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「ゼロ 青い雪と赤い雨-05」(2011/03/04 (金) 10:19:00) の最新版変更点
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#navi(ゼロ 青い雪と赤い雨)
ヴェストリの広場。
“西の小人”を意味するその広場は、夥しい数の生徒達で溢れ返っていた。
騒ぎを見ていた者、噂を聞きつけた者等が決闘を見物、いや見届けようというのである。
その広場の中心に金髪の少年こと、ギーシュ・ド・グラモンは立っていた。
自分より先に食堂から出て行ったはずの決闘相手を待っているのだ。
彼の蒼い瞳は、それ自体が抜き身の剣の様な鋭さを放っている。
その燃え上がる眼光の熾烈さに、生徒達は圧倒され、声を失っていた。
彼は気障ではあるが、温厚で気のいい人間である事は多くの人の知る所だった。
その彼がまさに怒れる獅子の様な容貌で佇んでいる。
その一事だけでも生徒達を箝口させるには十分だった。
やがて一陣の風と共に、何もない空間からクラスメイトの使い魔が突如現れると、
ヴェストリの広場の空気は、まるでそれ自体に重さがあるかの様であった。
「逃げなかったのかよ、感心だぜ」
アトリの不遜さに、ギーシュは血管網と神経網が怒りの軋りをあげるのを自覚した。
射るが如き炯眼は未だ健在であったが、極めて冷静で有ろうと努めたし、実際そうであった。
彼は冷静に勝つ方法を模索し続けていた。
努力家であり、軍人家系の出である彼は自分の能力を弁えていたし、
相手の強さを認める度量も併せ持っていた。
その彼の頭脳が雄弁に語る所に依れば、
「壁に潜り、一瞬で移動する事が可能であろう相手に対し、土メイジである自分は余りにも不利」との事だった。
「みだりに舌は動かす物ではない、痴れ者が」
勝ちの目は限りなく薄い。
しかしここで退けば、自分はもう今日までの自分には戻れないだろう。
貴族としての、いや男としての矜持は永遠に失われてしまう。
そして何よりも、自らの愛する人が涙を流していた。
ここで立たねば、自分を許せぬであろう事は明白であった。
「我が名はギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』、『青銅』のギーシュ」
静かに、しかし鋭く言葉を紡ぎながら、ギーシュは薔薇の造花を振りその花弁を散らす。
「従って、青銅のゴーレム“ワルキューレ”がお相手する」
その花弁が落ちた地点から、まるで大華が芽吹き、咲き誇るかの様に、
合計7体の赤銅色に輝く青銅のゴーレムが現れる。
それは食堂で見せた物よりも大きく、2メイルはあろうかという物だった。
うち6体は槍を、残り1体はその大柄な体躯より更に大きな盾を構えている。
ギーシュ・ド・グラモンは土のドットメイジでしかないが、その努力家ぶりは周知の所であった。
欠かさない鍛練から得られた魔力の総量、コントロール、配分、そして集中力等には定評がある。
その集大成とも言えるのが7体ものゴーレムの同時使役であった。
アトリは無言のまま赤藤色(ウィステリア・レッド)の瞳でそれらを一瞥すると、眉を僅かに動かすのみだった。
アトリとしては一瞬で片を付けてはつまらない。
よってギーシュの実力、つまりメイジの実力という物を見るつもりであったし、
ギーシュは警戒心から相手の出方を窺っていた。
しかして、広場はまたもや静寂に包まれる。
「何よ!ギーシュのゴーレムってあんなに大きかったっけ!?それにいきなり7体も・・・」
周囲の沈黙に遠慮しながらも、クラスメイト達に話しかけたのは、
噂を聞きつけるやいなや、息を切らしながら走ってきたアトリの主人ルイズであった。
「それだけ本気って事でしょ。案外ギーシュが勝っちゃうかもね」
あの使い魔は確かに凄い、しかしこの世界におけるメイジの絶対性は揺るがないだろう。というのがキュルケの、ひいては他の観衆の大方の見方であった。
「そんなわけないでしょ!!」
キュルケの言葉に即座に食ってかかるルイズであったが、
その鳶色の瞳には、隠しえない憂慮の色をたたえている。
それをキュルケは見逃さなかったが、まずは内在する疑問を片づける事にした。
「あなたはどう見るの?タバサ」
「切り札を先に見せてはだめ」
隣でかしましく言い合う友人達に、美しい光沢のあるブルー・アッシュの頭髪を持つ少女、タバサは短く告げた。
最初から自分の手のうちの全てを見せる事は、相手に対応策を講じられやすくなる危険を伴う。
特に未知の相手である以上、相手の能力を引き出し観察しつつ、自分の力を出来るだけ温存する事が望ましい。
だが相手にもギーシュの能力が解らない以上、現在出した7体のゴーレムが切り札と判別しえないかもしれない。
しかし、それも時が経てば自ずと知れる事。
(長引けば、不利)
ルイズより更に小柄なこの少女は状況を、ほぼ正確に洞察していた。
ルイズにも劣らない可愛らしい容姿を持ち、実年齢より2,3歳程幼く映る彼女であったが、
その蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳はどこか無機的な印象すら与えていた。
そしてなぜか彼女の額には赤い腫れがあるのだった。
それは食堂の「幽霊騒ぎ」の際(後にルイズの使い魔と解った事だが)、
昏倒してしまい額を打ったために出来た物であったのだが、
親友であるキュルケでさえも、その事実を知る事は永遠に出来なかったのだった。
「Allez!!(行け!!)」
空気が結晶化したかのような静寂を、打ち破ったのはギーシュだった。
ギーシュ本人は大きな盾兵の裏に隠れ、
6体の青銅の槍兵達を、アトリの元へその切っ先を突き立て殺到させる。
砂塵を高々と巻き上げ突進するその速度と重量は相当の物で、極めて高い破壊力が予想された。
まともに当たれば、常人であれば間違いなく死に至るであろう事は明白であった。
(その程度なのかよ)
しかし、迫りくる槍兵を見てアトリは落胆を禁じ得なかった。
“ラクリマ”とは何もかもが違う時空、魔法すら存在する時空。
そして何よりも、相手はあの男の異時空同位体。
もう少し楽しめそうな事をしてくれても良さそうな物だ、と考えていたのである。
そんなアトリの期待に対し、対戦者が差し出したのは“人形”をさし向け自分は盾に隠れる情けない姿であった。
先程までの態度は、あの苛烈な、付き抜くような視線はなんだったのか。
それでもお前はあの男なのか。
(下らねぇ)
興が殺がれた。この上は手早く終わらせるのみである。
アトリは向かってくる“人形”の隙間から僅かに覗く、砂塵の中に見える大きな影、
即ち盾兵の脇まで一瞬で移動し、その衝撃波を持って砂塵を吹き飛ばす。
ヴェストリの広場の全ての視線が必然的に、そこに、盾兵裏の地に、集まった。
―――――居ない
そこには恐怖に怯えた、或いは悔しそうに歯ぎしりをした、
ギーシュ・ド・グラモンが居るはずだった。
あのムカつく眼の少年が、アトリを呆気にとられた表情で見ているはずだった。
ヴェストリの広場は一瞬の“虚”に包まれた。
それはアトリも例外ではない。
加減は出来る限りしていた。
だから吹き飛ばされたにしても、可視範囲に転がっているはずなのである。
「どこ、どこなの!?ギーシュはどこ!?」
広場全体の気持ちを代弁するかのように騒ぐルイズに、
一足先に対象物を見つけた蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳を持つ少女は解答を与える。
「上」
ルイズがその鳶色の瞳を向けるとそこ、つまりアトリの上部後方には、
青銅の剣を逆手に持ち、その重量と共に頸部に向かって突き立てんとするギーシュの姿があった。
#navi(ゼロ 青い雪と赤い雨)
#navi(ゼロ 青い雪と赤い雨)
ヴェストリの広場。
“西の小人”を意味するその広場は、夥しい数の生徒達で溢れ返っていた。
騒ぎを見ていた者、噂を聞きつけた者等が決闘を見物、いや見届けようというのである。
その広場の中心に金髪の少年こと、ギーシュ・ド・グラモンは立っていた。
自分より先に食堂から出て行ったはずの決闘相手を待っているのだ。
彼の蒼い瞳は、それ自体が抜き身の剣の様な鋭さを放っている。
その燃え上がる眼光の熾烈さに、生徒達は圧倒され、声を失っていた。
彼は気障ではあるが、温厚で気のいい人間である事は多くの人の知る所だった。
その彼がまさに怒れる獅子の様な容貌で佇んでいる。
その一事だけでも生徒達を箝口させるには十分だった。
やがて一陣の風と共に、何もない空間からクラスメイトの使い魔が突如現れると、
ヴェストリの広場の空気は、まるでそれ自体に重さがあるかの様であった。
「逃げなかったのかよ、感心だぜ」
アトリの不遜さに、ギーシュは血管網と神経網が怒りの軋りをあげるのを自覚した。
射るが如き炯眼は未だ健在であったが、極めて冷静で有ろうと努めたし、実際そうであった。
彼は冷静に勝つ方法を模索し続けていた。
努力家であり、軍人家系の出である彼は自分の能力を弁えていたし、
相手の強さを認める度量も併せ持っていた。
その彼の頭脳が雄弁に語る所に依れば、
「壁に潜り、一瞬で移動する事が可能であろう相手に対し、土メイジである自分は余りにも不利」との事だった。
「みだりに舌は動かす物ではない、痴れ者が」
勝ちの目は限りなく薄い。
しかしここで退けば、自分はもう今日までの自分には戻れないだろう。
貴族としての、いや男としての矜持は永遠に失われてしまう。
そして何よりも、自らの愛する人が涙を流していた。
ここで立たねば、自分を許せぬであろう事は明白であった。
「我が名はギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』、『青銅』のギーシュ」
静かに、しかし鋭く言葉を紡ぎながら、ギーシュは薔薇の造花を振りその花弁を散らす。
「従って、青銅のゴーレム“ワルキューレ”がお相手する」
その花弁が落ちた地点から、まるで大華が芽吹き、咲き誇るかの様に、
合計7体の赤銅色に輝く青銅のゴーレムが現れる。
それは食堂で見せた物よりも大きく、2メイルはあろうかという物だった。
うち6体は槍を、残り1体はその大柄な体躯より更に大きな盾を構えている。
ギーシュ・ド・グラモンは土のドットメイジでしかないが、その努力家ぶりは周知の所であった。
欠かさない鍛練から得られた魔力の総量、コントロール、配分、そして集中力等には定評がある。
その集大成とも言えるのが7体ものゴーレムの同時使役であった。
アトリは無言のまま赤藤色(ウィステリア・レッド)の瞳でそれらを一瞥すると、眉を僅かに動かすのみだった。
アトリとしては一瞬で片を付けてはつまらない。
よってギーシュの実力、つまりメイジの実力という物を見るつもりであったし、
ギーシュは警戒心から相手の出方を窺っていた。
しかして、広場はまたもや静寂に包まれる。
「何よ!ギーシュのゴーレムってあんなに大きかったっけ!?それにいきなり7体も・・・」
周囲の沈黙に遠慮しながらも、クラスメイト達に話しかけたのは、
噂を聞きつけるやいなや、息を切らしながら走ってきたアトリの主人ルイズであった。
「それだけ本気って事でしょ。案外ギーシュが勝っちゃうかもね」
あの使い魔は確かに凄い、しかしこの世界におけるメイジの絶対性は揺るがないだろう。というのがキュルケの、ひいては他の観衆の大方の見方であった。
「そんなわけないでしょ!!」
キュルケの言葉に即座に食ってかかるルイズであったが、
その鳶色の瞳には、隠しえない憂慮の色をたたえている。
それをキュルケは見逃さなかったが、まずは内在する疑問を片づける事にした。
「あなたはどう見るの?タバサ」
「切り札を先に見せてはだめ」
隣でかしましく言い合う友人達に、美しい光沢のあるブルー・アッシュの頭髪を持つ少女、タバサは短く告げた。
最初から自分の手のうちの全てを見せる事は、相手に対応策を講じられやすくなる危険を伴う。
特に未知の相手である以上、相手の能力を引き出し観察しつつ、自分の力を出来るだけ温存する事が望ましい。
だが相手にもギーシュの能力が解らない以上、現在出した7体のゴーレムが切り札と判別しえないかもしれない。
しかし、それも時が経てば自ずと知れる事。
(長引けば、不利)
ルイズより更に小柄なこの少女は状況を、ほぼ正確に洞察していた。
ルイズにも劣らない可愛らしい容姿を持ち、実年齢より2,3歳程幼く映る彼女であったが、
その蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳はどこか無機的な印象すら与えていた。
そしてなぜか彼女の額には赤い腫れがあるのだった。
それは食堂の「幽霊騒ぎ」の際(後にルイズの使い魔と解った事だが)、
昏倒してしまい額を打ったために出来た物であったのだが、
親友であるキュルケでさえも、その事実を知る事は永遠に出来なかったのだった。
「Allez!!(行け!!)」
空気が結晶化したかのような静寂を、打ち破ったのはギーシュだった。
ギーシュ本人は大きな盾兵の裏に隠れ、
6体の青銅の槍兵達を、アトリの元へその切っ先を突き立て殺到させる。
砂塵を高々と巻き上げ突進するその速度と重量は相当の物で、極めて高い破壊力が予想された。
まともに当たれば、常人であれば間違いなく死に至るであろう事は明白であった。
(その程度なのかよ)
しかし、迫りくる槍兵を見てアトリは落胆を禁じ得なかった。
“ラクリマ”とは何もかもが違う時空、魔法すら存在する時空。
そして何よりも、相手はあの男の異時空同位体。
もう少し楽しめそうな事をしてくれても良さそうな物だ、と考えていたのである。
そんなアトリの期待に対し、対戦者が差し出したのは“人形”をさし向け自分は盾に隠れる情けない姿であった。
先程までの態度は、あの苛烈な、付き抜くような視線はなんだったのか。
それでもお前はあの男なのか。
(下らねぇ)
興が殺がれた。この上は手早く終わらせるのみである。
アトリは向かってくる“人形”の隙間から僅かに覗く、砂塵の中に見える大きな影、
即ち盾兵の脇まで一瞬で移動し、その衝撃波を持って砂塵を吹き飛ばす。
ヴェストリの広場の全ての視線が必然的に、そこに、盾兵裏の地に、集まった。
―――――居ない
そこには恐怖に怯えた、或いは悔しそうに歯ぎしりをした、
ギーシュ・ド・グラモンが居るはずだった。
あのムカつく眼の少年が、アトリを呆気にとられた表情で見ているはずだった。
ヴェストリの広場は一瞬の“虚”に包まれた。
それはアトリも例外ではない。
加減は出来る限りしていた。
だから吹き飛ばされたにしても、可視範囲に転がっているはずなのである。
「どこ、どこなの!?ギーシュはどこ!?」
広場全体の気持ちを代弁するかのように騒ぐルイズに、
一足先に対象物を見つけた蒼氷色の瞳を持つ少女は解答を与える。
「上」
ルイズがその鳶色の瞳を向けるとそこ、つまりアトリの上部後方には、
青銅の剣を逆手に持ち、その重量と共に頸部に向かって突き立てんとするギーシュの姿があった。
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