったし、
授業中もたまに質問をするくらいで基本的に黙っていた。
やっぱり意外といい使い魔なんじゃない?そう思っていた矢先のことである。
ところ変わってその頃の廊下、タバサは事前に惨事を予想して廊下へ退出していた。一時避難というやつだ。
「おや、青魔術士どの、奇遇ですな」
にゅっと現れたルイズの使い魔に『サイレント』をとりあえずかける。
一切声は聞こえない。ついでに言えば、これなら教室から響いてくるであろう爆音も聞こえないだろう。
そのとき、地面が大きく揺れた。
教室の状況はさんざんだった。あちこち黒こげのルイズに、壁際で失神する教師、壊れた机の数は数え切れない。
「…ちょっと失敗しちゃったみたいね」
「ちょっとじゃないだろゼロのルイズ!」
「成功率も使える魔法もゼロじゃないか!」
生徒のブーイングの嵐、ルイズはもはや立ち尽くす以外のリアクションを持たない。
「なるほど」
にゅっとここで無傷のキースが生えてくる。
「つまり、あなたのゼロというのは成功率などなどのことだったのですな。納得納得。」
殴りたかったが、殴る理由が無い。どうにか堪えた
結局授業は中止、原因であるルイズと、その使い魔であるキースは、魔法の使用を禁止された上で教室を片付けることとなった。
とは言ってもゼロのルイズはもとより魔法など使えない。使い魔のキースに片付けはほとんど任せきりだ。
「無能~無能~無能貴族~♪」
その使い魔はというと
「ゼロのルイズは使えない~♪魔法を全然使えない~♪」
どこからか出したギターをかき鳴らしながら弾き語っていた。
「使えば爆発黒魔術士どのもビックリクリクリくりっくり~♪」
狂ったようにギターをかき乱す。
「我は砕く原子の静寂!我は砕く原子の静寂!なんでもかんでも原子の静寂!」
シャウト、ひたすらにシャウト。のどが壊れるほどに魂を込めて歌い上げる。
さすがにこれにはルイズも我慢ならない。己の杖を手に取り、使用禁止である魔法を発動する
「黙りなさいこの変態下僕っ!」
ルイズの生み出した爆発はギターを砕き、使い魔を飲み込んだ。
抜けるような青空、壮大な城、鮮やかな緑の庭、なんともすがすがしいこの場所で、若いざわめきが跳ねる
そんな中ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはどうしていたかと言うと、困り果てていた。
同時に、恐ろしく恥をかいてもいた。理由は簡単、ちょっとした意地から大風呂敷を広げてしまった春の使い魔召喚の結果がこれだからだ。
一応一発で召喚はできた。あくまで『召喚』はできた。
しかし同時にいつもの爆発も起こしてしまったし、…こちらの方が重要だが、召喚された対象もイレギュラー中のイレギュラーだった。
何しろまず、人間である。しかも、平民である。
その平民は、タキシードを着て、銀髪をオールバックにしていた。そして今、いや、召喚直後から目の前で背中を地面につけて、白目のままキリモミ回転している。
最初は爆煙を巻き込んで小型の渦巻きを作っていたほどの高速回転もそろそろ終了らしく、今はのろのろと回転しているだけだった。
「ゼロのルイズ!平民なんて召喚してどうすんだよ?」
「黙りなさい!ちょっと間違えただけでしょ!?」
「間違えなかったことあるのかよ?」
「召喚できないからってそこらへんの平民捕まえてくるんじゃねーよ!」
ルイズは頭痛のしてくるこめかみを押さえ、周りの嘲笑を受けながら髪の薄い中年へ振り返った。
「ミスタコルベール!もう一度やらせてください!」
だが、コルベールは首を横に振る。
「駄目だ、春の使い魔召喚は大切な儀式なのだから、早く契約なさい」
「でも、平民じゃないですか!」
「決まりだ。例外は認められない、早くしなさい」
ルイズはむぅ・・と黙り込んだ。薄い髪の毛が、こんなときは何故か逆らえないような強制力を持つ。髪の薄さは年季の濃さのようなものをまとうのだ。
覚悟を決めた。一歩踏み出し、コントラクト・サーヴァントの呪文を
「はて、ここはどこ、あなたは誰、そして私は誰ですかな?」
唱える前に平民は起き上がった。
「は?アンタ記憶喪失なの?」
「いえ、全然」
「じゃあなんで私は誰とか言うのよ!」
しかし平民ははっはっはと笑うだけで、ルイズの問いに答えない。周囲もゼロのルイズが使い魔にからかわれてるぜと笑い出す。
ルイズは怒りに肩を震わせ、
「アンタ、どこの平民よ!貴族に対する礼儀がなってないんじゃないの!?」
勢い任せに怒鳴りつけた。
「ふっ、あなたは誰にモノを言っているのか解っているのですかな?」
不敵に顔を歪めるその銀髪オールバック男に、ルイズはたじろいだ。周りもしんと静まり返る。
それは、相当な身分なんじゃないかと疑念を持ち、すぼまった硬い空気。とんでもない無礼を働いてしまったのではないかと言う、恐れ。
「あ…あんた、何なの?」
「私は…そう」
その、一人で若い貴族たちを圧倒した銀髪オールバックの男がパチリと指を鳴らすと、彼の背後の地面が爆発した。どかーんと、ぼかーんと
そして腰を落として天を指差し指差し、声を高らかに張り上げる
「マギー家執事見習い、キース・ロイアルッ!」
執事見習いに尽くす礼儀はないと、周囲の生徒の攻撃魔法が一斉にキースに群がった
結局、ルイズは寝ている(気絶している)執事見習いにキスをして契約した。その間も他生徒からの嘲笑は絶えなかったが、もはや気にしない。
そして今、コルベールは執事見習いのルーンを確認し、
「珍しいルーンだなぁ」
などとスケッチしている。確かに全く見たことのないルーンで、勉強家であるルイズにも見覚えが無かった。やはり飛び切りのイレギュラーなのだろう。
何しろ、まず人間だ。そして言動が意味不明だ。行動も謎だ。
更にさっき、常人であれば半分死んだような状態になっているはずの量の魔法を受けたというのに、気絶しているだけで外傷は見られない。
ルイズの頭痛は強まる一方だった。呼んだのがただの執事見習いならまだしも、変態的な執事見習いだ。もうイヤだ。家族に顔向けできない。
そして、頭痛の原因がにょっきりと起き上がった。
「さて、ここはどこ、あなたは誰、私はキース・ロイヤルですかな?」
ルイズはこめかみを指で押さえながら後のキースへ振り返る。
「ここはハルケギニアのトリステインの魔法学院の中庭、私はヴァリエール家三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、で、あなたはキース・ロイヤルで合ってるんじゃないの?」
もはややけっぱちだ。
「で、結局あんたはどこの平民なのよ」
「キヒエルサマ大陸、アーバンラマ商業家、マギー家の執事見習い、キース・ロイヤルですが。」
「どこよそれ」
全く聞いた事が無い。むしろこの変態執事にマトモな返答を期待した私が馬鹿だったわ、と、ルイズは肩を落とす。
「まあ、異世界というところでしょうな。さて、私はボニー様のランチを用意しなくてはなりませんので、これにて」
そういうと執事はくるりと振り向いて駆け出した。かなり速い。馬の全速力と大差ないのではなかろうか。
「ちょ、ちょっと!あんた、召喚されたのに、どこに行けば帰れるのか解ってるんでしょうね!?」
土煙を巻き上げて疾駆するキースははっはっはと笑い、
「大丈夫ですぞ!大抵異世界とかに呼ばれたときは…とうっ!」
ぱりん!
急にキースは二階の窓へと飛び上がり、ガラスをタックルで突き破った。澄んだ音色を奏でながら学院の窓ガラスが割れる。
そして割れた窓から首だけをニュッと突き出し、
「異世界に通じる場所は大抵、ガラスか鏡と相場が決まっておるのです!では片っ端かられっつらごー!でございます」
まるで、魔法学院の壁に波縫いでもするかのようにガラスを割って中に飛び込み、割って外へ出る執事
マシンガンの掃射を受けたかのように端から割れてゆく窓
「や、やめなさいよ馬鹿!」
暴れているのはルイズの使い魔だ。責任は自分にある。しかし執事はまたもやはっはっはと笑って言うことを聞かない。
そんなとき、青髪の少女タバサが、指を指して笑う学生の群れから一歩前へ出て、杖を掲げた。
同時に、暴走していた変態が凄まじいまでの速度で吹っ飛んで中庭へ叩きつけられた。着弾点から土煙が立ち上る。
風の攻撃魔法『エアハンマー』だ。そしてタバサはぽつりと、消えそうな声で呟いた
「捕まえるならいま」
「痛いではありませんか青魔術師どの」
「!?」
真後からの声にタバサはびくりと向き直る。そこには、学生達からの唖然とした視線を受けている無傷の銀髪オールバック。
今が戦闘ならば自分は死んでいる。北花壇騎士として裏の仕事を何度もこなしているタバサだが、今のは全く気配が読めなかった。
むきになってもう一度『エアハンマー』を放つ。しかし、キースはそれを体を反らすだけで避けた。
さらにもう一度、相手を地面から打ち上げるようにエアハンマー。しかしキースはくるりと左に身を回して避ける。
また、エアハンマー。今度は左右から挟みこむように高さを変えて。しかしキースは一歩前に踏み出しながら上体を後に倒し、上手く隙間へ体をねじ込む。
つららやら風の刃やらを連発するが、全てを避けられる。おかしかった。何かがおかしかった。
基本的に魔法は避けるものではない。防御魔法で防いだり、攻撃魔法で相殺させるものなのだ。それをあの執事は全て避けている。
「何故っ!」
「青魔術師どのはやはり青いですな。」
今度は含みのある笑み
「そう殺気を放って狙っていては、来る場所を予測することは容易ですぞ。ほれ」
そう言いながら、キースは避ける。軽やかに、舞うように。
その言葉に、タバサは方向性を変えた。相手を中心に竜巻を起こす。
「むっ?」
そして相手を暴風の中に囲い、その内部に向かって氷の槍をランダムに、大量に飛ばす。
それはさながら日の光を乱反射するオブジェのようだった。
『ウィンディアイシクル』の応用だ。本来は竜巻の中から外へ大量のつららを吐き出すのだが、それをすべて内側に向かわせた。
今思いついた応用法だが、相手単体には恐らく最高の応用技となるだろう。
他の生徒達は、二人を唖然として見ていた。彼らは呆けるしかなかった、タバサの魔法の腕に、何より、それを全て避け切るゼロのルイズの使い魔に。
そして、光と風のオブジェが消え去ったときには、そこにはつららが生えた地面と
「む?」
誰も居なかった。生徒達はざわめき、辺りを見回す。そして、間もなくキースの姿を見つけた
「はっはっは、やはりそう思いますかなヴェルダンテどの!」
「きゅー!」
そいつは庭の端の深い穴の傍らで、ギーシュの使い魔の大きなもぐらと笑顔で語り合っていた。
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